出向とは?会社における出向の基本的な意味と定義

出向の基本的な概念とその役割

「出向」とは、企業が従業員を、所属する会社(出向元)との雇用契約を維持したまま、関連する別の会社(出向先)へ移し、一定期間そこで勤務させる人事制度を指します。
これは、単なる配置転換とは異なり、社員は出向元と出向先の双方と雇用契約を結び、出向先の指揮命令下で業務を行うことが一般的です。

出向は、企業グループ内での人材育成やノウハウの共有、組織間の連携強化を目的とした戦略的な活用がなされます。
また、時には企業の経営状況の変化に伴う雇用の調整や、特定事業の強化を目的として行われることもあります。
社員が異なる環境で働くことで、新たなスキルを習得し、視野を広げる機会となる役割も果たします。

特に、近年では新型コロナウイルス感染症の影響による雇用維持策としても注目されており、その重要性は高まっています。
企業が持続的に成長していく上で、人材の有効活用は不可欠であり、出向はその有効な手段の一つとして位置づけられています。

「出向者」とは誰を指すのか?

出向制度において「出向者」とは、出向元企業に籍を置きながら、出向先企業で実際に業務を行う従業員のことです。
出向者は、出向元との雇用契約を維持しつつ、出向先とも新たに雇用契約を結ぶため、法的には「二重雇用」の状態にあると理解されます。

この二重雇用の状態が、出向の大きな特徴であり、出向者は出向先企業の指揮命令下で日々の業務を遂行します。
給与や福利厚生については、出向元と出向先のどちらが、あるいはどのように負担するかは、両社間の出向契約によって取り決められます。

出向者は、新たな環境での業務を通じて、自己の専門性を高めたり、これまで培ったスキルを異なる分野で活かしたりする機会を得ることができます。
また、出向元企業へ復帰することを前提としている場合が多く、その経験を活かして出向元でのさらなる活躍が期待されます。

出向元と出向先の関係性

出向制度は、出向元企業と出向先企業の双方にとって、それぞれ異なる目的とメリットをもたらします。
出向元企業は、自社の人材を育成したり、グループ会社全体の人材交流を促進したり、場合によっては経営状況に応じた人員配置の調整を行ったりするために出向を利用します。

一方、出向先企業は、特定のスキルやノウハウを持つ人材を一時的に獲得したり、経営指導や技術指導を受けたり、あるいは新規事業立ち上げのための即戦力を確保したりすることが目的となります。
このように、両社のニーズが合致することで出向が成立します。

出向元と出向先の間では、出向者の労働条件、出向期間、給与や社会保険料の負担割合、復帰に関する取り決めなどを詳細に定めた「出向契約」が締結されます。
この契約は、出向者が円滑に業務を遂行し、出向後のキャリアパスを見据える上で非常に重要な基盤となります。

出向の主な種類とそれぞれの特徴

在籍型出向:雇用契約を維持したままの働き方

「在籍型出向」は、出向元企業との雇用契約を維持したまま、出向先企業とも新たに雇用契約を結び、出向先の指揮命令下で働く形態です。
一般的に「出向」という言葉でイメージされるのは、この在籍型出向であることがほとんどです。

在籍型出向の大きな特徴は、出向期間が終了した後に出向元企業へ復帰することを前提としている点にあります。
これにより、従業員は出向元でのキャリアを継続しながら、異なる環境での経験を積むことが可能になります。
企業側にとっても、人材育成やグループ内の連携強化、一時的な雇用の調整などに有効な手段となります。

特に、近年では新型コロナウイルス感染症の影響下で、雇用維持策として在籍型出向が注目を集めました。
2021年2月からは、在籍型出向を活用して雇用維持を図る企業に対して「産業雇用安定助成金」が創設・施行され、多くの企業がこの制度を利用しています。
この助成金は、出向元・出向先の双方にとって、雇用維持、能力開発、労働意欲の向上といった多岐にわたる効果が「評価できる」とされており、中小企業での活用が特に目立ちます。

移籍型出向(転籍):新たな雇用関係への移行

「移籍型出向」は、一般的に「転籍」とも呼ばれる形態で、在籍型出向とは異なり、出向元企業との雇用契約を解消し、出向先企業と新たに雇用契約を結ぶことになります。
このため、出向元への復帰は前提とされておらず、事実上、転職に近い性質を持つ人事異動と言えます。

