概要: 扶養控除等申告書は、所得税の計算において扶養親族がいる場合に適用される控除を受けるために必要な書類です。誰が、いつ、どこに提出するのか、提出しない場合のリスクなどを分かりやすく解説します。
扶養控除等申告書とは?~何のために提出するの?~
扶養控除等申告書の基本と目的
「扶養控除等申告書」は、給与所得者にとって非常に重要な書類です。この書類を勤務先に提出することで、所得税法上の扶養状況を会社に申告し、所得控除を受けることができます。具体的には、毎月の給与から源泉徴収される所得税の額を適切に計算するために不可欠なものであり、正しく提出することで税金の負担を軽減できる可能性があります。
多くの人が年末調整の時期に会社から配布され、その重要性を認識しているでしょう。しかし、単なる提出書類の一つと捉えるのではなく、自身の税金に直結する重要な手続きであることを理解しておく必要があります。この申告書がなければ、適切な税額計算ができず、所得控除の恩恵を受けられなくなってしまうのです。
年末調整は、その年の1月1日から12月31日までの1年間の所得について、本来納めるべき所得税額を計算し、毎月の給与から天引きされた源泉所得税額との差額を精算する手続きです。扶養控除等申告書は、この年末調整をスムーズに行うための土台となる書類であり、提出がなければ正しい年末調整が実施できません。
つまり、この書類は、私たち給与所得者が法律に基づいて適切に税金を納め、同時に受けられるはずの税制優遇(所得控除)を享受するために、勤務先へ自身の情報を正確に伝えるための橋渡し役を担っているのです。
所得控除の種類と具体例
扶養控除等申告書では、さまざまな所得控除を申告することができます。これらの控除を正しく申告することで、課税所得が減少し、結果として所得税額が軽減されます。主な所得控除の種類と具体的な要件を見ていきましょう。
主な所得控除の種類と要件
- 源泉控除対象配偶者(配偶者控除・配偶者特別控除):
一定の所得要件を満たす配偶者がいる場合に適用されます。特に2023年分以降は、配偶者の給与年収が160万円以下であれば、配偶者控除または配偶者特別控除の対象となる可能性があります。配偶者の合計所得金額によって控除額が変わります。
- 控除対象扶養親族(扶養控除):
所得者と生計を一にする親族で、年間合計所得金額が48万円以下(給与収入のみの場合は年収103万円以下)などの要件を満たす人が対象です。扶養親族の年齢や同居の有無によって控除額が異なり、特に19歳以上23歳未満の「特定扶養親族」は控除額が大きくなります。
なお、2011年分以降、16歳未満の扶養親族は所得税の扶養控除の対象外ですが、住民税の算定には必要なため、申告書への記入は依然として求められます。
- 障害者控除:
納税者本人、控除対象配偶者、または扶養親族が障害者に該当する場合に受けられる控除です。障害の程度に応じて「普通障害者」と「特別障害者」に分けられ、控除額が異なります。
- 寡婦控除・ひとり親控除:
ひとり親世帯の支援を目的とした控除です。ひとり親控除は、婚姻歴や性別を問わず、生計を一にする子があり、合計所得金額が一定以下である場合に適用されます。寡婦控除は、ひとり親控除に該当しない、夫と離婚または死別し扶養親族を持つ女性などが対象です。
- 勤労学生控除:
納税者本人が特定の学校の学生等で、合計所得金額が一定以下であり、給与所得以外の所得が少ない場合に適用される控除です。
これらの控除を適切に申告することで、税負担を軽減できるため、自身の家族構成や状況を正確に把握し、漏れなく記入することが非常に重要です。
なぜ毎年提出が必要なのか?
