雇用保険と労災保険の違いとは?加入条件や申請方法を解説

労働者の皆さんの生活や安全を守るために、日本ではさまざまな社会保険制度が整備されています。

その中でも特に重要なのが「雇用保険」と「労災保険」です。

どちらも「労働保険」という大きな枠組みに含まれ、いざという時に私たちを支えてくれるセーフティネットですが、目的や補償内容、加入条件などには明確な違いがあります。

今回は、この二つの保険制度について、それぞれの特徴や違い、そして万が一の際に役立つ申請方法まで、わかりやすく解説していきます。

雇用保険と労災保険の基本を理解しよう

セーフティネットとしての役割

雇用保険と労災保険は、どちらも労働者が安心して働けるよう、そして不測の事態に見舞われた際に生活を支えるための重要なセーフティネットです。

しかし、その「守るべきリスク」が根本的に異なります。

雇用保険は、主に失業時の生活保障や、育児・介護休業などで収入が途絶える期間の支援、さらにはスキルアップや再就職を促進するための制度として機能します。

一方、労災保険は、業務中や通勤中に起きた事故や災害によって労働者が負傷したり、病気になったり、障害を負ったり、最悪の場合死亡してしまった際の補償を目的としています。

このように、同じ「保険」という名前がついていても、カバーする範囲と役割は大きく異なるため、それぞれの制度がどのような「もしも」の時に役立つのかを理解しておくことが非常に大切です。

根本的な目的の違いを把握する

参考情報にもある通り、雇用保険と労災保険は、その目的において明確な違いがあります。

雇用保険の主な目的は、労働者が失業した場合の生活の安定を図ることはもちろん、雇用の継続・安定、再就職の促進、労働者の能力開発、育児休業や介護休業中の支援など、多岐にわたります。

これは、労働市場の変化に対応し、労働者がキャリアを継続・発展させるための総合的なサポートを提供することを目指しているためです。

対して労災保険の主な目的は、業務上の事由、または通勤による負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保険給付を行うことです。

これは、労働災害から労働者を保護し、その生活を保障するとともに、社会復帰を支援する役割を担っています。

つまり、雇用保険が労働者の「雇用」と「キャリア」を支援する側面が強いのに対し、労災保険は労働者の「安全」と「健康」を守ることに特化していると言えるでしょう。

保険料負担と手続き窓口の違い

保険料の負担割合と手続きを行う窓口も、両保険制度を区別する重要なポイントです。

雇用保険の保険料は、原則として事業主と労働者の双方が負担します。

具体的には、失業等給付や育児休業給付に充てられる費用は労使折半で、雇用安定事業や能力開発事業に充てられる費用は事業主が全額負担することになっています。

例えば、一般の事業における令和7年度の保険料率は、労働者負担が0.55%、事業主負担が0.9%(雇用保険二事業分含む)で、合計1.45%となっています。

一方、労災保険の保険料は、全額を事業主が負担します。

これは、労働災害に対する責任が事業主にあるという考え方に基づいているためです。保険料率は業種によって細かく異なり、労働災害の発生率などを基に決定されます。

また、申請などの手続きを行う窓口も異なります。

雇用保険に関する手続きは、主にハローワーク(公共職業安定所)で行うのに対し、労災保険に関する手続きは労働基準監督署が窓口となります。

目的・補償内容で見る雇用保険と労災保険の違い

雇用保険の多岐にわたる給付内容

雇用保険は、単に失業した場合に「失業手当」を受け取れるだけではありません。

その給付内容は多岐にわたり、労働者の多様なニーズに応える設計になっています。

主な給付には、「求職者給付(失業手当)」があり、これは離職して働く意思と能力があるにもかかわらず仕事に就けない期間の生活を保障するものです。

また、早期の再就職を促進するための「就職促進給付」、厚生労働大臣が指定する教育訓練講座を受講・修了した場合に支給される「教育訓練給付」もあります。

これはキャリアアップや新たな職種への挑戦を後押しする重要な制度です。

さらに、育児休業中や介護休業中の所得を補償する「雇用継続給付(育児休業給付、介護休業給付)」も雇用保険の大きな柱の一つです。

これにより、労働者はライフイベントによってキャリアを中断することなく、仕事と家庭の両立を図りやすくなっています。

労災保険の補償対象と範囲

労災保険は、その名の通り「労働災害」に特化した保険制度です。

補償の対象となるのは、業務上の事由(仕事中の事故や疾病)または通勤中の事由による負傷、疾病、障害、死亡です。

具体的な給付には、以下のようなものがあります。

  • 療養補償給付: 病院での治療費などが全額給付されます。
  • 休業補償給付: 労災により休業した期間の賃金の一部が補償されます。
  • 障害補償給付: 労災によって障害が残った場合に支給されます。
  • 遺族補償給付: 労災によって労働者が死亡した場合、遺族に支給されます。
  • 葬祭料: 葬儀費用などが支給されます。

