扶養控除等申告書を2箇所に提出!掛け持ちの場合の疑問を徹底解説

副業やダブルワークが一般化している現代社会において、複数の勤務先から給与を得る方は増え続けています。
それに伴い、「扶養控除等申告書」の提出や年末調整、確定申告について、多くの疑問が生じていることでしょう。
「扶養控除等申告書は原則1箇所にしか提出できない」というルールはご存知でしょうか?
本記事では、掛け持ちで働く方が抱えがちなこれらの疑問を、最新の情報に基づいて徹底的に解説していきます。

  1. 扶養控除等申告書を2箇所に提出するケースとは?
    1. 原則は1箇所提出のルール
    2. ダブルワーク・副業の増加と申告書の課題
    3. もし2箇所に提出してしまったら?
  2. 「乙欄」とは?給与所得者の扶養控除等申告書の重要性
    1. 扶養控除等申告書の「甲欄」と「乙欄」
    2. 「乙欄」適用時の源泉徴収と手取りへの影響
    3. 申告書の提出が住民税にもたらす影響
  3. 2年分の扶養控除等申告書、なぜ提出が必要なの?
    1. 年末調整に向けた申告書の役割
    2. 年度更新における申告書の提出時期と目的
    3. 令和8年以降の変更点とその影響
  4. 掛け持ちによる扶養控除等申告書の提出方法と注意点
    1. 主たる勤務先の選定基準と申告書の提出
    2. 複数収入がある場合の年末調整の仕組み
    3. 所得税の壁と社会保険の壁に注意
  5. 扶養控除等申告書と確定申告:提出すべき人は?
    1. 確定申告が必要となる具体的なケース
    2. 確定申告が不要となる例外と住民税の扱い
    3. 源泉徴収票の重要性と保管のすすめ
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 扶養控除等申告書を2箇所に提出するのは、どのような場合ですか?
    2. Q: 「乙欄」とは、どのような場合に記載するのですか?
    3. Q: なぜ扶養控除等申告書を2年分提出する必要があるのですか?
    4. Q: 扶養控除等申告書を掛け持ちで提出する際の注意点はありますか?
    5. Q: 扶養控除等申告書を提出した場合、確定申告は不要になりますか?

扶養控除等申告書を2箇所に提出するケースとは?

原則は1箇所提出のルール

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、日本の所得税法において非常に重要な書類です。
この申告書は、原則として1つの勤務先にのみ提出することが定められています。
複数の会社から給与を受け取っている場合、最も給与が多い「主たる給与の支払者」、つまりメインの勤務先に提出するのが一般的です。

このルールの背景には、税法上の控除が重複して適用されるのを防ぎ、公平な納税を確保するという目的があります。
もし複数の勤務先で扶養控除が適用されてしまうと、本来よりも少ない税金しか納められず、後から追徴課税の対象となる可能性もあります。
そのため、ご自身の状況に合わせて、どの勤務先に提出するかを慎重に判断する必要があるのです。

メインの勤務先でこの申告書を提出することで、所得税や住民税の計算において、各種控除が適用され、税負担が軽減される仕組みとなっています。
この仕組みを正しく理解することが、適正な納税につながります。

ダブルワーク・副業の増加と申告書の課題

働き方の多様化が進む現代において、副業やダブルワークはもはや珍しいことではありません。
しかし、複数の収入源を持つことで、「扶養控除等申告書」の扱いや年末調整、確定申告に関する疑問や混乱が生じやすくなっています。
特に、初めて掛け持ちを始めた方や、働き方を変えたばかりの方は、戸惑うことも多いでしょう。

複数の勤務先から給与を受け取っている場合、それぞれの勤務先で源泉徴収が行われますが、申告書を提出していない勤務先では、高い税率で源泉徴収されることになります。
これは、その勤務先があなたの扶養状況や控除について把握できないためです。
このような状況が、後述する「乙欄」の適用につながります。

こうした複雑な状況を正しく理解し、適切な手続きを踏むことが、年間の税額を正しく確定し、不要なトラブルを避けるために非常に重要です。
ご自身の働き方に合わせて、最新の税制情報を確認する習慣を持つことをお強くお勧めします。

もし2箇所に提出してしまったら?

