概要: 雇用保険料の計算方法について、給与明細で確認できる基本的な仕組みから、8万8千円といった特定の金額を境にした計算の違いまでを解説します。500円や9万円といった例を参考に、ご自身の保険料がいくらになるか理解を深めましょう。
雇用保険料の基本:毎月の支払額はどう決まる?
雇用保険料はなぜ払うの?その目的と役割
雇用保険は、働く人々が安定した生活を送るための大切な社会保障制度の一つです。
もし失業してしまった場合や、育児休業・介護休業を取得した場合に、生活を支えるための給付金が支給されます。
これにより、労働者は安心して再就職活動に専念できたり、仕事と家庭の両立を図りやすくなったりするのです。
また、雇用保険は失業給付だけでなく、雇用の安定や能力開発を支援する事業(雇用保険二事業)にも使われています。
例えば、再就職のための職業訓練や、企業の雇用維持のための助成金などがこれに該当します。
これらの制度は、労働者だけでなく企業にとっても、安定した労働環境を維持し、生産性を向上させるために重要な役割を担っています。
毎月給与から天引きされている雇用保険料は、いざという時のための「お守り」のようなものだと考えると良いでしょう。
将来の安心のため、きちんと理解しておくことが大切です。
計算の基本!「賃金総額」と「雇用保険料率」
雇用保険料の計算は、実はとてもシンプルです。基本となる計算式は「賃金総額 × 雇用保険料率」です。
ここでいう「賃金総額」とは、基本給に加えて残業代、住宅手当、通勤手当など、毎月支払われるほぼ全ての金銭を指します。
賞与も計算対象となりますが、会社が臨時に支給する金一封のようなものは含まれません。給与だけでなく、ボーナスからも雇用保険料が引かれるのはこのためです。
次に「雇用保険料率」ですが、これは国が定めた割合で、業種や年度によって変動します。
この料率には、労働者が負担する分と事業主が負担する分の2種類があります。
給与明細に記載されているのは、通常、労働者負担分のみです。
この2つの要素を理解すれば、ご自身の雇用保険料がどのように決まっているのかが明確になります。
正確な計算のためにも、ご自身の賃金総額と適用される雇用保険料率を把握しておくことが重要です。
2024年度最新版!業種別の雇用保険料率をチェック
雇用保険料率は、業種によって異なります。これは、産業ごとの失業リスクや雇用安定事業への寄与度などを考慮しているためです。
2024年度(令和6年度)の最新の料率を見てみましょう。労働者負担分は以下の通りです。
| 事業の種類 | 労働者負担 | 事業主負担 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 一般の事業 | 6/1,000 | 9.5/1,000 | 15.5/1,000 |
| 農林水産・清酒製造の事業 | 7/1,000 | 10.5/1,000 | 17.5/1,000 |
| 建設の事業 | 7/1,000 | 11.5/1,000 | 18.5/1,000 |
多くのサラリーマンやパート・アルバイトの方が該当するのは、「一般の事業」です。
この表からわかるように、農林水産・清酒製造の事業や建設の事業では、一般の事業よりも料率が少し高めに設定されています。
ご自身の勤めている会社の業種を確認し、どの料率が適用されるかを把握しておきましょう。
これらの料率は毎年見直される可能性があるため、常に最新情報をチェックすることが賢い管理の第一歩となります。
特に、2025年度には失業等給付等の保険料率が引き下げられる見込みであることも頭に入れておくと良いでしょう。
給与明細でチェック! 雇用保険料はいくらから?
自分の給与明細、どこを見ればいい?
