労働保険は、事業を営む上で従業員を雇用している個人事業主や法人にとって、避けて通れない重要なコストの一つです。しかし、その勘定科目や仕訳の方法について、「これで合っているのかな?」と疑問を感じる方も少なくないでしょう。

本記事では、個人事業主・法人の方々が安心して労働保険料の会計処理を行えるよう、勘定科目の選び方から具体的な仕訳例、さらには会計ソフトでの設定方法や消費税の扱いまで、徹底的に解説します。

最新の保険料率情報も交えながら、分かりやすく紐解いていきますので、ぜひ最後までお読みいただき、日々の経理業務にお役立てください。

  1. 労働保険料とは?基本を理解しよう
    1. 労災保険と雇用保険:労働保険の二本柱
    2. 会社と従業員の負担割合:誰がいくら払う?
    3. 概算保険料と確定保険料:年度更新の仕組み
  2. 個人事業主・法人の労働保険料勘定科目の選び方
    1. 法定福利費:会社負担分の基本科目
    2. 預り金・立替金:従業員負担分の処理方法
    3. 事業主貸と前払費用:特殊なケースの対応
  3. 勘定科目「法定福利費」と「預り金」の使い分け
    1. 労働保険料の仕訳パターン:シンプル vs 正確
    2. 概算保険料納付時の仕訳例
    3. 給与支払時と確定精算時の仕訳例
  4. freeeなどの会計ソフトでの設定方法と消費税の扱い
    1. 会計ソフトでの勘定科目設定のポイント
    2. 労働保険料の消費税区分:非課税取引の理由
    3. 賃金総額の正確な把握と会計ソフトでの連動
  5. 知っておきたい!労働保険料還付・延滞金関連の科目
    1. 労働保険料の還付金があった場合の処理
    2. 延滞金が発生した場合の勘定科目と注意点
    3. 年度更新手続きと会計処理の年間スケジュール
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 個人事業主の場合、労働保険料はどのような勘定科目で処理しますか?
    2. Q: 法人の場合、労働保険料の勘定科目は何になりますか?
    3. Q: 「福利厚生費」と「預り金」の勘定科目はどのように使い分けますか?
    4. Q: freeeなどの会計ソフトで労働保険料を処理する際の注意点はありますか?
    5. Q: 労働保険料が還付された場合、どのような勘定科目で処理しますか?

労働保険料とは?基本を理解しよう

労災保険と雇用保険:労働保険の二本柱

労働保険とは、「労働者災害補償保険(労災保険)」「雇用保険」を合わせた総称です。

これらの保険は、事業主が労働者を一人でも雇用していれば、原則として加入が義務付けられています。労働者保護を目的としており、従業員が安心して働ける環境を支える重要な制度です。

まず、労災保険は、従業員が業務中や通勤中に事故に遭ったり、病気になったりした場合に、医療費や休業補償などを給付するものです。

この保険は、パートやアルバイトを含む全ての労働者が対象となり、保険料は全額事業主が負担します。従業員が特別な手続きをする必要はなく、万が一の際に会社や国のサポートが受けられる仕組みです。

次に、雇用保険は、従業員が失業した際や、育児休業、介護休業を取得した際に生活を安定させるための給付を行うものです。

また、失業予防や雇用機会の増大を図るための事業も実施しています。雇用保険の対象となるのは、原則として週20時間以上働き、31日以上の雇用見込みがある労働者です。保険料は、事業主と従業員がそれぞれ負担する形となります。

労働保険は、従業員の安心だけでなく、事業主にとっても万が一のリスクに備える上で不可欠な制度と言えるでしょう。

会社と従業員の負担割合:誰がいくら払う?

労働保険料は、労災保険と雇用保険で負担の仕組みが異なります。

先述の通り、労災保険の保険料は全額事業主が負担します。従業員から徴収することは一切ありません。これは、労働災害に対する責任は事業主にあるという考えに基づいています。

一方、雇用保険の保険料は、事業主と従業員(労働者)がそれぞれ一部を負担します。具体的には、従業員の給与から雇用保険料が天引きされ、残りを会社が負担して合算で国に納付する形となります。

この負担割合は、毎年見直される可能性がありますので、最新の料率を確認することが重要です。2024年度(令和6年度)の雇用保険料率は、令和5年度と同率で以下の通りです。

