概要: 労働保険料の年度更新は、事業主にとって重要な手続きです。本記事では、申告書の記入方法や提出期限、ダウンロード方法、さらに間違えてしまった場合の対処法まで、網羅的に解説します。電子申告についても触れ、手続きをスムーズに進めるための情報を提供します。
労働保険料 年度更新を徹底解説!申告書の書き方から提出まで
従業員を雇用するすべての事業主にとって、年に一度必ず訪れる重要な手続きが「労働保険料の年度更新」です。
前年度の労働保険料を確定させ、新年度の概算保険料を申告・納付するこの手続きは、企業の法令遵守において欠かせません。
本記事では、2025年度の最新情報に基づき、労働保険料の年度更新について、その基本的な仕組みから申告書の具体的な書き方、提出方法、さらには電子申告の活用術まで、徹底的に解説します。
初めての方も、毎年の手続きに慣れている方も、ぜひこの記事を参考にスムーズな年度更新を目指しましょう。
労働保険料 年度更新とは?知っておきたい基本
年度更新の基本と対象事業所
労働保険料の年度更新とは、労働保険(労災保険・雇用保険)について、前年度(毎年4月1日から翌年3月31日まで)に実際に支払った賃金総額に基づいて確定保険料を精算し、同時に新年度(今年4月1日から翌年3月31日まで)に支払う予定の賃金総額を基に概算保険料を算出して申告・納付する手続きです。
これは、従業員を1人でも雇用しているすべての事業主に法律で義務付けられています。
労働保険は、働く人々の安全や生活を保障するための重要な制度であり、その財源となる保険料を正しく申告・納付することは事業主の責任です。
保険料計算の基礎となる「賃金」には、基本給はもちろん、残業手当、役職手当、家族手当、賞与、通勤手当などが含まれます。
一方で、慶弔見舞金や退職金などは原則として賃金には含まれないため、集計時には注意が必要です。
この手続きを怠ると、追徴金が課されたり、最悪の場合、政府による職権での保険料決定が行われたりする可能性もあります。
企業経営の健全性を保つためにも、年度更新の重要性を理解し、適切に手続きを進めることが求められます。
手続きの期間と主な目的
労働保険料の年度更新手続きは、毎年6月1日から7月10日までの期間に行われます。
この約1ヶ月間が、事業主が前年度の確定保険料を清算し、新年度の概算保険料を申告・納付するための期間となります。
主な目的は以下の二点です。
- 前年度の確定保険料の精算: 前年度の概算保険料と、実際に支払った賃金に基づいて計算した確定保険料との差額を精算します。概算保険料が確定保険料より少なかった場合は不足額を納付し、多かった場合は翌年度の保険料に充当するか、還付を受けます。
- 新年度の概算保険料の申告・納付: 新年度に支払う予定の賃金総額を見込み、その賃金に保険料率を掛けて概算保険料を算出し、これを申告・納付します。これにより、新年度の労働保険制度が円滑に運営されます。
手続きの流れは、まず5月下旬から6月上旬にかけて労働局から郵送される申告書類を確認するところから始まります。
その後、前年度の賃金集計、確定・概算保険料の算出、申告書の作成、そして申告書の提出と保険料の納付へと進みます。
計画的に準備を進めることで、手続き期間内のスムーズな完了が可能になります。
2025年度の主な変更点と注意点
2025年度の労働保険料年度更新においては、いくつかの重要な変更点や特に注意すべき事項があります。
これらを事前に把握しておくことで、スムーズな手続きに繋がります。
- 雇用保険料率の引き下げ: 2025年度(2025年4月~2026年3月)は、前年度から雇用保険料率が引き下げられました。これは、保険料負担が軽減される良いニュースですが、計算時には必ず最新の料率を適用するように注意してください。
- 特定フリーランス事業者の特別加入: 新たに特定フリーランス事業者が労災保険の特別加入の対象に追加されました。これにより、フリーランスとして働く方々のセーフティネットが拡充されますが、事業主側も関連する情報に留意が必要です。
- 電子申請の義務化対象拡大: 資本金1億円超の法人については、労働保険の電子申請が義務付けられています。対象となる事業所は、システムの準備や電子証明書の取得など、早めの対応が求められます。電子申請は入力チェックや自動計算機能があり、手続きの効率化に繋がります。
- 期限厳守の重要性: 手続きの遅れは、延滞金や加算金といった追徴金が発生する原因となります。毎年6月1日から7月10日という提出期限は厳守し、余裕を持って準備に取り掛かりましょう。
