概要: 給与や報酬から差し引かれる源泉徴収税。その計算方法や、いくらから引かれるのか、端数処理のルールなどを分かりやすく解説します。さらに、エクセルを使った効率的な計算方法もご紹介します。
源泉徴収税の基本:なぜ引かれるのか?
給与明細を見ると、必ず目にする「源泉徴収税」。これは一体何のために引かれているのでしょうか?その基本から見ていきましょう。
源泉徴収制度の仕組みと目的
給与から税金が天引きされる源泉徴収制度は、国が所得税を効率的に徴収するための仕組みです。会社員やアルバイトの給与、あるいは特定の報酬などを支払う側が、あらかじめ所得税額を計算し、その分を差し引いて国に納付します。
これにより、納税者自身が税金を計算して納める手間が省けるだけでなく、国にとっては安定した税収を確保できるという大きなメリットがあります。差し引かれた税金はあくまで概算であり、年末調整や確定申告で最終的な税額を精算することになります。
もし、源泉徴収がなかったら、一人ひとりが自分で税金を計算して納付する膨大な手間がかかり、税の滞納も増える可能性が高まるでしょう。この制度は、私たち納税者と国の双方にとって合理的なシステムなのです。
給与明細の「源泉徴収税」が示すもの
給与明細に記載されている「所得税」や「源泉所得税」の項目は、その月にあなたの給与から天引きされた所得税と復興特別所得税の合計額を示しています。これは、国税庁が公表する「源泉徴収税額表」に基づいて計算された概算額です。
重要なのは、この金額があなたの最終的な年間所得税額ではない、という点です。源泉徴収税は、社会保険料控除後の給与額と扶養親族の数などから算出されるため、毎月の給与額や家族構成によって変動します。
また、年間の所得が確定し、各種控除が適用される年末調整や確定申告によって、実際に納めるべき税額が決定されます。源泉徴収された金額が多ければ還付され、少なければ追加で納めることになります。
復興特別所得税とは?
源泉徴収される所得税には、実は「復興特別所得税」も含まれています。これは、東日本大震災からの復興財源を確保するために創設された税金で、2037年12月31日まで所得税額に対して課税されます。
具体的には、所得税額に2.1%を乗じた金額が復興特別所得税として加算されます。例えば、所得税額が10,000円だった場合、復興特別所得税は10,000円 × 2.1% = 210円となり、合計10,210円が源泉徴収されます。
給与明細の「所得税」という項目には、この復興特別所得税も合算されて表示されていることがほとんどです。私たちが支払っている税金が、日本の復興にも役立てられているということを意識しておくのも良いでしょう。
給与明細の源泉徴収税、いくらから引かれる?
給与から源泉徴収税が引かれるのは、いくら以上の収入があった場合なのでしょうか?その基準となる「源泉徴収税額表」について見ていきましょう。
源泉徴収税額表の役割
源泉徴収税額は、国税庁が毎年公表している「源泉徴収税額表」を使って計算されます。この税額表は、給与額(社会保険料控除後)と扶養親族の数に応じて、徴収すべき所得税額が細かく記載されている非常に重要な資料です。
会社の人事・経理担当者は、この税額表をもとに毎月の給与から源泉徴収税額を算出しています。税額表には「月額表」「日額表」「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」などがあり、給与の種類や支払方法に応じて適切な表が用いられます。
最新の税額表は、2026年分まで公表されており、税制改正によって毎年改定される可能性があるため、常に最新情報を確認することが重要です。(出典:国税庁)
社会保険料控除後の給与で決まる理由
源泉徴収税額を計算する際の基準となるのは、額面の給与額から社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など)を控除した後の金額です。これは、社会保険料が所得税法上の「社会保険料控除」の対象となるためです。
つまり、社会保険料を支払った分だけ、所得税の計算対象となる所得が減り、結果として税負担が軽減される仕組みになっています。そのため、給与明細で源泉徴収税額を確認する際は、社会保険料が天引きされた後の「課税対象額」に注目しましょう。
この計算方法により、同じ額面の給与をもらっていても、社会保険料の負担額が異なれば源泉徴収税額も変わってくることがあります。給与計算の透明性を保つためにも、このルールは非常に理にかなっています。
定額減税の適用でどう変わる?
