概要: タイムカードの保管期間は労働基準法で定められており、従業員の労働時間を正しく記録・管理するために不可欠です。保管期間を過ぎたり、押し忘れ・打刻漏れが発生したりすると、罰則の対象となる可能性もあります。本記事では、タイムカードの保管期間の基本から、押し忘れ・打刻漏れの対処法までを詳しく解説します。
タイムカードの保管期間はなぜ重要?労働基準法との関係
日々の業務で当たり前のように使われているタイムカード。単なる出退勤の記録だと考えていませんか?
実は、タイムカードは労働時間管理の要であり、労働基準法と深く結びついています。
その適切な管理は、企業と従業員双方にとって非常に重要な意味を持つものです。
労働時間管理の基本中の基本
タイムカードは、従業員の労働時間を客観的に証明する最も基本的な記録です。
誰がいつ会社に来て、いつ退社したのか。休憩時間は適切に取得されているか。
こうした情報を正確に記録することで、サービス残業の防止や過重労働の抑制に繋がります。
近年では、2019年4月からの働き方改革の一環として、企業には労働者の労働時間の「客観的な把握」が法律で義務付けられました。
これは、タイムカードだけでなく、ICカード、パソコンの使用時間の記録など、客観的な記録に基づき、労働時間を適切に把握することを求めています。
この義務を怠ると、労働安全衛生法違反となり、労働基準監督署からの指導や是正勧告の対象となる可能性があります。
適切なタイムカード管理は、従業員の健康を守り、健全な職場環境を維持するための第一歩と言えるでしょう。
賃金支払いの根拠となる重要性
タイムカードは、従業員への賃金計算の根拠となる極めて重要な書類です。
労働基準法第24条では、「賃金全額払いの原則」が定められており、企業は労働者が働いた分の賃金を全額支払う義務があります。
この賃金計算の基となるのが、タイムカードによって記録された正確な労働時間なのです。
タイムカードの記録に基づき、賃金台帳が作成され、それが給与計算へと繋がります。
もしタイムカードの記録が不正確であれば、賃金計算に誤りが生じ、従業員との間で賃金トラブルに発展する可能性も否定できません。
また、労働基準監督署の調査が入った際には、タイムカードを含む勤怠記録の提出が求められます。
もし提出できなかったり、記録が不十分だったりすれば、企業は指導や是正勧告を受けるだけでなく、信頼性を大きく損なうことにもなりかねません。
企業にとって、タイムカードは賃金支払いの透明性と公正性を担保するための不可欠なツールなのです。
未払い賃金トラブルを避けるために
賃金に関するトラブルは、企業と従業員の関係を悪化させるだけでなく、企業の評判にも悪影響を及ぼしかねません。
タイムカードの適切な保管は、こうした未払い賃金トラブルを未然に防ぐ上で非常に重要な役割を果たします。
労働基準法の改正により、賃金請求権の消滅時効は2年から5年に延長されました(現在は経過措置期間中)。
この改正により、従業員は過去5年間に遡って未払い賃金を請求する権利を持つことになります。
特に、退職した従業員からの請求は、企業にとって大きなリスクとなり得ます。
退職後であっても、企業には定められた期間、タイムカードを保管する義務があり、請求があった際にはその記録を提示する必要があります。
長期にわたるタイムカードの保管は、万が一の賃金請求に対して、企業が適切な労働時間管理を行っていたことの強力な証拠となります。
これにより、不要な紛争を避け、企業の正当性を主張するための基盤を構築することができるのです。
タイムカードの保管期間と「7年」という数字の真実
タイムカードの保管期間について調べていると、「3年」「5年」、そして「7年」といった様々な数字を目にすることがあります。
一体どれが正しいのでしょうか?
