「20年勤め上げた会社を辞める時、一体いくらの退職金がもらえるのだろう?」

そう考えたことはありませんか?長年の勤労を労う退職金は、老後生活を支える大切な資金源の一つです。しかし、近年、退職金制度は多様化し、その平均額も減少傾向にあります。特に「老後2000万円問題」が取り沙汰される中、自分の退職金がいくらになるのか、そしてそれが老後資金として十分なのか、不安を感じる方も少なくないでしょう。

この記事では、2024年現在の20年勤務における退職金相場から、退職金制度の推移、さらには2000万円の壁が現実的かどうかまで、詳しく解説します。あなたの未来設計に役立つ情報が満載ですので、ぜひ最後までご覧ください。

20年勤務で退職金はいくら?気になる相場を解説

20年という節目まで一つの会社で働き続けることは、決して簡単なことではありません。その長年の貢献に対して支払われる退職金は、今後の人生を考える上で非常に重要な要素となります。しかし、その金額は、勤めている企業の規模や学歴、そして退職の理由によって大きく変動するのが実情です。

大企業と中小企業での相場の違い

退職金相場を語る上で、まず注目すべきは企業の規模です。一般的に、大企業の方が中小企業よりも手厚い退職金制度を持っている傾向にあります。具体的なデータを見てみましょう。

大企業の場合:

  • 大学卒で20年勤務した場合の退職金は、会社都合退職で約727万円、自己都合退職で約387万円というデータがあります。
  • また、別の調査では、大卒で同一企業に定年退職まで勤務した場合の平均退職金額は、驚くことに約2,139万6,000円とされています。これは、20年勤務とは異なりますが、長く勤めるほど高額になる傾向を示しています。

中小企業の場合:

  • 東京都産業労働局の調査によると、大学卒で20年勤務した場合のモデル退職金は、自己都合退職で約556万5,000円、会社都合退職で約822万3,000円となっています。
  • 定年退職まで勤務した場合(大学卒)のモデル退職金は約1,149万5,000円とされており、大企業と比べると、定年退職時でも約1,000万円近くの差が見られます。

これらの数字からもわかるように、20年勤務であっても、大企業と中小企業の間には数百万円単位の差が生じることが少なくありません。自分の勤める企業がどちらの規模に該当するかを把握し、これらの数字を一つの目安として考えると良いでしょう。

退職理由(自己都合・会社都合)による差

退職金は、退職の理由によっても大きく金額が変わることがあります。大きく分けて「自己都合退職」と「会社都合退職」の2種類があり、一般的には会社都合退職の方が支給額が高くなる傾向にあります。

  • 自己都合退職: 従業員自身の意思で会社を辞めるケースです。転職や結婚、育児、介護などがこれに該当します。この場合、企業側は従業員の慰留に努める必要がなく、退職金の算定においても一定の減額が適用されることが多く見られます。特に勤続年数が短い段階での自己都合退職は、退職金が大幅に減額されたり、全く支給されなかったりするケースもあります。
  • 会社都合退職: 企業の都合で従業員が退職するケースです。事業所の閉鎖、リストラ、倒産などがこれに該当します。企業側には従業員の生活を守る責任があるため、自己都合退職よりも手厚い退職金が支払われるのが一般的です。これは、従業員が予期せぬ形で職を失うことへの補償という側面が強いためです。

上記のデータでも、大企業・中小企業ともに会社都合退職の方が自己都合退職よりも高い金額が提示されています。例えば、大企業の大卒20年勤務の場合、会社都合で約727万円、自己都合で約387万円と、その差は約340万円にもなります。これは、退職金の算定基準が、退職理由によって大きく異なることを明確に示しています。

学歴や役職、企業規模が与える影響

退職金の金額は、前述の企業規模や退職理由だけでなく、個人の学歴や企業内での役職、さらには業界の特性によっても左右されます。これらの要素が複雑に絡み合い、最終的な支給額を決定します。

