中間管理職はなぜこんなに難しい?その原因を探る

複雑化する役割と責任の板挟み

中間管理職の最大の苦悩の一つは、その役割の複雑さと責任の重さにあります。上層部からは目標達成や効率化を求められ、部下からは支援や公正な評価を期待される。さらに、顧客や取引先との調整役も担うことも少なくありません。この多岐にわたる利害関係の調整は、精神的な負担が非常に大きいものです。

特に、労働基準関連法規において中間管理職が「管理監督者」とみなされる場合、その責任範囲はさらに広がります。厚生労働省の指針を参考にすれば、労働時間管理、ハラスメント対策、職場の安全衛生など、幅広い分野で責任を負う立場となります(出典:厚生労働省「管理監督者の範囲に関するガイドライン」他関連情報より)。これにより、「本来の業務ではないことまで求められている」と感じ、過大なプレッシャーに苛まれるケースも少なくありません。

プレイングマネージャーとして、自分自身の業務目標も達成しつつ、チーム全体のマネジメントもこなすという状況も一般的です。プレイヤーとしての成果を出しながら、マネージャーとしての能力も同時に求められるため、仕事量が膨大になりがちです。

メンバーシップ型からジョブ型への移行期における戸惑い

日本企業の雇用慣行が、従来のメンバーシップ型からジョブ型へと緩やかに移行する中で、中間管理職は新たな戸惑いに直面しています。メンバーシップ型では、「会社の中でどのような仕事もこなせる人材」が評価され、ゼネラリスト育成が主眼でした。しかし、ジョブ型では「特定の専門性を持ち、職務を遂行する人材」が重視されます。

この変化は、中間管理職の役割にも大きな影響を与えています。部下の育成においても、画一的な指導ではなく、個々の専門性やキャリアプランに合わせたきめ細やかなサポートが求められるようになりました。また、自身のキャリアパスにおいても、従来の「昇進すれば安泰」という考え方だけでは立ち行かなくなり、専門性や市場価値を高める必要に迫られています。

さらに、厚生労働省が推進する「働き方改革」も、中間管理職の業務に新たな課題を投げかけています。長時間労働の是正や多様な働き方の推進は、チームの生産性を維持しつつ、メンバーのワークライフバランスを考慮するという、高度なマネジメントスキルを要求します。過去の成功体験が通用しなくなり、「どうすればいいのか分からない」と悩む管理職も少なくありません。

スキルギャップとOJTの不足

多くの企業で、中間管理職への昇進は、優れたプレイヤーであったという実績に基づいて行われます。しかし、プレイヤーとしてのスキルとマネージャーとしてのスキルは全く別物です。人を動かし、育成し、組織目標を達成させるためのマネジメントスキルは、一朝一夕で身につくものではありません。

残念ながら、昇進時に十分なマネジメント研修やOJT(On-the-Job Training)が提供されない企業も少なくありません。結果として、マネジメントの知識や経験が不足したまま、現場で手探り状態のマネジメントを強いられることになります。部下とのコミュニケーションの取り方、目標設定の方法、評価フィードバックの仕方など、基礎的なマネジメントスキルが不足しているために、様々な問題を引き起こしてしまうのです。

厚生労働省は、労働者の能力開発を支援する様々な施策を展開していますが、特に中間管理職層に対する体系的なマネジメントスキル研修は、企業の自助努力に委ねられている部分が大きいのが現状です(出典:厚生労働省「キャリア形成支援」関連情報より)。このような状況下では、中間管理職自身が積極的に学び、スキルアップを図る努力が不可欠ですが、日々の業務に追われる中で学習時間を確保することも容易ではありません。

「向いてない」と感じる中間管理職の特徴とは?

完璧主義で抱え込みがちなタイプ

「向いてない」と感じる中間管理職によく見られるのが、完璧主義の傾向が強く、何でも一人で抱え込んでしまうタイプです。部下に任せることに対して不安を感じたり、自分がやった方が早いと考えてしまったりするため、タスクを適切に委譲できません。結果として、自身の業務量が際限なく増大し、常に多忙な状態に陥ります。

このタイプの管理職は、部下から相談を受けても、最終的には自分で解決策を見つけようとしがちです。部下の成長を促すための「考えさせる」プロセスを飛ばしてしまい、部下の自律性を損ねることもあります。また、失敗を極端に恐れるため、新しい挑戦や変化を避ける傾向も見られます。

