インボイス制度、免税事業者が「やらないと」どうなる?影響と対策を解説

  1. インボイス制度とは?免税事業者が知っておくべき基本
    1. インボイス制度の目的と概要
    2. 適格請求書発行事業者とは?
    3. 免税事業者に「直接」関わるポイント
  2. インボイス制度導入で「未登録」だと何が起こる?
    1. 取引先(課税事業者)への影響
    2. 免税事業者自身の事業への影響
    3. 新規取引におけるハードル
  3. 免税事業者がインボイス制度未対応の場合の請求書書き方
    1. 制度開始後の請求書記載事項
    2. 経過措置の適用を受けるための帳簿記載
    3. 取引先との円滑なコミュニケーション
  4. インボイス制度の経過措置と免税事業者の賢い選択肢
    1. 仕入税額控除の経過措置を理解する
    2. 「2割特例」を活用した納税負担軽減
    3. 免税事業者として残るか、課税事業者になるか?
  5. インボイス制度、無視・未対応のリスクと今後の対策
    1. 独占禁止法・下請法抵触のリスク
    2. 中長期的な事業戦略の再構築
    3. 最新情報の確認と専門家への相談
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: インボイス制度における「免税事業者」とは具体的にどのような人を指しますか?
    2. Q: インボイス制度で「未登録」のままだと、取引先にどのような影響がありますか?
    3. Q: 免税事業者がインボイス制度に対応しない場合、請求書の書き方に何か特別な注意点はありますか?
    4. Q: インボイス制度の「経過措置」とは、免税事業者にとってどのようなメリットがありますか?
    5. Q: インボイス制度を「無視」したり、未対応のままでいると、具体的にどのような問題が起こり得ますか?

インボイス制度とは?免税事業者が知っておくべき基本

インボイス制度の目的と概要

2023年10月1日より、消費税の仕入税額控除の計算方法が変わる「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が始まりました。この制度は、複数の消費税率(軽減税率など)に対応し、消費税額を正確に計算するためのものです。

課税事業者が仕入税額控除を受けるためには、原則として「適格請求書(インボイス)」の保存が必須となります。この適格請求書を発行できるのは、税務署に登録した「適格請求書発行事業者」のみです。

これまで消費税の申告義務がなかった免税事業者の方々も、この制度によって大きな影響を受ける可能性があります。制度の基本的な仕組みを理解することが、今後の事業運営において非常に重要です。

適格請求書発行事業者とは?

「適格請求書発行事業者」とは、税務署に申請し登録を受けた事業者のことを指します。登録が完了すると、専用の登録番号が付与され、適格請求書(インボイス)を発行できるようになります。

適格請求書には、登録番号の他に、課税事業者の名称、課税資産の譲渡等に係る対価の額、適用税率、消費税額など、特定の記載事項が求められます。免税事業者は、この適格請求書発行事業者にはなれません。

インボイス制度開始当初は、2023年9月30日までに登録申請をすることで、制度開始日からの登録が可能とされていました。しかし、登録申請期限は当初の3月31日から延長され、制度開始日までに登録するための申請期限は2023年9月30日までとされました。(参考情報より)

免税事業者に「直接」関わるポイント

免税事業者は適格請求書を発行できないため、取引先が課税事業者である場合、その取引先は免税事業者からの仕入れに関して原則として仕入税額控除を受けられなくなります。これは、取引先の消費税負担が増加することを意味します。

この影響により、免税事業者は以下のようなリスクに直面する可能性があります。

  • 取引が減少する可能性: 課税事業者が仕入税額控除を受けられないことを理由に、取引を停止したり、他の課税事業者との取引に切り替えたりすることが考えられます。
  • 取引条件の見直し: 取引先から、仕入税額控除ができない分を考慮した取引価格の引き下げを求められる可能性があります。
  • 新規取引が困難になる: 新たな取引相手が課税事業者である場合、適格請求書を発行できないことから契約が難しくなるケースも出てくるでしょう。

これらの影響は、免税事業者の売上や収益に直結するため、早めの対策検討が不可欠です。

インボイス制度導入で「未登録」だと何が起こる?

