概要: OJTの質を高めるためには、効果的なデザイン素材の活用が不可欠です。本記事では、OJT用イラストやアイコンの探し方、選び方から、具体的なツール、目的別の活用事例までを網羅的に解説します。
OJTの成功を加速する!デザイン素材と活用術
OJT(On-the-Job Training)は、新入社員や若手社員が実務を通じて実践的なスキルを習得するための、非常に効果的な人材育成手法です。
しかし、その成功には多くの企業が課題を抱えています。近年、このOJTの質を向上させるアプローチとして、「デザイン思考」が注目を集めています。
本記事では、OJTの成功を加速させるために欠かせないデザイン素材の活用術と、デザイン思考を取り入れた具体的なアプローチについて、最新の情報を交えながらご紹介します。
OJTにおけるデザイン素材の重要性とは?
OJTの現場では、指導のばらつきやトレーナーの負担増大など、様々な課題が指摘されています。
これらの課題を解決し、OJTの学習効果を最大限に引き出すために、デザイン思考とデザイン素材の活用が不可欠です。
視覚的な要素を取り入れることで、情報の伝達効率を高め、トレーニーの理解度を深めることができます。
OJTの現状と直面する課題
多くの企業でOJTが実施されている一方で、その運用には課題が山積しています。ある調査によると、以下のような問題点が明らかになっています。
- 指導のばらつき: 約半数近く(49.7%)の企業が、OJTトレーナーによって指導内容や精度にばらつきがあると回答しています。これは、トレーニーが均質な教育を受けられない原因となります。
- トレーナーの負担: 37.6%の企業が、OJTトレーナーの業務過多を課題として挙げています。自身の業務に加え、新人育成を担当することで、本来の業務が圧迫され、指導の質が低下するリスクがあります。
- 育成対象者の成長度合いのばらつき: 34.4%の企業が、新入社員の成長度合いにばらつきが生じることを課題と感じています。これにより、早期戦力化が遅れる可能性があります。
- 効果測定の難しさ: OJTの効果を具体的に測定しにくいという声も多く、改善サイクルを回す上での障壁となっています。
これらの課題は、OJTが形骸化し、本来の目的を達成できない事態を招く可能性があります。効果的なOJTを実現するためには、これらの根本的な問題にアプローチする必要があります。
デザイン思考がOJTにもたらす変革
OJTが抱える課題に対し、「デザイン思考」は非常に有効なアプローチとなり得ます。デザイン思考とは、ユーザー(この場合はトレーニーや現場の課題)中心の視点に立ち、共感に基づいて課題の本質を捉え、プロトタイプ作成とテストを繰り返しながら、革新的なソリューションを生み出す思考法です。
OJTにデザイン思考を取り入れることで、以下のような効果が期待できます。
- 課題の本質を見抜く力: トレーニーは与えられた課題をそのまま解くのではなく、「何が本当に価値のある成果なのか?」を見極める力が養われます。これにより、実務における問題解決能力が向上します。
- ユーザー視点の獲得: 顧客の潜在的なニーズを捉え、イノベーション創出につなげる思考プロセスをOJTで体験できます。これは将来のビジネスリーダー育成に不可欠です。
- 主体的な問題解決: 組織全体が主体的に課題解決に取り組む姿勢や、自律的な学習を促す文化が醸成されます。トレーニー自身が「どうすればもっとOJTが良くなるか」を考え、提案する機会も生まれるでしょう。
デザイン思考を導入することで、OJTは単なる業務指導の場から、より深く、より実践的な学びの場へと進化するのです。
学習効果を高めるデザイン素材の役割
デザイン素材は、OJTの学習効果を飛躍的に高め、トレーニーとトレーナー双方のコミュニケーションを円滑にする上で重要な役割を担います。
複雑な業務プロセスや抽象的な概念も、デザイン素材を活用することで直感的かつ具体的に理解できるようになります。
- スキルの可視化: 新人デザイナーのOJTで有効なように、自身の得意なことやできることをポートフォリオやスキルマップとして可視化することで、周囲はどのような仕事を依頼すればよいかを検討しやすくなります。トレーナー側も、トレーニーの習熟度を客観的に把握しやすくなります。