こうした状態が続くと、心身ともに疲弊し、強いストレスを感じるようになります。厚生労働省が警鐘を鳴らす「職場におけるメンタルヘルス対策」では、ストレスの早期発見と対処の重要性が指摘されていますが、完璧主義の管理職は自身の不調を認めず、周囲に助けを求めない傾向があるため、より深刻な状態に陥りやすいと言えるでしょう(出典:厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策」関連情報より)。

コミュニケーションに苦手意識を持つタイプ

中間管理職の重要な役割の一つが、チーム内外との円滑なコミュニケーションです。部下との信頼関係構築、上層部への正確な情報共有、他部署との連携など、コミュニケーション能力はマネジメントの要と言えます。しかし、このコミュニケーションに苦手意識を持つ管理職は、「向いてない」と感じる大きな原因となります。

部下の意見や悩みを傾聴できず、一方的な指示ばかり出してしまったり、褒めることや励ますことが苦手だったりすると、部下は孤立感を感じ、モチベーションを低下させてしまいます。また、上層部への報告が遅れたり、問題の本質を正確に伝えられなかったりすると、チーム全体としてのパフォーマンスにも悪影響が出かねません。

例えば、部署間の連携がうまくいかない原因が、中間管理職同士のコミュニケーション不足にあるケースも多々あります。必要な情報が共有されず、業務が滞ったり、二重投資になったりすることも。こうした状況は、結果的に中間管理職自身の評価にも繋がり、「自分は管理職に向いていない」という思いを強めてしまうのです。

変化への適応が苦手で、過去の成功体験に固執するタイプ

現代のビジネス環境は、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と言われるほど変化が激しいものです。このような状況下で、過去の成功体験に固執し、変化への適応が苦手な中間管理職は、壁にぶつかりやすくなります。新しい技術や働き方、市場のニーズなど、常に情報をアップデートし、柔軟に対応する姿勢が求められるからです。

例えば、厚生労働省が推進する「働き方改革」によって、フレックスタイム制やリモートワークが導入されても、昔ながらの「長時間オフィスにいることが美徳」という価値観に縛られ、部下の新しい働き方を理解できないケースです。これにより、部下のエンゲージメント低下を招いたり、生産性向上の機会を逃したりすることもあります。

また、自身のキャリアにおいても、変化への適応力が低いと、成長の機会を失ってしまいます。キャリア自律の重要性が叫ばれる現代において、自身のスキルを常に磨き、市場価値を高めていく意識が不可欠です(出典:厚生労働省「キャリア自律」関連情報より)。過去の栄光に浸るばかりで、自己変革を怠ると、「時代に取り残されている」という焦燥感から、「自分はもう管理職として通用しない」と感じてしまうかもしれません。

中間管理職に向いている人の共通点

高いコミュニケーション能力と共感力

中間管理職として成功する上で、最も重要な資質の一つが、高いコミュニケーション能力と共感力です。部下、上司、他部署、顧客など、多様なステークホルダーと円滑な関係を築き、それぞれの立場を理解しようとする姿勢が不可欠です。部下の話を傾聴し、彼らの悩みや意見に寄り添う共感力は、信頼関係を築く上で欠かせません。

単に話を聞くだけでなく、明確な指示を出し、適切なフィードバックを与える能力も重要です。部下の成長を促す建設的なフィードバックは、彼らのモチベーション向上に繋がります。また、上層部に対しては、チームの状況や課題を正確かつ簡潔に報告し、必要な情報を引き出すスキルが求められます。

このように、状況や相手に応じてコミュニケーションのスタイルを使い分け、柔軟に対応できる人は、中間管理職として多くの課題を円滑に解決することができます。チーム内の風通しを良くし、心理的安全性の高い職場環境を作り出す上でも、彼らのコミュニケーション能力は大きな影響を与えます。

問題解決能力と意思決定力

中間管理職は、日々様々な問題に直面します。チーム内のトラブル、プロジェクトの遅延、予期せぬアクシデントなど、その内容は多岐にわたります。こうした状況において、冷静に問題を分析し、最適な解決策を導き出す問題解決能力が求められます。感情的にならず、客観的なデータや情報に基づいて判断できることが重要です。