この章では、労働基準法が定める保管期間の最新情報と、それを取り巻く数字の真実について詳しく解説します。
労働基準法が定める保管期間の変遷
タイムカードを含む労働時間に関する記録の保管期間は、実は近年変更がありました。
2020年4月の労働基準法改正により、従業員の賃金請求権の消滅時効が、従来の2年から5年に延長されたことに伴い、タイムカードや賃金台帳などの記録の保管期間も、従来の3年から5年に延長されました。
ただし、注意すべき点として、この5年への延長は現在は経過措置期間中であり、当分の間は3年間の保管でも問題ないとされています。
しかし、将来的に5年間の保管が正式に義務付けられる見込みであるため、企業としては、今後の法改正を見据え、長期保管に適した管理方法を検討しておくことが強く推奨されます。
例えば、電子データでの保管であれば、物理的なスペースを削減しつつ、長期的な保存が容易になります。
この法改正は、労働者の権利保護を強化する動きの一環であり、企業側にはより一層の正確な勤怠管理と長期的な記録保存が求められています。
「7年」という数字が意味するもの
労働基準法での保管期間が5年に延長されたとはいえ、依然として「タイムカードは7年保管するべき」という話を聞くことがあります。
この「7年」という数字は、実は労働基準法以外の法律、特に税法上の書類保管期間に由来することが多いです。
例えば、法人税法や所得税法では、帳簿や書類を7年間保存することが義務付けられています。
賃金に関する記録は、税務調査の際にも確認される可能性があるため、多くの企業が税法上の保管期間に合わせて、労働基準法で定められた期間よりも長く、7年間保管しているのが実情です。
また、労使間のトラブルが長期化した場合や、不当解雇などの裁判に発展した場合、より長期間の証拠が必要となるケースもあります。
法定期間を超えて保管することは、企業のコンプライアンス強化に繋がり、予期せぬトラブルが発生した際に、自社を守るための強力な証拠となり得ます。
したがって、「労働基準法上の最低保管期間は5年(現状は経過措置で3年)だが、万全を期すなら7年以上」というのが実務上の賢明な判断と言えるでしょう。
保管期間の起算日と管理方法
タイムカードの保管期間を考える上で、重要なのが「いつから起算するか」という点です。
労働基準法に基づく保管期間の起算日は、原則として「給与の支払いが完了した日」からとなります。
例えば、3月末締めの給与が4月25日に支払われた場合、その月のタイムカードは4月25日から起算して保管期間を数えることになります。
また、従業員が退職した場合でも、同様に保管期間中はタイムカードを保管する義務があります。
退職したからといってすぐに廃棄してしまっては、後で未払い賃金などの請求があった際に、証拠を提示できなくなり、企業側が不利になる可能性があります。
保管方法としては、紙媒体でのファイリングが一般的ですが、近年では勤怠管理システムの導入により、電子データとして保管する企業が増えています。
電子化は、保管スペースの削減、検索性の向上、紛失リスクの低減など、多くのメリットがあります。
長期保管を見据え、セキュリティ対策が施された信頼性の高いシステムを導入し、定期的なバックアップを行うことで、大切な記録を確実に守ることができます。
アルバイトも他人事じゃない!タイムカードの保管義務
「正社員じゃないから関係ない」「アルバイトだからそこまで厳しくないだろう」――そう考えている方もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。
労働基準法は、雇用形態に関わらず、全ての労働者に適用されます。
つまり、アルバイトやパート従業員のタイムカードについても、企業には正社員と同様に保管義務があるのです。
雇用形態に関わらず適用される労働基準法
労働基準法は、雇用されるすべての人々の労働条件の最低基準を定めた法律です。
この「労働者」には、正社員だけでなく、契約社員、パートタイマー、そしてアルバイトも含まれます。
したがって、企業が従業員の労働時間を客観的に把握し、その記録であるタイムカードを適切に保管する義務は、雇用形態に関わらず普遍的に適用されるものです。
これは、労働時間管理の公平性を保ち、全ての労働者が安心して働ける環境を提供するための基盤となります。
もし、アルバイトだからという理由でタイムカードの管理が疎かになった場合、不適切な労働時間の把握や賃金計算の誤りに繋がり、労働基準法違反となる可能性があります。
企業は、雇用形態の多様化が進む現代において、全ての従業員に対して一貫した勤怠管理体制を確立する責任があるのです。
アルバイトだからといって、企業側の責任が軽くなることはありません。
労働基準監督署の指導対象となるケース
労働基準監督署は、労働基準法が遵守されているかを監督する機関です。
彼らの調査対象は、企業の規模や業種、そして従業員の雇用形態を問いません。
もし、アルバイトやパート従業員のタイムカードが適切に管理されていなかったり、必要な保管期間が守られていなかったりすれば、企業は労働基準監督署の指導や是正勧告の対象となります。
特に、労働基準法第109条に定められた保管義務を怠った場合、同法第120条に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
実際に、アルバイト従業員からの申告によって、労働基準監督署の調査が入り、勤怠管理の不備が指摘されるケースも少なくありません。
企業にとっては、アルバイト従業員のタイムカード管理も、法令遵守(コンプライアンス)上、極めて重要な課題であることを認識する必要があります。
適切な管理は、企業の信頼性を高め、不要な法的リスクを回避するための不可欠な要素です。
労働者自身の権利を守るために
アルバイトとして働く皆さんも、自身の労働時間に関する権利をしっかりと理解しておくことが重要です。
タイムカードは、あなたが働いた時間を客観的に証明する唯一無二の記録であり、未払い賃金やサービス残業といった問題が発生した際に、自身の主張を裏付ける重要な証拠となります。
自分の労働時間を把握し、タイムカードの記録が正確であるか定期的に確認する習慣をつけましょう。
もし、タイムカードの打刻ができない、記録が曖昧、または企業が適切に管理していないと感じる場合は、遠慮なく会社に確認を求めるべきです。
それでも改善が見られない場合は、労働基準監督署や地域の労働相談窓口に相談することも検討してください。
あなたは労働基準法によって保護されており、その権利を主張することは正当です。
自身の権利を守るためには、まずは正しい知識を持ち、自身の労働環境に関心を持つことから始まります。
タイムカードの押し忘れ・打刻漏れはどんな罰則がある?
