概要: 育児や介護と仕事の両立を支援する時短勤務制度。法律改正により、その選択肢はより多様化しました。本記事では、時短勤務の最新法改正、変形労働時間制との連携、そして「養育特例」の活用法を解説します。また、時短勤務が認められない場合の対応策も紹介します。
時短勤務の法律改正と養育特例の活用法
2024年5月に成立した育児・介護休業法等の改正により、仕事と育児・介護の両立支援がさらに強化されます。特に、時短勤務に関する制度や、育児休業の延長に関する手続きが変更されるため、企業・従業員双方にとって重要な内容となっています。
本記事では、最新の法改正情報を踏まえ、時短勤務制度の基本からその活用法、さらには「養育特例」の考え方までを詳しく解説します。子育て世代の皆様が、より安心して仕事と育児を両立できる社会を目指すためのヒントになれば幸いです。
時短勤務に関する法律の基本と改正のポイント
3歳未満の子の養育義務と新制度の概要
2025年4月より施行される改正育児・介護休業法では、3歳未満の子を養育する労働者に対して、企業が短時間勤務制度を導入することが義務付けられます。これまでの制度では、1日の所定労働時間を原則6時間とする措置が中心でしたが、改正後はより柔軟な選択肢が認められるようになります。
具体的には、1日7時間勤務のような6時間以外の短縮措置や、所定労働日数を減らすといった方法も制度として導入できるようになります。この変更は、個々の家庭や職場の状況に応じた多様な働き方を促進し、より多くの労働者が育児と仕事を両立しやすくすることを目的としています。
従業員にとっては、自分のライフスタイルや子どもの成長段階に合わせて、より最適な働き方を選べるようになる大きなメリットがあります。企業側も、画一的な制度ではなく、実情に合わせた柔軟な制度設計が求められることになります。
テレワークの導入と多様な働き方の推進
今回の改正で特に注目すべきは、短時間勤務制度を講じることが困難な場合の代替措置として、テレワークが追加された点です。これは、場所や時間に縛られない働き方が、育児との両立において非常に有効であるとの認識が高まった結果と言えるでしょう。
2025年4月1日からは、3歳未満の子を養育する労働者に対して、短時間勤務が困難な場合にテレワーク等の措置を講じることが努力義務化されます。これにより、例えば、通勤時間がネックで短時間勤務が難しい場合でも、自宅でのテレワークを活用することで、育児時間を確保しつつ業務を継続することが可能になります。
企業にとっては、制度導入の選択肢が増えるだけでなく、従業員のワークライフバランス向上に貢献し、優秀な人材の定着にもつながる可能性があります。多様な働き方を支援する企業文化の醸成にも一役買うことが期待されます。
「育児時短就業給付」の新設とそのメリット
短時間勤務制度の利用は、多くの場合、給与の減少を伴います。この経済的な負担を軽減し、より多くの労働者が安心して時短勤務を選択できるよう、2歳未満の子を養育する労働者向けに「育児時短就業給付」が新たに創設されます。
この給付金は、時短勤務前の賃金の約10%が支給される見込みとなっており、時短勤務による収入減を補填する役割を担います。例えば、月給30万円の方が時短勤務で24万円になった場合、差額の6万円の約10%に相当する金額が給付されるイメージです。
「育児時短就業給付」の創設は、育児中の経済的不安を和らげ、キャリアと育児の両立を強く後押しする重要な支援策です。従業員は、この給付金を活用することで、経済的な理由から時短勤務を諦めることなく、育児期間中の働き方を柔軟に選択できるようになるでしょう。
変形労働時間制との関係性:時短勤務の多様な選択肢
現行の短時間勤務制度の概要
今回の法改正以前の短時間勤務制度は、多くの場合、1日の所定労働時間を原則6時間とすることが主流でした。これは、厚生労働省の指針にも示されており、多くの企業がこの原則に沿って制度を運用してきました。
例えば、午前9時から午後5時までの8時間勤務のところを、午後4時までの7時間勤務(休憩1時間)や、午前10時から午後5時までの6時間勤務(休憩1時間)などに短縮する形が一般的でした。これにより、従業員は保育園のお迎えなどに間に合わせることができ、一定の両立支援効果はありました。
