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病気で働けない時の雇用保険の基本

雇用保険の「傷病手当」とは?

病気や怪我で働けなくなった際に利用できる公的な給付制度はいくつかありますが、その一つに「雇用保険の傷病手当」があります。
これは、主に失業後にハローワークで求職の申し込みをした方が、その後病気や怪我によって15日以上就業できない状態になった場合に支給される制度です。
つまり、失業給付(基本手当)の受給資格があるにもかかわらず、健康上の理由で求職活動ができない状態にある方を対象としています。

この給付を受け取るためには、基本手当の受給資格を満たしていることが前提となります。
支給期間は、基本手当の所定給付日数から、既に基本手当が支給された日数を差し引いた残りの日数となります。
例えば、所定給付日数が90日の人が、30日分の基本手当を受給した後に病気で働けなくなった場合、残りの60日分が傷病手当の対象となり得ます。
失業中の予期せぬ病気や怪我によって生活が困窮するのを防ぐための大切な制度と言えるでしょう。

健康保険の「傷病手当金」との違い

「雇用保険の傷病手当」とよく似た名称で「健康保険の傷病手当金」という制度があります。
名称は似ていますが、これらは全く異なる制度であり、管轄や受給条件が大きく異なりますので注意が必要です。
健康保険の傷病手当金は、主に在職中の方が業務外の病気や怪我で療養のために休業し、給与の支払いがない場合に支給されるものです。

具体的な受給要件としては、「業務外の病気や怪我であること」「仕事に就くことができないこと」「連続して3日間を含めて4日以上休業したこと」「休業期間中に給与の支払いがないこと」という4つの条件をすべて満たす必要があります。
支給期間は支給開始日から最長1年6ヶ月と定められています。
これら二つの制度は、同じ理由・同じ期間に重複して受給することはできません(併給不可)
ご自身の状況(在職中か離職後か)によって利用すべき制度が異なります。

どちらを選ぶべき?状況に応じた選択肢

病気で働けない時、まずご自身が「在職中」なのか「離職後で失業給付の申請中」なのかを確認することが、適切な制度を選択する第一歩となります。
もしあなたが会社に所属しており、業務外の病気や怪我で休職する場合は、原則として健康保険の傷病手当金の対象となります。
この場合、加入している健康保険組合や協会けんぽに申請することになります。

一方で、もしあなたが会社を退職し、ハローワークで失業給付の申請を行い、求職活動中に病気や怪我で働けなくなったのであれば、雇用保険の傷病手当を検討することになります。
この場合は、ハローワークに申請手続きを行うことになります。
どちらの制度も、病気や怪我で収入が途絶える際の生活を支える重要な役割を担っていますが、その対象者と目的に違いがあることを理解し、ご自身の状況に合った制度を利用することが大切です。
迷った場合は、ハローワークやご加入の健康保険組合に相談することをおすすめします。

休業中に受け取れる「傷病手当金」とは

傷病手当金の主な受給条件

健康保険の「傷病手当金」は、会社員やその扶養家族が業務外の病気や怪我で仕事ができない場合に支給される生活保障制度です。
受給するためには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
一つ目は「業務外の病気や怪我であること」
仕事中や通勤中の傷病は労災保険の対象となるため、傷病手当金の対象外です。

二つ目は「仕事に就くことができないこと」
医師の診断書などで、労務不能と認められる状態である必要があります。
三つ目は「連続して3日間を含めて4日以上休業したこと」
この連続3日間を「待期期間」と呼び、この期間は給付の対象外です。
待期期間が完成した4日目以降から支給対象となります。
そして四つ目は「休業期間中に給与の支払いがないこと」、または傷病手当金の額より給与が少ない場合です。
これらの条件をクリアすることで、安心して療養に専念できる環境が提供されます。

支給期間と金額の計算方法

傷病手当金の支給期間は、支給開始日から最長で1年6ヶ月と定められています。
この期間は、途中で一時的に仕事に復帰したとしても、同一の傷病とその関連性のある傷病であれば通算されます。
例えば、がん治療などで入退院を繰り返す場合でも、合計で1年6ヶ月が限度となります。
支給金額は、原則として「1日当たりの標準報酬月額 × 2/3」で計算されます。

標準報酬月額とは、給与を一定の幅で区切ったもので、毎月の保険料や将来の年金額の計算の基礎となるものです。
例えば、標準報酬月額が30万円の場合、1日当たりの支給額は約6,666円(30万円 ÷ 30日 × 2/3)となります。
最新の情報では、支給開始日が令和7年4月1日以降の場合は標準報酬月額の上限が32万円、それ以前の場合は30万円が目安となります。
もし休業期間中に給与の一部が支払われる場合でも、その金額が傷病手当金の額より少ない場合は、差額が支給されることがあります。

