定年退職後も働き続けることを選ぶ人が増えています。しかし、気になるのは「年収はどれくらいになるのか」「老後資金は本当に大丈夫なのか」といったお金の問題でしょう。

この記事では、定年後の再雇用における年収の実態から、給与が減った場合の対策、そして不安なく老後を迎えるための資金計画まで、具体的なデータに基づきながら詳しく解説します。

あなたの定年後の働き方や暮らしを考える上で、ぜひ参考にしてください。

定年後の再雇用、気になる年収事情

再雇用で給与はどれくらい減る?

定年後の再雇用では、残念ながら現役時代よりも給与が減少するケースがほとんどです。多くの場合は、現役時の給与から6~7割程度に減額されることが一般的で、場合によっては半額以下になることもあります。

パーソル総合研究所の調査では、定年後に再雇用された人の約9割が定年前より年収が下がり、全体平均で44.3%の年収減という衝撃的なデータも出ています。これは、現役時代の約半分近くに年収が落ち込むことを意味します。

国税庁の調査データを見ると、55~59歳の平均年収が559.6万円であるのに対し、60~64歳では423.9万円、65~69歳では344.2万円と、年齢とともに年収が減少していく傾向がはっきりと見て取れます。この減額は、定年後の働き方を考える上で避けて通れない現実として認識しておく必要があるでしょう。

給与減額の背景にある理由とは

なぜ定年後に給与が大きく減ってしまうのでしょうか。その背景には、いくつかの複合的な要因があります。

まず、再雇用後は役職手当や各種福利厚生が変更されることが挙げられます。現役時代の管理職手当などがなくなることで、基本給に大きな影響が出ます。

次に、雇用形態が正社員から契約社員や嘱託社員などに変わることが一般的です。これにより、給与体系自体が変更され、賞与の額や支給方法なども見直されることが多くなります。さらに、再雇用後は業務内容や責任範囲が軽減されることも多く、これが給与減の合理的な理由とされることもあります。

これらの変化が重なることで、結果として現役時代とは大きく異なる給与水準となるのです。

平均年収はどれくらいに?年代別データ

実際に、定年後の平均年収はどれくらいになるのでしょうか。いくつかのデータから見ていきましょう。

企業規模計(10人以上の事業所)の調査結果では、60代前半の平均年収は約374.7万円とされています。また、先ほども触れた国税庁のデータでは、60~64歳で423.9万円、65~69歳で344.2万円となっています。

これらの数字はあくまで平均値であり、個々の企業の給与体系や個人のスキル、業務内容によって変動します。しかし、現役時代の平均年収が500万円を超えていることを考えると、定年後には100万円から200万円以上年収が減少する可能性があることを示唆しています。

自身の定年前の年収とこれらの平均値を比較することで、再雇用後の年収をより具体的にイメージできるでしょう。

給与が大幅に減る?現実は3割〜4割減も

具体的な給与減額の例と割合

定年後の再雇用では、給与が大幅に減少することが現実です。現役時の給与から3割〜4割減は珍しいことではありません。これは、現役時代の給与の6割〜7割程度になることを意味します。

例えば、現役時に年収600万円だった方が再雇用された場合、年収は360万円〜420万円程度になる可能性が高いでしょう。月収に換算すると、手取りでさらに少なくなるため、これまで通りの生活レベルを維持することが難しくなることも考えられます。

パーソル総合研究所の調査データが示す「全体平均で44.3%の年収減」という数字は、多くの人にとって非常に大きなインパクトがあるでしょう。この大幅な収入減を前提に、今後のライフプランを練ることが重要となります。

給与減を補う公的な給付金制度

収入が減少する再雇用者にとって、公的な給付金制度は非常に心強い味方となります。主な制度は以下の通りです。

  • 高年齢雇用継続基本給付金:60歳以降も会社に残り、給与が60歳時点の75%未満になった場合に、65歳まで支給されます。給与の低下率に応じて支給額が変わるため、収入減を直接的に補うことができます。
  • 高年齢再就職給付金:一度離職し、基本手当(失業給付)を受け取った後に再就職した場合で、再就職後の給与が大幅に下がった場合に支給されます。再就職をサポートする制度です。
  • 再就職手当:失業給付の受給資格がある方が、一定の条件を満たして再就職した場合に支給されます。こちらは高年齢再就職給付金とは選択制となるため、どちらがご自身にとって有利か確認が必要です。