毎月受け取る給与明細には、基本給や残業代だけでなく、さまざまな控除項目が記載されています。
雇用保険料は、この「控除」の欄に表示されています。通常、「雇用保険」や「雇用保険料」といった項目名で記載されているはずです。
この金額が、あなたの賃金総額に上記で説明した労働者負担分の料率を掛け合わせた結果となります。
給与明細は、自分の賃金の内訳や控除されている社会保険料などを確認できる重要な書類です。
毎月きちんと目を通し、記載されている金額が正しいか、ざっくりとでも把握しておく習慣をつけましょう。
万が一、計算に誤りがあると感じた場合は、会社の経理担当者や労働基準監督署に相談することも可能です。
自分の権利を守るためにも、給与明細のチェックは欠かせません。
月給30万円の場合、いくら払ってる?具体的な計算例
具体的な数字で計算してみると、雇用保険料がいくらになるのかがより明確に理解できます。
例えば、月給30万円(賃金総額が30万円)の一般事業に勤める従業員の場合を考えてみましょう。
2024年度の一般事業における労働者負担の雇用保険料率は「6/1,000(0.006)」です。
計算式に当てはめると、300,000円 × 6/1,000 = 1,800円となります。
つまり、月給30万円の方の場合、給与明細の雇用保険料の欄には1,800円と記載されているはずです。
これは労働者負担分のみの金額で、会社はこれに加えて事業主負担分の2,850円(30万円 × 9.5/1,000)も支払っています。
合計すると、月々4,650円が雇用保険として支払われていることになります。
ご自身の月給に当てはめて計算してみると、自分が毎月いくら雇用保険に貢献しているのかが分かります。
賞与からも引かれる?対象となる賃金とは
雇用保険料の計算対象となる「賃金総額」には、基本給や各種手当だけでなく、賞与(ボーナス)も含まれます。
ただし、臨時で支給されるような特別手当や金一封などは対象外です。
多くの会社で年2回支給されるボーナスからも、忘れずに雇用保険料が控除されているはずです。
例えば、夏のボーナスが50万円だった場合、一般の事業であれば500,000円 × 6/1,000 = 3,000円が雇用保険料として引かれます。
このように、賞与も雇用保険料の計算対象となるため、年間の雇用保険料を考える際には、月々の給与だけでなく賞与からの控除額も考慮に入れる必要があります。
賃金総額に含まれるかどうかは、雇用契約書や就業規則に定められている「賃金」の範囲によって決まります。
不明な点があれば、会社の担当部署に確認することが一番確実です。
「8万8千円の壁」とは? 雇用保険料の計算のポイント
雇用保険加入の条件「週20時間以上」と「31日以上の雇用見込み」
雇用保険は、全ての労働者が自動的に加入できるわけではありません。加入にはいくつかの条件があります。
最も一般的な条件は、「週の所定労働時間が20時間以上であること」と「31日以上の雇用見込みがあること」の二点です。
この条件を満たしていれば、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトの方でも雇用保険に加入する義務があります。
逆に言えば、週の労働時間が20時間未満の場合や、単発のアルバイトなどで雇用期間が31日未満と決まっている場合は、雇用保険の対象外となります。
これは、学生アルバイトなど短期間・短時間で働く方が多いため、知っておくと良いでしょう。
また、事業主はこれらの条件を満たす労働者を雇用した場合、必ず雇用保険の加入手続きを行わなければなりません。
ご自身の勤務状況がこれらの条件に当てはまるか、一度確認してみてください。
雇用保険料の対象外となる報酬や期間
前述の通り、雇用保険料は「賃金総額」を基に計算されますが、賃金の中には計算対象とならないものもあります。
例えば、結婚祝金や災害見舞金といった臨時で支給される恩恵的な給付は、賃金とはみなされず、雇用保険料の計算対象外です。
また、出張旅費や宿泊費などの実費弁償的な性質を持つものも、賃金には含まれません。
さらに、雇用保険の被保険者資格を喪失した期間や、育児休業給付金・介護休業給付金など、雇用保険から直接支給される給付金も、その給付金自体が雇用保険料の対象となる賃金ではありません。
これらを理解しておくことで、給与明細に記載されている賃金総額と、実際に雇用保険料が計算される際の賃金総額に違いがある理由が分かります。
もし不明な点があれば、会社の経理担当者に問い合わせて確認するのが確実です。
退職後の生活を支える!失業保険の受給条件と期間
雇用保険に加入する最大のメリットの一つは、失業した際に「失業保険(基本手当)」が受給できることです。
失業保険を受給するためには、離職日以前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12ヶ月以上あることが原則的な条件です。
ただし、会社都合など特定理由離職者の場合は、離職日以前1年間に通算して6ヶ月以上あれば受給資格が得られます。
受給できる期間(所定給付日数)は、退職理由、被保険者期間、離職時の年齢によって異なり、90日から最大360日まであります。
例えば、月給30万円(年収360万円)で、30歳、会社都合退職、被保険者期間10年以上20年未満の場合、失業保険の総受給額は約118万4千円と試算されます。
失業保険は、次の仕事を見つけるまでの間、生活の大きな支えとなります。
失業保険の申請は、ハローワークで行うため、もしもの時には速やかに手続きを進めることが大切です。
所得が「500円」「9万円」のケース別シミュレーション
月収が少ない場合でも雇用保険料は発生する?