- 制作物の共有: 完成品だけでなく、制作過程を段階的に共有することで、スキルの習得プロセスを効果的に伝えることができます。図解やスクリーンショット、ショート動画などを活用し、視覚的に進捗を共有することで、より深いフィードバックが可能になります。
- マニュアル・図解: 紙のマニュアルだけでなく、動画マニュアルとの組み合わせはOJT成功の重要なポイントです。複雑な操作手順や業務フローを、図解やイラストを用いて分かりやすく示すことで、文字情報だけでは伝わりにくいニュアンスや動きを正確に伝えることができ、学習効果を高めます。
デザイン素材を効果的に活用することで、OJTはより魅力的で、記憶に残りやすい体験となるでしょう。
OJT用イラスト・アイコンの探し方と選び方
OJT教材の質は、使用するイラストやアイコンの質によって大きく左右されます。しかし、闇雲に素材を探すだけでは、著作権侵害のリスクや、教材全体の統一感の欠如につながりかねません。
ここでは、OJTに最適なデザイン素材を効果的に探し、賢く活用するためのポイントをご紹介します。
無料・有料デザイン素材サイトの活用
OJT教材に役立つイラストやアイコンは、多くのデザイン素材サイトで手に入れることができます。主に無料サイトと有料サイトがあり、それぞれ特徴を理解して使い分けることが重要です。
無料サイトの代表例としては、「Unsplash」や「Pexels」(写真素材)、「IllustAC」、「いらすとや」、「Freepik」(イラスト・アイコン素材)などがあります。これらは手軽に利用できる反面、利用規約やライセンス(商用利用の可否、クレジット表記の必要性など)をよく確認する必要があります。特に企業でのOJT利用の場合、商用利用可能な素材を選ぶことが不可欠です。
一方、有料サイトには「Adobe Stock」、「Shutterstock」、「Getty Images」などがあり、高品質で多様な素材が揃っています。有料素材は、ライセンスが明確で商用利用しやすいメリットがあり、OJT教材全体の品質を高く保ちたい場合に適しています。費用対効果を考慮し、OJTの目的や予算に合わせて最適なサイトを選びましょう。
OJTで効果的なイラスト・アイコンの選び方
OJTで利用するイラストやアイコンを選ぶ際には、以下のポイントを意識することで、より効果的な教材を作成できます。
- ターゲット層に合わせたトーン&マナー: 新入社員向け、専門職向けなど、OJTの対象者によって適切なデザインのトーンは異なります。親しみやすさを重視するのか、プロフェッショナルな印象を与えるのか、目的に合わせて選びましょう。
- メッセージの明確性: 一目で内容が理解できるような、シンプルで分かりやすいデザインを選ぶことが重要です。複雑なイラストよりも、抽象化されたアイコンやシンプルな図形の方が、メッセージが伝わりやすい場合があります。
- 教材全体の統一感: OJT資料全体で、色使いやスタイル、線画か塗り絵かといったデザインテイストに一貫性を持たせることで、視覚的に美しく、プロフェッショナルな印象を与えます。異なる素材サイトから選ぶ場合でも、できるだけ統一感のあるシリーズやテイストで揃えることを意識しましょう。
- 複雑な情報の単純化: 業務フローやシステム操作手順など、複雑な情報はイラストやアイコンで視覚的に単純化することで、文字情報よりも格段に理解しやすくなります。
選び方の工夫一つで、OJT教材の理解度と魅力が大きく向上します。
著作権とライセンスに注意!賢い利用法
デザイン素材を利用する上で最も重要なのが、著作権とライセンスに関する理解です。誤った利用は、法的な問題に発展する可能性があるため、細心の注意を払う必要があります。
素材サイトで提供されているイラストやアイコンには、それぞれ利用規約が定められています。特に以下の点を確認しましょう。
- 商用利用の可否: 企業内でのOJT資料作成も「商用利用」に該当する場合があります。必ず商用利用が許可されている素材を選びましょう。
- クレジット表記の義務: 無料素材の中には、著作者名のクレジット表記が義務付けられているものがあります。指定された形式で、適切な箇所に表記しましょう。
- 改変の可否: ダウンロードした素材を加工・修正して利用したい場合、それが許可されているかを確認が必要です。
