労働保険料とは?会社の経費となる理由

労働保険料の基礎知識:労災と雇用保険

労働保険料とは、企業が従業員を雇用する上で必ず加入が義務付けられている「労働者災害補償保険(労災保険)」と「雇用保険」の総称です。

これらの保険は、従業員の安全と生活の安定を守るための重要な制度であり、たとえ従業員が1人だけでも、事業主は加入が義務付けられています。

労災保険は、業務中や通勤中の事故、災害によって従業員が負傷したり病気になったりした場合に、医療費や休業補償などを給付する制度です。一方、雇用保険は、従業員が失業した場合や育児・介護などで休業した場合に、生活の安定を図るための給付を行う制度として機能します。

これらの保険料は、事業主にとって避けては通れない法定の義務費用であり、会社の経営上重要な経費として位置づけられます。

賃金総額と保険料率の決め方

労働保険料は、原則として「賃金総額 × 労働保険料率」で計算されます。この計算式の理解は、適正な保険料の算出と経費計上において不可欠です。

賃金総額とは、従業員に支払われる給与、賞与、各種手当(通勤手当や扶養手当など)といった、労働の対価として支払われる金銭の全てを指します。ただし、役員報酬は賃金総額には含まれませんので注意が必要です。

労働保険料率は、労災保険率と雇用保険率を合計したものであり、事業の種類や業態によって細かく定められています。例えば、建設業や製造業など、労働災害のリスクが高い業種では労災保険率が高く設定される傾向にあります。

これらの率は毎年見直される可能性があり、特に労災保険率は過去の災害発生率に基づいて約3年ごとに改定されるのが一般的です。常に最新の料率を確認し、正確な計算を行うことが求められます。

なぜ労働保険料は会社の経費になるのか

労働保険料が会社の経費として認められるのは、それが「法定福利費」という形で、企業の福利厚生義務の一部として法的に位置づけられているためです。

企業が従業員を雇用する際には、賃金を支払うだけでなく、社会保険や労働保険といった法定の福利厚生を提供することが義務付けられています。これは、従業員の生活保障や労働環境の安全を確保するという、企業の社会的責任を果たす上で非常に重要な要素となります。

労働保険料の会社負担分は、法人税法上、会社の事業活動に必要な費用(損金)として扱われます。これにより、企業は税負担を軽減しながら、従業員への義務を果たすことが可能になります。

つまり、労働保険料は単なる支出ではなく、従業員の安心を確保し、企業の健全な運営を支えるための必要不可欠な投資であり、その性質上、経費として計上することが認められているのです。

労働保険料の勘定科目と損金算入時期

主な勘定科目「法定福利費」の理解

労働保険料のうち、会社が負担する分は、一般的に「法定福利費」という勘定科目で会計処理されます。法定福利費は、法律で加入が義務付けられている社会保険料(健康保険、厚生年金保険、介護保険、子ども・子育て拠出金)とともに、会社の義務として発生する費用を指します。

従業員負担分の労働保険料は、会社が一旦徴収し、事業主に代わって納付するため、「預り金」として処理されます。また、概算保険料の納付時など、実際の費用が確定する前に支払う場合には「前払費用」として一時的に処理し、後に「法定福利費」へ振り替えることもあります。

これらの勘定科目を適切に使い分けることで、会社の財務状況を正確に把握し、税務申告を円滑に進めることができます。特に、法人と個人事業主では一部処理が異なるため、自身の事業形態に合わせた理解が重要です。

概算保険料と確定保険料の処理

労働保険料の申告・納付は、まず「概算保険料」として行われ、その後に「確定保険料」で精算されるという特徴があります。

概算保険料とは、その年度(毎年4月1日から翌年3月31日まで)に支払う賃金総額を見込みで計算し、事前に納付する保険料のことです。原則として毎年6月1日から7月10日までの間に申告・納付する必要があります。

