概要: 多くの企業で共通の課題となっている、複雑で使いにくい社内システム。その原因を掘り下げ、古いシステムや不具合が業務に与える悪影響を解説します。後半では、システムの見直しや他社事例から、業務を楽にするための具体的なステップと導入ポイントを紹介します。
複雑すぎる社内システム、その原因と見直しで業務を楽にする方法
近年、多くの企業で「社内システムが複雑化しすぎている」という課題が指摘されています。これは単なる不便さを超え、業務効率の低下、従業員の負担増大、さらにはDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の大きな阻害要因となりかねません。本記事では、なぜ社内システムが複雑化してしまうのか、その根本原因を探りながら、業務を劇的に楽にするための具体的な見直し方法について、最新のデータや成功事例を交えて詳しく解説していきます。
なぜ社内システムは複雑化・乱立してしまうのか?
部門ごとの独自導入とレガシーシステム
社内システムが複雑化する最大の要因の一つは、各部門が独自のニーズに基づいてシステムを導入してきた歴史にあります。例えば、営業部門が顧客管理ツールを導入し、マーケティング部門が別の顧客データ分析ツールを導入するといった形で、全社的な視点がないまま個別の課題解決が優先されてきた結果、機能が重複するシステムが乱立しやすくなります。
さらに、長期間運用されてきた「レガシーシステム」の存在も大きな課題です。これらは導入から長い年月が経過し、システムの老朽化が進んでいるだけでなく、内部構造がブラックボックス化しているケースも少なくありません。こうしたレガシーシステムが、最新技術の導入や新しい業務フローへの移行を阻害し、全体的な複雑性を増す原因となっています。
例えば、特定部門しか使わない経費精算システムや、他のシステムと連携しない独自開発の生産管理システムなどが、その典型と言えるでしょう。これらのシステムはそれぞれの部門では便利でも、全社で見た場合にはデータ連携の壁となり、結果的に二度手間や手作業を生み出すことになります。
場当たり的な開発とIT投資の課題
社内システムの複雑化は、しばしば全社的なIT戦略や明確な方針が欠如した状態での場当たり的なシステム開発・導入によって加速されます。目の前の課題解決を優先し、その場しのぎでシステムを導入してしまうと、システム間の整合性が考慮されず、全体として無秩序な状態に陥りやすくなります。結果として、複数のシステムで同じデータを手入力する手間が発生したり、情報が分散して一元管理が困難になったりする事態が生じます。
また、日本企業ではITを「コスト」と捉える傾向が強く、システムの開発や運用を外部ベンダーに委託するケースが多く見られます。これにより、社内にIT対応能力が育たず、システム内部の知識がブラックボックス化しやすくなります。自社のITに対する投資が不十分であったり、短期的な視点に偏ったりすることで、長期的な視点でのシステム全体の最適化が進まず、結果的に複雑で維持が困難なシステム構成に陥ってしまうのです。
このような状況は、新しい技術を導入しようにも既存システムとの連携が困難で、結局は部分的な改善に留まるといった悪循環を生み出します。
DX推進の側面と人材不足
近年、多くの企業がDX推進を掲げていますが、その過程自体が社内システムの複雑化を招く側面も持ち合わせています。レガシーシステムの刷新が遅れる一方で、新しいデジタルツールやクラウドサービスが次々と導入されることで、一時的にシステム環境がさらに複雑になることがあります。
特に深刻なのはIT人材の不足です。DX推進には、ビジネスとITの両方を理解し、全体最適の視点でシステムを設計・構築できる「ビジネスアーキテクト」のような人材が不可欠ですが、日本企業ではこのような人材が不足しています。IPAの「DX動向2024」によると、DXを推進する人材、特にビジネスアーキテクトの確保が大きな課題として挙げられています。
また、部門間の連携不足も複雑化の一因です。DX推進は全社横断的な取り組みであるにもかかわらず、部門間の協力体制が十分に構築されていない場合、各部門が個別にDXツールを導入したり、独自のシステム改善を進めたりしてしまい、結果的にシステム間のサイロ化が進み、さらなる複雑化を招いてしまいます。
古いシステムや不具合が引き起こす業務への悪影響
非効率な業務と重複作業の発生
複雑な社内システムは、まず何よりも業務の非効率性を招きます。システム間でデータが連携されなかったり、情報の整合性を保つためのルールが曖昧だったりすると、従業員は手作業でのデータ転記や重複入力、あるいは複数のシステムを何度も立ち上げて情報を確認するといった無駄な作業を強いられます。