【2024年度 雇用保険料率(一般の事業の場合)】

項目 労働者負担 事業主負担 合計
失業等給付 6/1,000 6/1,000 12/1,000
雇用保険二事業 3.5/1,000 3.5/1,000
合計 6/1,000 9.5/1,000 15.5/1,000

※農林水産・清酒製造の事業、建設の事業は料率が異なります。
※「雇用保険二事業」とは、失業予防や雇用安定のための事業などに使われる財源です。

例えば、一般の事業で月給30万円の従業員の場合、従業員負担分は30万円 × 6/1,000 = 1,800円、会社負担分は30万円 × 9.5/1,000 = 2,850円となります。

このように、正確な賃金総額に基づいて計算し、適切に徴収・納付することが求められます。

概算保険料と確定保険料:年度更新の仕組み

労働保険料の計算と納付は、一般的な税金とは異なり、「概算」と「確定」という二段階の仕組みがあります。

まず、「概算保険料」とは、事業年度の初めに、前年度の賃金総額や今後の賃金の見込みに基づいて算定・納付するものです。これはあくまで「見込み」の金額であり、年間を通して事業活動や賃金支払額が変動する可能性があるため、概算で支払います。

通常、4月1日から翌年3月31日までの1年間を対象とし、年度が始まる前に前年度実績を基に計算し、納付します。

次に、「確定保険料」とは、実際に事業年度中に支払われた賃金総額に基づいて、改めて正確に算定し直した保険料のことです。

年度末に実際の賃金総額が確定した時点で、既に納付済みの概算保険料との差額を精算します。この精算手続きを「労働保険料の年度更新」と呼び、毎年6月1日から7月10日までの間に管轄の労働局等で行う必要があります。

年度更新では、確定した賃金総額を申告し、概算保険料が過払いだった場合は還付を受け、不足していた場合は追加で納付します。また、同時に次年度の概算保険料も新たに算定して納付します。

このプロセスを適切に行うためには、従業員に支払った賃金総額を正確に把握しておくことが極めて重要です。賃金台帳の整備はもちろん、給与計算ソフトなどを用いて日々のデータを正確に記録しておくようにしましょう。

個人事業主・法人の労働保険料勘定科目の選び方

法定福利費:会社負担分の基本科目

労働保険料を会計処理する上で、最も頻繁に登場する勘定科目が「法定福利費」です。

法定福利費とは、法律で定められた福利厚生に関連する費用を計上する科目であり、具体的には社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)の会社負担分や、労働保険料(労災保険料、雇用保険料)の会社負担分などが含まれます。

なぜこの科目を使うのかというと、労働保険料は「税金」ではないからです。税金であれば「租税公課」という勘定科目が適切ですが、労働保険は社会保険制度の一部であり、従業員の福祉のための費用として位置づけられます。

したがって、会社が負担する労働保険料は、費用として認識し、法定福利費として計上することが一般的かつ適切な処理となります。これにより、企業の財務諸表上、福利厚生にかかるコストが明確に把握できるようになります。

法定福利費は、損益計算書上では「販売費及び一般管理費」の中に分類され、企業が従業員を雇用し事業活動を継続するために発生する重要な経費の一つです。

正確な会計処理のためには、会社が負担する労災保険料の全額、および雇用保険料の会社負担分をこの法定福利費で処理することを覚えておきましょう。

預り金・立替金:従業員負担分の処理方法

雇用保険料には、従業員が負担する分があります。これを会社が従業員の給与から天引きし、会社負担分と合わせて国に納付します。

この従業員負担分を一時的に会社が預かる、または立て替える際に使用する勘定科目が「預り金」または「立替金」です。

預り金は、従業員から徴収した雇用保険料を、会社が一時的に預かっていることを示す負債の科目です。給与を支払う際に、従業員から雇用保険料を天引きし、後日、会社が国に納付するまでの間、この預り金で処理します。

例えば、給与計算時に雇用保険料を差し引く際、「給与XXX / 預り金XXX」のように仕訳を切ります。そして、実際に保険料を納付する際に「預り金XXX / 現金預金XXX」として精算します。

一方、立替金は、従業員負担分の保険料を会社が一時的に立て替えて支払った状態を示す資産の科目です。概算保険料の納付時など、会社が従業員負担分も含めて先に全額を支払う場合に用いられます。

この場合、「法定福利費XXX / 現金預金XXX(会社負担分)」「立替金XXX / 現金預金XXX(従業員負担分)」と仕訳し、その後の給与支払時に「給与XXX / 立替金XXX」として従業員から回収(相殺)します。

