OJT(On-the-Job Training)は、新入社員や異動者が職場にスムーズに慣れ、必要なスキルを習得するために不可欠な教育手法です。しかし、実際には多くの人がOJTに対して「不安」や「不満」を抱え、時には「辞めたい」とまで感じることも少なくありません。これは、指導する側、受ける側、そして組織全体の様々な要因が絡み合って生じます。

この記事では、公的機関の情報を中心に、OJTで感じる不安や不満の原因を深掘りし、それを乗り越えて成長へとつなげるための具体的なステップをご紹介します。OJTは単なる業務の引き継ぎではなく、個人の成長と組織の発展を促す重要なプロセスです。ぜひこの記事を参考に、あなたのOJTをより良いものにするヒントを見つけてください。

  1. OJTへの「不安」「辞めたい」という気持ち、どうして生まれる?
    1. 1. 指導者側の負担とスキル不足が引き起こすギャップ
    2. 2. 新人側の「孤独感」と「モチベーション低下」
    3. 3. 組織・制度的な課題が根底にある場合
  2. OJTで「申し訳ない」「やりたくない」と感じる心理
    1. 1. 「申し訳ない」と感じる新人側の背景
    2. 2. 「やりたくない」と感じる指導者側の本音
    3. 3. 指導・受講双方の心理的負担の解消策
  3. OJTが「やばい」「無意味」と感じる時のサイン
    1. 1. 新人側が感じる「放置されている」状態
    2. 2. 指導者側が感じる「手応えのなさ」と「形骸化」
    3. 3. 組織全体に広がる「OJT軽視」の風潮
  4. OJT担当者や環境の「優しすぎる」が招く問題
    1. 1. 過保護な指導が招く「自律性の欠如」
    2. 2. 厳しすぎる評価基準が適用されない「ぬるま湯環境」
    3. 3. コミュニケーション不足が生む「表面的な良好関係」
  5. OJTを乗り越え、成長につなげるための具体的なステップ
    1. 1. 指導者側のスキルアップと組織的な支援体制の強化
    2. 2. 新人・受講者側からの積極的なコミュニケーションと目標設定
    3. 3. 公的支援制度を最大限に活用する
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: OJTで「不安」を感じるのはなぜですか?
    2. Q: OJTで「申し訳ない」「やりたくない」と感じてしまうのは、どうすれば良いですか?
    3. Q: OJTが「やばい」「無意味」と感じる時は、どうしたら良いでしょうか?
    4. Q: OJT担当者が「優しすぎる」場合、どのような問題がありますか?
    5. Q: OJTを辞めたい、辞めることを考えている場合、どうすれば良いですか?

OJTへの「不安」「辞めたい」という気持ち、どうして生まれる?

1. 指導者側の負担とスキル不足が引き起こすギャップ

OJT指導者は、自身の通常業務をこなしながら、新人への指導も行う必要があります。この二重の負担は非常に大きく、多忙さから十分な指導時間を確保できないケースが頻繁に発生します。例えば、指導者が自身の業務に追われ、新人の質問にじっくりと向き合う時間が取れないと、新人は「教えてもらえていない」「放置されている」と感じやすくなります。

また、指導者自身が「教えるプロ」ではないため、指導に必要なスキルや知識が不足している場合も少なくありません。育成方針が不明確で、「いつまでに何をどこまで教えるべきか」といった具体的な目標設定がないと、指導者は何を優先して教えるべきか判断に迷い、結果として効果的な指導が難しくなります。

こうした状況は、新人側から見ると、指導の質のばらつきや、期待されるアウトプットが不明瞭であると感じられ、結果的に不信感やモチベーションの低下につながります。指導者側も、「ちゃんと教えられているのか」という不安や、「自分の業務が進まない」というストレスを感じ、双方にとって望ましくない状況が生まれてしまうのです。

2. 新人側の「孤独感」と「モチベーション低下」

OJTを受けている新人側も、様々な不安や不満を抱えがちです。特に「自分は教えてもらえていない」「放置されている」と感じることは、モチベーションの低下や会社への不満に直結します。これは、指導者側の多忙さや指導スキルの不足が原因であることも多いですが、新人側が「自分に何を期待されているのか」という期待される人材像を明確に把握できていない場合にも生じます。

