離職票の基本と入手方法

会社を退職した際に、耳慣れない「離職票」という言葉に戸惑う方も少なくないでしょう。

しかし、これは退職後の生活を支える上で非常に重要な公的書類です。まずはその基本的な知識と、どのように手に入れるのかをしっかりと押さえていきましょう。

離職票とは?その重要性と役割

離職票の正式名称は「雇用保険被保険者離職票」といい、会社を退職した後に雇用保険から失業給付(基本手当)を受給するために不可欠な書類です。

ハローワーク(公共職業安定所)から会社を通じて発行されるもので、この書類がなければ失業給付の申請手続きを進めることができません。

退職は人生の転機であり、多くの人が経験する可能性があります。厚生労働省の「令和5年雇用動向調査」によると、2023年の離職率は15.4%にも上り、前年と比較して0.4ポイント上昇しています。

特に中小企業では大企業に比べて離職率が高い傾向が見られ、誰もがこの書類と向き合う可能性を秘めていると言えるでしょう。

失業給付を受給しない場合や、すぐに次の転職先が決まっている場合でも、後々のトラブルや予期せぬ事態に備え、発行を希望しておく方が安心です。

例えば、転職先が突然倒産してしまった、あるいは雇用保険の加入期間を証明する必要が生じた際など、離職票が手元にあることでスムーズに対応できる場面も少なくありません。ご自身の雇用保険の履歴を正確に把握するためにも、その役割を理解しておくことが重要です。

離職票の発行手続きと流れをチェック

離職票は、会社を退職したら自動的に手元に届くわけではありません。いくつか段階を踏むことで、手元に交付されます。

一般的な発行手続きと流れは以下の通りです。

  1. 離職票の発行希望確認: まず、会社が退職者本人に対し、離職票の発行を希望するか確認します。ただし、59歳以上の退職者の場合は、本人の意思にかかわらず発行が義務付けられています。これは、高年齢者向けの雇用保険制度があるためです。
  2. 離職証明書の作成: 退職者からの希望が確認されると、会社は退職者の雇用保険被保険者資格喪失届とともに、「雇用保険被保険者離職証明書」を作成し、ハローワークに提出します。この書類には、離職理由や賃金情報などが詳細に記載されます。
  3. 離職票の発行: ハローワークは、提出された離職証明書の内容を確認し、問題がなければ「離職票-1」と「離職票-2」を会社に交付します。
  4. 離職票の交付: 会社は、ハローワークから受け取った離職票を退職者本人に渡します。通常、退職日から約2週間程度で郵送されることが一般的です。この期間は、会社の事務処理やハローワークの混雑状況によって多少前後することがあります。

万が一、退職日から2週間以上経っても離職票が届かない場合は、まず会社の人事担当者に問い合わせてみましょう。

それでも解決しない場合は、管轄のハローワークに相談することをお勧めします。手続きの遅れは失業給付の受給開始時期にも影響するため、早めの確認が肝心です。

離職票の種類と構成を理解する

離職票は、主に「離職票-1」と「離職票-2」の2種類の書類で構成されています。

それぞれ異なる役割と内容を持っているので、その違いを理解しておくことが大切です。

  • 離職票-1(雇用保険被保険者離職票-1):

    この書類は、雇用保険の資格が喪失した旨が記載されているものです。

    主に、失業給付の振込先となる金融機関や口座番号などを退職者本人が記入する欄が設けられています。ハローワークでの失業給付申請の際に、この書類に記入した情報をもとに支給が開始されるため、正確な記入が求められます。氏名やマイナンバー、生年月日など、個人情報に関する項目も含まれています。

  • 離職票-2(雇用保険被保険者離職票-2):

    こちらは、退職前の賃金状況や離職理由などが詳細に記載されている非常に重要な書類です。

    会社が記入する欄には、被保険者番号、事業所番号、離職年月日、そして何よりも失業給付の算定基礎となる「賃金支払対象期間」ごとの「賃金額」が月ごとに記載されています。

    また、離職理由の項目も詳細に記載されており、この離職理由や賃金総額によって、失業給付の支給額や支給期間が決定されます。退職者本人は、この書類に記載された離職理由や賃金情報に異議がないかを確認し、問題なければ署名・捺印を行います。記載内容が不正確だと、失業給付の受給資格や金額に大きな影響が出るため、十分に確認する必要があります。