これらの給付は、労働災害によって失われた労働能力や、それによって生じる経済的損失を補填し、被害を受けた労働者やその家族の生活を支えることを目的としています。

業務中や通勤中に起こる予期せぬ事故や疾病に対して、手厚い補償を提供することで、労働者の安心感を高める重要な役割を担っています。

万が一の際に得られる安心

雇用保険と労災保険は、それぞれ異なるリスクに対応していますが、共通して「万が一の際に労働者の生活やキャリアを支える」という重要な役割を果たしています。

雇用保険は、リストラや自己都合退職によって職を失った際、新しい仕事を見つけるまでの間、経済的な不安を軽減し、再チャレンジを可能にします。

また、出産や育児、介護といったライフイベントに伴う休業期間中も収入を補償することで、キャリアの中断を最小限に抑え、職場復帰を支援します。

一方、労災保険は、仕事中に事故に遭って大けがをしたり、通勤中に交通事故に巻き込まれて入院が必要になったりといった、予期せぬ事態から労働者を守ります。

治療費の心配をすることなく適切な医療を受けられること、休業中の収入が途絶える不安が軽減されることは、労働者にとって計り知れない安心感を与えます。

これらの保険制度があることで、労働者は安心して仕事に専念でき、また事業主も従業員の安全と福利厚生に対する責任を果たすことができるのです。

加入条件はどう違う?確認しておきたいポイント

雇用保険の加入要件

雇用保険の加入は、全ての労働者が対象となるわけではなく、一定の要件を満たす必要があります。

主な加入条件は以下の通りです。

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること。
  • 31日以上の雇用見込みがあること。
  • 昼間学生でないこと(ただし、卒業見込みの学生や夜間学生、休学中の学生などは条件を満たせば加入可能)。

これらの条件は、短期間のアルバイトや、他の学業が主である学生を除外し、主たる生計を維持している労働者を対象とするためのものです。

例えば、週に3日、1日8時間勤務する労働者(週24時間)で、契約期間が3ヶ月更新であれば、上記の条件を満たし雇用保険の加入対象となります。

また、65歳以上の労働者も上記の条件を満たせば「高年齢被保険者」として加入対象となるため、定年後の再雇用や再就職においても雇用保険の恩恵を受けられます。

事業主は、これらの条件を満たす労働者を雇用した場合、雇用保険の加入手続きを行う義務があります。

労災保険の強制適用と対象者

労災保険の加入条件は、雇用保険とは大きく異なります。

労災保険は、原則として1人でも労働者を雇用している事業所は、業種や規模を問わず強制的に加入する義務があります。

これを「強制適用事業所」と呼びます。

これは、労働者を一人でも雇う以上、事業主は労働災害に対する責任を負うべきだという考えに基づいています。

パートタイマーやアルバイト、契約社員など、雇用形態に関わらず「労働者」とみなされる人であれば、原則として全員が労災保険の適用対象となります。

例えば、短時間勤務のアルバイトであっても、業務中に事故に遭った場合は労災保険の補償を受けられるということです。

事業主が労災保険の加入手続きを怠っていたとしても、労働者は労災事故が発生した場合に保険給付を受ける権利があります。

これは、労働者保護の観点から非常に強力な制度と言えるでしょう。

学生や経営者の特別加入制度

通常の加入条件から外れるケースでも、労災保険の補償を受けられる「特別加入制度」があります。

雇用保険では、原則として昼間学生は加入対象外ですが、卒業見込みで就職内定のある学生や、夜間学生、通信教育を受けている学生などは、条件を満たせば加入が認められる場合があります。

一方、労災保険においては、事業主や役員、個人事業主、フリーランス(業務委託で働く人)は原則として労働者ではないため、通常の労災保険の適用対象外です。

しかし、中小事業主やその家族従事者、一人親方(建設業や運送業など)、特定作業従事者(自動車を使用する事業の事業主やその家族など)など、業務の実態が労働者に近い場合や、労働災害に遭うリスクが高いと判断される場合に、特別に労災保険に加入できる制度が設けられています。

この特別加入制度を利用することで、本来であれば補償されない立場の人々も、業務中の事故や災害から身を守ることが可能になります。

これにより、より広範な人々に労働災害のセーフティネットが提供されています。

似ているようで違う!「労働保険」との関係性

「労働保険」とは何か?

