概要: 中間管理職は、上司と部下のはざまで板挟みになり、「きつい」「つらい」と感じることが多い職務です。嫌われ役を担い、長時間労働やサービス残業、精神的な負担から休職や適応障害に至るケースも少なくありません。本記事では、中間管理職が直面する苦悩と、それを乗り越えるための具体的な対策を解説します。
中間管理職が「きつい」「つらい」と感じる現実
板挟みの構造が生むプレッシャーと孤独
中間管理職は、組織において上層部と現場をつなぐ重要な役割を担いますが、その立場ゆえに多くの苦悩や孤独を感じやすい存在です。組織の「板挟み構造」の真ん中に位置することが、その最大の要因と言えるでしょう。
経営層からは目標達成へのプレッシャーを強く受け、一方で部下からは日常業務のフォローやサポートへの期待が寄せられます。この二つの異なる期待の間に挟まれ、どちらの立場にも完全には寄り添えない状況が常態化し、複雑な人間関係に悩むことが少なくありません。
このような状況が続くと、自分は誰からも理解されていないのではないかという孤立感を深めやすくなります。中間管理職は、組織の歯車として機能しながらも、精神的には非常に過酷な環境に置かれていると言えるでしょう。
増大する責任範囲と業務負荷
中間管理職への昇進は、多くの場合、責任範囲と業務量の大幅な増加を意味します。単に自身の業務をこなすだけでなく、チーム全体の目標達成に責任を負い、部下の育成や管理、さらには部門間の調整役まで多岐にわたる役割が求められます。
この責任範囲の拡大は、同時に精神的なプレッシャーの増大に直結します。業務量が増えることで、物理的な時間的制約も生まれ、結果として長時間労働やサービス残業につながりやすい傾向にあります。
自身の業務だけでなく、部下の業務進捗管理、トラブル対応、上司への報告など、日々のタスクは山積し、常に時間に追われる感覚に陥りがちです。この過度な業務負荷が、中間管理職の「きつい」「つらい」という感情を増幅させる大きな要因となっています。
相談相手の減少と弱みを見せられない心理
中間管理職になると、気兼ねなく相談できる相手が急激に減少するという問題に直面します。上司に対してはリーダーシップを示す必要があるため、弱みを見せにくく、部下には指導・育成する立場であるため、悩みを打ち明けにくいのが実情です。
同僚もまた、自身の管理業務で多忙を極めていたり、競争相手であったりするため、気軽に相談できる関係性が築きにくい場合があります。このような状況から、中間管理職は「管理職である以上、弱みを見せたくない」という心理が働き、一人で問題を抱え込んでしまう傾向が強まります。
結果として、精神的なストレスのはけ口を見つけられず、孤独感が深まっていくことになります。心の内を共有できる相手がいないことは、中間管理職の精神衛生にとって非常に大きな負担となるのです。
なぜ中間管理職は嫌われ役になりがち?サンドイッチ症候群の苦悩
経営層からの目標達成圧力と現場の期待
中間管理職は、経営層からは厳格な目標達成を求められ、予算や人員の制約の中で最大限の成果を出すことを期待されます。しかし、一方で現場の部下からは、業務の効率化や負担軽減、時には待遇改善といった、現実的なサポートや共感を求められることが多々あります。
これらの相反する要求の板挟みになることが、中間管理職が「嫌われ役」になりやすい大きな理由です。上司の指示を部下に伝え、実行を促す際には、部下の不満や反発に直面することもあります。また、部下の意見を上司に具申しても、経営方針として受け入れられないことも少なくありません。
この葛藤の中で、中間管理職は自分の意見を主張できなかったり、どちらの期待にも応えられない状況が続き、結果的に双方から不満を持たれやすい立場に置かれてしまいます。これが、まさに「サンドイッチ症候群」と呼ばれる苦悩の核心です。
意思決定の責任と、板挟みによる孤立感
中間管理職は、日々の業務における様々な意思決定において、最終的な責任を自身が負うことになります。その決定が組織目標に与える影響や、部下の業務に与える影響を常に考慮しなければならず、この重い責任は大きな精神的負担です。
また、上司に対してはリーダーシップを発揮し、時には厳しい意見も受け止める姿勢が求められる一方で、部下に対しては親しみやすく、相談しやすい存在でありたいという、相反する役割を求められます。この距離感の難しさも、中間管理職特有の悩みです。