これらの給付金制度は複雑な部分もありますが、ご自身の状況に合わせて賢く活用することで、再雇用後の収入減を緩和し、生活の安定に繋げることができます。詳細はハローワークなどで確認することをおすすめします。

「同一労働同一賃金」と給与減額の妥当性

定年後の再雇用における給与減額に関して、「同一労働同一賃金」の原則が適用されるかどうかも重要な論点です。この原則は、不合理な労働条件の格差をなくすことを目的としています。

過去には、名古屋自動車学校事件のように、定年時の6割減額が不合理と判断された裁判例もあります。しかし、最高裁では差し戻しとなり、個々のケースで慎重な判断が求められる結果となりました。

これは、定年後の再雇用において、業務内容や責任範囲、配置転換の有無など、様々な要素を総合的に判断する必要があることを示しています。企業側は給与設定の合理性を明確に説明する義務があり、労働者側も自身の職務内容と給与のバランスに不合理な点がないか、確認する姿勢が求められます。

もし不合理な減額と感じる場合は、労働組合や弁護士などの専門家に相談することも一つの方法です。

老後資金に不安?iDeCoや401k(確定拠出年金)の活用

老後資金はいくら必要?平均貯蓄額と生活費

定年後の生活を考える上で、最も不安な要素の一つが「老後資金」でしょう。実際に、私たちはどれくらいの貯蓄が必要なのでしょうか。

金融広報中央委員会の調査によると、60代の二人以上世帯の平均貯蓄額は2,026万円ですが、中央値は700万円と大きな乖離があります。これは、一部の高貯蓄世帯が平均値を押し上げている実態を示しています。単身世帯では平均1,468万円、中央値210万円とさらに厳しい状況です。

また、生命保険文化センターの調査では、「ゆとりある老後生活」を送るためには、夫婦二人で月平均37.9万円(基本的な生活費+趣味や旅行など)が必要とされています。自身の現在の貯蓄額と、必要な生活費を比較し、どれくらいの不足が生じるのかを具体的に把握することが、老後資金計画の第一歩となります。

「老後2,000万円問題」と年金以外の備え

「老後2,000万円問題」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは、金融庁の報告書がきっかけとなったもので、年金収入のみの高齢者夫婦世帯では、毎月約5万円の赤字が発生し、20~30年で約1,300万円~2,000万円の貯蓄が必要と試算されたものです。

この試算はあくまで「平均的なケース」であり、個々の生活スタイルや健康状態によって必要な金額は大きく異なります。しかし、年金だけでは不足する可能性が高いことを示唆しており、自助努力による老後資金の備えが不可欠であることを改めて認識させてくれました。

年金受給開始年齢の引き上げや、長寿化が進む現代において、年金だけに頼らず、自分自身で老後資金を準備しておくことの重要性は、ますます高まっていると言えるでしょう。

iDeCoやNISAなど資産形成の重要性

年金や再雇用後の給与だけでは不足する老後資金を補うため、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)といった制度を活用した資産形成が非常に重要になります。

iDeCoは、自分で掛金を拠出し、自分で運用する私的年金制度です。掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税、受取時にも控除が受けられるなど、税制優遇が非常に手厚いのが特徴です。老後資金形成の強い味方となるため、早めに始めることで複利の効果を最大限に活かせます。

NISAは、株式や投資信託などへの投資で得た利益が一定額まで非課税になる制度です。少額からでも始めやすく、非課税で投資を経験できるため、資産形成の第一歩として検討する価値があります。

これらの制度は、早めに計画を立てて始めるほど、時間を味方につけて資産を増やせる可能性が高まります。専門家のアドバイスも参考にしながら、ご自身のライフプランに合った方法で資産形成を始めることが、安心して老後を迎えるための鍵となるでしょう。

年収1000万円から20〜30万円へ?再雇用の給与実態

高収入だった方の給与はどうなる?

