1. 賞与の回数、多すぎるとどうなる?メリット・デメリットを解説
    1. 賞与の回数、一般的なのは?
      1. 日本における賞与支給の現状
      2. 賞与の法的な位置づけと企業の裁量
      3. なぜ「年2回」が定着したのか?
    2. 賞与を2回に分ける場合のメリット・デメリット
      1. 従業員にとっての安心感と計画性
      2. 企業にとっての事務負担と評価サイクル
      3. 社会保険料における「賞与」の定義
    3. 賞与を3回以上に増やすとどうなる?社会保険料への影響は?
      1. 社会保険制度における「賞与」と「報酬」の分岐点
      2. 標準報酬月額への影響と給付額の変化
      3. 社会保険料負担の増加と年金への影響
    4. 賞与4回、6ヶ月以内の支給も? 頻度による注意点
      1. 年4回以上支給の法的な意味合い
      2. 事務処理の複雑化と労務担当者の負担
      3. 従業員のモチベーションへの影響と期待値管理
    5. 賞与の回数設定で後悔しないためのポイント
      1. 企業戦略と従業員ニーズのバランス
      2. シミュレーションと情報提供の重要性
      3. 就業規則と労働契約の変更手続き
  2. まとめ
  3. よくある質問
    1. Q: 賞与を2回に分けることにはどのようなメリットがありますか?
    2. Q: 賞与を3回以上に増やす場合、社会保険料はどうなりますか?
    3. Q: 賞与を4回支給するデメリットは何ですか?
    4. Q: 賞与が6ヶ月以内に複数回支給される場合、注意すべき点はありますか?
    5. Q: 賞与の回数設定で後悔しないためには、どのような点を考慮すべきですか?

賞与の回数、多すぎるとどうなる?メリット・デメリットを解説

企業で働く多くの方にとって、年に数回支給される賞与(ボーナス)は大きな楽しみの一つでしょう。
しかし、この賞与の「回数」が企業や従業員に与える影響は、実は想像以上に大きいことをご存知でしょうか?
特に社会保険制度との関連では、支給回数によって「賞与」の定義そのものが変わってしまうこともあります。

この記事では、賞与の回数設定が企業と従業員それぞれにどのようなメリット・デメリットをもたらすのか、詳しく解説していきます。
あなたの会社や、ご自身の働き方に合った賞与制度を考える上で、ぜひ参考にしてください。

賞与の回数、一般的なのは?

日本における賞与支給の現状

日本の企業における賞与の支給回数は、一般的に年に2回が最も多く、夏と冬に支給されるのが慣例となっています。
「夏のボーナス」「冬のボーナス」という言葉を耳にする機会も多いことからも、この慣習が深く根付いていることが分かります。
もちろん、企業によっては年1回や、業績に応じて年3回以上支給されるケースもありますが、これらは少数派と言えるでしょう。

参考情報によると、2024年のボーナスの年間平均支給額は約106.7万円で、これは月収の約2.6ヶ月分に相当するとされています。
このデータからも、賞与が従業員の生活設計において重要な位置を占めていることがうかがえます。

賞与の法的な位置づけと企業の裁量

そもそも賞与とは、国税庁の定義では「定期の給与とは別に支払われる給与等で、賞与、ボーナス、夏季手当、年末手当、期末手当等の名目で支給されるものその他これらに類するもの」とされています。
これは法律で支給が義務付けられているものではなく、その支給の有無、時期、回数、計算方法などは企業によって様々です。
通常、これらは企業の就業規則や労働契約によって明確に定められています。

企業は、経営状況や人材戦略に応じて、賞与制度を柔軟に設計できる自由度がある一方で、従業員への影響も考慮した慎重な判断が求められます。
労働契約の内容変更には従業員の同意が必要となる場合もあるため、制度変更の際には十分な説明と合意形成が不可欠です。

なぜ「年2回」が定着したのか?

賞与が年2回という形が定着した背景には、歴史的な経緯や企業の人事評価サイクルが関係していると考えられます。
日本では古くから、お盆や年末年始といった季節の節目にまとまった現金を支給する習慣がありました。
これが企業の賞与制度に取り入れられ、夏の帰省費用や冬の生活費に充てるという形で定着していったと推測されます。

また、多くの企業が半期に一度、つまり年に2回のペースで従業員の業績評価を行うため、その評価期間に合わせて賞与を支給するのが効率的であるという実務的な理由もあります。
このサイクルは、従業員にとっても目標設定と評価、そして成果への還元が分かりやすいため、モチベーション維持にも繋がりやすいと言えるでしょう。

