概要: 2023年10月から開始されたインボイス制度は、個人事業主やフリーランスの請求・決済方法に大きな影響を与えます。本記事では、DigiKey、Booking.com、PayPal、PayPayなどの具体的なサービス利用を例に、インボイス制度への対応方法と、ポイント利用・付与に関する注意点などを分かりやすく解説します。
インボイス制度とは?請求書発行と経理処理の基本
2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、個人事業主やフリーランスを含む全ての事業者にとって、請求書の発行や経理処理に大きな変化をもたらしました。この制度は、日本の消費税制度における複数税率(8%と10%)に対応し、事業者がより正確に消費税を納付できるようにするために導入されています。その目的は、消費税額の正確な把握と、いわゆる「益税」の解消にあります。
特に重要なのは、仕入れにかかる消費税額を売上にかかる消費税額から差し引く「仕入税額控除」の適用要件が変更された点です。原則として、適格請求書発行事業者から交付された「適格請求書(インボイス)」の保存がなければ、この控除が受けられなくなりました。
インボイス発行事業者になれるのは、事前に税務署に登録申請を行った課税事業者のみ。これまで免税事業者だった個人事業主やフリーランスの方も、取引先との関係を維持するために、課税事業者への移行を検討するケースが増えています。
適格請求書等保存方式の目的と背景
インボイス制度が導入された最大の目的は、複数税率が混在する現在の消費税制度において、消費税額を正確に計算し、適正な納税を促すことにあります。これまでの区分記載請求書等保存方式では、事業者が受け取った消費税が、必ずしも国に納められていない「益税」という問題が指摘されていました。
特に、消費税の納税義務がない免税事業者が、課税事業者から消費税を受け取りながら、その消費税を納税せずに自身の利益としてしまう構造がありました。インボイス制度は、この益税を解消し、消費税の透明性と公平性を高めることを目指しています。
また、事業者が仕入れや経費にかかる消費税を、売上にかかる消費税から差し引いて納税額を計算する「仕入税額控除」の適用条件を厳格化することで、適格請求書発行事業者からの仕入れを推奨し、消費税のサプライチェーン全体での正確な把握を可能にしています。これにより、事業者は自身の仕入れ先がインボイスを発行できる事業者であるかを常に意識する必要が出てきました。
参考: 国税庁「インボイス制度の概要」
適格請求書の記載要件と発行事業者登録
インボイスとして認められる適格請求書には、法定の記載事項が定められています。これまでの請求書に加えて、以下の項目を網羅している必要があります。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨の記載も必要)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等(端数処理は1インボイス当たり、税率ごとに1回ずつ)
これらの要件を満たした請求書を発行できるのは、事前に税務署に登録申請を行い、「適格請求書発行事業者」として登録された事業者のみです。適格請求書発行事業者になれるのは課税事業者のみであるため、現在免税事業者の個人事業主やフリーランスがインボイスを発行するには、課税事業者になるための選択を迫られることになります。
登録申請は、オンライン(e-Tax)または書面で行うことができ、登録されると「T+13桁の法人番号(個人事業主は納税地を所轄する税務署長の番号)」という形式の登録番号が付与されます。この登録番号は、適格請求書に必ず記載しなければなりません。
参考: 国税庁「適格請求書発行事業者の登録申請手続」
経理処理における仕入税額控除のルール変更
インボイス制度の導入により、仕入税額控除の適用を受けるためのルールが大きく変わりました。これまで、課税事業者は仕入れや経費にかかる消費税を、売上にかかる消費税から控除することで、納税額を計算していました。
しかし、制度開始後は、原則として取引相手から交付されたインボイスの保存がなければ、仕入税額控除が適用されません。これは、免税事業者からの仕入れについて、控除が受けられなくなることを意味します。そのため、課税事業者は取引先がインボイス発行事業者であるかを確認し、インボイスを受け取るための体制を整える必要があります。
ただし、制度導入に伴う急激な変化に対応するため、いくつかの緩和措置や特例が設けられています。例えば、インボイス制度開始から6年間(2029年9月30日まで)は、免税事業者からの仕入れであっても、一定割合(当初3年間は80%、その後3年間は50%)を仕入税額とみなして控除できる「経過措置」があります。