どちらの科目を使うかは会計方針によって異なりますが、概算保険料の納付時に従業員負担分を含めて一括で支払う場合は「立替金」を使い、毎月の給与計算時に天引きするタイミングで負債として認識するなら「預り金」を使うのが一般的です。

重要なのは、従業員から徴収した分と会社が負担する分を混同せず、適切に処理することです。

事業主貸と前払費用:特殊なケースの対応

労働保険料の会計処理には、一般的なケース以外にも「事業主貸」「前払費用」といった特殊な勘定科目を用いる場合があります。これらは特に、個人事業主や、概算保険料を前払いするケースで重要になります。

まず、「事業主貸」は、個人事業主特有の勘定科目です。個人事業主が自身のために支払う労働保険料(例えば、特別加入制度を利用して支払う労災保険料や、個人事業主自身が加入する国民健康保険料など)は、事業の経費にはなりません。

これは、個人事業主と事業は一体であるという考え方に基づき、事業主個人の支出とみなされるためです。もし事業用の口座からこれらの保険料を支払った場合、その金額は「事業主が事業用の資金を個人的な目的で引き出した」とみなし、事業主貸として処理します。

【個人事業主が自身の特別加入保険料を事業用口座から支払った場合】
(借方)事業主貸 XXX円 / (貸方)現金預金 XXX円

次に、「前払費用」は、概算保険料を前払いした場合に用いる勘定科目です。労働保険料は通常、年度の初めに1年分をまとめて支払いますが、この支払った保険料の全額がその期の費用となるわけではありません。

未経過期間(まだ期間が来ていない部分)に対応する保険料は、翌期以降の費用となるため、支払った時点では資産として「前払費用」に計上します。決算時に、当期に経過した期間分を費用(法定福利費)に振り替える処理(振替仕訳)を行います。

【概算保険料支払時(例:会社負担分のみ)】
(借方)法定福利費 XXX円   / (貸方)現金預金 XXX円(当期分の概算)
(借方)前払費用 XXX円     / (貸方)現金預金 XXX円(翌期分の概算)

【決算時の振替仕訳】
(借方)法定福利費 XXX円   / (貸方)前払費用 XXX円(翌期分を当期分へ振り替える)

この処理により、期間損益が正確に計算され、財務諸表の信頼性が保たれます。特に、会計期間と労働保険の対象期間がずれる場合に、この前払費用での処理が重要となります。

勘定科目「法定福利費」と「預り金」の使い分け

労働保険料の仕訳パターン:シンプル vs 正確

労働保険料の仕訳方法には、いくつかのパターンがあり、事業所の規模や会計処理の正確性への要求度によって選択が可能です。

1. すべて法定福利費で処理する方法

これは最もシンプルな方法です。概算保険料の納付時に、会社負担分だけでなく、従業員負担分も含めてすべて「法定福利費」として費用計上します。この場合、従業員からの天引き分を「預り金」や「立替金」として一時的に処理する手間が省けます。

  • メリット:仕訳が非常に簡潔で、経理処理の負担が少ない。
  • デメリット:費用が保険料納付月に偏り、期間損益が正確に把握しにくい。また、従業員負担分が一時的に会社の費用として計上されてしまうため、厳密な会計処理としては推奨されない場合もあります。

2. 前払費用・預り金(立替金)を使う方法

この方法は、会社負担分を「法定福利費」、従業員負担分を「預り金」または「立替金」として処理し、決算時には未経過期間分を「前払費用」とする、より厳密な方法です。

  • メリット:期間損益が正確に反映され、会社と従業員の負担が明確に区別されるため、会計の透明性が高まります。
  • デメリット:仕訳が複雑になり、経理処理に手間がかかります。特に従業員からの回収(給与天引きによる相殺)の管理が必要です。

3. 毎月費用計上する方法(未払費用)

これは、毎月の給与支払時に、その月に対応する労働保険料を「法定福利費」として計上し、まだ支払っていない部分を「未払費用」として負債計上する方法です。

  • メリット:費用が毎月均等に計上されるため、月次の損益が正確に把握できます。
  • デメリット:毎月の仕訳が煩雑になり、保険料率の変動などがあった際の調整が必要になります。