扶養控除等申告書は、なぜ毎年提出する必要があるのでしょうか。これは、個人の扶養状況が一年ごとに変化する可能性があるためです。結婚や出産、あるいは扶養親族の就職や退職、学生から社会人への移行など、様々なライフイベントによって扶養親族の状況は変わります。
例えば、お子さんがその年に成人して就職し、ご自身の所得が年間103万円を超えた場合、翌年からは扶養親族としてカウントできなくなります。また、配偶者のパート収入が一定額を超えた場合も、配偶者控除や配偶者特別控除の適用条件から外れることがあります。これらの変化は、毎月の給与から天引きされる所得税額や、年末調整で精算される税額に直接影響します。
このため、勤務先は毎年、従業員の最新の扶養状況を把握し、正確な源泉徴収を行う必要があります。もし最新の情報が反映されていなければ、適切な税額が計算されず、多く税金を納めすぎたり、逆に不足したりする事態が生じてしまいます。多く納めすぎた場合は年末調整や確定申告で還付されますが、不足した場合は追加で税金を支払う必要が出てきます。
さらに、前述の通り16歳未満の扶養親族は所得税の扶養控除の対象外ですが、住民税の計算には必要な情報であるため、引き続き申告書に記入が求められます。このように、所得税だけでなく住民税の計算にも関わるため、毎年、正確な情報に基づいて提出することが極めて重要となるのです。
誰が提出する?対象者と記入・提出する人をチェック
提出対象となる従業員
扶養控除等申告書は、一部の例外を除き、給与所得があるすべての従業員が提出の対象となります。これは正社員に限らず、パートタイマーやアルバイトとして働いている方も含まれます。なぜなら、給与を支払う企業は、従業員から受けた申告に基づいて源泉徴収税額を計算し、年末調整を行う義務があるからです。
「扶養家族がいないから提出しなくて良いだろう」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、それは誤解です。扶養親族が一人もいない場合でも、その旨を申告するために提出が必要です。この申告書が提出されないと、税額計算の際に扶養控除が考慮されないだけでなく、本来適用されるはずの「基礎控除」なども正しく反映されず、毎月の給与から高い税率で所得税が源泉徴収されることになります。
ただし、年間の給与収入が2,000万円を超える場合など、特定の高所得者は年末調整の対象外となります。このようなケースでは、自身で確定申告を行うことになります。また、年間の給与収入が103万円以下で所得税がかからない場合でも、住民税の計算には影響するため、原則として提出が推奨されます。
つまり、給与を受け取っているほとんどの人が、この扶養控除等申告書を提出する義務があると言えるでしょう。自身の雇用形態や収入額に関わらず、勤務先から配布された場合は必ず内容を確認し、期日までに提出するようにしましょう。
扶養控除を受けるための条件
扶養控除を受けるためには、いくつかの重要な条件を満たす必要があります。これらの条件は、申告書を記入する上で正確に把握しておくべきポイントです。
控除対象扶養親族の主な要件
- 生計を一にしていること:納税者と扶養親族が同じ財布で生活している状態を指します。必ずしも同居している必要はなく、例えば単身赴任中の夫が家族に仕送りをしている場合や、実家を離れて暮らす学生の子に仕送りしている場合なども含まれます。
- 年間合計所得金額が48万円以下であること:給与収入のみの場合、年収103万円以下に相当します。これは、給与所得控除55万円と基礎控除48万円を合わせた金額です。
- 16歳以上の親族であること:所得税の扶養控除は16歳以上の親族が対象です。前述の通り、16歳未満の親族は住民税の扶定には必要ですが、所得税の扶養控除の対象ではありません。
- 配偶者ではないこと:配偶者は「配偶者控除」または「配偶者特別控除」の対象となるため、扶養控除の対象とはなりません。
さらに、2023年1月1日以降に適用される改正により、非居住者である扶養親族の扶養控除の適用要件が変更されました。
非居住者扶養親族の新たな要件(2023年以降)
非居住者である扶養親族が、次のいずれかの条件を満たす場合にのみ扶養控除の対象となります。