また、基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者については、1万円未満の課税仕入れについてはインボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる「少額特例」が設けられています(適用期間:2023年10月1日~2029年9月30日)。これらの特例を正しく理解し、適用することで、経理処理の負担を軽減できる可能性があります。
参考: 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」
海外サービス・プラットフォーム利用時のインボイス制度対応
個人事業主やフリーランスの方々の中には、海外のオンラインサービスやプラットフォームを頻繁に利用している方も多いでしょう。例えば、海外のクラウドソーシングサービスでの受注、デザインツールやソフトウェアのサブスクリプション、Web広告の出稿などが挙げられます。インボイス制度が導入されたことで、これらの海外事業者との取引における消費税の取り扱いにも、注意が必要となってきました。
日本のインボイス制度は国内の消費税法に基づいているため、海外の事業者が日本の税務署に「適格請求書発行事業者」として登録しているケースは極めて稀です。そのため、原則として海外の事業者から発行される請求書は、日本のインボイスの要件を満たさないと考えられます。これは、海外サービス利用時の仕入税額控除に直接影響を及ぼす可能性があります。
したがって、海外サービスを多く利用する個人事業主は、事前にそのサービス提供者が日本のインボイス発行事業者であるかを確認することはもちろん、そうでない場合の消費税の取り扱いについて、税理士等の専門家への相談を検討すべきでしょう。
海外事業者からの請求書とインボイス制度
海外の事業者が発行する請求書は、日本の消費税法で定められた適格請求書の要件を満たさないのが一般的です。これは、海外事業者が日本の税務署に登録番号を保有していないためです。したがって、海外事業者からの仕入れについては、原則として仕入税額控除の適用を受けることができません。この場合、課税事業者はその仕入れにかかった消費税分を実質的に負担することになり、消費税の納税額が増加する可能性があります。
ただし、国際取引においては、サービスの内容や提供方法によって消費税の課税関係が複雑になることがあります。例えば、国外事業者が提供する特定サービス(電気通信役務など)については、「リバースチャージ方式」が適用され、サービスを受けた国内事業者が消費税を申告・納付するケースもあります。このような場合は、インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる場合がありますが、その判定は非常に専門的です。
重要なのは、海外事業者との取引が日本の消費税法上どのように位置づけられるかを正確に理解することです。単純にインボイスがないから控除できない、と諦めるのではなく、取引の実態に応じて適用される税法を確認する必要があります。
参考: 国税庁「消費税の納税義務者」
海外プラットフォーム手数料の扱い
クラウドソーシングサイトやアフィリエイトサービス、ECプラットフォームなど、海外の多くのオンラインプラットフォームを利用している個人事業主も多いでしょう。これらのプラットフォームから徴収される手数料についても、インボイス制度の影響を考慮する必要があります。
例えば、海外のプラットフォームを通じて仕事を受注し、その報酬から手数料が差し引かれる場合、この手数料は事業の仕入れとみなされることがあります。しかし、プラットフォームが日本の適格請求書発行事業者でない場合、手数料にかかる消費税について仕入税額控除を受けられない可能性が高いです。これは、利用している個人事業主(課税事業者)にとって、消費税負担の増加を意味します。
一部の海外プラットフォームでは、日本の税制に対応するため、特定の形式で請求書や利用明細を発行してくれる場合がありますが、それが日本のインボイス要件を完全に満たすとは限りません。このような場合、少額特例(1万円未満の課税仕入れは帳簿のみで控除可能)が適用できるかどうかも検討の一つとなります。
もし手数料が高額で少額特例の適用が難しい場合は、消費税の納税額に大きく影響するため、経理処理について税理士等の専門家に相談し、最適な対応策を見つけることが重要です。
参考: 国税庁「少額特例に関するFAQ」
個人事業主が注意すべき越境取引のポイント
個人事業主が海外の事業者と取引を行う際、インボイス制度下では特に以下の点に注意が必要です。
- 取引相手の確認: 海外のサービス利用前には、その事業者が日本の適格請求書発行事業者であるかを確認しましょう。ほとんどの場合、そうではないと想定されます。