- 賃金集計の基準日: 賃金集計は「支払日」ではなく、「賃金締切日(支払い確定日)」を基準に行う点に注意が必要です。これにより、会計年度と労働保険年度のズレによる混乱を防ぎます。
- 申告書の様式: 事業の種類(継続事業、雇用保険のみの事業、一括有期事業など)によって申告書の様式が異なります。自社の事業形態に合った正しい様式を使用しているか、郵送されてきた書類をよく確認してください。
これらの変更点や注意点を踏まえることで、より正確かつ円滑な年度更新手続きが可能となります。
労働保険料 申告書 記入例で理解を深める
申告書作成前の準備と賃金集計のポイント
労働保険料の申告書作成に取り掛かる前に、最も重要となるのが正確な賃金集計です。
前年度(毎年4月1日から翌年3月31日)に労働者に支払った賃金総額を間違いなく算出することが、正確な保険料計算の第一歩となります。
準備すべき主な資料は以下の通りです。
- 労働局から郵送される「労働保険 概算・確定保険料申告書」
- 賃金台帳
- 出勤簿
- 給与明細控
- 賞与支払報告書
賃金集計におけるポイントは以下の通りです。
- 対象期間: 必ず4月1日から翌年3月31日までの1年間です。会計年度とは異なる場合があるため注意しましょう。
- 含める賃金: 基本給、各種手当(残業手当、通勤手当、扶養手当など)、賞与が含まれます。
- 含めない賃金: 慶弔見舞金、退職金、出張旅費など、労働の対価ではないものは含めません。
- 支払日ではなく締切日: 賃金集計は支払日ではなく、賃金締切日を基準に行います。例えば、3月分の給与を4月に支払う場合でも、3月締めの賃金として集計します。
厚生労働省が提供しているExcel形式の賃金集計支援ツールなどを活用すると、複雑な集計作業を効率的かつ正確に行うことができます。
日頃から賃金台帳などをきちんと整備しておくことが、年度更新時の負担軽減に繋がります。
確定保険料と概算保険料の計算方法
賃金総額の集計が終わったら、次は各保険料の計算です。
労働保険料は、「労災保険料」と「雇用保険料」、そして「一般拠出金」の3つの要素から構成されます。
具体的な計算方法は以下の通りです。
- 労災保険料率:
- 業種や事業の危険度に応じて定められており、1,000分の2.5から1,000分の88まで幅があります。
- 全額事業主負担です。
- 計算式: 賃金総額 × 労災保険料率
- 雇用保険料率:
- 毎年4月1日に見直されます。2025年度は前年度から引き下げられました。
- 労働者と事業主が一定の割合で負担します。
- 計算式: 賃金総額 × 雇用保険料率 (事業主負担分) + 賃金総額 × 雇用保険料率 (労働者負担分)
- 例:一般の事業で賃金総額1億円、2025年度の雇用保険料率(仮)が労働者負担0.55%、事業主負担0.9%の場合
- 労働者負担: 1億円 × 0.55% = 55万円
- 事業主負担: 1億円 × 0.9% = 90万円
- 合計雇用保険料: 145万円
- 一般拠出金:
- 石綿(アスベスト)健康被害の救済を目的としたもので、すべての労災保険適用事業者に支払い義務があります。
- 業種を問わず「1000分の0.02」の料率です。
- 全額事業主負担です。
- 計算式: 賃金総額 × 1000分の0.02
これらの計算で、前年度の確定保険料と新年度の概算保険料をそれぞれ算出します。
特に概算保険料は、前年度の賃金総額や保険料率を参考に、合理的な見込みを立てることが重要です。
記入例で見る申告書の具体例
「労働保険 概算・確定保険料申告書」の記入は、正確な計算結果を反映させることが重要です。
ここでは、架空の事例をもとに主要な記入項目について解説します。
申告書は主に、前年度の確定保険料に関する項目と、新年度の概算保険料に関する項目、そしてそれらの精算に関する項目で構成されています。
【記入例のポイント】
- 前年度の確定賃金総額(期間: 4/1~3/31):
- 前述の賃金集計で算出した賃金総額を記入します。例: 8,000万円
- 前年度の確定保険料:
- 確定賃金総額に労災保険料率、雇用保険料率(事業主負担分)、一般拠出金率をそれぞれ掛けて算出した合計額を記入します。
- 例: 労災保険料率1,000分の3(0.3%)、雇用保険料率0.9%、一般拠出金率1,000分の0.02の場合
- 労災保険料: 8,000万円 × 0.3% = 24万円
- 雇用保険料(事業主負担): 8,000万円 × 0.9% = 72万円