  • 学歴: 多くの企業で、退職金の算定基礎となる基本給や勤続給は、学歴(高卒、短大卒、大卒、大学院卒など)によって設定が異なります。一般的に、学歴が高いほど基本給が高く設定される傾向にあるため、結果として退職金も高くなる傾向があります。参考情報でも「大学卒」のモデル退職金が提示されていることから、学歴が重要な要素であることがうかがえます。
  • 役職: 企業内で昇進し、部長や役員といった高い役職に就いていた場合、退職金は大幅に上積みされることが一般的です。これは、役職手当や役職に応じた退職金規程が別途設けられているためです。責任の重さや貢献度に応じて、退職金も優遇される仕組みと言えるでしょう。
  • 業界・業種: 退職金制度の有無や支給水準は、業界や業種によっても差があります。例えば、歴史のある製造業や金融業などは手厚い退職金制度を持つ企業が多い一方、比較的新しいIT業界などでは、退職金制度そのものが簡素であったり、確定拠出年金(DC)が主流であったりするケースも見られます。

これらの要素は単独で作用するのではなく、複数組み合わさって退職金に影響を与えます。自身の現在の状況と照らし合わせ、どの要素が自分の退職金に影響を与えるか考えてみるのも良いでしょう。

退職金制度の推移:企業規模や業界による違い

日本の企業における退職金制度は、経済状況の変化や社会情勢、そして従業員の働き方の多様化に合わせて、大きな変遷を遂げてきました。かつて主流だった「退職一時金制度」に加え、近年では従業員自身が運用に関わる「企業型確定拠出年金(DC)」の導入が進むなど、その種類も多様化しています。

退職金平均額の減少傾向と背景

近年、退職金の平均額は減少の一途をたどっています。ピーク時であった1997年には、平均退職給付額が2,871万円でしたが、2018年には1,788万円まで減少。わずか20年で1,000万円以上も減少しているという事実は、多くの人にとって衝撃的かもしれません。

この減少傾向の背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。

  • 経済状況の変化: バブル経済崩壊後の長期的な景気低迷やデフレ経済の影響により、企業は人件費を含む固定費の抑制を迫られました。その結果、退職金制度の見直しや支給額の圧縮が進んだと考えられます。
  • 終身雇用制度の変化: かつて一般的だった終身雇用制度が揺らぎ、企業の合併・買収(M&A)や事業再編が活発化しました。これにより、従業員の転職も増加し、退職金を「功労報償」として積み立てる考え方自体が変化しつつあります。
  • 退職金制度の多様化: 後述するように、企業は退職一時金だけでなく、企業年金や確定拠出年金といった多様な制度を導入するようになりました。特に確定拠出年金は、運用成果が個人の責任となるため、企業側が保証する金額は減少し、結果として「平均退付金」の数値に影響を与えています。

これらの要因が複合的に作用し、現在の退職金減少傾向を作り出していると言えるでしょう。退職金だけに頼る老後資金計画は、より一層リスクを伴う時代になっています。

退職金制度の多様化:一時金から年金、DCへ

かつては「退職一時金」が退職金制度の主流でしたが、時代とともにその内容は大きく変化し、現在では複数の制度が併用されたり、選択できるようになったりしています。主な退職金制度の種類は以下の通りです。

  1. 退職一時金制度: 最も伝統的な制度で、退職時に企業から一時金としてまとめて支払われる方式です。企業の業績や勤続年数、役職などに応じて支給額が計算されます。
  2. 確定給付企業年金(DB: Defined Benefit Plan): 企業があらかじめ従業員に約束した給付額を、退職後、年金として支給する制度です。企業が運用リスクを負うため、従業員は安定した年金を受け取ることができますが、景気変動によっては企業の負担が大きくなることもあります。
  3. 企業型確定拠出年金(DC: Defined Contribution Plan): 企業が掛金を積み立て、従業員自身がその掛金を運用し、その成果に基づいて給付額が決定される制度です。運用次第で退職金が増える可能性がある一方、元本割れのリスクも従業員が負うことになります。近年、導入する企業が急増しています。
  4. 退職金共済: 主に中小企業向けの制度で、中小企業退職金共済制度(中退共)などが代表的です。企業が掛金を支払い、従業員は退職時に共済から直接退職金を受け取ります。企業の経営状況に左右されにくいというメリットがあります。

