概要: 雇用契約書は、働く上での基本ルールを明確にする大切な書類です。退職や雇止めを考える際には、契約内容の確認が不可欠となります。本記事では、雇用契約書の基本から、退職・雇止め時の注意点、さらには契約書に関する疑問までを解説します。
雇用契約書とは?その重要性と基本ルール
会社に入社する際、私たちは「雇用契約書」という書類を目にすることがほとんどです。しかし、その内容を細部まで理解し、その重要性を認識している方はどれほどいるでしょうか?
雇用契約書は、あなたと会社との間に結ばれる大切な約束事を記したものです。このセクションでは、雇用契約書の基本的な役割から、絶対に押さえておくべき記載事項、そしてトラブルを未然に防ぐためのチェックポイントまでを解説します。
雇用契約書がなぜ重要なのか?
雇用契約書は、企業と従業員の間で交わされる雇用契約の内容を明確にする書面です。法律上、雇用契約書の作成・交付は義務ではありませんが、労働条件通知書は書面または電子媒体での交付が義務付けられています。
多くの場合、雇用契約書は労働条件通知書を兼ねており、労働条件を明確にすることで、労使間のトラブルを未然に防ぐ上で極めて重要な役割を果たします。
もし雇用契約書がなければ、口頭での合意内容が曖昧になり、後々「言った」「言わない」の水掛け論になりかねません。特に、賃金や労働時間、休日、そして退職に関する事項など、従業員の生活に直結する重要な条件は、書面で明確に示されていることが不可欠です。
例えば、入社時に「残業はほとんどない」と聞いていたのに、実際には恒常的な残業が発生している場合、契約書に具体的な残業時間や手当の規定がなければ、問題解決が難しくなります。雇用契約書は、従業員が安心して働くための基盤であり、いざという時の自分の権利を守るための証拠ともなるのです。
必ず押さえておきたい!雇用契約書の記載事項
雇用契約書(労働条件通知書を兼ねる場合)には、法律で定められた「絶対的明示事項」と、就業規則等で定めがある場合に記載が必要な「相対的明示事項」があります。
絶対的明示事項として、特に重要なのは以下の点です。
- 労働契約の期間(有期雇用か無期雇用か)
 - 就業の場所、従事する業務の内容
 - 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇
 - 賃金の決定・計算方法、支払方法、締切日、支払日
 - 退職に関する事項(解雇事由を含む)
 
これらは労働基準法で書面での明示が義務付けられており、特に賃金に関しては、固定残業代がある場合、その時間数や金額を明確に記載しないと、未払い残業代と判断されるリスクがあります。曖
昧な表現は避け、具体的な内容をしっかり確認しましょう。
また、2024年4月1日からは、労働条件明示ルールが改正され、有期雇用契約に関する新たな明示事項が追加されました。
- 更新上限に関する事項:「契約期間は通算3年を上限とする」など、更新の上限の有無と内容を初回契約締結時と更新時に明示する義務があります。
 - 無期転換申込権に関する事項:通算契約期間が5年を超える更新時など、無期転換申込権が発生するタイミングで、無期転換後の労働条件とともに明示する必要があります。
 
これらの記載は、従業員が自身のキャリアプランを考える上でも非常に重要です。契約書を受け取ったら、これらの項目を特に注意して確認してください。
トラブルを避けるための雇用契約書チェックリスト
雇用契約書を受け取った際、または企業側が作成する際に、以下のチェックリストを活用し、トラブルを未然に防ぎましょう。
| 項目 | 確認ポイント | 
|---|---|
| 必要事項の網羅性 | 法律で定められた絶対的明示事項が全て記載されているか? | 
| 求人内容との整合性 | 求人票や面接で提示された内容と矛盾はないか? | 
| 具体性・明確性 | 曖昧な表現はないか?特に賃金(固定残業代の時間数など)や業務内容は具体的か? | 
