概要: 労働条件通知書は、働く上での大切な約束事。パート、アルバイト、正社員、派遣、建設業など、職種ごとの記入例と、最新の改正に対応したテンプレート活用法を解説します。
労働条件通知書とは?基本のキを理解しよう
労働条件通知書の法的義務と重要性
労働条件通知書は、使用者が労働者に対し、賃金や労働時間など主要な労働条件を明示することを義務付けた書類です。労働基準法第15条により、書面での交付が原則とされています。
この書類は、労働者と使用者双方の認識の齟齬を防ぎ、後のトラブルを未然に防ぐ上で極めて重要な役割を果たします。特に、労働条件は一度合意されると変更が難しいケースが多いため、入社時に正確な情報を書面で確認することは、労働者保護の観点からも不可欠です。
企業側にとっても、労働条件通知書を適切に交付することは、法令遵守の基本中の基本となります。もし明示義務を怠った場合、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が課される可能性があります。さらに、企業の信用失墜や、採用活動への悪影響も避けられません。
労働条件を明確にすることで、健全な労使関係を築き、従業員のエンゲージメント向上にも繋がるため、その重要性は計り知れません。
2024年4月改正で何が変わった?主要ポイント
2024年4月1日より、労働条件通知書に関する労働条件明示ルールが改正され、企業はこれまで以上に詳細な労働条件を明示する義務が生じました。この改正の大きなポイントは、労働者のキャリアパスや将来の見通しを立てやすくすることにあります。
特に、有期労働契約に関する規定が大幅に強化された点が注目されます。
具体的な変更点としては、まず「就業場所・業務の変更の範囲の明示」が義務付けられました。これは、労働者が現在就いている場所や業務だけでなく、将来的に変更される可能性のある範囲についても明示が必要となるものです。次に、「更新上限の有無と内容の明示」も加わりました。
有期労働契約を更新する場合の通算契約期間や更新回数の上限を明確にすることが求められます。さらに、「無期転換申込機会・無期転換後の労働条件の明示」も義務化され、無期転換権が発生するタイミングとその後の労働条件をあらかじめ伝える必要があります。
これらの改正により、労働者はより安心して働き、自身のキャリアを設計できるようになりました。
労働条件通知書に記載すべき絶対的明示事項
労働条件通知書には、どのような雇用形態であっても必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」と、企業で制度を設けている場合に記載が必要な「相対的明示事項」があります。特に絶対的明示事項は、労働者の基本的な権利に関わる重要な情報であり、記入漏れは法令違反となります。
主な絶対的明示事項は以下の通りです。
- 労働契約の期間(期間の定めがある場合は更新基準も)
- 就業場所及び従事すべき業務の内容(2024年4月改正で「変更の範囲」を含むことが必須化)
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務の場合の就業時転換に関する事項
- 賃金(計算方法、支払日、支払方法など)
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
- 昇給に関する事項
これらの項目は、労働者が働く上で最も基本的な情報となるため、誤解が生じないよう明確かつ具体的に記載することが求められます。
例えば、就業場所については「本社、変更の範囲:全国の支社及び関連会社」のように、将来的な変更の可能性も踏まえて記載する必要があります。
【職種別】労働条件通知書の記入例:パート・アルバイト・正社員
正社員の記入例とポイント
正社員向けの労働条件通知書は、最も標準的な形式となりますが、2024年4月の改正点を踏まえることが重要です。特に「就業場所及び従事すべき業務の内容」の項目では、現在の情報だけでなく、将来的な配置転換や異動の可能性を考慮し、変更の範囲を具体的に明示する必要があります。
例えば、「就業場所:本社(東京都千代田区)、変更の範囲:会社が定める全ての事業所」といった記載が求められます。
また、「従事すべき業務の内容」についても同様に、「雇入れ直後:経理業務、変更の範囲:会社が定める全ての業務(営業、人事等を含む)」のように、幅広い職務への変更可能性を示すことが一般的です。これにより、企業は将来の人事異動の柔軟性を保ちつつ、労働者も自身のキャリアパスをある程度予測できるようになります。