令和6年(2024年)には、所得税と個人住民税の定額減税が実施されます。これは、納税者本人と扶養親族に対して、それぞれ所得税3万円、住民税1万円の合計4万円を減税するものです。
給与所得者の場合、この定額減税は令和6年6月1日以降に支払われる給与や賞与から順次控除される形で適用されます。毎月の給与計算において、減税額が反映されることで、手取り額が増えることになります。
ただし、定額減税はあくまで「所得税額」に対する減税であり、源泉徴収税額表の計算自体が変更されるわけではありません。給与計算システムが定額減税の仕組みに対応し、正確に控除が行われることが求められます。納税者としては、給与明細で減税額が適用されているか確認すると良いでしょう。(出典:国税庁)
源泉徴収税の計算方法:甲欄と乙欄の違い
源泉徴収税の計算において、最も重要な区別の一つが「甲欄」と「乙欄」です。この二つの違いを理解することは、自身の税額を知る上で不可欠です。
「扶養控除等申告書」が計算の鍵
源泉徴収税の計算で甲欄が適用されるか、乙欄が適用されるかを決める鍵となるのが、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」です。この申告書は、従業員が扶養親族の有無やその状況を会社に申告するための書類です。
この申告書を会社に提出することで、従業員は「主たる給与の支払者」として認められ、扶養控除などの税負担軽減措置を受けられる甲欄が適用されます。毎年年末に会社から提出を求められるこの書類は、給与明細の税額に直結するため、必ず提出しましょう。
2026年以降は「源泉控除対象親族」欄の新設や扶養親族の所得要件の見直しなど、さらに詳細な申告が求められるようになりますので、変更点にも注意が必要です。(出典:国税庁)
甲欄適用者の計算とメリット
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員には、甲欄が適用されます。甲欄は、扶養親族の数に応じた控除が源泉徴収税額の計算に反映されるため、税額が低く抑えられます。
例えば、扶養親族が多ければ多いほど、毎月の源泉徴収税額は少なくなります。これが、扶養控除申告書を提出する最大のメリットです。また、甲欄適用者は年末調整の対象となります。年末調整で年間の所得税が精算されるため、原則として確定申告の必要がありません。
複数の会社から給与を受け取っている場合でも、この申告書は一箇所にしか提出できません。最も収入が多い会社に提出するのが一般的です。
乙欄適用者の計算と注意点
一方、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない従業員には、乙欄が適用されます。乙欄が適用されるのは、主に副業をしており、主たる勤務先に申告書を提出している場合や、会社に申告書を提出し忘れているケースなどです。
乙欄の場合、扶養親族の控除が源泉徴収税額の計算に考慮されません。そのため、甲欄に比べて毎月の源泉徴収税額が高くなります。これは、年間の税額が不足する事態を防ぐための措置です。
乙欄適用者は、原則として年末調整の対象とならないため、必ず自身で確定申告を行い、年間の所得税額を精算する必要があります。賞与に対する源泉徴収税額も、乙欄の場合、賞与額に30.630%を乗じた税額が適用されるなど、甲欄とは異なる計算が行われますので注意しましょう。(出典:国税庁)
源泉徴収税の端数処理:切り捨て・切り上げのルール
源泉徴収税額を計算する際、小数点以下の端数が出た場合にどのように処理するのか、そのルールを理解しておくことは非常に重要です。
源泉徴収税額の計算における基本ルール
源泉徴収税額は、国税庁が定める源泉徴収税額表に基づいて計算されます。この税額表に記載されている金額は、既に端数処理がなされているのが一般的です。しかし、自分で計算を行う場合や、特定の算出率を乗じる場合などには、端数処理のルールを適用する必要があります。
所得税の計算における基本的な端数処理のルールは、原則として「1円未満切り捨て」です。これは、納税者の便宜を図るためのもので、所得税法や国税通則法に定められています。
ただし、計算の過程や特定の税額算出においては、四捨五入などの別のルールが適用される場合もあります。特に、復興特別所得税を加算する際には、計算順序と端数処理の方法に注意が必要です。
月額表・日額表での端数処理
源泉徴収税額表のうち、月給者や日給者に適用される「月額表」や「日額表」では、社会保険料控除後の給与等の金額に対応する税額が示されています。これらの表に記載されている税額は、すでに1円単位で表示されており、端数処理が完了しています。
したがって、税額表を参照してそのまま適用する分には、特別な端数処理は不要です。しかし、税額表の範囲を超えるような高額な給与の場合や、特定の税率を乗じて算出するケース(例えば、賞与に対する源泉徴収税額で乙欄の場合など)では、計算結果に1円未満の端数が出ることがあります。
この場合も、最終的な源泉徴収税額を算出する段階では、原則として「1円未満切り捨て」が適用されます。国税庁の最新の情報を確認し、正しいルールに則って処理しましょう。(出典:国税庁)
具体的な計算例で理解する
では、具体的な計算例で端数処理を見てみましょう。
例えば、社会保険料控除後の給与が254,321円で、源泉徴収税額表(甲欄、扶養親族0人)を参照した結果、5,234円という金額だったとします。この場合、表の金額をそのまま適用するため、端数処理は不要です。
