減価償却の基礎知識:7年・10年・20年…耐用年数と計算方法

事業を始める際や拡大する際に、建物や機械、車両といった高額な資産を取得することはよくありますよね。これらの資産の費用をどのように会計処理するか、ご存知でしょうか?

それが「減価償却」です。特に、7年、10年、20年、さらには50年といった耐用年数や、その計算方法、そして小額資産の特例まで、減価償却には奥深い知識が必要です。

この記事では、減価償却の基本から具体的な計算方法、税制上の特例、さらには英語での表現まで、分かりやすく解説していきます。あなたのビジネスに役立つ情報が満載ですので、ぜひ最後までご覧ください。

減価償却とは?なぜ必要?

減価償却の定義と目的

減価償却とは、簡単に言うと「高額な固定資産の購入費用を、一度に経費にせず、その資産が使える期間(耐用年数)にわたって少しずつ費用として計上していく会計処理」のことです。

例えば、1,000万円の機械を導入した場合、購入した年に全額を費用とすると、その年の利益が極端に低く見えてしまう可能性があります。しかし、この機械は10年にわたって事業に貢献すると考えられますよね。

そこで、減価償却によって10年間にわたって毎年100万円ずつ費用計上することで、資産の価値の減少を適切に反映させ、企業の正確な期間損益を把握することが可能になります。これにより、費用と収益を同じ期間に対応させる「費用収益対応の原則」が実現され、より実態に即した経営成績を示すことができます。

費用収益対応の原則とキャッシュフロー

費用収益対応の原則は、会計の非常に重要な考え方の一つです。ある期間に得た収益に対して、その収益を得るためにかかった費用を対応させて計上することで、その期間の正しい利益を算出します。

減価償却は、この原則を実現するための不可欠な手段です。もし減価償却がなければ、初年度に巨額の赤字を計上し、翌年以降は費用が少なくなるという不自然な会計になってしまうでしょう。

さらに、減価償却費は「実際には現金の支出を伴わない費用」という特徴があります。これは、過去に一度現金は支出されていますが、会計上の費用として毎年計上されるため、その分だけ社内にキャッシュが留保されることになります。

この効果は「自己金融効果」とも呼ばれ、企業のキャッシュフローを安定させ、新たな投資や運転資金に充てるための内部資金を確保する上で、非常に重要な役割を果たします。

減価償却の対象となる資産・ならない資産

減価償却の対象となるのは、事業に使用する固定資産のうち、取得価額が10万円以上で、使用可能期間が1年以上の資産です。これらは「減価償却資産」と呼ばれます。

  • 有形固定資産: 建物、機械装置、車両運搬具、器具備品など、形のある資産全般。例えば、オフィスビル、製造機械、営業車、パソコン、応接セットなどが該当します。
  • 無形固定資産: ソフトウェア、特許権、商標権、のれんなど、形のない資産も減価償却の対象となります。

一方で、減価償却の対象とならない資産もあります。

  • 土地: 土地は、時間の経過や使用によって価値が減少することがないため、減価償却の対象外です。
  • 骨董品や美術品: これらの資産も、時間の経過によって価値が減少するどころか、むしろ上昇する可能性があるため、原則として減価償却は行いません。ただし、事業で消耗品的に使用されるものや、一定の要件を満たす場合は、減価償却の対象となるケースもあります。

このように、資産の性質によって減価償却の対象となるか否かが決まります。

資産の種類で変わる耐用年数:7年・10年・20年・50年など

法定耐用年数とは?

減価償却の計算において最も重要な要素の一つが「耐用年数」です。これは、資産がその本来の用途で使えると見込まれる期間を指します。

特に税法上では、「法定耐用年数」が「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によって細かく定められています。これは、資産の種類、構造、用途によって異なり、公平な会計処理と課税を行うための基準となります。

例えば、同じ建物でも、その構造(木造か鉄骨鉄筋コンクリート造か)や用途(事務所用か工場用か)によって耐用年数が大きく変わるのです。

また、個々の資産の使用状況によっては、法定耐用年数を短縮できる場合があります。例えば、製造工場で昼夜を問わず稼働している機械など、通常よりも劣化が激しいと認められるケースでは、税務署に申請することで耐用年数を短縮し、早期に費用計上することが可能です。