これら二つの離職票は、セットでハローワークに提出することで、失業給付の申請が完了します。どちらか一方でも欠けていると手続きができないため、交付された際には必ず両方が揃っているか確認しましょう。

離職票の「右側」を理解する!本人記入欄の書き方

離職票を受け取ったら、次に待っているのはあなた自身が記入する作業です。特に「離職票-1」には、失業給付を受け取るための重要な情報、つまり振込先などを記入する欄があります。

また、「離職票-2」では、会社が記入した離職理由に異議がないかを最終確認し、署名・捺印を求められます。これらの本人記入欄の書き方を誤ると、失業給付の受給が遅れたり、トラブルの原因になったりする可能性があります。ここでは、各記入欄のポイントと注意点を見ていきましょう。

本人記入欄の重要事項:失業給付の振込先

離職票-1の本人記入欄で最も重要なのが、失業給付が振り込まれる金融機関の口座情報です。

この欄には、正確な銀行名、支店名、口座種別(普通・当座など)、口座番号、そして口座名義人であるあなたの氏名を記入する必要があります。これらの情報に一つでも誤りがあると、せっかくの失業給付が正常に振り込まれず、受給が大幅に遅れる原因となってしまいます。

記入する際は、お手持ちの通帳やキャッシュカードを確認しながら、一文字一句間違えずに記入することを強くお勧めします。

特に、数字の「0」と「O」や、「1」と「l(小文字のエル)」、「i(小文字のアイ)」など、見た目が似ている文字や数字には注意が必要です。また、金融機関によっては支店名の読み方が特殊な場合もありますので、念のため確認しておくと安心です。

多くの場合、ハローワークで申請手続きを行う際に、通帳のコピーの提出を求められることがあります。これは、記入された口座情報が正確であるかを確認するためです。事前に準備しておくと、手続きがスムーズに進みます。

万が一、記入を間違えてしまった場合は、修正液や修正テープではなく、二重線で訂正し、訂正印を押すのが公的書類の正しい修正方法です。しかし、できる限り書き損じがないように、丁寧に記入することを心がけましょう。失業給付は、あなたの生活を支える大切な資金となるため、この振込先の記入は最も慎重に行うべき作業の一つと言えます。

離職理由の確認と異議申し立ての注意点

離職票-2には、会社が記入した離職理由が記載されています。この離職理由は、失業給付の受給資格や給付期間に直接影響するため、極めて重要な項目です。

大きく分けて「会社都合」と「自己都合」があり、それぞれのケースで失業給付の支給開始時期や期間が異なります。例えば、倒産や解雇による「会社都合退職」の場合、失業給付は給付制限期間なく支給が開始されることが多いです。

一方、自己都合退職の場合、原則として2ヶ月間の給付制限期間が設けられ、その期間は失業給付を受け取ることができません。

しかし、「正当な理由のある自己都合退職(特定理由離職者)」と認められれば、給付制限期間が適用されないケースもあります。例えば、家庭の事情(介護、配偶者の転勤など)や、心身の健康上の理由などがこれに該当する場合があります。

したがって、会社が記載した離職理由が、ご自身の認識と異なる場合や、正当な理由がある自己都合退職にもかかわらず単なる自己都合とされている場合は、異議を申し立てることができます。

異議がある場合は、離職票-2の本人記入欄にある「離職理由」の項目で、「会社が記載した離職理由に異議があります」という選択肢にチェックを入れ、具体的な理由を記載します。

その上で、ハローワークの窓口で詳細を説明し、必要な証拠書類(診断書、雇用契約書、給与明細、会社とのやり取りの記録など)を提出して審査を求めることになります。

異議申し立ては、失業給付の受給条件に大きく関わるため、曖昧にせず、ご自身の状況を正確に伝えることが重要です。不明な点があれば、ハローワークの専門窓口に相談し、アドバイスを仰ぎましょう。

離職票-2の署名・捺印で確認すべきこと

離職票-2の下部には、退職者本人が内容を確認し、署名・捺印する欄があります。

この署名・捺印は、「記載された内容に異議がない」という意思表示と見なされますので、決して安易に行わないようにしてください。署名・捺印を行う前に、必ず以下の重要項目を一つ一つ丁寧に確認しましょう。

まず、離職理由がご自身の認識と一致しているかを再確認します。前述の通り、離職理由は失業給付の受給資格や期間に大きな影響を与えるため、最も注意すべき点です。

次に、賃金情報の正確性を確認します。離職票-2には、離職日以前の1ヶ月ごとの賃金支払状況が記載されています。失業給付の金額は、この賃金情報を基に算出されるため、ご自身の給与明細と照らし合わせ、金額に誤りがないかを慎重にチェックしましょう。