- 一般拠出金: 8,000万円 × 0.002% = 0.16万円
- 確定保険料合計: 24万 + 72万 + 0.16万 = 96.16万円
- 前年度の概算保険料(既に納付した額):
- 前年度に概算として納付した保険料の合計額を記入します。例: 95万円
- 差引過不足額:
- 「前年度の確定保険料」と「前年度の概算保険料」との差額を記入します。
- 不足額(確定が概算より多い)は追加納付、過剰額(確定が概算より少ない)は還付または充当となります。
- 例: 96.16万円 – 95万円 = 1.16万円 (不足額)
- 新年度の概算賃金総額(期間: 4/1~3/31):
- 新年度に見込まれる賃金総額を記入します。前年度実績を参考に、人員増減や昇給などを加味して予測します。例: 8,200万円
- 新年度の概算保険料:
- 新年度の概算賃金総額に最新の料率を掛けて算出します。例: 8,200万円 × (0.3% + 0.9% + 0.002%) = 98.464万円
- 今回納付する額:
- 新年度の概算保険料に前年度の不足額を加算するか、過剰額を差し引いて、今回実際に納付する金額を記入します。
- 例: 98.464万円 (新年度概算) + 1.16万円 (前年度不足額) = 99.624万円
申告書の各欄には、計算によって導き出された正確な数値を丁寧に記入し、計算ミスがないか最終確認を行うことが非常に重要です。
特に、概算保険料は分割納付が可能な場合もあり、その選択によって納付欄が変わることもありますので、厚生労働省の公式資料や記入例をよく参照しましょう。
労働保険料 申告書 ダウンロードと提出先・期限
申告書の入手方法と種類
労働保険料の申告書は、主に以下の方法で入手できます。
- 郵送: 毎年5月下旬から6月上旬にかけて、管轄の労働局から事業所へ「労働保険 概算・確定保険料申告書」などの書類一式が郵送されます。これが最も一般的な入手方法です。
- 厚生労働省ウェブサイトからのダウンロード: 郵送された書類を紛失した場合や、複数部必要な場合、あるいは電子申請を希望しない場合でも、厚生労働省のウェブサイトから最新の申告書様式をダウンロードして印刷することができます。
- 電子申請システム(e-Gov): 電子申請を行う場合は、e-Govのシステム内で直接入力・作成するため、別途申告書をダウンロードする必要はありません。
また、申告書には事業の種類によっていくつかの様式があります。
- 継続事業用: ほとんどの一般的な事業所が使用する様式です。労災保険と雇用保険の両方が適用される事業所向けです。
- 雇用保険用: 農業、林業、漁業などで労災保険が任意適用となっているものの、雇用保険は強制適用となっている事業所が使用します。
- 一括有期事業用: 建設事業や立木伐採事業など、複数の有期事業を一括して申告する事業所が使用します。
郵送されてくる書類は、基本的に自社の事業形態に合ったものが送られてきますが、念のため内容を確認し、もし異なる様式が必要な場合は、労働局へ問い合わせるか、ウェブサイトから正しい様式をダウンロードするようにしましょう。
提出先と提出期限の確認
労働保険料の申告書は、適切な場所に、定められた期間内に提出することが非常に重要です。
【提出先】
申告書の提出先は、以下のいずれかになります。
- 管轄の労働局
- 管轄の労働基準監督署
- 金融機関(日本銀行本支店、日本銀行歳入代理店、郵便局など)の社会保険・労働保険徴収窓口
一般的には、郵送された申告書に同封されている返信用封筒を利用して労働局へ郵送するか、窓口へ持参する形が取られます。
金融機関の窓口でも提出・納付が同時に可能ですが、一部の金融機関では取り扱っていない場合もあるため、事前に確認しておくと安心です。
【提出期限】
労働保険料の年度更新の提出期限は、毎年6月1日から7月10日までと定められています。
この期間を過ぎてしまうと、遅延金や追徴金の対象となる可能性があるため、期限厳守が求められます。
提出方法は、以下の3つから選択できます。
- 窓口持参: 最寄りの労働局、労働基準監督署、または金融機関の窓口に直接提出します。不明な点があればその場で質問できるメリットがあります。
- 郵送: 郵送された申告書に同封されている返信用封筒を利用して送付します。記録が残る特定記録郵便や簡易書留での送付が推奨されます。
- 電子申請: e-Gov(電子政府の総合窓口)を利用してインターネット経由で提出します。後述する電子申請のメリットを享受できます。