主要な資産の耐用年数例

実際のビジネスでよく用いられる資産の法定耐用年数をいくつか見てみましょう。これらの年数が、減価償却費を計算する上での基準となります。

以下に具体的な例をまとめた表を示します。

資産の種類 主な用途・構造 法定耐用年数
建物 事務所用(鉄骨鉄筋コンクリート造) 50年
事務所用(木造) 24年
車両運搬具 普通自動車(新車) 6年
貨物自動車(小型) 4年
機械装置 電気機器製造業用 10年
金属加工機械 7年
器具備品 パソコン 4年
事務机、応接セット 15年
エアコン 6年

このように、一口に固定資産といっても、その種類や細分類によって耐用年数は大きく異なります。「7年」「10年」「20年」「50年」といった具体的な数字は、事業計画や税金対策を立てる上で非常に重要な指標となります。

ご自身の所有する資産がどの区分に該当するかは、国税庁のウェブサイトなどで公開されている「減価償却資産の耐用年数表」で確認することができます。

中古資産の耐用年数と特例

新品の資産を購入する場合の耐用年数は上記の通りですが、中古の資産を取得した場合はどうなるのでしょうか?中古資産の場合、すでに使用されている期間があるため、法定耐用年数をそのまま適用すると実態に合いません。

そこで、中古資産の耐用年数は以下の計算式で求められます。

  1. 「法定耐用年数」-「経過した年数」
  2. 「(法定耐用年数」-「経過した年数」)+「経過した年数」×0.2」

上記1の計算結果が2年未満になる場合は2年とします。また、上記2の計算結果が法定耐用年数の20%に満たない場合は、法定耐用年数の20%とします。

この計算で算出された年数が、中古資産の耐用年数として適用されます。例えば、法定耐用年数10年の機械を5年使用した中古品として購入した場合、新しい耐用年数は「10年 – 5年 = 5年」となります。

この中古資産の特例は、企業にとって大きなメリットとなることがあります。残りの耐用年数が短縮されることで、年間の減価償却費が増え、その分だけ早期に費用を計上できるため、節税効果が期待できるのです。

特に、状態の良い中古資産を安価で取得し、この特例を適用することで、効率的な設備投資と節税の両立を図ることが可能になります。

定率法とは?7年償却率の計算方法

定額法と定率法の比較

減価償却の計算方法には、大きく分けて「定額法」と「定率法」の2種類があります。

定額法は、その名の通り、毎年同じ金額を減価償却費として計上する方法です。計算が非常にシンプルで分かりやすいのが特徴です。資産の取得価額に一定の償却率を乗じるか、耐用年数で割ることで、毎年の償却費を算出します。

計算式:取得価額 × 定額法の償却率 (または 取得価額 ÷ 耐用年数)

一方、定率法は、未償却残高(取得価額からすでに償却された金額を差し引いた残りの金額)に対して、毎年一定の償却率を乗じて減価償却費を計算する方法です。この方法では、資産の取得初年度に多額の減価償却費が計上され、年数が経つにつれて償却費が減少していくという特徴があります。

計算式:期首未償却残高 × 定率法の償却率

どちらの方法を選択するかは、税務署への届出によって決まります。特に届け出がない場合は、法人の場合は定率法、個人の場合は定額法が適用されるのが一般的です。

定率法の仕組みと計算例

定率法の計算は、未償却残高が毎年減少していくため、それに伴って減価償却費も少なくなります。この方法は、購入初期に資産が最も高い価値を持ち、最も多くの収益を生み出すという考え方に基づいています。

具体的な計算例を見てみましょう。例えば、取得価額100万円、耐用年数7年の機械装置(償却率0.286)を定率法で償却する場合。

  • 1年目: 100万円(期首未償却残高) × 0.286 = 28万6,000円
  • 2年目: (100万円 – 28万6,000円) × 0.286 = 20万4,284円
  • 3年目: (100万円 – 28万6,000円 – 20万4,284円) × 0.286 = 14万6,081円

