インボイス制度と電子帳簿保存法、違いと導入メリットを解説

2023年10月1日から施行された「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」と、すでにデジタル化の要となる「電子帳簿保存法」。

これらの制度が企業の経理業務に与える影響は大きく、それぞれ異なる目的を持ちながらも、密接に関連しています。

本記事では、これら二つの制度の概要、違い、導入メリット、そしてペーパーレス化への貢献、さらには海外事例や導入のポイントまで、わかりやすく解説します。

  1. インボイス制度とは?電子請求書との関係性
    1. 適格請求書等保存方式の概要と目的
    2. 電子インボイスとインボイス制度のメリット
    3. 免税事業者への影響と経過措置の注意点
  2. 電子帳簿保存法とは?インボイス制度との違い
    1. 電子帳簿保存法の概要と改正ポイント
    2. 業務効率化を実現するメリットと注意点
    3. インボイス制度と電子帳簿保存法の関係性
  3. インボイス制度、電子帳簿保存法、導入によるペーパーレス化
    1. 経理業務におけるペーパーレス化の促進
    2. データ活用と業務効率化への貢献
    3. 環境負荷軽減と企業イメージ向上
  4. インボイス制度の海外導入事例(ベトナム、ポルトガル語圏など)
    1. 海外における電子インボイス制度の普及
    2. 海外事例から学ぶ導入の教訓
    3. 国際的なデジタル化の流れと日本への影響
  5. インボイス制度と電子帳簿保存法、導入のポイントと注意点
    1. 制度導入に向けた体制整備と準備
    2. システム選定とITベンダーとの連携
    3. 継続的な法令遵守と情報更新の重要性
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: インボイス制度と電子帳簿保存法の主な違いは何ですか?
    2. Q: インボイス制度は電子請求書とどう関係しますか?
    3. Q: 電子帳簿保存法を導入するメリットは何ですか?
    4. Q: インボイス制度は海外でも導入されていますか?
    5. Q: インボイス制度や電子帳簿保存法導入にあたり、注意すべき点はありますか?

インボイス制度とは?電子請求書との関係性

インボイス制度は、消費税の仕入税額控除の仕組みを変えるものであり、企業活動における消費税のやり取りに大きな影響を与えています。

特に電子請求書、いわゆる電子インボイスとの連携は、制度導入のメリットを最大化する鍵となります。

適格請求書等保存方式の概要と目的

インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」で、2023年10月1日から施行されました。この制度の導入により、買い手側は、売り手である適格請求書発行事業者から交付された「適格請求書(インボイス)」に記載された消費税額のみを、自身の仕入税額控除の対象とすることができます。

適格請求書を発行できるのは、税務署に申請し「適格請求書発行事業者」として登録を受けた課税事業者だけです。この制度が導入された背景には、2019年10月の消費税率10%への引き上げと軽減税率(8%)の導入により、税率が混在し消費税額の計算が複雑化したことがあります。

主な目的は、消費税額の正確な把握、免税事業者が受け取った消費税を納税せずに利益(益税)としていた状況を是正し納税の公平性を確保すること、そして事業者間の消費税のやり取りを正確に記録し納税額を算出しやすくすることにあります。(出典:参考情報)

電子インボイスとインボイス制度のメリット

インボイス制度の導入は、いくつかのメリットをもたらします。まず、適格請求書には税率ごとの消費税額の記載が義務付けられているため、取引における消費税額をより正確に把握できるようになります。

さらに、電子インボイスに対応したシステムを導入することで、請求書の発行から送付、受領、保管といった一連の業務を効率化し、ペーパーレス化を促進することが可能です。これにより、紙の印刷代や郵送費、保管コストの削減に繋がり、経理業務全体の生産性向上が期待できます。

売り手側にとっては、適格請求書発行事業者となることで、買い手側が仕入税額控除を受けるために取引先として選択する可能性が高まり、新たな取引先の開拓やビジネスチャンスの拡大にも繋がる可能性があります。

免税事業者への影響と経過措置の注意点

インボイス制度には注意すべき点も存在します。特に影響が大きいのは免税事業者です。免税事業者は適格請求書を発行できないため、免税事業者から仕入れを行う買い手側は仕入税額控除を受けられません。

