概要: 内定通知書は、採用決定を正式に通知する重要な書類です。企業側は、その役割を理解し、適切な内容と発行時期で作成・発行する必要があります。本記事では、内定通知書の作り方から、発行時期、よくある疑問までを解説します。
内定通知書の作り方:企業側が押さえるべきポイントと発行時期
内定通知書は、企業が採用候補者に対して正式な採用の意思を伝えるための重要な書類です。
口頭やメールでの通知だけでは、認識の齟齬やトラブルにつながる可能性があるため、書面で残すことが強く推奨されます。
このブログ記事では、内定通知書の作成方法、発行時期、注意点、そしてよくある疑問について、企業側が押さえるべきポイントを詳しく解説します。
内定通知書とは?その役割と重要性
内定通知書は単なる合格通知以上の意味を持ちます。
企業と応募者の間で、将来的な雇用関係が成立することを示す、非常に重要な文書です。
ここでは、内定通知書の法的・実務的な意義と、企業・応募者双方にとってのメリットを掘り下げていきます。
内定通知書の法的・実務的意義
内定通知書は、企業が採用選考の合格者に対し、採用の意思を正式に通知する書類です。
実は、法的な発行義務はありません。しかし、企業と応募者の双方にとって、雇用の同意があったことを証明する重要な証拠となります。
応募者が内定通知書を受け取り、入社を承諾することで、法的には「始期付解約権留保付労働契約」が成立します。
これは、労働契約の開始時期が定められているものの、一定の事由があれば企業側が契約を解除できる権利を留保している状態を指します。
口頭やメールでの通知だけでは、後になって「言った」「言わない」のトラブルに発展するリスクがあるため、書面での交付は実務上非常に重要です。
正式な書類として残すことで、双方の認識のズレを防ぎ、円滑な入社準備を促す役割も果たします。
企業側から見た内定通知書のメリット
企業にとって内定通知書の発行は、優秀な人材を確保し、採用活動を円滑に進める上で不可欠な要素です。
書面による明確な意思表示は、応募者からの信頼を得る第一歩となります。
まず、正式な内定通知書を速やかに発行することで、候補者が他社からの内定を待つ間に自社への入社を決定する確率を高めます。
これは、特に競争率の高い人材市場においては、内定辞退率の低減に直結します。
また、内定通知書は採用プロセスの透明性を高め、将来的なトラブルを未然に防ぐ役割も果たします。
労働条件や入社日などの重要な事項を明確に記載することで、入社後のミスマッチや認識の齟齬による問題を避けることができます。
企業の信頼性やブランドイメージ向上にも寄与するため、単なる事務手続き以上の価値があると言えるでしょう。
応募者側から見た内定通知書のメリット
応募者にとって、内定通知書はこれまでの努力が実を結んだ証であり、大きな安心感と確信をもたらします。
選考の最終段階で受け取るこの書類は、入社意思決定の重要な判断材料となります。
内定通知書には、内定の事実だけでなく、入社日や同封書類、提出が必要な書類など、入社までに必要な情報が具体的に記載されます。
これにより、応募者は今後のスケジュールを具体的に把握し、現職の退職手続きや引っ越しなど、入社に向けた準備を計画的に進めることができます。
また、複数の企業から内定を得ている場合、内定通知書は各社の条件を比較検討するための客観的な根拠となります。
口頭での説明だけでは不明瞭な点も、書面で確認できることで、安心して入社先を決定できるでしょう。
まさに、応募者の未来を左右する重要な情報源となるのです。
内定通知書の作成方法:必須項目と注意点
内定通知書は、企業の顔となる重要な書類です。
正確かつ丁寧に作成することで、応募者への信頼を高め、スムーズな入社手続きにつなげることができます。
ここでは、必ず記載すべき項目と、作成・送付時の具体的な注意点について解説します。
必ず記載すべき基本項目
内定通知書に記載すべき事項について、法的な規定はありませんが、一般的に以下の項目を含めることが推奨されています。
これらの情報を網羅することで、応募者は安心して入社を決断し、必要な準備を進めることができます。
- 日付:内定通知書を発行した日付
- 企業名と代表者名:企業の正式名称と代表者の氏名
- 応募者氏名:内定者を特定するための氏名(敬称「様」を忘れずに)
- 応募へのお礼:選考に参加してくれたことへの感謝の言葉
- 採用内定の通知:内定を通知する旨の明確な記載
- 入社年月日:具体的な入社日(未定の場合は別途連絡する旨を記載)
- 同封書類の案内:内定承諾書や労働条件通知書など、同封する書類の一覧
- 入社までに提出が必要な書類:提出が必要な書類とその提出期限、提出先
- 内定取消事由:内定が取り消される可能性のある具体的な事由
