近年、「出向」は単なる人事異動の枠を超え、戦略的な人材育成や組織強化の重要な手段として注目されています。

特に「在籍型出向」は、従業員が元の会社に籍を置いたまま、別の企業で一定期間働く形態であり、コロナ禍における雇用維持策としても広く活用が進みました。

本記事では、この出向がなぜ行われるのか、その多様な理由と目的を深掘りし、それが個人のキャリアアップにどのように繋がるのかを、最新のデータや傾向を交えながら徹底解説します。

なぜ出向は行われる?その目的と背景

人材育成とキャリア形成のための出向

出向の最も大きな目的の一つは、従業員の人材育成とキャリア形成にあります。

自社とは異なる環境や業務に身を置くことで、従業員は自身の視野を大きく広げ、これまで触れる機会のなかった新たな知識やスキルを習得する機会を得ることができます。

例えば、ある企業がDX推進を急務としている場合、IT企業へ出向させることで最先端の技術やプロジェクト管理手法を学ばせることが可能です。

異業種への出向も積極的に行われており、これにより従業員は自身の専門分野だけでなく、コスト意識や業務改善の視点といった、より幅広いビジネススキルを養うことができるのです。

参考情報によると、約9割もの企業が「自社にない知識、スキルの習得」を出向の目的として挙げており、その重要性が伺えます。

また、出向の対象となる年齢層も幅広く、30代の中堅層が最も多い一方で、50代以降のシニア層に対しても、長年の経験や専門知識を活かせる場として一定数のニーズが存在します。

これは、出向が単なる短期的な労働力調整ではなく、長期的な視点に立った戦略的な人材投資であることを示しています。

雇用調整と人材の有効活用という側面

景気変動や事業環境の変化により、一時的に人員が余剰となるケースは少なくありません。

このような状況下で、企業が従業員を解雇することなく雇用を維持するための手段として、出向は非常に重要な役割を果たします。

特に記憶に新しいのは、コロナ禍における在籍型出向の活用でしょう。

産業雇用安定助成金などの国の支援策も相まって、2021年2月から1年間で1万人以上の労働者が在籍型出向を利用し、雇用の維持が図られました。

これは、企業が従業員の生活を守りつつ、将来を見据えて人材を社外で育成・活用するという、日本企業の雇用文化を象徴する動きとも言えます。

出向元企業は、従業員の「労働意欲の維持・向上」や「能力開発効果」を評価する一方で、出向先企業は「人手不足の解消」や「即戦力の確保」というメリットを享受します。

このように、出向は単なる「人余り」の解消だけでなく、出向元・出向先双方にとって、人材を有効活用するためのWin-Winの関係を築く可能性を秘めているのです。

企業間交流と戦略的経営の一環として

出向は、企業間の関係性を強化し、新たなビジネスチャンスを生み出すための「企業間交流」の手段としても活用されます。

グループ会社や主要な取引先への出向を通じて、企業は相互理解を深め、より円滑なコミュニケーションを促進することができます。

出向者が帰任した後には、出向先で培った人脈や得た情報が、自社の事業展開や新規プロジェクトに活かされることも期待されます。

実際に、銀行や公務員といった業界では、組織間の連携強化や人材交流を目的とした出向が古くから広く行われています。

さらに、出向は「戦略的な経営」の一環としても位置づけられます。

組織全体の効率的な人員配置や、特定の経営戦略の推進のために出向が行われることがあります。

例えば、余剰人員がいる部署から成長が見込まれる部門や、新規事業を立ち上げる部署へ人材を異動させることで、人件費の最適化や組織全体の生産性向上を図ることが可能です。

