コロナ禍を経て、多くの企業がリモートワークからオフィスへの回帰、あるいはハイブリッドワークへと移行しています。しかし、この「オフィス回帰」という動きは、企業と従業員双方にとって新たな課題と機会をもたらしています。

本記事では、オフィス回帰のメリット・デメリット、企業が直面する課題、そして最新のデータや傾向を踏まえ、企業が考えるべきことについて深掘りしていきます。

  1. オフィス回帰で期待できるメリットとは?
    1. チーム連携強化と企業文化の醸成
    2. 生産性向上への貢献
    3. 新入社員の成長機会の確保
  2. オフィス回帰で生じるデメリットや注意点
    1. 従業員の負担増とエンゲージメント低下のリスク
    2. コスト増加とイノベーション阻害の懸念
    3. 「良くないRTO」に陥らないためのポイント
  3. オフィス回帰における生産性向上の鍵
    1. 従業員のニーズと働き方の多様性を尊重する
    2. オフィス環境の最適化と機能の再定義
    3. 「目的のある出社」を促す仕組みづくり
  4. コミュニケーション活発化とオフィス回帰の関係
    1. 偶発的な交流が新たなアイデアを生む
    2. ハイブリッドワーク下での対面コミュニケーションのあり方
    3. チームビルディングと組織の一体感醸成
  5. オフィス回帰に反対する声と、企業が考えるべきこと
    1. 従業員のニーズとのギャップを認識する
    2. 丁寧な説明と移行期間の重要性
    3. 「働きがい」を再定義する機会と捉える
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: オフィス回帰で企業が得られる主なメリットは何ですか?
    2. Q: オフィス回帰によって企業が直面する可能性のあるデメリットは何ですか?
    3. Q: オフィス回帰を進める上で、生産性向上のために企業は何をすべきですか?
    4. Q: オフィス回帰は、従業員間のコミュニケーションにどのような影響を与えますか?
    5. Q: オフィス回帰に反対する従業員への対応策はありますか?

オフィス回帰で期待できるメリットとは?

オフィス回帰は、企業と従業員双方に多岐にわたるメリットをもたらす可能性があります。特に、組織の基盤を強化し、個人の成長を促す上で重要な役割を果たすと考えられます。

チーム連携強化と企業文化の醸成

オフィスでの対面コミュニケーションの増加は、チームの連携を飛躍的に強化します。廊下での立ち話や休憩室での偶発的な会話から、思いがけないアイデアが生まれたり、プロジェクトの課題解決のヒントが見つかったりすることも少なくありません。

これは、リモートワークでは得られにくい、非公式ながらも重要な情報交換の機会となります。共通の空間で時間を共にすることで、従業員同士の絆が深まり、組織全体の一体感が醸成されやすくなります。

結果として、企業の文化が根付き、従業員の会社への帰属意識も高まることが期待できます。特に新入社員や若手社員にとっては、先輩社員との対面でのやり取りを通じて、OJTやメンタリングが効果的に行われ、成長を促進する貴重な機会となるでしょう。

生産性向上への貢献

オフィス環境は、集中力の向上や適切なマネジメントを可能にし、結果として生産性向上に寄与する場合があります。自宅では集中しづらい、あるいは仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちな環境とは異なり、オフィスは「仕事をする場」としての区切りを明確にします。

マネジメント層にとっても、対面であればチームメンバーの状況をより正確に把握し、必要なサポートや指導をタイムリーに行いやすくなります。これにより、課題の早期発見・解決が可能となり、プロジェクトの遅延を防ぐことにもつながるでしょう。

初期のリモートワーク研究ではイノベーションの抑制が指摘されたこともありましたが、オフィス回帰によって、再び創造的な協業が生まれやすい環境を取り戻すことが期待されています。

新入社員の成長機会の確保

特にキャリアの浅い若手社員にとって、オフィスは知識やスキルを習得し、ビジネスパーソンとしての基盤を築く上で極めて重要な場所です。先輩社員の仕事ぶりを間近で見たり、直接質問したりすることで、座学では得られない実践的な学びが得られます。

2023年〜2024年に入社した新入社員の勤務先に関する調査では、約70%が出社勤務と回答しており、企業側も新入社員の育成において対面での指導を重視していることが伺えます。