特に確定拠出年金は、個人の資産形成意識を高める一方で、運用責任が従業員自身に課されるため、金融リテラシーの向上が求められます。これらの制度を理解し、自身の退職金がどのような形で支給されるのかを把握することが重要です。

企業規模や業界による退職金制度の違い

退職金制度の種類やその内容は、企業の規模や属する業界によっても傾向が異なります。これは、それぞれの企業が置かれている経営環境や人材戦略が影響しているためです。

  • 大企業の場合: 多くの大企業では、退職一時金制度に加えて、確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(DC)を導入しているケースが一般的です。複数の制度を組み合わせることで、従業員は退職後の資金計画において選択肢を持つことができます。また、手厚い福利厚生の一環として、退職金制度も充実している傾向にあります。
  • 中小企業の場合: 中小企業では、退職一時金制度のみを導入している企業や、企業型確定拠出年金(DC)、あるいは中小企業退職金共済制度(中退共)を活用している企業が多く見られます。特に中退共は、国の支援を受けながら退職金制度を確立できるため、中小企業にとって非常に有効な選択肢となっています。制度の運用コストやリスクを抑えつつ、従業員への退職金支給を可能にします。
  • 業界による違い: 業界の新旧や成長フェーズによっても傾向があります。例えば、歴史が長く安定した業界(製造業、金融業など)では、DB型や一時金が中心である一方、ITやベンチャー企業など比較的新しい業界では、従業員の流動性を考慮してDC型を導入したり、あるいは退職金制度自体が簡素な場合もあります。

ご自身の会社がどのような退職金制度を導入しているか、就業規則や退職金規程で確認することは、将来のライフプランを立てる上で不可欠です。

退職金中央値はいくら?2000万円は現実的?

老後資金として「2000万円が必要」という話は、もはや広く知られるようになりました。しかし、この2000万円という数字と、実際の退職金がどう結びつくのか、そして退職金だけで本当に2000万円を達成できるのかは、多くの人の疑問点でしょう。ここでは、退職金の平均と中央値の違い、「老後2000万円問題」の核心、そしてその目標達成の現実性について掘り下げていきます。

退職金「平均」と「中央値」の違い

退職金の金額を考える際、「平均」と「中央値」という二つの指標があります。これらは混同されがちですが、示す実態は大きく異なります。

  • 平均値: 全てのデータを合計し、データ数で割った値です。退職金の平均額は、一部の高額な退職金を受け取った人のデータに引っ張られる傾向があります。例えば、経営層や長年勤めた一部の従業員が非常に高額な退職金を受け取ることで、全体の平均値が押し上げられることがあります。このため、平均値だけを見ると「自分もこれくらいもらえるだろう」と過度に期待してしまう可能性があります。
  • 中央値: データを小さい順に並べた時に、ちょうど真ん中に位置する値です。中央値は、極端に高い(または低い)データの影響を受けにくいため、より多くの人が実際に受け取っている金額の実態に近いと考えられます。一般的に、退職金の場合、平均値よりも中央値の方が低い傾向にあります。これは、高額な退職金を受け取る人が一部に限られるためです。

残念ながら、退職金の中央値に関する全国的な詳細な公開データは限られていますが、もし公開されていれば、平均値だけでなく中央値も確認することで、より現実的な自身の退職金見込み額を把握することができます。自身の会社の退職金規程や先輩社員の情報を参考にしつつ、平均と中央値の差を意識することが重要です。

