会社が従業員の労働時間を正確に管理し、法的義務を遵守するためには、出勤簿(タイムカードや勤怠管理システムの記録なども含む)の適切な保管が不可欠です。

ここでは、出勤簿の保管義務と保存期間に関する最新の正確な情報と、会社が知っておくべきポイントをまとめました。

  1. 出勤簿とは?タイムカードとの違いと保管義務
    1. 出勤簿の定義とタイムカード・勤怠管理システムとの関係
    2. 労働基準法に基づく保管義務と対象者
    3. 保管義務違反のリスクと罰則
  2. 出勤簿の保存期間は?法的根拠を解説
    1. 原則5年、当面3年の法的根拠と経過措置
    2. 保存期間の起算日と具体例
    3. 賃金台帳・源泉徴収簿との関連性
  3. 出勤簿の保存方法:紛失を防ぐためのポイント
    1. 紙媒体での適切なファイリング方法
    2. 電子保存のメリットと勤怠管理システムの活用
    3. 退職者や派遣社員の出勤簿の取り扱い
  4. 出勤簿の捺印・ハンコは必要?廃止の動きと注意点
    1. 出勤簿における捺印の現状と法的要件
    2. 捺印廃止の動きとメリット・デメリット
    3. 電子署名や本人確認の代替手段
  5. 出勤簿の調査対応:ハローワークや年金事務所の調査とは
    1. 労働基準監督署の調査における出勤簿の役割
    2. ハローワーク・年金事務所調査での出勤簿の活用
    3. 調査対応をスムーズにするための準備と心構え
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 出勤簿の保管義務はどの法律で定められていますか?
    2. Q: 出勤簿の保存期間は具体的に何年ですか?
    3. Q: 出勤簿にハンコ(捺印)は必ず必要ですか?
    4. Q: タイムカードと出勤簿は併用しても良いですか?
    5. Q: ハローワークや年金事務所の調査で出勤簿を提示する必要はありますか?

出勤簿とは?タイムカードとの違いと保管義務

出勤簿の定義とタイムカード・勤怠管理システムとの関係

出勤簿とは、従業員の始業・終業時刻、休憩時間、労働時間などを記録し、管理するための書類または記録全般を指します。

その主な目的は、労働基準法に基づき、従業員の正確な労働時間を把握し、適切な賃金計算、健康管理、労務コンプライアンスを徹底することにあります。

一口に出勤簿と言っても、その記録媒体は多岐にわたります。古くからの紙の台帳やタイムカードだけでなく、近年ではICカード、生体認証、Web打刻など、勤怠管理システムを用いた多様な方法が普及しています。

これらの記録は全て、法律上「出勤簿」としての役割を果たし、企業の労働時間管理において同等に扱われます。

特に「働き方改革」の推進により、企業には従業員の労働時間を客観的に把握することが義務付けられており、これらの記録の正確性と適正な管理がより一層重要視されています。

労働基準法に基づく保管義務と対象者

出勤簿の保管義務は、労働基準法第109条に明確に定められています。これは、企業が従業員の労働関係に関する重要な書類を一定期間保存することを義務付けるものです。

この義務の対象となるのは、正社員はもちろんのこと、パートタイム、アルバイト、契約社員、派遣社員など、雇用形態に関わらずすべての従業員です。

ただし、管理監督者やみなし労働時間制が適用される労働者については、労働時間の把握義務の対象外となる場合があります。しかし、企業には過重労働防止や健康管理の観点から、これらの労働者の労働時間も把握し、保管することが望ましいとされています。

出勤簿を適切に保管することは、単に法律を遵守するだけでなく、従業員の健康と安全を守り、労使間の信頼関係を築く上で不可欠な責任と言えるでしょう。

保管義務違反のリスクと罰則

出勤簿の保存義務を怠った場合、企業は重大なリスクに直面することになります。

労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性があります。これは、法令違反として企業に直接的な金銭的負担を強いるものです。

さらに、労働基準監督署からの是正勧告や指導を受けることになり、改善計画の提出や定期的な報告が求められるなど、企業の負担が増大します。

最も深刻なのは、従業員との賃金トラブルが発生した際に、客観的な証拠となる出勤簿を提出できず、問題解決が困難になるリスクです。未払い残業代の請求などが発生した場合、企業は不利な立場に立たされる可能性が高まります。

このような状況は、企業の社会的信用を大きく損ない、ブランドイメージの低下にも繋がりかねません。適正な保管は、企業の健全な運営と信頼性維持のために不可欠です。

出勤簿の保存期間は?法的根拠を解説

原則5年、当面3年の法的根拠と経過措置

出勤簿の保存期間は、労働基準法第109条により原則として5年間と定められています。これは、賃金請求権の消滅時効期間が5年に延長されたことに伴うものです。

しかし、法改正による混乱を避けるための経過措置として、当分の間は3年間の保存でも問題ないとされています。

この経過措置は、多くの企業が制度変更に対応するための猶予期間として設けられました。企業は現状3年間保管していれば直ちに罰則の対象となることはありませんが、将来的には5年間の保存が必須となることを見据え、体制の準備を進めることが強く推奨されます。