| 書面での交付 | 必ず書面(または同意があれば電子データ)で受け取っているか? | 
| 署名・捺印 | 双方の署名・捺印があるか?(合意の証拠となります) | 
| 雇用形態に合致 | 正社員、契約社員、パート・アルバイトなど、自身の雇用形態に合った内容か? | 
| 試用期間の明記 | 試用期間の有無、期間、本採用の条件が明確か? | 
| 転勤・人事異動 | 転勤や人事異動の可能性、範囲が明記されているか? | 
| 最新の法改正対応 | 2024年4月1日からの労働条件明示ルール改正に対応しているか?(特に有期雇用の場合) | 
雇用契約書は、一度サインをすればその内容に同意したことになります。後から「知らなかった」では済まされないことも多いため、上記チェックリストを参考に、疑問点は契約締結前に必ず会社に確認し、納得した上で合意するようにしましょう。不明な点があれば、労働基準監督署や専門家への相談も検討してください。
退職を考えているなら必見!雇用契約書と退職の関連性
「会社を辞めたい」そう考えることは、誰にでも起こりうることです。しかし、退職には法的なルールや手続きがあり、それを知らないとトラブルに巻き込まれたり、不利益を被ったりする可能性があります。
ここでは、雇用契約書の内容が退職にどう影響するのか、具体的な退職手続き、そして退職理由の近年の傾向まで、退職を検討している方が知っておくべき情報を解説します。
スムーズな退職のために知っておくべきこと
退職の意思表示は、雇用形態によってルールが異なります。自身の契約内容を雇用契約書で確認することが、スムーズな退職の第一歩です。
- 無期雇用のケース(正社員など):
民法第627条1項により、原則としていつでも退職の申し出が可能で、申し出から2週間が経過すれば雇用契約は終了します。ただし、会社の就業規則に「退職希望日の1ヶ月前までに申し出ること」といった規定がある場合は、それに従うことが一般的です。就業規則は会社のルールブックであり、原則として拘束力があります。円満退職のためにも、規則の確認は必須です。 - 有期雇用のケース(契約社員など):
原則として、契約期間満了までは一方的な退職はできません(民法第628条)。ただし、「やむを得ない事由」がある場合は即時退職が可能です。また、契約期間が1年を超える有期雇用契約の場合、契約開始から1年が経過すれば、いつでも一方的に辞職が可能となります(労働基準法附則第137条)。 
さらに、雇用契約書に記載された労働条件が、実際の労働と著しく異なる場合(例えば、提示された給与が実際の半分以下だったなど)は、労働基準法第15条に基づき、即時に契約を解除(退職)することが可能です。この場合は、会社が契約解除日から14日以内に帰郷旅費を負担する義務もあります。
退職手続きのステップと注意点
退職を決意したら、計画的に手続きを進めることが重要です。一般的なステップと、それぞれの注意点を押さえておきましょう。
- 退職の意思を伝える:
まずは直属の上司に口頭で退職の意思を伝えます。一般的には退職希望日の1~2ヶ月前が目安とされていますが、会社の就業規則で定められた期間に従いましょう。この際、退職理由を明確に伝える必要はありませんが、引き止められた際の対応を事前に考えておくと良いでしょう。 - 退職届の提出:
口頭での意思表示の後、正式な書面として退職届を提出します。これも就業規則の規定に従い、指定された様式があればそれに従ってください。一般的に、退職希望日の3週間~1ヶ月半前が目安とされます。 - 業務の引き継ぎ:
円滑な業務引き継ぎは、円満退職のために最も重要なステップの一つです。後任者が困らないよう、業務内容、顧客情報、進捗状況などを整理し、マニュアル化するなどして協力的に引き継ぎを行いましょう。 - 有給休暇の消化:
未消化の有給休暇がある場合、退職日までに消化する権利があります。会社と相談し、引き継ぎに支障がない範囲で計画的に消化しましょう。 - 退職後の必要書類の受け取り:
退職後、以下の書類を会社から受け取る必要があります。これらは転職先での手続きや失業保険の申請などに必要不可欠です。- 離職票(雇用保険の手続きに必要)
 - 雇用保険被保険者証
 - 源泉徴収票(確定申告や年末調整に必要)
 - 年金手帳(返却されている場合)
 
 
これらの手続きを滞りなく進めるためにも、雇用契約書や就業規則を事前に確認し、不明な点は人事担当者に確認するようにしましょう。
「本当に辞める理由」と雇用契約書
近年、退職理由の傾向には大きな変化が見られます。雇用契約書で示される条件と、実際の職場環境との乖離が、退職の大きな要因となっていることも少なくありません。
参考情報によると、2022年と2024年の「本当の退職理由」を比較すると、「職場の人間関係が悪い」という理由が35%から46%に大幅に増加しており、深刻化していることがわかります。次いで「給与が低い」「会社の将来性に不安を感じた」などが挙げられます。
これらの退職理由と雇用契約書は一見直接的な関係がないように見えますが、実は深く関連しています。例えば、「給与が低い」という理由は、雇用契約書に記載された賃金規定が自身の働きに見合わないと感じる場合に発生します。また、「会社の将来性に不安を感じた」という理由も、入社時に提示された会社のビジョンや業務内容が、実態と異なると感じた場合に生じることがあります。
特に、雇用契約書に曖昧な記載があったり、実態と異なる条件が提示されていたりすると、入社後のギャップが大きくなり、結果的に早期退職につながる可能性が高まります。例えば、「転勤あり」と記載されていても、その範囲や頻度が不明確だと、予期せぬ転勤辞令が退職の引き金になることもあります。
新卒3年以内の離職率が大企業でも上昇傾向にあるというデータも、若年層が職場の人間関係や自身のキャリアパスに対する不満を抱えやすい現状を示唆しています。退職を検討する際は、これらの理由を深く掘り下げ、自身の雇用契約書の内容と照らし合わせながら、次のキャリアを慎重に考えることが重要です。
雇止めとは?雇用契約書から紐解くリスクと対策
有期雇用契約で働く方にとって、「雇止め」は常に付きまとう不安の一つかもしれません。期間の定めがある雇用契約は、原則として期間満了で終了しますが、実はそう簡単ではないケースもあります。
このセクションでは、雇止めの基本的な定義から、どのような場合に雇止めが無効となるのか、そして2024年4月1日の法改正が雇止めにどう影響するのかについて、雇用契約書の内容を踏まえながら解説します。
「雇止め」って何?有期雇用契約の終了ルール
「雇止め」とは、期間の定めがある労働契約(有期労働契約)において、契約期間の満了をもって雇用契約を終了させることを指します。
正社員のような無期雇用契約が「解雇」という形で雇用終了に至るのに対し、契約社員やパート・アルバイトといった有期雇用契約は、原則として定められた期間が満了すれば自動的に契約が終了します。この期間満了による契約終了が「雇止め」です。
有期雇用契約は、特定のプロジェクト期間だけや、特定の業務が終了するまでなど、あらかじめ期間が定められているのが特徴です。そのため、雇用契約書には「契約期間:〇年〇月〇日~〇年〇月〇日」といった形で、明確な契約終了日が明記されています。
しかし、実際には同じ会社で何年も契約更新を繰り返しているケースも少なくありません。このような場合、労働者側には「また契約が更新されるだろう」という期待が生じることがあり、安易な雇止めはトラブルの原因となることがあります。
雇止めは、無期雇用における解雇とは異なり、原則として会社の自由が認められますが、後述する特定の条件を満たす場合には、その有効性が問われることになります。まずは、ご自身の雇用契約書に記載されている契約期間や更新に関する条項をしっかりと確認することが大切です。
雇止めが無効になるケースとは?