- 担当者の連絡先:質問や不明点を確認するための担当者名、部署、連絡先
給与などの労働条件についても、内定通知書に明記することが推奨されます。
ただし、別途「労働条件通知書」を同封する場合は、内定通知書への記載を省略することも可能です。
内定取消事由の設定とその重要性
内定取消事由を内定通知書に明記することは、企業と応募者の双方にとって非常に重要です。
これにより、万が一の事態が発生した場合に、企業が内定を取り消すことができる条件を明確にしておくことができます。
これは、不当な内定取消によるトラブルを避けるためにも必要なことです。
具体的な取消事由としては、「提出書類に虚偽の記載があった場合」「卒業資格の取得ができなかった場合」「健康上の問題で業務遂行が困難と判断された場合」「入社までに犯罪行為があった場合」などが挙げられます。
これらの事由は、客観的かつ合理的なものである必要があります。
内定の取り消しは、原則として解雇と同等に扱われ、企業側には厳しい制約が課せられます。
そのため、事前に明確な取消事由を提示し、応募者にも理解を求めることが、将来的な法的な争いを避ける上で極めて重要となるのです。
送付方法と内定承諾率を高める工夫
内定通知書の送付方法は、応募者への確実な到達と、企業側の信頼性に関わります。
従来は簡易書留郵便が主流でしたが、近年ではデジタル化も進んでいます。
応募者に確実に届くよう、簡易書留郵便で送付したり、事前に電話やメールで内定を伝えておいたりすることも有効です。
近年では、採用活動のオンライン化が進む中で、PDF形式でメール添付による送付も増えています。
この場合、パスワード設定をするなどセキュリティに配慮し、送達確認を行うことが望ましいでしょう。
また、内定承諾率を向上させるためには、内定通知書と併せて「内定承諾書」を同封し、返送してもらうことで、内定辞退のリスクを低減させることができます。
さらに、労働条件通知書は法律で交付が義務付けられているため、内定通知書に記載しない場合は必ず同封するようにしてください。
内定後の丁寧なフォローアップ(入社前懇親会や社員との交流機会の提供など)も、承諾率向上には欠かせません。
内定通知書の発行時期:新卒・中途採用における目安
内定通知書の発行時期は、採用活動の成功を左右する重要な要素です。
特に優秀な人材を確保するためには、迅速かつ適切なタイミングでの発行が求められます。
新卒採用と中途採用では、発行時期の目安が異なるため、それぞれの状況に応じた対応が必要です。
中途採用における発行時期の目安
中途採用においては、内定通知書の発行時期について法律上の明確な定めはありません。
しかし、一般的には採用が決定したら速やかに、遅くとも最終選考から10日以内を目安に送付することが推奨されています。
この迅速な対応は、候補者が他社からも内定を得ている可能性を考慮し、優秀な人材を他社に奪われるリスクを減らすためです。
特に、即戦力となる人材は複数の企業から高い評価を受けていることが多いため、企業側はスピーディーな意思決定と通知が求められます。
遅れるほど候補者の不安は増大し、他社への内定承諾を選択してしまう可能性が高まります。
最終選考後、なるべく早く内定の連絡を入れ、その後に内定通知書を送付するという流れが理想的です。
新卒採用における発行時期の注意点
新卒採用の場合、中途採用とは異なり、内定通知書の発行時期には明確なルールが存在します。
一般的に、経団連が定める倫理憲章や政府の要請に基づき、内定通知書の発行は卒業年の10月1日以降という決まりがあります。
このルールは、学生が学業に専念できる期間を確保し、就職活動における過度な早期化競争を抑制することを目的としています。
企業は、この時期まで内定通知書の発行を控える必要があります。
ただし、正式な内定通知書の発行は10月1日以降でも、それ以前に「内々定」として口頭やメールで採用の意向を伝えることは可能です。
しかし、内々定であっても、事実上の内定として扱われるため、企業側は慎重な対応が求められます。
特に、10月1日以前に正式な内定通知書を交付することは、ルール違反と見なされる可能性があるため注意が必要です。
発行が遅れる場合の対応とリスク
内定通知書の発行が何らかの理由で遅れてしまう場合、企業は迅速かつ丁寧な対応を心がける必要があります。
遅延は、候補者の不安を増大させ、内定辞退のリスクを高めるだけでなく、企業のイメージを損なう可能性もあります。
もし発行が遅れることが判明した場合は、速やかに候補者に連絡を取り、遅延の理由と具体的な送付予定日を伝えることが重要です。
「選考に時間がかかっている」「社内調整に手間取っている」など、誠実な説明をすることで、候補者の理解を得やすくなります。