多くの企業では、会計処理の正確性と手間を考慮し、パターン2を採用していることが多いでしょう。自社の会計方針や業務フローに合わせて、最適な方法を選択してください。

概算保険料納付時の仕訳例

ここでは、前述の仕訳パターン2(前払費用・預り金(立替金)を使う方法)に基づき、概算保険料を納付した際の具体的な仕訳例を見ていきましょう。

労働保険料の概算納付は、通常、年度初めの6月から7月にかけて行われます。ここでは、会社が従業員負担分も含めて現金で一括納付するケースを想定します。

【例:労働保険料(概算)を現金で納付した場合】

  • 会社負担分:200,000円
  • 従業員負担分(雇用保険料):50,000円
  • 合計納付額:250,000円

この場合の仕訳は以下のようになります。

(借方)法定福利費   200,000円  /  (貸方)現金預金   250,000円 (会社負担分)
(借方)立替金       50,000円   /                         (従業員負担分)

ポイントは、会社負担分は「法定福利費」として費用に計上し、従業員負担分は会社が一時的に立て替えている状態を示す「立替金」(資産)として計上することです。

現金預金から合計額が支払われているため、貸方には合計額を記載します。もし、従業員負担分を「預り金」として処理する場合は、納付時に「預り金 50,000円 / 現金預金 50,000円」の仕訳が必要になりますが、概算納付時に従業員から回収しているわけではないため、「立替金」とするのが一般的です。

この立替金は、後の給与支払時に従業員からの天引きによって回収されることになります。

この仕訳により、会社が純粋に負担する費用と、従業員から一時的に預かる(立て替える)金額が明確に区別され、会計の透明性が保たれます。

給与支払時と確定精算時の仕訳例

概算保険料納付時の仕訳を理解したところで、次に、従業員への給与支払時と、年度末に行われる確定保険料の精算時の仕訳例を見ていきましょう。

まず、給与支払時の仕訳です。従業員負担分の雇用保険料は、給与から天引きして会社が預かります。ここで、概算納付時に「立替金」としていた分を回収する形になります。

【例:給与支払時(月給300,000円、雇用保険料1,800円を天引きする場合)】

(借方)給与賃金   300,000円  /  (貸方)預り金(所得税・住民税など) XXX円
                                  (貸方)法定福利費(社会保険料)   XXX円
                                  (貸方)立替金(雇用保険料)     1,800円
                                  (貸方)現金預金(差引支給額)   290,000円

ここで、給与賃金の全額から、社会保険料、所得税、住民税、そして雇用保険料の従業員負担分などを控除し、残額を現金預金で支払います。「立替金」の貸方に計上することで、概算納付時に計上した立替金が徐々に減少していきます。

次に、確定保険料納付時の差額精算の仕訳です。年度更新により、確定した保険料が概算保険料と異なる場合、差額の精算が発生します。

【例:確定保険料が概算保険料より会社負担分10,000円、従業員負担分2,000円不足していた場合】

(借方)法定福利費   10,000円  /  (貸方)現金預金   12,000円 (会社負担分の不足額)
(借方)立替金        2,000円  /                         (従業員負担分の不足額)

不足額を追加で納付する場合、会社負担分の不足額は「法定福利費」として費用計上し、従業員負担分の不足額は「立替金」として計上します。この立替金は、次回の給与で従業員から徴収するか、別途精算が必要です。

【例:確定保険料が概算保険料より会社負担分10,000円、従業員負担分2,000円過払いにより還付があった場合】

(借方)現金預金   12,000円  /  (貸方)法定福利費   10,000円 (会社負担分の還付)
                                  (貸方)立替金        2,000円 (従業員負担分の還付)

還付金を受け取る場合、会社負担分の還付は「法定福利費」のマイナスとして処理するか、「雑収入」として処理します。ここでは「法定福利費」のマイナスとして処理しています。従業員負担分の還付は「立替金」のマイナスとなり、従業員へ返金するか、次回の給与で調整します。

これらの仕訳を適切に行うことで、労働保険料の正確な会計処理が可能となります。

freeeなどの会計ソフトでの設定方法と消費税の扱い

会計ソフトでの勘定科目設定のポイント

freeeや弥生会計、マネーフォワードクラウドなどの会計ソフトを利用している場合、労働保険料の勘定科目設定は比較的簡単に行えます。

まず、会計ソフトには多くの勘定科目が初期設定で用意されていますが、労働保険料の処理に適した科目を確認しましょう。基本的には、「法定福利費」「預り金」「立替金」「前払費用」などを使用します。

