自動車・製造業の副業解禁!大手企業が働き方を変える理由

近年、日本企業において「働き方改革」の波が押し寄せています。その中で特に注目されているのが、大手企業における副業・兼業の解禁の動きです。

これまで副業には消極的だった自動車・製造業においても、この流れは例外ではありません。果たして、なぜ今、多くの企業が副業解禁へと舵を切っているのでしょうか?

この記事では、大手製造業が副業を解禁する背景から、各社の具体的な動き、副業がもたらすメリット・デメリット、そして副業を始める際の注意点まで、詳しく解説していきます。

なぜ今、大手製造業で副業が解禁されるのか?

政府主導の「働き方改革」の波

副業解禁の大きな推進力となっているのが、政府主導の「働き方改革」です。

2018年には、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、同時にこれまで多くの企業で副業を禁止する根拠となっていた「モデル就業規則」から、副業禁止規定が削除されました。これは、労働者が健康に配慮しつつ、原則として副業・兼業を認める方向で、政府がその普及促進を図るという強いメッセージでした。

少子高齢化による労働力不足が深刻化し、育児や介護との両立といった多様なライフスタイルを持つ労働者のニーズが増加する中で、柔軟な働き方を推進することは、日本の社会全体の持続可能性を高める上でも不可欠とされています。政府の方針を受け、企業側も時代の変化に対応すべく、副業解禁に踏み切らざるを得ない状況にあります。

優秀な人材確保と企業の競争力強化

企業が副業解禁に踏み切るもう一つの重要な理由は、優秀な人材の確保と定着です。

現代において、優秀な人材は社外からの仕事の依頼を受けたり、自社だけでは実現できないようなビジネスチャンスを掴んだりする機会が多くあります。もし企業が副業を禁止すれば、そうした人材は自由を求めて、より柔軟な働き方を認める他社へと流出してしまうリスクが高まります。

副業を解禁することで、社員は社外での経験を通じて新たなスキルや知識、人脈を獲得し、それが結果的に本業にも良い影響を与えることが期待されます。これは社員個人の成長だけでなく、企業全体のイノベーション創出や、ひいては競争力強化へと繋がる戦略的な一手とも考えられているのです。

社員のスキルアップとイノベーション創出

副業は、社員個人の成長を促し、それが企業全体の活性化に貢献する大きな可能性を秘めています。

社員は副業を通じて、本業では得られないような新たなスキルや専門知識を習得し、これまで接点のなかった人々と交流することで人脈を広げることができます。これらの経験は、社員自身の自己成長を促進し、仕事へのモチベーション向上に直結します。

さらに、副業で培われた多様な視点や知見は、本業における業務改善や新しいアイデアの創出、さらには新規事業開発の起点となる可能性も秘めています。社員が社外で得た経験を積極的に本業に還元できる環境を整えることは、企業にとってイノベーションを加速させる貴重な機会となるでしょう。

トヨタ、日産、ホンダ…各社の副業解禁の現状

先駆者・日産自動車の動き

日本の自動車業界でいち早く副業解禁に踏み切ったのが日産自動車です。

同社は2009年3月、自動車業界で初めて副業を解禁しました。この時期はリーマンショック後の景気悪化が深刻で、賃金カットが実施されるなど厳しい状況にありました。そのため、当時の副業解禁は、社員の賃金カットの補填という側面も大きく、経済的な支援策としての意味合いが強いものでした。

しかし、この決断は後の働き方改革の波を先取りする形となり、他の大手企業に影響を与える先例となりました。現在では、単なる収入補填だけでなく、社員のスキルアップや多様な働き方を推進する意味合いも強まっていると考えられます。

新たな挑戦を促す日野自動車

近年、積極的に副業制度を導入しているのが日野自動車です。

同社は2021年4月、勤続5年以上の社員を対象とした副業許可制度を新設しました。この制度の特徴は、社員が「起業」や「フリーランス」として事業主の立場で業務を受託することを認めている点にあります。これは、単にアルバイトのような副業を許可するだけでなく、社員が主体的に新しいビジネスに挑戦し、自身のキャリアをデザインすることを後押しするものです。

