辞表とは?基本を押さえよう

辞表・退職願・退職届の明確な違い

退職を考える際、よく耳にする「辞表」「退職願」「退職届」という言葉ですが、それぞれ法的な意味合いや役割が異なります。

まず、「退職願」は「会社を辞めたい」というあなたの意思を会社に申し出るための書類です。これはあくまでお願いなので、会社が承諾するまでは撤回が可能です。一般的には、退職希望日の1~3ヶ月前、または就業規則で定められた時期に、直属の上司に提出するのがマナーとされています。

次に、「退職届」は、退職することが確定した後に、労働契約の解除を届け出るための正式な書類です。提出・受理されると原則として撤回はできません。退職日が確定してから会社に提出するのが一般的です。

そして「辞表」は、役員(取締役など)や公務員が、その役職や地位を辞任する際に提出する書類を指します。一般社員が「辞表を出す」と表現する場合もありますが、その多くは実質的に「退職届」として扱われます。特に役職についていない一般社員の場合は、基本的には「退職届」を作成することになりますので、混同しないように注意しましょう。

辞表(退職届)が必要となる主なケース

退職の意思を伝える手段として、口頭での申し出も考えられますが、後々のトラブルを避けるためには書面での提出が不可欠です。

辞表、特に一般社員が提出する「退職届」が必要となる主なケースは以下の通りです。

  • 自己都合退職:転職やキャリアアップ、家庭の事情など、自身の都合で退職する場合がこれにあたります。最も一般的なケースであり、書面での提出が推奨されます。
  • 会社都合退職:会社の業績不振によるリストラや倒産、懲戒解雇など、会社側の都合で退職を余儀なくされる場合です。この場合も、最終的な退職日などを明確にするために書面を提出することがあります。
  • 役員の辞任:取締役や監査役といった役員がその地位を辞任する際は、正式に「辞表」を提出します。これは一般社員の退職とは異なる法的な手続きを伴うため、通常の退職届とは区別されます。
  • 公務員の退職:公務員の場合も、その地位を辞する際には「辞表」を提出するのが一般的です。

書面で残すことで、退職日や退職理由について双方の認識の齟齬を防ぎ、円滑な退職手続きを進めることができます。口頭での申し出だけでは「言った、言わない」のトラブルに発展する可能性もあるため、必ず書面で提出するようにしましょう。

円満退職のための準備と心構え

退職は、あなたの人生の大きな転機であると同時に、お世話になった会社や同僚に迷惑をかけないよう配慮すべきデリケートなプロセスです。円満退職を実現するためには、事前の準備と適切な心構えが非常に重要です。

まず、退職の意思を伝える最初のステップは、直属の上司に口頭で相談することです。いきなり退職届を突きつけるような形は、人間関係を損ね、引継ぎにも支障をきたす可能性があります。上司に時間をとってもらい、落ち着いた環境で誠意をもって退職の意思を伝えましょう。

次に、会社の就業規則を必ず確認してください。就業規則には、退職の申し出時期や手続きに関する規定が明記されています。多くの企業では、退職希望日の1~2ヶ月前までの申し出を義務付けていますが、企業によっては3ヶ月前など、より長い期間を設けている場合もあります。

また、感情的にならず、丁寧な言葉遣いを心がけることも大切です。不満や愚痴を伝える場ではないことを理解し、これまでの感謝を伝え、会社への迷惑を最小限に抑える姿勢を示すことが、円満退職への道となります。引継ぎ計画の準備や、有給休暇の消化についても事前に検討しておくと、よりスムーズな退職に繋がります。

辞表に記載すべき項目と例文

必須項目とその具体的な書き方

辞表(退職届)には、法的な効力を持つために最低限記載すべき項目があります。書式に厳密な決まりはありませんが、一般的には以下の項目を縦書きで記載します。

  • タイトル:用紙の中央上部に「退職届」または「辞表」と記載します。
  • 書き出し:タイトルから少し下がったところに「私儀(わたくしぎ)」または「私事(わたくしごと)」と記載します。これは「個人的なことですが」という意味で、謙譲の意を表します。
  • 退職理由:自己都合の場合は「一身上の都合により」と記載するのが一般的です。会社都合の場合は、会社から指示された具体的な理由を記載します。具体的な退職理由は詳しく書く必要はありません。
  • 退職日:会社と合意した退職する日を正確に記載します。和暦(令和〇年〇月〇日)で記載するのが一般的です。
  • 提出日:書類を提出する日付を記載します。
  • 所属部署・氏名・捺印:あなたの所属部署(例:〇〇部〇〇課)と氏名を記載し、その下に捺印または署名をします。シャチハタではなく、朱肉を使う認め印を使用しましょう。
  • 宛名:会社名と代表取締役社長の氏名を記載します。代表取締役社長の氏名には「様」ではなく「殿」を用いるのが一般的です。会社名の後には役職名を忘れずに記載しましょう。