退職後の継続給付とその要件

傷病手当金は、原則として在職中の制度ですが、退職後も一定の条件を満たせば受給を継続できる場合があります。
これを「任意継続被保険者制度」とは異なり、「退職後の継続給付」と呼びます。
主な要件としては、以下の2点があります。
一つ目は「退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があること」
これは、健康保険の適用事業所に勤務し、健康保険の被保険者であった期間を指します。

二つ目は「退職する日の前日までに、すでに傷病手当金の支給を受けているか、または受けられる状態であったこと」です。
つまり、退職日に出勤してしまうと、その時点で「労務不能状態」ではないと判断され、継続給付の対象外となる可能性がありますので注意が必要です。
これらの条件を満たせば、退職後も最長1年6ヶ月の期間内で残りの期間分の傷病手当金を受け取ることができます。
退職を検討している方は、必ず事前に加入している健康保険組合や協会けんぽに確認するようにしましょう。

雇用保険で病状証明書や診断書の重要性

申請に必要な医師の証明

病気や怪我で公的な給付制度を利用する際、医師による「就労が困難である」ことの証明は、手続きにおいて極めて重要な書類となります。
雇用保険の傷病手当を申請する場合も、健康保険の傷病手当金を申請する場合も、共通して医師の診断書または傷病手当金支給申請書内にある医師の証明欄への記入が必須です。
この証明書がないと、病気や怪我による「労務不能」の状態であることが客観的に認められず、給付を受けることができません。

特に雇用保険の傷病手当は、「失業給付を受け取るべき期間中に、病気や怪我のために就職活動ができない」という状態を証明する必要があります。
ハローワークに提出する診断書には、病名や症状だけでなく、具体的に「いつからいつまで就労が困難であるか」が明記されている必要があります。
また、健康保険の傷病手当金の場合も、事業主記入欄とともに、医師が「労務不能と認めた期間」を詳細に記載することが求められます。

診断書の内容と注意点

診断書には、単に病名が書かれているだけでなく、具体的な症状やそれによってどのように就労が困難になるのかといった情報が詳しく記載されていることが望ましいです。
特に重要なのは、「労務不能と診断された期間」です。
この期間が明確でないと、給付の対象期間も不明確になってしまいます。
申請の際には、医師にこれらの情報を明確に記載してもらうよう依頼しましょう。

また、傷病手当金は精神疾患の場合でも適用されますが、その場合も医師による客観的な診断と「労務不能」の判断が必要です。
診断書の記載内容によっては、審査がスムーズに進まない可能性もありますので、主治医とよく相談し、必要な情報が過不足なく記載されているかを確認することが大切です。
特に治療の長期化が見込まれる場合は、定期的な診断書の更新も必要となる場合があります。

申請手続きの流れと提出先

雇用保険の傷病手当の申請はハローワークで行います。
「傷病手当支給申請書」に必要事項を記入し、医師の診断書(就労が困難であることを証明するもの)を添付して提出します。
この際、失業給付を受けていた方であれば、これまでの給付状況も確認されることになります。
手続きの際は、必ず事前にハローワークに問い合わせ、必要な書類や持参物をリストアップしておきましょう。

一方、健康保険の傷病手当金の申請は、あなたが加入している健康保険組合や協会けんぽに行います。
「傷病手当金支給申請書」は、本人記入欄、事業主記入欄、そして医師の証明欄の3つの部分から構成されています。
まず本人が自身の情報や休業期間を記入し、次に会社(事業主)が休業中の給与の支払い状況などを記入、最後に医師が診断内容と労務不能期間を証明します。
それぞれの申請書はウェブサイトからダウンロードできることが多いので、事前に準備しておくとスムーズです。

パート・アルバイトでも雇用保険は適用される?

雇用保険の加入条件

「パート・アルバイトだから雇用保険には入れない」と誤解されている方もいますが、実は一定の条件を満たせばパート・アルバイトでも雇用保険の適用対象となります。
主な加入条件は、以下の通りです。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 31日以上の雇用見込みがあること

これらの条件を満たす場合、事業主は雇用形態にかかわらず、労働者を雇用保険に加入させる義務があります。
つまり、週に20時間以上働き、かつ短期的な雇用ではない見込みがあれば、パート・アルバイトの方でも雇用保険に加入し、万が一の際には失業給付や教育訓練給付などの恩恵を受けることができるのです。
2024年(令和6年度)の雇用保険料率は、労働者負担・事業主負担ともに6/1,000が基本となっています。