- 再配布の制限: 作成したOJT資料を社内だけでなく、グループ会社やパートナー企業に配布する可能性がある場合は、再配布に関する規定も確認しておきましょう。
有料素材を購入する場合でも、利用期間や利用範囲(例:特定のプロジェクトのみ、会社全体で利用可など)が定められていることがあります。不明な点は、必ず提供元に問い合わせることが賢明です。
著作権に配慮した賢い利用法を徹底することで、安心してOJT教材を作成・活用できます。
OJT教材作成に役立つ具体的なデザインツール
効果的なOJT教材を作成するためには、適切なデザインツールの活用が不可欠です。専門的な知識がなくても、視覚的に魅力的な資料や動画を作成できるツールが増えています。
ここでは、OJT教材作成に役立つ具体的なデザインツールと、その活用法をご紹介します。
簡単操作でプロ級の資料を!プレゼン・資料作成ツール
OJTの基本となる座学や説明資料の作成には、定番のプレゼンテーションツールが非常に役立ちます。これらのツールを効果的に活用することで、専門知識がなくてもプロフェッショナルな印象を与える資料を作成できます。
- PowerPoint (Microsoft): 豊富なテンプレート、図形描画機能、SmartArtなどの活用で、複雑な業務フローや組織図を分かりやすく表現できます。スライドマスター機能を使えば、資料全体のデザインを一貫させ、ブランドイメージを統一することも可能です。
- Google Slides (Google): クラウドベースで共同編集が容易なため、複数のトレーナーがOJT資料の作成・更新に関わる場合に最適です。リアルタイムで変更が反映されるため、常に最新の情報でOJTを進められます。
- Keynote (Apple): 直感的な操作性と美しいデザインテンプレートが魅力です。アニメーションやトランジションも豊富で、視覚的に訴えかけるOJT資料を作成したい場合に適しています。
これらのツールを使いこなすことで、文字情報だけでなく、グラフや図、イラストを効果的に配置し、OJTの理解度を格段に向上させることが可能です。特に、情報整理と視覚化を両立させることで、OJTにおける指導のばらつきを減らす一助となるでしょう。
視覚的理解を深める!図解・インフォグラフィックツール
複雑な概念や多岐にわたるデータをOJTで分かりやすく伝えるには、図解やインフォグラフィックが非常に有効です。
これらの専門ツールを活用することで、トレーニーの視覚的理解を飛躍的に深めることができます。
- Canva: 豊富なテンプレートとドラッグ&ドロップの簡単な操作で、プロフェッショナルな図解やインフォグラフィック、ポスター、プレゼンテーションなどを素早く作成できます。アイコンやイラストも豊富に用意されており、OJT資料を魅力的に彩ることが可能です。共同編集機能も備わっているため、チームでの資料作成にも適しています。
- Figma: UI/UXデザインツールとして有名ですが、シンプルな図解やフローチャートの作成にも活用できます。特に、チームでの共同作業に強く、リアルタイムでデザインの修正やフィードバックを行うことができます。エンジニアやデザイナー向けのOJT資料作成には特に力を発揮するでしょう。
- Adobe Express (旧Spark): プロフェッショナルなデザインを手軽に作成できるWebベースのツールです。ソーシャルメディア投稿からプレゼンテーションまで幅広い用途に対応し、OJT用の短い動画や画像コンテンツの作成にも適しています。
これらのツールは、複雑な業務プロセスや組織構造、製品知識などを視覚的に分かりやすく表現することで、トレーニーの学習意欲を高め、記憶への定着を促す効果が期待できます。
実務スキル伝授に最適な!動画・アニメーション作成ツール
「紙のマニュアルだけでなく、動画マニュアルとの組み合わせもOJT成功のポイント」という参考情報にもあるように、動画はOJTにおいて実務スキルを効果的に伝えるための強力なツールです。
実際の操作や手順を映像で示すことで、文字だけでは伝わりにくいニュアンスや動きを正確に伝えることができます。
- Loom: 画面録画とウェブカメラ映像を同時に記録し、簡単な編集と共有ができるツールです。ソフトウェアの操作手順、Webサービスの利用方法、資料の説明などを短い動画で作成し、すぐにトレーニーと共有できます。特に、トレーナーが個別に指導する際の説明動画として非常に有用です。
