概要: 労働保険料の計算において、二元適用事業の区分は重要です。本記事では、末尾コードやアスベスト・一般拠出金の意味、そして最新年度の更新手続きについて解説します。
労働保険料の基礎知識:二元適用事業と年度更新のポイント
労働保険料の計算と申告は、企業の義務でありながら、その複雑さから多くの担当者様を悩ませる手続きの一つです。
特に「二元適用事業」に該当する場合や、毎年の「年度更新」では、様々な注意点が存在します。
本記事では、2025年度の労働保険年度更新手続きに関する最新情報に加え、二元適用事業の基本、そして手続きを効率化し、ペナルティを避けるためのポイントを解説します。
正確な理解と適切な対応で、スムーズな労働保険料の申告・納付を目指しましょう。
二元適用事業とは?徴収方法の基本
一元適用事業との違いを理解する
労働保険には、大きく分けて「一元適用事業」と「二元適用事業」の2種類があります。
一元適用事業とは、労災保険と雇用保険の保険関係を一つとして取り扱い、保険料の申告・納付をまとめて行う事業所のことを指します。
一般的な事務所や店舗を構える企業や製造業の多くは、この一元適用事業に該当します。
一方、二元適用事業とは、事業の性質上、労災保険と雇用保険の適用を分けて管理する必要がある特定の事業を指します。
これらの事業では、保険関係を別々に成立させ、それぞれの保険料を個別に計算し、申告・納付を行わなければなりません。
この違いを理解することが、適切な労働保険料の取り扱いへの第一歩となります。
二元適用事業に該当する業種
二元適用事業に該当するのは、主に以下の業種です。
- 農林水産の事業
- 建設の事業(土木・建築、その他工作物の建設・改造・保存・修理・変更・破壊・解体工事)
- 港湾労働の事業(港湾における貨物の運送取り扱い事業)
これらの事業では、労働災害のリスクや雇用形態が一般的な事業とは異なる特性を持つため、労災保険と雇用保険を分けて適用する必要があるのです。
例えば、建設現場で働く労働者は、現場ごとに雇用関係が変動する場合がありますし、労災リスクも高くなります。
年度更新の際には、送付される申告書も労災保険用(緑色の封筒)と雇用保険用(青色の封筒)で色分けされていることが多く、その違いから自身の事業が二元適用であると気づくケースもあります。
徴収方法と申告の注意点
二元適用事業の場合、労災保険と雇用保険の徴収方法は完全に独立しています。
つまり、賃金集計もそれぞれの保険適用に合わせて行い、保険料の計算も別々に行う必要があります。
例えば、建設事業では元請けと下請けで労災保険の取り扱いが異なるため、この区別が特に重要になります。
年度更新手続きにおいても、労災保険分の申告書と雇用保険分の申告書をそれぞれ作成し、提出しなければなりません。
もし誤って一括で申告してしまったり、片方しか申告しなかったりすると、手続きの不備や過少申告とみなされ、是正勧告や追徴金の対象となる可能性があります。
自身の事業が二元適用事業に該当するかどうか不明な場合は、管轄の都道府県労働局や労働基準監督署、または専門家である社会保険労務士に相談し、正確な情報を確認することが重要です。
末尾コード5・6(7)の区別とアスベスト・一般拠出金
労働保険番号の「末尾コード」とは
労働保険番号は、各事業所を特定するための14桁の重要な番号です。
「都道府県コード(2桁)-管轄コード(1桁)-事業の種類コード(4桁)-枝番(6桁)-末尾コード(1桁)」で構成されています。
このうち、最も右端の1桁の「末尾コード」は、その事業所の労働保険の適用状況や事業形態の特殊性を示します。
例えば、一元適用事業の多くは末尾コードが「0」となりますが、特定の事業や特別加入の適用を受けている場合などには、異なるコードが割り当てられます。
この末尾コードを正しく理解することは、適切な保険料計算と申告を行う上で非常に重要です。
末尾コード5・6(7)が示す特別な事業
末尾コードの中でも、特に注意が必要なのが「5」「6」「7」です。
- 末尾コード「5」:主に建設事業の元請事業所に割り当てられます。
建設事業は「請負事業の一括」という制度があり、元請事業が下請け事業も含めた労災保険関係を一括して成立させます。 - 末尾コード「6」:建設事業の下請事業所に割り当てられます。
