雇用保険の負担額は?正社員から個人事業主まで徹底解説

雇用保険は、働く皆さんの生活の安定と、もしもの時の就職支援を目的とした大切な社会保険制度です。失業した時の助けになる「失業給付」だけでなく、育児や介護による休業中の収入補填、スキルアップ支援など、その役割は多岐にわたります。

この記事では、2024年度(令和6年度)と2025年度(令和7年度)の最新の雇用保険料率を踏まえながら、正社員から個人事業主の方まで、雇用保険の負担額や仕組みについて徹底的に解説します。あなたの雇用形態や状況に合わせて、雇用保険がどのように関わってくるのかを一緒に確認していきましょう。

雇用保険、誰がいくら払う?基本の確認

雇用保険ってどんな制度?その目的とは

雇用保険は、労働者の「もしも」を支えるだけでなく、「働き続ける」こともサポートする、非常に広範な制度です。主な目的は、失業した場合に生活を安定させ、早期の再就職を支援すること。このために支給されるのが、皆さんもよく耳にする「基本手当(失業保険)」です。

しかし、雇用保険の役割はそれだけにとどまりません。例えば、育児や介護で仕事を休む際に収入を補う「育児休業給付」や「介護休業給付」、専門的なスキルを習得するための「教育訓練給付」なども、この制度から提供されます。さらに、企業が雇用を維持したり、労働者の能力を開発したりするための「助成金」も、雇用保険事業の一環として実施されています。このように、雇用保険は労働者のライフステージ全体を通して、雇用と生活の安定に不可欠な役割を担っているのです。

保険料は誰が、どうやって負担するの?

雇用保険の保険料は、皆さんがお勤めの「事業主(会社)」と「従業員(労働者)」がそれぞれ負担する形で成り立っています。一般的に、事業主の負担割合の方が大きくなる仕組みです。この保険料は、皆さんの「賃金総額」に定められた「雇用保険料率」を乗じて計算されます。

「賃金総額」とは、基本給だけでなく、通勤手当、残業手当、各種手当、そして賞与なども含めた、労働の対価として支払われる全ての金銭を指します。計算された保険料は、事業主が毎月の給与から従業員負担分を天引きし、事業主負担分と合わせて国に納付します。これにより、安定した財源が確保され、さまざまな給付や事業が実施されているのです。自身の給与明細を確認すると、「雇用保険料」という項目で天引きされていることがわかります。

2024年・2025年の保険料率をチェック!

雇用保険料率は、国の財政状況や経済情勢などを考慮して毎年見直されます。2024年度(令和6年度)の雇用保険料率は、前年度から変更なく据え置かれていますが、2025年度(令和7年度)からは、労働者と事業主双方の負担軽減を目指し、引き下げられる見込みです。

具体的な料率は、以下の表で確認できます。特に、自身の業種が「一般の事業」なのか、「農林水産・清酒製造・建設の事業」なのかによって料率が異なりますので注意しましょう。保険料は、「失業等給付等」と「雇用保険二事業」の二つの部分から構成されており、「雇用保険二事業」については事業主のみが負担します。

区分 事業の種類 労働者負担 事業主負担(失業等給付等) 事業主負担(雇用保険二事業) 事業主負担(合計)
2024年度(令和6年度) 一般の事業 6/1,000 6/1,000 3.5/1,000 9.5/1,000
農林水産・清酒製造・建設の事業 7/1,000 7/1,000 3.5/1,000 10.5/1,000
2025年度(令和7年度)
(見込み)
一般の事業 5.5/1,000 5.5/1,000 3.5/1,000 9/1,000
農林水産・清酒製造・建設の事業 6.5/1,000 6.5/1,000 3.5/1,000 10/1,000

※2025年度の料率は見込みであり、変更される可能性があります。

会社負担が基本!折半される保険料の仕組み

労働者と事業主の負担割合とは

雇用保険料は、労働者と事業主が共に負担しますが、その割合は厳密な「折半」ではありません。実際には、事業主の方がより多くの割合を負担する形になっています。これは、雇用保険が労働者の生活保障だけでなく、雇用維持や能力開発といった企業の責任も支える役割を担っているためです。

先ほどの保険料率の表を見ると、保険料は大きく2つの部分に分かれていることがわかります。一つは「失業等給付等」と呼ばれる部分で、これは文字通り失業時の給付などに充てられるもので、労働者と事業主がほぼ同じ割合で負担します。もう一つが「雇用保険二事業」で、これは企業の雇用安定や労働者の能力開発支援などに使われるため、事業主のみが全額を負担します。この「雇用保険二事業」の分があるため、結果的に事業主の総負担割合が労働者よりも大きくなるのです。

正社員の雇用保険料、具体的な計算例

実際に正社員の方がどれくらいの雇用保険料を負担しているのか、具体的な数字を見てみましょう。ここでは、一般の事業にお勤めで、月給25万円の正社員の方の2024年度の保険料を計算してみます。

2024年度の一般の事業における雇用保険料率は、労働者負担分が6/1,000、事業主負担分は「失業等給付等」の6/1,000に「雇用保険二事業」の3.5/1,000を加えた9.5/1,000です。

* 従業員(労働者)負担額:
月給250,000円 × 6/1,000 = 1,500円
* 事業主負担額:
月給250,000円 × 9.5/1,000 = 2,375円
* 合計の保険料:
1,500円 + 2,375円 = 3,875円

このように、月給25万円の場合、従業員の方は毎月1,500円が給与から天引きされ、会社はそれ以上の額を負担していることがわかります。自身の給与明細と照らし合わせて確認してみると良いでしょう。

賃金総額とはどこまでが含まれる?