また、被保険者期間も重要な確認ポイントです。雇用保険の加入期間は、失業給付の受給期間を決定する要素となります。記載されている期間が、ご自身の在籍期間と合致しているかを確認してください。

これらの記載内容に少しでも疑問点や誤りを見つけた場合は、すぐに会社の人事担当者に連絡し、確認と修正を依頼してください。

もし会社との間で意見が食い違う場合や、会社が対応してくれない場合は、署名・捺印をせずに、そのままハローワークに相談しましょう。ハローワークが間に入り、事実関係の調査を行うことも可能です。

一度署名・捺印をしてしまうと、後から内容の変更を求めるのが非常に難しくなる場合があります。ご自身の権利を守るためにも、徹底した確認と、必要に応じた適切な対応を心がけましょう。

離職票の「見方」:平均賃金と被保険者期間の確認ポイント

離職票は、ただ受け取って記入するだけでなく、その内容を正確に「読み解く」ことが非常に重要です。

特に、失業給付の金額や期間を左右する「離職理由」「賃金情報」「被保険者期間」については、その見方と確認ポイントをしっかり理解しておく必要があります。ここでは、これらの重要項目に焦点を当て、具体的にどのような影響があるのか、どこを確認すべきか、そして誤りがあった場合の対処法について解説します。

離職理由が失業給付に与える影響とは?

離職票-2に記載される離職理由は、失業給付の受給資格や支給期間に直接的な影響を与えるため、その種類と意味を正確に理解しておくことが不可欠です。

離職理由は大きく以下の3つの区分に分かれ、それぞれ受給条件が異なります。

  • 一般の離職者(自己都合退職など):

    会社への不満や、より良い職場を求めて自ら退職した場合など、正当な理由のない自己都合退職がこれに該当します。原則として、ハローワークで求職の申し込みをした日から7日間の待期期間に加え、2ヶ月間の給付制限期間が設けられます。この期間中は失業給付を受け取ることができません。

  • 特定受給資格者(会社都合退職):

    会社の倒産や解雇、早期退職優遇制度による退職など、やむを得ない理由で退職した場合がこれに該当します。この区分に該当すると、給付制限期間が適用されず、7日間の待期期間経過後すぐに失業給付の支給が開始されます。また、一般の離職者に比べて給付期間が長くなる優遇措置が受けられる場合があります。離職票-2の「離職理由」欄で、「解雇」「倒産」などの具体的な項目がチェックされているかを確認しましょう。

  • 特定理由離職者(正当な理由のある自己都合退職):

    病気やケガ、妊娠・出産・育児、家族の介護、配偶者の転勤に伴う離職など、やむを得ない事情で自己都合退職した場合がこれに該当します。この区分に該当すると、特定受給資格者と同様に給付制限期間が適用されない場合があります。ただし、ハローワークでの審査があり、診断書や住民票など、その理由を証明する書類の提出が求められます。離職票-2の「離職理由」欄で、これらの理由が適切に記載されているか、あるいは本人が異議を申し立てるべきかを判断する必要があります。

このように、離職理由が一つ変わるだけで、受け取れる給付の時期や総額に大きな差が生じます。離職票-2の記載を隅々まで確認し、自身の状況と相違がないかを慎重に判断するようにしましょう。

賃金情報と被保険者期間の正確性を確認する

失業給付の支給額は、原則として離職日以前の6ヶ月間に支払われた賃金の平均額(賃金日額)に基づいて決定されます。

そのため、離職票-2に記載されている「賃金支払対象期間」ごとの「賃金額」が正確であるかは、失業給付の算定において非常に重要な確認ポイントとなります。ご自身の給与明細と照らし合わせ、記載されている月ごとの賃金額が一致しているかを丁寧に確認しましょう。

賃金額には、基本給の他に通勤手当や残業手当など、税金や社会保険料が控除される前の総支給額が算入されますが、賞与(ボーナス)や退職金などは原則として含まれません。

また、「被保険者期間」の確認も欠かせません。これは、雇用保険に加入していた期間を示すもので、失業給付の受給資格を満たしているか、そして失業給付を受け取れる期間(所定給付日数)がどれくらいになるかを決定する重要な要素です。