- 契約内容の確認: サービス利用料や手数料が消費税の課税対象となる国内取引なのか、それとも国外取引なのかを慎重に判断する必要があります。契約書や利用規約をよく確認し、消費税に関する記載があればその内容を把握しておきましょう。
- リバースチャージ方式の適用可能性: 国外事業者からの特定のデジタルサービスなどを受ける場合、リバースチャージ方式が適用され、個人事業主が消費税を申告・納付する義務が生じる場合があります。この場合、仕入税額控除の適用はインボイスの有無によらず、適切に申告・納付することで可能となります。
- 記録の保存: インボイスが発行されない場合でも、取引の事実を証明できる契約書、メール、銀行取引明細、利用履歴などの書類をしっかりと保存しておくことが重要です。
- 専門家への相談: 越境取引における消費税の取り扱いは複雑で、個別のケースによって判断が異なります。不明な点があれば、必ず税理士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。
これらのポイントを踏まえることで、インボイス制度導入後の海外取引におけるリスクを最小限に抑え、適切な税務処理を行うことができます。
参考: 国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し」
個人事業主・フリーランスが知っておくべき決済方法とインボイス
インボイス制度は、直接的に決済方法そのものを変更するものではありません。しかし、適格請求書の発行・管理が必須となることで、事業者側には新たな事務負担が生じ、これを効率化するためのシステム導入が加速しています。その結果、電子請求書システムと連動したキャッシュレス決済の利用や、経理処理のデジタル化が間接的に決済プロセスに影響を与える可能性があります。
個人事業主・フリーランスとしては、自身の提供するサービスや商品の請求書にインボイスの記載事項を漏れなく含めること、また、仕入れや経費の支払いに際して受け取る請求書がインボイス要件を満たしているかを確認することが重要です。特にキャッシュレス決済では、レシートや利用明細がインボイスとして機能するかどうかがポイントとなります。
また、制度導入により、免税事業者だった個人事業主が課税事業者になる選択をするケースも増えており、その際には消費税を考慮した価格設定や決済フローの見直しも必要となります。
キャッシュレス決済とインボイス制度の関係性
クレジットカード決済、QRコード決済、電子マネーといったキャッシュレス決済は、インボイス制度の導入後も引き続き利用されます。これらの決済方法自体がインボイス制度によって直接変更されるわけではありませんが、発行されるレシートや利用明細が「適格請求書(インボイス)」として認められるかどうかが重要な論点となります。
インボイスとして認められるためには、上記の「適格請求書の記載要件」を全て満たしている必要があります。特に、レシート等にインボイス発行事業者の「登録番号」が記載されているかどうかが確認のポイントです。例えば、飲食店や小売店で受け取るレシートは、簡易インボイス(適格簡易請求書)として、一部の記載事項が省略されていても認められる場合がありますが、それでも登録番号の記載は必須です。
もし、キャッシュレス決済で受け取ったレシートがインボイスの要件を満たしていない場合、その仕入れにかかる消費税の仕入税額控除を受けることができません。そのため、個人事業主は、取引先のレシートや領収書に登録番号が記載されているか、そして必要な情報が全て含まれているかを支払い時に確認する習慣をつけることが推奨されます。
参考: 国税庁「レシートや領収書に係るQ&A」
電子請求書システム導入による効率化
インボイス制度の導入により、請求書の発行・管理はこれまで以上に厳格かつ複雑になりました。特に、税率ごとの区分記載や消費税額の計算、登録番号の記載など、事務作業の負担が増大しています。この負担を軽減し、効率的に対応するために、多くの個人事業主やフリーランスが電子請求書システムの導入を検討しています。
電子請求書システムを利用することで、インボイスの要件を満たした請求書を簡単に作成・発行できるだけでなく、発行した請求書の管理、送付、保存までを一元的に行うことが可能です。これにより、手作業でのミスを減らし、大幅な時間短縮にもつながります。多くのクラウド会計ソフトには、すでにインボイス対応機能が搭載されており、見積書から請求書、そして会計データへの連携までをスムーズに行うことができます。
また、電子的に発行されたインボイスは、紙のインボイスと同様に仕入税額控除の適用を受けることができます。電子帳簿保存法にも対応しているシステムを選べば、請求書のペーパーレス化を推進し、保管コストの削減にも貢献します。経理業務の効率化は、個人事業主が本業に集中するための重要な手段となるでしょう。
