雇用保険は、働く人の生活と雇用の安定を支える大切な社会保険制度です。

失業時のセーフティネットだけでなく、育児や介護、そしてスキルアップのための支援も充実しています。

近年、働き方が多様化する中で、雇用保険制度も大きく変わろうとしています。特に、2024年以降に発表された法改正は、多くの労働者に影響を与えるでしょう。

この記事では、雇用保険の基本的な加入条件から、具体的な手続き、さらには最新の法改正情報まで、知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。

雇用保険の加入条件とは?週20時間以上が鍵

基本的な加入条件を確認しよう

雇用保険に加入できるかどうかは、いくつかの条件によって決まります。原則として、以下の3つの条件をすべて満たす労働者が雇用保険の被保険者となります。

  1. 雇用契約が31日以上あること:雇用期間に定めがない場合や、更新の可能性がある場合もこれに該当します。長期的な雇用が見込まれる場合に適用されます。
  2. 所定労働時間が週20時間以上あること:現在の一般的な基準として、週の勤務時間が20時間以上であることが条件です。これには、残業時間は含まれず、あくまで所定の労働時間が基準となります。
  3. 学生でないこと:原則として、昼間部に通う学生は対象外です。ただし、夜間や通信制の学生で、一定の要件を満たす場合は加入対象となる特例があります。

これらの条件は、労働者の安定した雇用状況と、週に一定以上の労働時間を確保しているかどうかが判断基準となっています。65歳以上の高齢者の方でも、上記の条件を満たせば加入対象となり、年齢による制限はありません。

【2028年改正】週10時間以上が新たな基準に

雇用保険制度は、2024年5月に公布された「雇用保険法等の一部を改正する法律」により、大きな変化を迎えます。

特に注目すべきは、雇用保険の適用範囲の拡大です。これまで「週所定労働時間が20時間以上」が加入条件でしたが、2028年10月1日からは、これが「週10時間以上」に引き下げられる予定です。

この改正により、これまでは雇用保険の対象外だった短時間労働者も、新たに加入できるようになります。厚生労働省の推計では、2023年時点で週10時間から20時間未満で働く約506万人もの人々が、新たに雇用保険のセーフティネットの対象となると見込まれています。

この変更は、パートタイマーやアルバイトなど、多様な働き方をする人々が安心して働き続けられるよう、雇用のセーフティネットをより広範に構築することを目的としています。施行はまだ先ですが、今からその内容を把握しておくことが重要です。

学生や高齢者の特例と注意点

基本的な加入条件に加えて、特定の状況下にある労働者には特例や注意点があります。

まず、学生については、原則として雇用保険の適用対象外ですが、夜間部や通信制の学校に通っている学生、または休学中の学生で、一般的な労働者と同様に就労している場合は、加入対象となることがあります。これは、学業と仕事の両立を前提とした、通常の労働者としての実態が認められる場合に限られます。

また、65歳以上の労働者についても、基本的な加入条件(雇用契約が31日以上、週20時間以上(将来的には10時間以上))を満たせば、雇用保険の被保険者となります。年齢に関わらず、働く意欲のある方が安心して働けるよう支援する制度設計がされています。

事業主側から見ると、これらの条件を満たす従業員を雇用保険に加入させることは法的な義務です。もし加入対象となる従業員を故意または過失で加入させなかった場合、事業主は罰則の対象となるだけでなく、従業員が給付を受けられないなどの不利益を被る可能性がありますので、細心の注意が必要です。

雇用保険の加入手続きと資格取得届の出し方

事業主が行う初期手続き

従業員を雇用する事業主には、雇用保険への加入手続きを行う義務があります。会社を設立したり、初めて従業員を雇用したりする際には、以下の初期手続きが重要となります。

  1. 労働保険関係成立届の提出:まず、労働保険(雇用保険と労災保険の総称)の適用事業となったことを、労働基準監督署またはハローワークに届け出ます。これにより、事業所が労働保険の適用事業として認められます。
  2. 雇用保険適用事業所設置届の提出:次に、事業所が雇用保険の適用事業であることをハローワークに届け出ます。これは、事業所が雇用保険の被保険者資格の取得・喪失の手続きを行えるようになるための手続きです。

これらの手続きは、事業主が雇用保険の義務を果たすための基盤となります。特に、初めて従業員を雇用する際には、これらの書類を迅速に提出し、従業員が安心して働ける環境を整えることが求められます。手続きは電子申請も可能ですので、積極的に活用を検討しましょう。

雇用保険被保険者資格取得届の具体的な提出方法

事業主が初期手続きを済ませたら、実際に従業員を雇用するたびに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。

この届出は、従業員を雇用した月の翌月10日までに、事業所の所在地を管轄するハローワークへ提出しなければなりません。提出が遅れると、従業員が本来受けられるはずの給付が遅れたり、遡って手続きが必要になったりする可能性があるので注意が必要です。

提出時には、原則として「雇用保険被保険者資格取得届」のほか、雇用契約書や賃金台帳、出勤簿など、従業員の雇用状況や労働条件を証明できる書類の添付が求められる場合があります。

最近では、これらの手続きを電子申請で行うことも可能になっており、郵送や窓口での手続きに比べて利便性が向上しています。スムーズな手続きのためにも、電子申請システムの利用を検討してみるのも良いでしょう。

加入手続きを怠るとどうなる?