転籍が個人の意思ではなく、会社の人事異動の一環として行われる点が、一般的な転職との決定的な違いです。
転籍の場合、出向元の退職金規定が適用されたり、勤続年数が通算されたりするなど、個人の不利益を緩和するための措置が取られることもあります。

転籍は、企業グループ内での恒久的な組織再編や、特定の事業部門の切り離しなど、より大規模な経営戦略の一環として行われることが多いです。
労働者のキャリアに与える影響が大きいため、転籍に際しては労働者本人の明確な同意が法的に求められ、慎重な手続きと十分な説明が不可欠となります。

在籍型と移籍型の選択基準と注意点

在籍型出向と移籍型出向(転籍)は、企業の目的と労働者の状況に応じて使い分けられます。
一時的な人材交流や能力開発、または雇用調整が目的であれば、出向元への復帰を前提とした在籍型出向が適しています。
一方、グループ内の組織再編や特定の事業強化のために、恒久的に人材を異動させる場合は、移籍型出向が選択されることが多いでしょう。

それぞれの形態を選ぶ際には、いくつかの重要な注意点があります。
在籍型出向では、出向元と出向先の二重雇用関係における労働条件や責任の所在を明確にする必要があります。
また、出向期間中の評価や復帰後のキャリアパスについても、事前にしっかりと取り決めておくことが重要です。

移籍型出向(転籍)においては、出向元との雇用契約を解消するため、労働者の意思が最も尊重されます。
労働者の不利益とならないよう、退職金やこれまでの勤続年数の取り扱い、新しい会社での労働条件について、書面での合意形成を徹底しなければなりません。
適切な手続きを踏まないと、後々トラブルに発展する可能性もあるため、法的な要件を遵守することが極めて重要です。

出向が成立するための4つの法的要件

出向命令の法的根拠の明確化

企業が従業員に出向を命じる場合、その命令には法的な根拠が不可欠です。
労働契約法第14条では、出向命令が権利の濫用と認められる場合には無効となると明確に定められています。
これは、企業が一方的に不当な出向命令を行うことを防ぎ、労働者の権利を保護するための重要な規定です。

法的根拠を明確にするためには、まず雇用契約書労働条件通知書に出向に関する規定を盛り込むことが一般的です。
これに加え、会社の就業規則労働協約に出向命令権が明記されていることが極めて重要となります。
これらの書類に規定がなければ、原則として会社は従業員に出向を命じることはできません。

出向命令の根拠が不明確なままでは、労働者が命令を拒否する正当な理由となり得ますし、万が一紛争に発展した場合、企業側が不利になる可能性が高まります。
そのため、出向制度を導入する際には、必ず法的な根拠を整備し、それを労働者に周知徹底することが求められます。

就業規則や労働協約における出向規定の重要性

出向命令を有効かつ円滑に行うためには、就業規則や労働協約に出向に関する規定を具体的に定めておくことが不可欠です。
これらの規定は、企業が出向命令権を行使する際の法的基盤となり、従業員が原則として出向命令を拒否できない状況を作り出します。

就業規則等に記載すべき事項としては、以下のような項目が挙げられます。

  • 会社が業務上の必要性に応じて出向を命じることがある旨
  • 出向期間、出向先の企業、出向中の労働条件に関する基本的な考え方
  • 出向に伴う賃金、手当、退職金等の取り扱い
  • 出向元への復帰に関する規定(在籍型出向の場合)

これらの規定を具体的に定めることで、従業員は入社時に出向の可能性を認識し、予見性を持って働くことができます。

また、就業規則等は、労働基準監督署への届出義務があるだけでなく、従業員への周知義務もあります。
規定がきちんと整備され、かつ従業員に適切に周知されていることが、出向命令の有効性を裏付ける重要な要素となります。

労働者供給事業と区別される出向の目的

出向、特に在籍型出向においては、職業安定法で禁止されている「労働者供給事業」に該当しないよう、その目的が明確でなければなりません。
労働者供給事業とは、営利目的で他社に労働者を供給する行為を指し、人材派遣事業とは異なり、原則として禁止されています。

