インボイス制度における経費計上の基本

インボイス制度の目的と概要

2023年10月1日より、消費税の仕入税額控除の方式として「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が導入されました¹ ⁵ ⁸。この制度の主な目的は、複数税率に対応した消費税額を正確に把握し、適正な納税を確保することにあります² ³ ⁹ ¹⁹。

具体的には、事業者が消費税の納税額を計算する際に必要となる、消費税額等が記載された請求書や領収書(インボイス)のやり取りを通じて、仕入税額控除を正確に行うことを目指しています² ³ ⁹。インボイスは正式には「適格請求書」と呼ばれ、税務署に登録申請を行い、登録番号を取得した「適格請求書発行事業者」のみが発行できます⁴ ⁸。この登録は原則として課税事業者のみが可能です⁸。

インボイスには特定の記載要件があり、これらを満たしていないと仕入税額控除の対象とならない場合があります。事業者はこの制度を正しく理解し、日々の経理業務に反映させることが求められています。

仕入税額控除の仕組みとインボイスの要件

インボイス制度の核心は、買手側(事業者)が消費税の仕入税額控除を受けるために、原則として売手(適格請求書発行事業者)から交付されたインボイスを保存する必要があるという点にあります² ¹⁹。インボイスがない仕入れや経費については、原則として仕入税額控除ができません¹⁹。

インボイスとして認められるためには、以下の7つの事項が記載されている必要があります¹⁹:

  • インボイスの交付先である相手方の氏名または名称
  • 売手(自社)の氏名または名称および登録番号
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率の対象である場合は、その旨がわかる記載)
  • 税率ごとに合計した取引金額(税抜または税込)と適用税率
  • 税率ごとに合計した消費税額等の合計
  • 適格請求書の宛先

これらの要件を満たすことで、適正な仕入税額控除が可能となります。特に、登録番号の記載は必須であり、これが欠けている場合は適格請求書とは認められません。制度導入前との大きな変更点であり、事業者にとって重要な注意点となります。

領収書・レシートと帳簿記載の変更点

インボイス制度の導入により、経費精算のプロセスや領収書・レシートの取り扱いが大きく変わりました¹⁰ ¹⁷。特に重要なのは、制度導入前の2023年9月30日までは特例扱いだった「3万円未満の取引であっても、原則として領収書やレシートの保存が必要になった」という点です¹¹ ¹³。この特例は廃止されたため、少額の取引でもインボイスに該当する書類の保存が求められます。

経費精算の際には、受け取った領収書やレシートがインボイスの要件を満たしているかどうかの判断が不可欠です¹⁰ ¹⁷。例えば、適格請求書発行事業者の登録番号が記載されているか、消費税額が正確に記載されているかなどを確認する必要があります。

また、帳簿への記載方法も変更され、取引の内容が仕入税額控除の要件に該当するかどうかで記載方法が異なります¹⁰。適切な帳簿記載とインボイスの保存が、仕入税額控除を受けるための大前提となるため、社内の経理ルールを見直し、従業員への周知徹底が重要です。

ガソリン代・外貨取引・銀行手数料はこうなる

ガソリン代のインボイス対応

日常的に発生するガソリン代も、インボイス制度の影響を受けます。事業用車両のガソリン代は経費として計上されますが、仕入税額控除を受けるためには、給油したガソリンスタンドが適格請求書発行事業者であり、そのレシートが適格請求書(または簡易インボイス)の要件を満たしている必要があります。

多くのガソリンスタンドは課税事業者であり、適格請求書発行事業者の登録をしていると考えられますが、念のため確認が必要です。レシートには通常、事業者名、取引年月日、金額、適用税率などが記載されていますが、登録番号の記載も重要なポイントです。もし登録番号の記載がない場合、そのレシートだけでは仕入税額控除を受けられない可能性があります。

また、高速道路料金など、他の交通費についても同様の確認が必要です。自動券売機やサービスエリアでの利用では簡易インボイスが発行されることが一般的ですが、その記載内容に不足がないか、注意深く確認するようにしましょう。

外貨取引におけるインボイスの考え方

海外出張時の経費や海外からの仕入れなど、外貨建ての取引にはインボイス制度がどのように適用されるのでしょうか。日本のインボイス制度は、国内の消費税法に基づいており、基本的に国内の課税取引が対象となります。

海外の事業者からの請求書は、日本のインボイス制度の要件を満たさないため、それ自体を日本の適格請求書として扱うことはできません。したがって、海外での仕入れや経費については、原則として日本の仕入税額控除の対象外となります。

ただし、国外から商品を輸入する場合など、消費税が課される取引については、輸入消費税として税関から交付される書類(輸入許可書など)を保存することで仕入税額控除の対象となる場合があります。外貨を日本円に換算する際のレートや時期の記録も重要ですが、まずは国内取引と国外取引の区別を明確にすることが肝心です。

銀行手数料とインボイス制度

事業活動において発生する銀行手数料、例えば振込手数料やATM利用手数料、送金手数料などは、その種類によって消費税の取り扱いが異なります。まず、これらの手数料が消費税の課税対象であるか、あるいは非課税・不課税であるかを確認する必要があります。

