欠勤時の給与控除、基本の計算方法

「ノーワーク・ノーペイの原則」とは?

欠勤時の給与控除について理解する上で、最も基本となるのが「ノーワーク・ノーペイの原則」です。
これは「働いていない時間・日数分の賃金は支払わない」という考え方を示しており、従業員が労務を提供しない限り、企業は賃金を支払う義務がないという雇用契約における基本的な原則です¹⁵⁹。

この原則は、遅刻や早退によって所定労働時間を満たせなかった場合にも適用されます⁵⁸⁹。
つまり、給与は労働の対価として支払われるため、労働が提供されなかった時間については、その分の賃金が控除されるのが基本的な考え方となるのです。

労働基準法に明記されているわけではありませんが、労使間の合意(就業規則や給与規程など)によって適用される一般的なルールとして広く浸透しています。
この原則に基づき、企業は適正な欠勤控除を行うことができます。

具体的な計算方法と注意点

欠勤控除の計算方法は企業によって異なりますが、主に以下の3つの方法が用いられます¹⁵。
それぞれの特徴を理解し、自社の就業規則で明確に定めることが重要です。

計算方法 特徴 計算式例
欠勤月の所定労働日数基準 その月の所定労働日数を基にするため、月の変動を反映しやすいが、月ごとに計算が変わる。 月給 ÷ その月の所定労働日数 × 欠勤日数⁵⁸¹⁵
1ヶ月平均所定労働日数基準 年間所定労働日数から算出した月平均の日数を用いるため、月ごとの変動が少なく、安定した計算が可能¹⁰¹²¹⁴¹⁵。 月給 ÷ (365日 – 年間所定休日数)÷ 12 × 欠勤日数
欠勤月の暦日数基準 暦日を基に計算するため、月によって日数が異なり、大きな差が生じる場合がある¹⁵。比較的まれな方法です。 月給 ÷ その月の暦日数 × 欠勤日数

特に注意すべきは、欠勤控除で差し引けるのは「働かなかった時間分の賃金のみ」であるという点です。⁵¹¹.
欠勤したことへのペナルティとして、働かなかった時間分以上の賃金を差し引くことは労働基準法違反とみなされます⁵¹².
遅刻や早退の場合も、分単位での正確な計算が求められ、端数処理(原則として切り捨ては不可、切り上げは可)にも細心の注意が必要です¹¹¹².

控除の対象外となるケース

「ノーワーク・ノーペイの原則」が基本となる一方で、例外的に欠勤控除の対象とならないケースも存在します。
これらのケースは法律や就業規則によって従業員の権利が保護されているため、企業は正しく対応する必要があります。

  • 有給休暇の取得: 年次有給休暇を取得して休んだ場合は、欠勤控除の対象外です².¹⁰。
    労働基準法により、有給休暇中の賃金は通常の勤務と同様に保障されており¹³、取得を理由に不利益な取り扱いをすることは認められません。
  • 会社の都合による休業: 会社の都合(例:設備の故障、業務量減少など)で従業員を休業させた場合、企業は欠勤控除を行うことはできません。
    この場合、企業は「休業手当」として平均賃金の6割以上を従業員に支給する義務があります¹⁴。
  • 特別休暇: 慶弔休暇やリフレッシュ休暇、夏季休暇など、会社が独自に設けている特別休暇を取得した場合も、就業規則等で有給と定められていれば欠勤控除の対象外となります¹⁰。
  • 休職・休業期間中: 病気や怪我による休職、育児休業、介護休業といった期間中の従業員は、そもそも就業義務がないため、欠勤控除の対象にはなりません¹⁰。
    ただし、これらの期間中の賃金支払いについては、企業の規定や社会保険制度によります。

分単位での欠勤、公務員や民間の違い

民間企業における分単位計算の原則

民間企業では、労働基準法24条の「賃金全額払いの原則」に基づき、従業員の労働時間を正確に把握し、その対価を支払うことが求められています。
特に遅刻や早退などによる短時間の欠勤の場合、「1分単位」で計算することが望ましいとされています。

