年末調整の季節が近づくと、どのような控除が適用されるのか気になる方も多いのではないでしょうか。特に、扶養控除は対象となる親族の年齢や状況によって、適用される金額や条件が大きく変わるため、注意が必要です。

この記事では、60歳以上、70歳以上、そして0歳児(赤ちゃん)といった特定の年齢層の扶養親族に焦点を当て、年末調整における扶養控除のポイントや、関連する最新情報について詳しく解説します。あなたの年末調整がスムーズに進むよう、ぜひ参考にしてください。

  1. 60歳以上の扶養親族がいる場合の年末調整
    1. 一般の扶養控除対象となる60歳代
    2. 扶養控除と健康保険の扶養
    3. 同居・別居による影響
  2. 70歳以上の親族がいる場合の年末調整と特定扶養親族
    1. 「老人扶養親族」の特別な控除
    2. 2025年からの所得要件変更と注意点
    3. 特定扶養親族と混同しないために
  3. 65歳以上の親族がいる場合の年末調整と介護保険料
    1. 扶養親族と介護保険料控除の関連性
    2. 後期高齢者医療制度における変更点
    3. 年末調整での申告方法と必要書類
  4. 0歳児(赤ちゃん)を扶養に入れる際の年末調整
    1. 16歳未満は扶養控除対象外
    2. 児童手当の拡充と最新情報
    3. 出産・育児に関するその他の支援制度
  5. その他の年齢に関する年末調整の注意点(401k、過去分など)
    1. 確定拠出年金(iDeCo/401k)と年末調整
    2. 過去分の年末調整のやり直し(還付申告)
    3. 社会保険の適用拡大と扶養の関係
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 60歳以上の親を扶養に入れています。年末調整で特別な手続きは必要ですか?
    2. Q: 70歳以上の親を扶養に入れています。年末調整で何か変わりますか?
    3. Q: 65歳以上の親の介護保険料は年末調整で考慮されますか?
    4. Q: 生まれたばかりの0歳児を年末調整で扶養に入れるにはどうすればいいですか?
    5. Q: 過去の年末調整で、申告漏れがあった場合はどうなりますか?

60歳以上の扶養親族がいる場合の年末調整

60歳以上の扶養親族がいる場合、その方の年齢によって適用される扶養控除の扱いが変わります。まずは、一般の扶養控除の対象となる60歳代の親族について見ていきましょう。

一般の扶養控除対象となる60歳代

60歳以上70歳未満の親族を扶養している場合、その親族は「一般の控除対象扶養親族」として扱われます。この場合の控除額は、38万円です。適用されるためには、扶養親族が納税者と生計を一にしていること、そして合計所得金額が48万円以下であることなどの要件を満たす必要があります。

例えば、65歳のお母様が年金収入のみで、その合計所得金額が48万円以下(給与収入であれば103万円以下)であり、あなたが生活費を援助している場合などがこれに該当します。この所得要件は、2025年分の所得税から58万円以下に引き上げられる予定です(給与収入であれば123万円以下)。これにより、より多くの60歳代の親族が扶養控除の対象となる可能性がありますので、今後の動向にも注目しましょう。

生計を一にしているかどうかの判断は、同居していれば問題ありませんが、別居の場合でも、定期的な仕送りや医療費の負担など、生活費の援助が明確であれば認められます。

扶養控除と健康保険の扶養

年末調整における所得税の扶養控除と、健康保険の扶養は、それぞれ異なる制度であり、適用要件も異なります。年末調整の扶養控除は、主に所得要件と生計要件が中心ですが、健康保険の扶養は、扶養される方の年収が原則として130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)であることなどが条件となります。

したがって、年末調整で扶養控除の対象となっても、必ずしも健康保険の扶養にも入れるわけではありません。また、その逆も然りです。例えば、60歳以上の親族が年金収入があり、その金額が130万円を超えていれば、健康保険の扶養からは外れてしまいます。しかし、所得税の合計所得金額が48万円以下であれば、年末調整の扶養控除は適用可能です。

