1. ダブルワークの「88,000円の壁」とは?所得税との関係
    1. 「88,000円の壁」の具体的な意味と対象
    2. 社会保険加入によるメリット・デメリット
    3. 所得税の「壁」との違いと注意点
  2. 社会保険の二重加入を避ける!健康保険・厚生年金はどっちに加入?
    1. 社会保険加入の優先順位と原則
    2. 複数事業所勤務の場合の手続きと届け出
    3. 「130万円の壁」と扶養からの脱却
  3. ダブルワークの所得税はどうなる?甲乙欄の計算と注意点
    1. 「甲欄」「乙欄」とは?源泉徴収の仕組み
    2. 所得税がかかる年収の「壁」とその変動
    3. 確定申告の必要性とメリット・デメリット
  4. ダブルワークで損しない年収とは?節税・経費計上のポイント
    1. 「働き損」を避ける具体的な年収目標
    2. ダブルワークにおける経費計上のコツ
    3. 所得控除を最大限活用する節税戦略
  5. ダブルワークの年末調整、少ない方でやるのはアリ?
    1. 年末調整の原則:主たる給与支払者で実施
    2. 年末調整を行わない勤務先からの収入の扱い
    3. 確定申告で正しい税額を計算する重要性
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: ダブルワークで月収88,000円を超えるとどうなりますか?
    2. Q: ダブルワークで社会保険に二重加入することは可能ですか?
    3. Q: ダブルワークの場合、所得税はどのように計算されますか?
    4. Q: ダブルワークで年収いくらまでなら損しないのでしょうか?
    5. Q: ダブルワークで、給与の少ない方の勤務先で年末調整をしても大丈夫ですか?

ダブルワークの「88,000円の壁」とは?所得税との関係

ダブルワークを検討している方にとって、最も気になる「壁」の一つが「88,000円の壁」ではないでしょうか。これは、社会保険への加入義務が生じるかどうかの境界線であり、手取り額に大きく影響します。

「88,000円の壁」の具体的な意味と対象

「88,000円の壁」とは、主にパートやアルバイトで働く方が、月に88,000円以上の収入を得ると社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が生じる条件を指します。年収換算すると約106万円になるため、「106万円の壁」とも呼ばれます。この壁が適用されるためには、以下の5つの条件すべてを満たす必要があります。

  • 勤務先の従業員数が101人以上(2024年10月からは51人以上に拡大)
  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない

特に、2024年10月からは対象となる企業規模が拡大されるため、現在この壁に該当しない方も、今後は加入義務が生じる可能性があります。社会保険に加入すると、これまで支払っていなかった保険料の負担が生じ、手取り額が一時的に減ることを認識しておく必要があります。

社会保険加入によるメリット・デメリット

社会保険への加入は、一時的に手取りが減るというデメリットがある一方で、長期的に見れば多くのメリットがあります。デメリットとしては、給与から健康保険料と厚生年金保険料が天引きされるため、手取り額が減少し、「働き損」と感じてしまう可能性がある点が挙げられます。特に、年収が壁を超えた直後は、保険料負担により手取りが減る現象が生じやすいです。

しかし、メリットも非常に大きいです。厚生年金に加入することで、将来受け取れる年金額が増加します。また、病気や怪我で仕事ができなくなった際には「傷病手当金」、出産時には「出産手当金」など、手厚い保障が受けられるようになります。さらに、障害を負った場合や死亡した場合にも、年金制度からの給付があるため、万が一の備えとしても安心感があります。参考情報にもあるように、「106万円の壁」に該当する人は、手取りの減少を取り戻すために年収124万円以上を目指すことが推奨されています。

所得税の「壁」との違いと注意点

「88,000円の壁」(106万円の壁)は、社会保険に関するものであり、所得税に関する「壁」とは性質が異なります。所得税に関する主な「壁」としては、以下のものが挙げられます。

  • 103万円の壁(所得税):給与所得控除と基礎控除の合計額で、この範囲内なら所得税がかからない。2025年1月1日以降は、給与所得控除と基礎控除の引き上げにより、「123万円の壁」に引き上げられる予定です。
  • 110万円の壁(住民税):住民税がかからないとされる年収の目安。地域によって100万円未満でも課税される場合があります。2025年以降は、給与所得控除の引き上げに伴い、上限が110万円程度になると見込まれています。

これらの所得税や住民税の壁と、社会保険の壁はそれぞれ独立して存在します。社会保険の加入条件を満たしたとしても、即座に所得税の負担が増えるわけではありませんが、社会保険料は所得控除の対象となるため、結果的に所得税や住民税の計算に影響を与えることになります。自身の状況に合わせて、これらの複数の「壁」を総合的に理解し、計画的にダブルワークを進めることが重要です。

社会保険の二重加入を避ける!健康保険・厚生年金はどっちに加入?