取引先(課税事業者)への影響

免税事業者が適格請求書発行事業者として登録せず、免税事業者のままでいる場合、最も大きな影響を受けるのは取引先の課税事業者です。課税事業者は、免税事業者からの仕入れについて、原則として消費税の仕入税額控除を受けられなくなります。

例えば、課税事業者が免税事業者から11,000円の商品を仕入れた場合、これまでは1,000円(消費税10%分)を仕入税額控除として差し引くことができました。しかし、インボイス制度導入後は、免税事業者からの仕入れではこの1,000円の控除が受けられなくなり、課税事業者の納税額が増加することになります。(経過措置期間を除く)

これにより、取引先の課税事業者はコスト増を避けたいと考え、仕入税額控除が可能な他の課税事業者との取引に切り替えたり、免税事業者に対して価格交渉を持ちかけたりする可能性が高まります。

免税事業者自身の事業への影響

取引先が課税事業者である場合、免税事業者は事業継続に直接的な影響を受けることになります。最も懸念されるのは、売上の減少です。取引先が仕入税額控除を受けられないことを理由に、取引量や頻度を減らしたり、最悪の場合、取引自体が停止されるリスクもあります。

また、取引が継続されたとしても、取引先から価格の引き下げを求められるケースが考えられます。例えば、これまで11,000円で販売していた商品を、課税事業者の控除額分を考慮して10,000円に値下げするよう要求されるなど、実質的な収入減少につながる恐れがあります。

こうした状況は、免税事業者自身の経営を圧迫し、安定した事業運営を困難にするだけでなく、資金繰りの悪化や事業規模の縮小、ひいては廃業に至る可能性も否定できません。事業計画全体の見直しが求められるでしょう。

新規取引におけるハードル

インボイス制度の導入は、既存の取引だけでなく、免税事業者が新規の取引先を開拓する際にも大きなハードルとなり得ます。特に、潜在的な取引先が課税事業者である場合、適格請求書を発行できないことが契約締結の妨げとなる可能性が高いです。

多くの課税事業者は、仕入税額控除のメリットを重視するため、適格請求書を発行できる事業者を選好する傾向にあります。そのため、免税事業者は、競合する適格請求書発行事業者と比較された際に不利な立場に置かれやすくなります。

これは、事業拡大の機会損失に繋がり、市場における競争力が低下する要因ともなりかねません。特にBtoBビジネスを展開する免税事業者にとっては、インボイス制度への未対応が事業成長の大きな足かせとなることを認識しておく必要があります。

免税事業者がインボイス制度未対応の場合の請求書書き方

制度開始後の請求書記載事項

免税事業者は適格請求書発行事業者ではないため、登録番号を記載した適格請求書を発行することはできません。しかし、インボイス制度開始後も、消費税法の定めに基づき、現行の「区分記載請求書」と同様の事項を記載した請求書等を発行する必要があります。

具体的には、以下の項目を記載しましょう。

  • 請求書発行者の氏名または名称
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率の対象品目である旨を含む)
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額
  • 請求書受領者の氏名または名称

また、取引先が混乱しないよう、適格請求書ではない旨を明記したり、「免税事業者のため消費税の記載はありません」といった注意書きを添えることも有効です。これにより、取引先との不要なトラブルを避け、円滑な取引を維持しやすくなります。

経過措置の適用を受けるための帳簿記載

免税事業者のままでいる場合でも、取引先の課税事業者が経過措置(仕入税額相当額の一定割合控除)の適用を受けるためには、免税事業者から受け取った請求書等の保存と、取引先自身の帳簿に「経過措置の適用を受ける旨」を記載する必要があります。(参考情報より)

免税事業者としては、取引先が経過措置を適切に適用できるよう、これまでの請求書と同様に正確な情報を記載した請求書を発行し続けることが求められます。特に、取引内容や金額、取引年月日など、基本的な事項は抜け漏れなく記載することが重要です。

免税事業者側が特別な記載を追加する必要はありませんが、取引先から記載事項について問い合わせがあった際には、丁寧に対応し、必要な情報を提供できるよう準備しておくと良いでしょう。

取引先との円滑なコミュニケーション

インボイス制度において免税事業者のままでいることを選択した場合、取引先(特に課税事業者)との円滑なコミュニケーションが極めて重要になります。制度導入による取引先への影響を最小限に抑えるためにも、事前の話し合いが不可欠です。

まずは、自身が免税事業者であり、適格請求書を発行できないことを正直に伝えましょう。その上で、取引先が受けられる仕入税額控除の経過措置について情報提供を行い、今後の取引条件について相談する場を設けることをお勧めします。

価格交渉などがあった場合でも、一方的に受け入れるのではなく、自社の経営状況や提供価値を説明し、建設的な議論を心がけましょう。オープンな対話を通じて相互理解を深め、信頼関係を維持することが、長期的な取引継続の鍵となります。

インボイス制度の経過措置と免税事業者の賢い選択肢

仕入税額控除の経過措置を理解する

インボイス制度の導入に伴う急激な税負担の増加を緩和するため、免税事業者等からの仕入れに対する仕入税額控除には、6年間の経過措置が設けられています。(参考情報より)