何を目標に、どのレベルまで到達すれば良いのかが不明確だと、日々の業務に取り組む上での指針が持てず、漠然とした不安や孤独感を抱きやすくなります。さらに、OJT担当者とのコミュニケーションがうまくいかない、あるいはOJT担当者と実際の配属先の先輩が異なる場合などには、指導内容や方針にすれ違いが生じ、新人が混乱することもあります。

また、「研修の時間が確保しづらい」「基本的な社会人研修が不足している」といった不満も、新人の成長を阻害する要因となります。基礎的な知識やスキルが十分に身につかないまま実務に投入されると、新人は自信を失い、失敗を恐れるようになり、結果としてOJTを「やりたくない」と感じたり、「辞めたい」という気持ちが芽生えることにもなりかねません。

3. 組織・制度的な課題が根底にある場合

OJTにおける不安や不満は、個人の問題だけでなく、組織全体の構造的な課題に起因する場合も少なくありません。特に中小企業では、人材や時間、資金といったリソースの制約から、人材育成が後回しにされがちです。これにより、計画的なOJTが実施されず、場当たり的な指導になりやすい傾向があります。

また、OJTが中心となる場合、指導者個人の経験やスキルに教育の質が大きく依存してしまうため、指導者によって教え方にばらつきが生じ、教育内容の均質化が難しいという課題があります。これにより、ある新人は丁寧な指導を受けられる一方で、別の新人は十分な指導を受けられない、といった不公平感が生じることもあります。

厚生労働省の「能力開発基本調査(2013年度)」によると、企業規模が大きくなるほど、計画的なOJTやOff-JT(職場を離れて行う訓練)を実施する割合が高くなる傾向があるとされています。これは、組織的なリソースと制度設計が、OJTの品質に大きく影響を与えることを示唆しています。組織としてOJTの重要性を認識し、体系的な制度を整えることが、不安や不満の解消に不可欠です。

OJTで「申し訳ない」「やりたくない」と感じる心理

1. 「申し訳ない」と感じる新人側の背景

OJTを受けている新人が「申し訳ない」と感じる心理は、多岐にわたります。最も一般的なのは、指導者が自身の業務で忙しそうにしているのを見て、質問することや指導を求めることに遠慮を感じるケースです。「こんなことを聞いて迷惑ではないか」「自分のせいで先輩の仕事が滞っているのではないか」といった思いが、新人の質問機会を奪い、結果的に理解不足や学習の遅れを招きます。

また、「早く一人前にならなければ」という周囲からの期待や、自身の成長に対する焦りも、「申し訳ない」という感情に繋がります。指導者が時間を割いてくれていることへの感謝から、「期待に応えなければ」というプレッシャーを感じ、それが過度になると、失敗を恐れて消極的になったり、分からないことを隠してしまうことがあります。

このような心理状態は、指導者と新人間のコミュニケーション不足を招き、悪循環を生み出す可能性があります。新人が遠慮することで重要な情報共有が滞り、指導者は新人の理解度を正確に把握できなくなるため、お互いにすれ違いが生じやすくなるのです。新人が安心して質問し、学びを深められる環境づくりが重要となります。

2. 「やりたくない」と感じる指導者側の本音

OJT指導者が「やりたくない」と感じる背景には、指導者自身の業務負荷の増大が大きく関わっています。自分の既存業務をこなしながら新人を指導することは、時間的にも精神的にも大きな負担となり、「これ以上仕事が増えるのは困る」という本音を抱えることは珍しくありません。

また、指導に必要なスキルや知識への自信のなさも、「やりたくない」と感じる一因となります。「どう教えれば相手に伝わるのか」「適切なフィードバックの仕方が分からない」といった戸惑いは、指導者としてのモチベーションを低下させます。特に、指導者の努力や成果が人事評価に適切に反映されない場合、指導に対する意欲はさらに失われ、形だけのOJTになりがちです。

さらに、過去のOJTでうまくいかなかった経験や、新人との人間関係の構築に難しさを感じた経験なども、「やりたくない」という気持ちに繋がることがあります。指導者側がこのようなネガティブな感情を抱えたままOJTに臨むと、指導の質が低下し、新人の成長にも悪影響を与えてしまいます。指導者の負担軽減と、指導スキル向上のための支援が不可欠です。