例えば、顧客情報を営業管理システム、会計システム、そして出荷システムでそれぞれ入力し直す必要がある場合、膨大な時間が浪費されるだけでなく、入力ミスによる人為的なエラーも発生しやすくなります。これは担当者の時間を奪い、本来のコア業務に集中できない状況を生み出します。さらに、データが複数の場所に散在しているため、正確な経営状況を把握するためのデータ収集・分析にも手間がかかり、意思決定の遅れにも繋がりかねません。
このような状況は、従業員の生産性を著しく低下させ、企業の競争力にも悪影響を及ぼします。
増大する維持コストと隠れた損失
複雑化・乱立したシステムは、維持コストの増大という直接的な問題を引き起こします。各システムの運用費、ライセンス料、それに伴う人件費は、企業にとって無視できない固定費となります。特にレガシーシステムの場合、古い技術や専門知識を持つ人材が限られているため、メンテナンス費用が高騰する傾向にあります。
さらに、目に見えない「隠れたコスト」も膨大です。非効率な業務によって失われる従業員の労働時間、人為的なミスを修正するために費やされる時間と労力、そしてシステムの不具合によって業務が停止する際の機会損失などがこれに当たります。これらの隠れたコストは、表面的なIT予算だけでは把握しきれないため、経営層が見落としがちですが、企業全体の利益を大きく圧迫する要因となります。
結果として、本来なら新しいビジネスや成長分野に投資すべき資金が、古いシステムの維持に費やされてしまい、企業の成長を阻害することにも繋がります。
従業員の負担増とDX推進の阻害
複雑で使いにくいシステムは、従業員に大きな心理的・肉体的負担をかけます。複数のシステムを使い分けたり、煩雑な操作を覚えたりすることは、従業員にとってストレスの源となり、生産性や仕事へのモチベーションを低下させます。不具合が頻発したり、システムが頻繁にダウンしたりすれば、業務が中断され、さらに不満は募るでしょう。
このような状況は、企業のDX推進を阻害する大きな要因にもなります。レガシーシステムが新しい技術の導入を困難にするだけでなく、従業員が既存システムへの不満を抱えていると、新しいシステムの導入に対しても抵抗感が生まれやすくなります。「どうせまた使いにくいシステムが導入されるだけだろう」といった諦めや不信感が蔓延すれば、どれほど優れた最新技術を導入しても、その真価を発揮することはできません。
従業員の負担を軽減し、前向きな姿勢でDXに取り組んでもらうためには、まず現在のシステムが抱える問題を根本的に解決することが不可欠なのです。</
社内システムの見直しで、不満や面倒を解消するステップ
IT戦略の策定とガバナンス強化
社内システムの複雑化を解消し、業務を効率化するためには、まず中長期的な視点に立ったIT戦略の策定が不可欠です。企業の事業目標や経営戦略と合致したIT活用計画を立案し、どのようなシステムを導入し、どのように運用していくかという明確な基準を全社で共有し、合意形成を図ることが重要です。
同時に、ITガバナンスの強化も欠かせません。これは、新規システムの導入が必要か、既存システムとの整合性はどうか、コストパフォーマンスはどうかといった点を審査する仕組みを構築することを指します。例えば、システム導入委員会を設置し、各部門からのシステム導入要望を厳格に審査することで、無秩序なシステム増加を防ぎ、全体最適の視点からIT投資を管理できるようになります。これにより、将来的なシステム乱立を防ぎ、長期的な視点でのシステム環境の健全性を保つことが可能になります。
IT戦略とガバナンスの強化は、システム改善の土台となる最も重要なステップと言えるでしょう。
システムの棚卸し、刷新、内製化
次に、現状のシステム環境を正確に把握するために、徹底的な「棚卸し」を行います。現在稼働しているすべてのシステムを洗い出し、それぞれの機能、利用状況、コスト、連携状況などを明確にします。その上で、不要なシステムは迷わず廃棄し、機能が重複しているシステムは統合や刷新を検討します。
特に、老朽化したレガシーシステムについては、最新の環境への「マイグレーション」や、部分的に新しい技術を取り入れて刷新する「モダナイゼーション」を積極的に検討すべきです。これにより、保守性の向上、運用コストの削減、そして新しい技術との連携が容易になります。
さらに、DX推進の観点からはシステムの内製化も非常に有効な手段です。システムの内製化は、自社のビジネスニーズに合った柔軟なシステム開発を可能にし、同時に社内IT人材の育成にも繋がります。IPAのデータが示すように、日本の内製化比率は米国の半分以下であり、内製化を進めることで、より迅速かつ的確なシステム改善が可能になるでしょう。
業務プロセスの見直しと従業員サポート
