概要: 「副業禁止」という言葉を耳にすることが多いですが、その規定は本当に有効なのでしょうか。特に無報酬や無償での活動は、労働基準法や労働法との関連でどのように解釈されるのか、公務員のケースも含めて詳しく解説します。
副業禁止規定の有効性:無報酬・無償の副業は許される?
近年、働き方の多様化が進む中で、副業に対する関心が高まっています。しかし、多くの企業では未だに副業を禁止または制限する規定が設けられており、従業員にとっては自身のキャリアや収入の選択肢を広げる上で大きな壁となることがあります。
本記事では、副業禁止規定の法的有効性から、一見問題なさそうな「無報酬・無償の副業」が許されるのか、そして具体的なデータや公務員の事例を交えながら、副業を検討する際に知っておくべきポイントを詳しく解説します。
副業禁止規定の基本と労働基準法
副業禁止規定の法的根拠と限界
労働基準法では、原則として労働者の労働時間外の時間の利用は自由とされており、憲法で保障された「職業選択の自由」も尊重されるべきです。このため、企業が合理的な理由なく、全面的に副業を禁止することは、裁判で無効と判断される可能性があります。
労働者は、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働する義務はないため、自分の時間をどのように使うかは基本的に個人の裁量に委ねられています。企業が副業を制限できるのは、あくまでその制限に合理的な理由が認められる場合に限られます。
全面的な禁止は従業員の私生活への過度な介入とみなされかねず、法的な観点からはその有効性には疑問符がつくことが多いのです。
副業を制限できる「合理的な理由」とは?
企業が副業を制限する規定が有効と判断されるのは、その制限に「合理的な理由」がある場合です。これは、企業の正当な利益を保護するために必要不可欠な場合に限られます。
具体的なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 労務提供上の支障がある場合: 副業による過重労働で本業の集中力が低下したり、欠勤・遅刻が増えたりするなど、本業に悪影響を及ぼす場合です。
- 企業秘密が漏洩する場合: 副業先が競合他社であったり、本業で得た機密情報やノウハウが副業を通じて漏洩するリスクがある場合です。
- 会社の信用や名誉を損なう行為がある場合: 副業が反社会的な活動であったり、会社のイメージダウンにつながるような内容であったりする場合です。
- 信頼関係を破壊する行為がある場合: 会社に著しい損害を与えるような行為や、無許可で重大な就業規則違反を繰り返す場合などが該当します。
これらの理由がある場合、企業は従業員の副業を制限する合理性があるとみなされやすくなります。
厚生労働省の方針と企業の現状
厚生労働省は、働き方の多様化や労働力不足への対応として、副業・兼業の促進に関するガイドラインを策定し、モデル就業規則から副業禁止規定を削除するなど、積極的に副業を推進する姿勢を示しています。
これは、従業員の収入向上やスキルアップ、キャリア形成の機会を広げることを目的としています。
しかし、こうした国の動きにもかかわらず、多くの企業では依然として就業規則で副業を禁止または制限しています。dodaの2022年調査によると、勤務する会社で副業が認められている人の割合は27.5%に留まり、副業が禁止されている人の割合は47.5%と、依然として高い水準です。
副業を検討する際には、まず自身の会社の就業規則を必ず確認し、不明な点があれば人事部門などに相談することが不可欠です。
無報酬・無償の副業は禁止の対象となるのか
無報酬・無償の副業も制限されうる理由
「無報酬・無償」であれば、副業禁止規定に抵触しないと考える人もいるかもしれません。しかし、報酬の有無にかかわらず、副業が本業に支障をきたしたり、企業の信用を損なったりする可能性がある場合、企業から制限されることがあります。
例えば、ボランティア活動であっても、その活動内容が企業の利益を害するものであったり、企業の社会的信用を失墜させるようなものであれば、たとえ金銭的な報酬がなくても問題視される可能性があります。
時間的拘束や心理的負担が大きい無償活動も、本業への集中力低下や疲労の原因となり、結果として労務提供に支障をきたす可能性も否定できません。</企業は従業員の健康管理や本業への専念義務を理由に、無報酬の活動であっても制限する合理的な理由を持つことがあるのです。
報酬の有無に関わらず注意すべきポイント
報酬の有無に関わらず、副業を行う際には以下のポイントに注意が必要です。
- 本業への影響: 副業によって睡眠時間が削られたり、疲労が蓄積したりして、本業のパフォーマンスが低下しないか。