- Clipchamp (Microsoft): 無料で利用できる動画編集ツールで、トリミング、テキスト追加、BGM設定などの基本的な編集が簡単に行えます。OJT中に発生した質問への回答や、特定の業務手順の実演動画など、手軽に作成できる点が魅力です。
- Camtasia: 高機能な画面録画・動画編集ソフトウェアです。より本格的な動画マニュアルやeラーニングコンテンツを作成したい場合に適しています。操作説明に特化した機能が豊富で、注釈やズーム、カーソルの強調表示などが可能です。
- Vyond: アニメーション動画を簡単に作成できるツールです。登場人物や背景、アクションなどを組み合わせることで、複雑な概念や抽象的な情報を楽しく、分かりやすく伝えることができます。企業のビジョンや理念、行動規範などのOJTにも適しています。
動画コンテンツは、視覚と聴覚の両方に訴えかけるため、トレーニーの記憶に残りやすく、学習効果の向上が期待できます。
OJT 1, PM, KKAなど、目的別デザイン活用事例
OJTは、新入社員の基礎トレーニングから、プロジェクトマネジメント、業務改善活動(KKA)など、様々な目的とフェーズで実施されます。
それぞれの目的に応じてデザイン素材を効果的に活用することで、OJTの質を向上させ、より具体的な成果へとつなげることができます。
新入社員OJTにおける「スキルの可視化」
新入社員のOJTにおいて、「スキルの可視化」は、トレーニー自身の成長を促し、トレーナーが適切な指導を行う上で非常に重要です。
デザインの力を借りて、トレーニーのスキルを明確にすることで、スムーズな業務アサインや効果的なフィードバックが可能になります。
- 自己紹介ポートフォリオの作成: 新入社員が自身の得意なこと、過去の経験、習得済みのスキルなどを、デザインテンプレートを用いて視覚的に分かりやすいポートフォリオとして作成します。これにより、トレーナーやチームメンバーは、新入社員の強みやバックグラウンドを迅速に理解し、適切な業務を割り振ることができます。
- スキルマップの活用: OJTの進捗に合わせて、習得したスキルをチェックリスト形式やレーダーチャートで可視化します。例えば、業務知識、ツール操作、コミュニケーション能力などを項目化し、習熟度を段階的に評価することで、トレーニー自身が「次に何を学ぶべきか」を把握しやすくなります。トレーナーも、指導のばらつきを減らし、客観的な評価が可能になります。
- 目標達成シートのデザイン: OJT期間中の目標(例:1ヶ月後の目標、3ヶ月後の目標)をデザイン性の高いシートに落とし込みます。具体的な行動計画や達成度を記入する欄を設け、イラストやアイコンでモチベーションを高める要素を加えることで、トレーニーの主体的な学習を促進します。
スキルの可視化は、新入社員の早期戦力化だけでなく、トレーナーの負担軽減にも貢献します。
プロジェクトマネジメント(PM)におけるプロセス図解
プロジェクトマネジメント(PM)のOJTでは、複雑なプロジェクトの全体像や進行プロセスを正確に理解させることが重要です。デザインによるプロセス図解は、この課題を解決する強力な手段となります。
視覚的な情報は、文字情報よりも記憶に残りやすく、関係者間での共通認識形成を促進します。
- プロジェクトフローチャートの作成: プロジェクトの企画から完了までの全フェーズを、フローチャート形式で分かりやすく図解します。各フェーズの責任者、主要タスク、依存関係をアイコンや色分けで示すことで、トレーニーは全体の流れを迅速に把握できます。これにより、個々のタスクがプロジェクト全体の中でどのような位置づけにあるかを理解しやすくなります。
- ガントチャートのデザイン化: スケジュール管理に用いられるガントチャートを、より視覚的に魅力的にデザインします。各タスクの担当者、進捗状況、期間などをカラーバーやアイコンで表現することで、一目でプロジェクトの健康状態を把握できるようになります。デザインツールを活用することで、情報の更新も容易になり、常に最新の状況を共有できます。