雇用保険の加入手続きは事業主の義務であり、これを怠ると様々な問題が生じます。

まず、事業主に対しては、罰則が科される可能性があります。雇用保険法では、届出を怠ったり虚偽の届出をしたりした事業主に対し、罰金などの罰則を設けています。また、未加入期間中の保険料を遡って徴収されるだけでなく、延滞金が課されることもあります。

従業員にとっても深刻な不利益が生じます。雇用保険に加入していないと、失業した際に基本手当(いわゆる失業保険)を受給できません。また、育児休業給付や介護休業給付、教育訓練給付といった様々な給付金も受け取ることができなくなります。

もし加入漏れが発覚した場合は、遡って加入手続きを行うことになりますが、その際にも多くの時間と労力がかかります。従業員の労働条件に変更があった場合(例:勤務時間が増えて加入対象になった、または減って対象外になった場合)も、速やかに手続きを行う必要があります。

雇用保険の加入期間と加入履歴の照会方法

雇用保険の加入期間が重要な理由

雇用保険の加入期間は、単に「保険に加入している」という事実だけでなく、将来的に受け取れる様々な給付の要件として非常に重要です。

例えば、失業した際に受け取る「基本手当(失業保険)」は、離職日以前の一定期間において、雇用保険の被保険者であった期間が一定以上あることが受給条件となっています。この期間が不足していると、たとえ失業しても基本手当を受け取ることができません。

また、育児休業給付金や介護休業給付金、さらには教育訓練給付金など、生活の安定やスキルアップを支援するための給付金も、それぞれ定められた雇用保険の加入期間(被保険者期間)を満たしていることが受給要件となります。

このように、雇用保険の加入期間は、働く人が安心してキャリアを継続し、人生の様々な転機において経済的な支援を受けられるかどうかを左右する、非常に重要な要素なのです。自身の加入期間を定期的に確認し、把握しておくことが賢明です。

自身の加入履歴を確認する方法

自分がいつからいつまで雇用保険に加入していたか、正確な加入履歴は、ハローワークで確認することができます。

確認したい場合は、最寄りのハローワークの窓口に行き、「雇用保険被保険者期間照会票」を提出します。その際、本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)と、可能であれば雇用保険被保険者証など、被保険者番号がわかる書類を持参すると手続きがスムーズに進みます。

また、過去に退職した際に交付される「雇用保険被保険者離職票」や、会社から渡される「雇用保険被保険者証」にも、被保険者番号や資格取得年月日などの情報が記載されています。

最近では、マイナポータルを通じて自身の社会保険情報(雇用保険を含む)を確認できるようになってきています。オンラインで手軽に確認できる手段が増えているため、ご自身のライフスタイルに合った方法で、定期的に加入履歴をチェックすることをおすすめします。

加入期間と給付額の関係

雇用保険の加入期間は、受け取れる給付金の種類だけでなく、その給付日数や給付額にも大きく影響します。

例えば、基本手当(失業保険)の受給期間は、雇用保険の加入期間が長ければ長いほど、所定給付日数が増加します。一般的には、被保険者期間が1年未満では受給資格がなく、1年以上5年未満で90日、5年以上10年未満で120日、20年以上で330日といったように、段階的に給付日数が増えていきます。

また、育児休業給付金や介護休業給付金も、受給期間や金額が加入期間の条件によって決定されます。例えば、育児休業給付の支給率は、休業開始前の賃金の67%(育児休業開始から180日経過後は50%)ですが、これも受給要件を満たしていることが前提です。

さらに、教育訓練給付金においても、給付率が最大80%に引き上げられる(2024年10月~)など、より手厚い支援が受けられるようになりますが、これらも一定の加入期間を満たすことで適用されます。このように、加入期間は、将来受けられる支援の質を左右する重要な要素なのです。

雇用保険の遡って加入できる?条件と必要書類

遡及加入が認められるケースとは

「本来雇用保険に加入しているはずだったのに、なぜか未加入だった」というケースは、実は少なくありません。このような場合、過去に遡って雇用保険に加入する「遡及加入(そきゅうかにゅう)」が認められることがあります。

遡及加入が認められるのは、主に以下のような状況です。

  • 事業主が雇用保険の加入手続きを忘れていた、または誤解していた場合
  • 従業員の労働条件が途中で変わり、本来加入対象になったにも関わらず手続きがされていなかった場合

ただし、遡及加入には時効があります。原則として、雇用保険の資格取得届は、雇用された日の翌日から2年以内に提出しなければなりません。この期間を超えると、原則として遡及加入は認められません。しかし、事業主の責任が明確な場合など、特別な事情がある場合は、2年を超えて遡及加入が認められるケースもありますので、まずはハローワークに相談することが重要です。