連絡がないまま放置すると、候補者は「自分は本当に採用されたのか」「他に良い人材が見つかったのか」といった疑念を抱き、他社への入社を決めてしまう可能性が高まります。
採用プロセスにおけるコミュニケーション不足は、企業にとって大きな損失につながることを認識し、常に候補者への配慮を忘れないようにしましょう。
内定通知書の発行を依頼されたら?企業側の対応
応募者から内定通知書の発行を依頼されるケースは少なくありません。
これは、応募者が複数の選択肢を検討している場合や、家族・親族への説明、あるいは住宅ローンの申請などで書類が必要となるためです。
企業としては、このような依頼に対し、適切かつ丁寧に対応することが求められます。
依頼された際の確認事項
応募者から内定通知書の発行依頼があった場合、まずはその依頼の背景や目的を確認することが重要です。
単に正式な書面が欲しいのか、それとも特定の用途(例:金融機関への提出、現職の退職手続きなど)で特定の情報が必要なのかによって、企業側の対応も変わってきます。
「なぜ内定通知書が必要なのですか?」と直接的に尋ねることで、応募者の状況を把握し、より的確なサポートを提供できます。
例えば、他社との比較検討のために給与額を詳細に知りたいのであれば、労働条件通知書を先に準備するなどの対応が可能です。
また、既に発行済みであるにもかかわらず再発行を求められた場合は、何が不足しているのかを確認し、不足分を補う形で対応できるか検討しましょう。
応募者からの依頼は、企業に対する期待の表れでもあるため、真摯に耳を傾ける姿勢が大切です。
依頼があった場合の適切な対応例
依頼があった場合、企業は迅速かつ丁寧な対応を心がけるべきです。
まずは、内定通知書の発行が可能である旨を応募者に伝え、いつまでに送付できるかを明確に伝えましょう。
これにより、応募者は安心して次の行動に移ることができます。
具体的な対応としては、まず通常の内定通知書を作成し、応募者の要望に応じて必要な情報を追加する、または別途補足書類を準備することが考えられます。
例えば、金融機関提出用であれば、会社名、入社予定日、給与見込み額などを記載した証明書を別途作成することも有効です。
送付方法についても、応募者の希望を聞き、郵送かメール添付かを選択肢として提示すると良いでしょう。
どのような形式であれ、発行後は速やかに応募者に送付し、その旨を連絡することで、信頼関係をより一層深めることができます。
発行しない場合の代替案と説明
何らかの理由で内定通知書の発行が難しい場合でも、応募者に対して誠実かつ丁寧な説明を行うことが不可欠です。
単に「発行できません」と伝えるだけでは、応募者の不信感を招き、内定辞退につながるリスクがあります。
発行できない理由を具体的に伝え、同時に代替案を提示することで、応募者の不安を軽減できます。
例えば、「社内規定により内定通知書は入社○日前にならないと発行できませんが、代わりに労働条件通知書を先行してお渡しできます」といった対応が考えられます。
また、口頭やメールでの内定通知で代用する場合でも、その内容をより詳細にし、労働条件や入社予定日など、応募者が求める情報を具体的に伝えるよう努めましょう。
応募者の立場に寄り添い、可能な範囲で柔軟な対応を検討することが、最終的な内定承諾へとつながります。
内定通知書に関するよくある疑問とその回答
内定通知書に関する疑問は、企業の人事担当者だけでなく、応募者からも多く寄せられます。
特に「労働条件通知書との違い」「メール送付の可否」「内定取消しの条件」は、よく質問される項目です。
ここでは、これらの疑問に対し、明確な回答を提供します。
内定通知書と労働条件通知書の違い
内定通知書と労働条件通知書は、どちらも採用活動で用いられる重要な書類ですが、その目的と法的な位置づけが異なります。
この違いを理解することは、適切な書類作成と交付のために不可欠です。
| 書類名 | 目的 | 法的義務 |
|---|---|---|
| 内定通知書 | 採用の意思を正式に通知し、応募者が入社を承諾した時点で「始期付解約権留保付労働契約」が成立したことを証明する。 | なし(任意) |
| 労働条件通知書 | 労働基準法に基づき、賃金、労働時間、業務内容などの労働条件を明示する。 | あり(法的義務) |
内定通知書は、あくまで採用の意向を伝えるものであり、具体的な労働条件の明示は義務ではありません。
一方、労働条件通知書は、労働契約を結ぶ際に必ず交付しなければならない書類です。
多くの企業では、内定通知書と労働条件通知書を同時に、または時期をずらして交付することで、双方の要件を満たしています。
内定通知書に労働条件を記載することも可能ですが、その場合は労働条件通知書の要件を満たす必要があります。
内定通知書をメールで送っても良い?