このため、課税事業者が免税事業者との取引を敬遠する可能性があり、免税事業者の事業継続に影響を及ぼす恐れがあります。また、適格請求書発行事業者となる課税事業者にとっては、請求書のフォーマット変更、経理フローの見直し、対応システムの導入などが必要となり、一時的に事務負担が増加する可能性があります。

ただし、制度開始から6年間は、免税事業者からの仕入れについても、一定割合で仕入税額控除が認められる経過措置が設けられています。具体的には、2024年10月1日以降は、免税事業者等からの課税仕入れ額の合計額が10億円を超える場合、経過措置は適用されませんので、計画的な対応が不可欠です。(出典:参考情報)

電子帳簿保存法とは?インボイス制度との違い

電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類の電子保存に関する基本的なルールを定めています。インボイス制度とは目的が異なりますが、デジタル化という共通の方向性を持っています。

両制度の違いを理解することは、適切な経理体制を構築するために不可欠です。

電子帳簿保存法の概要と改正ポイント

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存する際のルールを定めた法律です。1998年に制定されて以来、デジタル化の進展に合わせて度々改正が繰り返されてきました。

特に重要な改正ポイントとしては、まず2022年1月1日から施行された「電子取引のデータ保存義務化」が挙げられます。これにより、メールやクラウドサービスなどを介してやり取りされた請求書や領収書などの電子取引データは、原則として電子データのまま保存することが義務付けられました。当初は宥恕(ゆうじょ)期間がありましたが、2024年1月1日からは完全義務化されています。

次に、電子帳簿等保存やスキャナ保存を行う際の「事前承認制度の廃止」も大きな変更点です。これにより、税務署長の事前承認が不要となり、事業者の事務負担が大幅に軽減されました。また、一定の要件を満たす「優良な電子帳簿」を作成・保存している場合、申告漏れがあった際の過少申告加算税が5%軽減される措置も整備され、電子保存の普及が後押しされています。(出典:参考情報)

業務効率化を実現するメリットと注意点

電子帳簿保存法に則った電子保存は、企業に多くのメリットをもたらします。最も大きなメリットは、業務効率化とペーパーレス化の促進です。

紙の書類をスキャンしたり、最初から電子データでやり取りしたりすることで、物理的な保管スペースが不要になり、書類の検索や管理が格段に容易になります。これにより、必要な情報を瞬時に見つけ出すことができ、経理担当者の業務負担を大幅に軽減します。また、紙の印刷代、郵送費、保管スペースにかかるコストを削減できるため、経営資源の有効活用にも繋がります。

さらに、場所を選ばずに書類の閲覧・処理が可能になるため、経理担当者のテレワーク推進にも貢献します。一方で注意点としては、電子取引のデータ保存には、日付・金額・取引先による検索機能の確保や、ダウンロードの要求に応じられる体制の整備など、細かな保存要件を満たす必要があることです。

これらの法令に違反した場合、罰則が科される可能性もあるため、要件を満たすためのシステム導入が強く推奨されます。(出典:参考情報)

インボイス制度と電子帳簿保存法の関係性

インボイス制度と電子帳簿保存法は、日本の税務・経理のデジタル化を進める上で、それぞれ異なる役割を担っています。

インボイス制度は、消費税の仕入税額控除の適正化、複数税率への対応、益税の是正を目的とし、事業者間の消費税のやり取り、特に請求書や納品書等の記載内容と保存方法に焦点を当てています。一方、電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類全般(経理帳簿、決算書類、取引関係書類など)の電子保存を促進し、業務効率化、ペーパーレス化、生産性向上を図ることを目的としています。

インボイス制度が2023年10月1日から施行されたのに対し、電子帳簿保存法は1998年から存在し、電子取引データの保存義務化が2024年1月1日に完全義務化されています。両制度は密接に関連しており、例えば、インボイス制度で交付される電子インボイスを保存する際には、電子帳簿保存法の要件を満たしている必要があります。

つまり、インボイス制度に対応する上で、電子帳簿保存法に則った電子インボイスの保存が求められる場合があるのです。両者は車の両輪のように、企業のデジタル変革を後押しする制度と言えるでしょう。(出典:参考情報)