「老後2000万円問題」が示す現実

「老後2000万円問題」とは、2019年に金融庁の審議会が発表した報告書によって注目された問題です。これは、公的年金だけでは不足する老後資金として、夫婦2人で約2000万円が必要になる可能性を指摘したものです。

この問題の背景には、主に以下の二つの要因があります。

  • 退職金の減少傾向: 前述の通り、退職金の平均額はピーク時に比べて大きく減少しています。これにより、退職金だけで老後資金を賄うことが難しくなってきています。
  • 長寿化による老後期間の延伸: 日本人の平均寿命は延び続け、多くの人が長期間にわたる老後生活を送るようになりました。それに伴い、生活費や医療費、介護費用など、老後にかかる総費用が増大しています。

公的年金と退職金だけでは、豊かな老後生活を送るのに十分な資金を確保できないかもしれない。この問題は、私たち一人ひとりが早期から自身の老後資金について考え、自助努力による資産形成の重要性を示唆しています。退職金を老後資金のすべてと考えるのではなく、あくまでその一部と捉え、計画的な貯蓄や投資を組み合わせることが不可欠です。

退職金だけで2000万円を目指すのは可能か?

「老後2000万円問題」を聞くと、自分の退職金だけでこの目標を達成できるのか、不安になる方も多いでしょう。結論から言うと、退職金だけで2000万円を達成することは、企業規模や勤続年数、退職理由によっては十分に可能です。しかし、これは全ての人に当てはまるわけではありません。

  • 定年退職の場合: 厚生労働省の調査では、勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者を対象とした退職金の平均相場は1,983万円とされています。この数字を見る限り、定年まで勤め上げれば、平均としては2000万円に近い退職金を受け取れる可能性があります。特に大企業で定年まで勤め上げた場合は、2000万円を超えるケースも少なくありません。
  • 中小企業の場合: 中小企業では、定年退職までのモデル退職金が約1,149万5,000円(大学卒)とされており、2000万円の壁を超えるのは困難なケースが多いです。
  • 自己都合退職の場合: 20年勤務であっても、自己都合退職の場合は退職金が大幅に減額されることが多いため、2000万円に到達するのは非常に難しいと言えるでしょう。

このように、退職金だけで2000万円という目標を達成できるかどうかは、個々人の状況に大きく左右されます。自身の会社の退職金規程をよく確認し、現実的な見込み額を把握することが重要です。不足する部分は、NISAやiDeCoといった制度を活用し、計画的に資産形成を進めることが賢明な選択となります。

中退共(中小企業退職金共済制度)とは?

「うちの会社には退職金制度がない」あるいは「退職金が少ないのでは」と不安に思っている中小企業の従業員の方もいるかもしれません。そんな中小企業で働く人々にとって、心強い味方となるのが「中小企業退職金共済制度」、通称「中退共(ちゅうたいきょ)」です。これは、中小企業の従業員の退職金を国がバックアップする、福利厚生制度の一つです。

中小企業のための退職金制度

中退共は、中小企業の従業員のために、国が設立した独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する退職金制度です。この制度は、中小企業が単独で退職金制度を設けることが難しい場合でも、従業員に安定した退職金を確保できるように支援することを目的としています。

仕組みとしては、企業が毎月一定の掛金を中退共機構に納付し、従業員が退職する際に、中退共機構から直接従業員に退職金が支払われます。これにより、企業の経営状況に左右されることなく、従業員は退職金を受け取れるという大きな安心感があります。

中退共のメリットは企業側にも従業員側にもあります。

  • 企業側のメリット:
    • 掛金の一部を国が助成してくれる(新規加入時や掛金増額時など)。
    • 掛金は全額損金または必要経費に算入できるため、税制上の優遇がある。
    • 従業員の福利厚生が充実し、優秀な人材の確保・定着に繋がる。
  • 従業員側のメリット:
    • 企業の倒産や経営悪化に関わらず、国からの退職金が保証される。
    • 転職しても、一定の要件を満たせば前の会社の加入期間を通算できる。
    • 掛金は会社が全額負担するため、従業員の負担はない。