これは、従業員が実際に働いた時間に対してのみ賃金が支払われるべきであり、1時間未満の労働であっても正確に評価する必要があるためです。
例えば、10分の遅刻をした場合、その10分間分の賃金のみを控除し、30分や1時間と切り上げて控除することは、原則として認められません。

ただし、端数処理に関しては、従業員に有利になるように切り上げることは問題ないとされています。
正確な勤怠管理のためには、タイムレコーダーや勤怠管理システムなどを活用し、従業員の勤務実績を正確に記録・管理することが不可欠です⁹。
これにより、計算ミスや労使間のトラブルを未然に防ぐことができます。

公務員の給与控除における考え方

公務員の給与控除については、民間企業とは異なる法体系に基づいて運用されています。
国家公務員であれば国家公務員法、地方公務員であれば地方公務員法やそれぞれの自治体の条例・規則など、公務員特有の法令や人事院規則によって詳細に定められています。

基本的には民間企業と同様に「ノーワーク・ノーペイの原則」が適用されますが、その計算方法や手当の扱い、欠勤・遅刻に対する処分については、公務員特有の職務専念義務や服務規律が色濃く反映されています。
例えば、公務員にはより厳格な勤務管理が求められ、無断欠勤などに対しては分限処分といった特別な措置が講じられる可能性もあります。

民間企業のように、労働基準法や労働契約法が直接適用されるわけではないため、公務員特有の制度を理解することが重要です。
詳細な規定は所属する組織の人事担当部署や関連法令で確認する必要があります。

手当の種類と控除の適用範囲

給与には基本給の他にも、皆勤手当、通勤手当、役職手当、住宅手当など様々な手当があります。
これらの手当を欠勤控除の対象とするか否かは、企業の判断によりますが、就業規則や給与規程に明確に定める必要があります¹⁰¹¹.

一般的に、出勤状況と密接に連動する手当は、欠勤控除の対象となることが多いです。
例えば、皆勤手当は、欠勤や遅刻がない場合に支給される性質上、欠勤が発生すれば減額または不支給となるのが通常です。
また、通勤手当も、実際に通勤した日数に応じて支払われる性格を持つため、欠勤日分が減額されることがあります¹¹.

一方で、役職手当や住宅手当のように、出勤日数に直接関係なく支給される手当については、欠勤控除の対象外とされることが多く見られます¹¹.
手当の控除基準が不明確だと、従業員との間に誤解やトラブルが生じやすいため、適用範囲と計算方法を就業規則で具体的に記載し、従業員に周知徹底することが肝要です。

欠勤控除と残業代・返金・請求の関連性

欠勤控除と残業代の相殺は可能か?

従業員の給与から欠勤控除を行う際、同時に発生した残業代と相殺することは原則として認められていません。
これは、労働基準法24条で定められた「賃金全額払いの原則」に反する可能性があるためです。
賃金は、原則としてその全額を支払わなければならず、一方的に相殺することはできません。

例外的に、労使協定や就業規則に相殺規定があり、かつ控除額が賃金の一定割合を超えない場合など、限られた条件の下で賃金債務の相殺が認められるケースもあります。
しかし、実務上はトラブルの原因となりやすいため、欠勤控除と残業代はそれぞれ個別に計算し、支払いを行うのが最も安全な対応策とされています。

もし相殺を行う場合は、従業員からの明確な同意を得た上で行うことが不可欠です。
同意がないまま相殺を強行すれば、未払い賃金として労働基準監督署からの指導や、従業員からの訴訟リスクに繋がりかねません。

給与過払いによる返金請求のルール

企業が誤って従業員に給与を過払いしてしまった場合、民法上の不当利得返還請求権に基づき、その過払い分を従業員に返還請求することができます。
これは、従業員が法的な原因なく利益を得たため、それを返還してもらう権利が企業にあるという考え方です。