インボイス制度、電子帳簿保存法、導入によるペーパーレス化

インボイス制度と電子帳簿保存法の導入は、企業の経理業務におけるペーパーレス化を強力に推進します。

これら二つの制度は、紙媒体での情報管理からデジタルでの情報管理へと、企業の働き方を大きく変える可能性を秘めています。

経理業務におけるペーパーレス化の促進

インボイス制度の導入により、適格請求書は従来の紙の形態だけでなく、電子インボイスとしての発行・受領が増加します。これにより、請求書のやり取りにおける紙の使用量が大幅に削減されることが期待されます。

電子帳簿保存法は、この動きをさらに加速させます。請求書だけでなく、領収書、見積書、注文書といった取引関係書類、さらには会計帳簿や決算関連書類など、国税関係のあらゆる帳簿書類の電子保存が義務付けられ、または推奨されます。結果として、紙の書類の印刷、郵送、ファイリングといった一連の作業が不要となり、経理業務全体でペーパーレス化が実現します。

これにより、書類の物理的な保管スペースも削減され、オフィス環境の最適化にも貢献するでしょう。

データ活用と業務効率化への貢献

ペーパーレス化は単に紙をなくすだけでなく、企業のデータ活用と業務効率化に大きく貢献します。紙の書類を電子データとして一元管理することで、必要な情報を瞬時に検索・閲覧することが可能になります。例えば、過去の特定の取引履歴や、特定のサプライヤーからの請求書を、キーワードや日付、金額で素早く探し出すことができます。

これにより、情報検索にかかる時間を大幅に短縮し、経理担当者はより付加価値の高い分析業務や戦略的な業務に集中できるようになります。また、電子データはシステム間で連携しやすいため、会計システムへの入力自動化や、データに基づいた経営状況のリアルタイムな把握が可能となり、迅速な意思決定を支援します。

手作業によるデータ入力や書類整理に伴うヒューマンエラーのリスクも低減し、業務の正確性が向上します。

環境負荷軽減と企業イメージ向上

ペーパーレス化は、環境保護の観点からも重要な意味を持ちます。紙の消費量を削減することは、森林資源の保護に直結し、紙の製造・輸送に伴うCO2排出量の削減にも貢献します。これは、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みとして、企業の社会的責任(CSR)を果たす上で非常に重要な要素となります。

デジタル技術を積極的に導入し、環境に配慮した持続可能な経営を行う企業として、社会からの信頼獲得や企業イメージの向上にも繋がるでしょう。特に、環境意識の高い消費者や取引先からの評価を高めることにも役立ち、企業の競争力強化にも貢献します。

環境への配慮は、現代において企業が生き残るための必須条件の一つとなっており、ペーパーレス化はその実現に向けた具体的な一歩と言えるでしょう。

インボイス制度の海外導入事例(ベトナム、ポルトガル語圏など)

税務制度のデジタル化は日本固有の動きではなく、世界中で加速しています。インボイス制度のような適格請求書制度や電子インボイスの義務化は、多くの国で導入が進められています。

海外の事例から、その背景や日本が学ぶべき点を考察します。

海外における電子インボイス制度の普及

インボイス制度や電子帳簿保存法のような税務デジタル化は、日本だけでなく世界的なトレンドとなっています。特にEU諸国では、B2G(企業と政府間取引)における電子インボイスの義務化が先行し、近年ではB2B(企業間取引)においても義務化の動きが拡大しています。

例えば、イタリアでは2019年からB2Bの電子インボイスが義務化され、フランスやドイツもこれに追随する計画を進めています。参考情報にあるように、アジアではベトナム、南米ではポルトガル語圏のブラジルをはじめとする多くの国々で、税収の透明性向上、税務コンプライアンスの強化、そして徴税効率化を目的に電子インボイス制度の導入が進展しています。

これらの国々では、VAT(付加価値税)制度の下で、請求書の発行・受領に関する厳格な電子データ要件が設けられています。これは、税務当局がリアルタイムに近い形で企業の取引を把握し、税収漏れや不正を防止するための重要な手段となっています。

海外事例から学ぶ導入の教訓

海外での電子インボイス制度導入事例からは、日本が学ぶべき多くの教訓があります。成功事例からは、制度導入前に政府が十分な情報提供期間と移行期間を設けること、中小企業への技術的・経済的支援策を講じることの重要性が示されています。