ダブルワークをしている場合、それぞれの勤務先で社会保険の加入条件を満たしてしまうケースがあります。社会保険は原則として一人につき一つしか加入できないため、適切な手続きが必要です。

社会保険加入の優先順位と原則

健康保険と厚生年金は、原則として一人一つの加入が基本です。もし複数の勤務先で社会保険の加入条件を満たしてしまう場合、どちらか一方の勤務先で加入することになります。この際、一般的には「主たる生計を維持する勤務先」、つまり労働時間が長い方や給与額が多い方の勤務先で社会保険に加入するのが原則です。

ただし、どちらが「主たる」か明確でない場合や、両方の勤務先で条件を満たす場合は、被保険者自身が選択して手続きを行うことになります。いずれにせよ、二つの会社でそれぞれ社会保険料が引かれるということはありません。複数の勤務先で条件を満たす場合は、二重で加入しないための特別な手続きが必要になることを覚えておきましょう。

複数事業所勤務の場合の手続きと届け出

複数の勤務先で社会保険の加入条件を満たす場合、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択届・二以上事業所勤務届」を年金事務所に提出する必要があります。この手続きを行うことで、どちらか一方の勤務先を「主たる事業所」として選択し、その事業所を通じて健康保険と厚生年金に加入することになります。

保険料の計算は、複数の勤務先からの給与を合算した総報酬額に基づいて行われ、それぞれの勤務先から、その報酬額の割合に応じて按分された保険料が徴収されます。例えば、A社とB社で給与を得ている場合、両方の給与を合算した額で保険料が決まり、A社とB社がそれぞれ負担割合に応じて保険料を納めることになります。この届け出は、基本的には選択した主たる事業所の人事・総務担当者を通じて行われることが一般的です。

「130万円の壁」と扶養からの脱却

ダブルワークをする上で、社会保険のもう一つの大きな壁が「130万円の壁」です。これは、配偶者や親の扶養に入っている方が、年収130万円を超えると扶養から外れ、自身で国民健康保険・国民年金に加入するか、自身の勤務先で社会保険に加入する必要が生じるというものです。扶養を外れると、これまでかからなかった保険料負担が生じるため、手取りが大きく減少する可能性があります。

この「130万円の壁」に対しても、厚生労働省は「年収の壁・支援強化パッケージ」として、一時的に年収が130万円を超えても、一定の条件下で最長2年間は扶養の範囲にとどまれる措置を講じています。これは、事業主が一時的な増収であることの証明を行うことで適用される制度です。しかし、恒常的に130万円を超える収入が見込まれる場合は、扶養から外れて自身で社会保険に加入することを視野に入れる必要があります。年収が130万円を超えた場合、手取りを損しないためには、年収152万円以上を目指すことが推奨されています。

ダブルワークの所得税はどうなる?甲乙欄の計算と注意点

ダブルワークをする際、所得税の計算方法は単一の勤務先の場合と異なります。「甲欄」と「乙欄」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これらは、源泉徴収される所得税額に大きく影響します。

「甲欄」「乙欄」とは?源泉徴収の仕組み

給与所得者は、給与が支払われる際に所得税が源泉徴収されます。この源泉徴収額は、「扶養控除等申告書」を提出しているかどうかで適用される税額表が異なります。

  • 甲欄(こうらん):「扶養控除等申告書」を提出している勤務先で適用されます。一般的に、複数の勤務先がある場合は、最も収入の多いメインの勤務先に提出し、甲欄が適用されます。甲欄は、扶養親族の有無などを考慮して税額が計算されるため、税負担が比較的軽くなります。
  • 乙欄(おつらん):「扶養控除等申告書」を提出していない勤務先で適用されます。ダブルワークの場合、サブの勤務先では乙欄が適用されることがほとんどです。乙欄は、扶養控除などが考慮されないため、甲欄に比べて源泉徴収される税額が高く設定されています。