もし誤って扶養控除等申告書を2箇所の勤務先に提出してしまった場合、どのような事態が起こるのでしょうか。
最も大きなリスクは、控除の重複適用による追徴課税です。
両方の勤務先で扶養控除などが適用されてしまうと、結果的に支払うべき税金が過少になります。

この過少に支払われた税金は、税務署の調査によって発覚した場合、後日まとめて徴収されることになります。
場合によっては、延滞税などのペナルティが加算される可能性も否定できません。
このような事態を避けるためには、まずご自身の提出状況を確認することが重要です。

もし2箇所に提出してしまったことに気づいたら、速やかにメインでない方の勤務先に連絡し、訂正の手続きを行うか、年末調整で調整しきれない場合はご自身で確定申告を行い、税額を正しく申告する必要があります。
不明な点があれば、税務署や税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
正直な申告が何よりも大切です。

「乙欄」とは?給与所得者の扶養控除等申告書の重要性

扶養控除等申告書の「甲欄」と「乙欄」

給与所得者の扶養控除等申告書には、源泉徴収の際に適用される税額表の「甲欄」と「乙欄」という区分があります。
「甲欄」は、その人が「主たる給与の支払者」である勤務先に申告書を提出している場合に適用されます。
この甲欄が適用されると、配偶者控除や扶養控除などの各種所得控除が考慮され、源泉徴収される税額が低く抑えられます。

一方、「乙欄」は、その人が他の勤務先に扶養控除等申告書を提出している場合、または申告書を全く提出していない場合に適用されます。
つまり、ダブルワークなどで複数の勤務先から給与を得ている場合、メインの勤務先以外では、通常「乙欄」が適用されることになります。
乙欄適用の場合、各種控除が考慮されないため、源泉徴収される税額は甲欄適用時よりも高くなります。

この甲欄と乙欄の区別は、毎月の手取り額に直接影響を与えるため、ご自身の状況を正しく理解しておくことが極めて重要です。
特に複数の勤務先で働く方は、どちらの勤務先で甲欄が適用されているのかを把握しておく必要があります。

「乙欄」適用時の源泉徴収と手取りへの影響

「乙欄」が適用される場合、その勤務先からの給与に対しては、税額表の乙欄の税率が用いられます。
これは、扶養家族の有無やその他の控除が一切考慮されない、一律に高い税率が適用されることを意味します。
結果として、乙欄が適用される勤務先からの給与は、毎月の手取り額が大幅に少なくなる傾向にあります。

例えば、同じ給与額であっても、甲欄適用時と比較すると、乙欄適用時の源泉徴収税額は数倍になることも珍しくありません。
これは、年間の正しい税額を前払いしているわけではなく、単純に控除が考慮されていないために高く徴収されている状態です。
そのため、乙欄適用で源泉徴収された方は、年末調整や確定申告で最終的な税額を確定させることで、多く払いすぎた税金が還付される可能性が高いです。

ご自身の給与明細を確認し、「乙欄」が適用されている場合は、毎月の手取りが少ないと感じるかもしれませんが、これは一時的なものであり、最終的な税額は確定申告によって調整されます。
したがって、乙欄適用を受けている勤務先からの源泉徴収票は、確定申告の際に必ず必要となりますので、大切に保管しておきましょう。

申告書の提出が住民税にもたらす影響

扶養控除等申告書は所得税の計算だけでなく、住民税の計算にも大きな影響を与えます
この申告書の内容は、勤務先から市区町村へも提出され、翌年度の住民税額の算定資料となります。
住民税は前年の所得に基づいて計算されるため、正確な情報が適切に申告されていることが非常に重要です。

もし申告書が提出されていない、あるいは情報に誤りがある場合、所得控除が正しく適用されず、住民税額が高くなってしまう可能性があります。
また、所得税の確定申告が不要なケースであっても、住民税については別途申告が必要となる場合があるため注意が必要です。
例えば、副業の所得が20万円以下で所得税の確定申告が不要な場合でも、その所得は住民税の課税対象となりますので、市区町村への住民税申告が必要になることがあります。

住民税は、都道府県民税と市町村民税で構成され、所得に応じて課税される「所得割」と、所得に関わらず課税される「均等割」があります。
扶養控除等申告書は、これらの計算の基礎となる情報を提供するものであり、適切な提出が、適正な住民税額の決定に繋がります。
住民税に関する疑問があれば、お住まいの市区町村の税務担当部署に問い合わせてみましょう。

2年分の扶養控除等申告書、なぜ提出が必要なの?