しかし、賞与に対する源泉徴収税額で乙欄適用の場合、賞与額に30.630%を乗じて計算します。
賞与額が300,000円の場合:
300,000円 × 30.630% = 91,890円
この場合、既に小数点以下の端数がないため、91,890円が源泉徴収税額となります。
もし、計算の結果が91,890.5円などとなった場合は、1円未満切り捨てで91,890円となります。
このように、最終的な税額を決定する際は、常に1円未満の端数を切り捨てるのが原則です。複雑な計算を行う際は、国税庁のウェブサイトや専門家の情報で確認することをおすすめします。
エクセルで源泉徴収税を効率的に計算する方法
多くの企業や個人事業主にとって、源泉徴収税の計算は毎月の業務です。エクセルを上手に活用することで、この作業を効率化し、ミスを減らすことが可能です。
エクセルで源泉徴収税額表を作成するメリット
エクセルで源泉徴収税額表を再現し、計算シートを作成することには多くのメリットがあります。まず、手動で税額表を参照し、電卓で計算する手間が大幅に削減されます。特に従業員が多い場合、この自動化は業務効率を大きく向上させます。
次に、計算ミスや転記ミスといったヒューマンエラーのリスクを最小限に抑えられます。正確な数式と関数を一度設定すれば、あとはデータを入力するだけで、常に正しい税額が算出されます。
また、税制改正があった場合でも、数式の一部を修正するだけで対応できる柔軟性も魅力です。最新の税額表に合わせてデータを更新するだけで、常に最新の税法に基づいた計算が可能になります。複数従業員のデータを一元管理できる点も、大きなメリットと言えるでしょう。
計算シート作成のステップ
エクセルで源泉徴収税計算シートを作成する際の基本的なステップをご紹介します。
- 基本情報の入力欄を設定: 従業員名、社会保険料控除後の給与額、扶養親族の数などを入力するセルを用意します。
- 源泉徴収税額表のデータ入力: 国税庁が公表している源泉徴収税額表(月額表や日額表)のデータを、エクセルシート内の別のタブなどに転記し、検索用のデータベースを作成します。甲欄と乙欄の両方に対応できるよう準備しましょう。
- 税額検索関数の設定:
VLOOKUP関数やHLOOKUP関数、INDEX+MATCH関数などを活用し、入力された給与額と扶養親族の数に応じて、データベースから該当する源泉徴収税額を自動的に検索・表示するように設定します。 - 復興特別所得税の加算: 算出された所得税額に、復興特別所得税(所得税額の2.1%)を加算する数式を設定します。
- 甲欄・乙欄の切り替え機能: ドロップダウンリストなどを利用し、甲欄と乙欄を簡単に切り替えられるように設定します。これにより、同じシートで複数の従業員の計算が可能になります。
エクセル関数活用と注意点
エクセルでの計算には、以下のような関数が非常に有効です。
VLOOKUP(またはHLOOKUP)関数: 税額表の中から、該当する給与額と扶養親族の数に基づいた税額を検索する際に使います。IF関数: 甲欄と乙欄の適用を切り替えるロジックや、特定の条件分岐を設ける際に使用します。ROUNDDOWN関数: 1円未満の端数を切り捨てる際に利用します。
エクセルで計算シートを作成する際の最も重要な注意点は、最新の税額表への更新を怠らないことです。税制改正は毎年行われる可能性があり、特に定額減税のような複雑な要素が加わると、単純な数式の更新だけでは対応できない場合もあります。
自作のエクセルシートは便利ですが、常に最新の税法に対応しているか、専門の給与計算ソフトの導入も検討するなど、適切な運用を心がけましょう。
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**出典:**
* 国税庁
* 各社提供の年末調整・給与計算関連情報
まとめ
よくある質問
Q: 源泉徴収税はいくらから引かれますか?
A: 給与所得の場合、所得税がかかる金額(給与所得控除後)が1,000円を超えると源泉徴収の対象となります。ただし、扶養控除等申告書を提出しているか否かで計算方法が異なります。
Q: 源泉徴収税の計算で、10.21%や20.42%といった数字は何ですか?
A: これらは所得税の税率と復興特別所得税の税率を合わせたものです。所得税率は所得金額によって変動しますが、一般的に源泉徴収される税率は、所得税率10.21%(復興特別所得税2.1%を含む)または20.42%(復興特別所得税2.1%を含む)などがあります。0.1021や0.03063は、それぞれの税率を小数点で表したものです。
Q: 源泉徴収税の計算で「乙欄」とは何ですか?
A: 乙欄とは、給与所得者の扶養控除等申告書を提出していない場合に適用される計算方法です。乙欄で計算される源泉徴収税額は、甲欄(扶養控除等申告書を提出している場合)よりも多くなります。
Q: 源泉徴収税の端数処理はどのように行われますか?
A: 原則として、源泉徴収税額は1円未満の端数を切り捨てて計算されます。ただし、例外的なケースもありますので、ご自身の状況に合わせて確認が必要です。
Q: エクセルで源泉徴収税を計算できますか?
A: はい、エクセルを使えば源泉徴収税の計算を効率化できます。IF関数やVLOOKUP関数などを活用して、給与額や控除額に応じた税額を自動計算する表を作成することが可能です。