下請事業は、元請け事業が保険関係を一括しているため、原則として労災保険料を直接納付することはありません。 - 末尾コード「7」:事業主の特別加入や海外派遣者の特別加入など、特定の理由で通常の労働者以外が労災保険に特別加入している場合に割り当てられます。
これは、本来労災保険の適用対象外である事業主等が、任意で労災保険の保護を受けるための制度です。
これらのコードは、労災保険の計算方法や申告様式に大きな影響を与えるため、ご自身の労働保険番号の末尾コードを必ず確認し、それに合った手続きを行う必要があります。
アスベスト対策と一般拠出金
労働保険料の年度更新では、労災保険料や雇用保険料だけでなく、「一般拠出金」の申告・納付も行います。
この一般拠出金は、アスベスト(石綿)による健康被害を受けた方々を救済するための「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づいて徴収されるもので、労災保険とは別の目的を持つ公的な負担金です。
一般拠出金は、すべての事業主が対象となり、その計算方法は「賃金総額 × 拠出金率」で算出されます。
拠出金率は年度ごとに見直される可能性がありますが、労災保険料と同様に、前年度の賃金総額に基づいて計算し、年度更新時に一括で申告・納付します。
企業がアスベストによる健康被害救済に貢献するための重要な制度であり、忘れずに手続きを行うようにしましょう。
年度更新における注意点:令和6年度・7年度の申告
年度更新の基本と申告期間
労働保険年度更新とは、毎年6月1日から7月10日までの期間内に、前年度(4月1日~3月31日)の労働保険料(労災保険料・雇用保険料)の確定と、今年度(4月1日~翌年3月31日)の概算保険料の申告・納付を行う手続きです。
従業員を一人でも雇用している事業所は、法人・個人事業主問わず、この手続きを行う義務があります。
この手続きでは、まず過去1年間に実際に支払った賃金総額をもとに「確定保険料」を計算し、既に納めた概算保険料との差額を精算します。
同時に、これから始まる1年間で見込まれる賃金総額から「概算保険料」を算出し、前払いとして納付します。
期日を過ぎてしまうと、追徴金や延滞金が発生する可能性があるため、期間内の正確な申告・納付が不可欠です。
2025年度(令和7年度)の主要な変更点
2025年度(令和7年度)の労働保険料率には、以下の変更点があります。
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雇用保険料率の引き下げ:
2025年4月1日から2026年3月31日までの期間において、雇用保険料率が前年度から引き下げられました。
これにより、令和6年度(2024年度)の確定保険料計算と、令和7年度(2025年度)の概算保険料計算では、異なる料率を適用することになります。事業の種類 労働者負担 事業主負担 合計 一般の事業 0.55% 0.90% 1.45% 農林水産・清酒製造業 0.65% 1.00% 1.65% 建設業 0.65% 1.10% 1.75% -
労災保険率:
労災保険率は原則3年ごとに改定されますが、2024年度に改定済みのため、2025年度は変更がなく、2024年度と同率が適用されます。
ただし、事業の種類によって料率は大きく異なるため、自社の業種に合った料率を正確に確認してください。 -
特定フリーランス等に対する労災保険の特別加入:
新たに特定フリーランス事業者が労災保険の特別加入の対象に追加されました。
これにより、フリーランスとして働く方々も、仕事中の事故や災害に対してより手厚い保障を受けられるようになります。
正確な賃金集計と電子申請の活用
労働保険料の計算において最も重要なのは、賃金集計の正確性です。
前年度(4月1日~3月31日)に従業員へ支払われた賃金の総額が計算の基礎となりますが、ここには基本給、各種手当(残業手当、家族手当、住宅手当など)、賞与、通勤手当などが含まれます。
一方で、慶弔見舞金や退職金などは原則として含まれません。
毎月の給与計算を正確に行うことが、年度更新時のスムーズな賃金集計に直結します。
手続きの効率化には、電子申請の活用も有効です。