賞与を2回に分ける場合のメリット・デメリット

従業員にとっての安心感と計画性

年2回の賞与は、従業員にとって生活設計の大きな支えとなります。
夏と冬にまとまった金額が支給されることで、住宅ローンや教育費などの大きな支出の計画が立てやすくなるほか、旅行や趣味への投資など、日々の生活では難しい出費にも対応しやすくなります。
また、年に2回会社からの評価と還元を実感できることは、モチベーションの維持・向上にも効果的です。

ボーナスを楽しみに日々の業務に励む従業員も少なくなく、定期的な支給は心理的な安心感にも繋がります。
安定した生活基盤の形成をサポートする意味でも、年2回の賞与は多くの従業員に歓迎される制度と言えるでしょう。

企業にとっての事務負担と評価サイクル

企業側から見ると、年2回の賞与支給は事務手続きや人事評価のサイクルにおいて標準的な形であり、労務担当者の負担も比較的予測しやすいメリットがあります。
賞与計算や「賞与支払届」の提出は年2回で済み、他の業務と並行して効率的に進めることが可能です。
また、半期ごとの評価サイクルに合わせることで、従業員の目標達成度や貢献度を適切に評価し、賞与額に反映させやすくなります。

これにより、評価の客観性や公平性を保ちやすく、従業員が納得感を持って賞与を受け取れる環境を作りやすいと言えます。
ただし、業績が思わしくない場合など、期待通りの賞与が支給できない場合は、従業員の士気低下に繋がる可能性もあるため、透明性のある説明が重要です。

社会保険料における「賞与」の定義

社会保険制度において、賞与の扱いは支給回数によって大きく異なります。
**年3回以下の支給**であれば、名称にかかわらず「労働の対償として支給されるもの」は「賞与」とみなされます。
この場合、賞与からは健康保険、厚生年金保険、雇用保険料が控除されますが、これらの保険料は毎月の給与とは別に計算され、「賞与支払届」を提出する必要があります。

賞与にかかる社会保険料は、給与にかかる保険料とは計算方法が異なり、保険料率は同じものの、上限額が設定されている点も特徴です。
年2回支給の場合、この「賞与」としての扱いになるため、企業は定時決定や随時改定とは別の手続きで賞与分の社会保険料を納めることになります。

賞与を3回以上に増やすとどうなる?社会保険料への影響は?

社会保険制度における「賞与」と「報酬」の分岐点

賞与の支給回数を年3回から4回以上に増やした場合、社会保険制度における扱いは大きく変わります。
日本の社会保険制度では、名称にかかわらず「労働の対償として支給されるもの」のうち、**年3回以下の支給**を「賞与」と定義しています。
一方、**年4回以上の支給**となる場合は、原則として「報酬」として扱われることになります。

この「賞与」と「報酬」の定義の違いが、社会保険料の計算方法や従業員が受け取る給付額に影響を及ぼす重要なポイントとなります。
単に回数を増やすという決定が、予想以上の事務手続きやコスト増に繋がる可能性があるため、制度変更を検討する際は注意が必要です。

標準報酬月額への影響と給付額の変化

年4回以上の支給となった賞与(報酬)は、毎月の給与と合算されて「標準報酬月額」の算定基礎となります。
標準報酬月額とは、社会保険料の計算基準となるもので、これが増加すると、健康保険の傷病手当金や出産手当金、厚生年金の年金額などの給付額が増加する可能性があります。
参考情報でも、月給30万円の女性社員が出産手当金を受給する場合、年4回以上賞与を支給されることで、支給額に差が出ることが試算されている通りです。

具体的には、通常の月給が低く設定されていても、年4回以上の賞与が報酬として加算されることで、標準報酬月額が上がり、結果として将来の年金受給額が増えたり、病気や出産時の手当金が増額される可能性が出てきます。
従業員にとっては、万が一の際のセーフティネットが手厚くなるというメリットになり得ます。

社会保険料負担の増加と年金への影響

しかし、標準報酬月額が増加するということは、それに伴って従業員と企業双方の社会保険料負担も増加する可能性を意味します。
特に、給与が一定以下の従業員の場合、保険料負担が増加する傾向があります。
月々の手取り額が減ることに直結するため、従業員のモチベーションに影響を与える可能性も考慮しなければなりません。

また、標準報酬月額が厚生年金保険の上限(月額150万円)を超えている場合、賞与を含めて計算されても、上限を超える部分は将来の年金額に反映されません。
つまり、高所得者にとっては、社会保険料の負担が増えるだけで、将来の年金メリットが増えないというデメリットが生じる場合があります。
企業は、従業員への説明責任として、これらの影響について丁寧に伝える必要があります。