新しいシステムを導入するだけでなく、そのシステムを活用するための業務プロセスそのものを根本から見直すこと(BPR: ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が非常に重要です。システム導入は単なるツールの変更ではなく、業務フローを最適化し、無駄を排除するチャンスと捉えるべきです。これにより、業務の属人化を防ぎ、標準化を進めるための業務マニュアルの作成・更新も同時に行います。
そして、最も重要なのは、従業員への丁寧な情報共有と継続的なサポートです。システム導入の目的や、それが従業員にとってどのようなメリットをもたらすのかを明確に伝え、理解と協力を得る努力が不可欠です。新しいシステムの機能や使い方に関する研修を定期的に実施し、操作マニュアルやFAQを整備するだけでなく、導入後も継続的なヘルプデスクやQ&Aセッションを通じて、従業員がシステムを使いこなせるよう支援する体制を構築しましょう。
システムはあくまで道具であり、それを最大限に活用するのは従業員です。彼らが安心して使える環境を整えることが、見直し成功の鍵となります。
他社事例から学ぶ!レガシーシステム脱却のヒント(富士通などの例も参考に)
DX推進の現状とシステム内製化の重要性
多くの企業がレガシーシステムからの脱却とDX推進に意欲を見せています。IPAの「DX動向2024」によると、2023年度には日本企業の37.5%が「全社戦略に基づいて、全社的にDXに取り組んでいる」と回答しており、これは前年度から10.6ポイントの大幅な増加です。この数字は2022年度のアメリカの数値を上回るもので、日本企業におけるDXへの意識の高まりを示しています。
しかし、その一方で、DX推進における課題として、レガシーシステムの刷新遅れやIT人材不足が依然として挙げられています。特に、システムの「内製化」はDX推進の鍵となりますが、日本企業におけるコア事業でのシステム内製化比率は24.8%と、米国の53.1%と比較して低い水準にとどまっています。これは、IT人材の多くがベンダー企業に属しているという日本の構造的な問題も影響しています。
自社でシステムを開発・運用する能力を高めることは、外部ベンダーに依存しない柔軟なシステム改修や、自社のニーズに最適化されたシステム構築を可能にし、変化の速いビジネス環境に対応するための重要なヒントとなります。
生成AI・RPAによる業務効率化の具体例
レガシーシステムからの完全な脱却が難しい場合でも、最新技術を導入して業務効率化を図る事例は増えています。例えば、生成AIを活用した社内FAQシステムの統合・自動応答は、従業員からの問い合わせ件数を大幅に削減し、総務・IT部門の負担を軽減する効果が報告されています。これにより、従業員は迅速に疑問を解決でき、業務の中断が少なくなるというメリットも生まれます。
また、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入も、定型業務の自動化において大きな成果を上げています。データ入力、レポート作成、承認プロセスなど、これまで手作業で行っていた業務をRPAが肩代わりすることで、年間数千時間もの工数削減に成功した事例も少なくありません。実際に、ある企業ではRPA導入により年間6,700時間もの工数削減に成功したという報告があります。
これらの技術は、既存の複雑なシステム環境に手を入れることなく、その上で動く業務プロセスを効率化できるため、レガシーシステム脱却に向けた一歩としても有効なヒントとなるでしょう。
成功への鍵となるIT投資と人材育成
レガシーシステムからの脱却とDX推進を成功させるためには、経営層の強力なコミットメントと、戦略的なIT投資が不可欠です。単なるコスト削減ではなく、DX推進によって得られる具体的な費用対効果(ROI: Return On Investment)を明確に経営層に提示し、継続的な予算確保を目指す必要があります。
さらに、最も重要な要素の一つが「人材育成」です。特にDXを推進する「ビジネスアーキテクト」や、システムの内製化を担うエンジニアの育成は急務です。社内でのIT教育プログラムの強化や、外部からの専門人材の登用を積極的に進めるべきでしょう。IT人材は、単に技術的な知識だけでなく、ビジネス課題を理解し、それをITで解決する能力が求められます。
例えば、富士通では自社のDX推進において、部門横断的なデジタル人材育成プログラムを強化し、社員のリスキリング(学び直し)を支援することで、内製化能力の向上とレガシーシステム刷新を加速させています。このように、投資と人材育成の両輪を回すことが、複雑なシステム環境から脱却し、新たな価値を創造するヒントとなるのです。
「ログインできない」も過去の話?楽になる社内システム導入のポイント
従業員目線のシステム設計