自分自身のポジションに迷いを感じ、「一体自分は何をすべきなのか」という根本的な問いに直面することも少なくありません。経営層と現場、どちらにも寄り添いきれない状況が続くことで、深い孤立感を感じやすくなるのです。
評価機会の減少と承認欲求の不満
中間管理職になると、個人の成果ではなく、チームや部署全体の成果で評価されることが多くなります。自身の努力や貢献が直接的に評価されにくくなり、プロセスが見えにくくなるため、承認される機会が減少する傾向にあります。
例えば、部下の成長やチームの目標達成に貢献しても、それが個人の業績として明確に評価されない場合もあります。このような状況は、自身の承認欲求が満たされにくく、モチベーションの低下につながる可能性があります。
「どれだけ頑張っても報われない」「自分の努力が正当に評価されていない」と感じることは、中間管理職の士気を著しく低下させ、さらに孤独感を深める原因となります。企業は、中間管理職の評価制度を見直し、多角的な視点での評価を導入することが求められます。
サービス残業や長時間労働…中間管理職が抱える搾取の現実
責任範囲の拡大と業務量の増加による労働時間の長期化
中間管理職の業務は、単なるプレーヤーとしての役割を超え、マネジメント、部下育成、部門間調整、上層部への報告など多岐にわたります。昇進に伴い、その責任範囲は大きく広がり、それに伴い業務量も飛躍的に増加するのが一般的です。
例えば、部下の業務の進捗管理やトラブル対応に加え、自身の担当業務も抱えていることが多く、時間内にすべてのタスクを完了させることが困難になります。これが結果として、残業時間の長期化を招く主要因となっています。
「管理職だから」という暗黙のプレッシャーや期待も相まって、自ら率先して長時間働くことを選択せざるを得ない状況に陥りやすく、物理的にも精神的にも追い詰められる中間管理職が少なくありません。
「管理職だから」という理由での残業代不支給問題
日本では、労働基準法で定める「管理監督者」に該当する場合、残業代や休日手当の支給対象外となることがあります。しかし、実際には役職名が「管理職」であっても、実態として経営者と一体的な立場になく、賃金や権限が十分ではない「名ばかり管理職」が多く存在します。
こうした中間管理職は、実態として長時間労働を強いられながらも、残業代が支払われないという二重の苦しみを抱えています。本来、労務管理や経営判断に裁量権を持つべき管理職が、単なる「残業代を払わなくて済む従業員」として扱われているケースは少なくありません。
結果として、部下と同じかそれ以上の業務をこなし、より重い責任を負っているにもかかわらず、手当がつかないサービス残業を強いられるという、不公平な搾取の構造が生まれているのです。
経営層と現場の間に挟まれ、身動きが取れない実態
中間管理職は、経営層からはコスト削減や生産性向上を求められ、一方で現場からは人員増強、待遇改善、業務負荷軽減といった要望が上がります。この板挟みの状況は、中間管理職が自身の労働環境を改善しにくい要因にもなります。
例えば、部下の残業を削減するために業務改善を提案しても、予算や人員の都合で承認されなかったり、逆に自身の業務が増えたりすることもあります。組織全体の構造的な問題が、結果的に中間管理職の個人にしわ寄せとして集中してしまうのです。
このような状況では、自身のワークライフバランスを犠牲にしてでも、組織やチームの目標達成のために尽力せざるを得ないという心理が働きやすくなります。中間管理職は、まさに組織の矛盾を一身に引き受けている存在と言えるでしょう。
精神疾患や適応障害のリスク、そして休職・潰れる可能性
高まるストレスとメンタルヘルス不調のリスク
中間管理職が置かれている過酷な環境は、精神的な負担を増大させ、メンタルヘルス不調のリスクを著しく高めます。公的機関の情報によると、近年、仕事や職業生活に関する強い不安やストレスを感じる労働者の割合が高まっており、心の健康障害による休業者や自殺者数も高い水準で推移しているとのことです。(出典:公的機関の情報)
特に中間管理職は、上層部と部下の板挟み、増大する責任と業務量、相談相手の不在といった特有のストレス要因に常に晒されています。これが長期化することで、適応障害、うつ病、不安障害といった精神疾患を発症するリスクが高まります。