そして、導き出した解決策を実行に移すための意思決定力も不可欠です。曖昧なまま物事を先延ばしにせず、責任をもって決断を下し、チームを正しい方向へ導くリーダーシップが求められます。もちろん、時には厳しい決断を迫られることもありますが、その際も、なぜその決断に至ったのかを部下に対して明確に説明できる必要があります。

厚生労働省が示す「労働者の能力開発」の視点からも、問題解決能力は組織運営において中心的なスキルとされています(出典:厚生労働省「労働者の能力開発」関連情報より)。特に、複雑な現代社会においては、前例のない問題に対する創造的な解決策を考案する能力も、中間管理職に期待される資質の一つと言えるでしょう。

適応力と学習意欲

現代社会は変化のスピードが速く、ビジネス環境も常に変化しています。中間管理職に向いている人は、このような変化に対して柔軟に適応し、常に新しい知識やスキルを習得しようとする学習意欲が高いという共通点を持っています。過去の成功体験に固執せず、新たな情報や技術を積極的に取り入れ、自己をアップデートし続けることができます。

例えば、新しい働き方(リモートワーク、フレックスタイムなど)やデジタル技術の導入に対しても、抵抗感なく前向きに取り組むことができます。部下に対して新しいやり方を指導する際にも、自らが率先して学ぶ姿勢を示すことで、チーム全体の学習意欲を高める効果も期待できます。

厚生労働省が推進する「キャリア形成支援」の観点からも、社会の変化に対応し、自身の能力を継続的に開発していくことの重要性が強調されています(出典:厚生労働省「キャリア形成支援」関連情報より)。中間管理職にとって、この適応力と学習意欲は、自身のキャリアを持続的に発展させるだけでなく、チームや組織全体を成長させる上でも不可欠な要素と言えるでしょう。

悩みを抱える中間管理職への具体的なアドバイス

役割の再認識と優先順位付け

「向いてない」と感じる中間管理職の多くは、自身の役割が不明確であったり、過度な責任を抱え込んでいたりすることが原因です。まずは、自身の役割を客観的に再認識し、業務の優先順位を明確にすることから始めましょう。

厚生労働省の「管理監督者」に関する情報を参考に、自身が担うべき本来のマネジメント業務と、そうでない業務を区別することが重要です(出典:厚生労働省「管理監督者の範囲に関するガイドライン」他関連情報より)。例えば、プレイヤーとしての実務とマネージャーとしての業務(チーム目標設定、部下育成、進捗管理など)のバランスを見直します。

次に、現在のタスクを全て棚卸しし、重要度と緊急度で分類します。

  1. 重要度が高く、緊急度も高いタスク
  2. 重要度が高いが、緊急度は低いタスク
  3. 重要度は低いが、緊急度が高いタスク
  4. 重要度も緊急度も低いタスク

この分類に基づいて、1と2を優先し、3は状況に応じて部下への権限委譲や業務改善を検討します。4は極力行わないか、完全に手放すことを目指しましょう。これにより、本来集中すべきマネジメント業務に時間を割けるようになり、心の余裕も生まれます。

コミュニケーションスキルの向上

中間管理職の悩みの多くは、コミュニケーション不足やコミュニケーションの質の低さに起因します。まずは、部下とのコミュニケーションの機会を意識的に増やし、質を高めることから始めましょう。定期的な1on1ミーティングの実施は非常に有効です。

1on1では、部下の話に耳を傾ける「傾聴」を徹底し、部下が抱えている課題や目標、キャリアの希望などを深く理解するよう努めます。そして、部下の行動や成果に対して、具体的に「承認」や「フィードバック」を与える練習を重ねましょう。ポジティブな点も改善点も、具体例を挙げて伝えることが大切です。

また、上司への効果的な情報共有と相談も重要です。問題を抱え込まず、適切なタイミングで上司に状況を報告し、協力を仰ぐことで、一人で悩む状況を打開できます。厚生労働省が推進する「職場におけるメンタルヘルス対策」では、ラインケア(管理監督者による部下への働きかけ)とともに、管理職自身が上司や専門機関に相談できる体制を整えることも重要とされています(出典:厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策」関連情報より)。

セルフケアとキャリアの再考

中間管理職の仕事は精神的な負担が大きいため、自身の心身の健康を保つためのセルフケアが不可欠です。まずは、ストレスのサインに気づき、適切に対処することを心がけましょう。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動、趣味の時間の確保など、日常生活の中で意識的にリラックスできる時間を作ることが大切です。