このように、出向は個人の成長を促すだけでなく、組織全体の活性化や経営課題の解決にも繋がる、多角的な目的を持つ人事戦略と言えるでしょう。

出向で得られる学びと経験、キャリアへの影響

出向者にとってのメリットとキャリアアップ

出向は、出向者自身のキャリアに計り知れないメリットをもたらします。

最も大きな利点は、新しい環境での経験を通じて、自身の市場価値を高め、キャリアの幅を大きく広げられることです。

自社では経験できなかった業務や役割を担うことで、新たなスキルを習得し、課題解決能力やマネジメント能力を向上させることができます。

例えば、営業職の人が企画部門へ出向すれば、マーケティングの視点やデータ分析の手法を学び、より多角的なビジネスセンスを磨くことが可能です。

また、出向先では多様な背景を持つ人々との出会いがあり、これにより新たな人脈を形成できることも大きな財産となります。

これらの人脈は、出向中だけでなく、帰任後のキャリアや人生においても貴重な存在となるでしょう。

さらに、特に景気変動時や事業縮小局面において、出向は解雇されることなく雇用を維持できるという安心感も提供します。

自身の能力を向上させながら、安定した雇用を確保できるという点で、出向は非常に魅力的な選択肢となり得るのです。

出向元・出向先企業が享受するメリット

出向は、出向者だけでなく、出向元企業と出向先企業にとっても多くのメリットをもたらします。

出向元企業にとっては、従業員のスキルアップや成長を促し、将来的な組織力強化に繋がるという点が挙げられます。

外部環境で得た知見やノウハウが、帰任後に自社に還元されることで、組織全体の活性化やイノベーションの創出にも貢献します。

また、景気変動時などに雇用を維持しつつ、人件費を最適化できるという経済的なメリットも大きいです。

さらに、関係会社との連携強化や、新たな事業展開の足がかりとなるケースもあり、戦略的なメリットも期待できます。

一方、出向先企業にとっては、人手不足の解消と業務負担の軽減が大きなメリットです。

特に、即戦力として期待できる優秀な人材を受け入れることで、既存従業員の負担を軽減し、生産性向上に直結させることが可能です。

必要なスキルを持った人材を一時的に確保できるため、プロジェクトの推進や特定業務の強化に役立ちます。

加えて、新しい視点や経験を持つ人材の受け入れは、職場に新たな風を吹き込み、既存社員の刺激となり、職場全体の活性化にも繋がる可能性があります。

乗り越えるべき課題とデメリット

多くのメリットがある一方で、出向には乗り越えるべき課題やデメリットも存在します。

出向者にとっては、新しい職場環境への適応や、人間関係の再構築にストレスや精神的負担を感じることがあります。

また、出向に伴い給与水準や待遇が変わる可能性があり、これが課題として挙げられることも少なくありません。

参考情報では、約3分の2の企業が「給与水準などの処遇面」を出向の課題として指摘しています。

出向元企業にとっては、出向契約の締結や、出向者との待遇調整など、事務作業の負担が増加する場合があります。

さらに、出向中の従業員の精神的なケアや、復帰後の適切なフォローアップ体制の整備も必要となり、これらを怠ると離職に繋がるリスクも発生します。

出向先企業にとっても、受け入れ体制の整備にコストがかかる場合があるほか、即戦力として期待するものの、限定的な期間での勤務となるため、長期的な戦力化には限界があるという側面も理解しておく必要があります。

これらの課題を最小限に抑え、出向を成功させるためには、出向元、出向先、そして出向者自身の三者が、事前に十分な情報共有とすり合わせを行い、きめ細やかなサポート体制を構築することが極めて重要となります。

出向の年齢層と評価、そしてマッチングの重要性

どんな人が出向の対象になる?年齢層と背景

出向の対象となる従業員は、企業の目的や戦略によって様々ですが、統計的には30代の中堅層が最も多く出向の対象となっています。

この層の従業員は、ある程度の業務経験とスキルを持ちながらも、さらなる成長とキャリアアップの可能性を秘めています。

企業は、彼らに異なった環境での経験を積ませることで、将来のリーダー候補として育成したいという意図を持っていることが多いです。

若手社員を対象とする場合は、幅広い経験を通じてビジネスの基礎を固め、多様な視点を養うことが目的となります。

一方で、50代以降のシニア層へのニーズも一定数存在します。

これは、長年にわたる経験や専門知識を活かし、出向先企業の特定の課題解決や若手育成に貢献することが期待されるためです。

特定のプロジェクトや新規事業の立ち上げに際して、専門的なスキルや経験を持つスペシャリストが出向することもあります。

このように、出向は特定の年齢層に限定されるものではなく、企業の戦略に応じて多様な人材が対象となり得る柔軟な制度と言えるでしょう。

出向を成功に導く評価とマッチングの鍵

出向を成功させるためには、適切な「マッチング」と「評価」が不可欠です。

出向元企業は、自社の育成目標と、出向者のキャリア志向を考慮した上で、最も効果的な出向先を選定する必要があります。

出向先企業も、自社の抱える課題や求める人材像を明確にし、出向元からの提案を慎重に検討しなければなりません。

具体的には、出向者のスキル、経験、そして人間性が、出向先の業務内容や組織文化に合致するかを綿密にすり合わせることが重要です。

出向前には、出向元・出向先・出向者本人の三者間で、出向の目的、期待される役割、評価基準、そして期間中のサポート体制について、十分に話し合い、共通認識を持つことが成功への鍵となります。