原則として期間満了で終了する雇止めですが、以下のいずれかに該当する場合、雇止めは無効となる可能性があります(労働契約法第19条)。
- 更新の期待(期待権)がある場合:
- 実質的に無期雇用と同視できる場合: 過去に契約が何度も反復更新されており、雇止めが実質的に無期雇用者の解雇と同視できる状況にある場合です。例えば、10年以上にわたって契約更新を繰り返している、契約更新回数や通算契約期間に上限がないといったケースが該当します。
 - 契約更新を合理的に期待できる場合: 労働者が契約更新を合理的に期待できる状況にあった場合です。例えば、正社員と同様の業務内容に従事していた、会社が「次は正社員登用も」など更新を期待させる言動をしていた、過去に更新拒絶の事例がない、といった状況が挙げられます。
 
 - 客観的合理性・社会通念上の相当性がない場合:
上記のいずれかに該当し、労働者に更新の期待がある場合であっても、会社側が雇止めをするには、客観的に合理的な理由があり、それが社会通念上相当と認められなければなりません。
例えば、会社の業績不振や、労働者の業務遂行能力の著しい低下などが合理的な理由となりえます。しかし、単に「なんとなく」といった理由や、恣意的な理由での雇止めは無効となる可能性が高いです。 
これらの判断は個別の事情によって異なりますが、雇止めを巡るトラブルは少なくありません。ご自身の雇用契約書に更新に関する規定があるか、過去の更新状況などを確認し、不安な場合は専門家へ相談することを検討しましょう。
2024年法改正!雇止めリスクを減らすためのポイント
2024年4月1日からは、有期雇用労働者の労働条件明示ルールが改正され、雇止めに関する新たな注意点が加わりました。これは、企業側にとっても、労働者側にとっても重要な変更です。
企業が雇止めを行う際のリスクを減らす(または労働者が雇止めに備える)ためのポイントは以下の通りです。
- 契約更新・通算期間の上限の明示義務化:
「契約期間は通算3年を上限とする」など、更新上限に関する事項を、初回契約締結時と契約更新時に書面で明示することが義務付けられました。これにより、労働者は自身の契約期間の終わりを明確に認識できるようになり、雇止め時のトラブルを減らす狙いがあります。 - 無期転換申込権に関する事項の明示義務化:
通算契約期間が5年を超える更新時など、無期転換申込権が発生するタイミングごとに、無期転換の申込みが可能であること、および無期転換後の労働条件を書面で明示する必要があります。これは、有期雇用労働者が安定した雇用を求める権利を保障するものです。 - 雇止め予告:
契約更新が3回以上繰り返されている、または1年を超えて継続雇用されている労働者に対し、契約を更新しない場合は、原則として契約期間満了の30日前までに予告が必要です(雇止め基準)。この予告を怠った場合、不当な雇止めとみなされる可能性があります。 - 雇止め理由の明示:
上記の予告が必要なケースで、労働者から証明書の請求があった場合、会社は遅滞なく雇止め理由を記載した証明書を交付しなければなりません。この際、記載する理由は「契約期間満了」とは別の具体的な理由である必要があります。 
企業側はこれらの法改正に対応し、雇用契約書や労働条件通知書を適切に更新・運用することが求められます。労働者側も、自身の雇用契約書の内容や、契約更新時の書面をしっかり確認し、自身の権利を理解しておくことが重要です。
雇用契約書をもらっていない!そんな時の対処法
「入社したのに雇用契約書をもらっていない」「口約束だけで働いている」――実は、このような状況は珍しくありません。しかし、雇用契約書がない状態は、さまざまなリスクを伴います。
このセクションでは、雇用契約書がないことで何が困るのか、労働条件の明示義務とは何か、そして具体的にどのように対処すれば良いのかを解説します。
雇用契約書がないと何が困るの?