しかし、返還請求には期間の制限(時効)があることに加え、労働者の生活への影響を考慮する必要があります。
そのため、一方的に給与から天引きする形での相殺は、原則として認められていません。
労働者の生活保障の観点から、天引きは労働者の同意がある場合に限られるか、または一定の条件を満たす場合にのみ許容されます。

最も望ましいのは、従業員と十分に協議し、返還方法(一括返済、分割返済など)について合意を形成することです。
従業員の経済状況に配慮した柔軟な対応が、無用なトラブルを避ける上で重要となります。

従業員から会社への損害賠償請求の可能性

企業が不当な欠勤控除を行った場合や、本来支払われるべき休業手当を支払わなかった場合など、会社側に原因がある賃金不払いが発生した場合、従業員は会社に対して未払い賃金や損害賠償の請求を行うことが可能です。
特に、会社の都合で従業員を休業させたにもかかわらず、労働基準法で定められた休業手当(平均賃金の6割以上)を支払わない行為は違法です。

このような場合、従業員は労働基準監督署に申告して是正を求めることができるほか、労働審判や民事訴訟を通じて法的に未払い賃金や損害賠償を請求する権利を有します。
企業が適切な賃金計算と支払いを怠ると、未払い賃金に加えて付加金の支払いを命じられるリスクも存在します。

企業は、法的なリスクを回避し、従業員との信頼関係を維持するためにも、欠勤控除や休業手当に関するルールを正確に理解し、適正な給与計算と支払いを行うことが極めて重要です。

欠勤ペナルティの法的側面と違法性

「ノーワーク・ノーペイ」原則の正しい理解

欠勤時の給与控除は「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づきますが、この原則の正しい理解が不可欠です。
繰り返しになりますが、この原則が許容するのは「従業員が働かなかった時間分の賃金のみ」を差し引くことであり、それ以上の賃金を控除することはできません⁵¹¹.

もし、欠勤や遅刻をしたことに対する「罰」として、働かなかった時間分を超える賃金を差し引いた場合、それは労働基準法違反とみなされます⁵¹².
例えば、1時間の遅刻に対して半日分の給与を控除する、あるいは1回の欠勤で1日分の給与を差し引くことは、たとえ就業規則に記載されていても、過度なペナルティと判断され、違法となる可能性が高いです。

「働かなかった分の対価を支払わない」ことと、「罰金として賃金を減額する」ことは、法的な意味合いが全く異なります。
企業は、この違いを明確に認識し、適正な控除を行う責任があります。

違法なペナルティ控除の具体例

「ノーワーク・ノーペイの原則」を逸脱した違法なペナルティ控除の具体例を挙げます。
例えば、遅刻を1回しただけでその月の皆勤手当を全額不支給にする、という規定は、その金額によっては過度なペナルティとみなされる可能性があります。
また、欠勤1回につき、その日の賃金だけでなく、さらに数千円の罰金を科すような行為も、労働基準法に抵触します。

労働基準法91条には、減給の制裁に関する制限が設けられています。
これは、懲戒処分としての減給について、「1回の事案につき平均賃金の1日分の半額、総額が賃金総額の10分の1以内」という上限を設けています。
欠勤控除は「賃金を支払わない」行為であり、この減給の制裁とは目的も法的根拠も異なりますが、結果的に労働者の賃金を過度に減らすことは許されません。

違法なペナルティが発覚した場合、企業は未払い賃金の支払いを命じられるだけでなく、場合によっては、未払い賃金と同額の付加金の支払いを命じられる可能性もあります。
これは、企業の不当な行為に対する制裁金のようなものであり、大きなリスクとなり得ます。