- 機密情報の取り扱い: 本業で知り得た情報やノウハウを副業で利用することはないか。特に、業界が競合関係にある場合は厳重な注意が必要です。
- 会社の信用・名誉: 副業の内容が社会的に問題視されたり、会社のイメージを損なうものではないか。個人のSNSでの発信内容も含まれます。
- 競業避止: 副業の内容が本業の会社と競合するものではないか。たとえ報酬がなくても、競合する活動は会社の利益を損なう可能性があります。
これらの要素は、副業の報酬の有無とは直接関係なく、企業が制限を課す際の重要な判断基準となります。
具体的な無報酬・無償副業の事例とリスク
無報酬・無償の副業の具体例としては、以下のようなものが考えられます。
- NPO法人や地域のボランティア活動への参加
- 趣味で運営しているブログやSNSでの情報発信
- 友人・知人からの依頼で無償で行うコンサルティングやデザイン作業
- 地域のお祭りやイベント運営への無償協力
これらの活動は、一見すると問題ないように見えますが、規模が大きくなったり、社会的な影響力が大きくなったりすると、リスクが生じる可能性があります。
例えば、SNSでの発信が炎上し、その個人が所属する会社の名前が特定されれば、会社の信用失墜につながります。また、無償のコンサルティングであっても、それが競合他社に対して行われたり、本業の機密情報に基づいていた場合は、問題となるでしょう。
無報酬だからと安易に考えず、常に「本業に悪影響はないか」「会社の利益を損なわないか」「会社の信用を傷つけないか」という視点で活動内容を評価することが重要です。
副業禁止規定が有効となるケースとその例外
副業禁止規定が有効とされる典型的なケース
企業が副業禁止規定を設け、それが法的に有効と認められるのは、企業の正当な利益を保護するために必要かつ合理的な理由がある場合です。裁判例では、主に以下の四つの観点から判断される傾向にあります。
- 労務提供上の支障: 副業によって従業員が疲労困憊し、本業の業務効率が著しく低下したり、遅刻・欠勤が常態化したりする場合です。過度な労働は健康リスクを高め、企業は従業員の安全配慮義務を果たすためにも制限が必要だと主張できます。
- 企業秘密の漏洩: 従業員が副業で競合他社に就いたり、本業で得た機密情報やノウハウを副業で利用したりする可能性が高い場合です。企業の競争力を維持するために、これは厳しく制限されます。
- 会社の信用・名誉の毀損: 副業の内容が反社会的であったり、公序良俗に反するものであったりする場合、または社会的に批判を浴びる行為であり、その結果として会社のイメージやブランド価値が損なわれる場合です。
- 信頼関係の破壊: 上記のいずれにも該当しない場合でも、企業と従業員の間の信頼関係が決定的に破壊されるような、重大な裏切り行為や違反行為があった場合です。
これらのケースでは、企業は副業を制限する正当な理由を持つと判断されやすいでしょう。
労働者の「職業選択の自由」とのバランス
憲法第22条で保障される「職業選択の自由」は、労働者の重要な権利です。企業が副業を制限することは、この自由を制約することになるため、その制限は必要最小限にとどめるべきだとされています。
裁判所は、企業の利益保護と労働者の職業選択の自由のバランスを考慮し、副業禁止規定の有効性を判断します。具体的には、制限の目的が正当であるか、制限の手段が適切であるか、制限の程度が過度ではないか、といった点が審査されます。
企業側が主張する「合理的な理由」が、客観的・社会通念上不合理であったり、企業の保護すべき利益と比べて労働者の自由への侵害が大きすぎると判断された場合、副業禁止規定は無効となる可能性が高まります。
労働者が副業を検討する際は、自己の権利だけでなく、会社の利益も尊重する姿勢が求められます。
例外的に副業が認められやすい状況
企業が副業禁止規定を設けていても、例外的に副業が認められやすい状況や、会社に許可を得やすいケースも存在します。以下のような副業は、比較的受け入れられやすい傾向にあります。
- 本業に全く支障がない範囲での短時間・軽微な副業: 休日や就業時間外にごく短時間で行うもので、肉体的・精神的な負担が少ないと客観的に判断されるもの。例えば、小規模なハンドメイド品の販売や、短時間のデータ入力作業などです。
- 企業の利益と直接競合しない業務: 本業とは全く異なる分野の副業で、企業秘密の漏洩や競業避止の観点から問題がないと判断されるもの。
- 社会貢献性の高いボランティア活動など: 会社のイメージ向上に繋がり、従業員のスキルアップにも寄与するような、公共性の高い活動は、会社も前向きに検討してくれる可能性があります。ただし、無報酬であっても、本業に支障が出ない範囲であることは必須です。