このような環境は、仕事の進め方だけでなく、ビジネスマナーや企業文化、人間関係の構築など、社会人として不可欠な要素を吸収する上で大きなメリットとなります。新入社員の早期戦力化、そして定着率向上にも寄与する重要な側面と言えるでしょう。

オフィス回帰で生じるデメリットや注意点

オフィス回帰は多くのメリットをもたらす一方で、企業と従業員双方にとって新たな課題や注意点も浮上します。これらのデメリットを理解し、適切に対処することが、成功するオフィス回帰の鍵となります。

従業員の負担増とエンゲージメント低下のリスク

オフィス回帰の最大のデメリットの一つは、従業員にとっての通勤に伴う負担やストレスの増加です。毎日の通勤時間や満員電車は、身体的・精神的な疲労を引き起こし、従業員のワークライフバランスを損なう可能性があります。

リモートワークの自由度や柔軟性に慣れた従業員の中には、オフィスへの完全な回帰に対して強い抵抗感を持つ人も少なくありません。こうした変化が従業員のエンゲージメントを低下させ、最悪の場合、離職につながるリスクもはらんでいます。

特に、ハイブリッドワークを希望する声が多い現状(多くの従業員はテレワークとオフィス勤務の組み合わせを希望)を無視した一方的なオフィス回帰は、従業員の反発を招きかねません。従業員の声を丁寧に聞き、ニーズを理解することが不可欠です。

コスト増加とイノベーション阻害の懸念

オフィス回帰は、企業にとってコストの増加という側面も持ちます。オフィススペースの維持や管理にかかる費用(賃料、光熱費、設備費など)はもちろんのこと、通勤手当や福利厚生費なども増加する可能性があります。

一方で、イノベーションについては様々な議論があります。初期のリモートワーク研究ではイノベーションが抑制される可能性が指摘されました。これは、偶発的な対面コミュニケーションが減少することで、新たなアイデアが生まれにくくなるという考えに基づいています。

しかし、近年の研究では、リモートワークへの移行自体が生産性やイノベーションの差異を説明する大きな要因ではない可能性も示唆されており、オフィス回帰が必ずしもイノベーションを促進するとは限らない、という複雑な状況があります。単にオフィスに戻るだけではなく、イノベーションが生まれる環境をどのように設計するかが重要となります。

「良くないRTO」に陥らないためのポイント

単に「週の最低出勤日数を義務付ける」といった形式的なオフィス回帰(「良くないRTO:Return to Office」)は、従業員の不満を増大させ、期待する効果を得られない可能性があります。従業員がオフィスで「何をすべきか」「なぜオフィスに行く必要があるのか」が明確でない場合、彼らはオフィスでの時間を無駄と感じてしまうでしょう。

例えば、オフィスにいるのにオンライン会議ばかりで、同僚との交流がほとんどない、といった状況では、従業員の不満は募るばかりです。このようなオフィス回帰は、かえって従業員のエンゲージメントを損ね、リモートワークの良さを再認識させる結果にもなりかねません。

企業は、従業員が出社する意味や価値を明確にし、オフィスが創造的で生産的な活動を支援する場所であるというメッセージを発信し続ける必要があります。目的意識のない出社義務化は避けるべきだと言えるでしょう。

オフィス回帰における生産性向上の鍵

オフィス回帰を成功させ、生産性を向上させるためには、単に物理的に従業員をオフィスに戻すだけでは不十分です。従業員のニーズを理解し、オフィス環境を戦略的にデザインすることが不可欠となります。

従業員のニーズと働き方の多様性を尊重する

今日のビジネス環境では、画一的な働き方ではなく、従業員一人ひとりのニーズに合わせた多様な働き方を尊重することが生産性向上の鍵となります。最新の動向を見ると、完全リモートワークではなく、出社とリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークが多くの企業で定着しつつあります

国土交通省の調査では、テレワーク人口は依然として高い水準を保っており、コクヨ株式会社の調査では、在宅勤務経験者のうち約半数が職場復帰しているものの、6割以上が「職場」を好むという結果も出ています。このデータは、オフィスに価値を見出す従業員がいる一方で、リモートワークの利便性も捨てがたいという複雑な心理を反映しています。