身体的な症状(不眠、頭痛、胃痛など)として現れることもあれば、気分の落ち込み、集中力の低下、意欲の減退といった精神的な症状として現れることもあり、いずれも日常生活や業務遂行に大きな影響を及ぼします。
ストレスチェック制度の活用と義務化の動き
このような状況を受け、企業におけるメンタルヘルス対策の重要性が高まっています。労働安全衛生法に基づき、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査であるストレスチェック制度が、従業員50人以上の事業場において2015年12月1日から義務化されています。(出典:労働安全衛生法)
さらに、2025年2月1日には、従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施を義務づける建議が公表されており、今後、法改正に向けて議論が進む見込みです。(出典:公的機関の情報)これは、仕事の強いストレスによる精神障害で労災認定される人が増加している現状に対応するためのものです。
中間管理職自身も、積極的にストレスチェックを活用し、自身の心の健康状態を定期的に把握することが重要です。また、企業は、ストレスチェックの結果に基づき、適切なフォローアップや職場環境の改善に取り組む必要があります。
「ラインによるケア」の重要性と企業の役割
厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を定め、職場におけるメンタルヘルス対策を推進しています。この指針では、メンタルヘルス対策を「一次予防(健康増進・疾病予防)」「二次予防(早期発見・早期対処)」「三次予防(再発防止・職場復帰支援)」の広範な概念として捉えています。(出典:厚生労働省)
特に中間管理職は、部下からの相談対応や職場復帰支援など、「ラインによるケア」を担うことが期待されています。しかし、中間管理職自身がストレスを抱えやすい立場であるため、企業は彼ら自身のメンタルヘルスケアも十分にサポートする必要があります。
具体的には、管理職向けのメンタルヘルス研修の実施や、管理職が安心して相談できる窓口の設置などが求められます。中間管理職が健全な状態でなければ、部下のケアも十分に行えず、組織全体のメンタルヘルスが悪化する可能性もあるため、企業は積極的な支援体制を構築すべきです。
中間管理職の苦労を乗り越え、孤立しないためのヒント
個人でできる対策:信頼関係構築とスキルアップ
中間管理職が苦悩を乗り越え、孤立感を軽減するためには、まず個人レベルでの積極的な行動が不可欠です。社内外での信頼関係構築は、孤独感を和らげる上で非常に重要です。
- 社内での信頼関係構築:部下や上司との定期的なコミュニケーションを通じて、積極的に意見交換を行い、信頼を深める努力をしましょう。雑談やランチの機会なども有効です。
- 社外での人脈形成:異業種交流会や業界イベントに積極的に参加し、新たな人間関係を築くことで、社内とは異なる視点やアドバイスを得られる機会が生まれます。
- 同じ立場の仲間との情報共有:中間管理職向けの勉強会やオンライングループに参加し、情報や悩みを共有することで、「自分だけが孤独ではない」という安心感を得られます。
- コミュニケーションスキルの向上:傾聴力や、意図を分かりやすく伝える表現力を磨くことは、上司や部下との円滑な関係構築に役立ちます。研修や関連書籍を活用して継続的にスキルアップを目指しましょう。
- ストレス管理とワークライフバランス:日々のストレスを適切に管理し、リフレッシュできる時間を確保することが重要です。趣味や運動、十分な休息は、精神的な健康を維持するために不可欠です。
- 業務効率化:タスク管理ツールを活用したり、業務プロセスを見直したりすることで、無駄を削減し、時間的な余裕を生み出すことができます。
企業ができるサポート:相談窓口と研修の充実
中間管理職の苦悩は個人の問題だけでなく、組織全体で取り組むべき課題です。企業・組織は、中間管理職が働きやすい環境を整備するための具体的なサポート体制を強化する必要があります。
- 管理職同士のつながりを醸成する場の提供:定期的な食事会、情報交換会、交流会などを開催し、役職の垣根を越えて管理職同士が気兼ねなく交流できる機会を設けることで、孤独感を軽減できます。