さらに、退職に関する事項(解雇の事由を含む)や賃金体系(昇給、賞与など)も詳細に記載し、誤解が生じないようにすることが肝心です。試用期間の有無やその期間中の労働条件についても明記が必要です。
パート・アルバイトの特有事項
パート・アルバイトといった短時間・有期雇用労働者には、正社員向けの記載事項に加えて、さらに追加で明示しなければならない項目があります。これは、短時間・有期雇用労働者の労働条件が正社員と比較して不透明になりがちな状況を改善し、保護を強化するためのものです。
これらの追加項目を適切に明示しない場合も、法令違反となるため注意が必要です。
具体的には、以下の3項目が追加で明示義務とされています。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
これらの項目は、たとえ「無」であったとしても、その旨を明確に記載する必要があります。例えば、「昇給:無」「退職手当:無」「賞与:無」と明記します。
また、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する相談窓口についても明示が必要です。これにより、不当な待遇差やハラスメントがあった場合に、労働者が相談できる場所を明確にすることで、より安心して働ける環境を整備することが目的とされています。
契約社員に必須の無期転換ルール
契約社員などの有期労働契約を結ぶ労働者に対しては、2024年4月の改正で特に重要な明示義務が加わりました。それが「無期転換申込機会」と「無期転換後の労働条件」の明示です。
これは、有期労働契約が繰り返し更新され、通算5年を超えた場合に労働者が無期雇用への転換を申し込める「無期転換ルール」に関連するものです。
具体的には、無期転換申込権が発生するタイミング(例:契約期間が通算5年を超える更新時)を明示し、さらに、無期転換後の労働条件(賃金、就業場所、業務内容など)についても、あらかじめ明確に示しておく必要があります。
例えば、「通算契約期間が5年を超える契約更新の際、無期転換申込権が発生します。無期転換後の労働条件は、変更のない限り現在の労働条件と同一とします。」といった記載が考えられます。
これにより、労働者は自身の将来的なキャリアパスを明確に把握でき、企業側も無期転換に関する手続きをスムーズに進めることが可能になります。この明示義務は、有期雇用労働者の雇用安定を図る上で非常に重要な役割を担っています。
派遣・建設業の労働条件通知書:知っておくべきポイント
派遣労働者の明示事項と二重構造
派遣労働者の場合、労働条件通知書は「派遣元」と「派遣先」の二重構造で考える必要があります。派遣元企業は、労働者(派遣スタッフ)に対して労働契約に関する労働条件通知書を交付します。
ここには、通常の労働条件に加え、派遣期間、派遣先事業所の名称、派遣先の所在地、派遣先での業務内容といった派遣特有の事項も記載する必要があります。これは、派遣スタッフがどのような条件で、どの企業で働くのかを明確にするためです。
一方、派遣先の企業は、派遣スタッフに対して労働条件通知書を直接交付する義務はありませんが、派遣元に対しては派遣契約に基づいて派遣先の情報を提供する必要があります。
労働者は派遣元と雇用契約を結びますが、実際に働くのは派遣先となるため、この二重構造を理解しておくことが重要です。派遣元企業は、派遣スタッフに対し、就業場所や業務の変更の範囲についても、派遣先の状況を踏まえて具体的に明示する必要があります。これにより、派遣スタッフは派遣期間中の自身の働き方や、将来の可能性をより明確に把握することができます。
建設業における特記事項
建設業においては、他の産業にはない特殊な労働条件が存在するため、労働条件通知書にもその特性を反映させる必要があります。例えば、現場作業が主となるため、就業場所が頻繁に変わる可能性があります。
そのため、「就業場所及び従事すべき業務の内容」の項目では、特定の現場名だけでなく、「〇〇工事現場、変更の範囲:会社が指定する首都圏内の各工事現場」のように、変更の範囲を具体的に、かつ現実的に明示することが重要です。
また、高所作業や危険作業を伴うことが多いため、「安全及び衛生」に関する事項は特に詳細に記載する必要があります。安全衛生規則や特別教育の受講義務、保護具の支給など、労働者の安全を確保するための具体的な対策やルールを明記することで、安心して働ける環境を保障します。