いずれの方法を選択するにしても、書類の不備がないか、計算ミスがないかなどを最終確認し、余裕を持って提出しましょう。
保険料の納付方法と効率化のヒント
申告書の提出と同時に、または期日までに保険料を納付する必要があります。
納付方法も複数あり、自社にとって最も効率的な方法を選択することが大切です。
【保険料の納付方法】
- 金融機関の窓口: 最も一般的な方法です。申告書に同封されている納付書を使用して、日本銀行の本支店、日本銀行歳入代理店、郵便局などの金融機関窓口で現金納付します。
- 口座振替: 事前に口座振替依頼書を提出しておくことで、指定された口座から自動的に引き落としが行われます。手数料が不要であり、納付忘れを防ぐことができるため、最も推奨される方法の一つです。
- 電子納付: e-Govを通じて電子申請を行った場合や、Pay-easy(ペイジー)に対応している金融機関のインターネットバンキングを利用して電子的に納付する方法です。24時間いつでも納付が可能で、窓口に行く手間が省けます。
【効率化のヒント】
- 口座振替の活用: 納付忘れのリスクを回避し、手数料もかからないため、非常に効率的です。まだ口座振替を利用していない場合は、検討してみましょう。
- 分割納付制度の活用: 概算保険料額が40万円(または労災保険と雇用保険のどちらか一方のみの場合は20万円)以上の場合、申請により3回に分けて分割納付することができます。これにより、一度の資金負担を軽減できます。
- 労務管理システム・給与計算システムの連携: これらのシステムを導入している場合、労働保険料の計算から申告書の作成、さらには電子申請までをスムーズに行える機能が搭載されていることがあります。システム連携により、手作業によるミスを減らし、大幅な業務効率化が期待できます。
- 社会保険労務士への委託: 複雑な計算や手続きに不安がある場合、専門家である社会保険労務士に依頼することも一つの選択肢です。正確性の確保と、担当者の負担軽減に繋がります。
これらの方法をうまく組み合わせることで、年度更新作業をよりスマートに進めることが可能になります。
労働保険料 申告書 保存期間と間違えた時の対処法
申告書の保存義務と期間
労働保険料の申告書や関連書類は、手続きが完了した後も適切に保存しておく義務があります。
これは、将来的な監査や確認、あるいは事業主自身が過去の記録を参照する必要が生じた際に、迅速に対応できるようにするためです。
具体的な保存義務については、労働基準法や労働保険徴収法などの法令で定められています。
- 労働基準法: 賃金台帳、労働者名簿、雇入れ・解雇・災害補償に関する記録などの重要書類は、3年間の保存が義務付けられています。
- 労働保険徴収法: 労働保険に関する書類の具体的な保存期間は明記されていませんが、賃金台帳や給与計算に関する書類との関連が深いため、同様に3年間の保存が一般的とされています。
保存対象となる書類には、申告書本体の控えはもちろんのこと、賃金集計に使用した資料(賃金台帳、給与明細控、賞与支払報告書など)、保険料の領収書や振替済通知書などが含まれます。
これらの書類は、税務調査や労働基準監督署の調査の際に提示を求められることがあります。
保存方法としては、紙媒体での保管に加え、電子データとしての保管も認められています。
電子帳簿保存法に則った形で電子的に保存することで、物理的なスペースの削減や検索性の向上といったメリットを享受できます。
ただし、電子保存を行う場合は、データの改ざん防止措置や真正性の確保、可視性の維持など、所定の要件を満たす必要があります。
申告内容を間違えた場合の訂正方法
年度更新の申告書は複雑な計算を伴うため、誤って申告してしまう可能性もゼロではありません。
万が一、申告内容に間違いがあった場合は、速やかに訂正手続きを行う必要があります。
主な訂正方法は以下の通りです。
- 訂正申告書の提出: 申告内容に誤りがあったことが判明した場合は、所定の「訂正申告書」を作成し、管轄の労働局または労働基準監督署に提出します。この際、なぜ間違いが生じたのか、正しい数値は何かを明確に説明する必要があります。
- 過少申告の場合: 実際の確定保険料よりも少なく申告してしまっていた場合は、不足額を追加で納付する必要があります。追加納付の際には、延滞金や加算金が課される場合があるため、発覚次第、速やかに対応することが重要です。
- 過大申告の場合: 実際の確定保険料よりも多く申告してしまっていた場合は、過払い分を還付請求するか、翌年度の概算保険料に充当することができます。過払いであっても、速やかに訂正申告を行うことで、スムーズな精算が可能になります。