「雇用保険」と「労災保険」は、それぞれが独立した法律に基づいて運営されている社会保険制度ですが、行政上はまとめて「労働保険」という総称で扱われています。

この「労働保険」という概念は、事業主がこれらの保険料をまとめて申告・納付する際の利便性や、労働行政の一元化のために用いられています。

具体的には、労働者を一人でも雇用する事業主は、原則として労災保険と雇用保険の両方に加入する義務があり、これらの加入手続きや保険料の計算、納付は「労働保険」として一体的に行われます。

つまり、労働保険とは、労災保険と雇用保険という二つの異なる保険制度を、事業主の事務処理上、一つにまとめた呼び方だと理解すると良いでしょう。

この統合された管理により、事業主の負担軽減と、より効率的な労働者保護が図られています。

二つの保険制度の一体的な適用

「労働保険」として一括で管理されることにより、事業主は毎年、「労働保険の年度更新」として、前年度の確定保険料と新年度の概算保険料をまとめて計算し、申告・納付する義務があります。

これにより、労災保険と雇用保険という異なる制度でありながら、事業主にとっては一体の事務処理として取り扱うことが可能になっています。

例えば、保険料の申告書も「労働保険概算・確定保険料申告書」として一本化されており、それぞれ個別に手続きを行う必要がありません。

ただし、あくまで事務的な手続きが一本化されているだけであり、各保険の目的や補償内容、保険料の計算方法、給付の窓口などは異なります。

労働者にとっては、それぞれがどのようなリスクから自分を守ってくれるのかを正確に理解しておくことが重要です。

この一体的な適用は、厚生労働省が所管する、労働者保護のための重要な社会保険制度を効率的に運用するための仕組みと言えます。

事業主が果たすべき義務

労働者を雇用する事業主には、労働保険(雇用保険と労災保険)への加入が法的に義務付けられています

この義務には、適切な加入手続き、保険料の正確な計算と納付、そして従業員の被保険者資格の取得・喪失手続きなどが含まれます。

例えば、労働者を雇用した際には「労働保険関係成立届」を提出し、その後、労働者が雇用保険の加入条件を満たせば「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出する必要があります。

これらの手続きを怠ると、遡って保険料を徴収されたり、罰則が科せられたりする可能性があります。

労働保険は、単に法律で定められているから加入する、というだけでなく、事業主が従業員の生活や安全を守るという社会的責任を果たすための重要な制度です。

従業員が安心して働ける環境を提供することは、企業の持続的な成長にも繋がると言えるでしょう。

事業主は、自身の義務を正確に理解し、適切に履行することが求められます。

いざという時のために!手続きと申請方法まとめ

雇用保険の申請プロセスと窓口

雇用保険の給付を受けるには、いくつかのステップを踏む必要があります。

最も一般的な求職者給付(失業手当)の申請を例に見てみましょう。

  1. まず、会社から発行される「離職票」を受け取ります。
  2. 次に、ハローワーク(公共職業安定所)に出向き、求職の申込みを行い、離職票などの必要書類を提出します。
  3. ハローワークで受給資格が決定された後、初回説明会に参加します。
  4. その後、原則として4週間に1度、失業の認定を受けるためにハローワークに通います。
  5. 認定された期間分の基本手当が、指定口座に振り込まれるという流れです。

申請には、離職票の他に、本人確認書類、マイナンバーカード(または通知カード)、写真、印鑑、振込先金融機関の通帳やキャッシュカードなどが必要になります。

給付には時効(原則として離職日の翌日から1年間)があるため、離職後は速やかに手続きを行うことが重要です。

労災保険の申請手続きと注意点

労災保険の給付を受けるためには、事故発生時の迅速な対応と正確な手続きが不可欠です。

  1. まず、労災事故が発生した場合は、速やかに会社に報告し、業務上または通勤災害であることを確認してもらいます。
  2. その後、労働者または会社が、労働基準監督署に必要書類(例:療養補償給付請求書、休業補償給付請求書など)を提出します。
  3. 労働基準監督署による調査が行われ、労災認定がされると、給付金が受けられるようになります。

給付の種類によって提出書類が異なり、多くの場合、医師の証明が必要となります。

例えば、病院で治療を受ける場合は「療養補償給付請求書」、休業した場合は「休業補償給付請求書」といった具合です。

もし会社が労災申請に協力的でない場合でも、労働者自身で労働基準監督署に相談し、直接申請することも可能です。

申請書類に虚偽の内容を記載することは絶対に避け、事実に基づいて正確に報告することが大切です。

時効に注意!迅速な対応の重要性

雇用保険や労災保険の給付には、それぞれ「時効」が定められています。

この時効を過ぎてしまうと、せっかくの給付を受ける権利が失われてしまうため、注意が必要です。

例えば、雇用保険の求職者給付(失業手当)は、原則として離職日の翌日から1年以内に申請をしなければ時効となります。

労災保険の給付についても、療養補償給付や休業補償給付は、賃金支給日または治療費の支払日の翌日から2年、障害補償給付や遺族補償給付は、死亡または障害が確定した日の翌日から5年などの時効が定められています。

これらの時効期間は、個別の状況によって異なる場合もありますが、基本的にはできるだけ速やかに手続きを開始することが、給付を確実に受けるための鉄則です。

不明な点や不安なことがあれば、一人で抱え込まず、すぐにハローワークや労働基準監督署、または会社の担当部署に相談することをおすすめします。

早期に相談することで、適切なアドバイスを受け、必要な手続きをスムーズに進めることができるでしょう。