資本金1億円超の法人など、一定の要件を満たす企業は電子申請が義務付けられていますが、それ以外の企業にとってもメリットは大きいです。
窓口へ足を運ぶ手間が省け、入力チェック機能や自動計算機能があるため、ヒューマンエラーのリスクを減らすことができます。
また、保険料の納付を口座振替にすることで、手数料が不要となり、納付漏れも防止できるため、積極的に活用を検討しましょう。
労働保険料9416とは?確認方法と事例
労働保険番号「9416」が意味するもの
労働保険番号は、事業所ごとに付与される14桁の固有の番号であり、その中の「事業の種類コード(4桁)」は、事業の業種や性質を示します。
「9416」という事業の種類コードは、特に建設業の事業に割り当てられることが多い番号です。
具体的には、建設業の中でも「立木伐採の事業」「その他の建設事業」などに分類される場合にこのコードが使用されることがあります。
建設事業は、元請けと下請けが混在し、現場ごとに労働者が移動するなど、労災リスクや雇用形態が複雑なため、一般的な事業とは異なる特別な取り扱いが適用されます。
したがって、労働保険番号に「9416」が含まれる事業所は、建設事業特有の労災保険の計算方法や申告手続きに注意を払う必要があります。
この番号は、単なる識別子ではなく、貴社の事業の特性と、それに伴う労働保険上の義務や注意点を示す重要な手がかりとなります。
自身の労働保険番号を確認する方法
自身の事業所の労働保険番号を確認する方法はいくつかあります。
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労働保険料申告書:
毎年送付される労働保険料申告書の上部に記載されています。
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労働保険関係成立届:
事業開始時に提出した労働保険関係成立届の控えに記載されています。
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労働保険料領収済通知書:
労働保険料を納付した際の領収書にも記載されています。
これらの書類が見当たらない、または不明な点がある場合は、管轄の都道府県労働局、労働基準監督署、またはハローワークに問い合わせることで確認できます。
その際には、事業所の名称や所在地、代表者名などの基本情報を準備しておくとスムーズです。
特に、事業の種類コード(今回の場合は9416)と末尾コードが、現在の事業実態と合致しているかを定期的に確認することが重要です。
「9416」に関連する申告事例と注意点
労働保険番号に「9416」が含まれる建設事業の場合、年度更新における申告では、以下のような特殊な計算方法や注意点があります。
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請負金額に基づく労災保険料計算:
建設事業の労災保険料は、原則として賃金総額に労災保険率を乗じて算出しますが、賃金総額の把握が困難な場合には、請負金額に一定の労務費率を乗じて賃金総額を算出し、それに労災保険率を乗じて保険料を計算することがあります。
この労務費率は事業の種類や工事内容によって異なります。 -
工事ごとの賃金集計:
大規模な建設事業の場合、複数の工事現場が同時に稼働していることがよくあります。
それぞれの現場で働く労働者の賃金を正確に集計し、労災保険の対象となる賃金と雇用保険の対象となる賃金を区別する必要があります。 -
元請・下請関係の明確化:
建設事業は二元適用事業であり、元請けと下請けで労災保険の取り扱いが異なります。
自社が元請けなのか、それとも下請けなのかを明確にし、適切な申告を行うことが重要です。
誤って元請けが下請けの保険料を二重に申告したり、その逆の事態が発生しないよう注意が必要です。
「9416」の事業所は、これらの特殊性を理解し、正確な申告を行うために、必要に応じて労働保険事務組合や社会保険労務士などの専門家の助言を求めることを強くお勧めします。
労働保険料を正しく計算し、ペナルティを避けるために
正確な賃金集計が成功の鍵