3. 指導・受講双方の心理的負担の解消策

指導者と受講者双方の心理的負担を軽減するためには、いくつかの具体的な解消策を講じることが効果的です。まず、組織としてOJT担当者の業務量を見直し、指導に十分な時間を確保できるよう配慮することが重要です。これにより、指導者は自身の業務に追われることなく、新人と向き合うことができるようになります。

次に、OJTの開始前に、新人と指導者双方でOJT計画を共有し、新人への期待値や目標を明確に設定することが大切です。これにより、新人は何を学ぶべきか、指導者は何を教えるべきかが明確になり、漠然とした不安が軽減されます。厚生労働省が提供する「OJTコミュニケーションシート」のようなツールを活用することも、計画立案や進捗管理に役立ちます。

さらに、定期的な面談やフィードバックの機会を設け、心理的安全性の高い対話環境を構築することも重要です。新人が安心して質問し、自分の状況を素直に伝えられる場を提供することで、「申し訳ない」といった遠慮や、「やりたくない」という不満を抱えることなく、お互いに本音で話し合える関係性を築くことができます。これにより、OJTはより効果的なものとなり、双方の成長につながるでしょう。

OJTが「やばい」「無意味」と感じる時のサイン

1. 新人側が感じる「放置されている」状態

新人がOJTを「やばい」「無意味」と感じる最大のサインの一つは、「放置されている」という感覚です。具体的な状況としては、質問しても指導者が多忙で回答が曖昧だったり、具体的な業務を任されず、簡単な雑務ばかりをこなす日が続いたりすることが挙げられます。また、入社時に提示されたOJT計画が有名無実化し、進捗状況の共有やフィードバックが一切ない場合も、新人は「自分は期待されていない」「ここにいる意味がない」と感じてしまいます。

このような状況が続くと、新人のモチベーションは著しく低下し、会社への不信感へとつながります。自身の成長が実感できず、自己肯定感が低下することで、やがては「この会社で働き続けるのは難しい」と考え、早期離職に至るケースも少なくありません。OJTは本来、新人が安心して学び、成長できる環境を提供するものですが、放置状態は真逆の効果を生んでしまいます。

このサインを見逃さないためには、指導者側からの定期的な声かけや、OJT計画に基づいた進捗の確認が不可欠です。新人が積極的に質問できない環境であれば、指導者側から「何か困っていることはない?」と具体的に尋ねるなど、意識的なコミュニケーションを心がける必要があります。新人の「放置されている」という感覚は、OJTの失敗を知らせる最も重要な警告サインです。

2. 指導者側が感じる「手応えのなさ」と「形骸化」

指導者側も、OJTに対して「手応えがない」「無意味だ」と感じることがあります。これは、新人がなかなか成長しない、同じミスを何度も繰り返す、あるいは積極的に質問してこない、といった状況に直面したときに生じやすい感情です。指導者としては、時間と労力を割いているにもかかわらず、期待する成果が見られないと、「自分の指導方法が間違っているのか」「そもそもOJT自体に意味がないのではないか」という疑問を抱き始めます。

このような「手応えのなさ」は、指導者自身のスキル不足や、育成方針の欠如が原因である場合もあります。例えば、具体的な指導目標が設定されていないために、新人のどこが課題で、どう改善すれば良いのかが明確でないと、指導者も効果的なアプローチを見つけられません。また、新人の適性や個性とのミスマッチも、指導者の「手応えのなさ」につながることがあります。

指導者がOJTに「手応えがない」と感じ始めると、指導へのモチベーションが低下し、結果としてOJT自体が形骸化する恐れがあります。形式的な指導に終始し、本来の目的である新人の育成が疎かになってしまうのです。この悪循環を断ち切るためには、指導者向けの研修を実施し、指導スキルを向上させるだけでなく、OJT計画の定期的な見直しや、新人の適性に応じた柔軟な対応が求められます。

3. 組織全体に広がる「OJT軽視」の風潮

OJTが「やばい」「無意味」と感じられる状況は、個別の指導者や新人の問題だけでなく、組織全体にOJTを軽視する風潮が蔓延していることにも原因があります。例えば、組織としてOJTの目的や重要性が十分に共有されていなかったり、OJT担当者の指導への努力が人事評価に適切に組み込まれていなかったりすると、誰もがOJTを「面倒な仕事」と捉えがちです。