この概算保険料を納付した時点では、まだ正確な費用が確定していないため、会社負担分は一時的に「前払費用」として計上することが一般的です。従業員負担分は「立替金」として処理します。

そして、年度末に実際の賃金総額が確定した後、前年度の概算保険料との差額を精算するのが「確定保険料」の申告・納付です。この年度更新の手続きで、概算保険料が過剰であれば還付され、不足していれば追加で納付することになります。

確定保険料の精算時に、会社負担分が最終的な「法定福利費」として計上され、従業員負担分は「預り金」として最終的に処理されます。このように、概算と確定の段階に応じた適切な会計処理が求められます。

労働保険料の損金算入時期

労働保険料の損金算入時期は、会計上の費用計上時期と密接に関連します。法人税法では、原則として労働保険料を「納付義務が確定した事業年度」または「実際に納付した事業年度」に損金として算入することができます。

一般的には、概算保険料を納付した時点では「前払費用」として処理し、その事業年度の賃金が確定し、年度更新によって実際の確定保険料額が確定した事業年度に「法定福利費」として損金算入するのが最も一般的で確実な方法です。

例えば、6月に概算保険料を納付し、翌年7月に前年度の確定保険料を精算する場合、その確定保険料は、対応する前年度の事業年度の損金として処理されます。

もし期末時点で未払いの労働保険料がある場合でも、その納付義務が確定していると認められる場合には、「未払費用」として計上し、当期の損金とすることも可能です。このあたりの処理は税務上の解釈も絡むため、不明な点があれば税理士などの専門家に相談することが賢明です。

会社負担と折半?労働保険料の負担割合

労災保険料は全額事業主負担

労働保険料の中でも、労災保険料は全額が事業主の負担となります。これは、労災保険が「業務上の災害や通勤中の事故」によって労働者が負傷したり、病気になったりした場合の補償を目的としているためです。

労働災害の発生は、企業の安全管理体制や作業環境に直接起因するという考え方に基づき、そのリスクに対する責任は事業主が負うべきとされています。そのため、従業員が労災保険料を負担することはありません。

労災保険率は、事業の種類によって大きく異なります。例えば、事務職の多い事業所と、危険を伴う建設現場や製造工場では、労働災害のリスクが異なるため、保険料率もそれに合わせて設定されています。この料率は、過去の労働災害発生状況を基に、約3年ごとに見直しが行われます。

実際に、令和6年度の労災保険率は改定されており、多くの業種で引き下げが見られましたが、一部の業種では引き上げられたケースもあります。自社の業種に応じた最新の労災保険率を確認し、正確な保険料を計算することが重要です。

雇用保険料は事業主と労働者で分担

一方で、雇用保険料は事業主と労働者とで負担を分担する形が取られています。雇用保険は、失業給付や育児休業給付など、労働者の生活と雇用の安定を図るための制度です。そのため、その恩恵を享受する労働者自身も一部を負担することが求められています。

雇用保険料率は、さらに「失業等給付等の保険料率」と「雇用保険二事業の保険料率」に分かれます。

  • 失業等給付等の保険料率: 労働者と事業主が共に負担します。一般の事業では、労働者負担が6/1,000、事業主負担が6/1,000となっています。
  • 雇用保険二事業の保険料率: これは事業主のみが負担します。一般の事業では、3.5/1,000となります。

結果として、一般の事業における雇用保険料率は、労働者が6/1,000、事業主が9.5/1,000(6/1,000 + 3.5/1,000)となり、合計で15.5/1,000となります。

令和6年度の雇用保険料率は、令和5年度から変更はありませんが、今後社会情勢の変化に応じて見直しが行われる可能性もあります。毎年の料率変更には常に注意を払い、適切な徴収と納付を行うことが企業には求められます。