しかし、この画一的な制度では、個々の従業員の状況や企業の業務内容によっては、必ずしも最適な働き方とは言えないケースもありました。例えば、特定の日だけ短くしたい、週単位で柔軟に調整したいといったニーズには対応しきれていない面があったのも事実です。
改正後の短時間勤務制度の柔軟性
2025年4月からの改正では、短時間勤務制度の選択肢が大幅に広がります。従来の原則6時間勤務に加え、1日7時間勤務のような6時間以外の短縮措置や、週の所定労働日数を減らすといった方法も認められるようになります。
例えば、「週5日勤務で毎日1時間短縮」だけでなく、「週4日勤務で1日あたりの労働時間は維持する」といった働き方も可能になります。これにより、従業員は子どもの習い事や通院、あるいは自身の休息のために、週に1日休みを取るといった選択もできるようになるでしょう。
この柔軟性の向上は、従業員一人ひとりのライフステージやニーズに合わせたカスタマイズを可能にし、より実効性の高い両立支援を実現します。企業にとっても、多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮できる環境を整備しやすくなるというメリットがあります。
変形労働時間制と時短勤務の組み合わせ
さらに柔軟な働き方を追求する上で有効なのが、変形労働時間制と短時間勤務制度の組み合わせです。変形労働時間制とは、一定期間(週・月・年単位)の中で、平均して法定労働時間を超えない範囲で、日や週によって労働時間を弾力的に設定できる制度です。
この制度と時短勤務を組み合わせることで、「今週は子どもの行事があるから労働時間を短くし、来週は業務が立て込むから少し長く働く」といった調整が可能になります。例えば、特定週は週4日勤務で短縮し、別の週は週5日勤務で通常通り働くといった運用も考えられるでしょう。
ただし、この組み合わせを導入するには、企業内で労使協定の締結や就業規則の改定が必要になります。企業は従業員の多様なニーズに応えるため、これらの制度の組み合わせを積極的に検討し、従業員にとって最適な働き方を提案していくことが求められます。
時短勤務の要件と「養育特例」による柔軟な働き方
短時間勤務制度の利用要件
短時間勤務制度を利用できるのは、原則として3歳未満の子を養育する労働者です。この制度は、子育て中の労働者が仕事と家庭生活を両立できるよう、育児・介護休業法によって企業に導入が義務付けられています。
利用を希望する従業員は、企業が定める申請手続きに従い、所定の期間までに申し出を行う必要があります。企業は、正当な理由なくこの申し出を拒否することはできません。この制度は、子どもの成長にとって重要な時期に、親がより多く子どもと関わる時間を確保できるように設計されています。
利用要件を満たす労働者であれば、性別や雇用形態(一部例外あり)を問わず制度の利用が可能です。企業は、従業員が制度を円滑に利用できるよう、情報提供や相談体制の整備に努めるべきです。
育児休業給付金の延長手続きの厳格化
育児休業は、原則として子どもが1歳になる前日まで取得可能ですが、保育所に入れないなどのやむを得ない理由がある場合、最長で2歳になる前日まで延長が可能です。しかし、2025年4月1日からは、育児休業給付金の延長手続きが厳格化されます。
これは、入所意思がないにもかかわらず育児休業延長のためだけに保育所の入所申し込みを行うといった、制度の不適切な利用を防ぐための措置です。延長申請には、以下の書類が新たに必要となります。
- 育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書
- 保育所等の利用申し込み時の申し込み書の写し
- 入所保留通知書(またはそれに準ずる書類)
これらの書類を提出することで、本当に保育所に入れない状況にあることを客観的に証明する必要があります。従業員は、延長を検討する際には、早めに市区町村の保育所入所申し込み状況を確認し、必要な書類を漏れなく準備することが重要です。
延長が認められないケースとその注意点
育児休業給付金の延長手続き厳格化に伴い、以下のようなケースでは延長が認められない可能性が高まります。これらの点を事前に理解し、適切な対応を取ることが不可欠です。