雇用保険料の計算の基礎となる「賃金総額」とは、単に基本給だけを指すわけではありません。労働の対価として事業主から支払われるほとんど全ての金銭がこれに該当します。具体的には、基本給はもちろんのこと、残業手当、役職手当、家族手当といった各種手当が含まれます。

さらに、通勤手当も、実費弁償的な性格が強いとされる他の社会保険(健康保険や厚生年金保険)とは異なり、雇用保険においては「賃金」として扱われ、保険料の計算対象となります。また、年2~3回支給される賞与(ボーナス)も、その支給月にまとめて賃金総額に算入され、雇用保険料が計算されます。このように、毎月の固定給だけでなく、年間を通して得られる様々な収入が雇用保険料の計算に影響を与えるため、年間で見ると保険料の総額も大きくなる可能性があります。

交通費や賞与も対象?雇用保険料の計算方法

雇用保険料の算定基礎となる「賃金」の範囲

雇用保険料を計算する際の「賃金」の範囲は、基本給だけでなく、労働者が労働の対価として受け取るほとんど全てのものが含まれます。これには、以下のような項目が該当します。

  • 基本給: 毎月決まって支払われる給与。
  • 各種手当: 残業手当、通勤手当、役職手当、家族手当、住宅手当など、名称を問わず労働の対価として支払われるもの。特に通勤手当は、所得税法上は非課税となる場合でも、雇用保険料の計算対象となります。
  • 賞与(ボーナス): 年数回支給される賞与も、支給月の賃金総額に含めて計算されます。
  • インセンティブ報酬: 営業成績などに応じて支払われる変動報酬。

原則として、労働の対価ではないもの(慶弔見舞金、出張旅費の実費弁償など)は賃金には含まれません。しかし、多くの手当や臨時的な報酬も対象となるため、年間で支払われる賃金の合計額に対して保険料が課されると理解しておくと良いでしょう。

賞与や手当が雇用保険料に与える影響

賞与や各種手当は、月々の基本給に加えて支給されるため、その月の雇用保険料、または賞与支給月にまとめて計算されることで、年間の雇用保険料の総額に大きな影響を与えます。例えば、夏と冬にそれぞれ月給の2ヶ月分の賞与が支給される場合、その月の賃金総額は大幅に増え、それに伴って雇用保険料も高くなります。

これは、多くの手当を受け取っている場合も同様です。例えば、残業が多くて残業手当が高額になる月は、その月の賃金総額が増えるため、雇用保険料も通常より多くなります。一見すると負担が増えるように感じられますが、雇用保険の給付額(例えば失業給付の基本手当など)は、原則として過去の賃金(日額)を基に計算されるため、支払った保険料が多いほど、将来受け取れる給付額も多くなる可能性があります。つまり、高額な賃金を得て保険料を多く支払っている人は、万が一の際に手厚い保障を受けられる可能性が高まるということです。

月給以外の収入と保険料

雇用保険料は、月給だけでなく、年俸制の場合や、日給・時給で働く場合でも、労働の対価として支払われるすべての賃金が対象となります。年俸制の場合は、年俸を12ヶ月で割って毎月の賃金とし、そこに料率をかけて計算するのが一般的です。日給や時給で働く場合も、その月の稼働時間に応じた賃金総額に料率を適用します。

ただし、労働の対価として認められない性質の金銭、例えば結婚祝い金や災害見舞金といった臨時の慶弔費や、出張時の実費弁償としての交通費・宿泊費などは、原則として雇用保険料の計算対象とはなりません。あくまで「労働の対価」として継続的に支払われるものかどうかが判断基準となります。不明な点があれば、会社の経理担当者や社会保険労務士、ハローワークなどに確認することが重要です。

雇用形態による違い:正社員、パート、アルバイト

雇用保険加入の条件をおさらい

雇用保険は、全ての労働者が自動的に加入できるわけではありません。特定の条件を満たした労働者に対して、加入が義務付けられています。この条件は、正社員だけでなく、パートやアルバイトといった非正規雇用の労働者にも適用されます。主な加入条件は以下の通りです。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上であること: 週に20時間以上働く契約であれば、原則として対象となります。
  2. 31日以上継続して雇用される見込みがあること: 雇用契約書等で、31日以上働くことが明示されている場合や、雇用期間の定めがない場合などが該当します。
  3. 学生ではないこと: 昼間部の学生は原則として対象外ですが、休学中の学生や夜間部の学生、通信制の学生などで、上記の条件を満たす場合は加入対象となることがあります。

これらの条件を満たせば、雇用主は労働者の雇用保険加入手続きを行う義務があります。

パート・アルバイトでも雇用保険に入れる?