このように、中退共は中小企業とその従業員双方にとって、非常に魅力的な制度と言えるでしょう。

掛金と受け取りの仕組み

中退共の掛金と退職金の受け取りには、いくつかのルールがあります。これらの仕組みを理解することは、将来の退職金計画を立てる上で重要です。

掛金について:

  • 掛金は企業が全額負担し、従業員の給与から天引きされることはありません。
  • 月額掛金は、従業員一人あたり5,000円から30,000円までの16種類から、企業が選択して納付します。
  • 新規加入事業主に対しては、国が掛金の一部を助成する制度があります(例:最初の1年間、掛金月額の1/2(上限5,000円)を助成)。

退職金の受け取りについて:

  • 支給要件: 退職金を受け取るためには、掛金納付月数が12か月以上であることが最低条件です。12か月未満の場合は退職金は支給されません。
  • 受け取り方法:
    • 一時金: 退職時に一括で受け取る方法。多くの場合はこの形式です。
    • 年金: 一定の要件を満たせば、分割して年金形式で受け取ることも可能です(例:請求時に一定の掛金納付月数を満たしていること、希望すること)。
  • 注意点: 掛金納付月数が24か月(2年)未満で退職した場合、支給される退職金がそれまでに企業が支払った掛金の総額を下回る、いわゆる元本割れのリスクがあります。これは、制度運営費などが差し引かれるためです。長く勤めるほど、より多くの退職金が期待できます。

中退共は、国の制度であるため安定性は高いですが、運用利回りによる大きな増加は期待できません。しかし、堅実に退職金を積み立てられるという大きな利点があります。

中退共のメリット・デメリット

中退共は中小企業とその従業員にとって多くのメリットをもたらしますが、同時にいくつかのデメリットも存在します。制度を最大限に活用するためには、両方を理解しておくことが大切です。

中退共の主なメリット:

  • 企業の税制優遇: 企業が支払う掛金は全額損金または必要経費に算入され、税負担の軽減に繋がります。
  • 国の掛金助成: 新規加入時や掛金月額を増額する際に、国から掛金の一部助成を受けることができます。
  • 従業員の安心感: 企業の経営状況に左右されず、退職時に国から直接退職金が支払われるため、従業員は安心して働くことができます。
  • 管理事務の負担軽減: 退職金の計算や管理、支払いは中退共機構が行うため、企業の人事・経理担当者の事務負担が軽減されます。
  • 退職金の通算: 転職先も中退共制度に加入していれば、以前の会社の加入期間と通算できるため、退職金が無駄になりません。

中退共の主なデメリット:

  • 短期退職の場合の不利: 掛金納付月数が12か月未満では退職金が支給されず、24か月未満の場合は元本割れのリスクがあります。早期退職を繰り返す従業員にとっては不利な制度となります。
  • 運用成果への期待薄: 退職金は定められた給付率に基づいて計算されるため、市場の株価変動などによる大きな運用益は期待できません。安定性は高いですが、大幅な増加は見込めません。
  • 掛金の上限: 月額掛金に上限があるため、大企業の退職金制度と比較すると、高額な退職金を受け取ることは難しい場合があります。
  • 手続きの煩雑さ(初期設定): 加入時の手続きや書類作成には一定の手間がかかります。

中退共は、中小企業が安定した退職金制度を導入するための優れた選択肢ですが、従業員側も自身の勤続年数と将来のキャリアプランを考慮し、そのメリット・デメリットを理解しておくことが賢明です。

退職金は何年目から受け取れる?