サブの勤務先で乙欄が適用されると、毎月の手取りは減りますが、これは最終的な所得税額よりも多く徴収されている可能性が高いため、確定申告で精算することになります。

所得税がかかる年収の「壁」とその変動

所得税がかかるかどうかは、主に「103万円の壁」が目安とされてきました。これは、給与所得控除(最低55万円)と基礎控除(48万円)の合計額が103万円となるため、年収103万円以内であれば所得税がかからなかったためです。しかし、この壁は2025年1月1日以降に変更される予定です。

2025年からは、給与所得控除の最低保障額が65万円に、基礎控除も引き上げられることにより、所得税の課税最低限が160万円まで引き上げられる見込みです。これにより、より多くの収入を得ても所得税がかからないケースが増えることになります。

また、住民税に関しては、「100万円の壁」や「110万円の壁」が存在し、お住まいの自治体によって基準が異なる場合があります。2025年以降は、住民税がかからない収入の上限が110万円程度に引き上げられると見込まれていますが、地域差があるため、ご自身の自治体の情報を確認することが重要です。

確定申告の必要性とメリット・デメリット

ダブルワークをしている場合、確定申告が必要になるケースがあります。

確定申告の必要性 条件
不要なケースが多い 給与収入のみで、年末調整を受けている勤務先以外からの収入が年間20万円以下の場合。
必要なケース
  • 2か所以上から給与所得を得ており、どちらでも年末調整を受けていない場合。
  • 1か所で年末調整を受けていても、もう一方の給与収入が20万円を超える場合。
  • 給与所得以外に、事業所得や雑所得(副業収入など)の合計が48万円を超える場合。

確定申告を行うことで、サブの勤務先で乙欄適用により多く源泉徴収された所得税が還付される可能性があります。これは、全体の所得に対して適切な税率が適用され、控除が適用されるためです。確定申告を怠ると、払いすぎた税金が戻ってこないだけでなく、不足分の納税が発生した場合に、加算税や延滞税といったペナルティが課されるリスクもあるため、忘れずに行うようにしましょう。

ダブルワークで損しない年収とは?節税・経費計上のポイント

ダブルワークをするなら、「働き損」になるのは避けたいもの。収入の壁を意識しながら、賢く節税や経費計を行うことで、手取り額を最大化することができます。

「働き損」を避ける具体的な年収目標

ダブルワークで最も避けたいのが、年収の「壁」を超えたことで手取りが一時的に減ってしまう「働き損」の状態です。社会保険の加入義務が生じる「106万円の壁」や扶養から外れる「130万円の壁」を超えた際、保険料の負担増により手取りが一時的に減る可能性があります。しかし、これを大きく超える収入を得れば、最終的な手取り額は増加します。

具体的な目標として、参考情報によると、「106万円の壁」に該当する人は年収124万円以上を、「130万円の壁」に該当する人は年収152万円以上を目指すことが推奨されています。この目標額は、保険料負担増を相殺し、手取り額を壁を超える前よりも増やすための目安となります。ただ壁の手前で働き控えをするのではなく、一歩踏み込んで積極的に収入を増やすことで、経済的なメリットを享受できるでしょう。

ダブルワークにおける経費計上のコツ

もしダブルワークの収入が「給与所得」だけでなく、「事業所得」や「雑所得」に該当する場合、かかった費用を「経費」として計上することで、所得を圧縮し、結果的に税金を抑えることが可能です。

経費として認められるのは、収入を得るために直接的かつ合理的に必要だった費用です。例えば、以下のようなものが考えられます。

  • 交通費:仕事で発生した電車代やバス代、ガソリン代など。
  • 通信費:仕事で使用したスマホやインターネットの費用(家事按分も可能)。
  • 消耗品費:文房具、インク、仕事用ソフトウェアなど。
  • 書籍代:仕事に関連する知識習得のための書籍など。
  • 会議費・接待交際費:業務上の打ち合わせや顧客との飲食費など。