誰もが一度は経験するかもしれない、タイムカードの押し忘れや打刻漏れ。
うっかりミスで済ませてしまいがちですが、企業側にとっては勤怠管理の正確性を損ね、場合によっては法的リスクを伴う問題となります。
では、この押し忘れや打刻漏れに対して、どのような対応が適切なのでしょうか。
従業員への罰金は原則NG!賠償予定の禁止
タイムカードの押し忘れに対して、「罰金」を設定している企業が稀にありますが、これは原則として労働基準法に違反する行為となります。
労働基準法第16条では「賠償予定の禁止」が定められており、労働契約の不履行に対して違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をすることを禁じています。
タイムカードの押し忘れは、労働契約上の義務違反と捉えられることがありますが、それに対して直接的な金銭的ペナルティを課すことは、この条文に抵触する可能性が高いのです。
また、実際に勤務していたにも関わらず、押し忘れを理由に給与を支払わない、あるいは減額することも、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に違反します。
従業員が実際に働いた時間に対しては、全額賃金を支払う義務が企業にはあります。
押し忘れを理由にした罰金制度は、企業のコンプライアンス上のリスクを高めるだけでなく、従業員との信頼関係を大きく損ねることに繋がります。
労働者が安心して働ける環境を維持するためにも、罰金制度の導入は避けるべきです。
欠勤扱いや賃金カットの危険性
タイムカードの押し忘れがあった場合、企業が安易に「欠勤扱い」にしたり、勤務していた分の賃金をカットしたりすることも、非常に危険な対応です。
これは、前述の「賃金全額払いの原則」に違反するだけでなく、労働時間の客観的把握義務にも反する可能性があります。
従業員が実際に勤務していたにも関わらず、打刻がないという形式的な理由だけで賃金を支払わないことは、違法な未払い賃金を生み出すことになります。
このような対応は、従業員からの労働基準監督署への申告や、場合によっては訴訟に発展するリスクを抱えます。
特に、働き方改革により、企業には従業員の労働時間を客観的に把握する義務が課せられています。
打刻漏れが発生した際には、まずは従業員本人に状況を確認し、必要に応じて手書きでの修正や上長による承認などの手続きを経て、実際の勤務時間を正確に記録し直すことが重要です。
不適切な賃金対応は、従業員のモチベーションを低下させ、離職率の増加にも繋がりかねません。
懲戒処分としての「減給」が認められる条件
では、タイムカードの押し忘れに対して、企業は全くペナルティを課せないのでしょうか?