原則として、離職日以前2年間に、雇用保険の被保険者であった期間が通算して12ヶ月以上あることが受給資格の要件とされています(特定受給資格者・特定理由離職者の場合は、離職日以前1年間に被保険者期間が通算して6ヶ月以上)。

離職票-2の「被保険者期間算定対象期間」の欄に、あなたの雇用保険加入期間が正確に記載されているかを確認しましょう。

もし記載されている賃金額や被保険者期間に誤りがある場合、本来受け取れるはずの失業給付が減額されたり、受給資格を失ったりする可能性があります。これらの情報も、ご自身の権利に直結する部分であるため、必ず給与明細や雇用契約書と突き合わせて、その正確性を確かめるようにしてください。

離職票の記載内容に誤りがあった場合の対処法

万が一、離職票の記載内容に誤りがあることに気づいた場合、慌てずに適切な対処を行うことが重要です。

まず、最初に行うべきは、離職票を作成・交付した会社の人事担当者や経理担当者に連絡し、記載内容の誤りを指摘することです。具体的にどの部分がどのように間違っているのかを伝え、修正を依頼しましょう。この際、口頭だけでなく、書面やメールでやり取りの記録を残しておくと、後々のトラブル防止につながります。

会社が誤りを認め、修正に応じてくれる場合は、会社からハローワークへ訂正手続きが行われ、新たな離職票が交付されることになります。このプロセスには時間がかかる場合があるため、余裕を持って対応しましょう。

しかし、会社が誤りを認めない場合や、修正に応じてくれない場合は、直接ハローワークに相談してください。

ハローワークは、離職票の内容を最終的に確認し、失業給付の支給を決定する機関です。相談する際には、あなたの主張を裏付ける客観的な証拠(給与明細、雇用契約書、タイムカードの記録、会社とのやり取りの記録など)をできる限り多く準備していくことが重要です。

ハローワークは、これらの証拠に基づいて事実関係を調査し、必要であれば会社への確認や指導を行うことがあります。場合によっては、ハローワークの判断で離職票の内容が修正されることもあります。

記載内容の誤りは、失業給付の受給に大きな影響を及ぼす可能性があります。諦めずに、粘り強く交渉し、ご自身の権利を守るための行動を起こしましょう。早めの相談が、問題解決への第一歩となります。

離職票フォーマット(雛形)とエクセル活用のヒント

離職票は公的な書類であり、そのフォーマットは定められています。しかし、記載されている項目一つ一つの意味を理解し、自分の情報がどこに記載されているかを把握することは、正確な確認に繋がります。

ここでは、離職票の主要な構成要素を改めて確認し、記入ミスを防ぐためのチェックリスト、さらには混同しやすい関連書類との違いについても解説します。

離職票の構成を改めて理解するためのフォーマット

離職票は「離職票-1」と「離職票-2」の2枚で構成されています。それぞれの主要項目を理解することで、記載内容の確認がしやすくなります。

以下に、主要な項目をまとめてみました。

書類名 主要項目 内容 記入者
離職票-1 被保険者番号 あなたの雇用保険番号 会社
氏名、生年月日、個人番号 個人識別情報 会社
金融機関、口座番号 失業給付振込口座情報 本人
離職票-2 離職年月日 実際に退職した日付 会社
事業所番号 会社の雇用保険事業所番号 会社
被保険者番号 あなたの雇用保険番号 会社
賃金支払状況 離職前6ヶ月間の月別賃金額 会社
離職理由 退職の具体的な理由 会社
離職理由の異議申し立て 会社記載の離職理由への本人の意思 本人
署名・捺印 内容確認の承認 本人

特に離職票-2の賃金支払状況は、失業給付の基本手当日額を計算する際の根拠となります。ご自身の給与明細と突き合わせ、記載された金額に誤りがないかを必ず確認してください。

また、離職理由についても、会社がどの区分を選択しているかを確認し、もしご自身の認識と異なる場合は異議申し立てを行うための重要な情報となります。この構成を理解しておくことで、どこに何が書かれているのかを素早く把握し、確認作業を効率的に進めることができるでしょう。

記入ミスを防ぐための注意点とチェックリスト

離職票を記入する際や、会社が記入した内容を確認する際には、細心の注意が必要です。特に、一度提出してしまうと修正が困難になる項目もあるため、記入ミスや確認漏れがないように、以下のチェックリストを活用しましょう。