年末調整に向けた申告書の役割

扶養控除等申告書は、主に年末調整を行う上で不可欠な書類です。
企業は従業員から提出された申告書に基づいて、毎月の給与から源泉徴収する所得税額を決定します。
そして、年末にはその年に支払った給与の総額と、実際に源泉徴収した税額を比較し、最終的な所得税額を確定する年末調整を行います。

この申告書は、翌年の源泉徴収税額を正しく計算するためにも使用されます。
例えば、毎年10月~11月頃に翌年分の扶養控除等申告書の提出が求められるのは、翌年の給与計算に適用される控除情報を事前に把握するためです。
もし扶養親族の増減や、配偶者の所得状況などに異動があった場合は、速やかに申告書を再提出することが求められます。

正確な情報を提出することで、毎月の給与から正しい税額が源泉徴収され、年末調整で大きな還付や追加徴収が発生するリスクを減らすことができます。
この書類は、個人が適正な税負担を負うための、いわば「自己申告」の基礎となる重要なものです。

年度更新における申告書の提出時期と目的

多くの企業では、従業員に対して毎年秋頃に翌年分の扶養控除等申告書の提出を求めます。
これは、翌年の1月から適用される所得税の源泉徴収額を決定するために必要な手続きです。
この書類が提出されないと、原則として「乙欄」が適用され、給与から高い税率で源泉徴収されることになります。

このように、申告書は年末調整のためだけでなく、年明けの最初の給与から正確な税額を計算するために重要な役割を果たします。
提出された情報に基づき、会社は従業員の個人情報、扶養親族の状況、配偶者の有無などを確認し、それに応じた所得税の控除額を適用します。
これにより、従業員は毎月、自身の状況に応じた適正な税額を負担できるようになるのです。

もし提出が遅れたり、忘れてしまったりすると、毎月の手取りが少なくなるだけでなく、年末調整での処理が複雑になったり、場合によっては確定申告が必要になることもあります。
そのため、会社からの提出依頼には期限内に対応し、自身の最新情報を正確に申告することが、スムーズな納税手続きのために不可欠です。

令和8年以降の変更点とその影響

税制は常に変化しており、扶養控除等申告書にも新たな変更点が予定されています。
特に注目すべきは、令和8年分以降の申告書において、「控除対象扶養親族」という名称が「源泉控除対象親族」に変更される点です。
これは、給与から源泉徴収される所得税の計算において、より明確な区分けを意図するものです。

さらに、新たな区分として「特定親族」が追加されます。
これは、19歳以上23歳未満で一定の所得要件を満たす親族を指し、これらの親族がいる場合には、これまで以上に詳細な情報申告が求められることになります。
これらの変更は、税法の複雑化に対応し、より公平かつ的確な税負担を実現するための見直しの一環と言えるでしょう。

これらの変更は、将来的に納税者である私たちにどのような影響を与えるのでしょうか。
制度が施行される際には、ご自身の扶養状況や家族構成に応じて、再度申告書の内容を丁寧に確認し、必要に応じて変更点を理解しておく必要があります。
早めの情報収集と正確な申告が、今後の納税手続きを円滑に進める上で鍵となります。

掛け持ちによる扶養控除等申告書の提出方法と注意点

主たる勤務先の選定基準と申告書の提出

複数の勤務先から給与を得ている場合、扶養控除等申告書を提出すべき「主たる勤務先」をどのように選定すればよいでしょうか。
一般的には、「最も給与が多い方の勤務先」に提出するのが適切な選択とされています。
この勤務先で年末調整を受けることになり、各種控除が適用された上で、年間の所得税額が確定されます。

主たる勤務先で申告書を提出することで、毎月の給与から源泉徴収される税額が適正に調整され、手取り額が多くなります。
一方、申告書を提出しなかった他の勤務先(従たる勤務先)では、前述の通り「乙欄」が適用され、高い税率で源泉徴収されることになります。
これは、その勤務先があなたの扶養状況を把握できないため、控除を適用できないことによるものです。

どちらの勤務先を主たる給与の支払者とするかは、ご自身の収入状況をよく確認し、判断することが重要です。
一度提出した後に、状況の変化により主たる勤務先が変わる場合は、速やかに前の勤務先から申告書を取り下げ、新しい主たる勤務先に提出し直す必要があります。

複数収入がある場合の年末調整の仕組み

年末調整は、1人につき1つの企業でしか行えない手続きです。
複数の勤務先から給与を得ている場合、原則として主たる勤務先でのみ年末調整が行われます。
主たる勤務先で年末調整を受けた後、他の勤務先からの給与については、ご自身で確定申告を行うことで、最終的な所得税額を確定させる必要があります。

もし、複数の勤務先で年末調整を受けてしまうと、控除が重複して適用され、本来納めるべき税額よりも少なくなる可能性があります。
これは税法上のルール違反であり、後に税務署から指摘され、追徴課税の対象となるリスクがあります。
そのため、年末調整は必ず1箇所に限定し、残りの収入は確定申告で調整するという認識を持つことが重要です。

すべての勤務先からの源泉徴収票は、確定申告の際に必須となりますので、大切に保管しておきましょう。
これらが揃っていないと、正確な確定申告ができず、税金の過不足が生じる原因となります。
年末調整の時期が近づいたら、早めに各勤務先に源泉徴収票の発行を依頼すると良いでしょう。

