公務員の副業は、かつては厳しく制限されるのが当たり前でした。しかし、近年、働き方の多様化や地域社会のニーズ、さらには公務員自身のキャリア形成を支援する観点から、その状況は大きく変わりつつあります。本記事では、公務員の副業解禁の歴史から最新動向、そして未来の展望までを深掘りし、副業を検討している公務員の皆さん、あるいはその動向に関心がある方々へ、役立つ情報をお届けします。

副業解禁の歴史:2018年の転換点

公務員の副業制限の背景と変遷

公務員が副業を制限されるのは、その職務の公共性と公正性を維持するためです。国家公務員法第103条、104条、地方公務員法第38条には、営利企業の役員兼業や自営兼業の原則禁止が明記されています。

これは、公務員が職務に専念し、公平な立場で職務を遂行すること、そして公務員としての信用を損なわないことが求められるためです。昔は「公務員たるもの、本業に専念すべし」という考えが強く、副業はほとんど認められない時代が長く続きました。

しかし、社会情勢の変化とともに、この厳格な制限にも見直しの声が上がっていきます。特に「職務への支障がない」「公務の信用を損なわない」「利害関係がない」といった許可基準が形骸化しているとの指摘もありました。

時代の変化と副業解禁の動き

2010年代後半から、「働き方改革」が社会全体で推進され、民間企業では副業解禁の流れが加速しました。この動きは、公務員の世界にも大きな影響を与えます。

2018年には、政府が「公務員の副業・兼業を推進する」という方針を打ち出しました。これは、単に収入を増やすためだけでなく、公務員が多様な経験を通じてスキルアップし、その知見を本業や地域社会に還元することを目的としています。

公務員の魅力を高め、優秀な人材を確保・定着させるための重要な施策としても位置づけられるようになりました。これにより、公務員の副業に対する国の姿勢は、大きく転換点を迎えたと言えるでしょう。

地方公務員から始まった緩和の動き

公務員の副業緩和は、特に地方公務員から先行して進められました。背景には、地域社会の担い手不足や地域活性化のニーズが高まっていることがあります。

地方公務員は、地域に根差した存在として、ボランティア活動やNPO運営、地域活性化イベントへの参加といった「地域貢献型副業」から許可が拡大していきました。

そして、2025年6月施行の総務省通知により、地方公務員は一定の条件下で営利活動を含む副業が許可されるようになりました。これにより、多くの自治体で副業許可基準の明確化や公開が進み、具体的な許可事例も増え始めています。

公務員の副業解禁はいつから?最新動向

法改正と国の具体的な方針

地方公務員の副業に関しては、2025年6月に総務省通知が施行され、その動きが本格化します。この通知は、これまでの「原則禁止、例外的に許可」という運用から、「職務への支障がないなど一定の要件を満たせば許可」という柔軟な運用への転換を促すものです。

これにより、各自治体は具体的な許可基準を策定・公開し、職員が安心して副業に取り組める環境整備を進めることになります。国家公務員についても、人事院が兼業制度の見直しを検討しており、公務の魅力向上や人材確保のための施策として、兼業の拡大が議論されています。

これは、社会全体の働き方改革の流れに公務員も対応し、より多様なキャリア形成を支援する国の明確な方針と言えるでしょう。

国家公務員と地方公務員の現状の違い

現在のところ、国家公務員と地方公務員では副業に関する状況に若干の違いが見られます。

  • 国家公務員: 国家公務員法第103条・104条に基づき、内閣総理大臣および所轄庁の長の許可が必要となります。営利企業の役員兼業や自営兼業は原則禁止ですが、人事院が兼業制度の見直しを検討しており、今後緩和される可能性があります。人事院のアンケートでは、兼業を希望する職員が32.9%に達している一方、実際に兼業経験があるのは6.2%に留まっています。
  • 地方公務員: 地方公務員法第38条に基づき、任命権者の許可が必要ですが、2025年6月施行の総務省通知により、より広範な営利活動を含む副業が許可されやすくなります。特に地域貢献活動や、本業と関係ない専門知識を活かす副業が推奨されています。

このように、地方公務員が先行して副業の門戸を広げている状況にあります。

許可されやすい副業、されにくい副業

公務員の副業が許可されるか否かは、以下の基準によって判断されます。具体的な許可事例を参考に、どのような副業が認められやすいのかを見ていきましょう。

許可されやすい副業の例:

  • 地域貢献活動: NPO法人での活動、自治会活動、地域活性化イベントの企画・運営など。
  • 専門知識・スキルを活かせる活動: 本業と関連しない分野でのセミナー講師、キャリアコンサルタント、執筆活動など。
  • 不動産賃貸・農業・太陽光発電: 一定の規模以下で、管理が外部委託されているなど、職務への支障が少ないと判断される場合。
  • 非営利団体での活動: 社会福祉法人、NPOなどでの無報酬または低報酬での活動。

これらの活動は、「職務への支障がない」「公務の信用を損なわない」「利害関係がない」といった基準を満たしやすく、特に「原則として週8時間以下、月30時間以下、平日3時間以下」といった時間制限も設けられている場合があります。

許可されにくい副業の例:

  • 営利企業の役員や経営者: 公務員の職務と競合する可能性や、過度な利害関係を生む恐れがあるため。
  • 公務員の信用を損なう可能性のある活動: 政治活動や宗教活動、その他公序良俗に反する活動など。
  • 職務と競合・利益相反する可能性のある活動: 本業で扱う許認可業務に関わる企業の顧問を務めるなど。

あくまで「許可制」であるため、事前に所属組織の人事担当者や上司に相談し、適切な手続きを踏むことが不可欠です。

2027年、公務員の副業はどう変わる?義務化の可能性

政府目標としての副業推進

政府は、人口減少に伴う労働力不足や地域経済の活性化、さらにはグローバル化する社会における競争力強化の観点から、公務員の副業を一層推進していく方針を打ち出しています。2027年という具体的な年限は、長期的な視野で公務員の働き方を抜本的に改革していくという政府の強い意思の表れと言えるでしょう。

これは、単に収入を補填する目的だけでなく、公務員が多様な経験を通じてスキルや知識を習得し、それを本業に還元することで、行政サービスの質の向上にもつなげたいという狙いがあります。

地域社会の担い手不足が深刻化する中で、公務員が地域活動に積極的に参加できる環境を整備することも、重要な政府目標の一つです。

「義務化」という言葉の真意と現実

「2027年に副業が義務化される」という直接的な発表はありませんが、この言葉の裏には、副業が「個人の選択肢」から「組織が積極的に推奨・奨励するもの」へと位置づけが変わる可能性が示唆されています。

公務員にとって副業が「やらざるを得ないもの」になるというよりは、「スキルアップや地域貢献のために、推奨される働き方の一つ」となる可能性が高いと考えられます。例えば、特定の部署や役職において、地域との連携プロジェクトへの参加や、専門知識を活かした外部活動が期待されるようになるかもしれません。

これは、公務員自身のキャリア形成を支援し、自律的な成長を促すための施策として捉えるべきでしょう。職務専念義務とのバランスを取りつつ、柔軟な働き方を後押しする方向性へと進むと考えられます。

公務員が得るメリットと課題

公務員の副業推進は、職員個人、そして公務組織全体に多大なメリットをもたらすと期待されています。しかし、同時に考慮すべき課題も存在します。

公務員が得るメリット:

  • 収入源の多様化: 経済的な安定やキャリアアップの選択肢が増えます。
  • スキルアップと自己成長: 本業では得られない新たなスキルや知見を習得し、自身の市場価値を高めることができます。
  • モチベーション向上: 多様な活動を通じて、仕事への意欲や満足度が向上します。
  • 地域貢献: 自身のスキルや時間を地域のために活用することで、社会貢献を実感できます。
  • キャリア形成の柔軟性: 将来のキャリアパスを広げ、多様な選択肢を持つことができます。

考慮すべき課題:

  • 職務専念義務の維持: 副業が本業に支障をきたさないよう、適切な時間管理が求められます。
  • 公正性・信用性の確保: 公務員としての信用を損なわないよう、副業の内容や行動に注意が必要です。
  • 情報管理・守秘義務: 本業で知り得た情報を副業で利用しないなど、厳格な情報管理が求められます。
  • 過重労働のリスク: 副業によって心身に過度な負担がかからないよう、健康管理も重要です。
  • 許可申請の手間: 依然として許可制であるため、申請手続きや事前の調整が必要となります。

これらのメリットを最大化し、課題を最小限に抑えるための制度設計と個人の意識が、今後の鍵となるでしょう。

副業解禁から5年、働き方の変化とは

多様なキャリアパスの選択肢

公務員の副業解禁からおよそ5年が経過し、働き方には着実な変化の兆しが見え始めています。最も顕著なのは、従来の画一的な公務員のキャリアパスに、多様な選択肢が加わったことです。