筆記用具は、黒のボールペンまたは万年筆を使用し、摩擦で消えるボールペンは避けてください。縦書きが一般的ですが、会社の慣習によっては横書きでも問題ない場合があります。不安な場合は事前に確認しましょう。

【例文付き】自己都合退職届の書き方

ここでは、最も一般的な「自己都合による退職届」の例文をご紹介します。手書きで作成する場合の参考にしてください。


                退職届

私儀

今般、一身上の都合により、
来る令和〇年〇月〇日をもって
退職いたします。

    令和〇年〇月〇日

           〇〇部〇〇課
           氏名 〇〇 〇〇 印

〇〇株式会社
代表取締役社長 〇〇 〇〇殿

この例文はシンプルかつ基本的な書式であり、これに沿って作成すれば問題ありません。特に重要なのは、退職日を明確に記載することです。会社との間で合意した退職日を間違えないように注意しましょう。

「一身上の都合」という表現は、具体的な退職理由を明記せずに済むため、最も無難で広く使われています。会社都合の退職の場合や、特別な事情がある場合は、例文の「一身上の都合により」の部分を書き換えることになりますが、基本的にはこの形式を参考に作成することができます。

提出前に誤字脱字がないか、日付や氏名、宛名に間違いがないかを複数回確認することが大切です。

退職理由の伝え方と注意点

退職届に記載する退職理由について、最もよく使われるのが「一身上の都合により」という表現です。これは、具体的な理由を詳しく説明する必要がないため、トラブルを避け、円満退職に繋がる無難な表現として広く推奨されています。

例えば、「人間関係が原因で」「給与が低いから」「仕事内容が合わないから」といった具体的な不満やネガティブな理由は、退職届には記載しないのがマナーです。これらの理由を記載してしまうと、会社側との間に余計な摩擦を生んだり、引き止め工作の材料を与えてしまったりする可能性があります。

もし会社から退職理由を詳しく聞かれた場合も、「一身上の都合により」と伝えた上で、簡単な説明に留めるのが賢明です。例えば、「スキルアップのため」「家庭の事情で」といった、前向きな理由や個人的な理由を簡潔に伝える程度にとどめましょう。

ただし、会社都合での退職の場合は、「会社都合により」と明確に記載する必要があります。これは、失業保険の給付条件などに影響するため、非常に重要なポイントです。この場合は、会社側から指示された理由を正確に記載するようにしましょう。

いずれの場合も、感情的にならず、丁寧な言葉遣いを心がけ、感謝の気持ちを伝えることが、円満な関係を維持したまま退職するための鍵となります。

辞表の用紙・封筒の選び方と注意点

適切な用紙の選び方と準備

辞表(退職届)を作成する際には、使用する用紙にも配慮が必要です。ビジネス文書としてふさわしい、清潔感のある用紙を選びましょう。

一般的には、A4またはB5サイズの白無地の便箋を使用します。罫線が入っていても構いませんが、無地の方がよりフォーマルな印象を与えます。キャラクターものや柄の入った便箋、色付きの用紙は不適切なので避けましょう。また、会社によっては指定の書式やテンプレートがある場合もありますので、確認しておくと安心です。

筆記用具は、黒のボールペンまたは万年筆を使用してください。鉛筆やシャープペンシルは公式文書には適しません。特に注意が必要なのは、摩擦で文字が消えるタイプのボールペン(フリクションペンなど)の使用です。これらは書類の改ざんの可能性があるとみなされるため、絶対に使用しないでください。

手書きで作成する場合、文字は丁寧に、はっきりと楷書で書くことを心がけましょう。誤字脱字がないよう、作成後は複数回見直しを行い、もし書き損じてしまった場合は、修正液や二重線での訂正は避け、新しい便箋に書き直すのがマナーです。

封筒の選び方と表面・裏面の書き方

辞表(退職届)を提出する際には、適切な封筒に入れるのがマナーです。直接手渡す場合でも、必ず封筒に入れましょう。

封筒は、白無地の二重封筒を選ぶのが一般的です。中の文字が透けにくく、丁寧な印象を与えます。サイズは、便箋を三つ折りにした際にちょうど収まる「長形3号」が適しています。郵便番号欄が印刷されていないものが望ましいですが、なければ黒く塗りつぶすか、特に気にしなくてもよいとされています。

封筒の表面:

封筒の表面には、中央よりもやや上に「退職届」または「辞表」と記載します。これは何の書類であるかを示すものであり、宛名は不要です。文字は黒のボールペンや万年筆で、便箋と同様に丁寧に書きましょう。

封筒の裏面:

封筒の裏面の左下部分に、あなたの所属部署(例:〇〇部〇〇課)と氏名を記載します。これにより、誰からの書類であるかが一目で分かります。裏面にも宛名は記載しません。

郵送する際以外は、封筒にのり付けをして封をすることは必須ではありませんが、より丁寧に提出したい場合は、のり付けをして「〆」マークを記載しても良いでしょう。

便箋の折り方と封筒への入れ方

辞表(退職届)の便箋を封筒に入れる際にも、正しい折り方と入れ方のマナーがあります。これを守ることで、より丁寧な印象を与えることができます。

便箋の折り方:

便箋は、三つ折りにするのが一般的です。以下の手順で丁寧に折りましょう。

  1. 便箋を縦長に置き、文章が上になるようにします。
  2. 便箋の下側を上へ、長辺を三等分するイメージで折ります。この際、便箋の下から3分の1程度を折る形になります。
  3. 次に、上側を下に折ります。この時、折り目が便箋のタイトル部分(「退職届」など)にかからないように調整し、綺麗に三つ折りになるようにします。

封筒への入れ方:

折った便箋を封筒に入れる際は、以下の点に注意してください。

  • 三つ折りにした便箋の右上(タイトルが書かれている部分)が、封筒の裏面上部にくるように入れます。これは、封筒から取り出した人がすぐに書類のタイトルを確認できるよう配慮したものです。
  • 封をする場合は、のり付けをして、封の中央に「〆」マークを記載します。これは「確かに封をしました」という証です。

郵送する場合の注意点:

郵送は基本的にマナー違反ですが、病気などでやむを得ない場合や、会社から指示があった場合は可能です。その際は、長形3号より一回り大きい「長形4号」の封筒に入れ、宛先住所・会社名・代表者氏名を明記し、表面に赤字で「親展」と記載します。これは「中に大事な書類が入っており、宛名の人以外は開封しないでほしい」という意味です。さらに、書留郵便で送るのが丁寧とされており、送付記録が残るため安心です。

正社員・パート別!辞表の書き方ポイント

正社員が退職届を作成する際のポイント

正社員が退職届を作成する際は、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。

まず、最も重要なのは会社の就業規則を確認することです。多くの企業では、就業規則に退職の申し出期間が明記されており、一般的には「退職希望日の1ヶ月前まで」や「2ヶ月前まで」と定められています。民法上は、退職の意思表示から2週間経過すれば退職が認められますが(民法第627条第1項)、円満退職のためには、就業規則の規定に従うのが賢明です。

退職届の作成は、直属の上司に口頭で退職の意向を伝え、話し合いの上で退職日が決定した後に行うのが一般的な流れです。まずは「退職願」を提出し、会社が受理・承認した後に「退職届」を提出する場合もありますが、最近では最初から退職届を提出するケースも増えています。どちらの形式が良いか、事前に上司や人事担当者に確認するとスムーズです。

書面には、「一身上の都合」と簡潔に記載し、具体的な退職理由は書かないのがマナーです。後任への引継ぎ期間も考慮し、余裕を持ったスケジュールで提出することが、会社に与える影響を最小限に抑え、円満退職へと繋がります。

パート・アルバイトの場合の注意点

パートやアルバイトとして働いている方も、正社員と同様に退職の際には書面で退職届を提出することが推奨されます。

法律上、期間の定めのない雇用契約(無期雇用)であれば、パート・アルバイトであっても正社員と同様に、退職の意思表示から2週間経過すれば退職が認められます。しかし、口頭での申し出だけでは「言った、言わない」のトラブルになりかねません。

そのため、退職届を提出することで、退職の意思表示とその日付を明確に記録として残すことができます。これにより、後々の賃金精算や離職票の発行などで問題が生じるリスクを減らせます。

また、有期雇用契約(例:契約期間が6ヶ月など)の場合、原則として契約期間中の退職は認められません。ただし、やむを得ない事情がある場合や、契約期間が1年を超える場合は、契約期間中でも退職が可能です。この点は契約書や就業規則をよく確認し、不明な点があれば会社に相談するようにしましょう。

正社員と同様に、「一身上の都合」として簡潔に理由を記載し、直属の上司に提出するのがマナーです。感謝の気持ちを伝え、業務の引継ぎを丁寧に行うことで、円満な退職を目指しましょう。

役員・公務員の「辞表」特有の書き方

役員(取締役、監査役など)や公務員が提出する書類は、一般社員の「退職届」とは異なり、正式に「辞表」と称されます。

役員の辞表は、会社法に基づく手続きを伴うため、一般的な退職届よりも厳格な対応が求められます。例えば、取締役が辞任する場合、定款の規定に従い、株主総会での承認が必要となることがあります。また、辞任の事実を登記する必要があるため、法務局への変更登記申請も発生します。