短時間労働者の傷病手当金

健康保険の傷病手当金についても、パート・アルバイトだからといって受け取れないわけではありません。
健康保険自体が、短時間労働者でも一定の条件を満たせば加入義務が発生するためです。
具体的には、週の所定労働時間や月の賃金、雇用期間の見込みなどによって健康保険の適用が決まります。
健康保険に加入していれば、正社員と同様に業務外の病気や怪我で休業した場合、傷病手当金を受け取ることができます。

会社の休職制度がない場合でも、健康保険に加入していれば傷病手当金は受け取れます。
休職制度は会社が独自に設けるものであり、法的な義務ではありません。
しかし、傷病手当金は国が運営する健康保険制度の一部であるため、加入条件を満たしていれば誰でも利用する権利があります。
パート・アルバイトの方も、自身の健康保険の加入状況を確認し、もしもの時に備えておくことが大切です。

雇用保険料・社会保険料の支払い義務

病気や怪我で休職し、傷病手当金を受給している期間でも、健康保険料や厚生年金保険料(社会保険料)の支払い義務は基本的に継続します
これは、休職中も被保険者としての資格を維持しており、将来の医療サービスや年金受給に影響があるためです。
多くの場合、会社が一旦立て替えて徴収するか、あるいは個人で支払うことになります。

一方で、雇用保険料は給与に連動して徴収されるため、給与が支給されない休業期間中は、基本的に納付義務がありません。
休職期間が長期にわたる場合、社会保険料の負担が家計に重くのしかかる可能性もありますので、事前に会社の担当部署や加入している健康保険組合に確認し、支払い方法や免除制度の有無などを確認しておくことをおすすめします。
計画的な療養生活を送る上で、こうした費用負担の知識は不可欠です。

長期療養や延長時の雇用保険について

雇用保険の傷病手当の受給期間

雇用保険の傷病手当は、失業給付(基本手当)の代替給付として位置づけられています。
そのため、その受給期間は「基本手当の所定給付日数から、既に基本手当が支給された日数を差し引いた残りの日数」となります。
例えば、所定給付日数が120日の人が、病気になる前に30日分の基本手当を受給していれば、傷病手当の受給可能期間は最大で90日となります。

この制度の目的は、本来であれば求職活動をして失業給付を受け取る期間中に、病気でそれができない状況を救済することにあります。
そのため、基本手当の所定給付日数を使い果たしてしまった場合、雇用保険の傷病手当もそれ以上は支給されません。
長期療養が必要な場合、この期間制限に注意し、その後の生活設計を立てることが非常に重要になります。
療養が長引く場合は、別の公的支援制度の検討も視野に入れる必要があります。

健康保険の傷病手当金の延長とその後

健康保険の傷病手当金は、支給開始日から最長1年6ヶ月という期間が定められています。
これは、同じ傷病やそれに関連する傷病であれば、途中で仕事に復帰した期間があっても、すべて通算して計算されます。
1年6ヶ月という期間は、傷病からの回復と社会復帰を支援するための目安として設けられています。

もし、1年6ヶ月を超えても症状が改善せず、仕事に就くことが困難な状態が続く場合、傷病手当金の支給は終了します。
その後の生活保障としては、障害年金の申請などを検討することになります。
障害年金は、病気や怪我によって生活や仕事に支障がある場合に支給される年金制度です。
また、退職後も一定の条件を満たせば継続給付が可能ですが、これも最長1年6ヶ月という期間内でしかありません。
長期的な療養が必要な方は、早い段階で社会保険労務士などの専門家や、市区町村の福祉窓口に相談し、利用できる制度を調べておくことが賢明です。

公的支援制度との併用と相談先

病気で働けない期間が長引くと、経済的な不安は増大します。
公的な支援制度は複数存在しますが、その併用にはルールがあります
例えば、雇用保険の傷病手当と健康保険の傷病手当金は併給できません。
また、失業給付と傷病手当も基本的に併給できませんが、失業給付の受給期間を延長できる「受給期間延長申請」という制度を利用することで、病気が回復した後に失業給付を受け取ることが可能になります。

長期療養中の経済的支援は、傷病手当金だけではありません。
医療費の自己負担を軽減する高額療養費制度や、所得に応じて利用できる生活保護、各自治体が実施している独自の支援策など、様々な制度が存在します。
どこに相談すれば良いか迷った時は、まず以下の窓口に連絡してみましょう。

  • ハローワーク: 雇用保険に関する相談
  • 加入している健康保険組合または協会けんぽ: 健康保険に関する相談
  • 年金事務所: 障害年金に関する相談
  • 市区町村の福祉窓口: 生活支援や地域の制度に関する相談
  • 社会保険労務士: 専門的なアドバイス

最新の情報やご自身の状況に合わせた最適な選択をするためにも、専門家や公的機関への相談を積極的に活用しましょう。

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