適法な在籍型出向と認められるためには、以下のいずれかの正当な目的を有している必要があります。

  • 関係会社における雇用機会の確保:経営不振の子会社などでの雇用を維持するため
  • 経営指導、技術指導の実施:親会社から子会社への専門人材の派遣など
  • 職業能力開発の一環としての実施:異なる環境でのスキルアップやキャリア形成のため
  • 企業グループ内の人事交流の一環としての実施:グループ全体の組織力強化のため

これらの目的が明確に存在しない単なる人手不足の補填目的での出向は、労働者供給事業とみなされるリスクがあるため注意が必要です。

出向の目的を明確にし、これを書面で残しておくことは、後々のトラブルを回避し、法的要件を満たす上で非常に重要な意味を持ちます。

出向者への不利益配慮義務と権利濫用の禁止

企業が出向命令を行う際には、労働契約法第14条の規定に基づき、出向者の不利益に十分配慮することが求められます。
出向命令が社会通念上不相当な不利益を労働者に与える場合や、その他の事情と照らし合わせて権利の濫用と認められる場合には、その出向命令は無効となります。

具体的な配慮事項としては、賃金水準の維持、労働時間の適正化、福利厚生の継続、出向期間、出向先の業務内容、出向者の心身への負担などが挙げられます。
例えば、出向によって大幅な賃金減額や、過酷な労働条件への変更が生じる場合、あるいは家族の介護などの事情を無視した遠隔地への出向命令などは、権利の濫用とみなされる可能性が高まります。

企業は出向を命じる前に、出向者に対して出向の目的、期間、労働条件、処遇、復帰に関する事項などを丁寧に説明し、理解を得る努力をするべきです。
一方的な命令ではなく、可能な限り対話を通じて合意形成を図ることで、労働者のモチベーション維持とトラブルの未然防止につながります。

出向の法的根拠となる法律と注意点

労働契約法が定める出向命令の有効性

出向命令の法的有効性は、主に労働契約法によって規定されています。
特に、同法第14条では「使用者は、労働者の合意を得ることなく、その権利を濫用して、労働者の転勤、出向その他これに準ずる労働者の労働条件又は労務の提供場所を変更する命令をしてはならない」と定められています。

この条文は、企業が出向命令権を行使する際の制約を明確にしており、単に就業規則に規定があるというだけでなく、出向の必要性、対象者の選定の合理性、そして労働者が受ける不利益の程度などを総合的に考慮する必要があります。
仮に就業規則に規定があっても、不当な目的や著しい不利益を伴う出向命令は、権利の濫用として無効と判断される可能性があります。

したがって、企業は出向を命じる際に、業務上の必要性や目的を具体的に示し、出向者のキャリア形成や能力開発に資するものであることを説明するなど、客観的かつ合理的な理由に基づいていることを明確にする必要があります。
また、出向者の生活状況や健康状態にも配慮し、過度な負担を強いないことが、命令の有効性を保つ上で重要です。

職業安定法との関連性:労働者供給事業の禁止

出向を検討する上で、職業安定法の規定も重要な注意点となります。
同法第44条では、何人も労働者供給事業を行ってはならないと定められており、違反した場合には罰則が科せられます。
この「労働者供給事業」とは、労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることを業として行うことを指します。

一見すると、在籍型出向も労働者を他社へ送り出す行為と捉えられがちですが、適法な出向と労働者供給事業には明確な区別があります。
適法な出向と認められるためには、前述したように、「雇用機会の確保」「経営指導、技術指導の実施」「職業能力開発の一環」「企業グループ内の人事交流の一環」といった正当な目的が必要です。

これらの目的がなく、単に人手不足の解消や営利目的で労働力を提供するような形態は、違法な労働者供給事業とみなされるリスクがあります。
企業は、出向契約書や関連する規定において、出向の目的を明確にし、労働者供給事業に該当しないことを示す証拠を整備しておく必要があります。
これにより、法的リスクを回避し、健全な出向制度を運営することが可能となります。

法改正と助成金制度:産業雇用安定助成金の活用

近年、出向を取り巻く法制度や関連施策には大きな動きが見られます。
特に注目すべきは、2021年2月から創設・施行された「産業雇用安定助成金」です。
この助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた企業が、労働者の雇用を維持するため、グループ企業内またはグループ外の企業へ在籍型出向を活用する際に、出向元・出向先の双方を支援するものです。