- 30歳以上70歳未満の場合、以下のいずれかに該当すること:
- 留学のため非居住者となった人
- 障害者である人
- 納税者からその年に生活費や教育費として38万円以上の送金を受けている人
- 30歳未満または70歳以上の人。
この変更は、海外に住む親族への不正な扶養控除適用を防ぐための措置です。海外に扶養親族がいる場合は、送金証明などの書類が必要になることもありますので、詳細を税務署や勤務先に確認することが重要です。
他の所得者が控除を受ける場合の注意点
扶養控除は、家族の中で「誰か一人が」控除を受けることができる制度です。つまり、複数の所得者がいる家族で、同じ扶養親族について重複して扶養控除を受けることはできません。例えば、夫婦共働きで子がいる場合、夫と妻のどちらか一方がその子を扶養親族として申告することになります。
この点は非常に重要で、もし重複して申告してしまうと、税務署からの指摘を受け、修正申告や追徴課税の対象となる可能性があります。そのため、夫婦間で十分に話し合い、どちらが扶養控除を受けるかを決める必要があります。一般的には、所得の高い方が扶養控除を受けることで、家族全体の税負担が最も軽減されるケースが多いです。これは、所得税の税率が所得が高くなるにつれて上がる「累進課税」の仕組みによります。
扶養控除等申告書には「他の所得者が控除を受ける扶養親族等」という欄があり、もしその年に扶養控除の対象となる親族について、他の家族が控除を受ける予定がある場合は、この欄にその旨を記載します。この記載によって、勤務先は重複控除がないことを確認し、適切な源泉徴収を行うことができます。
また、年の途中で家族の状況が変わった場合(例えば、配偶者の転職や給与の変動など)によって、どちらが扶養控除を受けるのが有利か状況が変わることもあります。このような場合は、年末調整の前に再度検討し、必要に応じて勤務先に届け出た内容を修正することが大切です。家族間の調整を怠ると、予期せぬ税金の負担増につながることもあるため、注意が必要です。
提出先と提出時期・提出期限について
提出のタイミングと会社の役割
扶養控除等申告書は、原則として、その年の最初の給与が支払われる日の前日までに提出する必要があります。しかし、多くの企業では、年末調整の時期(通常11月~12月頃)に従業員にまとめて配布され、期日までに提出を求められます。会社から具体的にいつまでに提出するかという期日が通知されるため、そのスケジュールに間に合うように提出することが重要です。
年の途中で入社した場合、入社時にこの申告書の提出を求められるのが一般的です。これは、その年の残りの期間の給与計算において、適切な源泉徴収を行うために必要な情報だからです。入社したばかりで忙しい時期かもしれませんが、忘れずに提出しましょう。
会社側は、従業員から提出された扶養控除等申告書に基づき、毎月の給与から天引きする源泉所得税額を計算します。そして、年末には、その年に支払った給与と天引きした源泉所得税額を集計し、提出された申告書に記載された所得控除などを考慮して、最終的な所得税額を確定させる年末調整を行います。
会社にとっては、従業員から提出された申告書を正確に管理し、税務署に提出する年末調整関係書類を作成するために不可欠な書類です。そのため、提出が遅れたり、提出されなかったりすると、会社側の事務処理にも大きな影響が出るため、従業員は会社の指定する期日を厳守するようにしましょう。
複数勤務先がある場合の提出ルール
複数の勤務先から給与を受け取っている場合、扶養控除等申告書の提出には特別なルールがあります。原則として、扶養控除等申告書は「主たる給与の支払を受けている勤務先1社にのみ」提出することができます。
「主たる給与」とは、一般的に最も収入が多い勤務先からの給与を指します。例えば、平日はA社で正社員として働き、週末はB社でアルバイトをしている場合、通常はA社に扶養控除等申告書を提出することになります。
この理由は、所得税法が「主たる給与」の支払者(会社)に対して、従業員の扶養状況に応じた税額計算と年末調整の実施を求めているからです。一つの扶養親族について複数の会社から扶養控除を受けることはできませんし、毎月の源泉徴収も主たる給与からのみ扶養控除を適用して計算されます。