遡及加入の手続きと必要書類

遡及加入の手続きは、通常の加入手続きよりも少し複雑になります。

まず、従業員本人が未加入だった期間の状況を把握し、管轄のハローワークに相談することから始まります。ハローワークは、事業主に対し未加入期間の調査や手続きを指導することになります。

遡及加入の手続きには、雇用関係や労働実態を証明するための様々な書類が必要です。

  • 雇用契約書:雇用期間、労働時間、賃金などの条件が明記されたもの。
  • 賃金台帳・給与明細:給与の支払実績を証明するもの。
  • 出勤簿・タイムカード:実際の労働時間を証明するもの。
  • 健康保険・厚生年金保険の記録:社会保険に加入していた期間の証明。

これらの書類を基に、ハローワークが雇用期間や労働条件を認定し、遡って資格取得の手続きを行います。事業主の協力が不可欠であり、従業員と事業主双方の連携が求められます。

遡及加入のメリット・デメリット

遡及加入には、メリットとデメリットの両方があります。

【メリット】

  • 失業手当の受給資格取得:未加入期間が解消されることで、将来的に失業した際に基本手当を受け取れる可能性が生じます。
  • 各種給付金の受給:育児休業給付、介護休業給付、教育訓練給付など、雇用保険から支給される様々な給付金を受け取るための資格要件を満たせるようになります。
  • 雇用のセーフティネットの確保:万が一の事態に備え、安心して働ける環境が整います。

【デメリット】

  • 保険料の支払い:遡って加入する期間分の雇用保険料(労働者負担分と事業主負担分)を一括で支払う必要が生じる場合があります。これは、未加入期間が長ければ長いほど負担が大きくなります。
  • 手続きの手間と時間:通常の加入手続きよりも複雑で、ハローワークや事業主との調整に時間と労力がかかります。

メリットを享受するためには、デメリットも理解し、速やかに対応することが重要です。もし遡及加入が必要だと感じたら、まずはハローワークに相談し、適切な手続きを進めましょう。

雇用保険の再加入と継続について

退職後の再就職と雇用保険

一度会社を退職し、別の会社に再就職した場合、雇用保険にはどのように扱われるのでしょうか。

基本的には、新しい職場で改めて雇用保険に加入することになります。退職した際に「雇用保険被保険者資格喪失届」が提出され、前の会社での被保険者資格は一旦失われます。そして、新しい会社で加入条件を満たせば、「雇用保険被保険者資格取得届」が提出され、再び雇用保険の被保険者となります。

ここで重要なのは、「雇用保険被保険者番号」は原則として変わらないという点です。初めて雇用保険に加入した際に付与された番号は、転職しても引き継がれ、その番号によってこれまでの加入履歴が管理されます。複数の会社で働いた経験があっても、そのすべてが同じ被保険者番号に紐づいて記録されるため、将来的に給付金を受給する際の加入期間の合算がスムーズに行われます。

再就職した際は、新しい会社が速やかに加入手続きを行ってくれるはずですが、念のためご自身の被保険者証の交付状況などを確認しておくと安心です。

育児休業・介護休業中の雇用保険の扱い

育児休業や介護休業を取得する際も、雇用保険は重要な役割を果たします。

休業期間中、労働者は賃金を得ることが難しくなりますが、雇用保険からは「育児休業給付金」や「介護休業給付金」が支給され、生活を経済的に支えます。これらの給付金は、休業開始前の賃金を基に計算され、一定の期間支給されます。

さらに、2025年4月からは、共働き・共育てを推進するために、新たな給付制度が創設されます。具体的には、「出生後休業支援給付」「育児時短就業給付」の二つです。出生後休業支援給付は、子の出生後に一定期間休業した場合に支給され、育児時短就業給付は、育児のために短時間勤務を選択した場合に、賃金の減少分を一部補填するものです。

これらの制度により、育児や介護と仕事の両立がよりしやすくなり、多様なライフステージにおける労働者の生活の安定が図られます。

教育訓練やリスキリング支援の継続利用

雇用保険制度は、「人への投資」の強化を目的として、教育訓練やリスキリング(学び直し)支援も充実させています。

特に、教育訓練給付金の制度は拡充されており、2024年10月からは、給付率が受講費用の最大70%から80%に引き上げられます。さらに、訓練修了後に賃金増加や資格取得などを要件とした追加給付(10%)も創設され、合計で最大90%の支援が受けられるようになります。

また、自己都合退職者についても、職業訓練を受けた場合には、給付制限なく基本手当を受給できるようになります(2025年4月~)。これにより、キャリアチェンジを目指す方々が安心して学び直しに取り組めるようになります。

さらに、2025年10月からは、被保険者が教育訓練のために休暇を取得した場合に、その期間中の生活を支える新たな給付金「教育訓練休暇給付金」も創設される予定です。これらの支援を活用することで、自身のキャリアアップやスキルアップを積極的に図ることが可能になります。