参考: 国税庁「電子帳簿保存法Q&A」
免税事業者から課税事業者への移行検討と決済
インボイス制度は、これまで消費税の納税義務がなかった免税事業者に大きな影響を与えています。取引先が課税事業者である場合、免税事業者からの仕入れでは仕入税額控除が受けられないため、取引継続のためには、免税事業者も適格請求書発行事業者(=課税事業者)になることを選択するケースが増えています。
課税事業者になると、消費税の納税義務が生じ、消費税を含んだ価格での請求が可能になります。これにより、取引先にとっては仕入税額控除が可能となり、取引関係を維持しやすくなります。しかし、自身も消費税の計算や申告といった新たな事務負担を負うことになります。
この移行を検討する際には、制度導入による負担軽減措置として設けられた「2割特例」が重要な選択肢となります。この特例は、免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者を対象に、納税額を「売上税額の2割」に軽減できるというものです。適用期間は2023年10月1日から2026年9月30日を含む課税期間までです。この特例を活用することで、課税事業者への移行に伴う納税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
自身が課税事業者になるべきか、そしてなった場合にどの特例を利用すべきかは、事業の規模や取引先の状況によって異なります。慎重な検討と専門家への相談が不可欠です。
参考: 国税庁「2割特例に関するQ&A」
ポイント利用・付与のインボイス制度への影響
日々のビジネス活動や個人的な消費において、ポイント制度は広く浸透しています。クレジットカードのポイント、共通ポイント、店舗独自のポイントなど、その種類は多岐にわたります。インボイス制度の導入は、これらのポイントの利用や付与が消費税の課税対象となる取引とどのように関連付けられるか、という点で新たな視点をもたらしました。
ポイントの利用は、実質的な値引きとして扱われることが多いため、インボイスにはポイント利用後の対価の額を記載するか、ポイント利用による値引き額を明記する必要があります。一方、ポイントの付与は、広告宣伝費や販売促進費として処理されることが多く、その際の消費税の取り扱いにも注意が必要です。特に個人事業主の場合、事業としてポイントを付与する側と、ポイントを利用して仕入れを行う側の両方で、インボイス制度の影響を理解しておく必要があります。
共通ポイントサービスなど、ポイントを発行・管理する事業者と、実際に商品・サービスを提供する事業者が異なる場合は、さらに複雑な検討が求められます。
ポイント利用時の消費税とインボイス
消費者が商品やサービスを購入する際にポイントを利用した場合、その取引の消費税およびインボイスの記載は、ポイントの性質によって異なります。
一般的に、ポイントは「値引き」として扱われるケースが多いです。この場合、ポイント利用後の実質的な支払い金額に対して消費税が課税されます。例えば、10,000円の商品を9,000円と1,000ポイントで決済した場合、インボイスには、値引き後の「対価の額9,000円」とそれに対する消費税額を記載することになります。あるいは、総額10,000円、ポイント値引き1,000円と明記し、9,000円の対価と消費税額を記載する形式も考えられます。
しかし、ポイントが金券として扱われる場合は、その金券部分には消費税が課税されず、金券以外の現金支払部分にのみ消費税が課税されることになります。どちらの扱いになるかは、発行元のポイント規約や会計処理方針によって異なるため、個別の取引ごとに確認が必要です。
個人事業主が仕入れでポイントを利用する場合、受け取ったインボイスにどのように記載されているかを確認し、自身が計上する仕入税額控除の金額に反映させる必要があります。
参考: 国税庁「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(ポイントに係るQ&A)」
ポイント付与時の消費税とインボイス
個人事業主が、自身の顧客に対してポイントを付与する(例えば、購入金額に応じてポイントを還元する)場合、そのポイント付与行為自体の消費税の取り扱いはどうなるのでしょうか。
顧客へのポイント付与は、一般的に「値引き販売」や「広告宣伝費」「販売促進費」の一部として処理されることが多いです。この場合、ポイント付与時点では直接的な消費税の課税対象とはなりません。ポイントが付与された時点では、まだ商品やサービスの対価が確定しているわけではないためです。