自宅を仕事場としている場合は、家賃や電気代の一部を「家事按分」として経費に計上することも可能です。領収書やレシートは必ず保管し、日々の帳簿付けを習慣づけることが重要です。特に、青色申告を選択すれば、最大65万円の特別控除が受けられるため、より大きな節税効果が期待できます。

所得控除を最大限活用する節税戦略

経費計上以外にも、さまざまな「所得控除」を活用することで、課税対象となる所得を減らし、税金を安くすることができます。ダブルワークをしている方は、自身の状況に合わせてこれらの控除を積極的に活用しましょう。

主な所得控除には、以下のようなものがあります。

  • 社会保険料控除:自身が支払った健康保険料、厚生年金保険料、国民健康保険料、国民年金保険料の全額が対象です。
  • 生命保険料控除:生命保険や個人年金保険の保険料の一部が控除されます。
  • iDeCo(個人型確定拠出年金):掛け金が全額所得控除の対象となります。
  • 医療費控除:年間10万円(または所得の5%)を超える医療費を支払った場合に対象となります。
  • ふるさと納税:寄付金額に応じて所得税や住民税から控除されます(自己負担2,000円を除く)。

これらの控除は、年末調整や確定申告の際に申告することで適用されます。特にiDeCoやふるさと納税は、ダブルワークで収入が増えた際の効果的な節税対策となります。ご自身の家計や将来設計に合わせて、最適な控除を見つけて活用しましょう。

ダブルワークの年末調整、少ない方でやるのはアリ?

ダブルワークの場合、年末調整をどの勤務先で行うべきか迷うことがあります。税法上のルールに則り、適切に手続きを進めることが重要です。

年末調整の原則:主たる給与支払者で実施

年末調整は、原則として「扶養控除等申告書」を提出した勤務先で行うことになっています。この申告書は、一般的に最も給与額が多く、メインで働いている会社に提出します。つまり、ダブルワークの場合でも、通常はメインの勤務先で年末調整を行うことになり、サブの勤務先では行いません。

これは、所得税の計算が個人単位で行われるため、複数の勤務先でそれぞれ年末調整を行ってしまうと、控除が重複して適用され、正しく税額が計算できなくなるためです。したがって、少ない方の勤務先で年末調整を行うのは、税法上認められていません。もし誤って両方の勤務先で年末調整を行ってしまった場合は、必ず確定申告をして正しい納税額を精算する必要があります。

年末調整を行わない勤務先からの収入の扱い

メインの勤務先で年末調整を行った場合、サブの勤務先からの収入については、その勤務先から「源泉徴収票」が発行されます。この源泉徴収票には、サブの勤務先から支払われた給与額と、そこから源泉徴収された所得税額が記載されています。

サブの勤務先からの給与は、年末調整で合算されていないため、この源泉徴収票をもとに、メインの勤務先の源泉徴収票と合算して自身で確定申告を行う必要があります。通常、サブの勤務先からの収入は「乙欄」で源泉徴収されているため、多めに税金が引かれているケースが多く、確定申告をすることで払いすぎた税金が還付される可能性が高いです。源泉徴収票は確定申告に必須の書類なので、大切に保管しておきましょう。

確定申告で正しい税額を計算する重要性

ダブルワークをする場合、年末調整だけでは税金の手続きが完結しないことが多く、確定申告の重要性が高まります。

確定申告が特に重要なケース 内容
複数の給与所得がある場合 メイン以外の勤務先からの給与が20万円を超える場合や、サブの勤務先で「乙欄」適用により多く源泉徴収されている場合。
副業が給与所得以外の場合 事業所得や雑所得(アフィリエイト、クラウドソーシングなど)がある場合、それらの所得が48万円を超えると確定申告が必要です。
所得控除を適用したい場合 医療費控除、寄付金控除(ふるさと納税など)、iDeCoの掛け金控除など、年末調整で適用されなかった控除がある場合。

確定申告を行うことで、年間を通じた正確な所得と税額を計算し、払いすぎた税金があれば還付を受け、不足があれば納税することができます。これを怠ると、税務署からの指摘を受け、追徴課税(加算税や延滞税)が課されるリスクがあります。確定申告は少し複雑に感じるかもしれませんが、税務署の相談窓口や税理士などの専門家を活用し、正しく手続きを行うようにしましょう。