両方の制度の要件を個別に確認し、適切に手続きを行うことが重要です。特に、親族がパートなどで働いている場合や、複数の年金を受け取っている場合は注意が必要です。

同居・別居による影響

60歳以上70歳未満の一般の扶養親族の場合、同居しているか別居しているかによって扶養控除額が変わることはありません。控除額は一律で38万円です。しかし、70歳以上の老人扶養親族の場合には、同居か別居かで控除額が異なりますので、その点との混同に注意が必要です。

別居している親族を扶養に入れる場合でも、生計を一にしていること、つまり「常に生活費、療養費等の送金が行われている」などの客観的な事実があれば認められます。具体的には、毎月の仕送り記録(銀行振込の控えなど)や、親族の医療費を負担した領収書などを保管しておくと良いでしょう。

年末調整の際に提出する「扶養控除等(異動)申告書」には、扶養親族の氏名や生年月日だけでなく、納税者との続柄、同居の有無などを正確に記載する必要があります。別居の場合でも、どのように生計を共にしているのかを説明できるように準備しておきましょう。

70歳以上の親族がいる場合の年末調整と特定扶養親族

70歳以上の親族を扶養している場合は、特別な控除が適用されます。これを「老人扶養親族」と呼び、一般の扶養親族よりも控除額が手厚くなっています。

「老人扶養親族」の特別な控除

70歳以上の扶養親族がいる場合、その親族は「老人扶養親族」として扱われ、以下の通り、一般の扶養控除(38万円)よりも手厚い控除が受けられます。

  • 同居老親等(納税者と同居している70歳以上の親族):58万円
  • 同居老親等以外の者(納税者と別居している70歳以上の親族):48万円

「同居老親等」とは、納税者またはその配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、常に納税者または配偶者と同居している方を指します。病気の治療のために長期入院している場合でも、一時的な入院とみなされ、同居扱いとなるケースもありますので、個別の状況については税務署に確認することをおすすめします。

この控除額の差は大きく、年末調整での税負担軽減に直結します。扶養親族が高齢になった際は、この特別な控除が適用されることを忘れずに申告しましょう。

2025年からの所得要件変更と注意点

参考情報にもある通り、2025年分の所得税から、扶養親族および同一生計配偶者の合計所得金額の要件が、現行の48万円以下から58万円以下に引き上げられます。これは、基礎控除や給与所得控除の見直しに伴う改正です。

給与収入のみの場合、扶養控除の対象となる給与収入の上限が、これまでの103万円以下から123万円以下に変わります。これにより、これまで所得がわずかにオーバーしていたために扶養控除を受けられなかった親族が、2025年からは対象となる可能性が出てきます。特に年金収入のある高齢の親族の場合、この変更が適用されるかどうかを事前に確認しておくことが大切です。

年末調整は対象となる年の1月1日から12月31日の状況で判断されるため、2025年からの変更については、2025年の年末調整(2026年1月提出分)から適用されることになります。ご自身の親族の所得状況を把握し、最新の税制改正情報を確認しながら準備を進めましょう。

特定扶養親族と混同しないために

「特定扶養親族」という言葉も年末調整でよく耳にしますが、これは「19歳以上23歳未満」の扶養親族に適用される控除であり、控除額は63万円です。主に大学生や専門学校生の子どもなどがこれに該当します。

「老人扶養親族」と「特定扶養親族」は、対象年齢が全く異なる別の控除ですので、混同しないように注意が必要です。また、2025年1月1日以降に支払われる給与等については、「特定親族特別控除」が創設されることも発表されています。これは、19歳以上23歳未満の親族で、合計所得金額が58万円超123万円以下(給与収入188万円以下)の場合に適用される控除です。

このように、扶養控除には複数の種類があり、それぞれに適用要件や控除額が定められています。ご自身の扶養親族の年齢や状況に合わせて、最も適切な控除を適用できるよう、国税庁の情報を確認するなどして正確な知識を持つことが大切です。

65歳以上の親族がいる場合の年末調整と介護保険料

65歳以上の親族を扶養している場合、年末調整の際には扶養控除だけでなく、介護保険料に関する控除も考慮する必要があります。

扶養親族と介護保険料控除の関連性

扶養親族が65歳以上の場合、その方が支払う介護保険料を、納税者が代わりに支払った際に、「社会保険料控除」の対象とすることができます。介護保険料は、公的医療保険制度の一部であり、65歳以上の方に納付義務が生じます。