退職金制度は、一般的に勤続年数に応じて支給されるものであり、「何年勤めれば退職金がもらえるのか」は多くの人が抱く疑問です。また、退職金の金額に大きく影響を与える「退職所得控除」も、勤続年数によって計算式が変わるため、この点を理解しておくことは非常に重要です。

退職金支給の一般的な条件

退職金を受け取るための最低勤続年数は、企業によって異なります。多くの企業では、退職金規程によって以下のような条件が定められていることが一般的です。

  • 3年以上の勤続が必要: 多くの企業では、「勤続3年以上」を退職金支給の最低条件としているケースがよく見られます。これは、従業員の早期離職を抑制し、長期的な人材育成を促す目的があります。3年未満で退職した場合、原則として退職金は支給されないか、非常に少額にとどまります。
  • 中退共の場合: 中小企業退職金共済制度(中退共)では、最低12か月(1年)以上の掛金納付期間が必要です。これ未満の場合は退職金が支給されません。また、24か月(2年)未満の場合は、元本割れのリスクがあることも留意すべき点です。

これらの情報は、企業の就業規則や退職金規程に明記されていますので、自身の会社のルールを事前に確認しておくことが大切です。特に転職を検討している場合は、現在の会社での勤続年数が退職金にどう影響するかを把握しておくべきでしょう。

勤続年数と支給額の関連性

退職金の支給額は、勤続年数が長ければ長いほど増額されるのが一般的です。これは、長年の会社への貢献が評価されるためであり、また退職所得控除の仕組みも勤続年数を重視しています。

  • 基本給連動型: 多くの企業では、退職時の基本給に勤続年数に応じた支給率を乗じて退職金を計算します。勤続年数が長くなるほど支給率が上がるため、支給額も比例して増加します。
  • 功労加算: 特定の役職を経験したり、会社に顕著な貢献をした場合など、勤続年数とは別に功労加算として退職金が上乗せされることもあります。

特に、税制上の優遇措置である「退職所得控除」は、勤続年数20年を境に計算式が大きく変わるため、この節目が退職金の金額に大きな影響を与えます。勤続20年を超えると、控除額が飛躍的に増加し、手取り額が大きく変わる可能性があるのです。この点については、次の項目で詳しく見ていきましょう。

退職所得控除の仕組みと税制改正

退職金は、長年の勤労への報償として、他の所得とは異なり「退職所得」として税制上の優遇措置が適用されます。これが「退職所得控除」です。この控除があるため、退職金にかかる税金が大幅に軽減されます。そして、この控除額は勤続年数によって計算方法が変わるのが特徴です。

退職所得控除の計算式:

  • 勤続20年以下: 40万円 × 勤続年数(※ただし、80万円に満たない場合は80万円)
  • 勤続20年超: 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

この計算式からわかるように、勤続20年を超えると控除額が一気に増えます。例えば、勤続20年の場合の控除額は「40万円 × 20年 = 800万円」ですが、勤続21年の場合は「800万円 + 70万円 × (21年 - 20年) = 870万円」となり、1年増えるだけで控除額が70万円もアップします。

具体的な計算例:

仮に30年勤務し、退職一時金1,700万円を受け取った場合を考えてみましょう。

  1. 退職所得控除額の計算: 800万円 + 70万円 × (30年 - 20年) = 800万円 + 700万円 = 1,500万円
  2. 課税退職所得金額の計算: (退職一時金 - 退職所得控除額) ÷ 2
    (1,700万円 - 1,500万円) ÷ 2 = 200万円 ÷ 2 = 100万円
    (退職所得は、他の所得と合算せず、この課税退職所得金額にのみ税金がかかります)
  3. 所得税・住民税などの計算: この場合の所得税・住民税・復興特別所得税の合計額は約15万1,050円となります。

このように、退職所得控除によって、受け取った退職金の多くは非課税となるか、非常に低い税率で済むため、手取り額がかなり多くなります。

税制改正の可能性:

ただし、2023年には、勤続20年以上の退職金にかかる税制改正の案が出され、控除額が減少し、結果的に手取り額が減少する可能性も指摘されています。今後の税制改正の動向には注目が必要です。現行の制度を最大限に活用できるよう、自身の退職時期や勤続年数を計画的に考えることが重要となるでしょう。