源泉徴収税とは?なぜ引かれるのか、誰が払うのかを徹底解説

給与明細を見て、「源泉徴収税」の項目で毎月税金が引かれていることに疑問を感じたことはありませんか?

この源泉徴収税は、私たちの生活に密接に関わる大切な税金の一つです。

今回は、源泉徴収税の基本的な仕組みから、なぜ給与から天引きされるのか、誰が納める義務があるのかまで、分かりやすく解説していきます。

ぜひ最後まで読んで、源泉徴収税への理解を深めてください。

源泉徴収税の正式名称と基本的な仕組み

源泉徴収制度の定義と目的

源泉徴収税とは、所得税法に基づき、給与や報酬などの所得を支払う際に、あらかじめ所得税および復興特別所得税を差し引いて国に納付する制度を指します。

この制度の最大の目的は、納税者自身の申告・納税にかかる手間を軽減することと、国が安定的に税収を確保することにあります。

通常、所得税は納税者自身が計算して申告・納税するものですが、源泉徴収制度は特定の所得に対して、支払者が税金を徴収して国に納める仕組みを取り入れることで、徴収漏れを防ぎ、行政の効率化を図っています

平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間は、所得税に加えて復興特別所得税も合わせて源泉徴収されることになっています。これは東日本大震災からの復興財源を確保するためのものです。

申告納税制度との違いと補完関係

日本の所得税制度は、基本的に納税者自身が所得を計算し、税務署に申告・納税する「申告納税制度」が原則です。

しかし、全ての所得について個人が申告するのは、納税者にとっても税務署にとっても大きな負担となります。

そこで、給与所得など特定の所得については、所得を支払う側が所得税を計算・徴収し、国に納める「源泉徴収制度」が採用されています。

この源泉徴収制度は、申告納税制度を補完する役割を果たしており、納税者の手間を減らしつつ、国が確実に税金を徴収できる非常に効果的な仕組みと言えるでしょう。

これにより、納税者は毎月の給与から自動的に税金が引かれることで、年末に一度に多額の税金を支払う必要がなくなり、計画的な納税が可能になります。

源泉徴収される所得の種類

源泉徴収の対象となる所得は多岐にわたりますが、主に以下のものが挙げられます。

  • 給与、賞与、退職手当等: 会社員や公務員が受け取る給料、ボーナス、退職金などがこれに該当します。
  • 利子、配当: 銀行預金の利息や株式の配当金などです。
  • 報酬・料金等: 特定の専門職やフリーランスが受け取る報酬も源泉徴収の対象です。具体的には、原稿料、講演料、弁護士・税理士などへの報酬、プロスポーツ選手への報酬、映画・演劇等の出演料などが含まれます。
    これらの報酬は、所得の種類に応じて源泉徴収税率が異なります。

例えば、フリーランスのデザイナーが企業からデザイン料を受け取る場合、その報酬から源泉徴収されることがあります。詳細な税率や対象については、国税庁のウェブサイトで確認できます。