OJT担当者に十分なインセンティブが与えられない環境では、指導者は自身の業務を優先し、新人の育成に十分な時間を割かなくなります。結果として、組織全体で人材育成が後回しにされ、「OJTはただの業務引き継ぎ」といった認識が広がってしまうのです。特に、前述の通り中小企業ではリソースの制約から人材育成が後回しにされやすいという課題があります(出典: 厚生労働省「能力開発基本調査(2013年度)」)。

このようなOJT軽視の風潮は、新人の成長を阻害するだけでなく、組織全体の生産性や競争力にも悪影響を及ぼします。組織としてOJTの重要性を改めて認識し、その目的を明確に浸透させる必要があります。具体的には、OJT担当者の役割を明確にし、指導スキル向上のための研修機会を提供し、さらにOJTの成果を評価制度に組み込むなど、組織的な支援体制を構築することが、OJTの形骸化を防ぐ上で極めて重要です。

OJT担当者や環境の「優しすぎる」が招く問題

1. 過保護な指導が招く「自律性の欠如」

OJTにおいて「優しすぎる」指導は、一見すると新人に寄り添っているように見えますが、実は長期的な成長を阻害する可能性があります。例えば、新人が少しでも困っているとすぐに答えを与えてしまったり、失敗をさせないように先回りしてすべて手を貸してしまったりする「過保護な指導」は、新人が自ら考え、問題解決能力を育む機会を奪ってしまいます。

このような環境では、新人は常に指示を待つ「指示待ち人間」になりがちで、主体性や積極性が育ちません。自分で試行錯誤し、失敗から学ぶという重要な経験を積むことができないため、応用力や臨機応変に対応する力が身につきにくくなります。結果として、一人で業務を遂行する自律性が欠如し、いつまでも指導者のサポートが必要な状態が続いてしまいます。

OJTは、新人が将来自立して業務を遂行できるようになるためのプロセスです。そのためには、適度な挑戦と失敗の機会を与え、新人が自らの頭で考え、解決策を見つけるプロセスを重視する指導が求められます。指導者は、安易に答えを与えるのではなく、ヒントを与えたり、一緒に考えたりする姿勢で新人の学びをサポートすることが重要です。

2. 厳しすぎる評価基準が適用されない「ぬるま湯環境」

「優しすぎる」環境は、評価基準の甘さにもつながることがあります。新人の成長を客観的に評価せず、「まだ新人だから」「慣れていないから仕方ない」といった理由で、具体的な課題や改善点を伝えずに、甘い評価をしてしまうケースです。このような「ぬるま湯環境」では、新人は自身の現在のレベルや改善すべき点を正確に認識できません。

客観的なフィードバックがないと、新人は「自分はよくやっている」と誤解し、成長への意欲が低下したり、向上心を持てなくなったりする恐れがあります。高い目標設定や、困難な課題への挑戦を避けるようになり、結果として成長が停滞し、本来持っているはずの潜在能力を発揮できないままになってしまいます。

OJTは、新人の成長を促すための機会であり、そのためには適切なフィードバックと、時には厳しい評価も必要です。指導者は、新人の感情に配慮しつつも、明確な評価基準に基づいた客観的なフィードバックを定期的に実施することが求められます。新人が自身の課題を正確に認識し、それに向き合うことで初めて、真の成長へとつながるのです。

3. コミュニケーション不足が生む「表面的な良好関係」

OJT担当者や環境が「優しすぎる」場合、表面上は良好な人間関係が築かれているように見えても、実は深いコミュニケーションが不足していることがあります。例えば、軋轢を恐れて本音で話し合わない、言いたいことがあっても相手を刺激しないように遠慮してしまう、といった状況です。

新人が不安や疑問を抱えていても「こんなことを聞いたら悪いかな」と遠慮して口にせず、指導者も新人の真の課題や悩みに気づけない、というすれ違いが生じやすくなります。このような「表面的な良好関係」では、信頼関係が十分に深まらず、いざという時に頼り合えない、あるいは重要な問題が隠蔽されたまま放置されてしまうリスクがあります。

真の「優しさ」とは、相手の成長を本気で願い、時には厳しいことも含めて率直に伝え合うことです。OJTにおいては、心理的安全性の高い対話環境を構築し、新人が安心して本音を話せる場を提供することが不可欠です。定期的な1on1面談を設け、業務内容だけでなく、キャリアや私生活に関する悩みなど、幅広いテーマで対話する機会を設けることで、より深く信頼に基づいた関係性を築き、真のコミュニケーションを促進することができます。