このように、年数が進むにつれて償却費が減少しているのが分かります。

定率法には、さらに「改定償却率」や「償却保証額」といった仕組みがあります。償却保証額を下回る年度からは、定額法に切り替えるような形で償却が進められ、最終的には残存簿価1円まで償却されることになります。

耐用年数7年の償却率0.286は、定率法を選択した企業が初期に多額の費用を計上し、節税効果を得るための重要な数字です。

税制改正による定率法の変遷

減価償却制度、特に定率法は、経済状況の変化や国際的な会計基準との調和を図るため、度々改正されてきました。これらの改正は、企業の投資行動や税負担に大きな影響を与えます。

主な改正点としては、以下の点が挙げられます。

  • 平成19年4月1日以降取得資産:

    「新定率法(250%定率法)」が適用されました。この改正により、従来の定率法と比較して償却率が高くなり、初年度の減価償却費がさらに増加しました。また、残存価額(備忘価額)は1円まで償却可能となり、実質的に全額を費用計上できるようになりました。

  • 平成24年4月1日以降取得資産:

    定率法の償却率が引き下げられ、「200%定率法」が適用されるようになりました。これは、250%定率法よりも償却率が低くなり、減価償却費の計上ペースが緩やかになることを意味します。税収確保や企業の投資実態に合わせた見直しの一環と考えられます。

  • 平成28年4月1日以降取得の建物附属設備および構築物:

    この改正では、建物附属設備や構築物について、定率法が廃止され、定額法のみが適用されることになりました。これは、これらの資産が建物と同様に、時間の経過とともに比較的均等に価値が減少するという考え方に基づいています。

このように、減価償却の計算方法は、資産の取得時期によって適用されるルールが異なります。ご自身の所有する資産がいつ取得されたものかを確認し、適切な償却方法を適用することが非常に重要です。

小額減価償却資産の特例:5万円・30万円・50万円・60万円

少額減価償却資産とは?

原則として、取得価額が10万円以上の固定資産は減価償却の対象となりますが、少額の資産については、実務上の負担を軽減するために特例が設けられています。

具体的には、取得価額が10万円未満の減価償却資産は、その全額を「消耗品費」などとして、購入した事業年度に一括で費用計上することができます。これにより、減価償却計算の手間を省き、会計処理を簡素化できるのです。

例えば、5万円の事務用品や9万円のプリンターなどは、購入時に全額を費用として計上できるため、手軽に節税効果も得られます。

この「10万円未満」という基準は、事業を行う上で頻繁に発生する少額の備品購入に対応するためのものであり、資金繰りの予測を立てやすくするというメリットもあります。

一括償却資産と少額減価償却資産の特例

さらに、10万円以上20万円未満の資産や、中小企業向けの特別な制度も存在します。

  • 一括償却資産の特例:

    取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産は、「一括償却資産」として処理することができます。この特例を適用すると、その資産の法定耐用年数にかかわらず、3年間で均等に費用計上することが可能です。

    例えば、15万円の器具備品を購入した場合、毎年5万円ずつ3年間にわたって費用計上します。この特例は、個別の資産ごとに減価償却計算を行う手間を省き、償却期間も短縮できるため、事務負担の軽減に役立ちます。

  • 中小企業者等の少額減価償却資産の特例:

    最も大きなメリットを持つのが、この特例です。青色申告法人である中小企業者等(資本金1億円以下の法人など)は、取得価額が30万円未満の減価償却資産を、年間300万円を上限に全額費用計上することができます。

    これは、減価償却計算をすることなく、購入した事業年度にまとめて費用にできるため、大幅な節税効果が期待できます。例えば、25万円のパソコンを複数台購入したり、29万円のソフトウェアを導入したりした場合に活用できます。

    この特例は、中小企業の設備投資を促進し、経営を支援するための重要な制度です。適用には要件があるため、事前に税理士などに相談することをおすすめします。

これらの特例を活用することで、企業の会計処理はより効率的になり、資金繰りにも良い影響を与えるでしょう。

消費税の経理処理との関連

減価償却資産の取得に関する経理処理は、消費税の取り扱いにも影響を与えることがあります。

例えば、10万円未満の資産を「消耗品費」として一括で費用計上した場合、その消費税は「課税仕入れ」として処理され、仕入税額控除の対象となります。

一方、10万円以上の資産を固定資産として計上し、減価償却を行う場合も、原則として取得時に消費税の仕入税額控除を受けることができます。ただし、消費税の納税義務の判定(課税事業者か免税事業者か)や、消費税の計算方法(本則課税か簡易課税か)によっては、処理が異なる場合があります。