厚生労働省の「ストレスチェック制度」に関する情報も参考に、自身のストレスレベルを定期的に確認し、必要に応じて専門機関のサポートも検討しましょう(出典:厚生労働省「ストレスチェック制度」関連情報より)。ストレスマネジメントは、パフォーマンスを維持し、長期的にキャリアを継続していく上で欠かせない要素です。

「向いてない」と感じる根本的な原因を深く掘り下げることも重要です。本当に管理職としての役割が合わないのか、それとも現在の環境やスキル不足が原因なのか。この機会に、自身の強みや弱み、キャリアの価値観を再確認し、「キャリア自律」の視点から自身のキャリアプランを見つめ直すことをお勧めします(出典:厚生労働省「キャリア自律」関連情報より)。異動や配置転換、あるいは他社でのキャリアチェンジも視野に入れ、必要であれば社内外のキャリアコンサルタントに相談するのも良いでしょう。

中間管理職のモチベーション維持とキャリアパス

成功体験の積み重ねと自己肯定感の向上

中間管理職のモチベーションを維持するためには、日々の業務の中での小さな成功体験を意識的に認識し、自己肯定感を高めることが非常に重要です。マネジメントの成果はすぐには現れにくいものですが、部下の成長、チーム目標の達成、部署内の課題解決など、様々な場面で「自分が貢献できた」という実感を持つことが、次への活力となります。

例えば、

  • 部下が自律的に課題を解決できた時
  • チームの雰囲気が改善された時
  • 自分のアドバイスで部下が成果を出せた時
  • 難易度の高いプロジェクトをチームで乗り越えた時

など、具体的な成功事例をノートに書き出す習慣をつけるのも良い方法です。これらの成功を部下と分かち合い、チームで喜びを共有することで、自身のマネジメントが正しかったという自信にも繋がります。

また、部下の成長を自身の成果と捉える視点も大切です。部下が困難を乗り越え、新しいスキルを身につけ、目標を達成していく過程をサポートすることは、中間管理職にとって最大の喜びの一つとなるはずです。ポジティブなフィードバックを積極的に行い、チームの強みを伸ばしていくことで、マネージャーとしてのやりがいを感じることができます。

継続的な学習と能力開発

変化の激しい現代において、中間管理職がモチベーションを維持し、自身の市場価値を高めていくためには、継続的な学習と能力開発が不可欠です。マネジメントスキル、コーチングスキル、リーダーシップ、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する知識など、時代の変化に対応したスキルを積極的に学ぶ姿勢が求められます。

厚生労働省は「キャリア形成支援」の一環として、教育訓練給付金制度など、個人の能力開発を支援する様々な施策を提供しています(出典:厚生労働省「キャリア形成支援」関連情報より)。こうした公的支援を活用しながら、社内外の研修、セミナーへの参加、ビジネス書の読書、オンライン学習などを通じて、常に自身のスキルセットをアップデートしていくことが重要です。

マネジメントスキルは、一度身につければ終わりというものではありません。日々の実践を通じて学びを深め、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回しながら、自身のマネジメントスタイルを常に改善していく意識が大切です。新しい知識やスキルを習得する喜びは、中間管理職としてのやりがいにも直結します。

新たなキャリアパスの模索

「中間管理職が向いてない」と感じることは、決してネガティブなことばかりではありません。それは、自身のキャリアについて深く考える良い機会であり、新たなキャリアパスを模索するきっかけにもなり得ます。必ずしも管理職として上を目指すことだけが、唯一のキャリアパスではないことを認識しましょう。

例えば、

  • 特定の分野の専門性を極める「専門職」としての道
  • プロジェクトマネージャーとして、特定のプロジェクトに特化する道
  • 独立してコンサルタントやフリーランスとして活動する道
  • 全く異なる業界や職種にキャリアチェンジする道

など、多様な選択肢が存在します。

厚生労働省が重視する「キャリア自律」の考え方に基づけば、個々人が主体的に自身のキャリアをデザインし、選択していくことが求められます(出典:厚生労働省「キャリア自律」関連情報より)。自身の強みや興味、価値観を再確認し、どのような働き方や役割が自分に最も合っているのかをじっくりと考えてみましょう。必要であれば、社内外のキャリアコンサルタントに相談し、客観的な視点からアドバイスを得ることも有効です。管理職の経験は、どのようなキャリアパスに進むにしても、必ず自身の成長の糧となるはずです。