「雇用保険料 = 賃金総額 × 雇用保険料率」という計算式が基本となるため、たとえ月収が少なくても、雇用保険の加入条件を満たしていれば雇用保険料は発生します。
例えば、月収が500円の短期アルバイトで、かつ週20時間以上勤務、31日以上の雇用見込みがある場合を想定してみましょう。
非常に稀なケースですが、もしこの条件を満たしていれば、一般の事業の労働者負担率6/1,000を適用すると、500円 × 6/1,000 = 3円の雇用保険料が発生します。
実際には、このような低賃金で上記の雇用保険加入条件を満たすことはほとんどありません。
しかし、このシミュレーションから、雇用保険料には最低額という概念がなく、賃金が1円でもあれば料率に応じて計算されるということが理解できるでしょう。
重要なのは、給与の多寡にかかわらず、雇用保険の加入条件を満たしているかどうかが、雇用保険料発生の鍵となる点です。
月収9万円のパートタイマー、雇用保険料はいくら?
次に、もう少し現実的な例として、月収9万円のパートタイマーの場合を考えてみましょう。
この方が週20時間以上勤務し、31日以上の雇用見込みがあるため、雇用保険に加入しているとします。
一般の事業の労働者負担率6/1,000を適用して計算すると、90,000円 × 6/1,000 = 540円となります。
月収が9万円の場合でも、毎月540円が雇用保険料として控除されることになります。
年間にすると6,480円となり、決して無視できない金額です。
このように、パートやアルバイトであっても、一定の条件を満たせば正社員と同じように雇用保険料を負担し、そして失業時には給付を受けられる資格を持つことになります。
自分の働き方と雇用保険の関係を正しく理解し、賢く制度を活用していきましょう。
失業保険の受給額はどう変わる?所得と給付率の関係
失業保険(基本手当)の受給額は、離職前の所得(賃金日額)と給付率によって大きく変わります。
賃金日額とは、離職日直前6ヶ月間に支払われた賃金(賞与除く)の合計額を180で割った金額です。
この賃金日額に対し、45%〜80%の給付率が適用され、基本手当日額が算出されます。
給付率は、賃金日額が低いほど高く、高いほど低くなるという特徴があります。これは、生活保障の観点から低所得者を手厚く保護するためです。
例えば、賃金日額が2,577円未満の場合は80%、15,430円以上の場合は50%(60歳~64歳は45%)といった具体的な給付率が設定されています(令和5年8月時点)。
月収が低かった方ほど、賃金日額に対する給付の割合が高くなるため、より手厚いサポートを受けられる可能性があります。
受給総額は、この基本手当日額に所定給付日数を掛け合わせたものです。
自分の所得が、失業時の給付額にどのように影響するかを知ることは、将来設計を考える上で非常に役立ちます。
雇用保険料を賢く管理! エクセル計算式と注意点
自分で計算してみよう!エクセル計算式の作り方
雇用保険料は、複雑な計算は不要なので、エクセルを使えば簡単に自分で計算することができます。
まず、シートに以下の項目を入力しましょう。
- A1: 賃金総額(例: 300000)
- A2: 労働者負担料率(例: 0.006 ※6/1,000の場合)
- A3: 雇用保険料
そして、A3のセルに以下の計算式を入力します。「=ROUNDDOWN(A1*A2,0)」
「ROUNDDOWN」関数を使うのは、雇用保険料は通常、1円未満の端数を切り捨てるためです。
この式を使えば、賃金総額と料率を入力するだけで、自動的に雇用保険料が計算されます。
