近年、育児休暇制度は、仕事と育児の両立を支援する重要な要素として注目を集めています。特に男性の育児休業取得率の向上は、ジェンダー平等や少子化対策の観点からも、世界中で議論が活発化しています。

本記事では、最新のデータに基づき、世界の育児休暇制度の現状と、日本企業における先進的な取り組みについて、ランキング形式で分かりやすく解説します。また、企業事例の比較から見えてくる理想の制度像と、今後の展望についても考察します。

育児休暇とは?その重要性を再確認

育児休暇の基本と目的

育児休暇とは、仕事と育児の両立を支援するため、育児を行う労働者が取得できる休業制度のことです。これは労働者の権利として法的に保障されており、男女問わず取得可能です。

その主な目的は、親が安心して育児に専念できる期間を確保し、子どもとの絆を深めることにあります。また、育児によって離職せざるを得ない状況を防ぎ、親がキャリアを継続できるよう支援する役割も担っています。

男性の育児休業取得が鍵を握る理由

男性の育児休業取得は、単に夫婦で育児を分担するだけでなく、より大きな社会的な意味を持っています。

ジェンダー平等の推進や、女性がキャリアを諦めることなく活躍できる社会の実現に不可欠です。また、男性が育児に深く関わることで、パートナーの心身の負担を軽減し、家庭内のウェルビーイング向上にも繋がります。

日本の男性の育児休業取得率は、2024年度に過去最高の40.5%を記録しましたが、女性の取得率(86.6%)にはまだ及びません。さらなる取得促進が、少子化対策や企業の人材確保においても重要な鍵となります。

企業が育児休暇制度に注力する背景

企業が育児休暇制度に注力する背景には、いくつかの要因があります。

法改正による「産後パパ育休(出生時育児休業)」の創設や、有価証券報告書での男性育休取得率の開示義務化など、企業への要請が高まっています。また、ESG投資の観点からも、従業員の多様な働き方を支援する企業は評価されやすい傾向にあります。

優秀な人材の確保と定着、従業員満足度の向上、そして企業イメージの向上にも繋がり、企業の持続的成長に不可欠な経営戦略の一つとして認識されています。

世界の育児休暇制度ランキング:先進国の取り組み

長期取得を可能にする国々

世界の育児休暇制度は国によって大きく異なり、特に取得可能な期間に顕著な差が見られます。

参考情報によれば、スロバキアは164週、フィンランドは161週と、ヨーロッパ諸国が極めて長期の育児休業期間を提供しています。これらの国では、親が育児に集中できる期間が十分に確保されており、国の強力な支援体制がうかがえます。

一方で、アメリカの制度は、日本と比較しても手厚いとは言えず、有給の育児休暇が保障されていないケースも少なくありません。</この国際比較は、日本の制度の強みと課題を浮き彫りにします。

男性育児参加を促す北欧の制度

北欧諸国は、男性の育児参加を強力に推進する制度設計で知られています。

特に「父親専用の育休」制度を設ける国が多く、これにより男性が育児休業を取得しやすい環境を整備しています。スウェーデンでは、育児休業取得者の約36%が男性であり、これは男性の育児参加が社会的に深く根付いていることを示しています。

所得保障の充実も北欧諸国の特徴で、育休中の経済的不安を軽減することで、男女ともに安心して育児休暇を取得できる基盤を提供しています。</

日本の制度の国際的評価と課題

日本の育児休業制度は、取得可能な休暇期間が長いという点で、世界的に見ても先進的な側面を持っています。

しかし、男性の育児休業取得率は、近年向上しているものの、依然として低い水準にあります。2023年度の調査では男性の取得率は30.1%でしたが、2024年度には40.5%と過去最高を記録しました。

取得期間の長さだけではなく、実際に「取得しやすい雰囲気」や「取得後のキャリアへの影響を心配しなくて良い」といった環境整備が、日本のさらなる課題として挙げられます。

日本の企業別育児休暇ランキング:先進事例に学ぶ

男性の育休取得率を牽引する企業

法改正の後押しもあり、近年、男性の育児休業取得を促進する企業が増加しています。</

2025年版CSR企業総覧によると、男性の育児休業取得率が高い企業として、以下の先進事例が挙げられます。

  • 髙島屋: 3年平均取得率180.2%。出生時育休、育休合わせて最大28日間有給。子が3歳まで取得可能で、男性の育休取得100%を推進しています。
  • NTTドコモ: 3年平均取得率168.0%。育児・育児目的休暇の取得率100%を掲げ、「ドコモスマイルリレー」を展開しています。
  • NTT西日本: 3年平均取得率136.8%。産休・育休取得者のキャリアアップへの配慮や、男性育児関連休暇取得促進セミナーなどを実施しています。