- 会社が副業推進の方針に転換した、または柔軟な規定を設けている場合: 厚生労働省のガイドラインに従い、副業を容認する方向に舵を切った企業であれば、許可を得られる可能性は高まります。
いずれの場合も、トラブルを避けるためには、事前に会社の人事部門や上長に相談し、許可を得ることが最も安全な対処法です。
公務員の副業禁止規定と具体的な例外
公務員における副業禁止の厳格な理由
公務員の場合、一般企業の従業員に比べて副業禁止規定がはるかに厳格に定められています。これは、国家公務員法や地方公務員法といった法律に基づき、公務員に課せられる特別な義務があるためです。
- 職務専念義務: 公務員は、職務に専念し、公共の利益のために働く義務があります。副業が本業の職務遂行に支障をきたすことは許されません。
- 信用失墜行為の禁止: 公務員の信用は、国民からの信頼の上に成り立っています。副業が公務員としての品位を損なったり、国民の信頼を失墜させたりするような行為は固く禁じられています。
- 守秘義務: 職務上知り得た秘密を漏らさない義務があります。副業を通じて機密情報が外部に漏れるリスクは、厳しく管理されます。
- 営利企業の従事制限: 営利企業への従事や、自ら営利事業を営むことは原則として制限されています。これは、職務の公正性を保つためです。
これらの義務は、公務員が国民全体の奉仕者であるという特別な立場から課せられるものであり、一般の会社員とは異なる厳しさがあることを理解しておく必要があります。
公務員に認められる副業の具体的な範囲
公務員の副業は原則禁止ですが、一部の例外は認められています。ただし、これらも任命権者の許可が必要となるケースが多く、無許可で行うと懲戒処分の対象となる可能性があります。
具体的に認められやすい副業としては、以下のようなものがあります。
- 不動産賃貸: 一定規模(独立家屋5棟未満、マンション・アパート10室未満など)以下の不動産賃貸業は、許可を得れば可能です。ただし、賃料収入が過大にならないことや、管理業務が本業に支障をきたさないことが条件です。
- 農業: 小規模な農業や家業としての農業も、本業に影響を与えない範囲で許可されることがあります。
- 家業の手伝い: 無償で実家の家業を手伝う場合など、営利性が低く、職務と利害関係が生じない場合は認められることがあります。
- 講演・執筆活動: 職務に関連しない個人的な見識に基づいた講演や執筆活動は、報酬が社会通念上相当な範囲であれば許可されることがあります。
- 株式投資、FX、NISAなど: 自身で経営に関与せず、資産運用を目的とする金融取引は、副業とはみなされず、許可不要で行うことができます。ただし、インサイダー取引など公務員の信用を損なう行為は厳禁です。
いずれの場合も、公務員としての品位を保ち、職務に支障をきたさないことが大前提となります。
公務員が副業を行う際の注意点と手続き
公務員が上記の例外的な副業を行う場合でも、厳格な手続きと注意点があります。無許可で副業を行った場合、懲戒処分の対象となり、最悪の場合、免職となる可能性もあります。
- 任命権者の承認が必須: 上記の許可が必要な副業を行う際は、必ず所属長の承認を得て、任命権者(各省庁の大臣や都道府県知事など)に申請し、許可を得る必要があります。
- 事前相談と詳細な説明: 副業の内容、活動時間、報酬の有無と金額、本業への影響などを具体的に説明し、問題がないことを理解してもらうことが重要です。
- 職務との関連性・公正性の確保: 副業が自身の職務と直接的な利害関係を持たないこと、職務の公正性を疑われることがないことを示す必要があります。
- 時間的制約: 副業に費やす時間は、本業に支障をきたさない範囲に厳しく制限されます。過度な時間投入は、職務専念義務違反とみなされます。
- 秘密保持の徹底: 職務上知り得た情報を副業で絶対に利用しないことを誓約し、徹底して守秘義務を果たす必要があります。
公務員が副業を検討する際は、これらの規定を十分に理解し、透明性の高い手続きを踏むことが何よりも重要です。
副業禁止規定の理不尽さを感じる場合の対処法
まずは自社の就業規則を徹底的に確認する
副業禁止規定に理不尽さを感じる場合でも、感情的に行動する前に、まずは冷静に自社の就業規則を徹底的に確認することが第一歩です。
就業規則には、副業に関する具体的な規定が記載されているはずです。「全面禁止」なのか、「許可制」なのか、あるいは「一部制限」なのかによって、とるべき対応は大きく異なります。