「パートだから」「アルバイトだから」という理由だけで、雇用保険に加入できないということはありません。先ほどお伝えした加入条件(週の所定労働時間20時間以上、31日以上の雇用見込み、学生でないこと)を満たしていれば、パートタイマーやアルバイトの方でも雇用保険に加入する義務が生じます。

たとえば、週に5日、1日4時間勤務しているパートタイマーであれば、週の労働時間は20時間になります。もし、その方が長期的に雇用される見込みであれば、正社員と同様に雇用保険に加入し、保険料を負担することになります。これにより、万が一失業した場合でも、基本手当などの給付を受ける資格を得ることができます。自分の働き方が雇用保険の加入条件を満たしているか、一度確認してみると良いでしょう。

加入できないケースと注意点

残念ながら、すべての労働者が雇用保険に加入できるわけではありません。以下のようなケースでは、原則として雇用保険の対象外となります。

  • 週の所定労働時間が20時間未満の場合: 短時間労働者で、週の労働時間が20時間に満たない場合、雇用保険の対象外となります。
  • 31日未満の雇用契約の場合: ごく短期間の雇用で、31日以上継続して雇用される見込みがない場合も対象外です。
  • 昼間部の学生: 勉学が主目的とみなされるため、原則として雇用保険の対象外です。ただし、休学中や卒業見込みで就職活動中の場合など、例外的に加入できるケースもあります。
  • 季節労働者や日雇労働者の一部: 雇用形態によっては、適用が異なる場合があります。

また、雇用保険への加入義務があるにもかかわらず、事業主が手続きを怠った場合は、労働者の権利が侵害されるだけでなく、事業主が罰則の対象となる可能性もあります。もしご自身の加入状況に疑問がある場合は、ハローワークや労働基準監督署、社会保険労務士に相談することをお勧めします。

知っておきたい!高齢者、休職中、公務員、個人事業主、経営者、生活保護受給者の雇用保険

個人事業主・経営者は雇用保険に加入できる?

個人事業主の方や、法人の代表取締役といった経営者の方自身は、原則として雇用保険に加入することはできません。これは、雇用保険が「労働者」を対象とした制度であり、個人事業主や経営者は、会社や事業の「使用者」にあたり、労働基準法上の労働者とは異なる立場にあるためです。

しかし、個人事業主の方が従業員を雇用する場合、その従業員が雇用保険の加入条件(週20時間以上の労働、31日以上の雇用見込みなど)を満たしていれば、個人事業主には雇用主として従業員を雇用保険に加入させる義務が生じます。この義務を怠ると、罰則の対象となる可能性がありますので注意が必要です。法人経営者の場合も、原則として役員報酬は雇用保険の対象外ですが、役員であっても同時に労働者としての実態がある場合は、例外的に加入対象となることがあります。中小企業の経営者の場合は、労働保険事務組合に委託することで、労働者と同じように労災保険に加入できる制度もありますが、雇用保険は別の扱いです。

高齢者、育児・介護休業中の特例

高齢者の雇用と生活を支えるため、65歳以上の労働者も雇用保険の適用対象となっています。以前は65歳を境に適用が変わる制度がありましたが、現在は年齢に関わらず、他の労働者と同様の条件で雇用保険に加入し、保険料を負担します。これにより、高齢で再就職を目指す際にも失業給付を受けることができ、安心して働き続けられる環境が整備されています。

また、育児や介護のために休業する労働者には、雇用保険から「育児休業給付」や「介護休業給付」が支給されます。これらの給付は、休業中の収入を補填し、労働者が育児や介護と仕事を両立できるよう支援するものです。さらに、育児休業中や介護休業中には、一定の要件を満たせば、健康保険料や厚生年金保険料だけでなく、雇用保険料も免除される制度があります。これにより、休業中の経済的負担を軽減し、安心して子育てや介護に取り組めるよう配慮されています。

公務員や生活保護受給者の場合

公務員(国家公務員、地方公務員)は、一般の労働者とは異なる特別な雇用形態にあります。そのため、原則として雇用保険の対象とはなりません。公務員には、「国家公務員退職手当法」や「地方公務員退職手当法」などに基づき、雇用保険とは別の退職給付制度が設けられています。しかし、一部の非常勤職員や臨時職員など、公務員であっても一般の雇用保険の加入条件を満たす場合には、雇用保険に加入することがあります。

一方、生活保護を受給している方が就労を目指す場合、ハローワークを通じて様々な就職支援を受けることができます。就労によって収入を得た場合、原則として得られた収入に応じて生活保護費が調整されます。生活保護を受給している方が雇用保険の加入条件を満たす職に就いた場合、他の労働者と同様に雇用保険に加入し、保険料を負担することになります。この場合、雇用保険料が天引きされた後の収入で生活保護費が計算されるため、生活保護制度と雇用保険制度はそれぞれ独立した形で機能します。

最新の情報や詳細については、厚生労働省のウェブサイトやハローワークの窓口などでご確認ください。