近年、採用活動のオンライン化が進む中で、「内定通知書をメールで送っても良いのか?」という疑問が増えています。
結論から言うと、メールでの送付は可能ですが、いくつかの注意点があります。
従来の紙媒体での送付と比較して、メール送付は迅速性やコスト削減のメリットがあります。
特に、PDF形式で内定通知書を添付し、パスワードを設定して送信する方法が一般的です。
これにより、書類の改ざん防止やセキュリティの確保を図ることができます。
ただし、メールでの送付の場合、応募者が確実に内容を確認したかの証拠が残りにくいというデメリットもあります。
そのため、メール送付と併せて、電話で内定の連絡を入れ、メールの確認を依頼するなどのフォローが推奨されます。
また、応募者から紙媒体での発行を希望された場合には、柔軟に対応できるよう準備しておくことが望ましいでしょう。
内定取消しは可能?その条件とは
「内定を取り消すことはできるのか?」という疑問は、企業にとって非常に重い問題です。
原則として、一度内定を通知し、応募者が承諾した後の内定取消しは、解雇と同等に扱われ、非常に厳しい条件が課せられます。
前述の通り、内定承諾により「始期付解約権留保付労働契約」が成立しているため、内定取消しは、企業がその解約権を行使することになります。
この解約権の行使は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合にのみ許されます。
具体的な取消事由としては、内定通知書に明記した事由(例:学歴詐称、病気による就業不能、卒業資格の未取得、入社までの間に犯罪行為があった場合など)に該当し、かつその事実が内定当時知ることができず、かつ知っていたら採用しなかったと認められる場合に限られます。
単なる業績悪化や、他の候補者が現れたといった理由での取消しは、不当解雇と見なされ、訴訟に発展するリスクが高いことを認識しておく必要があります。
まとめ
よくある質問
Q: 内定通知書とは何ですか?
A: 内定通知書とは、企業が採用候補者に対して、採用を決定したことを正式に通知する書類です。入社条件や待遇などを明記し、応募者の入社意思確認や、企業側の採用決定の証拠となります。
Q: 内定通知書にはどのような項目が必要ですか?
A: 内定通知書には、採用区分(新卒・中途など)、内定者の氏名、内定部署、役職、給与、待遇、就業開始日、勤務地、その他特記事項(試用期間など)を記載する必要があります。また、企業印(丸印または角印)の押印も一般的です。
Q: 内定通知書はいつ発行するのが一般的ですか?
A: 内定通知書の発行時期は、企業や採用フローによって異なりますが、内定通知後、速やかに発行するのが一般的です。新卒採用では、内定面接後数日~1週間程度、中途採用では、最終面接後数日~1週間程度で発行されることが多いです。
Q: 内定通知書の発行を依頼された場合、企業側はどう対応すべきですか?
A: 内定通知書の発行を依頼された場合、企業側は速やかに作成し、発行する必要があります。依頼がない場合でも、採用決定の証として発行することが望ましいです。発行しない場合、応募者との間で認識の齟齬が生じる可能性があります。
Q: 内定通知書にハンコは必須ですか?
A: 内定通知書にハンコ(企業印)の押印は必須ではありませんが、法的効力や信頼性を高めるために押印することが一般的です。丸印と角印のどちらを使用するかは、企業の慣習や書類の種類によって異なります。