しかし、ポイントが付与され、将来的にそのポイントが利用されて商品・サービスが購入された場合、その利用時点での消費税の計算に影響を与えます。先述の通り、ポイント利用は値引きとみなされることが多いため、実際に商品やサービスを提供した際の課税売上高は、ポイント利用分を差し引いた金額となることが一般的です。
また、アフィリエイト報酬やポイントサイトの報酬として個人事業主がポイントを得る場合も、そのポイントが事業収入となる場合は、確定申告時に適切に計上し、消費税の課税事業者であれば課税売上として処理する必要があります。ポイントが「経済的利益」としてどう評価され、消費税の課税対象となるかについても注意が必要です。
参考: 国税庁「課税売上高とは」
共通ポイントサービス利用時の注意点
楽天ポイント、Tポイント、Pontaポイントといった共通ポイントサービスは、多くの店舗やサービスで利用できるため、個人事業主もビジネス上の仕入れや経費精算に利用する機会があるかもしれません。これらの共通ポイントサービスを利用する際には、インボイス制度においていくつかの注意点があります。
共通ポイントの場合、ポイントを発行・管理している事業者(例:楽天、カルチュア・コンビニエンス・クラブなど)と、実際に商品やサービスを提供している事業者(例:提携店舗)が異なります。この二者間の契約関係によって、ポイント利用時の消費税の取り扱いが複雑になることがあります。
具体的には、ポイント利用分が「販売促進費用としてポイント発行事業者が店舗に負担金を支払う形」になっているのか、あるいは単なる「値引き」として処理されているのかによって、受け取るインボイスの記載や、自身の仕入税額控除の計算に影響が出ることがあります。多くの場合、レシート等にポイント利用後の金額が記載され、その金額に基づいた消費税額が計算されることになりますが、念のため記載内容を確認し、登録番号が明記されているかをチェックしましょう。
もし、受け取ったレシートや領収書がインボイス要件を満たしていない場合、共通ポイント利用分を含めて仕入税額控除が受けられないリスクがあります。複雑なケースでは、会計ソフトのベンダーや税理士に相談することをお勧めします。
参考: 各共通ポイントサービス事業者規約、国税庁「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(ポイントに係るQ&A)」
インボイス制度導入を乗り切るための準備と注意点
インボイス制度は2023年10月1日に施行され、すでに多くの事業者がその対応に追われています。個人事業主やフリーランスにとって、この制度は事業運営のあらゆる側面に影響を与えるため、適切な準備と継続的な情報収集が不可欠です。特に、自身の事業が免税事業者であるか課税事業者であるかによって、取るべき対応は大きく異なります。
制度を乗り切るためには、まず自身の取引状況を把握し、主要な取引先との関係性を再確認することが重要です。そして、インボイス制度によって生じる可能性のあるリスクを理解し、国が提供する支援措置や特例制度を最大限に活用することで、事務負担や納税負担を軽減することができます。
変化の大きい制度であるため、最新情報を常にキャッチアップし、必要に応じて税理士などの専門家の意見を求める姿勢も求められます。適切な準備をすることで、インボイス制度をむしろ事業効率化の機会と捉えることも可能になります。
取引先との関係性確認と交渉術
インボイス制度導入後、個人事業主やフリーランスが最も影響を受けるのは、取引先との関係性です。特に、自身が免税事業者であり、取引相手が課税事業者である場合、取引相手は免税事業者からの仕入れについて仕入税額控除を受けられなくなるため、消費税の負担が増加します。
このため、取引先から契約内容の見直しや、取引価格の値下げ、あるいは最悪の場合、取引の停止を求められる可能性があります。これを避けるためには、まず自身の主要な取引先が課税事業者か免税事業者かを確認し、それぞれの取引先に合わせた対応を検討することが重要です。
免税事業者の方が課税事業者への移行を検討する場合、その旨を取引先に伝え、インボイス発行が可能になることをアピールすることも有効です。その際には、「2割特例」の適用によって、自身の納税負担が大幅に軽減されることを説明し、消費税相当額を価格に転嫁しても、取引先への影響が限定的であることを示唆する交渉も考えられます。円滑なコミュニケーションと、双方にとって納得のいく解決策を見つけるための交渉力が求められます。
参考: 国税庁「免税事業者・課税事業者の選択」
活用すべき支援措置と特例制度
インボイス制度導入による事業者の負担を軽減するため、国はいくつかの支援措置や特例制度を設けています。これらを理解し、自身の状況に合わせて適切に活用することが、制度導入を乗り切る鍵となります。
主な支援措置・特例は以下の通りです。