主たる勤務先に扶養控除等申告書を提出した場合、その勤務先では「甲欄」という税額表に基づいて源泉徴収が行われ、各種所得控除が適用された税額が算出されます。一方で、扶養控除等申告書を提出しないその他の勤務先(副業先など)では、「乙欄」という税額表が適用され、基本的に高い税率で源泉徴収が行われます。乙欄が適用される給与からは控除が考慮されず、毎月の税負担は重くなります。
最終的には、複数の勤務先から得たすべての給与収入を合算し、確定申告を行うことで、正しい所得税額が計算され、精算されます。年末調整は主たる給与についてしか行われないため、副業等で複数の給与収入がある場合は、確定申告が必須となることを覚えておきましょう。
提出後の変更や訂正について
扶養控除等申告書を提出した後でも、年の途中で扶養状況に変化があった場合は、速やかにその変更内容を勤務先に届け出る必要があります。例えば、結婚、出産、離婚、扶養親族の就職や退職、あるいは死亡など、家族構成や所得状況に影響する出来事があった場合です。
これらの変更があった場合、会社に「扶養控除等申告書」を再提出するか、あるいは「異動届」などの形で変更内容を申告します。これにより、会社は変更後の扶養状況に基づいて、その後の給与からの源泉徴収税額を調整し、年末調整時に正しい税額を計算することができます。
変更内容を届け出ないままでいると、毎月の源泉徴収税額が実際の状況と合わなくなり、年末調整で多額の追徴課税が発生したり、逆に還付額が少なくなったりする可能性があります。特に、扶養親族が減ったにもかかわらず届け出なかった場合、本来よりも少ない税額が源泉徴収されていることになり、年末調整時に不足分を支払う必要が生じます。
もし、年末調整の時期までに変更内容を届け出るのを忘れてしまった場合でも、諦める必要はありません。年末調整が行われた後でも、ご自身で確定申告を行うことで、正確な所得税額を計算し、不足分の納税や過払い分の還付を受けることができます。確定申告の期間は、通常、翌年の2月16日から3月15日までです。状況変化があった際は、速やかに勤務先に相談し、適切な手続きを取るように心がけましょう。
提出しないとどうなる?提出しない場合の注意点
所得税の天引き額への影響
扶養控除等申告書を勤務先に提出しないと、毎月の給与から天引きされる所得税の額が通常よりも高くなる可能性があります。これは、この申告書が提出されない場合、勤務先は従業員が扶養親族を持たないものとみなし、所得控除を考慮せずに源泉徴収税額を計算するからです。
具体的には、扶養控除等申告書を提出した従業員には「甲欄」と呼ばれる税額表が適用され、基礎控除や配偶者控除、扶養控除などが考慮された低い税率で源泉徴収されます。一方、申告書を提出しない従業員、または複数の勤務先を持つ従業員の副業先の給与には「乙欄」という税額表が適用されます。この乙欄は控除が一切考慮されていないため、甲欄に比べて高い税率が設定されています。
その結果、毎月の手取り額が減少し、家計に影響を及ぼすことになります。例えば、本来であれば数千円程度の所得税で済むはずが、申告書を提出しないことで倍以上の金額が天引きされるといった事態も起こり得ます。
この高い税額は、あくまで概算であり、最終的には年末調整や確定申告で精算されますが、毎月のキャッシュフローに影響を与えることは避けられません。一時的に納税額が増えるだけでなく、本来得られるべき所得控除の恩恵をリアルタイムで受けられないというデメリットが生じるため、忘れずに提出することが非常に重要です。
年末調整が受けられないことのデメリット
扶養控除等申告書を提出しない最大のデメリットの一つは、年末調整の対象から外れてしまうことです。年末調整は、年間の所得税を精算し、過払い分の還付や不足分の徴収を行う便利な制度です。この手続きが受けられないと、通常得られるはずの還付が受けられず、余分に支払っていた税金が手元に戻ってこないことになります。