計画的な移行期間を設け、早めに5年保存に対応できるようなシステムや保管方法を確立することが賢明です。

保存期間の起算日と具体例

出勤簿の保存期間を計算する際の起算日は、2020年の法改正により変更されました。

以前は「記録の完結日」など曖昧な表現でしたが、現在は「賃金が支払われた日」と明確に定められています。これにより、保存期間の計算がより正確かつ客観的に行えるようになりました。

具体例を挙げると、以下のようになります。

  • 2025年3月31日に退職した従業員の最終給与が2025年4月15日に支払われたとします。
  • この場合、保存期間の起算日は2025年4月15日となります。
  • 原則通り5年保存であれば2030年4月14日まで、経過措置の3年保存の場合でも2028年4月14日まで、その従業員の出勤簿を保管する必要があります。

この起算日の変更は、未払い賃金等の請求に対応するために非常に重要であり、企業は正確に把握しておく必要があります。

賃金台帳・源泉徴収簿との関連性

出勤簿の保存期間を考える上で、他の労務関連書類との関連性も重要です。

賃金台帳も出勤簿と同様に、労働基準法第109条に基づき原則5年(当面3年)の保存義務があります。

特に注意が必要なのは、賃金台帳が「源泉徴収簿」を兼ねている場合です。税法上、源泉徴収簿の保存期間は7年間と定められています。

この場合、賃金台帳およびその基礎となる出勤簿などの労働時間記録についても、7年間の保存が求められることがあります。

複数の法令に基づく保存期間がある場合、企業は最も長い期間に合わせて保管することが、コンプライアンス遵守の観点から最も安全な選択となります。

関連する書類の保存期間を一元的に管理し、常に最新の法規制に対応できる体制を整えることが、トラブルを未然に防ぐ上で重要です。

出勤簿の保存方法:紛失を防ぐためのポイント

紙媒体での適切なファイリング方法

紙媒体で出勤簿を保管している企業は、紛失や破損を防ぎ、必要な時にすぐ取り出せるよう適切なファイリングが不可欠です。

推奨される方法としては、期間ごと(例:月ごと、年ごと)にまとめてファイリングし、さらに従業員ごとに整理することです。これにより、特定の従業員の記録や特定の期間の記録を容易に探し出すことができます。

ファイリングした書類は、施錠できるキャビネットや保管庫に収納し、関係者以外がアクセスできないように管理しましょう。また、火災や水害などから書類を守るための防火・防水対策も検討することが重要です。

労働基準監督署などからの提出要求があった際に、スムーズに対応できるよう、常に整理整頓された状態を維持することが求められます。

電子保存のメリットと勤怠管理システムの活用

近年では、勤怠管理システムを導入し、出勤簿をデータとして電子保存する方法が主流となっています。</

電子保存には多くのメリットがあります。

  • 保管スペースが不要:紙媒体のような物理的な保管場所が必要なくなり、オフィススペースの有効活用に繋がります。
  • 紛失・破損リスクの低減:データとして保存されるため、紙媒体のような紛失や破損のリスクが大幅に低減されます。
  • 管理コストの削減:書類の整理、保管、検索にかかる時間や人件費を削減できます。
  • 利便性の向上:リアルタイムでの勤怠状況把握や、給与計算システムとの連携が容易になります。

勤怠管理システムは、打刻から集計、申請、承認、給与計算ソフトへのデータ連携までを一元的に効率化します。また、「働き方改革」で義務付けられた労働時間の客観的把握を容易にし、異常な勤怠に対するアラート機能など、コンプライアンス強化にも大きく貢献します。

電子保存を行う際は、電子帳簿保存法の要件を満たす形でデータを保存することが重要です。</

退職者や派遣社員の出勤簿の取り扱い

出勤簿の保管は、現在在籍している従業員だけでなく、退職した従業員についても同様の義務が課されます。

退職者の出勤簿も、在籍者と同様に原則5年間(経過措置期間中は3年間)保管する必要があります。これは、退職後に未払い賃金の請求や労働災害の申告などが発生した場合に、客観的な証拠として労働時間記録が必要となるためです。

また、派遣社員の場合も注意が必要です。派遣社員の出勤簿は、労働者派遣法に基づき、派遣元企業と派遣先企業の双方で管理・保管が必要です。

派遣先企業は、派遣労働者の指揮命令を行い、実態として労働時間を管理しているため、その記録を適切に保管する責任を負います。両社が連携し、適切に保管体制を整えることが重要です。

出勤簿の捺印・ハンコは必要?廃止の動きと注意点

出勤簿における捺印の現状と法的要件

出勤簿に従業員が捺印(押印)や署名をすることは、日本の企業文化や慣習として広く行われてきました。

しかし、実は労働基準法などの法令において、出勤簿への従業員の捺印や署名を義務付ける規定はありません。あくまで企業内のルールや慣習として実施されているケースがほとんどです。

