近年、サブスクリプションモデルの普及や顧客体験(CX)重視の流れから、「カスタマーサクセス(CS)」の重要性が増しています。

単に製品やサービスを提供するだけでなく、顧客がそれを通じて成功体験を得られるよう能動的に支援することで、顧客満足度向上、解約率低減、LTV(顧客生涯価値)向上を目指す戦略です。

  1. カスタマーサクセスとは? 基本的な考え方と重要性
    1. カスタマーサクセスの定義と目的
    2. なぜ今、カスタマーサクセスが不可欠なのか?
    3. カスタマーサクセスがもたらす企業価値
  2. カスタマーサクセスを支えるオペレーションとオンボーディング
    1. スムーズな導入を促すオンボーディング戦略
    2. 顧客との継続的なエンゲージメント設計
    3. データ駆動型オペレーションで顧客を理解する
  3. 顧客の定着と成長を促すアダプションとカスタマージャーニー
    1. 顧客理解を深めるアダプションの鍵
    2. カスタマージャーニーを通じた価値提供
    3. 成功を測るKPIと効果的な運用
  4. 継続率向上のためのカスタマーサクセス戦略とタッチモデル
    1. 解約率を低減させる戦略的アプローチ
    2. 多様な顧客に対応するタッチモデル
    3. 攻めのカスタマーサクセス「カスタマーセールス」
  5. カスタマーサクセス職種の役割と今後の展望
    1. カスタマーサクセス担当者の多岐にわたる役割
    2. AIとデータ活用が変えるCSの未来
    3. 組織横断的な連携と持続的成長への貢献
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: カスタマーサクセスとは具体的にどのような活動ですか?
    2. Q: カスタマーサクセスにおけるオンボーディングの役割は何ですか?
    3. Q: アダプションを促進するために重要なことは何ですか?
    4. Q: カスタマーサクセスにおける「タッチモデル」とは何ですか?
    5. Q: カスタマーサクセスの今後の展望としてどのようなことが考えられますか?

カスタマーサクセスとは? 基本的な考え方と重要性

カスタマーサクセスの定義と目的

カスタマーサクセスとは、顧客が製品やサービスを導入した後、期待する成果、すなわち顧客自身の成功を達成できるように積極的に支援する活動です。

これは、顧客からの問い合わせに対応する受動的な「カスタマーサポート」とは異なり、顧客の課題を先回りして解決し、能動的に価値提供を行うことで、継続的な関係を構築することを目指します。

その究極の目的は、顧客が製品やサービスから最大限の価値を引き出し、目標を達成できるよう導くことで、結果として企業自身の成長へと繋げることにあります。

顧客の成功なくして企業の成長はあり得ないという現代ビジネスの原則が、この概念の根底にあります。

なぜ今、カスタマーサクセスが不可欠なのか?

カスタマーサクセスがこれほどまでに注目される背景には、いくつかの大きな変化があります。

まず、サブスクリプションモデルの急速な普及により、企業は顧客に継続して利用してもらうことが収益に直結するようになりました。一度契約したら終わりではなく、いかに長期的に関係を維持するかが重要になったのです。

また、消費者の購買行動が「モノ」の所有から「体験」や「成果」重視へと変化したことも大きな理由です。顧客は製品・サービスを購入するだけでなく、それによってどのような価値を得られるのか、自身の課題を解決できるのかといった具体的なメリットを重視するようになっています。

このような市場環境において、顧客の成功を積極的に支援するカスタマーサクセスは、企業が競争優位性を確立し、持続的に成長していく上で不可欠な戦略となっています。

カスタマーサクセスがもたらす企業価値

カスタマーサクセスは、単なる顧客満足度向上に留まらない多岐にわたる企業価値をもたらします。

最も直接的な効果は、顧客継続率の向上と解約率(チャーンレート)の低減です。顧客が製品・サービスに価値を感じ、成功体験を重ねることで、自然と継続利用へと繋がり、LTV(顧客生涯価値)が最大化されます。

さらに、顧客の成功は、製品やサービスのアップセル・クロスセル機会の創出にも直結します。顧客が現在のプランで満足している場合、より上位のプランや関連サービスの提案を受け入れやすくなります。