- 役割分担マトリックスの可視化: プロジェクトにおけるメンバーごとの役割と責任を、マトリックス図で明確に示します。誰が何に対して責任を持ち、誰に報告すべきかなどを視覚的に整理することで、コミュニケーションの齟齬を減らし、チームワークを円滑にします。
これらのデザイン活用は、PMのOJTにおける「課題の本質を見抜く力」や「主体的な問題解決」能力の育成に貢献します。
業務改善・目標達成(KKA)のためのデータ視覚化
OJTが単なる業務習得に終わらず、トレーニーが自律的に業務改善や目標達成に取り組む力を養うためには、データに基づいた思考と分析が不可欠です。
KKA(活動管理や目標達成プロセス)のOJTにおいて、デザインによるデータ視覚化は、現状分析、課題特定、効果測定の各ステップで大きな力を発揮します。
- 現状分析用インフォグラフィック: 業務効率、顧客満足度、エラー率などの現状データを、グラフやイラストを多用したインフォグラフィックで可視化します。これにより、トレーニーは膨大な数値データの中から、改善すべきポイントや主要な課題を直感的に発見しやすくなります。
- 目標・KPIダッシュボードの作成: 設定したKGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)を、デザイン性の高いダッシュボードとして作成します。日々の進捗や達成度をリアルタイムで視覚的に確認できるようにすることで、トレーニーは自身の行動が目標達成にどう影響しているかを常に意識し、自律的な改善行動を促されます。
- 改善提案書のデザイン強化: トレーニーが業務改善策を提案する際、提案内容を分かりやすく、説得力のある資料としてまとめるためのデザインテンプレートを提供します。現状の課題、提案する解決策、期待される効果などを図解やグラフで示すことで、プレゼンテーション能力の向上にもつながります。
デザイン思考の「共感」「定義」「概念化」「試作」「テスト」のプロセスをKKAに組み込むことで、トレーニーはデータに基づいた論理的思考と、創造的な問題解決スキルをOJTで習得できるでしょう。
OJTの質を高めるためのデザイン導入ステップ
OJTにデザイン思考とデザイン素材を導入することは、OJTの質を根本から向上させるための戦略的なアプローチです。
しかし、闇雲に導入するのではなく、段階的なステップを踏むことで、より確実な成果を得ることができます。
ここでは、OJTにデザインを効果的に導入するための具体的なステップをご紹介します。
OJT課題の「共感」と「定義」:現状把握
OJTにデザインを導入する最初のステップは、OJTの現状を深く理解し、解決すべき課題を明確に「共感」し「定義」することです。
これは、デザイン思考の初期段階と重なります。
- トレーナー・トレーニーへのヒアリング: まず、OJTを実際に実施しているトレーナーと、指導を受けているトレーニー双方から、OJTに関する意見や課題、不満点などを丁寧にヒアリングします。「指導のばらつきがある」「トレーナーの負担が大きい」「教材が分かりにくい」といった具体的な声に耳を傾けます。
- データ分析と課題の特定: OJTに関するアンケート結果や効果測定データ(もしあれば)を分析し、数値として表れている課題を特定します。例えば、特定の業務における習熟度テストのスコアが低い、独り立ちまでの期間が長い、といった具体的な課題を深掘りします。
- OJTの目的とゴールの再定義: OJTの本来の目的(例:新入社員の早期戦力化、特定のスキル習得)を再確認し、デザイン導入によってどのようなOJTを実現したいのか、具体的なゴールを明確に定義します。「どのようなOJTであれば、トレーニーが主体的に学び、トレーナーも効率的に指導できるか」という問いを立て、デザインで解決できるポイントを探ります。
この段階で課題を正確に把握することが、その後のデザイン導入の成功を左右する基盤となります。
デザイン導入の「概念化」と「試作」:素材とツールの選定
課題の定義が完了したら、次に、それらの課題を解決するための具体的なデザインアイデアを「概念化」し、実際に「試作」する段階に入ります。
適切なデザイン素材とツールの選定が重要です。
- OJT課題に応じたデザインコンセプトの策定: 特定したOJT課題(例:複雑な業務プロセスの理解不足)に対し、デザインでどのようにアプローチするか(例:フローチャートや動画マニュアルで視覚化する)というコンセプトを立てます。この際、「どのようなOJT体験を提供したいか」というユーザー視点を持ち続けることが重要です。