これらの企業は、法定水準をはるかに上回る取得率を誇り、男性の育児参加を強力に支援しています。

先進企業の具体的なサポート体制

上記のような先進企業は、制度の充実だけでなく、取得しやすい環境づくりにも力を入れています。

例えば、髙島屋のように有給で育児休暇を付与することで、経済的な不安を軽減しています。NTTドコモの「ドコモスマイルリレー」は、育休取得を会社全体で後押しする文化の象徴と言えるでしょう。NTT西日本では、産休・育休取得者のキャリアアップへの配慮や、男性育児関連休暇取得促進セミナーを通じて、情報提供と意識啓発を行っています。

これらの取り組みは、育休取得がキャリアに不利にならないよう、企業が積極的に支援する姿勢を示すものです。

ランキングから読み解く成功の鍵

男性の育児休業取得率が高い企業ランキングからは、成功の鍵となる共通点が見えてきます。

一つは、法定水準を上回る手厚い制度設計です。有給期間の付与や長期取得を可能にする制度は、取得へのハードルを大きく下げます。次に、社内での研修や情報共有の徹底、そして何よりも「取得しやすい雰囲気」づくりが重要です。

経営層の強いコミットメントと、育児休業取得をポジティブに評価する企業文化が、これらの企業の高い取得率を支えていると言えるでしょう。

楽天、ランスタッド、ライフ、ライオン、三井住友銀行、三菱電機、ルートインの育児休暇制度を徹底比較

多様な企業が示す育休制度の方向性

さまざまな業界の主要企業も、育児休暇制度の充実に向けて独自の取り組みを進めています。

例えば、楽天のようなIT・グローバル企業では、柔軟な働き方を支えるリモートワークや短時間勤務制度と連携し、育休後もスムーズにキャリアを継続できる環境整備が進んでいると推測されます。ランスタッドのような人材サービス企業は、ワークライフバランスへの理解が深く、従業員が多様な働き方を選択できるよう、きめ細やかなサポートを提供していると期待されます。

三井住友銀行三菱電機のような大企業では、法定を超える手厚い給付や、男性の育児休業取得を推進するための目標設定など、総合的な制度が整備されていることが多いでしょう。

業界特性と制度運用の関係

育児休暇制度の運用には、各企業の業界特性が大きく影響します。

小売業のライフやサービス業のルートインなどでは、現場の人員配置やシフト制勤務の従業員への配慮が特に重要になります。こうした業界では、代替要員の確保や、育休から復帰後の柔軟な勤務形態(時短勤務、固定シフトなど)の提供が求められます。

一方、製造業のライオンなどでは、研究開発や生産ラインといった特定の職種における専門性の維持と、育休によるブランクのケアが課題となり得ます。各社がそれぞれの事業特性に応じた制度設計と運用を進めていることが分かります。

制度の充実と企業文化の醸成

優れた育児休暇制度は、単に紙の上での規定だけでなく、それが企業文化として根付いているかが重要です。

上記で挙げた各企業も、制度を充実させるだけでなく、育休を取得することに対するポジティブなメッセージの発信や、上司や同僚の理解を促す啓発活動を積極的に行っていると期待されます。また、育休からのスムーズな復職支援や、育児と両立しながらキャリアを形成できるような仕組み作りも不可欠です。

制度と文化の両面が揃って初めて、従業員が安心して育児と仕事を両立できる環境が実現するのです。

理想の育児休暇制度とは?今後の展望

誰もが取得しやすい制度設計の条件

理想的な育児休暇制度とは、性別や職種、雇用形態に関わらず、誰もが心理的・経済的な不安なく取得できる制度です。

そのためには、柔軟な期間設定に加え、育休中の十分な所得補償が不可欠です。特に男性の育児休業に関しては、取得を義務化あるいは強力に推奨し、申請プロセスを簡素化することが求められます。育児「休業」だけでなく、育児「参加」を促すような、短期間でも取得しやすい多様な休暇制度も有効でしょう。

こうした制度設計は、従業員一人ひとりのライフステージに応じた働き方を支える土台となります。

社会全体で育児を支える意識改革

制度の充実に加えて、社会全体の意識改革が不可欠です。

企業文化として、育児休業の取得がキャリアの停滞や不利益と見なされないよう、経営層から現場まで一貫した理解と支援が必要です。同僚や上司が育休取得者を温かくサポートする雰囲気、そして社会全体で男性が育児に積極的に関わることを肯定的に捉える視点が求められます。

育休ハラスメントの防止はもちろん、育児と仕事の両立を「当たり前」と捉える社会へと意識を変革していくことが重要です。

持続可能な社会実現のためのロードマップ

育児休暇制度のさらなる充実と活用は、持続可能な社会を実現するための重要なロードマップとなります。

政府は、企業の育児休暇取得促進へのさらなる支援策(助成金、情報提供など)を講じるべきです。企業間では、ベストプラクティスを共有し、業界全体で底上げを図る必要があります。育児と仕事の両立支援は、少子化対策、女性活躍推進、そして経済全体の活性化に直結する長期的な投資です。

誰もが安心して子育てとキャリアを築ける社会を目指し、企業、政府、そして個人が協力し合うことで、より豊かな未来を築くことができるでしょう。