- 保育所の入所申し込み日や利用開始日が、子どもの1歳の誕生日を過ぎている場合: 原則として、子どもが1歳になる前から入所を希望している必要があります。
- 市区町村に問い合わせた際に、年度途中の入所が難しいなどの説明を受け、保育所への入園申込自体を行わなかった場合: 形式的であっても、入所申し込みを行った事実とそれを証明する書類が必要です。
- 延長が認められた後に、保育所の入所を辞退するなど、復職意思がないと判断される場合: 制度の趣旨は「復職を前提とした育児期間の支援」であるため、復職意思がないと見なされる行為は認められません。
これらの厳格化は、制度を適正に運用し、本当に支援が必要な労働者に確実に給付が行き渡るようにするためのものです。従業員は、制度の変更点を十分に理解し、計画的に育児休業の取得や延長を検討することが求められます。
時短勤務が守られない? みなし労働や免除のケース
みなし労働時間制と時短勤務
一部の職種では、事業場外みなし労働時間制や専門業務型裁量労働制といった「みなし労働時間制」が適用されることがあります。これらの制度は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間(みなし労働時間)働いたものとみなして賃金を支払うものです。
みなし労働時間制が適用される場合、短時間勤務の概念が複雑になります。なぜなら、実際に働く時間が短くなっても、賃金は「みなし労働時間」に基づいて支払われるため、時短勤務による給与減の恩恵が受けられない、あるいは期待した効果が得られない可能性があるからです。
したがって、みなし労働時間制が適用される従業員が時短勤務を希望する場合は、企業と十分に話し合い、実態に合わせた働き方や賃金体系について個別に検討する必要があります。場合によっては、みなし労働時間制の適用除外や、フレックスタイム制への移行なども視野に入れるべきでしょう。
短時間勤務制度の適用除外について
育児・介護休業法では、企業に短時間勤務制度の導入を義務付けていますが、例外的に労使協定を締結することで、一部の労働者を適用から除外することが認められています。これは、企業の業務運営上、短時間勤務の適用が困難であると合理的に判断される場合に限られます。
適用除外の対象となる主なケースは以下の通りです。
- 勤続1年未満の労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
- 業務の性質上、短時間勤務が困難と認められる特定の業務に従事する労働者
しかし、これはあくまで例外的な措置であり、企業は安易に適用除外を設けるべきではありません。原則として、全ての対象労働者に対して短時間勤務制度を提供する努力が求められます。適用除外を設ける場合でも、その理由を明確にし、従業員への十分な説明と理解を得ることが不可欠です。
企業が短時間勤務を講じることが困難な場合
業種や職種によっては、業務の性質上、短時間勤務制度を講じることが物理的・構造的に困難な場合があります。例えば、工場でのライン作業やシフト制勤務など、チームでの連携が不可欠で個人が自由に労働時間を短縮しにくい職場などが挙げられます。
このような場合でも、企業は従業員の両立支援に努める義務があります。今回の法改正では、短時間勤務制度の代替措置としてテレワークの導入が追加されました。企業は、短時間勤務が困難な場合でも、テレワークや時差出勤、フレックスタイム制の導入など、代替となる柔軟な働き方を提供することが求められます。
2025年4月1日からは、3歳未満の子を養育する労働者に対し、テレワーク等の措置を講じることが努力義務化されます。企業は、従業員の多様なニーズに応えるため、柔軟な代替措置を積極的に検討し、就業規則への明記や周知を徹底することが重要です。
時短勤務を認めない企業への対応と活用事例
企業が時短勤務を認めない場合の相談先
もし企業が正当な理由なく、短時間勤務の申し出を拒否したり、不利益な取り扱いをしたりした場合は、労働者は泣き寝入りする必要はありません。いくつかの相談窓口があり、法的なアドバイスや支援を受けることができます。