- 2割特例: 免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者(基準期間の課税売上高1,000万円以下など)が対象。納税額を「売上税額の2割」に軽減できます。適用期間は2023年10月1日から2026年9月30日を含む課税期間までです。事前の届出は不要で、確定申告時に申告書に付記することで適用可能です。
- 簡易課税制度: 基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できます。売上にかかる消費税額に「みなし仕入率」を掛けて納税額を計算するため、仕入税額控除の計算が簡略化されます。事前の届出が必要で、2割特例とは併用できません。
- 仕入税額控除に関する経過措置: インボイス制度開始から6年間(2029年9月30日まで)は、免税事業者からの仕入れであっても、一定割合(当初3年間は80%、その後3年間は50%)を仕入税額とみなして控除できます。ただし、帳簿および請求書等の保存が必要です。
- 少額特例: 基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者は、1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。適用期間は2023年10月1日から2029年9月30日までです。
これらの特例を比較検討し、自身の事業に最適な納税方法を選択することが重要です。
参考: 国税庁「消費税の仕入れに係る消費税額の控除制度について」
最新情報のキャッチアップと専門家への相談
インボイス制度は、多くの事業者にとって初めての経験であり、その解釈や運用は複雑を極めます。国税庁は、制度に関するQ&Aや情報提供を随時行っていますが、個別のケースにおいては判断に迷うことも少なくありません。
そのため、個人事業主やフリーランスは、国税庁のウェブサイトなどで常に最新情報を確認する習慣を持つことが非常に重要です。制度の運用中に新たな特例が追加されたり、既存のQ&Aが更新されたりする可能性も考えられます。
また、自身の事業規模、取引形態、売上高などによって、インボイス制度への最適な対応は異なります。特に、免税事業者から課税事業者への移行を検討している場合や、海外取引が多い場合など、判断が難しいケースでは、税理士などの専門家への相談を強くお勧めします。専門家は、個別の状況に応じた具体的なアドバイスを提供し、適切な税務処理をサポートしてくれます。
適切な情報収集と専門家との連携を通じて、インボイス制度を円滑に乗り切り、自身のビジネスを安定的に継続させましょう。
参考: 国税庁「インボイス制度特設サイト」
まとめ
よくある質問
Q: インボイス制度の開始日はいつですか?
A: インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、2023年10月1日から開始されました。
Q: DigiKeyやBooking.comのような海外サービスでもインボイス制度は関係ありますか?
A: はい、国外の事業者から商品やサービスを購入した場合でも、日本の消費税の仕入税額控除を受けるためには、適格請求書(インボイス)の保存が必要になる場合があります。海外サービスの場合は、事業者の登録状況や発行される請求書の形式を確認する必要があります。
Q: PayPalやPayPayなどの決済サービスを利用する場合、インボイス制度で気をつけることはありますか?
A: PayPalやPayPayなどの決済サービス自体は、インボイス制度の対象ではありません。しかし、これらのサービスを利用して受け取った商品やサービスの代金について、仕入税額控除を受けるためには、発行元から適格請求書(インボイス)を受け取る必要があります。また、ポイントの利用や付与についても、その取扱いや課税関係を確認することが重要です。
Q: プリペイドカードやポイント利用・付与はインボイス制度でどうなりますか?
A: プリペイドカードの購入自体は、通常、消費税の課税対象外です。ポイントの利用や付与については、その性質(値引きなのか、対価の支払いなのかなど)によって課税関係が異なります。インボイス制度との関連では、ポイント利用によって実質的な支払額が変動する場合、仕入税額控除の計算に影響を与える可能性があります。
Q: インボイス制度導入にあたり、個人事業主・フリーランスは何から準備すれば良いですか?
A: まずはご自身の事業がインボイス制度の影響を受けるかどうか(課税事業者になるか、免税事業者のままでいるか)を把握することが重要です。その上で、必要であれば税務署への登録申請、請求書発行システムの変更、経理担当者への周知、利用しているサービス(Booking.com、PayPal、PayPayなど)の対応確認などを進めましょう。