出典:国税庁ウェブサイト「源泉徴収のしくみ」

源泉徴収税が給与から天引きされる理由

納税者の負担軽減と利便性の向上

源泉徴収制度が給与から天引きされる最大の理由の一つは、納税者の負担を軽減し、利便性を向上させることにあります。

もし源泉徴収がなければ、給与所得者は年間所得を自身で計算し、年に一度まとめて税務署に申告・納税する義務が生じます。

これは、多くの人にとって時間的・精神的な負担が大きく、計算ミスや納付忘れのリスクも伴います。

源泉徴収によって毎月少しずつ税金が天引きされることで、納税者は「気づかないうちに」納税を終え、年末にまとまった税金を支払う必要がなくなります。

これは、家計管理の面でも大きなメリットと言えるでしょう。

国の税収安定化と徴収漏れの防止

源泉徴収制度は、国の税収を安定的に確保し、税金の徴収漏れを防ぐ上でも極めて重要な役割を担っています。

給与や報酬を支払う企業や事業主が、従業員や取引先に代わって税金を徴収し、国に納付する仕組みは、個々の納税者が申告し忘れるといった事態を防ぎます。

これにより、国は毎月決まった時期に安定した税収を得ることができ、公共サービスや国の運営に必要な財源を計画的に確保できるようになります。

特に、多くの納税者がいる給与所得においては、源泉徴収制度がなければ税務行政がパンクしてしまう可能性すらあるでしょう。

復興特別所得税の扱い

給与明細に記載されている源泉徴収税額には、所得税だけでなく「復興特別所得税」も含まれています。

この復興特別所得税は、東日本大震災からの復興財源を確保するために創設された税金で、所得税額の2.1%相当額が課されます。

具体的には、平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に生じる所得に対して適用されます。

源泉徴収制度では、所得税と復興特別所得税が一体として計算・徴収されるため、納税者としては特に意識することなく、両方の税金を納めていることになります。

この仕組みもまた、納税の手間を省き、スムーズな徴収を可能にするための工夫の一つと言えるでしょう。

源泉徴収税を納める義務があるのは誰?

源泉徴収義務者の定義と具体例

源泉徴収税を実際に徴収し、国に納める義務を負うのは「源泉徴収義務者」と呼ばれる人々や団体です。

源泉徴収義務者とは、給与や報酬などの所得を支払う際に、所得税および復興特別所得税を源泉徴収して国に納付する義務がある者を指します。

具体的には、以下のような立場の人や団体が該当します。

  • 会社(法人): 一般的な企業や組織が従業員に給与を支払う場合。
  • 個人事業主: 従業員を雇用している個人事業主や、フリーランスに報酬を支払う場合。
  • 学校、官公庁: 国や地方公共団体、学校法人なども該当します。
  • 人格のない社団・財団: 法人格を持たない任意団体も源泉徴収義務者となることがあります。

つまり、給与や報酬を支払う側の全てが源泉徴収義務者となり得るわけです。

源泉徴収義務が免除されるケース

全ての所得の支払いが源泉徴収の対象となるわけではありません。特定のケースでは、源泉徴収義務が免除されます。

例えば、個人が家事使用人(お手伝いさんなど)のみを雇用している場合は、源泉徴収義務がありません。これは、個人間の家事サービスに対する支払いは、事業活動とは見なされないためです。

また、給与所得者でない個人が、税理士や弁護士などに報酬を支払う場合も、源泉徴収の必要はありません。これは、これらの報酬支払いが個人の私的な支出とみなされるためです。

しかし、個人事業主として事業活動の一環で税理士や弁護士に報酬を支払う場合は、源泉徴収義務が発生します。

このように、源泉徴収の有無は、支払いの性質や支払者の立場によって異なります。

最終的な納税義務者と税額の精算

源泉徴収制度において、源泉徴収義務者が国に税金を納めますが、最終的な納税義務者はあくまで所得を得た本人、つまり「所得者」です。

源泉徴収された所得税は、あくまで仮の税額であり、年間の所得や控除の状況に応じて最終的な税額が確定されます。この精算のプロセスには、主に二つの方法があります。

  • 給与所得者(年末調整): 会社員などの給与所得者は、通常、年末に会社が行う「年末調整」によって年間の所得税額が精算されます。会社は従業員に代わって源泉徴収した税額と、本来納めるべき税額との過不足を調整し、還付または追加徴収を行います。
  • その他の所得者(確定申告): 利子、配当、報酬・料金などで源泉徴収された税額は、原則として納税者自身が「確定申告」を行うことで精算されます。確定申告では、年間の全ての所得と控除を計算し、源泉徴収された税額との差額を納付または還付してもらいます。

出典:国税庁ウェブサイト「年末調整の対象となる人」

源泉徴収税の区分(甲・乙)と特別徴収について

「甲欄」と「乙欄」の違いとその適用

給与所得者の源泉徴収税額は、「給与所得の源泉徴収税額表」に基づいて計算されますが、この税額表には「甲欄」と「乙欄」の二つの区分があります。

この区分は、従業員が給与の支払者に対して「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しているかどうかによって適用されます。

  • 甲欄: 「扶養控除等申告書」を提出している場合に適用されます。この申告書には、扶養親族の有無や障害者控除などの情報が記載されており、その内容に応じた控除が反映された低い税率が適用されます。甲欄は、原則として主たる給与の支払者(本業の会社)に対してのみ適用されます。
  • 乙欄: 「扶養控除等申告書」を提出していない場合に適用されます。これは、主に副業などで複数の会社から給与を得ている場合や、申告書を提出し忘れた場合などに該当します。乙欄は、控除が適用されないため、甲欄に比べて高い税率が適用されます。