特に、消費税の簡易課税制度を適用している事業者の場合、固定資産の取得に伴う仕入税額控除の計算が特殊になることがあります。また、不動産取得に伴う消費税額が多額になる場合などは、税務署への届出状況や事業内容によって、消費税の還付時期や額に影響が出る可能性もあります。

減価償却資産の取得に際しては、消費税の適切な経理処理についても留意し、必要に応じて税理士に相談することが賢明です。

減価償却を英語で表現:Amortizationとは?

DepreciationとAmortizationの違い

日本語で「減価償却」と一言で言いますが、英語では資産の種類によって大きく2つの言葉が使い分けられます。

一つは「Depreciation(デプリシエーション)」、もう一つは「Amortization(アモータイゼーション)」です。

  • Depreciation: 主に有形固定資産(Tangible assets)の減価償却に用いられます。建物、機械装置、車両運搬具、器具備品など、形があり物理的に消耗していく資産の価値の減少を表します。ほとんどの企業が会計報告書で「Depreciation expense(減価償却費)」を計上しています。
  • Amortization: 主に無形固定資産(Intangible assets)の減価償却(償却)に用いられます。ソフトウェア、特許権、著作権、のれん(Goodwill)など、形はないが経済的価値を持つ資産の費用化を表します。これらの無形資産も時間の経過とともにその価値が減少したり、利用期間が終了したりするため、費用として配分する必要があります。

このように、英語では資産の「形があるかないか」で用語が明確に区別されており、それぞれの資産の特性に合わせた表現が用いられています。会計の世界では、この使い分けが非常に重要です。

日本語の減価償却に近い英語表現

日本語の「減価償却」という言葉は、文脈によってはDepreciationとAmortizationの両方を含む概念として使われることもあります。しかし、一般的なビジネスや会計の会話で単に「減価償却」と言う場合、多くの場合は有形固定資産の減価償却、つまり「Depreciation」を指すことが多いです。

例えば、「今年の減価償却費はいくらですか?」と尋ねる際には、「What is the depreciation expense this year?」と言うのが自然でしょう。

もし、ソフトウェアなどの無形資産の償却について具体的に話したい場合は、「What is the amortization expense for the software?」のように、「Amortization」を明示的に使用するのが正確です。また、これらをまとめて費用として計上する際には、「Depreciation and amortization expense (D&A)」という表現が使われることもあります。

国際的なビジネスシーンや英文会計書類を読む際には、この違いを理解しておくことが、正確なコミュニケーションのために不可欠となります。

国際会計基準(IFRS)における考え方

国際会計基準(IFRS)においても、減価償却の概念は日本の会計基準と共通する部分が多いですが、いくつかの異なるアプローチがあります。

IFRSでも、Depreciationは有形固定資産、Amortizationは無形固定資産の費用化を指します。

主な特徴としては、以下の点が挙げられます。

  • 残存価額の見直し: IFRSでは、減価償却の開始時だけでなく、毎年、残存価額を再評価することが求められます。これは、資産の最終的な売却価値の見込みをより実態に合わせるためです。
  • 償却方法の見直し: 償却方法も、資産の使用実態に合わせて毎年見直すことが推奨されています。例えば、生産高比例法など、より資産の消費パターンを反映した方法への変更が求められることがあります。
  • 構成要素アプローチ: 航空機のように、エンジンや機体など、寿命が異なる複数の主要な構成要素からなる資産については、それぞれの構成要素を個別に減価償却する「構成要素アプローチ」が適用される場合があります。

IFRSは、より企業の経済的実態を反映することを重視しているため、減価償却に関する判断基準が、日本の会計基準よりも柔軟かつ詳細に定められている傾向があります。

グローバル企業や海外との取引が多い企業にとっては、IFRSにおける減価償却の考え方を理解しておくことが非常に重要です。