また、顧客からの貴重なフィードバックは、製品開発やサービス改善に活かされ、結果的に市場競争力の強化に貢献します。このように、カスタマーサクセスは顧客と企業の双方にメリットをもたらす、Win-Winの関係を築くための強力なドライバーとなるのです。

カスタマーサクセスを支えるオペレーションとオンボーディング

スムーズな導入を促すオンボーディング戦略

新規顧客が製品やサービスを導入する際、最初の体験は極めて重要です。

オンボーディングとは、新規顧客がサービスをスムーズに導入し、早期にその価値を実感できるように支援する一連のプロセスを指します。このフェーズで顧客が躓いてしまうと、その後の利用継続に悪影響を及ぼし、最悪の場合、初期段階での解約(早期チャーン)に繋がる可能性もあります。

効果的なオンボーディングには、セルフオンボーディングを促すような直感的なUI/UX設計、ステップバイステップのチュートリアル、利用上のヒント形式のガイド提供などが有効です。

また、カスタマーサクセス担当者による個別サポートや、初期設定の支援なども顧客の安心感を高めます。オンボーディング完了率は、顧客の早期定着に直結する重要なKPIであり、この段階でいかに顧客の成功体験を創出できるかが、その後の関係構築の鍵となります。

顧客との継続的なエンゲージメント設計

オンボーディングが完了した後も、顧客との継続的な接点を持つことはカスタマーサクセスの重要な要素です。

定期的なコミュニケーションを通じて、顧客の利用状況を把握し、潜在的な課題の早期発見や、より効果的な活用方法の提案を行います。これにより、顧客は常にサポートされていると感じ、製品・サービスへの満足度を維持できます。

活用できるチャネルは多岐にわたります。定期的な電話やメール、オンラインミーティング、さらにはユーザー会や勉強会といったオフラインイベントも有効です。

近年では、顧客同士が情報交換できるオンラインコミュニティを構築し、企業と顧客、顧客と顧客のつながりを強化する動きも活発です。これらの活動を通じて、顧客との信頼関係を深め、単なるサービスの利用者ではなく、ビジネスパートナーとしての関係性を築き上げていくことが求められます。

データ駆動型オペレーションで顧客を理解する

現代のカスタマーサクセスは、勘や経験だけでなく、データに基づいた客観的なアプローチが不可欠です。

顧客の利用状況、行動履歴、サポート履歴、フィードバックなどの顧客データを継続的に収集・分析することで、顧客の「ヘルススコア」を可視化します。これにより、顧客がサービスを効果的に活用しているか、あるいは利用頻度が低下し、解約リスクが高まっているかなどを早期に把握することが可能になります。

データ分析は、解約リスクの早期発見だけでなく、アップセル・クロスセルの機会特定にも役立ちます。顧客のニーズや利用状況の変化をデータから読み取り、最適なタイミングで適切な提案を行うことで、顧客のさらなる成功を支援し、企業の収益向上にも貢献します。

さらに、AI技術の活用も進んでおり、離反予測モデルの構築や、チャットボットによる自動問い合わせ対応など、カスタマーサクセス業務の効率化と高度化が図られています。日本の調査では、取り組む企業の約8割がAIを導入・活用しているとの結果もあり、このトレンドは今後も加速するでしょう。

顧客の定着と成長を促すアダプションとカスタマージャーニー

顧客理解を深めるアダプションの鍵

顧客が製品・サービスを導入した後、それが単に「存在する」だけでなく、実際に活用され、その価値を最大限に引き出せている状態を「アダプション(定着・活用)」と呼びます。

このアダプションを促すためには、顧客のビジネス目標、抱えている課題、そして真のニーズを深く理解することが全ての基本となります。表面的な要望だけでなく、その背景にある顧客の痛みや目標に寄り添う姿勢が不可欠です。

VOC(Voice Of Customer:顧客の声)を積極的に収集・分析し、それを製品やサービスの改善に活かすサイクルを回すことも非常に重要です。顧客の声は、アダプションを妨げる障壁を特定し、より効果的な活用方法や新機能開発のヒントを与えてくれます。

カスタマーサクセス担当者は、顧客が製品・サービスを使いこなし、当初期待していた以上の成果を上げられるよう、教育、トレーニング、情報提供を通じて継続的に支援する役割を担います。