【本人記入欄に関するチェックリスト】

  • 氏名、生年月日の記載は、戸籍謄本や運転免許証など、公的書類と同じ表記ですか?(漢字、カナ、西暦・和暦の表記含む)
  • 金融機関名、支店名、口座種別(普通・当座)、口座番号、口座名義人名は、通帳やキャッシュカードと完全に一致していますか?(一文字でも誤りがあると振込が遅れます)
  • 離職票-2の離職理由欄で、会社記載の内容にご自身の認識と異なる点はありませんか?異議がある場合は、「異議あり」にチェックし、理由を具体的に記載しましたか?
  • 署名・捺印は忘れずに行いましたか?(印鑑はシャチハタ不可の場合があります)

【会社記入欄の確認に関するチェックリスト】

  • 離職年月日が正しいですか?
  • 被保険者番号が正しいですか?(過去に発行された雇用保険被保険者証などで確認)
  • 賃金支払対象期間と賃金額(税込み総支給額)は、ご自身の給与明細と一致していますか?
  • 離職理由の項目は、ご自身の退職理由と合致していますか?(会社都合、自己都合の判断など)
  • 事業所名や事業所番号に誤りはありませんか?

これらの項目を一つ一つ丁寧に確認し、不明な点や疑問点があれば、すぐに会社またはハローワークに問い合わせましょう。

また、エクセルなどで自分用のチェックリストを作成し、記入や確認を進める際に活用することも効果的です。特に、月ごとの賃金データを入力して合計を出すなど、計算が必要な部分でエクセルを活用すると、ミスを減らすことができます。

二重三重のチェックを行うことで、手続きをスムーズに進め、安心して失業給付を受け取れるよう準備をしましょう。

関連書類との違いを把握する

退職時に会社から受け取る書類には、離職票以外にもいくつか種類があり、それぞれ役割が異なります。

混同しないように、主な関連書類とその違いを理解しておきましょう。

  • 退職証明書:

    会社が発行する、あなたがその会社を退職したことを証明する書類です。一般的に、転職先への提出や、国民健康保険・国民年金の手続きなどで必要になる場合があります。しかし、失業給付の申請には使用できません。あくまで「退職した事実」を証明するもので、雇用保険の具体的な情報や賃金情報は含まれないことがほとんどです。

  • 雇用保険被保険者資格喪失届:

    これは会社がハローワークに提出する書類で、あなたが雇用保険の被保険者でなくなったことを届け出るものです。退職者本人の手元には渡りません。この届出によって、あなたの雇用保険資格が喪失し、離職票発行の基礎となります。

  • 離職証明書(雇用保険被保険者離職証明書):

    これも会社が作成し、ハローワークに提出する書類です。この「離職証明書」の内容が、あなたが受け取る「離職票-2」の元になります。退職者本人の署名・捺印欄も設けられており、会社がハローワークに提出する前に、内容に異議がないかを確認することが求められます。会社がこの書類を提出することで、ハローワークは離職票を発行する手続きに進みます。

このように、それぞれ異なる目的と提出先を持つ書類であることを理解することが大切です。

特に、「離職証明書」と「離職票」は名前が似ているため混同しやすいですが、離職証明書は会社がハローワークに提出するものであり、離職票はハローワークが会社を通じて退職者本人に交付するものであるという違いを明確に認識しておきましょう。

失業給付の申請には、必ず「離職票-1」と「離職票-2」の2種類の離職票が必要であることを覚えておいてください。

離職票の「日付」に注意!退職から受給までの流れ

離職票は、退職後の生活をスムーズに進める上で不可欠な書類ですが、その交付から失業給付の受給開始までにはいくつかのステップと期間があります。

特に「日付」に関する認識は、手続きの遅延や、給付開始時期のずれに直結するため、非常に重要です。ここでは、退職から離職票交付までの標準的な期間、最新のマイナポータルでの受け取りサービス、そして転職先が決まっている場合でも離職票の発行を検討すべき理由について解説します。

退職から離職票交付までの標準的な期間

通常、会社を退職してから離職票があなたの手元に届くまでの期間は、退職日から約2週間程度とされています。

この期間は、会社があなたの雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書を作成し、管轄のハローワークに提出するまでの期間、そしてハローワークがその内容を確認し、離職票を発行して会社へ交付するまでの期間、さらに会社があなたに離職票を郵送する期間を全て含んでいます。

会社が迅速に手続きを進めれば、2週間より早く届くこともありますが、会社の事務処理状況や、月末・月初などの繁忙期、ハローワークの混雑状況によっては、さらに時間がかかることもあります。