年末調整では、扶養控除の他にも、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金控除、小規模企業共済等掛金控除など、様々な所得控除が適用されます。しかし、扶養控除等申告書を提出していない場合、これらの控除も年末調整では適用されません。つまり、本来であれば控除によって軽減されるはずの課税所得がそのまま計算され、高い税金が課せられた状態が続いてしまうのです。
この状態が続くと、年間の税負担が大幅に増えることになります。特に、複数の控除を受けることができる人にとっては、年末調整を受けられないことによる損失は非常に大きくなります。
年末調整は、確定申告の手間を省き、給与所得者が手軽に税金の精算を行えるようにするための制度です。このメリットを享受できないことは、単に税金が多く取られるだけでなく、後述する確定申告という手間が増えることを意味します。そのため、年末調整を受けられないという状況は、金銭的にも時間的にも大きなデメリットとなることを認識しておくべきです。
確定申告の手間と忘れた場合の対処法
扶養控除等申告書を提出しなかった結果、年末調整の対象から外れた場合、自身で確定申告を行う手間が生じます。確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年間の所得と税額を計算し、税務署に申告・納税する手続きです。
確定申告では、会社から発行される源泉徴収票をはじめ、生命保険料控除証明書、医療費の領収書、iDeCoの払込証明書など、さまざまな書類を集めて計算し、申告書を作成する必要があります。これには、税法の知識や、書類作成に要する時間と労力が伴います。年末調整であれば会社が代行してくれる手続きを、すべて自分で行わなければならないため、大きな負担となります。
もし、扶養控除等申告書の提出を忘れてしまい、年末調整も受けられず、さらには確定申告の期限(通常、翌年3月15日)も過ぎてしまった場合はどうなるでしょうか。この場合でも、還付申告(税金が還付される申告)であれば、5年以内であればいつでも行うことができます。税金を多く払いすぎていた場合でも、諦めずに申告することで還付金を受け取ることが可能です。
しかし、もし納税額が不足していたにもかかわらず申告を忘れてしまうと、税務署からの指摘を受け、不足分の税金に加えて延滞税や加算税といったペナルティが課される可能性があります。そのため、提出し忘れたことに気づいた際は、できるだけ速やかに、まずは勤務先の経理担当者や税務署に相談し、適切な手続きを行うようにしましょう。
扶養控除等申告書、甲と乙の違いとは?
甲欄・乙欄の基本的な意味
扶養控除等申告書を理解する上で避けて通れないのが、「甲欄」と「乙欄」という言葉です。これらは、給与から源泉徴収される所得税額を決定する際に参照する源泉徴収税額表の適用区分を指します。簡単に言えば、申告書を提出しているかどうかで、どちらの税率が適用されるかが決まるのです。
給与所得者が勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している場合、その勤務先から支払われる給与については、原則として「甲欄」が適用されます。甲欄は、扶養親族の人数などに応じた所得控除が考慮されており、比較的低い税率で源泉徴収が行われます。これは、その給与が主な収入源であるとみなされ、年末調整の対象となることを前提としているためです。
一方で、扶養控除等申告書を勤務先に提出していない場合、あるいは複数の勤務先から給与を受け取っており、主たる勤務先ではない副業の給与などについては、「乙欄」が適用されます。乙欄は、扶養控除などの所得控除が一切考慮されておらず、甲欄に比べて高い税率で源泉徴収が行われます。これは、乙欄が適用される給与は、他に主要な給与があり、そちらで扶養控除等が適用されている可能性が高いと見なされるためです。
つまり、甲欄と乙欄は、単に税率が異なるだけでなく、その給与が「主な収入源かそうでないか」という区別と、その後の年末調整の有無に直結する重要な区分なのです。
甲欄が適用されるメリットと条件
甲欄が適用される最大のメリットは、毎月の給与から天引きされる所得税額を抑えられることです。甲欄の税額表は、基礎控除や配偶者控除、扶養控除などが反映された税率で計算されるため、乙欄に比べて源泉徴収税額が少なくなります。これにより、毎月の手取り額が増え、家計のキャッシュフローが改善されます。