公務員は安定しているというイメージが強いですが、その一方で「専門性を極める場が少ない」「閉鎖的」といった声も聞かれました。副業を通じて、職員は自身の専門性や興味を追求し、本業とは異なる分野でのスキルアップや経験を積むことが可能になりました。

人事院のアンケートで32.9%の職員が兼業を希望しているというデータは、公務員が「本業以外の活動」に高い関心を持ち、自身のキャリアを主体的に形成したいという意識の変化を表しています。

地域社会との新たな関わり方

公務員の副業解禁は、地域社会にとっても大きな恩恵をもたらしています。これまでも地域活動に関心を持つ公務員はいましたが、副業として認められることで、より積極的に地域貢献できるようになりました。

例えば、NPO活動への参加や地域イベントの企画運営、専門知識を活かした地域課題解決への貢献などが挙げられます。これにより、公務員が持つ知識やスキルが地域に還元され、地域活性化の新たな担い手として期待されています。

公務員と住民、民間企業との接点も増加し、これまで以上に地域全体での連携が強化される機会が生まれています。

組織文化と人材マネジメントの変化

副業解禁は、公務組織の文化や人材マネジメントにも変化を促しています。副業を許容し、職員の多様な働き方を支援する組織は、職員のエンゲージメントや仕事への満足度が高い傾向にあることが指摘されています。

組織は、職員が副業で得た新たなスキルや知見を本業に活かせるよう、人事評価制度や研修制度を見直す動きも出てきています。例えば、副業での経験を評価項目に加える、副業で得たスキルを共有する場を設ける、といった取り組みです。

これは、公務員の魅力を高め、優秀な人材を惹きつけ、離職を防ぐための重要な要素となっています。副業は、組織と職員の双方にとってWin-Winの関係を築く可能性を秘めていると言えるでしょう。

副業を始める前に知っておきたいこと

所属組織のルールを必ず確認

副業を始める上で最も重要なのは、所属する組織の具体的なルールを正確に把握することです。国家公務員と地方公務員では適用される法律が異なり、さらに各省庁や各自治体によって、許可基準や手続きが詳細に定められています。

就業規則や服務規程、または人事担当者への直接の確認を通じて、自身の職務内容や希望する副業が認められる範囲内であるかを必ず確かめましょう。特に「営利目的の副業がどこまで認められるか」「兼業の時間制限」「報酬額の上限」などは、組織によって判断が分かれることが多い点です。

規則を無視して副業を行った場合、懲戒処分の対象となる可能性もあるため、必ず事前に確認し、疑問点があればクリアにしておくことが不可欠です。

許可申請の手続きと必要書類

公務員の副業は原則として許可制であるため、所定の手続きを経て承認を得る必要があります。許可申請には、通常、以下の情報や書類が必要となります。

  • 副業の内容: どのような活動を行うのか、具体的に説明します。
  • 兼業の時間: 週・月ごとの活動時間、本業の勤務時間との兼ね合い。
  • 報酬額: 得られる報酬の具体的な金額や算出方法。
  • 場所・期間: 副業を行う場所や、いつからいつまで行うのか。
  • 職務への影響: 副業が本業に支障をきたさないことをどのように担保するか。

これらの情報を詳細に記載した申請書を提出し、任命権者や上司の承認を得るプロセスが必要です。申請書の内容に不備があったり、許可基準を満たしていないと判断されたりすると、再提出や不許可となる場合もあります。

スムーズな手続きのためにも、事前に必要書類を確認し、内容を吟味することが大切です。

トラブルを避けるための注意点

副業は新たな可能性を広げますが、同時にトラブルを避けるための注意点も押さえておく必要があります。

  • 職務専念義務: 本業に支障が出ないよう、副業の時間は必ず勤務時間外に設定し、体調管理にも十分配慮しましょう。過度な副業は、本業のパフォーマンス低下や健康問題を引き起こす可能性があります。
  • 公務員としての信用維持: 副業の内容が、公務員としての信用や品位を損なうものであってはなりません。特に、情報漏洩や利害関係の衝突、本業で知り得た情報の不正利用などは厳禁です。
  • 税務申告: 副業で一定以上の所得があった場合、確定申告が必要になります。税金に関する知識を身につけ、適切に申告を行いましょう。
  • 人間関係: 副業によって同僚や上司との関係が悪化しないよう、事前にきちんと説明し、理解を得る努力も必要です。

これらの注意点を守り、賢く副業に取り組むことで、公務員としてのキャリアをさらに豊かにすることができるでしょう。