一般的に、金融機関が行う為替取引や預金に関する手数料は非課税とされています。しかし、一部のサービスにかかる手数料(例:融資手数料、保証料など)は課税対象となる場合があります。課税対象となる手数料については、その金融機関が適格請求書発行事業者であれば、インボイス(またはそれに準ずる書類)が発行され、仕入税額控除の対象となります。

銀行からの明細書や領収書を確認し、消費税額の記載があるか、金融機関の登録番号が明記されているかを確認しましょう。もし記載がない場合は、金融機関に問い合わせて適格請求書の発行を依頼する必要があるかもしれません。

業務委託・源泉徴収・請求書発行の注意点

業務委託契約とインボイス

業務委託先に支払う報酬も、インボイス制度の大きな影響を受ける経費の一つです。特に、業務委託先が免税事業者であるか、課税事業者であるかによって、仕入税額控除の可否が変わるため、注意が必要です¹⁶。

委託先が適格請求書発行事業者であれば、その発行するインボイスによって仕入税額控除が可能です。しかし、免税事業者はインボイスを発行できないため、原則として仕入税額控除はできません¹⁶。ただし、インボイス制度導入後6年間(2023年10月1日~2029年9月30日)は、免税事業者などからの仕入れについても、仕入税額相当額の一定割合(当初80%、その後50%)を控除できる経過措置が設けられています¹ ⁸ ¹¹ ¹⁶。

この経過措置を適用するためには、帳簿にその旨を記載する必要があります。業務委託契約を結んでいる場合は、相手方が適格請求書発行事業者であるかを確認し、必要に応じて契約内容や報酬の見直しを検討することも重要になります。

源泉徴収とインボイス制度の関係

源泉徴収は所得税法に基づく制度であり、インボイス制度(消費税法に基づく)とは直接的な関連はありません。源泉徴収は、報酬から所得税を天引きして国に納める義務を指し、消費税とは別の税金です。

しかし、業務委託先などからの請求書には、消費税額と源泉徴収額の両方が記載されることが多く、混同しやすい点です。事業者は、源泉徴収と消費税を分けて考える必要があります。例えば、報酬が10万円(税抜)、消費税が1万円、源泉徴収が10.21%(10,210円)の場合、請求書には「合計金額11万円、うち源泉徴収額10,210円、差引支払額99,790円」と記載されます。この場合、仕入税額控除の対象となるのは消費税1万円であり、源泉徴収額は所得税の計算に影響します。

支払い側は源泉徴収義務を、受け取り側はインボイス発行義務をそれぞれ正しく認識し、適切な処理を行うことが求められます。

請求書発行事業者としての留意点

自社が適格請求書発行事業者としてインボイスを発行する立場にある場合、その記載内容には細心の注意が必要です。インボイスの交付先である相手方(買手)が仕入税額控除を受けるためには、正確なインボイスが不可欠だからです。

インボイスに記載すべき7つの事項(前述の「仕入税額控除の仕組みとインボイスの要件」を参照)を改めて確認し、特に自社の登録番号の記載漏れがないように徹底しましょう³ ¹⁹。登録番号の誤りや記載漏れは、買手側が仕入税額控除を受けられなくなる原因となり得ます。また、消費税率が複数ある場合は、適用税率ごとに合計した取引金額と消費税額等を正確に記載する必要があります。

小売業や飲食店など、不特定多数の顧客を相手にする事業者には、記載項目を簡略化した「適格簡易請求書(簡易インボイス)」の発行が認められています³。自社の業態に合わせて、適切な形式の請求書を発行するようにしましょう。

身近な経費「ゴミ」「ゴルフ場」とインボイス

一般廃棄物処理費用とインボイス

事業活動に伴って発生するゴミの処理費用も、インボイス制度の対象となる可能性があります。まず、その費用が自治体への支払いか、民間の廃棄物処理業者への支払いかによって取り扱いが異なります。

自治体へ支払う一般廃棄物処理費用は、多くの場合、消費税が非課税または不課税となります。この場合、インボイスの対象とはなりません。しかし、民間の廃棄物処理業者に委託してゴミを処理してもらう場合、その業者が適格請求書発行事業者であれば、インボイスの発行対象となり、仕入税額控除を受けることができます。

自社が排出するゴミが「一般廃棄物」か「産業廃棄物」かによっても、処理のルールや委託先、消費税の取り扱いが変わるため、契約している処理業者の登録状況や、発行される請求書の内容を必ず確認するようにしましょう。仕入税額控除を適用するためには、適格請求書の確実な保存が必須です。

ゴルフ場利用料とインボイス制度

ビジネス上の接待などで利用するゴルフ場利用料も、インボイス制度導入によりその取り扱いに注意が必要となります。ゴルフ場利用料は、通常、課税仕入れとなりますが、仕入税額控除を受けるためには、ゴルフ場が適格請求書発行事業者であることが必要です。

ゴルフ場で発行される領収書や請求書に、ゴルフ場の登録番号が記載されているかを確認しましょう。プレー代、カート代、ロッカー代など、利用料金の内訳についても、適用税率が正しく記載されているかをチェックします。もし、インボイスの要件を満たさない領収書であった場合、原則として仕入税額控除はできません。