令和6年度の最新保険料率と変動傾向

労働保険料率は、経済状況や労働災害の発生状況に応じて定期的に見直されます。特に、令和6年度は労災保険率の改定が行われました。

労災保険率は、平成30年以来となる改定で、過去3年間の労働災害の発生率に基づいて約3年ごとに見直しが行われます。今回の改定では、多くの業種で料率が引き下げられる傾向が見られましたが、一部の業種では引き上げられたケースもあります。

これは、各業種における安全対策の進捗状況や労働災害の発生件数の増減が直接反映された結果と言えるでしょう。例えば、製造業の一部で安全対策が強化された結果、料率が引き下げられる一方で、特定のサービス業で災害が増加したため料率が引き上げられる、といった具体例が考えられます。

一方、雇用保険料率は、令和5年度から変更はなく、一般の事業における失業等給付等の保険料率は労働者・事業主ともに6/1,000、雇用保険二事業の保険料率は事業主のみ負担で3.5/1,000で据え置かれています。

企業としては、自社の業種に適用される最新の労災保険率を厚生労働省のウェブサイトなどで必ず確認し、正確な保険料計算に反映させることが不可欠です。適切な保険料率の適用は、コスト管理だけでなく、コンプライアンス遵守の観点からも非常に重要となります。

労働保険料の決算仕訳と申告のポイント

法人における労働保険料の仕訳例

法人における労働保険料の会計処理は、概算保険料の納付時と確定保険料の精算時で仕訳が異なります。正確な仕訳を行うことで、適切な財務状況の把握と税務申告が可能になります。

【概算保険料の納付時】
概算保険料を納付した時点では、まだ正確な費用が確定していないため、会社負担分は「前払費用」として計上し、従業員負担分は会社が立て替える形になるため「立替金」として処理します。
例えば、概算保険料100,000円(会社負担70,000円、従業員負担30,000円)を普通預金から納付した場合:

借方 金額 貸方 金額
前払費用 70,000 普通預金 100,000
立替金 30,000

【確定保険料の精算時】
年度更新で確定保険料が算出された際、会社負担分は「法定福利費」として費用計上し、従業員負担分は既に給与から控除しているため「預り金」として処理します。
例えば、確定保険料が95,000円(会社負担65,000円、従業員負担30,000円)で、概算保険料から5,000円が還付された場合:

借方 金額 貸方 金額
法定福利費 65,000 前払費用 70,000
預り金 30,000 立替金 30,000
普通預金 5,000

これにより、前払費用と立替金が精算され、最終的な費用が法定福利費として計上されます。過不足金が発生した場合は、その差額を預貯金で調整します。

個人事業主における仕訳と注意点

個人事業主の場合も、従業員を雇用している場合は法人と同様に労働保険料の支払い義務が生じます。基本的な仕訳は法人と類似しますが、特に事業主自身の保険料については注意が必要です。

【従業員を雇用している場合】
従業員を雇用している個人事業主の場合、従業員分の労働保険料(会社負担分)は「法定福利費」として経費計上が可能です。従業員負担分を一時的に立て替えた場合は「立替金」として計上し、給与から控除した際に精算します。

借方 金額 貸方 金額
法定福利費 XX,XXX 普通預金 YY,YYY
立替金 XX,XXX

【一人親方などの場合】
個人事業主自身が加入する労災保険の特別加入保険料や、雇用保険に準じる自営業者向けの保険料などは、原則として「事業主貸」として処理します。

これは、事業主自身の保険料が事業所得の計算上、経費として認められないためです。事業主貸は、事業用の資金を事業主個人の生活費などに充てた場合に使う勘定科目であり、事業の費用とは区別されます。
例えば、事業主自身の特別加入保険料を普通預金から支払った場合:

借方 金額 貸方 金額
事業主貸 XX,XXX 普通預金 XX,XXX

個人事業主は、法人と異なり事業主と事業の区別が曖昧になりがちですが、税務上は明確に区分して処理することが非常に重要です。

年度更新と申告・納付のスケジュール

労働保険料の申告と納付は、毎年行われる「年度更新」と呼ばれる手続きを通じて実施されます。この手続きは、企業の正確なコスト管理とコンプライアンス遵守のために非常に重要なポイントとなります。