間違いの種類としては、賃金総額の集計ミス、保険料率の適用ミス、概算保険料の見積もり誤りなどが挙げられます。
特に、賃金総額の誤りは確定保険料と概算保険料の両方に影響を及ぼすため、慎重な確認が求められます。
訂正手続きは煩雑になることが多いため、当初の申告時に誤りがないよう、複数人での確認や専門家への相談を積極的に活用することをおすすめします。
不明な点があれば、労働局や社会保険労務士に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。
遅延や未提出による影響と対策
労働保険料の年度更新手続きを期限内に完了させなかったり、申告書を提出しなかったりした場合には、事業主にとって重大な不利益が生じる可能性があります。
【主な影響】
- 追徴金(延滞金・加算金)の発生: 期限までに保険料を納付しなかった場合、延滞金が課されます。また、申告内容に偽りがあったり、著しく過少な申告であったりした場合には、加算金が課されることもあります。これらの追徴金は、本来の保険料に加えて余計な費用負担となります。
- 政府による職権調査・決定: 申告書の提出がない場合や、提出された申告書の内容が著しく不正確であると判断された場合、政府(労働局)が職権で賃金総額や保険料額を調査し、決定することがあります。この場合、事業主の意図とは異なる高額な保険料が決定されるリスクがあります。
- 企業イメージの低下: 法令遵守を怠った企業として、社会的な信用を失う可能性があります。従業員からの信頼や、取引先、金融機関からの評価にも悪影響を及ぼしかねません。
- 労働災害発生時の影響: 万が一、労働災害が発生した際に、保険料の未納などが判明すると、保険給付に影響が出る可能性も否定できません。
【対策】
- スケジュール管理の徹底: 6月1日から7月10日という期間を明確に意識し、事前に賃金集計や計算のタスクを細分化して、早めに取り掛かる計画を立てましょう。
- チェックリストの活用: 必要な書類、計算過程、申告書の記入項目などを網羅したチェックリストを作成し、確認漏れがないようにします。
- 複数人での確認: 計算や記入ミスを防ぐため、担当者以外の者が内容を確認する体制を整えましょう。
- 専門家への相談・委託: 複雑なケースや、社内のリソースが不足している場合は、社会保険労務士に相談したり、手続きを代行してもらったりすることで、正確性と期限遵守を確実にすることができます。
労働保険料の年度更新は、期限内に正確に完了させることで、不必要なリスクやコストを回避し、事業所の健全な運営を維持するための重要なプロセスです。
電子申告(e-Tax)でスマートに!
電子申請のメリットと対象
労働保険料の年度更新は、e-Gov(電子政府の総合窓口)を利用した電子申請が可能です。
この電子申請は、手続きの効率化と利便性向上に大きく貢献するメリットを多数提供します。
【電子申請の主なメリット】
- 24時間いつでも申請可能: 窓口の営業時間や郵便局の営業時間を気にすることなく、インターネット環境があれば、土日祝日を問わず24時間いつでも手続きを行うことができます。
- 自動計算・入力チェック機能: システムが保険料の計算を自動で行い、入力内容に誤りがないかをチェックしてくれるため、計算ミスや記入漏れのリスクを大幅に削減できます。
- 窓口への訪問不要: 労働局や金融機関の窓口に出向く手間と時間を省くことができます。郵送費用も不要です。
- ペーパーレス化: 申告書や控えを紙で保管する必要がなく、電子データとして管理できるため、書類整理の負担を軽減し、環境負荷も低減します。
- 事務処理の効率化: 労務管理システムや給与計算システムと連携することで、データ入力の手間をさらに省き、業務全体の効率化を図ることができます。
【電子申請の義務化対象】
特に、資本金1億円超の法人については、労働保険の電子申請が義務付けられています。
これに該当する事業所は、電子申請を行うための準備を必ず進める必要があります。
義務化対象でなくとも、これらのメリットを享受できるため、全ての事業主にとって電子申請は有効な選択肢と言えます。
電子申請の具体的な手順と準備
電子申請を始めるには、いくつかの準備と手順が必要です。
初めて電子申請を行う方は、早めに準備に取り掛かりましょう。
【電子申請の具体的な手順】