OJTを乗り越え、成長につなげるための具体的なステップ

1. 指導者側のスキルアップと組織的な支援体制の強化

OJTの成功には、指導者側のスキルアップが不可欠です。厚生労働省は、OJTの計画立案や進捗管理、コミュニケーションの質を高めるためのツールとして、「職業能力評価基準」「OJTコミュニケーションシート」を提供しています。これらのツールを積極的に活用することで、指導者は体系的かつ効果的な指導計画を立て、新人の成長を促すことができます。

また、指導者向けの研修を実施し、指導スキルやコミュニケーション能力の向上を図ることも重要です。教え方、フィードバックの方法、新人のモチベーション管理など、実践的なスキルを習得することで、指導者は自信を持ってOJTに臨めるようになります。さらに、指導者の負担を軽減するための組織的な支援も欠かせません。例えば、一人に負担が集中しないよう複数担当制を導入したり、動画マニュアル作成ツールなどを活用して指導の効率化を図ったりすることが有効です。

組織としては、厚生労働省の「人材開発支援助成金」の活用を検討するべきです。この助成金には「人への投資促進コース」など多様なコースがあり、OJTやOff-JTにかかる費用や、訓練期間中の賃金の一部が助成されます。これにより、指導者研修の実施やOJT体制の整備に必要な財政的支援を得ることができ、組織全体でOJTの質を高めることが可能になります。

2. 新人・受講者側からの積極的なコミュニケーションと目標設定

OJTを最大限に活用するためには、新人・受講者側の積極的な姿勢も重要です。与えられたOJTをただ受けるだけでなく、自ら不明点や不安を積極的に質問・相談することが、早期の問題解決と学びの深化につながります。指導者が忙しそうに見えても、タイミングを見計らって簡潔に質問をしたり、面談の機会を自ら設定したりするなどの工夫が求められます。

OJTの開始時には、指導者とともに具体的な目標を設定し、それを共有することが大切です。単に「仕事を覚える」だけでなく、「いつまでにどのような業務を一人でこなせるようになるか」「どのレベルまでスキルを習得するか」といった明確な目標を持つことで、日々の業務に対するモチベーションを維持し、自身の成長を実感しやすくなります。目標設定を通じて、自身に期待される人材像を明確に把握することもできます。

また、定期的な面談で自身の状況を伝え、指導者からのフィードバックを積極的に求めることも成長の糧となります。良かった点、改善すべき点を客観的に受け止め、次の行動に活かすことで、効果的な自己成長サイクルを回すことができます。教えてもらうだけでなく、自ら学びを深める「主体的な学び」の姿勢こそが、OJTを乗り越え、大きく成長するための鍵となります。

3. 公的支援制度を最大限に活用する

OJTにおける課題解決と効果的な人材育成のために、公的支援制度を積極的に活用することは非常に有効です。前述の「人材開発支援助成金」は、OJTやOff-JT(職場外研修)にかかる費用、訓練中の賃金の一部を助成するもので、特に中小企業にとって大きな助けとなります。助成金の種類や要件は多岐にわたるため、自社のニーズに合ったコースを検討することが重要です。

また、「認定実習併用職業訓練」も注目すべき制度です。これは、企業内でのOJTと教育機関での座学(Off-JT)を組み合わせた実践的な訓練で、計画を立てて厚生労働大臣の認定を受けることで、訓練経費や賃金の一部が助成されます。OJTの個別対応による高い教育効果と、Off-JTの体系的な知識習得を両立させたい場合に最適です。

さらに、中小企業基盤整備機構による「支援機関OJT支援事業」では、中小企業の現場の課題に対応するためのノウハウを習得できるOJT型講習会が実施されています。これらの制度を上手に組み合わせることで、OJTの質を向上させ、指導者・新人の双方の負担を軽減し、組織全体の人材育成力を高めることができます。なお、多くの助成金制度では賃上げの実施が申請要件となっているため、賃上げ計画と人材育成施策を合わせて検討することが、より効果的な活用につながるでしょう。

OJTにおける不安や不満は、誰もが経験しうるものです。しかし、その原因を理解し、適切な対策を講じることで、OJTは単なる業務引き継ぎではなく、個人の大きな成長の機会、そして組織の発展を支える強力なツールとなります。この記事が、あなたのOJTを成功に導く一助となれば幸いです。