カスタマージャーニーを通じた価値提供

顧客が製品・サービスと出会い、検討し、導入し、利用し、そして成功に至るまでの一連のプロセスを「カスタマージャーニー」と呼びます。

カスタマーサクセス戦略においては、このカスタマージャーニーの各段階で顧客がどのような体験をしているかを理解し、それぞれのタッチポイントで最適なサポートと価値提供を行うことが求められます。顧客の視点に立ち、途中でつまずくことなく、スムーズに次のステップへ進めるような道筋を描くことが重要です。

特に重要なのは、顧客が「成功」を実感できる瞬間をいかに多く創出するかです。

例えば、メルカリ株式会社はVOCを重視し、顧客の声を改善に活かすことで優れた顧客体験を実現しています。また、スターバックスのように、製品そのものだけでなく、店舗での接客や空間といったブランド体験全体を通じて顧客ロイヤルティを醸成するアプローチも、カスタマージャーニーにおける価値提供の好例と言えるでしょう。

成功を測るKPIと効果的な運用

カスタマーサクセスの活動が実際にどのような成果をもたらしているかを測定し、継続的な改善を図るためには、適切なKPI(重要業績評価指標)設定が不可欠です。

主要なKPIには、サービスがどれだけ継続して利用されているかを示す「顧客継続率(リテンションレート)」や、その反対である「解約率(チャーンレート)」があります。顧客との関係の長期的な価値を表す「LTV(顧客生涯価値)」も重要な指標です。

顧客満足度を測る指標としては、「NPS(ネットプロモータースコア)」や「CSAT(顧客満足度スコア)」が用いられます。また、オンボーディングの初期段階での効果を測る「オンボーディング完了率」、さらなる成長機会を示す「アップセル・クロスセル率」なども重要な指標です。

これらのKPIは、企業のビジネス目標と連動させ、定期的なレビューと改善のサイクルを回すことで、カスタマーサクセス戦略の実効性を高めることができます。

継続率向上のためのカスタマーサクセス戦略とタッチモデル

解約率を低減させる戦略的アプローチ

解約率(チャーンレート)の低減は、カスタマーサクセス戦略の最も重要な目標の一つです。

顧客がサービスを使い続けてくれるかどうかは、単に製品の機能だけでなく、顧客がそこから得られる価値、そして企業との関係性に大きく左右されます。戦略的なアプローチとしては、まず顧客のヘルススコアを継続的に監視し、利用頻度の低下やサポート問い合わせの増加など、解約の予兆を早期に検知することが重要です。

予兆を検知した際には、カスタマーサクセス担当者がプロアクティブに顧客にアプローチし、潜在的な不満や課題をヒアリングして解決策を提案します。顧客が製品・サービスの価値を再認識できるよう、成功事例の共有や活用支援を通じて、愛着を育むことも効果的です。

Salesforce株式会社のように、顧客の課題に寄り添い、解約を未然に防ぐための施策を継続的に実施している企業は多く、これが長期的なビジネス成長の基盤となります。

多様な顧客に対応するタッチモデル

顧客の規模や特性は多岐にわたるため、すべて同じアプローチで対応することは非効率的です。

そこで、顧客セグメントに応じた最適なカスタマーサクセスアプローチとして「タッチモデル」が活用されます。

  • ハイタッチモデル:大口顧客や戦略的顧客に対して、専任のカスタマーサクセスマネージャーが手厚い個別サポートを提供します。密なコミュニケーションを通じて、深く顧客の成功を支援します。
  • ロータッチモデル:中規模顧客向けには、オンラインセミナー、ワークショップ、定期的なメールマガジンなどを通じて、グループでのサポートや情報提供を行います。個別対応とセルフサービスの中間に位置します。
  • テックタッチモデル:小規模顧客や自己解決を好む顧客向けには、FAQ、ヘルプドキュメント、チャットボット、チュートリアル動画などのデジタルコンテンツを中心に提供し、効率的なサポートを実現します。

これらのモデルを組み合わせることで、限られたリソースの中で、より多くの顧客に適切な価値を提供し、顧客満足度と効率性の両立を目指します。

攻めのカスタマーサクセス「カスタマーセールス」

近年、カスタマーサクセスは、従来の「守り」(解約防止)の役割から、「攻め」(アップセル・クロスセルによる売上拡大)へとその領域を広げています。

これは「カスタマーセールス」とも呼ばれ、顧客の成功を最大化する過程で、その顧客が抱える新たな課題や成長ニーズを特定し、より上位のプランや関連サービスを積極的に提案することで、企業の売上向上にも貢献するアプローチです。