- 素材・ツールの選定とプロトタイプ作成: 策定したコンセプトに基づき、最適なデザイン素材(イラスト、アイコン、写真、動画など)やデザインツール(プレゼンツール、図解ツール、動画作成ツールなど)を選定します。そして、選定したツールを使って、マニュアルの改訂案、新しいOJT教材のプロトタイプ、評価シートのデザイン案などを実際に作成します。例えば、「制作物の共有」を促すためのテンプレートを作成することも含まれます。
- スモールスタートでの検証: 最初から完璧なものを作ろうとするのではなく、まずは一部のOJTコースや特定の業務に限定して、小規模なプロトタイプを作成・導入し、その効果を検証する「スモールスタート」を心がけます。これにより、リスクを抑えつつ、改善点を早期に発見できます。
この段階で多様なアイデアを出し、具体的な形にすることで、OJTの新しい可能性が広がります。
効果測定と「テスト」:継続的な改善サイクル
OJTに導入したデザイン素材や教材は、一度作って終わりではありません。実際に運用し、その効果を測定し、「テスト」を通じて継続的に改善していくことが、OJTの質をさらに高める上で不可欠です。
これはデザイン思考の最終ステップであり、同時に新たな改善サイクルの始まりでもあります。
- 導入後の効果測定とフィードバック収集: 新しいデザイン素材や教材を導入した後、トレーニーの理解度、習熟度、モチベーションの変化などを具体的なKPI(重要業績評価指標)を用いて測定します。例えば、スキル習得率、独り立ちまでの期間、アンケートによる満足度などが挙げられます。同時に、トレーナーとトレーニー双方から「分かりやすかった点」「改善してほしい点」などの定性的なフィードバックを積極的に収集します。
- デザイン導入の効果検証: 収集したデータやフィードバックを分析し、デザインの導入がOJTの課題解決にどれだけ貢献したかを検証します。もし期待した効果が得られていない場合は、その原因を深く掘り下げて探ります。例えば、特定のイラストが逆に混乱を招いた、動画マニュアルが長すぎた、などが考えられます。
- 継続的な改善サイクルの構築: 効果検証の結果に基づき、デザイン素材や教材、さらにはOJTのプロセス自体を改善します。この改善を「テスト」と捉え、再び導入、測定、フィードバック、改善というサイクルを繰り返すことで、OJTの質は常に最適化され、時代や組織の変化にも対応できるようになります。
OJTの成功を加速するためには、デザイン思考のプロセスをOJTの評価と改善に組み込み、継続的に「より良い学び」を追求する姿勢が重要です。
まとめ
よくある質問
Q: OJTでアイコンやイラストを使うメリットは何ですか?
A: 視覚的に情報を伝えられるため、学習者の理解度向上や記憶定着を促進します。また、堅苦しくなりがちなOJT資料に親しみやすさを与え、モチベーション維持にも繋がります。
Q: OJT用のイラストやアイコンはどこで見つけられますか?
A: 無料・有料の素材サイト、ストックフォトサイト、デザインツール内の素材ライブラリなどで見つけることができます。キーワード検索を工夫することで、目的に合った素材を見つけやすくなります。
Q: OJT 1 (新人向けOJT) ではどのようなデザインが効果的ですか?
A: 親しみやすく、分かりやすいイラストやアイコンが効果的です。複雑な手順や専門用語は、図解やアイコンで視覚的に補足すると理解が進みます。
Q: OJT教材作成で使えるデザインツールにはどのようなものがありますか?
A: Canva、Adobe Expressなどのオンラインデザインツールは、テンプレートや素材が豊富で初心者でも使いやすいです。PowerPointやKeynoteなども、図形やSmartArtを活用することでデザイン性の高い資料が作成できます。
Q: OJTの質を高めるために、デザイン導入で注意すべき点はありますか?
A: デザインが本来の目的(情報伝達)を妨げないように注意が必要です。過度な装飾や分かりにくいイラストは避け、シンプルで目的に沿ったデザインを心がけましょう。また、社内での統一感を意識することも重要です。