労働保険の保険年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までと定められています。そして、この保険年度に対応する概算保険料の申告・納付は、原則として毎年6月1日から7月10日までの間に行う必要があります。

年度更新では、前年度(4月1日~3月31日)に実際に支払った賃金総額に基づいて確定保険料を算出し、前年度に納付した概算保険料との差額を精算します。
もし概算保険料が確定保険料よりも少なければ追加で納付し、多ければ還付されるか、次年度の概算保険料に充当されます。

また、同時に新年度(4月1日~翌年3月31日)の見込み賃金総額に基づく概算保険料を申告し、納付することになります。

この一連の手続きを毎年期限内に正確に行うことで、過料や延滞金の発生を防ぎ、適正な経費計上と税務処理を実現することができます。期限を過ぎてしまうとペナルティが発生する可能性があるため、スケジュールの管理を徹底しましょう。

労働保険料と消費税の関係性

労働保険料は消費税の非課税取引

労働保険料の会計処理において、非常に重要なポイントの一つが「消費税の取り扱い」です。結論から言うと、労働保険料は消費税の課税対象ではありません。つまり、消費税は非課税取引として扱われます。

消費税法では、社会保険料や印紙税、住民票の発行手数料など、特定の取引が「非課税取引」として定められています。労働保険料もこれに該当するため、保険料の支払いに対して消費税が発生することはありません。

したがって、労働保険料を支払う際に、会社は消費税を上乗せして支払うことも、また支払った保険料に含まれる消費税額を仕入れ税額控除として申告することもできません。

この点を誤って処理してしまうと、消費税の納税額に誤りが生じ、税務調査などで指摘を受ける可能性があるので、正確な理解と適切な会計処理が不可欠です。

仕訳時の消費税区分に注意

労働保険料が非課税取引であるという特性は、会計ソフトへの入力や手書きの仕訳作成時に特に注意が必要です。

多くの会計ソフトでは、仕訳を入力する際に消費税の区分を選択する項目があります。「課税仕入れ」「非課税仕入れ」「不課税取引」など、様々な選択肢の中から、労働保険料については必ず「非課税仕入れ」または「不課税取引」(課税対象外)を選択するようにしましょう。

誤って「課税仕入れ」として処理してしまうと、消費税額を過大に認識してしまい、本来控除できない仕入れ税額控除を適用してしまうことになります。

これは、結果として消費税の納税額を過少申告することにつながり、税務調査で修正申告を求められるだけでなく、延滞税や過少申告加算税といったペナルティが課されるリスクがあります。

日々の経理業務で、労働保険料のような非課税取引と課税取引を明確に区別し、常に正しい消費税区分で仕訳を行う習慣をつけることが重要です。

他の社会保険料との共通点と違い

労働保険料が消費税の非課税取引であるという点は、他の社会保険料にも共通する性質です。

例えば、従業員の健康保険料や厚生年金保険料、介護保険料なども、労働保険料と同様に消費税は非課税とされています。これらの社会保険料は、国の社会保障制度を支えるためのものであり、消費活動にかかる税金である消費税の課税対象とはならないためです。

このように、社会保険料全般にわたって消費税が非課税であるという共通のルールを理解しておくことは、経理担当者にとって非常に役立ちます。

給与計算や年末調整、確定申告の際など、様々な場面で社会保険料の取り扱いを正しく理解していれば、誤った処理を防ぎ、スムーズな業務遂行につながります。

ただし、税金や保険料の中には、印紙税のように非課税とされるものもあれば、自動車税のように消費税がかからないものの、経費として計上できるものなど、それぞれ異なる取り扱いがあります。迷った際は、その都度税務署や専門家、または正確な情報源で確認する習慣を身につけることが大切です。