さらに日野自動車は、外部からのDX(デジタルトランスフォーメーション)領域の副業人材も積極的に受け入れています。これは、社内に不足するデジタル技術や知見を取り込み、ビジネスモデルの変革を加速させようという意図があり、副業が企業競争力強化のための重要な戦略ツールとなっていることを示しています。

大手企業の検討状況と今後の展望

日産自動車や日野自動車の事例は、大手自動車・製造業における副業解禁の動きが広がりつつあることを明確に示しています。

たとえばダイハツも、2020年12月には社員の副業解禁を検討していると報じられており、働き方改革を推進する姿勢を見せています。現時点では具体的な動きが報じられていない企業であっても、社会全体の流れや人材獲得競争の激化を鑑みると、水面下で同様の検討を進めているケースは少なくないでしょう。

今後、トヨタやホンダといった他の大手企業においても、それぞれの企業文化や事業戦略に合わせた形で、副業・兼業制度が導入される可能性は十分に考えられます。これにより、日本の自動車・製造業の働き方は、さらに多様で柔軟なものへと変化していくことが期待されます。

副業解禁がもたらすメリット・デメリット

社員側から見たメリット

副業解禁は、社員にとって多くのメリットをもたらします。最も直接的なメリットは、収入の増加です。これにより、生活の安定や貯蓄、自己投資の幅が広がります。

また、副業を通じて本業とは異なるスキルや専門知識、人脈を獲得できるため、スキルアップや自己成長の機会が格段に増えます。これは自身のキャリアパスを広げ、将来の選択肢を増やすことにも繋がります。新たな挑戦によって得られる達成感は、本業へのモチベーション向上にも良い影響を与えるでしょう。

実際に、ある調査では副業をしている人の本業の業種として「製造業」が男女ともに最多であることが示されており、製造業従事者の副業への関心の高さが伺えます。別の調査では、副業者の割合を本業の業種別に見ると、製造業は45.0%と、比較的高い割合を示しています。

企業側から見たメリットとリスク

企業側にとっても副業解禁は大きなメリットがあります。先述の通り、優秀な人材の確保と定着、社員のスキルアップによる企業全体の活性化、イノベーションの創出などが挙げられます。社員が外部で得た知見や経験を本業に還元することで、企業の競争力強化にも繋がります。

一方で、企業側にはいくつかのリスクも存在します。最も懸念されるのは、情報漏洩や機密情報の持ち出しです。また、社員が副業に時間を割きすぎて本業に支障が出たり、過重労働によって健康を損なったりするリスクもあります。さらに、競業避止義務違反やコンプライアンス上の問題が発生する可能性も考慮しなければなりません。

これらのリスクを最小限に抑えるためには、企業側が明確なルールを定め、社員への適切なガイダンスと管理体制を構築することが不可欠です。

製造業特有の課題と注意点

製造業における副業解禁は、他の業種にはない特有の課題と注意点があります。特に注目すべきは、製造業における副業トラブル発生率の高さです。

ある調査によると、製造業における副業トラブル発生率は46.2%と、全業界平均(34%)よりも高い数値を示しています。特に副業届出者のトラブル発生率が高い傾向が見られることは、企業側がルールを定めていても、実際の運用で問題が生じやすいことを示唆しています。

製造業では、機密情報や知的財産が非常に重要です。設計図、製造プロセス、新技術に関する情報などが安易に流出することは、企業にとって致命的な損失となりかねません。また、特定の装置や場所を必要とする業務が多く、副業との時間調整や安全管理といった物理的な課題も発生しやすいでしょう。企業側は適切なルール整備とリスク管理を徹底し、労働者側は就業規則の確認と誠実な副業実施が強く求められます。

副業を始める前に知っておきたい注意点

就業規則の確認は必須

副業を始める上で、最も重要かつ最初に確認すべきなのが、勤務先の就業規則です。

副業解禁の流れが加速しているとはいえ、すべての企業が自由に副業を認めているわけではありません。企業によっては、副業許可制度を導入していても、勤続年数、業務内容、労働時間、競業避止の有無など、細かな条件や制限を設けている場合があります。また、事前に会社への届け出や承認が必須となるケースも多いです。