出向期間中も、定期的な面談やフィードバックを通じて、出向者の成長を促し、課題があれば早期に解決する体制を整えるべきです。

適切なマッチングと継続的な評価は、出向者自身のモチベーション維持に繋がり、結果として出向元・出向先双方にとって最大の成果をもたらすことに貢献するでしょう。

データが示す出向への高い評価と課題

出向は、実際に多くの企業と労働者から高い評価を得ています。

参考情報によると、コロナ禍における在籍型出向を経験した企業や労働者の約9割が、その制度を前向きに評価していることが明らかになっています。

この高い評価の背景には、「自社にない知識、スキルの習得」が出向目的の約9割を占めるというデータが示唆するように、出向が従業員の成長に大きく貢献しているという実感があります。

出向によって得られる新たな経験や専門知識は、個人のキャリアを豊かにするだけでなく、帰任後の組織にも還元され、企業の競争力向上に繋がっています。

一方で、出向には課題も存在します。

最も多く指摘されているのが「給与水準などの処遇面」に関するもので、約3分の2の企業がこれを課題として挙げています。

出向先と出向元の給与体系の違いや、手当の有無など、経済的な側面が出向者のモチベーションに影響を与える可能性があります。

また、従業員規模が大きい企業ほど、出向への関心が高い傾向が見られます。

特に1001人以上の大企業では、出向送り出し企業で6割以上、出向受け入れ企業で5割の企業が関心を示しており、大規模組織における人材戦略の一環として出向が重視されていることが伺えます。

これらのデータは、出向制度の有効性を示す一方で、より円滑で効果的な運用のためには、処遇面の課題解決や、企業の規模に応じた戦略的な活用が求められていることを示唆しています。

日本特有?海外との出向制度の違い

日本の「在籍型出向」の特殊性

日本の出向制度、特に「在籍型出向」は、世界的に見てもかなり特殊な形態と言えます。

従業員が元の会社に籍を置いたまま、給与や社会保険の支払いも原則として出向元が行い、別の企業で一定期間働くというこの制度は、日本の終身雇用制度や雇用維持の文化と深く結びついています。

欧米諸国では、このような形態は稀で、キャリアアップや新たな職務を求める際には「転籍」つまり元の会社を退職して新しい会社に完全に移籍する形が一般的です。

日本の在籍型出向は、景気変動や事業縮小による人員過剰の際に、解雇を回避し、従業員の雇用を維持するための「雇用調整弁」としての側面も強く持っています。

コロナ禍における活用はその典型であり、政府の助成金と連動して大量の労働者が在籍型出向によって雇用を維持することができました。

この制度は、従業員に安心感を与える一方で、出向元と出向先の二重の雇用関係や、給与・評価体系の調整など、複雑な事務手続きや法的問題が伴うことも特徴です。

日本の企業文化が生み出した独特の制度と言えるでしょう。

グローバル企業における出向の捉え方

グローバル企業における国際的な人事異動は、日本の出向とは異なる文脈で捉えられています。

多くの場合、それはキャリアパスの一環であり、特定のプロジェクト推進、海外拠点の立ち上げ、あるいはマネジメント層の育成を目的とした「駐在員制度」として運用されます。

欧米を始めとする多くの国々では、職務内容が明確に定義された「ジョブ型雇用」が主流であるため、出向者にはより具体的な職務範囲と、それに伴う明確な成果が求められます。