これらの科目が初期設定で存在しない場合は、新規に作成することも可能です。例えばfreeeの場合、「設定」メニューから「勘定科目」を選択し、科目を追加できます。

  • 法定福利費:費用科目として設定します。労災保険料や雇用保険料の会社負担分を計上します。
  • 預り金:負債科目として設定します。雇用保険料の従業員負担分を、給与から天引きして納付までの間、一時的に預かる際に使用します。
  • 立替金:資産科目として設定します。概算納付時に、従業員負担分を会社が一時的に立て替えた際に使用します。
  • 前払費用:資産科目として設定します。年度末に未経過期間分の労働保険料がある場合に、期間按分して計上します。

多くの会計ソフトでは、給与計算機能や、銀行口座・クレジットカードとの連携機能があります。

これらの機能を活用することで、給与支払い時の従業員負担分の天引き仕訳や、労働保険料の納付時の仕訳を自動で作成することが可能です。例えば、銀行口座から労働保険料が引き落とされた際に、「法定福利費」や「立替金」の科目で自動で仕訳候補を提示してくれることもあります。

設定を一度行えば、日々の経理業務を大幅に効率化できるため、自社の会計ソフトのマニュアルやサポートを活用して、最適な設定を行うことをお勧めします。

労働保険料の消費税区分:非課税取引の理由

労働保険料は、その性質上、消費税の課税対象外、つまり非課税取引として扱われます。

これは、労働保険料が国の社会保障制度の一環として徴収される公的な性格を持つためです。消費税は、財貨やサービスの提供に対して課される税金であり、労働保険料のように、国が国民から徴収する金銭には原則として消費税はかかりません。

具体的には、消費税法において、社会保険医療の給付等や社会福祉事業などが非課税とされていますが、労働保険料もこれらと同様に、事業者が提供するサービスではなく、強制的に徴収される公的費用とみなされます。

したがって、労働保険料を支払う際には、消費税を考慮する必要がなく、仕訳の際にも消費税区分を「非課税」または「対象外」として処理します。これにより、課税仕入れとは区別され、消費税の計算(仕入税額控除など)に影響を与えることはありません。

例えば、消費税の申告書を作成する際、労働保険料は課税売上や課税仕入れの集計からは除外されます。法人税や所得税の計算上は費用(損金)となりますが、消費税の観点からは非課税であることを明確に理解しておくことが重要です。

インボイス制度が導入された現代においても、この非課税扱いに変更はありませんので、ご安心ください。

賃金総額の正確な把握と会計ソフトでの連動

労働保険料の計算において、最も重要な基礎となるのが「賃金総額」です。

労災保険料も雇用保険料も、原則として、従業員に支払われたすべての賃金(給与、賞与、手当など、税金や社会保険料控除前の額面)の総額に、それぞれの保険料率を乗じて算出されます。

そのため、賃金総額を正確に把握することは、適切な労働保険料の算定と納付、そして会計処理を行う上で不可欠です。

多くの企業では、給与計算ソフトを利用して従業員の給与を計算しています。これらの給与計算ソフトは、賃金総額を自動で集計する機能を持っています。さらに、freeeやマネーフォワードクラウドといった主要な会計ソフトの中には、給与計算ソフトと連携できるものも多く存在します。

この連携機能を利用することで、給与計算ソフトで確定した賃金データや、そこから算出された社会保険料・労働保険料のデータを会計ソフトに自動で取り込むことが可能になります。

これにより、賃金総額の集計ミスを防ぎ、毎月の給与仕訳や労働保険料の納付仕訳を効率的かつ正確に行うことができます。

年度更新の際にも、給与計算ソフトから出力される賃金総額の集計表を基に申告書を作成すれば、手間なく正確な手続きを進めることが可能です。賃金台帳の整備はもちろん、こうしたソフト連携を積極的に活用し、賃金総額の正確な把握と会計処理の効率化を図りましょう。

知っておきたい!労働保険料還付・延滞金関連の科目

労働保険料の還付金があった場合の処理

労働保険料の年度更新手続きを行った結果、概算で納付した保険料が、確定した実際の保険料よりも多かった場合、その差額が還付金として戻ってくることがあります。

この還付金は、会社の収益として会計処理する必要がありますが、その際の勘定科目にはいくつか考え方があります。

最も一般的な処理方法は、「雑収入」として計上することです。雑収入は、本業以外の臨時的な収入や、他のどの科目にも該当しない少額の収入を計上する際に用いられます。

【還付金を受け取った場合の仕訳例】
(借方)現金預金   XXX円 / (貸方)雑収入   XXX円

もう一つの考え方として、過去に費用計上した「法定福利費」を、還付された金額分だけマイナスする処理も可能です。

これは、還付金が過去の費用の一部を取り戻したものとみなすためです。特に、還付される金額が大きく、その期の法定福利費に与える影響が大きい場合に、この処理が検討されることがあります。