賞与4回、6ヶ月以内の支給も? 頻度による注意点

年4回以上支給の法的な意味合い

前述の通り、社会保険制度において年4回以上の支給は「報酬」として扱われることになります。
この定義の変更は、単なる名称の違いだけでなく、企業が社会保険料を計算・納付する上での手続きにも影響を与えます。
「賞与支払届」の提出が原則不要となる一方で、毎月の給与計算や、定時決定(通常7月)および随時改定(月変)において、これらの賞与を含めた賃金総額を反映させる必要が出てきます。

これは、社会保険のルールに基づいた賃金総額を正確に把握し、適切に標準報酬月額を算定するという、より複雑な事務処理を意味します。
短期間での高頻度支給は、従業員の手取り額の変動を招きやすく、生活設計に影響を与える可能性も考慮しなければなりません。

事務処理の複雑化と労務担当者の負担

賞与が「報酬」として扱われることで、「賞与支払届」の提出は不要になります。
しかし、その代わりに、定時決定や随時改定(月変)の際に、賞与額を反映させた賃金で手続きを行う必要があります。
これは、毎月の給与計算に加え、年に複数回発生する報酬の総額を正確に集計し、標準報酬月額に反映させるという、非常に専門的で複雑な作業が伴うことを意味します。

労務担当者は、単に賞与の回数が増えるだけでなく、社会保険制度上の取り扱いの変更に伴う細かなルールを理解し、正確に処理するスキルが求められるようになります。
これにより、労務担当者の負担が増大し、人件費やシステム投資の増加に繋がる可能性も考慮すべき点です。

従業員のモチベーションへの影響と期待値管理

賞与の支給回数が増えることで、従業員はより頻繁に会社からの評価や還元を感じられるため、モチベーションの維持・向上に繋がるというメリットもあります。
しかし、その一方で、注意すべき点も存在します。
もし支給回数が増えても、個々の支給額が減る、あるいは年間の賞与総額が変わらない(あるいは減る)ようであれば、従業員のモチベーションは逆に低下してしまう可能性があります。

特に、業績連動型賞与の場合、回数を増やした結果、一回あたりの支給額が少なくなり「がっかり感」を抱かせてしまうこともあり得ます。
企業は、制度変更の際には、なぜ回数を増やすのか、従業員にとってどのようなメリットがあるのか、そして年間の支給総額がどうなるのかを、明確かつ丁寧に説明し、適切な期待値管理を行うことが不可欠です。

賞与の回数設定で後悔しないためのポイント

企業戦略と従業員ニーズのバランス

賞与の回数設定は、単なる給与制度の一部ではなく、企業の経営戦略と従業員満足度を両立させるための重要な要素です。
企業としては、安定した経営基盤を維持しつつ、優秀な人材の獲得・定着を図るために、どのような賞与制度が最適かを見極める必要があります。
一方で従業員は、安定した収入とモチベーション向上を期待しており、そのニーズに応える制度設計が求められます。

例えば、若手社員が多い企業では、生活設計の安定を重視して高頻度支給を検討するかもしれません。
しかし、その前に社会保険料増加による手取りの減少といったデメリットも考慮し、双方にとってメリットのあるバランス点を見つけることが不可欠です。

シミュレーションと情報提供の重要性

賞与の支給回数を変更する際は、事前に詳細なシミュレーションを行うことが極めて重要です。
従業員一人ひとりの給与体系や扶養状況に応じて、社会保険料の増減、それに伴う手取り額の変化、さらには将来の年金額や各種手当金への影響を具体的に試算すべきです。
例えば、月給30万円の社員が年2回から年4回支給に変わった場合、手取りが月にいくら変動し、将来の給付額がどう変わるのかを明確に示す必要があります。

そして、これらの試算結果を基に、変更内容とメリット・デメリットを従業員に対して誠実に、そして分かりやすく情報提供することが、制度導入の成功の鍵を握ります。
特にデメリットについては、隠さずに開示し、従業員からの質問や懸念に丁寧に対応する姿勢が求められます。

就業規則と労働契約の変更手続き

賞与の支給回数や計算方法といった賞与制度の変更は、多くの場合、就業規則や労働契約の変更を伴います。
就業規則の変更には、労働基準監督署への届出が必要な場合があり、また、従業員にとって不利益となる変更の場合には、個別の同意を得る必要が生じることもあります。
これは、労働者の権利保護の観点から非常に重要な手続きです。

制度変更を検討する際は、これらの法的な手続きを適切に行うため、社会保険労務士などの専門家と連携を取りながら進めることを強くお勧めします。
また、従業員への周知徹底も怠らず、変更の趣旨、適用時期、影響などについて、十分な説明の機会を設けることで、従業員の理解と納得を得ることが、円滑な制度移行に繋がるでしょう。