例えば、一部の国では、制度対応のためのITシステム導入費用に対する補助金制度や、政府が提供する無料の電子インボイスプラットフォームが用意されています。また、制度設計においては、各国のITインフラ整備状況や、地域ごとのデジタルリテラシーの差を考慮し、段階的な導入や柔軟な運用を認めることも重要です。

逆に、準備不足や急激な変更は、事業者の混乱を招き、経済活動に負の影響を与える可能性も指摘されています。海外の経験から、制度導入は単なる技術的な変更ではなく、社会全体での意識改革と丁寧なプロセスが不可欠であることが分かります。

国際的なデジタル化の流れと日本への影響

世界の税務デジタル化は、国境を越えたビジネスを行う企業にとって、もはや避けて通れない潮流です。日本企業が海外の取引先とビジネスを行う際にも、相手国の電子インボイス制度や電子帳簿保存要件への対応が求められるケースが増加しています。

日本のインボイス制度や電子帳簿保存法の導入は、この国際的なデジタル化の流れに沿ったものであり、国際取引におけるコンプライアンスを確保し、日本の国際競争力を維持・向上させる上で非常に重要です。将来的には、異なる国や地域の電子インボイスシステム間での相互運用性(インターオペラビリティ)の確保が、グローバルビジネスを円滑に進める上で不可欠となるでしょう。

これにより、国を跨いだ取引における書類のデジタル化と効率化が進み、国際的な商取引がよりスムーズに行われることが期待されます。

インボイス制度と電子帳簿保存法、導入のポイントと注意点

インボイス制度と電子帳簿保存法の導入は、企業の経理業務に大きな変革をもたらします。

これらの制度に適切に対応し、メリットを最大限に享受するためには、計画的な準備と継続的な努力が不可欠です。

制度導入に向けた体制整備と準備

インボイス制度と電子帳簿保存法に円滑に対応するためには、まず社内での体制整備と計画的な準備が最も重要です。まず、自社が適格請求書発行事業者として登録する必要があるかを確認し、必要であれば速やかに登録手続きを進めましょう。

次に、現在の請求書発行・受領、帳簿作成、保存に関する経理フローを詳細に見直し、制度要件を満たすように変更計画を立案します。特に、インボイス制度に対応した請求書フォーマットの変更や、電子取引データの保存方法の確立が重要なポイントとなります。

これらの変更は経理部門だけでなく、営業部門や情報システム部門など関係部署と密接に連携し、全社的な取り組みとして推進する必要があります。従業員への制度内容や新しい業務フローに関する周知・教育も徹底し、スムーズな移行を図りましょう。

システム選定とITベンダーとの連携

両制度への対応を効率的かつ確実に行うためには、適切な会計システムや請求書発行システム、文書管理システムの導入が不可欠です。システム選定の際は、単に機能性だけでなく、セキュリティの堅牢性、導入・運用コスト、既存システムとの連携性、そしてベンダーのサポート体制などを総合的に評価することが重要です。

特に電子帳簿保存法の要件である検索機能、タイムスタンプ付与、真実性の確保といった機能を備えているかを確認しましょう。自社の事業規模や業態に合わせた最適なシステムを導入するため、専門知識を持つITベンダーやコンサルタントと連携し、適切なアドバイスを受けることを強く推奨します。

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継続的な法令遵守と情報更新の重要性

税制改正や制度の運用に関する情報は常に更新されるため、制度導入後も継続的に法令を遵守し、最新の情報をキャッチアップすることが不可欠です。

国税庁のウェブサイトや関係省庁からの発表、税理士会からの情報提供などを定期的に確認し、自社の運用が法令要件を満たし続けているかを常にチェックする体制を構築しましょう。制度開始後も、定期的な内部監査やチェックリストを用いた運用状況の確認を行うことが、誤った運用を防ぐ上で非常に有効です。

不明点や疑問点が生じた場合は、自己判断せずに、税理士や税務署などの専門機関に相談し、正確な情報を得るように努めるべきです。法令遵守は企業の社会的信頼性に関わるため、継続的な努力が求められます。