【法定福利費のマイナスとして処理する場合】
(借方)現金預金   XXX円 / (貸方)法定福利費   XXX円(費用を減額する)

どちらの方法を採用するかは、企業の会計方針や還付金額の重要性によって判断が分かれますが、継続して同じ方法で処理することが重要です。また、従業員負担分の雇用保険料が過払いにより還付された場合は、その分を「立替金」のマイナスとして処理し、従業員への返金または次回の給与での調整が必要です。

還付金が発生した際は、その内容をしっかり確認し、適切な会計処理を行いましょう。

延滞金が発生した場合の勘定科目と注意点

労働保険料の納付期限を過ぎてしまうと、原則として延滞金が発生します。この延滞金は、税法上の取り扱いと会計上の処理において注意が必要です。

まず、重要な点として、労働保険料の延滞金は、原則として法人税法上、または所得税法上の損金(経費)には算入されません。

これは、延滞金が、納付を怠ったことに対する行政罰的な性質を持つため、企業の事業活動に必要な費用とはみなされないからです。租税公課のうち、加算税や延滞税、過怠税なども同様に損金不算入とされます。

会計上の勘定科目としては、通常「租税公課」で処理されることが多いですが、損金不算入であることを明確にするため、会計ソフト上などで区分を設定することもあります。あるいは、本業とは関係のない損失として「雑損失」として計上することもあります。

【延滞金を支払った場合の仕訳例】
(借方)租税公課(損金不算入) XXX円 / (貸方)現金預金 XXX円
または
(借方)雑損失 XXX円             / (貸方)現金預金 XXX円

延滞金の発生は、単に金銭的な負担が増えるだけでなく、企業の信頼性にも影響を及ぼす可能性があります。そのため、労働保険料の納付期限は厳守することが極めて重要です。

労働保険料の納付期限は、通常、年度更新の手続きが完了した後に通知される納付書に記載されています。期日を忘れずに、余裕をもって手続きと納付を行いましょう。

年度更新手続きと会計処理の年間スケジュール

労働保険料の会計処理を適切に行うためには、年度更新手続きのスケジュールとそれに伴う会計処理の年間サイクルを把握しておくことが重要です。

労働保険の年度更新は、毎年6月1日から7月10日までの間に行われます。

この期間中に、前年度(4月1日~3月31日)に実際に支払われた賃金総額に基づいて確定保険料を算定し、同時に次年度の概算保険料を申告・納付します。

【年間スケジュールと会計処理のポイント】

  1. 4月~5月:確定保険料の準備
    前年度の賃金総額を集計し、確定保険料を計算するための準備を始めます。給与計算ソフトからのデータ出力や、賃金台帳の最終確認を行います。
  2. 6月~7月:年度更新手続きと概算保険料納付
    労働保険料の申告書を提出し、確定保険料の精算(不足分を納付または還付を受け取る)と、次年度の概算保険料を納付します。
    この時点で、本記事で解説した「法定福利費」や「立替金」「現金預金」を用いた仕訳を行います。
  3. 毎月の給与計算時:従業員負担分の処理
    給与から雇用保険料の従業員負担分を天引きし、「立替金」を相殺または「預り金」として計上する仕訳を行います。
  4. 決算期:前払費用の調整
    会計期間と労働保険の対象期間が異なる場合、年度末には「前払費用」の調整仕訳を行い、期間損益を正確に反映させます。

このサイクルを理解し、計画的に経理業務を進めることで、支払い遅延による延滞金の発生を防ぎ、正確な会計処理を実現できます。

また、労働保険料率は業種ごとに異なり、労災保険率は原則3年ごとに改定されます。2024年度(令和6年度)に労災保険率の改定があり、全体平均は引き下げられました。最新の料率情報は厚生労働省のウェブサイトで確認するようにしましょう。

ご自身の事業所の情報に合わせた正確な知識と適切な会計処理で、安心して事業を運営していきましょう。