「ログインできない」「どこに情報があるかわからない」といった従業員の不満を解消するためには、徹底した「従業員目線」でのシステム設計が不可欠です。ユーザーフレンドリーなUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)を重視し、直感的で分かりやすい操作性を実現することが、システムの利用定着率を高める鍵となります。
特に、複数のシステムが存在する場合に発生しやすい「ログインできない」問題を解決するためには、シングルサインオン(SSO)の導入が非常に有効です。一度の認証で複数のシステムにアクセスできるようになれば、パスワード管理の煩雑さから解放され、従業員のストレスは大幅に軽減されます。また、システムデザインの段階で、実際に利用する従業員からのフィードバックを積極的に取り入れ、彼らの使いやすさを最優先に考えることで、導入後の不満を最小限に抑えることができます。
新しいシステムは、単に機能が優れているだけでなく、「使いたい」と思わせるようなデザインと操作性を持っていることが重要です。
情報共有と継続的なトレーニング
新しいシステムを導入する際、従業員の不安や抵抗感を払拭するためには、透明性のある情報共有と継続的なトレーニングが不可欠です。システム導入の目的が「なぜ必要なのか」「どのように業務が改善されるのか」「従業員にどのようなメリットがあるのか」を明確に伝え、納得感を醸成することが第一歩です。
導入後は、機能や使い方に関する研修を一度きりで終わらせるのではなく、定期的に実施し、継続的なスキルアップを支援する体制を整えましょう。動画マニュアルやオンラインFAQ、チャットボット形式のヘルプデスクなど、多様な学習リソースを提供することも有効です。また、システムに関する疑問や問題が発生した際に、すぐに相談できるサポート窓口を明確にし、迅速に対応できる体制を構築することで、従業員は安心してシステムを利用できるようになります。
これらの取り組みは、従業員がシステムを単なる「ツール」ではなく「業務を楽にするパートナー」として認識するために非常に重要です。
補助金活用とROIの明確化
社内システムの改善には費用がかかりますが、IT導入補助金など国の支援制度を積極的に活用することで、導入コストの負担を軽減できます。これらの補助金は、中小企業や小規模事業者などがITツールを導入する際に活用できるもので、導入するシステムの要件や申請期間などを確認し、計画的に活用を検討すべきです。
また、システム導入における費用対効果(ROI: Return On Investment)を具体的に経営層に提示することも重要です。例えば、「このシステムを導入することで年間〇〇時間の業務効率化が図れ、人件費換算で〇〇万円のコスト削減が見込まれる」「データに基づいた意思決定が可能になり、売上〇〇%アップに貢献する」といった具体的な数値を提示することで、IT投資の必要性を理解してもらいやすくなります。
さらに、システム活用度を人事評価に組み込むなど、従業員の積極的な利用を促す仕組みも有効です。投資コストを抑えつつ、その効果を最大化するアプローチが、楽になる社内システム導入の最終的なポイントとなるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 社内システムが複雑化する主な原因は何ですか?
A: 組織の成長に伴う部門ごとのシステム導入、合併・買収によるシステム統合の遅れ、専門知識を持った担当者の不在、場当たり的な改修などが複合的に絡み合い、システムが乱立・複雑化するケースが多いです。
Q: 古い社内システムは具体的にどのような問題を引き起こしますか?
A: セキュリティリスクの増大、機能の陳腐化による業務非効率化、頻繁な不具合やエラーの発生、従業員の不満やモチベーション低下、最新技術への対応の困難さなどが挙げられます。
Q: 社内システムの見直しは、どのようなステップで進めれば良いですか?
A: まず現状のシステムを棚卸し、各システムの目的や課題を明確にします。次に、業務プロセスを見直し、本当に必要な機能やシステムを定義。その後、統合・刷新・廃止などの方針を決定し、段階的に実施していくのが一般的です。
Q: 他社のシステム見直し事例で参考になるものはありますか?
A: 富士通のような大手ITベンダーの例では、レガシーシステムをクラウドへ移行したり、API連携で複数システムを統合したりすることで、俊敏性や保守性を向上させています。小規模な企業でも、SaaSツールの活用で業務効率化を図る事例は多くあります。
Q: 「ログインできない」といったトラブルを防ぎ、業務を楽にするにはどうすれば良いですか?
A: シングルサインオン(SSO)の導入や、ID管理システムの整備、クラウドベースのモダンなシステムへの移行、定期的なメンテナンスと監視体制の強化などが有効です。また、IT部門と現場部門との連携を密にすることも重要です。