無許可で副業を行った場合、就業規則違反となり、最悪の場合、減給や停職、さらには解雇といった重い処分を受ける可能性もあります。必ず会社の規定を確認し、不明な点があれば人事担当部署に問い合わせて、誠実に手続きを踏むようにしましょう。

時間管理と健康維持の重要性

副業を始めるということは、本業以外の時間を使って新たな仕事をするということです。そのため、時間管理と健康維持には最大限の注意を払う必要があります。

副業に夢中になりすぎると、睡眠不足や疲労の蓄積により、本業のパフォーマンスが低下したり、自身の健康を損ねたりするリスクが高まります。労働基準法では、副業を含む労働時間の上限が定められているわけではありませんが、企業には従業員の健康配慮義務があります。そのため、本業の会社から副業での労働時間を報告するよう求められることもあります。

自身の体力や生活リズムを考慮し、無理のない範囲で副業に取り組むことが大切です。スケジュール管理を徹底し、十分な休息と睡眠を確保することで、本業と副業のバランスをうまく保ちましょう。

情報漏洩と秘密保持の意識

特に製造業において副業を行う場合、情報漏洩と秘密保持に関する意識は非常に重要です。

本業で培った専門知識や技術、顧客情報、社内データなどは、企業の重要な財産です。これらの情報が副業を通じて外部に漏洩したり、競合他社に利用されたりするような事態は、企業にとって計り知れない損害をもたらします。また、本業の競合となるような副業を行うことは、競業避止義務違反となり、法的な問題に発展する可能性もあります。

副業を始める際には、契約書の内容を十分に確認し、秘密保持契約(NDA)の有無やその内容を理解することが不可欠です。常に高い倫理観を持ち、本業で得た情報を不適切に利用しない、あるいは漏洩させないという強い意識を持って取り組むようにしましょう。

あなたのスキルを活かせる副業の見つけ方

本業の経験を活かす方法

製造業に従事している方は、その専門性と経験を副業に活かす大きなチャンスがあります。

例えば、設計エンジニアであればCADを使った図面作成代行や設計コンサルティング、生産管理の経験者であれば生産効率改善のアドバイス、品質管理の専門家であれば品質検査に関するサポートなど、多岐にわたる分野で需要があります。最近では、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の経験やスキルを持つ人材も非常に重宝されており、中小企業のデジタル化支援などが考えられます。

これらの専門知識は、フリーランスとして事業を受託する形で提供できます。日野自動車の事例のように、企業が社員の「事業主」としての副業を認める動きも出てきています。自身の強みを明確にし、それを必要としている企業や個人にアピールすることで、本業とは異なる環境で経験をさらに深めることができるでしょう。

新たなスキルを習得するチャンス

副業は、本業ではなかなか学ぶ機会がない新たなスキルを習得する絶好のチャンスでもあります。

例えば、製造現場の知識と合わせてプログラミングスキルを身につけ、IoTデバイスの開発やデータ分析の副業を行う。あるいは、製品開発の経験を活かして技術系の記事執筆やブログ運営、マーケティングに関する副業に挑戦することも可能です。外部からのDX領域の副業人材を受け入れる企業があるように、デジタル関連のスキルは今後ますます重要になります。

新たなスキルを学ぶことで、自身の市場価値を高めるだけでなく、その知識や経験が巡り巡って本業にも良い影響を与え、イノベーションのヒントとなる可能性も秘めています。未経験の分野でも、学びながら挑戦できる副業は数多く存在します。

副業プラットフォームの活用と選び方

副業を見つけるためのツールとして、副業プラットフォームの活用は非常に有効です。

クラウドワークスやランサーズといったクラウドソーシングサイトでは、多種多様なタスク型の仕事から専門性の高いプロジェクトまで、幅広い案件が日々募集されています。また、ココナラやスキルシェアサービスでは、自身のスキルをサービスとして販売することができます。

これらのプラットフォームを活用する際は、自身のスキルレベルや希望する働き方、報酬体系などを考慮して、最適なものを選ぶことが重要です。実績やポートフォリオを充実させることで、より信頼性の高いクライアントから仕事を得やすくなります。また、契約内容や報酬の支払い条件を事前にしっかり確認し、トラブルを未然に防ぐ意識を持つことも大切です。