もし、退職日から2週間が経過しても離職票が届かない場合は、まずは会社の人事担当者や総務部に連絡し、離職票の発行状況を確認しましょう。会社の対応が遅れている場合は、早期の発行を依頼することができます。

会社に問い合わせても状況が改善しない場合や、明確な回答が得られない場合は、管轄のハローワークに直接相談することが可能です。ハローワークは、会社の遅延状況を把握し、場合によっては会社に対して手続きを促す指導を行うこともあります。

離職票が手元になければ失業給付の申請手続きを開始できないため、交付が遅れると、その分だけ給付の開始時期も遅れてしまいます。特に自己都合退職で給付制限期間がある場合は、さらに支給が後ろ倒しになることを念頭に置き、早めに行動することが肝心です。

マイナポータルでの受け取りサービスとは

デジタル化が進む現代において、離職票の受け取り方法にも新たな選択肢が加わりました。

2025年1月20日から、マイナポータルを通じて離職者が離職票を直接受け取れる仕組みが開始されました。これは、退職者が自宅にいながらオンラインで離職票を確認・ダウンロードできる画期的なサービスです。

このサービスの導入により、以下のようなメリットが期待されます。

  • 早期の受け取り: 郵送にかかる時間や、会社の事務処理の遅延に左右されず、ハローワークでの処理が完了次第、速やかに離職票を受け取ることが可能になります。これにより、失業給付の申請を早期に開始できる可能性が高まります。
  • 利便性の向上: 郵送物の到着を待つ必要がなく、必要な時にマイナポータルにアクセスするだけで離職票を確認・印刷できます。
  • 紛失リスクの軽減: 紙の書類の紛失や破損のリスクが低減され、必要な時に何度でもアクセスして確認することができます。
  • 手続きの効率化: 会社側にとっても、郵送準備の手間やコストが削減され、行政手続き全体の効率化に繋がります。

このサービスを利用するためには、マイナンバーカードを保有し、マイナポータルへの登録が必要です。事前にこれらの準備をしておくことで、退職後の手続きをよりスムーズに進めることができるでしょう。

デジタル庁は、今後も行政手続きのデジタル化を推進していく方針を示しており、離職票の受け取りだけでなく、様々な行政サービスがマイナポータルを通じて利用できるようになることが予想されます。最新の情報をチェックし、ご自身の状況に合わせて活用を検討してみてください。

転職や失業給付不要の場合でも発行を検討すべき理由

「すぐに転職先が決まったから離職票は必要ない」「失業給付を受給するつもりがないから、発行を希望しない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、転職先が決まっていて雇用保険に継続して加入する場合や、失業給付を希望しない場合は、直接的に離職票を使う機会は少ないかもしれません。しかし、それでも離職票の発行を検討すべき理由はいくつか存在します。

まず、予期せぬ事態への備えです。例えば、転職先の会社で万が一、短期間で退職することになった場合、前職の離職票が手元にあれば、すぐに失業給付の申請手続きを開始できます。

雇用保険の被保険者期間は通算されるため、これまでの加入期間を証明する上で離職票は重要な書類となります。厚生労働省の「令和5年雇用動向調査」によれば、2023年の離職率は15.4%であり、企業規模別では大企業に比べて中小企業の方が離職率が高くなる傾向があります。これは、雇用環境が常に安定しているとは限らないことを示唆しています。万が一の事態に備え、離職票を保管しておくことは賢明な判断と言えるでしょう。

次に、雇用保険の加入期間の証明としての役割です。離職票は、あなたが雇用保険に加入していた期間を公的に証明する書類です。

将来的に再就職する際に、過去の雇用保険加入履歴を求められるケースや、キャリアコンサルティングなどで正確な職歴・加入歴を確認したい場合に役立つことがあります。

さらに、後々のトラブル防止という側面もあります。会社が雇用保険の手続きを正しく行っていたかを確認するためにも、離職票は有効な書類です。例えば、誤って雇用保険が未加入とされていた場合や、賃金情報が不正確に記載されていた場合など、離職票を確認することで早期に問題を発見し、是正を求めることが可能になります。

これらの理由から、たとえ現時点では不要と感じても、離職票は発行を希望し、大切に保管しておくことを強くお勧めします。ご自身の権利を守り、将来の選択肢を広げるためにも、ぜひ発行を検討してください。