接待交際費として計上する場合、インボイスの保存は税務調査の際にも重要な証拠となります。領収書の受領時には、その内容がインボイス制度の要件を満たしているか、従業員にも周知し、確認を徹底させることが重要です。

その他、日常生活に潜む経費とインボイス

自動販売機での購入、コインパーキングの利用、入場券の購入など、日常生活に潜む少額な経費にもインボイス制度は関わってきます。これらの取引は、不特定多数の顧客を相手にするため、適格簡易請求書(簡易インボイス)の対象となる場合があります³。

また、税込1万円未満の課税仕入れについては「少額特例」が適用される場合があります¹⁵。これは、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる措置で、経費処理の負担を軽減します。ただし、この特例は全ての取引に適用されるわけではなく、取引先や取引内容によっては適用されない場合もあります¹³。

例えば、公共交通機関(電車・バスなど)の運賃は、3万円未満であればインボイスの保存がなくても帳簿への記載のみで仕入税額控除が認められる特例があります。これらの特例を適切に活用することで、日々の経費精算の煩雑さを軽減できますが、適用条件を正しく理解しておくことが重要です。

在宅ワークや従業員立替のインボイス対応

在宅ワーク関連経費のインボイス対応

在宅ワークが普及した現代において、従業員が自宅で使用する電気代や通信費などの経費は、その取り扱いに注意が必要です。これらの費用を会社が経費として計上し、仕入税額控除を受けたい場合、インボイスの確保が課題となります。

従業員が個別に電力会社や通信会社と契約している場合、その名義は従業員個人であり、会社宛のインボイスは発行されません。この場合、会社が仕入税額控除を受けることは困難です。解決策としては、会社がこれらのサービスを一括契約し、従業員に貸与する形式を取る、あるいは、従業員が立て替えた費用について、会社が精算する際に、従業員が受け取った電力会社や通信会社のインボイスを会社が保存するといった対応が考えられます。

また、家事按分(プライベートと仕事での使用割合を分けること)が必要な場合、その計算根拠も明確にしておく必要があります。在宅ワーク関連経費の処理は複雑になる傾向があるため、社内規定を整備し、従業員への周知徹底が不可欠です。

従業員立替経費の処理方法

従業員が業務上必要な物品を購入したり、出張旅費を立て替えたりすることは頻繁にあります。この場合、従業員は適格請求書発行事業者ではないため、従業員が会社に提出する経費精算書はインボイスとして認められません

会社が仕入税額控除を受けるためには、以下の2点を満たす必要があります。

  1. 従業員が購入先から受け取ったインボイス(または簡易インボイス)を会社に提出し、会社がこれを保存する。
  2. 会社は、従業員からの経費精算申請に基づき、「立替金精算書」などの書類を作成し、帳簿に記載する。

この際、立替金精算書には、立替払いの内容、支払日、支払先、消費税額などの情報を詳細に記載することが求められます。少額の立替金(税込1万円未満)であれば、少額特例の適用により帳簿のみの保存で済む場合もありますが¹⁵、基本的には従業員が受け取ったインボイスを確実に回収・保存することが重要です。

少額特例など、負担軽減措置の活用

インボイス制度導入に伴い、特に中小企業の負担を軽減するための様々な措置が講じられています。これらを理解し、賢く活用することで、事務負担や税負担を軽減できます。

  • 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置):免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者が対象で、売上税額の80%を差し引いて納付税額を計算できるため、事務負担と税負担が軽減されます¹² ¹⁸。適用期間は登録から2029年9月30日までの各課税期間です¹²。
  • 仕入税額控除の経過措置:適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについても、一定期間、仕入税額相当額の一定割合(2023年10月1日~2026年9月30日は80%、2026年10月1日~2029年9月30日は50%)を仕入税額とみなして控除できます¹ ⁸ ¹⁰ ¹¹ ¹⁶。
  • 少額特例:税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合があります¹⁵。全ての取引に適用されるわけではないため注意が必要です¹³。

これらの措置は、事業者の状況によって適用可否やメリットが異なります。自社に適用される措置を把握し、積極的に活用することで、インボイス制度への対応をよりスムーズに進めることができるでしょう。

出典:

  • ¹ 国税庁
  • ² 政府広報オンライン
  • ³ 弥生
  • ⁴ 東京商工会議所
  • ⁵ TOKIUM(トキウム)
  • ⁸ INVOY
  • ⁹ シヤチハタクラウド
  • ¹⁰ TOKIUM(トキウム)
  • ¹¹ 国税庁
  • ¹² 国税庁
  • ¹³ TOKIUM(トキウム)
  • ¹⁵ 国税庁
  • ¹⁶ 国税庁
  • ¹⁷ TOKIUM(トキウム)
  • ¹⁸ 国税庁
  • ¹⁹ 国税庁

注記: 上記の情報は、各出典の公開情報に基づき、2025年11月時点の最新情報としてまとめています。制度の詳細や個別のケースについては、国税庁や税務署、税理士にご確認ください。