主な相談先としては、労働基準監督署や都道府県労働局(総合労働相談コーナー)が挙げられます。これらの機関は、労働者の権利保護を目的としており、法的な解釈やあっせんを通じて企業との間のトラブル解決を支援してくれます。また、より具体的な法的手続きを検討する場合は、弁護士への相談も有効です。
これらの機関に相談する際は、企業とのやり取りの記録(メールや書面など)や、就業規則の写しなど、できる限り多くの関連資料を準備しておくと、スムーズに相談を進めることができます。
企業内での交渉と合意形成の重要性
外部機関に相談する前に、まずは企業内で十分に話し合いを行うことが重要です。従業員は、自身の状況や時短勤務を希望する理由を具体的に伝え、企業側の理解を求める姿勢が大切です。また、時短勤務によって生じる業務上の課題に対する代替案や解決策を自ら提案することも有効です。
例えば、「この業務は自宅でテレワークで対応できる」「他のメンバーと連携して業務を分担する」といった具体的な提案は、企業側が時短勤務を受け入れやすくなる材料となります。企業側も、制度の趣旨を理解し、従業員の声に耳を傾けることで、生産性の維持と従業員の満足度向上の両立を目指すべきです。
労使双方にとってメリットのある解決策を見つけるためには、オープンな対話と柔軟な姿勢が不可欠です。合意形成に至った場合は、書面で内容を確認し、認識のずれがないようにすることが後のトラブル防止にもつながります。
多様な働き方と両立支援の成功事例
近年、多くの企業で仕事と育児の両立支援策が進化し、多様な働き方が実践されています。単に時短勤務を認めるだけでなく、テレワーク、フレックスタイム制、裁量労働制などを組み合わせることで、より柔軟かつ効果的な働き方を実現している事例が多数あります。
例えば、あるIT企業では、時短勤務中の社員が週に2日はテレワーク、週に3日はオフィス出社でコアタイム以外の時間を柔軟に活用できる制度を導入。これにより、通勤時間を削減しつつ、必要なオフィスでのコミュニケーションも確保し、生産性を維持しています。
また、従業員の育児休業取得状況を積極的に公表し、男性社員の育児休業取得も奨励する企業も増えています。このような取り組みは、従業員のエンゲージメントを高め、企業のブランドイメージ向上にも寄与します。法改正を機に、企業はこれらの成功事例を参考に、より先進的な両立支援策を検討していくべきでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 時短勤務の法律改正で、具体的に何が変わりましたか?
A: 育児・介護休業法などの改正により、短時間勤務制度の対象拡大や、より柔軟な形態での利用が可能になっています。例えば、一定の要件を満たす労働者に対して、育児や介護を理由とする短時間勤務の請求権が強化されています。
Q: 「養育特例」とはどのような制度ですか?
A: 「養育特例」は、育児休業を取得できなかった労働者や、育児休業の終了後に引き続き短時間勤務を希望する労働者に対して、一定の要件のもとで短時間勤務を認める制度です。これにより、育児と仕事の両立をより支援します。
Q: 変形労働時間制と時短勤務はどのように関係しますか?
A: 変形労働時間制は、特定の期間において労働時間を調整する制度であり、時短勤務と組み合わせることで、より柔軟な働き方を実現できる場合があります。例えば、週の総労働時間を短縮しながら、日ごとの労働時間を調整するといった運用が考えられます。
Q: 時短勤務を申請しても、会社が認めない場合はどうすれば良いですか?
A: まずは、会社の就業規則や関連する労働協約を確認し、法的な要件を満たしているか確認しましょう。それでも認められない場合は、労働基準監督署への相談や、専門家(弁護士や社会保険労務士)への相談を検討することをお勧めします。
Q: 「みなし労働時間制」とは、時短勤務とどのように関連しますか?
A: みなし労働時間制は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた労働時間働いたものとみなす制度です。時短勤務と直接的な関連はありませんが、時短勤務の対象となる労働者が、みなし労働時間制が適用される業務に従事している場合、その制度下での時短勤務となります。