そのため、複数の勤務先から給与を得ている場合は、本業の会社で甲欄、副業の会社では乙欄が適用されるのが一般的です。

給与計算における「扶養控除等申告書」の重要性

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、給与所得者にとって非常に重要な書類です。

この申告書を給与の支払者に提出することで、扶養親族の状況や、配偶者控除、障害者控除といった各種控除が源泉徴収税額に反映されます。

例えば、扶養親族がいればその分の控除が受けられるため、毎月の源泉徴収税額が低くなります。

逆に、この申告書を提出しないと、これらの控除が適用されず、乙欄の高い税率が適用されてしまうため、毎月の税金が多く徴収されてしまいます。

提出し忘れても年末調整で精算されますが、毎月の手取り額が減るため、必ず提出するようにしましょう。

また、扶養家族の状況などに変更があった場合は、速やかに再提出する必要があります。

源泉徴収税の納付期限と「納期の特例」

源泉徴収義務者は、源泉徴収した所得税および復興特別所得税を、原則として給与などの支払日の翌月10日までに、所轄の税務署に納付する必要があります。

例えば、3月に支払った給与から源泉徴収した税金は、4月10日までに納めなければなりません。

しかし、小規模な事業者にとっては毎月納付する手間が負担となる場合もあります。そこで設けられているのが「納期の特例」制度です。

この特例は、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者が、税務署の承認を受けることで利用できます。

納期の特例が承認されると、年2回にまとめて納付することが可能になります。

  • 1月から6月までの徴収分: 7月10日までに納付
  • 7月から12月までの徴収分: 翌年1月20日までに納付

この制度は、小規模な事業主の事務負担を大きく軽減するためのものです。

源泉徴収税に関する疑問を解消!Q&A

Q1: なぜ源泉徴収税額は毎月変動するの?

源泉徴収税額は、毎月の給与額だけでなく、様々な要因によって変動することがあります。

主な理由としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 給与額の変動: 残業手当や各種手当、インセンティブなどで毎月の総支給額が変わると、それに応じて源泉徴収される税額も変動します。
  • 社会保険料の変動: 健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料は、給与から控除されるため、その金額が変わると課税対象となる所得額が変わり、結果的に源泉徴収税額にも影響します。
  • 扶養控除等申告書の内容変更: 扶養家族が増減したり、結婚・出産などで控除対象となる状況が変わったりした場合、再提出された申告書に基づいて税額が再計算されます。

これらの変動は、給与計算時に最新の情報が反映されるため、毎月同じ給与額であっても、手取り額が異なることがあります。ご自身の給与明細を確認し、変動理由を把握することが大切です。

Q2: 消費税込みの報酬でも源泉徴収されるの?

報酬・料金の支払いにおいて、その金額が消費税込みである場合、源泉徴収の対象となる金額については原則として税込金額が対象となります。

例えば、フリーランスの方が11万円(消費税10%込み)の報酬を受け取った場合、原則として11万円に対して源泉徴収が行われます。

ただし、請求書や領収書などで消費税額が明確に区分されている場合は、消費税を含まない税抜金額を源泉徴収の対象とすることも可能です。この場合は、10万円に対して源泉徴収されることになります。

どちらの方法を適用するかは、報酬を支払う側と受け取る側の合意に基づきますが、一般的には、請求書で消費税額を明記しておくことで、税抜金額での源泉徴収を選択しやすくなります。

不明な場合は、事前に支払者に確認することをおすすめします。

出典:国税庁ウェブサイト「報酬・料金等の源泉徴収義務と税額」

Q3: 税制改正は源泉徴収税にどう影響するの?

税制改正は、源泉徴収税額に直接的な影響を与えることがあります。

所得税の基礎控除や給与所得控除などの見直しが行われると、それに伴い「源泉徴収税額表」や各種申告書の様式が変更されることがあります。

例えば、2025年(令和7年)度税制改正では、基礎控除や給与所得控除の見直し、特定親族特別控除の創設などが行われることが予定されています。

これにより、令和7年12月以降の年末調整や、令和8年分の給与計算から源泉徴収税額に影響が出ることが予想されます。

源泉徴収義務者である企業や個人事業主は、常に最新の税制改正情報を把握し、適切な源泉徴収を行う必要があります。

納税者である私たちも、税制改正によって手取り額や確定申告時の還付・納付額が変わる可能性があるため、国税庁のウェブサイトなどで最新情報を確認することが重要です。

出典:国税庁ウェブサイト「税制改正に関する情報」