また、甲欄が適用されるのは、その給与の支払元である勤務先に対して扶養控除等申告書を提出している場合のみです。原則として、一人の給与所得者は、一箇所の勤務先にしか扶養控除等申告書を提出できません。これは、所得控除の重複適用を防ぐためであり、複数の会社に提出してしまうと、両方で甲欄が適用され、結果として確定申告で多額の追徴課税が発生する可能性があります。
甲欄が適用されるということは、その勤務先で年末調整が行われる対象となることを意味します。年末調整によって、その年の所得税額が確定し、過不足が精算されるため、自身で確定申告をする手間が省けるという利点もあります。
したがって、基本的に、最も多くの給与を受け取っている勤務先、つまり「主たる給与の支払者」に対して扶養控除等申告書を提出し、甲欄を適用してもらうことが、税金面で最も有利な選択となります。この仕組みを理解し、適切に手続きを行うことで、無駄な税金の支払いを避け、賢く家計を管理することができます。
乙欄が適用されるケースと注意点
乙欄が適用されるのは、主に以下の二つのケースです。
- 勤務先に「扶養控除等申告書」を提出していない場合。
- 複数の勤務先から給与を受け取っており、主たる勤務先ではない二箇所以降の勤務先からの給与。
乙欄が適用される場合、その給与からは扶養控除などの所得控除が一切考慮されずに所得税が源泉徴収されます。そのため、甲欄が適用される給与に比べて、毎月の源泉徴収税額がかなり高くなります。例えば、本業の会社で扶養控除等申告書を提出し、副業の会社では提出しなかった場合、副業の給与からは乙欄の税率で税金が天引きされることになります。
乙欄が適用される給与を受け取っている場合の最大の注意点は、その給与については年末調整が行われないことです。そのため、年間の正しい所得税額を精算し、過払い分の還付や不足分の納税を行うためには、ご自身で確定申告を行うことが必須となります。これを怠ると、税金を払いすぎたままになったり、逆に税務署から不足分の納税を求められたりする可能性があります。
多くの副業をする方や、パート・アルバイトで扶養控除等申告書を提出していない方は、この乙欄の仕組みと、確定申告の必要性をしっかりと理解しておく必要があります。確定申告の手間はかかりますが、正しく手続きを行えば、払いすぎた税金が還付されることもあります。
また、2023年分以降の扶養控除等申告書には、退職所得に関する記載欄が新設されました。これは、住民税の計算において退職所得の扱いが所得税と異なるため、正しい税額計算のために設けられたものです。このように、税制は常に変化しているため、最新の情報を確認しながら、適切な申告を心がけることが大切です。
まとめ
よくある質問
Q: 扶養控除等申告書は何のために提出するのですか?
A: 扶養控除等申告書は、所得税の計算において、扶養している親族がいる場合に適用される「扶養控除」などの税額控除を受けるために提出します。これにより、所得税や住民税が軽減されます。
Q: 扶養控除等申告書の対象者は誰ですか?
A: 扶養控除等申告書の主な対象者は、年末調整を受ける給与所得者で、配偶者や親族などを扶養している方です。また、副業などで複数の会社から給与を得ている場合も、扶養控除等申告書(源泉控除対象配偶者や扶養親族がいる場合)を提出することがあります。
Q: 扶養控除等申告書は誰が記入・提出するのですか?
A: 扶養控除等申告書は、扶養している親族がいる給与所得者本人が記入し、勤務先の会社(給与支払者)に提出します。
Q: 扶養控除等申告書の提出先と提出時期はいつですか?
A: 提出先は、原則として勤務先の会社(給与支払者)です。提出時期は、通常、年末調整の時期であるその年の11月頃に会社から配布され、提出を求められます。提出期限は会社によって異なりますが、一般的には11月末から12月上旬までです。
Q: 扶養控除等申告書を提出しないとどうなりますか?
A: 扶養控除等申告書を提出しない場合、年末調整で扶養控除などの各種控除が適用されず、本来より多くの所得税が源泉徴収されてしまう可能性があります。確定申告で還付を受けることは可能ですが、手続きが煩雑になります。