現役時代に高収入を得ていた方ほど、再雇用後の給与減額の「幅」が大きく感じられる傾向にあります。例えば、年収1000万円を超えていた方が再雇用制度を利用した場合、月給が20万円〜30万円程度(年収換算で240万円〜360万円)になるケースも決して珍しくありません。

これは、現役時代の給与から約7割もの減額となり、生活水準を大きく見直す必要が生じることを意味します。役職手当や特別手当などの高額な手当がなくなることが、この大幅な減額に直結します。

これまでの贅沢な生活が送れなくなる可能性もあるため、高収入だった方ほど、再雇用後の生活設計をより慎重に行う必要があるでしょう。

再雇用後の雇用形態と業務内容の変化

定年後の雇用形態は、現役時代と大きく変わることが一般的です。参考情報によると、パート・アルバイトが最も多く、非正規雇用が全体の約76%を占めています。

正社員から、契約社員、嘱託社員、あるいはパートタイマーなどに変更されることで、給与体系だけでなく、福利厚生や退職金制度なども変わる可能性があります。業務内容も、責任ある管理職から、専門性を活かしたアドバイザー業務や、補助的な業務へとシフトすることが少なくありません。

これにより、これまでのような仕事のやりがいや達成感を感じにくくなるケースもあります。給与だけでなく、働き方そのものの変化を受け入れる準備も必要となるでしょう。

高年齢者の就業率と多様な働き方

近年、定年後も働き続ける人の割合は増加傾向にあります。厚生労働省のデータによると、60~64歳の就業率は74%、65~69歳では52%と、多くの高齢者が社会で活躍しています。

これは、2021年4月から企業に65歳までの雇用確保が義務化され、さらに70歳までの就業確保も努力義務となったこと、健康寿命の延伸、そして年金受給開始年齢の引き上げなどが要因と考えられます。

働き方も多様化しており、再雇用制度を利用するだけでなく、これまでの経験を活かして別の企業に再就職したり、独立してフリーランスとして活動したり、あるいは趣味の延長で副業を始めるなど、様々な選択肢があります。ご自身のスキルや興味を再確認し、最適な働き方を見つけることが、充実したセカンドキャリアに繋がるでしょう。

再雇用で後悔しないための注意点と準備

再雇用前に確認すべきこと

再雇用制度を利用する際には、後悔しないためにも事前にしっかりと確認しておくべき点がいくつかあります。

最も重要なのは、再雇用制度の詳細を把握することです。具体的には、給与規定(基本給、手当、賞与)、勤務時間、業務内容、雇用形態(正社員、契約社員、嘱託社員など)、そして福利厚生の変更点などを人事担当者に詳しく確認しましょう。

特に給与体系は、現役時代と大きく異なる場合が多いため、具体的な計算方法や年間の収入見込みを細かく把握しておくことが重要です。不明な点があれば、納得がいくまで質問し、書面で確認することも有効です。「こんなはずではなかった」という後悔を避けるためにも、事前の情報収集と確認は徹底しましょう。

後悔しないための情報収集と計画

再雇用を選択する前に、自身のキャリアとライフプラン全体を見据えた情報収集と計画が不可欠です。

まずは、自身のスキルやこれまでの経験を棚卸しし、今後どのように社会と関わっていきたいか、どんな働き方を望むのかを明確にしましょう。その上で、再雇用以外の選択肢、例えば別の企業への再就職、起業、フリーランスとしての活動、あるいはボランティア活動なども視野に入れ、それぞれのメリット・デメリットを比較検討することが大切です。

退職金や年金を含めた長期的な資金計画を立て、老後資金のシミュレーションを行うことで、漠然とした不安を具体的な数字に変え、適切な対策を講じることができます。早めに計画を立てることで、精神的な余裕が生まれ、より良い選択ができる可能性が高まります。

定年後を見据えたキャリアプラン

定年を単なる「仕事の終わり」ではなく、「新たなキャリアのスタート」と捉える視点も重要です。人生100年時代と言われる現代において、定年後も長く働き続けることは珍しくありません。

そのためには、現役時代からスキルアップや学び直しに積極的に取り組み、自身の市場価値を高めておくことが有効です。また、社外のコミュニティに参加したり、趣味を通じて新たな人脈を築いたりすることも、定年後の選択肢を広げることに繋がります。

日本の高齢者の老後生活の満足度が世界的に見て低下傾向にあるという調査結果もありますが、これは、積極的な社会参加や自己成長の機会を持つことで改善される可能性があります。定年後を見据えた長期的なキャリアプランを持つことが、充実したセカンドライフを送る鍵となるでしょう。