例えば、あなたがご自身の親の介護保険料を口座振替や現金で支払っている場合、その支払った金額の全額があなたの所得から控除され、税負担を軽減できます。ただし、控除の対象となるのは納税者自身が実際に支払った介護保険料に限られます。親族が年金から天引きされている分を、あなたが控除として申告することはできませんので注意が必要です。

年間で支払った介護保険料の総額を年末調整の書類に記入することで、節税効果が得られます。領収書や支払い証明書を保管し、忘れずに申告しましょう。

後期高齢者医療制度における変更点

75歳以上(または65歳から74歳で一定の障害がある方)が加入する「後期高齢者医療制度」においては、近年、医療費の窓口負担割合や保険料に関する重要な変更がありました。

  • 窓口負担割合の変更: 2022年10月からは、一定以上の所得がある75歳以上の方の窓口負担割合が、1割から2割に引き上げられました。これは被保険者全体の約20%に影響すると推計されています。
  • 保険料負担の見直し: 2024年度からは、年収211万円超の人の保険料が上がり、2025年度には年収153万円超の人も対象になります。また、保険料の年間上限額も段階的に引き上げられる方針です。

これらの変更により、扶養している高齢の親族の医療費負担が増加する可能性があります。ご自身の経済状況や、扶養親族の所得状況を確認し、将来的な医療費の計画を立てる上で重要な情報となります。

年末調整での申告方法と必要書類

扶養親族の介護保険料を社会保険料控除として年末調整で申告する場合、特別な証明書を添付する必要はありません。年末調整の「保険料控除申告書」の「社会保険料控除」欄に、支払った介護保険料の年間合計額を記入するだけで構いません。

ただし、会社によっては金額の確認のため、支払い証明書や領収書の提示を求められることがありますので、自身で支払った記録は必ず保管しておきましょう。また、親族が年金から天引きされている介護保険料は、その親族の年金の源泉徴収票に記載されており、納税者本人が控除することはできません

もし親族が確定申告を行う場合は、ご自身の年金の源泉徴収票に基づいて社会保険料控除を申告できます。納税者と扶養親族それぞれの状況に合わせて、適切な申告方法を選択することが大切です。

0歳児(赤ちゃん)を扶養に入れる際の年末調整

小さなお子様がいるご家庭では、0歳児を扶養に入れる際の年末調整について疑問に思う方もいるかもしれません。ここでは、0歳児の扶養控除と、関連する支援制度について解説します。

16歳未満は扶養控除対象外

残念ながら、0歳児を含む「16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)」は、所得税の計算上、扶養控除の対象にはなりません。これは、2010年の税制改正により、子ども手当(現在の児童手当)の創設と引き換えに、16歳未満の扶養控除が廃止されたためです。

そのため、年末調整の「扶養控除等(異動)申告書」には、16歳未満の子どもであっても氏名や生年月日を記載する欄がありますが、これはあくまで住民税の非課税限度額の計算などに使用される情報であり、所得税の控除額に影響を与えるものではありません。所得税の扶養控除は受けられませんが、住民税においては非課税となる場合があるため、記入は必要です。

直接的な税控除はないものの、子育て世帯には国や自治体からの様々な支援がありますので、そちらを活用しましょう。

児童手当の拡充と最新情報

16歳未満の扶養控除が廃止された代わりに、子育て世帯への経済的支援として「児童手当」が大幅に拡充されています。特に2024年10月分からの変更点は非常に重要です。

  • 所得制限の撤廃: これまで設けられていた所得制限が撤廃され、全ての所得層が対象となりました。
  • 支給期間の延長: 支給期間が、これまでの「中学校修了まで」から「高校生年代(18歳になる年度末)まで」に延長されました。
  • 第3子以降の増額: 第3子以降の支給額が、月額15,000円から30,000円に増額されました。
  • 支払回数の変更: 年3回(2月・6月・10月)から、偶数月の年6回に変更され、よりこまめに支給されるようになります。