さらに、天候による作業中止や、工期の変動に伴う労働時間の変更など、建設業特有の事情も考慮し、労働時間や休日に関する取り決めも明確にしておく必要があります。これらの特殊性を踏まえた記載は、建設現場での労使トラブル防止に繋がります。
電子交付の活用と注意点
労働条件通知書の電子交付は、2019年4月1日から可能となり、近年、特に建設現場のような遠隔地でのやり取りが多い業界や、多数の労働者を雇用する企業で活用が進んでいます。電子交付の最大のメリットは、印刷・郵送コストの削減や、迅速な交付による業務効率化です。
メールやメッセージアプリ、専用システムを通じて交付することで、必要な情報をタイムリーに労働者に届けることができます。
しかし、電子交付にはいくつかの要件があります。まず、「労働者本人が電子交付を希望していること」が絶対条件です。企業側の一方的な判断で電子交付を行うことはできません。次に、「労働者が確認できる形式での受け渡しであること(例:PDF形式)」、「労働者がプリントアウトできる形式であること」が求められます。
これは、労働者がいつでも内容を確認し、必要に応じて書面として保管できるようにするためです。さらに、電子帳簿保存法に対応していることも重要です。これらの要件を遵守しない場合、有効な交付とは認められない可能性があるため、注意が必要です。
最新の改正に対応!労働条件通知書テンプレート活用法
厚生労働省モデル様式の活用
2024年4月の労働条件通知書改正に対応するため、厚生労働省は最新のモデル様式を提供しています。これらのモデル様式は、法令で定められた必須項目をすべて網羅しており、企業が記載漏れや誤りを防ぐ上で非常に有効なツールです。
正社員用、パート・アルバイト用、有期雇用労働者用など、様々な雇用形態に対応した様式が用意されており、それぞれの特性に応じた追加明示事項も含まれています。
モデル様式をダウンロードし、自社の労働条件に合わせて記入するだけで、比較的容易に改正対応の労働条件通知書を作成することができます。特に、改正で追加された「就業場所・業務の変更の範囲」や「更新上限の有無と内容」、「無期転換申込機会・無期転換後の労働条件」といった項目についても、具体的な記入例が示されているため、迷うことなく記載を進めることが可能です。
まずは厚生労働省のウェブサイトを確認し、自社に最適なモデル様式を見つけることから始めるのがおすすめです。これにより、法令遵守を確実なものにできます。
専門サイトのテンプレートと無料ダウンロード
厚生労働省のモデル様式以外にも、多くの労務管理専門サイトや人事系サービスサイトで、改正に対応した労働条件通知書のテンプレートが無料で提供されています。これらのテンプレートは、実務での使いやすさを考慮してデザインされており、ExcelやWord形式でダウンロードできるものが多いです。
正社員、パート、派遣、建設業など、業界や雇用形態に特化した詳細なテンプレートも存在するため、自社の状況に最も適したものを選択することが可能です。
無料テンプレートを利用する際は、必ず2024年4月の改正に対応しているかを確認することが重要です。古いテンプレートでは、新たな明示義務項目が抜けている可能性があるため、注意が必要です。ダウンロード後も、自社の就業規則や労働契約の内容と照らし合わせ、不足がないか、誤解を招く表現がないかを入念にチェックすることが求められます。
テンプレートはあくまでひな形であり、最終的な責任は企業側にあることを忘れずに、慎重に活用しましょう。
記入例でミスなく作成するポイント
労働条件通知書をミスなく作成するためには、具体的な記入例を参考にすることが非常に有効です。特に、改正で追加された項目の具体的な書き方は、戸惑いやすいポイントです。
例えば、「従事する業務の内容」について、雇入れ直後の業務と変更の範囲を明確に記載する必要があります。「雇入れ直後:営業企画業務、変更の範囲:会社が指定する全ての業務(営業、マーケティング、企画等)」のように、将来的な可能性を含めて具体的に記載します。
また、有期労働契約の場合、「更新上限の有無」では、「有(通算契約期間5年、または更新回数3回を上限とする)」のように、具体的な条件を明記します。無期転換申込機会の明示も、「通算契約期間が5年を超える契約更新時」と明確にし、その後の労働条件についても記載します。
これらの具体的な記入例を参考にすることで、形式的な記載だけでなく、労働者が内容を正確に理解できるような分かりやすい通知書を作成することができます。不明な点があれば、社会保険労務士などの専門家に相談することも検討しましょう。