顧客がすでに製品・サービスに価値を感じ、信頼関係が構築されているため、新規顧客への営業活動よりも高い確率で成果に繋がる可能性があります。

例えば、花王株式会社はデジタル技術を活用しLINEなどを通じて顧客との継続的な関係を構築し、パーソナライズされた提案を行うことで顧客のニーズに応えています。また、アドビ株式会社は顧客のステージに合わせた提案を戦略的に実施することで、顧客一人ひとりの価値を最大化しています。顧客の成功を起点とした、自然な形での売上拡大こそが、これからのカスタマーサクセスの目指すべき方向性と言えるでしょう。

カスタマーサクセス職種の役割と今後の展望

カスタマーサクセス担当者の多岐にわたる役割

カスタマーサクセス担当者(CSM: Customer Success Manager)の役割は非常に多岐にわたります。

彼らは、顧客の目標達成を支援し、製品・サービスの活用を促進するだけでなく、顧客の課題を深く理解し、解決策を提案するコンサルタントのような側面も持ち合わせます。顧客との信頼関係を構築し、長期的なパートナーシップを築くことが彼らのミッションです。

さらに、顧客データの分析を通じて利用状況やヘルススコアを把握し、解約リスクの早期発見やアップセル・クロスセルの機会特定を行うことも重要な業務です。

社内においては、顧客の声を代弁する役割を担い、プロダクト開発、営業、マーケティングなど他部門へのフィードバックを通じて、製品・サービス全体の改善と顧客体験の向上に貢献します。CSMは、顧客と企業の橋渡し役として、非常に戦略的なポジションを占めていると言えるでしょう。

AIとデータ活用が変えるCSの未来

カスタマーサクセスの分野では、AI(人工知能)やデータ活用の進化が目覚ましいものがあります。

AIは、膨大な顧客データから離反傾向にある顧客を予測したり、よくある質問に対してチャットボットが自動で対応したりすることで、CSMの業務負担を軽減し、より戦略的で人間的な業務に注力することを可能にします。前述の通り、日本の調査では、取り組む企業の約8割がAIを導入・活用しているという結果からも、その浸透度が伺えます。

また、顧客の利用状況に応じたパーソナライズされた情報提供や、トラブル発生時の早期解決支援など、AIは顧客体験の質を向上させる上でも大きな役割を果たします。

将来的には、トレーニング、コミュニティ、ドキュメンテーションなどの顧客接点を一元化する「デジタルハブ」の重要性が増すとされており、これにより顧客は必要な情報をいつでも手に入れることができ、CSMはより高度な顧客課題解決に集中できる環境が整っていくでしょう。

組織横断的な連携と持続的成長への貢献

カスタマーサクセスは、深い顧客理解に基づく「寄り添う姿勢」が求められるため、属人化しやすい傾向があります。

しかし、顧客の成功は特定部門だけの責任ではなく、企業全体で顧客体験を向上させる意識を持つことが不可欠です。属人化を解消し、業務の標準化と効率化を図るためには、ITツール活用はもちろん、プロダクト開発、マーケティング、営業など、他部門との密な連携を強化することが急務とされています。

顧客からのフィードバックを製品ロードマップに反映させたり、マーケティングが提供するコンテンツが顧客のニーズに合致しているかをCS部門が確認したりするなど、部門間の垣根を越えた協力体制が重要です。

顧客の成功が企業の成長に直結するという共通認識のもと、組織全体でカスタマーサクセスを推進することで、LTVの向上、ブランド価値の強化、そして持続的な企業成長に大きく貢献するでしょう。

カスタマーサクセス戦略は、顧客の成功を支援し、長期的な関係を築くことで、企業自身の成長へと繋げるための重要な取り組みです。顧客理解の深化、データに基づいたアプローチ、KPIによる効果測定、そして組織全体での連携が成功の鍵となります。

さらに、AI技術の活用や「攻め」のカスタマーセールスへの進化など、最新のトレンドを取り入れながら、変化し続ける市場環境に対応していくことが求められます。

※本記事は、公開されている情報に基づき作成されており、最新の数値やデータについては、常に変動する可能性があります。