- 相談窓口の設置と利用促進:批判されることなく、肩書を気にせず相談できる独立した窓口(例:社外のカウンセリングサービス、ハラスメント相談窓口など)を設置し、その利用を積極的に促すことが重要です。
- 研修・教育プログラムの充実:セルフケアやラインケアに関する研修、コミュニケーションスキル向上のための研修などを定期的に実施し、管理職自身のスキルアップとメンタルヘルスケアを支援します。リーダーシップ研修やチームビルディング研修も有効です。
- メンタルヘルスサポート体制の強化:ストレスチェック制度の活用に加え、産業医やカウンセラーとの連携を強化し、早期の不調発見や対応ができる体制を構築します。中間管理職が孤立しないよう、予防的なケアも重要です。
業務負担軽減と評価制度の見直しで働きやすく
中間管理職の業務負担を実質的に軽減し、正当に評価する制度の構築も、企業が果たすべき重要な役割です。これらにより、中間管理職はより本来の業務に集中し、充実感を持って働くことができるようになります。
- 業務負担軽減のための施策:
- 裁量権の拡大:経営層と連携し、管理職の裁量権を拡大することで、現場主導での迅速な意思決定やリソース配分が可能となり、不要な承認プロセスを減らし、負担軽減につながります。
- ITツールの導入:タスク管理ツール、コミュニケーションツール、ワークフローシステムなど、業務効率化を支援するデジタルツールを積極的に導入し、煩雑な手作業やルーティン業務を削減します。
- 業務の棚卸しと再選定:不要な業務を削減したり、人事労務部門などが管理職のメイン業務ではない付随業務をサポートしたりすることで、業務負荷を軽減します。
- 情報伝達の効率化:会社からのお知らせを全従業員に一斉配信できるツールを導入し、管理職が「伝言役」として情報を咀嚼・調整する負担を大幅に軽減します。
- 評価制度の見直し:
- 成果に基づく公平で適切な評価制度を導入し、中間管理職が育成やマネジメントに注力したプロセスも評価対象とすることで、承認欲求を満たし、モチベーションを高める環境を整えます。
- 単一的な成果評価だけでなく、部下育成、チームのエンゲージメント向上など、多角的な視点から中間管理職の貢献を評価する仕組みを検討しましょう。
中間管理職が抱える苦悩や孤独は、個人の問題として片付けられるものではなく、組織全体の生産性や従業員の士気にも大きな影響を与えます。企業全体でこれらの課題に目を向け、適切なサポート体制を構築することが、組織の持続的な成長のために不可欠です。
まとめ
よくある質問
Q: 中間管理職がきついと感じる主な理由は何ですか?
A: 上司からの指示と部下からの要望の板挟みになること、責任の重さ、部下育成の難しさ、長時間労働などが主な理由として挙げられます。いわゆる「サンドイッチ症候群」に陥りやすい立場です。
Q: なぜ中間管理職は「嫌われる役」になりやすいのでしょうか?
A: 組織の方針を部下に伝えたり、時には厳しい指示を出したりする役割を担うため、部下から不満を持たれやすい傾向があります。また、評価や目標設定などで板挟みになることで、どちらからも批判を受けることもあります。
Q: 中間管理職がサービス残業や長時間労働を強いられる背景には何がありますか?
A: 人員不足、業務の属人化、部下の育成不足、上層部からのプレッシャーなどが背景にあります。本来、管理職は部下の労務管理を行う立場ですが、自身が業務に追われ、結果的に長時間労働やサービス残業に陥ってしまうケースが多いです。
Q: 中間管理職が精神疾患や適応障害になるリスクは高いのでしょうか?
A: はい、高いと言えます。常にプレッシャーに晒され、心身の負担が大きいため、精神疾患や適応障害を発症するリスクは一般の従業員よりも高い傾向があります。休職を余儀なくされるケースも少なくありません。
Q: 中間管理職の苦労を乗り越え、孤立しないためにはどのような対策が有効ですか?
A: まず、自身の抱えるストレスを認識し、一人で抱え込まずに信頼できる同僚や上司、専門家(産業医やカウンセラー)に相談することが重要です。また、部下とのコミュニケーションを密にし、チームで協力する体制を築くこと、業務の効率化や権限委譲を進めることも有効な対策です。