10人未満の事業所でも必須!労働条件通知書の注意点
事業所規模に関わらない明示義務
労働条件通知書の交付義務は、事業所の規模に関わらず、すべての企業に適用される重要な法令です。従業員が1人でもいれば、その労働者に対して労働条件通知書を交付しなければなりません。
これは、たとえ小規模な個人事業主であっても例外ではありません。労働基準法は、労働者の権利保護を目的としているため、事業規模の大小でその適用が免除されることはないのです。
「うちの会社は小さいから関係ない」と誤解している経営者もいますが、これは大きな間違いです。規模が小さくても、労働者を雇用する以上、法令遵守は必須となります。特に、小規模事業所では労務管理が手薄になりがちで、労働条件の明示を怠ってしまうケースが見受けられます。
しかし、これは後に深刻な労使トラブルに発展する可能性を秘めており、企業の信頼を失うことにも繋がりかねません。すべての企業は、雇用する労働者に対して、適切な労働条件通知書を交付する義務を負っていることを改めて認識する必要があります。
明示義務違反のリスクと罰則
労働条件通知書の明示義務を怠った場合、企業は労働基準法に基づく罰則の対象となります。具体的には、労働基準法第120条により、「30万円以下の罰金」が課せられる可能性があります。これは、たとえ記載漏れや不備が一部であっても適用される可能性があるため、非常に重いリスクと言えます。
単なる罰金だけでなく、企業としての信用失墜も避けられません。
労働者との間で労働条件に関するトラブルが発生した場合、労働条件通知書は重要な証拠書類となります。もしこれが不備であったり、そもそも交付されていなかったりすれば、企業側が不利な立場に立たされる可能性が高まります。
例えば、不当解雇や賃金未払いなどの訴えがあった際に、明確な労働条件が示されていないと、企業側の主張が通りにくくなるでしょう。これらのリスクを避けるためにも、労働条件通知書は正確かつ網羅的に作成し、適切に交付することが極めて重要です。
電子交付のメリットと要件再確認
労働条件通知書の電子交付は、小規模事業所にとっても大きなメリットをもたらします。紙媒体での管理や郵送の手間、印刷コストなどを削減できるため、限られたリソースの中で効率的な労務管理を実現できます。
特に、従業員がリモートワークの場合や、複数の拠点に分散している場合には、電子交付は非常に有効な手段となります。迅速な交付が可能となり、採用活動のスピードアップにも貢献します。
しかし、その導入にはいくつかの要件を満たす必要があります。最も重要なのは、「労働者本人が電子交付を希望していること」です。これは口頭での同意でも可能ですが、後々のトラブルを避けるために、書面やメールでの同意記録を残すことが推奨されます。
また、「労働者が確認でき、かつプリントアウトできる形式であること(例:PDFファイル)」も必須要件です。これにより、労働者は自身の都合の良い時に内容を確認し、必要に応じて紙媒体で保存することができます。これらの要件を遵守し、適切に電子交付を活用することで、小規模事業所でも効率的かつ法令に則った労務管理を実現できるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 労働条件通知書はいつまでに発行されますか?
A: 原則として、労働契約の締結時(採用決定時)に、書面で交付される必要があります。遅くとも就業開始日までには受け取れるようにしましょう。
Q: パート・アルバイトでも労働条件通知書はもらえますか?
A: はい、パート・アルバイトであっても、正社員と同様に労働条件通知書の交付は義務付けられています。口頭での約束だけでなく、必ず書面で確認しましょう。
Q: 労働条件通知書に記載されていない項目はありますか?
A: 労働条件通知書には、賃金、労働時間、休日、休暇、就業場所、業務内容、契約期間、退職に関する事項などが記載されます。これら以外の項目については、別途雇用契約書などで確認が必要な場合があります。
Q: 派遣社員の場合、誰が労働条件通知書を発行しますか?
A: 派遣社員の場合、派遣元事業者(派遣会社)が労働条件通知書を発行する義務があります。派遣先企業から直接受け取るものではありません。
Q: 労働条件通知書の内容に不備があった場合はどうすれば良いですか?
A: 労働条件通知書の内容に疑問点や不備がある場合は、すぐに雇用主や人事担当者に確認しましょう。必要であれば、労働基準監督署に相談することも可能です。