所得税の壁と社会保険の壁に注意

掛け持ちで働く方が特に注意すべきは、「所得税の壁」と「社会保険の壁」です。
2025年(令和7年)の税制改正では、給与収入が160万円までであれば所得税がかからないという「160万円の壁」が適用されます。
これは、給与所得控除(65万円)と基礎控除(95万円)を合わせた非課税枠が160万円になるためです。

一方で、社会保険には異なる「壁」が存在します。
例えば、配偶者の扶養に入っている場合に健康保険や厚生年金などの社会保険の扶養から外れる「130万円の壁」や、配偶者特別控除の対象から外れる「201万円の壁」などがあります。
これらの壁は、収入の合計額によって適用されるため、複数の勤務先からの収入がある場合は、合算した金額で判断されます。

所得税と社会保険では「扶養」の考え方や「壁」となる金額が異なるため、自身の収入総額がどの壁に抵触するかを正確に把握しておくことが重要です。
特に、扶養に入って働いている方は、これらの壁を意識して収入を管理しないと、思わぬ社会保険料の負担増や、税制上の優遇措置が受けられなくなる可能性があります。
最新の情報を常に確認し、計画的に働くことが求められます。

扶養控除等申告書と確定申告:提出すべき人は?

確定申告が必要となる具体的なケース

原則として、年末調整を受けた給与所得者は確定申告が不要とされていますが、掛け持ちなどで複数の収入がある場合や、特定の状況下では確定申告が必要になります。
具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 主たる勤務先で年末調整を受けた後、年末調整を受けていない他の勤務先の給与があり、その差額調整が行われていない場合。
    つまり、乙欄適用で源泉徴収された給与がある場合です。
  • 副業などで給与所得以外の収入(原稿料、講演料、不動産所得など)が年間20万円を超える場合。
  • 給与収入の合計額が年間160万円(2024年までは103万円)を超え、かつどの勤務先でも年末調整を受けていない場合。
    これは、例えば年度途中で複数の会社を転職し、年末時点でどこにも在籍していないケースなどが該当します。
  • 年末時点でどの会社にも在籍していない場合、自身で確定申告を行うことで、正しい納税額を申告する必要があります。

これらのケースに該当する方は、確定申告を行うことで、納め過ぎた税金が還付されたり、不足していた税金を納めたりして、最終的な納税額を確定させることができます。
忘れずに手続きを行いましょう。

確定申告が不要となる例外と住民税の扱い

一方で、所得税の確定申告が不要となるケースも存在します。
例えば、以下のような状況であれば、確定申告の必要はありません。

  • 副業の給与収入や給与以外の所得が年間20万円以下の場合。
    ただし、これは所得税に関するルールであり、後述する住民税には別途注意が必要です。
  • 給与収入の合計額が年間160万円(2024年までは103万円)以下で、かつどの勤務先でも源泉徴収されていない場合。
    ただし、これはごく稀なケースです。

しかし、所得税の確定申告が不要であっても、住民税については別途申告が必要になることがあります
所得税と住民税は異なる税金であり、申告義務も異なります。
例えば、副業の所得が20万円以下で所得税の確定申告が不要な場合でも、その所得は住民税の課税対象となりますので、お住まいの市区町村へ住民税の申告を行う必要があります。

住民税の申告を怠ると、市町村があなたの正確な所得を把握できず、課税漏れや不正確な課税につながる可能性があります。
不明な点があれば、必ずお住まいの市区町村の税務担当窓口に確認するようにしましょう。

源泉徴収票の重要性と保管のすすめ

年末調整や確定申告を行う上で、すべての勤務先から交付される「源泉徴収票」は非常に重要な書類です。
源泉徴収票には、その年に支払われた給与の総額、源泉徴収された所得税額、社会保険料の金額、各種控除額など、確定申告に必要な情報がすべて記載されています。
掛け持ちをしている方は、主たる勤務先だけでなく、すべての勤務先から源泉徴収票を受け取る必要があります。

これらの源泉徴収票は、確定申告の際に添付書類として提出が求められるため、紛失しないように大切に保管しておくことが不可欠です。
万が一、紛失してしまった場合は、勤務先に再発行を依頼する必要がありますが、手続きに時間がかかることもあります。
年末調整や確定申告の準備は、源泉徴収票が手元に届き次第、早めに始めることをお勧めします。

源泉徴収票は、ご自身の年間所得と納税状況を証明する唯一の公的書類でもあります。
住宅ローンや各種ローンの申請、保育料の算定など、税金以外の場面でも提出を求められることがあるため、常に最新のものを把握し、適切に管理するように心がけましょう。