賞与の月は、賃金総額に賞与額を合算して計算することで、年間の雇用保険料を把握することも可能です。
自分で計算する習慣をつければ、給与明細のチェックもより正確になり、家計管理にも役立つでしょう。
ぜひ一度、ご自身の雇用保険料をエクセルで計算してみてください。
国民健康保険料も軽減!失業時のセーフティネット
雇用保険制度の重要な側面として、失業時の社会保障の軽減制度があります。
倒産、解雇、雇い止めなど、非自発的な理由で離職し、国民健康保険に加入した方は、国民健康保険料が軽減される可能性があります。
これは、雇用保険の「特定受給資格者」または「特定理由離職者」に該当する方が対象となります。
具体的には、給与所得を一定割合(例えば30/100)に換算して国民健康保険料を算出するなど、保険料負担が大幅に軽減される措置です。
この軽減制度は、失業期間中の経済的な負担を減らし、安心して生活再建に取り組めるようにするための大切なセーフティネットです。
申請には、ハローワークで発行される「雇用保険受給資格者証」と印鑑、本人確認書類などを持参し、お住まいの市区町村役場の国民健康保険担当窓口で手続きを行う必要があります。
知っているか知らないかで、大きな違いが出る制度なので、もしもの時に備えて覚えておきましょう。
2025年度も要チェック!将来の料率変更に備える
雇用保険料率は、国の経済状況や雇用情勢によって変動する可能性があります。
実際、参考情報にもある通り、2025年度(令和7年度)には失業等給付等の保険料率が引き下げられる見込みです。
具体的には、一般の事業で労働者負担が5.5/1,000、事業主負担が9/1,000(合計14.5/1,000)になる予定です。
このような変更は、毎月の手取り額や事業主の負担額に影響を与えるため、常に最新情報をチェックすることが重要です。
厚生労働省やハローワークのウェブサイトで最新の料率が公表されるので、定期的に確認する習慣をつけましょう。
料率の変更は、雇用保険制度全体のバランスを保つために行われるものであり、私たちの生活に直接関わってきます。
賢く雇用保険料を管理するためにも、将来の変更点にも目を向け、備えておくことが大切です。
まとめ
よくある質問
Q: 雇用保険料は具体的にいくらから引かれますか?
A: 雇用保険料は、原則として給与から天引きされます。具体的な金額は、ご自身の賃金月額によって決まりますが、最低でも数円から徴収される場合があります。
Q: 「8万8千円の壁」とは何ですか?
A: 「8万8千円の壁」とは、雇用保険料の計算において、賃金月額が8万8千円(日額2,934円)を境に保険料率の適用が変わることを指す俗称です。ただし、これはあくまで計算上の目安であり、実際の保険料は賃金月額全体に対して計算されます。
Q: 給与が500円の場合、雇用保険料はいくらになりますか?
A: 給与が500円の場合、雇用保険料は非常に少額になります。具体的な計算は、給与総額と適用される保険料率によって決まりますが、多くの場合、10円未満となる可能性が高いです。
Q: 雇用保険料が突然上がったのはなぜですか?
A: 雇用保険料が上がった理由としては、ご自身の給与(賃金月額)が上がった、もしくは雇用保険の保険料率が改定されたなどが考えられます。直近の給与明細で賃金月額の変化を確認してみてください。
Q: 70歳以上の雇用保険料はどうなりますか?
A: 70歳以上の方については、雇用保険の被保険者とはならず、原則として雇用保険料はかかりません。ただし、例外的なケースもありますので、詳細についてはハローワークにご確認ください。