辞表の書き方は、基本的なフォーマットは退職届と似ていますが、「一身上の都合により、取締役の職を辞任いたします」といったように、具体的な役職名を明記することが重要です。宛名も、株式会社の代表取締役社長ではなく、会社(例:〇〇株式会社御中)とする場合や、代表取締役宛とする場合があります。

公務員の場合も、その地位を辞する際には「辞表」を提出します。所属する組織(例:〇〇省〇〇局長 殿)宛に提出し、「〇〇の職を辞職いたします」といった形で明確に職を辞する旨を記載します。公務員の場合は、国家公務員法や地方公務員法に退職に関する規定があるため、それに従う必要があります。事前に担当部署や上司に相談し、適切な手続きと書式を確認することが不可欠です。

辞表提出の際の注意点とマナー

提出のベストタイミングと相談相手

辞表(退職届)を提出するタイミングは非常に重要です。適切なタイミングで提出することで、円満退職へと繋がりやすくなります。

まず、退職の意思を伝える最初の相手は、必ず直属の上司であるべきです。他の同僚や人事部の人に先に伝えてしまうと、上司の耳に人づてで伝わり、信頼関係を損ねる可能性があります。上司に時間をとってもらい、口頭で丁寧に退職の意思を伝えましょう。

次に、会社の就業規則で定められた提出期間を確認します。多くの企業では、退職希望日の1~2ヶ月前までに申し出るよう規定されています。しかし、民法では退職の意思表示から2週間で退職が成立するとされています。

しかし、円満退職のためには、法的な最短期間よりも、就業規則の規定、またはそれよりも早めに(1~3ヶ月前など)上司に伝えることが望ましいとされています。これにより、会社は後任の選定や業務の引継ぎを計画的に行うことができ、あなたも焦らずに引継ぎを完了させることができます。

引継ぎに必要な期間や有給休暇の消化期間も考慮し、余裕を持ったスケジュールで提出することが、互いにとって最善の選択となります。

提出時のマナーとNG行動

辞表(退職届)を提出する際にも、いくつかのマナーと避けるべきNG行動があります。

まず、提出は直属の上司へ手渡しするのが原則です。郵送は、病気や遠隔地勤務など、やむを得ない事情がある場合の最終手段として考えましょう。手渡しの場合も、上司の執務中に「お忙しいところ恐縮ですが、お時間を頂戴できますでしょうか」などと声をかけ、適切な場所(会議室など)で提出しましょう。

提出の際には、感情的になることは絶対に避け、「大変恐縮ですが、一身上の都合により退職させて頂きたく、ご受理いただけますでしょうか」など、丁寧な言葉遣いを心がけましょう。これまでの感謝を伝える一言も添えると良い印象を与えられます。

NG行動としては、以下のような点が挙げられます。

  • 会社の不満や愚痴を退職理由として語る:新たな人間関係に悪影響を与えたり、引き止めに繋がったりする可能性があります。
  • 退職届を一方的に郵送する、または机の上に置いておく:失礼にあたり、トラブルの原因となります。
  • 退職を決定したにもかかわらず、周りの同僚に言いふらす:上司より先に情報が広まると、混乱を招きます。
  • 退職日までの業務を怠る:最後まで責任をもって業務を遂行しましょう。

最後までプロフェッショナルな態度を保つことが、あなたのキャリアにとってもプラスになります。

退職日までの過ごし方と引き継ぎの重要性

辞表を提出し、退職日が確定した後も、気を抜かずに最後まで責任ある行動をとることが重要です。特に、業務の円滑な引き継ぎは、退職後の会社に迷惑をかけないためにも、あなたの評判を守るためにも非常に大切なプロセスです。

引き継ぎは、後任者がスムーズに業務を開始できるよう、以下の点を意識して行いましょう。

  • 業務内容のリストアップ:担当している業務をすべて洗い出し、優先順位をつけてリスト化します。
  • マニュアルの作成:各業務の手順や注意点、関係者の連絡先などをまとめた簡易マニュアルを作成します。
  • 進捗状況の共有:現在進行中のプロジェクトやタスクの進捗状況、課題、今後の展望などを後任者や上司に詳細に共有します。
  • 情報共有:必要な資料の場所やシステムへのアクセス方法などを伝えます。

また、有給休暇の残日数を確認し、計画的に消化することも大切です。残りの有給休暇をすべて消化したい場合は、上司と相談し、引き継ぎ期間と調整しながら取得しましょう。

退職日には、会社から貸与されている物(社員証、PC、携帯電話、名刺など)を忘れずに返却しましょう。私物の持ち帰り漏れがないかも最終確認します。

最後に、提出した退職届のコピーを自分で保管しておくことをお勧めします。万が一、後日退職に関する問題が発生した場合の証拠として役立ちます。これらの対応を通じて、円満で気持ちの良い退職を実現しましょう。