これらの拡充により、子育て世帯の経済的負担が大きく軽減されることが期待されます。0歳児を扶養に入れている世帯はもちろん、すべての子育て世帯にとって朗報です。

出産・育児に関するその他の支援制度

児童手当以外にも、出産や育児をサポートするための様々な公的支援制度があります。

  • 出産育児一時金の増額: 2023年4月からは、出産育児一時金が42万円から50万円に引き上げられました。健康保険に加入していれば、出産時にまとまった費用が支給され、家計の大きな助けとなります。
  • 低所得世帯への給付金: 住民税非課税世帯や均等割のみを納めている世帯などに対し、給付金が支給されています。例えば、2023年12月から2024年1月にかけては、非課税世帯に7万円、その他低所得世帯には追加で5万円や10万円などが支給されるケースがありました。これらの給付金は、子育て世帯に限らず、低所得世帯全体の生活を支援するものです。

これらの制度は、年末調整の扶養控除とは直接関係ありませんが、子育て中の家計を支える重要な柱となります。利用できる制度は積極的に活用し、安心して子育てができる環境を整えましょう。

その他の年齢に関する年末調整の注意点(401k、過去分など)

年齢別の扶養控除以外にも、年末調整には知っておくべき様々なポイントがあります。ここでは、401k(確定拠出年金)や過去分の申告、社会保険の適用拡大など、幅広い年齢層に関わる注意点をご紹介します。

確定拠出年金(iDeCo/401k)と年末調整

年齢を問わず、将来の資産形成のために確定拠出年金(iDeCo:個人型確定拠出年金、企業型DC/401k:企業型確定拠出年金)に加入している方は、その掛金が全額「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、所得税・住民税が軽減されます。

企業型DC(401k)の場合、掛金が給与から天引きされていることが多いため、通常は年末調整で自動的に控除されます。しかし、iDeCoの場合は、ご自身で金融機関から発行される「掛金払込証明書」を年末調整の際に会社に提出する必要があります。この手続きを忘れると、せっかくの節税メリットを享受できませんので注意しましょう。

確定拠出年金は、老後資金の準備だけでなく、毎年の税負担を軽減できる有効な手段です。加入している方は、年末調整での申告を忘れないようにしましょう。

過去分の年末調整のやり直し(還付申告)

もし、年末調整で扶養控除の申告を忘れていたり、適用できる控除を見落としていたりした場合でも、諦める必要はありません。過去にさかのぼって税金の還付を受けることができる「還付申告」という制度があります。

還付申告は、過去5年分まで行うことが可能です。具体的には、税務署に確定申告書を提出して手続きを行います。この際、対象となる年の源泉徴収票や、扶養控除の対象となる親族の所得を証明する書類(年金振込通知書など)、その他控除に関する証明書(生命保険料控除証明書など)が必要になります。

確定申告の期間(原則2月16日から3月15日)に限らず、対象となる年の翌年1月1日から5年間であればいつでも申請できます。もし心当たりのある方は、一度ご自身の過去の年末調整を確認し、税務署や税理士に相談してみることをお勧めします。

社会保険の適用拡大と扶養の関係

近年、社会保険制度において「社会保険の適用拡大」が進められています。これは、短時間労働者(パート・アルバイト等)がより社会保険に加入しやすくなるための改正です。

特に、2024年10月1日からは、従業員数51名以上100名以下の企業でも、短時間労働者(週の所定労働時間が20時間以上、月額賃金8.8万円以上など)の社会保険への加入が義務化されます。

これにより、これまで扶養に入っていた家族が、この適用拡大によって社会保険(健康保険や厚生年金)に加入することになり、結果として納税者の扶養から外れる可能性があります。社会保険に加入すると、本人の手取りは減少しますが、将来の年金受給額が増えたり、病気やけがの際の保障が手厚くなったりといったメリットもあります。

扶養家族がパート等で働いている場合、この変更が扶養の条件にどう影響するかを確認し、事前に家族で話し合っておくことが重要です。

年末調整は、その年の税額を決定する重要な手続きです。年齢による扶養控除の条件だけでなく、様々な制度改正や個別の状況によって適用される控除が変わってきます。最新の情報を常に確認し、不明な点があれば国税庁のウェブサイトや税務署、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。