- e-Govアカウントの取得: まず、e-Govウェブサイトにアクセスし、利用者登録を行ってアカウントを取得します。これにより、e-Govの各種サービスを利用できるようになります。
- 電子証明書の準備: 電子申請には、申請者の本人確認とデータの改ざん防止のために「電子証明書」が必要です。
- 個人の場合: マイナンバーカードに搭載されている電子証明書を利用できます。
- 法人の場合: 商業登記電子証明書や、法務省指定の認証局が発行する電子証明書などが必要となります。
電子証明書をPCにセットアップし、e-Govで利用できるように設定します。
- e-Gov電子申請アプリケーションの利用: e-Govのウェブサイトから、労働保険の電子申請に対応したアプリケーションやウェブサービスを利用します。システムに沿って必要事項を入力していきます。
- 添付書類の電子化: 添付が必要な書類がある場合(例えば、労働保険事務組合への委託に関する書類など)、スキャナーで読み取るなどして電子データ化し、添付します。
- データ送信と受付通知: 入力が完了し、内容を確認したら、電子証明書を使って署名・送信します。申請が正常に受け付けられると、e-Govから受付通知が発行されます。
- 電子納付: 申請後、e-Govを通じて電子納付(Pay-easyなど)を行います。
これらの手順を順守することで、正確かつセキュアな電子申請が可能となります。
不明な点があれば、e-Govのヘルプデスクや労働局に問い合わせると良いでしょう。
電子申請をさらに効率化するツール
電子申請はそれ自体が効率的な手続き方法ですが、さらにその効率を高めるためのツールやサービスが存在します。
これらを活用することで、年度更新作業全体の時間と労力を大幅に削減することが可能です。
【効率化に役立つツールやサービス】
- 労務管理システム・給与計算システムとの連携:
- 多くの最新の労務管理システムや給与計算システムには、労働保険料の計算機能や、e-Govへのデータ連携機能が搭載されています。
- 日々の勤怠データや給与計算データが自動的に集計され、年度更新用の申告データとして出力できるため、手作業による集計や入力の手間を大幅に削減できます。
- API連携により、システムから直接e-Govへデータを送信できる製品もあります。
- 賃金集計支援ツール:
- 厚生労働省が提供しているExcel形式の賃金集計支援ツールは、簡単な操作で賃金総額を正確に算出するのに役立ちます。
- これにより、複雑な計算を手作業で行う必要がなくなり、計算ミスを防ぐことができます。
- アウトソーシング(社会保険労務士への委託):
- 年度更新手続き全体を社会保険労務士に委託することも、非常に有効な効率化策です。
- 専門家が代行することで、法令変更への対応や複雑な計算、電子申請の手続きなどを全て任せることができ、企業は本来の業務に集中できます。
- 特に、複数の事業所を持つ企業や、初めての年度更新で不安がある企業にはおすすめです。
これらのツールやサービスを導入・活用することで、年度更新の負担を軽減し、よりスマートな労務管理体制を構築することが可能になります。
自社の状況や予算に合わせて、最適な方法を選びましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 労働保険料の年度更新はいつまでに行う必要がありますか?
A: 原則として、毎年6月1日から7月10日までの間に申告・納付を行う必要があります。ただし、保険年度開始後50日以内という例外もあります。
Q: 労働保険料の申告書はどこからダウンロードできますか?
A: 労働保険事務組合に委託している場合は事務組合から、委託していない場合は労働基準監督署や都道府県労働局のウェブサイトからダウンロードできます。
Q: 労働保険料 申告書は、どこに提出すれば良いですか?
A: 事業所を管轄する労働基準監督署または労働局に提出します。労働保険事務組合に委託している場合は、事務組合を経由して提出します。
Q: 労働保険料 申告書を間違えてしまった場合、どうすれば良いですか?
A: 速やかに管轄の労働基準監督署または労働局に連絡し、訂正申告書の提出方法について指示を仰いでください。必要に応じて、修正申告や更正の請求を行います。
Q: 労働保険料の電子申告(e-Tax)は可能ですか?
A: はい、一部の手続きについてはe-Taxによる電子申告が可能です。e-Gov電子申請システムなどを利用して申告できます。詳細は厚生労働省やe-Govのウェブサイトをご確認ください。