いえ、そうではありません。
度重なる押し忘れや悪質な打刻漏れが、企業の勤怠管理に重大な支障をきたす場合、懲戒処分としての「減給」が認められる可能性があります。
ただし、これには厳格な条件が伴います。
まず、就業規則にタイムカードの押し忘れに対する懲戒規定が明確に記載されており、それが全従業員に周知徹底されている必要があります。
また、減給処分を行う場合、労働基準法第91条によって上限が定められています。
具体的には、1回の事案につき平均賃金の半日分以内、かつ、1賃金支払い期間における減給の総額が賃金総額の10分の1を超えてはならないとされています。
この上限規定を遵守し、かつ、減給処分の妥当性(反復性、悪質性など)を慎重に検討し、法的な規制を遵守した上でなければ、減給処分は認められません。
安易な減給は、無効と判断され、かえって企業が賠償責任を負うことにもなりかねませんので、専門家への相談も検討すべきでしょう。
タイムカードの押し忘れ・打刻漏れを防ぐための対策と心構え
タイムカードの押し忘れや打刻漏れは、企業と従業員双方にとって避けたい事態です。
企業は正確な勤怠管理のために、従業員は自身の労働時間の証拠を残すために、適切な対策と心構えが求められます。
ここでは、再発防止に向けた具体的な対策と、日々の業務における意識付けについて解説します。
企業が講じるべき具体的な再発防止策
タイムカードの押し忘れを防ぐためには、企業側が積極的に環境を整備し、従業員への働きかけを行うことが重要です。
まず、打刻機の設置場所や動線の見直しが挙げられます。
出入り口付近など、必ず通る場所に設置することで、意識的に打刻を促すことができます。
また、打刻場所を明確にし、案内を掲示することも有効です。
次に、リマインドツールの活用も効果的です。
例えば、終業時刻が近づいたら社内システムやグループウェアで通知を送る、休憩明けにリマインダーを出す、といった工夫が考えられます。
オフィス内に「打刻しましたか?」といった注意喚起のポスターを貼ることも、視覚的に意識を高める一助となります。
定期的に社内通達や朝礼などで、タイムカードの重要性と押し忘れ防止を呼びかけることも、従業員の意識付けに繋がります。
企業全体で「打刻忘れはさせない」という意識を共有し、協力体制を築くことが大切です。
最新の勤怠管理システムの導入メリット
アナログなタイムカード運用では、どうしても押し忘れのリスクはつきまといます。
そこで、近年急速に普及している勤怠管理システムの導入は、抜本的な解決策となり得ます。
最新のシステムには、以下のような打刻漏れ防止機能が搭載されています。
- PCログオン/ログオフ連動: パソコンの起動・終了と同時に打刻が記録されるため、PC作業が主体の業務では打刻忘れが大幅に減少します。
- GPS打刻: スマートフォンアプリからの打刻であれば、位置情報を利用して事業所内でしか打刻できないように設定でき、直行直帰の場合も場所を特定して打刻が可能です。
- 自動リマインド機能: 定時を過ぎても打刻がない場合に、従業員本人や管理者に自動で通知する機能があります。
これらの機能は、打刻漏れを防止するだけでなく、勤怠状況のリアルタイム把握、集計作業の自動化、法改正への対応など、多くのメリットを企業にもたらします。
また、データとして一元管理されるため、バックアップも容易になり、長期保管義務にもスムーズに対応できます。
従業員一人ひとりの意識改革と心構え
企業側の対策も重要ですが、最終的には従業員一人ひとりの意識改革が不可欠です。
自身のタイムカードは、自身の労働時間を証明し、適正な賃金を受け取るための大切な記録であるという責任感を持つことが第一歩です。
出退勤時や休憩の前後には、「打刻したか?」と声に出して確認する習慣をつけるだけでも、押し忘れは大幅に減るでしょう。
万が一、押し忘れに気づいた場合は、速やかに上長や担当部署に報告し、所定の手続きに従って修正依頼を行うことが重要です。
報告が遅れれば遅れるほど、実際の勤務時間の証明が困難になり、自分自身が不利益を被る可能性が高まります。
企業と従業員は、正確な勤怠管理という共通の目標に向かって協力し合う関係です。
従業員自身が「自分の時間を守る」という意識を持ち、積極的に勤怠管理に参加することで、より健全で信頼できる職場環境が構築されるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: タイムカードの保管期間は具体的にどのくらいですか?
A: 労働基準法により、タイムカードなどの労働時間に関する記録は、原則として5年間保管することが義務付けられています。ただし、訴訟リスクなどを考慮して7年間保管する企業もあります。
Q: タイムカードを押し忘れや打刻漏れした場合、どのような罰則がありますか?
A: 直接的な罰則として減給されることは少ないですが、就業規則によっては懲戒処分の対象となる可能性があります。また、給与計算の誤りや、未払い残業代請求などのトラブルに発展するリスクがあります。
Q: タイムカードの押し忘れに気づいたら、どうすれば良いですか?
A: 速やかに上司や担当者に報告し、正確な打刻時刻を伝えて修正してもらいましょう。メールなどで記録を残しておくと、後々の確認がスムーズになります。理由を正直に伝えることも大切です。
Q: タイムカードの保管期間が過ぎた場合、企業はどうなりますか?
A: 保管期間を過ぎても、労働基準法違反として直接的な罰則が科されるわけではありません。しかし、労働審判や訴訟に発展した場合、労働時間の立証が困難になり、企業側が不利になる可能性があります。
Q: タイムカードのデータも、紙媒体と同じ期間保管する必要がありますか?
A: はい、タイムカードのデータも労働時間に関する記録として、労働基準法に基づき一定期間保管する必要があります。保管期間は紙媒体と同様、原則5年間です。