トラブル防止のための就業規則の重要性

欠勤控除に関する労使間のトラブルを未然に防ぐためには、就業規則や給与規程に控除の適用ルール、計算方法、対象となる手当などを明確に記載し、従業員に周知徹底することが極めて重要です⁵¹⁰¹².
法律で詳細に定められていない部分が多いからこそ、企業ごとのルールを明確化する必要があるのです。

曖昧な規定や、従業員に一方的に不利益となるような規定は、紛争の原因となり、場合によってはその規定自体が無効と判断されるリスクもあります。
透明性のあるルールを設けることで、従業員は安心して働くことができ、企業側も適正な勤怠管理を行うことができます¹²¹⁰。

就業規則の作成や変更にあたっては、従業員の意見を聴く義務があり、特に不利益変更となる場合はその合理性も求められます。
労使間の合意形成のプロセスを大切にし、誰もが納得できる公平なルール作りを目指すことが、健全な職場環境を築く上で不可欠です。

欠勤が原因で訴えられる可能性と分限処分

企業側からの損害賠償請求の可能性

従業員の無断欠勤や故意による業務妨害など、従業員に重大な過失があり、それが原因で企業に具体的な損害が発生した場合、企業が従業員に対して民事上の損害賠償請求を行うことは法的には可能です。
例えば、従業員の無断欠勤によって重要な取引が破談になったり、生産ラインが停止したりして、直接的な損失が生じたようなケースが考えられます。

しかし、日本の判例では、企業が従業員に対して損害賠償請求を行うことのハードルは非常に高いのが現状です。
企業には従業員の生活保障という側面もあるため、請求が認められるためには、従業員の行為と損害の間に明確な因果関係があり、損害額も具体的に証明できる必要があります。
多くの場合、欠勤による直接的な損害を立証することは難しく、賃金との相殺も原則として認められないため、別途民事訴訟を提起する必要があります。

そのため、企業はまず、指導や懲戒処分を検討し、それでも改善が見られない場合や、極めて悪質なケースに限り、損害賠償請求を視野に入れるのが一般的です。

分限処分とは何か?公務員・民間における違い

「分限処分」とは、主に公務員に適用される人事上の措置であり、職務能力の不足、勤務成績不良、心身の故障、職務不適格などを理由に、職務を全うすることが困難と判断される場合に、降任、休職、免職などの処分を行う制度です。
これは、公務員の職務遂行能力や適格性を保持し、全体の奉仕者としての責務を果たすために設けられています。

一方、民間企業には「分限処分」という制度は直接的には存在しません。
しかし、公務員の分限処分と同様に、従業員の勤務成績不良や能力不足、協調性の欠如、あるいは長期にわたる欠勤が原因で業務に支障が生じるような場合には、「普通解雇」「諭旨解雇」といった懲戒処分が行われることがあります。

民間企業における懲戒処分は、就業規則に定められた懲戒事由に該当し、かつその処分が客観的に合理的であり、社会通念上相当と認められる場合にのみ可能です。
懲戒処分に至るまでには、通常、複数回の指導や改善機会の提供が求められ、慎重な手続きが必要となります。

欠勤が解雇につながるケースと法的要件

欠勤が、従業員の解雇につながる正当な理由となるケースも存在します。
具体的には、正当な理由のない長期間にわたる無断欠勤、再三の指導や警告にもかかわらず欠勤が改善されない場合、あるいはその欠勤によって企業の業務に著しい支障が生じている場合などです。

しかし、日本の労働法では「解雇権濫用法理」という考え方があり、解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められ、そのハードルは非常に高いです。
単に数回の欠勤があっただけで即座に解雇することは、ほとんどの場合、不当解雇と判断されます。

企業が解雇に踏み切る前には、従業員に対する度重なる指導、改善の機会の提供、配置転換、休職勧奨など、様々な段階を踏む必要があります。
適切な手続きを踏まずに行われた解雇は、不当解雇として従業員から訴えられ、企業が多額の賠償金を支払うことになるリスクがあるため、慎重な対応が求められます。