さらに、テレワークの実施状況や出社率には地域や世代による差が見られるため、企業はこれらの多様なニーズを汲み取り、柔軟な働き方をサポートする制度設計が求められます。一方的な決定ではなく、従業員の意見を吸い上げ、対話を通じて最適なバランスを見つけることが重要です。

オフィス環境の最適化と機能の再定義

オフィス回帰を機に、オフィス環境そのものを見直し、その機能を再定義することが生産性向上のためには不可欠です。従来の「固定席で黙々と作業する場所」というイメージから脱却し、集中できるスペースと、コミュニケーションを促進するスペースをバランス良く配置することが求められます。

具体的には、以下のような施策が考えられます。

  • メリハリをつけたオープンなフロア設計:個人の集中作業に適したブース席や静かなエリアと、チームでの協業や議論を活発にするオープンなスペース、カフェのようなリラックスできるエリアを共存させます。
  • 快適なリフレッシュルームの併設:従業員が気分転換できる快適な休憩スペースは、心身のリフレッシュを促し、その後の集中力向上に繋がります。
  • フリーアドレスの導入:従業員がその日の業務内容や気分に合わせて自由に席を選べるようにすることで、柔軟な働き方を支援し、偶発的な交流も生まれやすくなります。

オフィスを単なる「仕事場」ではなく、「インスピレーションと交流の場」として設計し直すことが、生産性向上への近道となるでしょう。

「目的のある出社」を促す仕組みづくり

従業員がオフィスに「ただ来る」のではなく、「目的を持って来る」ように促す仕組みづくりが、オフィス回帰における生産性向上の鍵となります。大企業の93.6%がハイブリッドワークを採用しており、オフィス内にいても会議の主流がオンラインである現状を踏まえれば、オフィスでの対面時間を最大限に有効活用する必要があります。

企業は、オフィス出社の目的を明確に定義し、従業員に共有するべきです。例えば、「チームビルディングを目的とした週次ミーティング」「アイデア創出のためのブレインストーミングセッション」「若手社員へのOJT実施日」など、オフィスでしか得られない価値を強調します。

また、オフィスを単なる執務スペースとしてではなく、

  • 協創のためのワークショップスペース
  • 社員間の交流を深めるためのイベントスペース
  • 集中力を高めるための静かな作業環境

といった多様な機能を持つ場所として設計し直すことで、従業員はオフィスに行く意義を明確に感じることができます。これにより、自律的な出社意欲を引き出し、オフィスでの時間をより生産的に活用する文化を醸成することができるでしょう。

コミュニケーション活発化とオフィス回帰の関係

オフィス回帰の大きなメリットの一つに、コミュニケーションの活性化が挙げられます。リモートワークでは難しかった偶発的な交流や、対面ならではの深いコミュニケーションが、チームや組織に新たな活力を吹き込む可能性があります。

偶発的な交流が新たなアイデアを生む

オフィスでは、廊下ですれ違った同僚との挨拶や、休憩スペースでの何気ない会話など、計画されていない「偶発的な交流」が日々生まれます。これらの交流は、しばしば新たなアイデアの源泉となったり、プロジェクトの課題解決のヒントをもたらしたりします。

リモートワーク環境では、このようなインフォーマルな情報交換の機会が極端に減少します。しかし、オフィス回帰によって対面でのコミュニケーションが増えることで、部署やチームを超えた偶発的な出会いが生まれやすくなり、組織全体の創造性やイノベーションを刺激することが期待されます。

対面での会話は、表情や声のトーン、身振り手振りといった非言語情報も伝わるため、オンライン会議では得にくい深い理解や共感を生み出し、チームの連携をより強固なものにするでしょう。

ハイブリッドワーク下での対面コミュニケーションのあり方

オフィス回帰が進む中でも、完全にリモートワーク以前の状態に戻るわけではありません。多くの大企業がハイブリッドワークを採用しており、オフィス内にいても会議の主流はオンラインであるという現実があります。この状況下で、対面コミュニケーションのあり方を戦略的に考える必要があります。

重要なのは、オンラインとオフラインのコミュニケーションを適切に使い分けることです。例えば、情報共有や定例会議は効率の良いオンラインで行い、ブレインストーミング、アイデア創出、チームビルディング、若手社員のOJTなど、対面でしか得られない価値がある活動にオフィスでの時間を充てるといった工夫が考えられます。