この経過措置により、制度開始から2026年9月30日までは仕入税額相当額の80%2026年10月1日~2029年9月30日までは50%を仕入税額とみなして控除できます。これにより、取引先の課税事業者は、免税事業者からの仕入れであっても、一定割合の控除を受けられます。(参考情報より)

免税事業者としては、この経過措置がある期間中は、取引先からの急激な取引減少や価格引き下げ要求が多少緩和される可能性があります。しかし、控除割合は段階的に減少するため、2029年10月以降には控除が一切受けられなくなることを念頭に置き、中長期的な対策を検討する必要があります。

「2割特例」を活用した納税負担軽減

インボイス制度を機に免税事業者から適格請求書発行事業者(課税事業者)になった事業者に対しては、納税額に係る負担軽減措置として「2割特例」が設けられています。(参考情報より)

この特例は、2023年10月1日~2026年9月30日までの3年間、納税額を売上税額の2割に軽減するというものです。(参考情報より)事前の届出は不要で、消費税の確定申告書に適用を受ける旨を付記するだけで適用されます。

例えば、売上にかかる消費税が100万円の場合、通常は仕入れにかかる消費税を差し引いた額を納めますが、この特例を適用すれば一律で20万円(100万円の2割)の納税で済みます。これにより、課税事業者への移行による納税負担や事務負担を大幅に軽減できるため、移行を検討する際の有力な選択肢となります。

免税事業者として残るか、課税事業者になるか?

免税事業者は、自身の事業状況や取引先の関係性を総合的に考慮し、「免税事業者のままでいる」か「課税事業者(適格請求書発行事業者)になる」かの選択を迫られます。

免税事業者のメリットは、消費税の納税義務がなく、事務手続きが少ない点です。しかし、課税事業者との取引では、上述のリスクがあります。一方、課税事業者になるメリットは、適格請求書を発行でき、取引先の仕入税額控除を妨げないため、取引継続や新規獲得に有利になる点です。ただし、消費税の納税義務と申告手続きの負担が増加します。

特に注意すべきは、一度課税事業者を選択すると、原則として2年間は免税事業者に戻れない点です。自身の年間売上、取引先の状況(課税事業者か、個人か)、そして「2割特例」の適用期間なども踏まえ、慎重に判断することが賢明な選択となります。

インボイス制度、無視・未対応のリスクと今後の対策

独占禁止法・下請法抵触のリスク

インボイス制度導入を理由に、取引先の課税事業者が免税事業者に対して一方的に取引条件の変更や取引停止を求める行為は、独占禁止法下請法に抵触する可能性があります。(参考情報より)

例えば、優越的な地位を利用して、仕入税額控除ができないことを理由に、本来の取引価格から一方的に消費税相当額を差し引いて支払うよう要求したり、契約解除をちらつかせたりする行為は問題視されます。下請法が適用される取引の場合、親事業者には書面交付義務や一方的な減額の禁止などの義務があります。

もし、取引先から不当な要求があった場合は、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口などを活用し、適切な対応を取ることが重要です。不利益な取引条件を一方的に受け入れる必要はありません。

中長期的な事業戦略の再構築

インボイス制度の経過措置は2029年9月30日で終了します。(参考情報より)つまり、それ以降は免税事業者からの仕入れに対して、課税事業者は一切仕入税額控除を受けられなくなります。この長期的な視点に立って、免税事業者は自身の事業戦略を再構築する必要があります。

現在の主要取引先との関係性や、新たな顧客開拓、提供するサービスや商品の価格設定など、多角的に見直しましょう。消費税額を織り込んだ価格体系の検討や、課税事業者への転換を見据えた準備を進めることが求められます。

短期的な対応だけでなく、5年、10年先を見据えた事業計画を立て、変化に対応できる柔軟な経営体制を築くことが、事業継続と成長の鍵となるでしょう。

最新情報の確認と専門家への相談

インボイス制度は複雑であり、様々な経過措置や支援策、また制度運用における解釈の変更などが今後も発生する可能性があります。そのため、常に最新情報を確認することが不可欠です。

国税庁のインボイス制度に関する特設サイト政府広報オンラインなどは、正確な情報源として定期的にチェックしましょう。(参考情報より)また、税理士や中小企業診断士などの専門家へ相談することも強くお勧めします。

自社の状況に合わせた最適な選択肢や具体的な対策は、個々の事業によって異なります。専門家の知見を活用することで、誤った判断を避け、リスクを最小限に抑えながら、今後の事業展開における最善の道を見つけることができるでしょう。