この制度の導入により、一時的な余剰人員の発生した企業が出向元として助成金を活用し、一方で人材を必要とする企業が出向先として受け入れ、従業員の雇用を維持しながら新たなスキル獲得の機会を提供できるようになりました。
実際に、この助成金制度を活用して、1年間で1万人以上の労働者が在籍型出向を実施したという報告もあります。

助成金の活用状況に関する調査では、出向元・出向先の双方で、在籍型出向を「評価できる」とする声が多数を占めています。
具体的には、労働意欲の維持・向上、能力開発効果、雇用維持効果などが高く評価されており、特に中小企業での活用割合が高い傾向にあります。
このように、出向は単なる人事異動に留まらず、国の政策と連携しながら、労働者の雇用とキャリア形成を支える重要な役割を担っています。

出向と常駐の違い、そして「出向の出向」とは?

出向と常駐の明確な違い

「出向」と混同されやすい概念に「常駐」があります。
特にIT業界などでは「客先常駐」という言葉を耳にすることが多いですが、この二つには明確な違いがあります。
最も大きな違いは、雇用契約と指揮命令権の所在です。

常駐」の場合、労働者は自社(雇用元)との雇用契約のみを維持し、客先に派遣されて業務を行います。
このとき、客先での業務指示を受けることはあっても、法的な指揮命令権はあくまで自社にあり、客先とは直接的な雇用関係はありません。
給与や福利厚生はすべて自社から提供されます。

一方、「出向」の場合は、出向元(元の会社)との雇用契約を維持したまま、出向先(新しい会社)とも新たに雇用契約を結びます。
これにより、出向者は出向先の指揮命令下で業務を行い、給与や福利厚生の一部または全部が出向先から支払われることもあります。
つまり、出向は「二重雇用」の状態にある点が、常駐とは根本的に異なります。

この違いを理解することは、労働者の権利や責任、そして企業側の管理体制を適切に構築する上で極めて重要です。
雇用契約と指揮命令権の所在を明確にすることで、万が一のトラブル発生時にも、どの企業が責任を負うべきかが判断しやすくなります。

出向の多層構造「出向の出向」とは?

出向制度には、さらに複雑な形態として「出向の出向」と呼ばれるものも存在します。
これは、一度出向した社員が、その出向先からさらに別の会社へ出向するという、多層的な人事異動を指します。
例えば、親会社から子会社に出向し、その子会社からさらに別の関連会社に出向するといったケースが該当します。

このような「出向の出向」は、企業グループ内でより柔軟な人材配置を行う目的や、特定のプロジェクトのために一時的に専門人材を集約する目的で用いられることがあります。
しかし、その構造が複雑になるほど、法的な取り扱いや管理が難しくなるという課題も抱えています。

複数の会社が関与することで、各会社との雇用契約や指揮命令権の所在が曖昧になりがちです。
また、給与や社会保険、退職金などの労働条件についても、どの会社が最終的な責任を負うのか、どのように負担を分担するのかを明確にすることが必要となります。
「出向の出向」を行う際には、関係するすべての会社間での詳細な契約と、労働者への丁寧な説明が不可欠です。

多層出向における法的責任と管理の複雑さ

「出向の出向」のような多層的な人事形態は、法的責任の所在を非常に複雑にします。
労働基準法上の責任は、実際に労働者を指揮命令する企業(実質的な使用者)に帰属することが原則ですが、複数の雇用契約が絡む場合、どの会社がどの範囲で責任を負うのかが曖昧になりがちです。

特に、労働災害が発生した場合や、ハラスメント問題が起きた場合など、責任を追及する際に、出向元、出向先、そしてさらにその出向先の企業という複数の関係者が関わるため、対応が煩雑になる可能性があります。
このため、多層出向を行う企業は、各段階での出向契約書に、労働条件、責任分担、指揮命令系統などを極めて詳細に明記する必要があります。

また、人事管理の面でも複雑さが増します。
例えば、人事評価、給与改定、福利厚生の適用、キャリアパスの構築など、労働者に対する一貫した管理が難しくなるでしょう。
企業は、労働者保護の観点から、多層出向の場合でも、労働者が不利益を被らないよう、十分な配慮と透明性の高い運用を心がけなければなりません。
関係各社間での密な連携と、労働者への継続的な情報提供が、円滑な多層出向の鍵となります。