これにより、従業員はオフィスに行くことの目的意識を持つことができ、対面での時間をより有意義に活用するようになります。ただ集まるだけでなく、「何のために集まるのか」を明確にすることで、コミュニケーションの質と効果を最大化できるでしょう。

チームビルディングと組織の一体感醸成

共通の空間で働くことは、組織の一体感を醸成し、従業員同士の絆を強める上で極めて効果的です。同じ目標に向かって物理的に協力し合う経験は、チームの結束力を高め、連帯感を育みます。これは特に、組織の文化を継承し、新入社員が組織にスムーズに溶け込む上でも重要です。

企業文化は、日々の業務や対面での交流を通じて自然と形成されるものであり、リモートワークだけではその醸成が難しい側面があります。オフィス回帰は、企業理念やビジョンを共有し、組織の価値観を従業員全体に浸透させる絶好の機会となります。

チームランチや社内イベントなど、オフィスでの交流を促す機会を設けることで、従業員はより深く組織に関与していると感じ、会社への帰属意識やエンゲージメントの向上にもつながるでしょう。結果として、組織全体のパフォーマンス向上にも寄与する可能性を秘めています。

オフィス回帰に反対する声と、企業が考えるべきこと

オフィス回帰は進む一方で、従業員からは様々な懸念や反対の声も上がっています。企業はこれらの声に真摯に耳を傾け、単なる「出社義務化」ではない、より良い働き方への再構築としてオフィス回帰を捉える必要があります。

従業員のニーズとのギャップを認識する

リモートワークの普及により、多くの従業員はその柔軟性と自由度を経験しました。通勤時間や場所にとらわれない働き方は、ワークライフバランスの向上に寄与し、個人の生産性や幸福感に良い影響を与えた側面もあります。そのため、完全なオフィス回帰に対して抵抗感を抱く従業員は少なくありません。

多くの従業員がテレワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドワークを希望している現状を無視し、一方的にオフィス回帰を義務付けることは、従業員のエンゲージメントを著しく低下させ、最悪の場合、優秀な人材の離職を招くリスクがあります。コクヨ株式会社の調査でも、約半数が職場復帰しているものの、従業員の半数近くは在宅勤務を経験し、そのメリットも認識しています。

企業は、従業員の多様なニーズとのギャップを認識し、なぜオフィスに戻る必要があるのか、オフィスで働くことの価値は何なのかを、従業員の視点に立って丁寧に説明することが不可欠です。

丁寧な説明と移行期間の重要性

オフィス回帰を進めるにあたっては、従業員の理解と協力を得るために、丁寧な説明と適切な移行期間を設けることが極めて重要です。企業は、オフィス回帰の目的(なぜ今、オフィスに戻るのか)、期待されるメリット、そして従業員への配慮(通勤手当の見直し、柔軟な勤務時間制度など)について、具体的に伝える必要があります。

一方的なトップダウンの命令では、従業員からの反発や不信感を生むだけです。説明会やアンケートを通じて従業員の意見を吸い上げ、それらを反映した施策を検討するプロセスは、従業員の納得感を高め、スムーズな移行を促します。

また、急激な変化は従業員に大きなストレスを与えるため、段階的な移行期間を設けることも効果的です。例えば、「まずは週に1回から出社を始め、徐々に回数を増やす」「特定の曜日は全員出社日とする」など、従業員が変化に適応しやすいような工夫が求められます。

「働きがい」を再定義する機会と捉える

オフィス回帰は、企業にとって単なる「出社」の義務化ではなく、従業員がより良い働きがいを感じられる環境を再構築する機会と捉えるべきです。従業員が「オフィスに来たい」と自発的に思えるような価値提供ができれば、それは企業の大きな強みとなります。

そのためには、オフィスを単なる作業場ではなく、創造的なコラボレーションが生まれる場、スキルアップや自己成長を促す場、そして仲間との絆を深める場としてデザインし直すことが重要です。

快適で機能的なオフィス環境の提供はもちろんのこと、オフィスでの交流イベントや研修プログラムの充実、従業員のウェルビーイングを考慮した休憩スペースの設置なども有効です。オフィス回帰を、従業員のパフォーマンスを最大化し、同時に個人の充実感も高める「働きがい」を再定義する前向きな契機として捉えることが、これからの企業経営には不可欠となるでしょう。