給与や待遇は、出向先となる国や地域の基準に合わせることが一般的であり、個人のスキルや経験に見合った職務と報酬が提供されます。

これは、従業員が自身の能力を最大限に発揮し、グローバルな市場でキャリアを築くための「タレントモビリティ(人材流動性)」を重視する考え方に基づいています。

例えば、ある国の拠点で成功したビジネスモデルを別の国に展開するために、そのノウハウを持つ人材を派遣するといったケースが挙げられます。

グローバル企業にとっての出向は、単なる人材の移動ではなく、企業の戦略を世界規模で実行するための重要なツールとして位置づけられているのです。

異文化理解を深める海外出向の可能性

海外への出向は、従業員にとってキャリアにおける大きな転換点となり得ます。

異なる言語、文化、ビジネス慣習の中で働く経験は、グローバルな視点と異文化コミュニケーション能力を飛躍的に向上させます。

これは、国際的なビジネス環境で活躍するために不可欠なスキルであり、個人の市場価値を大きく高める要因となります。

海外出向を通じて、現地の市場特性を深く理解し、その国ならではのビジネスノウハウを習得することは、帰任後の自社のグローバル展開において計り知れない貢献をもたらすでしょう。

例えば、新興国市場での新規事業立ち上げに携わることで、現地の顧客ニーズや流通経路に関する実践的な知識を身につけることができます。

もちろん、言葉や文化の壁、生活環境の変化など、困難も伴いますが、それらを乗り越えた先に得られる成長と達成感は、何物にも代えがたい経験となります。

異文化理解を深める海外出向は、個人のキャリアアップだけでなく、企業が国際競争力を高め、真のグローバル企業へと成長していく上でも不可欠な投資と言えるでしょう。

出向を成功させるためのポイント

出向前の準備と心構え

出向を成功させるためには、事前の入念な準備と、適切な心構えが非常に重要です。

まず、出向の目的を明確に理解し、それが自身のキャリアプランとどのように結びつくのかを具体的に描くことから始めましょう。

「なぜ自分が出向するのか」「出向先で何を学び、何を達成したいのか」を明確にすることで、モチベーションを高く保つことができます。

次に、出向先企業の事業内容、組織文化、そして自身に求められる役割について、可能な限り詳細な情報を収集し、理解を深めることが大切です。

これまでの自身のスキルや知識を棚卸しし、出向先で不足すると予想される点については、事前に学習するなどして補強に努めることも有効です。

また、出向は自分一人で完結するものではありません。家族や周囲の理解と協力を得るために、十分な説明と話し合いを行う必要があります。

そして何より、新しい環境への適応力と、困難に直面しても前向きに取り組む精神的な準備が、出向を成功に導く上で最も重要な要素となるでしょう。

出向中のパフォーマンス最大化とコミュニケーション

出向期間中は、自身のパフォーマンスを最大化し、出向元と出向先、双方との良好なコミュニケーションを維持することが成功の鍵となります。

新しい職場では、まず出向先の企業文化やルールを尊重し、周囲の同僚との良好な人間関係を積極的に構築することに努めましょう。

与えられた業務には全力で取り組み、常に成果を出す意識を持つことが重要です。

自身の経験やスキルを活かしつつも、既存のやり方を鵜呑みにせず、新しい視点から改善提案を行うなど、積極的に貢献する姿勢を見せることで、出向先からの信頼を得ることができます。

また、出向元企業との連携も怠ってはいけません。

定期的に状況報告を行ったり、不安な点や相談事があれば遠慮なく連絡を取ったりすることで、出向元も安心してサポートすることができます。

出向中に得た新たな学びや、直面した課題、それらをどのように解決したかを記録しておくことも、自身の成長を可視化し、帰任後のキャリアに繋げる上で非常に有効です。

積極的なコミュニケーションと主体的な行動が、出向期間を実り多いものにするでしょう。

帰任後のキャリアプランとフォローアップ

出向は、帰任して終わりではありません。

出向中に得た経験やスキルを、帰任後のキャリアにどう活かすかを具体的に描くことが、出向を真のキャリアアップに繋げる最終ステップとなります。

出向元企業との復職面談では、自身の出向経験を具体的に伝え、今後のキャリアパスや希望する業務について積極的に提案しましょう。

出向で培った専門知識や人脈、多角的な視点は、自社に戻った後も大いに貢献できるはずです。

企業側も、出向者が得た貴重な経験を活かせる配置や役割を検討し、スムーズな再適応のためのサポート体制を整える必要があります。

出向経験を社内外に共有する機会を設けることで、自身のブランド価値を高めるとともに、他の従業員にも出向制度のメリットを伝えることができます。

仮に、出向期間中に予想外の困難があったとしても、その経験から何を学び、どのように乗り越えたのかを振り返ることで、自己成長に繋げることが可能です。

出向は単なる一時的な異動ではなく、自身のキャリアをデザインし、企業と個人が共に成長するための戦略的な投資であることを忘れないでください。