労働保険料の計算において、最も基本でありながら最も重要なのが、賃金総額の正確な集計です。
年度更新は、前年度(4月1日~3月31日)に支払われた全ての賃金を対象とします。
この「賃金」には、基本給はもちろんのこと、時間外手当、通勤手当、家族手当、住宅手当、役職手当、そして賞与など、労働の対価として支払われたものがすべて含まれます。
しかし、結婚祝い金や出産祝い金などの慶弔見舞金、退職金、出張旅費の精算金などは、原則として賃金には含まれません。
これらの違いを正しく理解し、毎月の給与計算の段階から正確な賃金区分を行うことが、年度更新時の集計作業を大幅に簡素化し、ミスを防ぐことにつながります。
日頃からの給与計算の正確性が、年度更新の成功を左右すると言っても過言ではありません。
電子申請と口座振替で効率化
労働保険料の申告・納付手続きは、年々効率化が進んでいます。
その代表例が電子申請と口座振替の活用です。
資本金1億円超の法人など、特定の要件を満たす企業では電子申請が義務化されていますが、それ以外の企業にとっても、電子申請は多くのメリットをもたらします。
- 時間短縮:窓口へ赴く必要がなく、24時間いつでも申告が可能です。
- ミス防止:入力チェック機能や自動計算機能により、計算ミスや記入漏れのリスクを軽減できます。
- ペーパーレス化:書類作成の手間や保管スペースを削減できます。
また、保険料の納付を口座振替にすることで、納付忘れを防ぎ、金融機関窓口での手続き時間や振込手数料も不要となります。
概算保険料額が40万円以上の場合(または労働保険事務組合に委託している場合)は、概算保険料の分割納付(延納)も可能となり、資金繰りの負担を軽減できます。
これらの便利なツールを積極的に活用し、手続きの効率化を図りましょう。
事前の情報確認と専門家への相談
年度更新をスムーズに進めるためには、事前の情報確認が非常に重要です。
毎年送付される申告書に記載されている労働保険番号、保険料率、事業所情報などが、自社で管理している情報と一致しているかを必ず確認してください。
もし相違がある場合は、速やかに管轄の都道府県労働局に問い合わせる必要があります。
労働保険料の計算や申告は、法令の改正や事業所の状況によって複雑になることがあります。
不明点や疑問点が生じた際には、自己判断せずに、管轄の労働基準監督署やハローワーク、または社会保険労務士などの専門家へ相談することをお勧めします。
過少申告や未申告は、追徴金や延滞金といったペナルティの対象となるだけでなく、企業の信頼を損ねる可能性もあります。
正確な知識と適切な手続きで、法令遵守と円滑な事業運営を実現しましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 労働保険料の二元適用事業とは具体的にどのような場合を指しますか?
A: 農林水産業、建設業、林業、水産業など、事業の種類によって保険料の徴収方法が異なる事業を指します。事業所ごとに適用が分かれるため、「二元適用事業」と呼ばれます。
Q: 労働保険料の末尾コード5と6(7)は何が違うのですか?
A: 末尾コード5は、建設業で「事業主都合」、末尾コード6(7)は、建設業で「事業主負担」の保険料徴収方法を示しています。これにより、保険料の算出方法が変わります。
Q: アスベスト拠出金や一般拠出金とは何ですか?
A: アスベスト拠出金は、石綿(アスベスト)による健康被害の補償等に関する法律に基づき、アスベスト含有建材の除去等に要する費用に充てるために徴収されるものです。一般拠出金は、労働保険料の計算基礎額に応じて徴収されるものです。
Q: 令和6年度(2024年度)と令和7年度(2025年度)の労働保険料更新で特に注意すべき点は?
A: 毎年度、保険料率の改定や法令の変更があるため、最新の情報を確認することが重要です。特に、料率改定の有無、申告書の様式変更、提出期限などを事前に把握しておく必要があります。
Q: 労働保険料9416とはどのような意味ですか?
A: 労働保険料9416は、一般的に、労災保険料の「料率」や「計算方法」に関連する内部的なコードや分類を指す可能性があります。具体的な文脈によって意味合いが異なるため、所属する労働局や労働基準監督署、または社労士にご確認ください。