また、どのような副業が禁止され、どのような場合に許可される可能性があるのか、具体的な条件が明記されていることもあります。例えば、「競合他社での副業禁止」「本業に支障をきたす副業の禁止」「会社の信用を損なう副業の禁止」といった文言です。
これらの規定を正確に理解することで、自身の検討している副業が本当に抵触するのか、または交渉の余地があるのかを見極めることができます。不明な点があれば、就業規則に詳しい同僚や、必要であれば人事担当者に匿名で確認することも検討しましょう。
会社への相談・交渉の進め方
就業規則を確認した上で、自身の副業が抵触する可能性があり、かつ会社に許可を求める必要があると感じた場合、慎重に相談・交渉を進めることが重要です。
無許可で副業を行い、後から発覚した場合、懲戒処分の対象となるリスクがあるため、まずは正直に相談することをおすすめします。
相談・交渉の際には、以下の点を明確に伝えましょう。
- 副業の内容: 具体的にどのような仕事で、どのような活動をするのか。
- 活動時間: 週に何時間程度、いつ活動するのか(休日や就業時間外であること)。
- 報酬の有無と金額: 金銭的な報酬がある場合はその額を伝えます。
- 本業への影響がないことの保証: 副業が本業に支障をきたさないよう、どのように工夫するかを説明します。例えば、「疲労管理を徹底する」「緊急時には本業を優先する」など。
- 会社への貢献: 副業で得たスキルや経験が、本業に良い影響を与える可能性があることもアピールできると良いでしょう。
相談は口頭だけでなく、可能であれば書面で内容を残しておくことで、後のトラブルを避けることにも繋がります。</
副業禁止規定に疑問がある場合の外部相談先
会社の副業禁止規定にどうしても理不尽さを感じたり、会社との交渉がうまくいかない場合は、外部の専門機関に相談することも有効な手段です。
主な相談先は以下の通りです。
- 労働基準監督署: 会社の就業規則や副業禁止規定が労働基準法に抵触していないか、客観的な意見を聞くことができます。ただし、個別の交渉には介入してくれません。
- 弁護士: 自身のケースが法的にどのように評価されるか、具体的なアドバイスや、会社との交渉代理を依頼することができます。副業禁止規定の有効性についても専門的な見地から判断してもらえます。
- 社会保険労務士: 労働法や就業規則の専門家であり、副業に関する企業の規定や対応について、実務的なアドバイスを受けることができます。
- 社内労働組合: もし会社に労働組合があれば、組合を通じて会社に改善を求めることができます。組織的な問題提起として、個人で交渉するよりも強い影響力を持つ可能性があります。
これらの専門機関に相談する際は、就業規則の写しや、これまでの会社とのやり取りの記録など、関連資料を準備しておくとスムーズです。
法的な側面から自身の権利と会社の権利を正しく理解し、冷静かつ建設的に問題解決にあたることが重要です。
まとめ
よくある質問
Q: 副業禁止規定は、労働基準法や労働法によって無効になることはありますか?
A: 一概に無効になるとは言えません。労働基準法では、労働者が就業規則で副業を禁止されている場合、それが直ちに無効とされるわけではありません。しかし、その禁止規定が合理的でない場合や、個人の権利を不当に侵害する場合は、無効とされる可能性もあります。
Q: 無報酬や無償で行う副業も、副業禁止規定で禁止されますか?
A: 原則として、業務委託契約や雇用契約に基づかない、純粋なボランティア活動や社会貢献活動など、実質的に報酬が発生しない・労働とみなされない副業については、禁止の対象外となることが多いです。ただし、活動内容によっては、実質的に労働とみなされる可能性も否定できません。
Q: 副業禁止規定が有効となる具体的なケースを教えてください。
A: 会社の利益に重大な影響を与える、競合他社との取引、職務専念義務に反する、信義則に反するなど、客観的に見て合理的な理由があり、かつ、就業規則等で明確に定められている場合は、副業禁止規定は有効とみなされる傾向があります。
Q: 公務員の副業禁止規定には、どのような例外がありますか?
A: 公務員は、原則として副業が禁止されています。ただし、国や地方公共団体の許可を得た場合、または、社会貢献活動など、職務に支障がなく、かつ、法律で認められている範囲内での活動は例外として許容されることがあります。具体例は、地方自治体や省庁によって異なります。
Q: 副業禁止規定が理不尽だと感じた場合、どうすれば良いですか?
A: まずは、就業規則や雇用契約書の内容をよく確認し、不明な点は人事部や上司に質問しましょう。それでも納得できない場合や、不当な扱いだと感じる場合は、労働組合や弁護士、労働基準監督署などの専門機関に相談することを検討してください。