捺印や署名を行う目的としては、記録内容の本人確認、不正打刻の防止、従業員自身による記録内容の承認といった意味合いがありました。

現代の勤怠管理システムにおいては、ログインIDとパスワードによる認証、指紋や顔認証といった生体認証、あるいは個別の打刻履歴による本人特定が主流となっており、物理的な捺印に頼る必要性は薄れてきています。

捺印廃止の動きとメリット・デメリット

近年、政府が推進するペーパーレス化やデジタル化の流れを受け、多くの企業で出勤簿における捺印・押印の廃止が進んでいます。

この動きには以下のようなメリットがあります。

  • 業務効率化:捺印のために書類を回覧する手間が省け、承認プロセスが迅速化します。
  • コスト削減:紙の消費量や印刷コスト、印紙代などを削減できます。
  • リモートワーク対応:在宅勤務などの多様な働き方において、物理的な押印が不要となり、柔軟な対応が可能になります。

一方で、慣習からの移行にはデメリットや注意点も存在します。従業員が捺印に慣れている場合、廃止によって戸惑いが生じたり、記録に対する責任感が薄れると感じるかもしれません。

また、捺印がなくなることで、不正打刻のリスクに対する懸念が生じる可能性もあります。そのため、適切な代替手段を講じることが重要です。

電子署名や本人確認の代替手段

捺印を廃止する際には、その代わりとなる本人確認の手段を確実に導入することが不可欠です。

勤怠管理システムを導入している場合、以下のような機能が代替手段として有効です。

  • ログインIDとパスワードによる厳格な認証
  • 指紋認証や顔認証などの生体認証
  • 打刻時のIPアドレス制限やGPS情報による位置情報取得
  • 従業員自身による打刻内容の定期的な確認とシステム上での承認機能

重要なのは、誰が、いつ、どれくらいの時間働いたのかを客観的かつ信頼性高く証明できる記録であることです。システム上の電子署名機能や、打刻履歴の確認・承認プロセスを整備することで、捺印がなくても労働時間記録の正当性を担保できます。

企業は、自社の状況に合わせて最適な代替手段を検討し、従業員への十分な説明と理解を求めることが成功の鍵となります。

出勤簿の調査対応:ハローワークや年金事務所の調査とは

労働基準監督署の調査における出勤簿の役割

労働基準監督署による調査は、企業の労務管理が労働基準法等の法令に則っているかを確認するために行われます。この調査において、出勤簿は最も重要な証拠資料の一つとなります。

監督署は、未払い賃金(特に残業代)、長時間労働の実態、休憩・休日が適切に付与されているか、有給休暇の管理状況など、多岐にわたる項目をチェックします。

出勤簿の記録は、これらの項目を裏付ける具体的なデータとなるため、記録が不適切であったり、不整合があったりすると、是正勧告指導、ひいては罰則の対象となる可能性が高まります。

賃金台帳、雇用契約書、就業規則などの他の関連書類との整合性も厳しく確認されるため、日頃からすべての書類を正確に、かつ整合性のある状態で管理しておくことが求められます。

ハローワーク・年金事務所調査での出勤簿の活用

出勤簿は、労働基準監督署の調査だけでなく、ハローワークや年金事務所の調査においても重要な役割を果たします。

例えば、ハローワークでは、雇用保険関係の各種給付金(育児休業給付金、介護休業給付金、高年齢雇用継続給付金など)の申請時に、従業員の実際の労働時間を証明するために出勤簿の提出を求められることがあります。

また、従業員が退職する際の離職票作成時にも、在籍期間や労働時間の確認に利用されます。労働時間の記録が不正確だと、給付金の受給資格に影響を及ぼしたり、離職票の再提出を求められたりする可能性があります。

一方、年金事務所の調査では、厚生年金や健康保険の加入状況、標準報酬月額の決定、育児休業等期間の保険料免除申請などの際に、従業員の労働実態を確認するために出勤簿が必要となる場合があります。

これらの調査は、従業員の社会保険や雇用保険の適正な手続きを行うために不可欠であり、出勤簿は公正な判断を下すための客観的証拠となります。

調査対応をスムーズにするための準備と心構え

万が一、行政機関からの調査が入った場合でも、スムーズに対応できるよう日頃からの準備が重要です。

  • 正確な記録と保管:最も基本ですが、日々の勤怠記録を正確に行い、定められた期間、適切に保管することが最優先です。
  • 整理整頓:いつでも提示できるよう、出勤簿や関連書類は期間ごと、従業員ごとに整理された状態を維持しましょう。
  • 整合性の確認:出勤簿、賃金台帳、雇用契約書、就業規則など、関連するすべての書類の内容に矛盾がないか、定期的に確認してください。
  • 誠実な対応:調査官の質問には、事実に基づいて誠実に回答することが求められます。不明な点は無理に回答せず、確認後に改めて情報提供する姿勢が大切です。

もし、自社での対応に不安がある場合や、不明な点が多い場合は、社会保険労務士などの専門家にあらかじめ相談し、アドバイスを受けておくことをお勧めします。

適切な出勤簿の管理と保存は、企業の信頼性を維持し、労務コンプライアンスを強化するために不可欠です。最新の法改正に対応し、自社に合った管理方法を導入することが重要です。