雇用契約書がない、あるいは書面での労働条件通知を受けていない場合、多くの潜在的なリスクや不利益が生じる可能性があります。
- 労働条件の不明確さ:
最も大きな問題は、自分の労働条件が曖昧になることです。「給与はいくらなのか」「残業代は出るのか」「休日はいつなのか」「退職のルールはどうなっているのか」など、基本的な情報が不明確なまま働くことになります。これは、将来的な賃金トラブルや労働時間に関する紛争の原因となりえます。 - トラブル時の証拠不足:
もし会社との間で何らかのトラブルが発生した場合、書面での証拠がないと、自分の主張を立証することが非常に困難になります。例えば、「事前に聞いていた話と違う」と訴えても、それを裏付ける書類がなければ、会社側の主張が通ってしまう可能性が高まります。 - 不利益変更のリスク:
書面での合意がない場合、会社が一方的に労働条件を変更するリスクも高まります。給与の減額や、不本意な配置転換などが行われた際に、それに抵抗するための根拠が薄くなってしまいます。 - 雇用保険や社会保険の手続きの遅延・不備:
雇用契約書は直接関係ありませんが、労働条件が不明確だと、雇用保険や社会保険の手続きに必要な情報が不足し、加入が遅れたり、適切に行われなかったりする可能性があります。 
雇用契約書がない状態は、従業員にとって非常に不利な状況であり、安心・安定して働く上での大きな障壁となります。自分の身を守るためにも、この状況を放置せず、適切な対処が必要です。
まずはこれを確認!労働条件の明示義務
雇用契約書がなくても、会社には労働条件を明示する法的義務があります。
労働基準法第15条では、会社は労働契約の締結に際し、賃金、労働時間、その他の労働条件を労働者に明示しなければならないと定められています。このうち、特に重要な「絶対的明示事項」については、書面(または労働者が希望すれば電子データ)で交付することが義務付けられています。
絶対的明示事項には、以下の項目が含まれます。
- 労働契約の期間
 - 就業の場所および従事すべき業務
 - 始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務に関する事項
 - 賃金の決定、計算および支払いの方法、賃金の締め切りおよび支払いの時期に関する事項
 - 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
 
多くの会社では、この明示義務を果たすために、雇用契約書を交付したり、労働条件通知書を別途交付したりしています。つまり、雇用契約書がなくても、少なくとも労働条件通知書は受け取る権利があるということです。
もしこれらの書面を一切受け取っていないのであれば、会社は法的な義務を果たしていないことになります。この事実を認識することが、次の対処法を考える上で非常に重要です。
雇用契約書がない場合の具体的な対処法
雇用契約書がない、あるいは労働条件通知書も受け取っていないという状況であれば、以下のステップで対処を検討しましょう。
- 会社への確認・請求:
まずは、人事担当者や上司に、雇用契約書または労働条件通知書が交付されていない旨を伝え、発行を依頼しましょう。この際、口頭だけでなく、メールなど記録に残る形で依頼することをおすすめします。「いつまでに発行してもらえますか」と具体的な期日を伝えることも有効です。 - 証拠の収集:
会社が書面を交付しない場合でも、自分の労働条件を証明するための証拠を集めておきましょう。例えば、入社時の募集要項、面接時のメモ、会社のウェブサイト、給与明細、タイムカードの記録、同僚とのやり取りのメールなど、自分の労働条件を推測できるものは何でも証拠になりえます。 - 労働基準監督署への相談:
会社が請求に応じない、あるいは無視するようであれば、労働基準監督署に相談することを検討してください。労働基準監督署は、労働基準法違反があった場合に会社に対して指導や勧告を行う権限を持っています。匿名での相談も可能です。 - 労働問題に強い弁護士への相談:
もし給与の未払いや不当な解雇(雇止め)など、具体的なトラブルが発生している場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。法的な専門知識に基づいて、具体的な解決策をアドバイスしてくれます。 
雇用契約書がない状況は放置すべきではありません。積極的に行動し、自分の権利を守るための情報を集め、適切な機関に相談することが重要です。
雇用契約書の見直しと変更:令和6年(2024年)のポイント
労働市場や法制度は常に変化しており、雇用契約書もその影響を受けます。特に2024年(令和6年)は、労働条件の明示ルールにおいて大きな改正がありました。
このセクションでは、なぜ今雇用契約書の見直しが必要なのか、2024年4月1日の改正点の詳細、そして企業が雇用契約書を見直す際に押さえるべきその他のポイントを解説します。
なぜ今、雇用契約書の見直しが必要なのか?
雇用契約書は、一度作成すれば終わりというものではありません。法改正や労働環境の変化、さらには自社の雇用戦略の変更に応じて、定期的な見直しと更新が不可欠です。
現在、雇用契約書の見直しが特に重要視される理由は以下の通りです。
- 頻繁な法改正への対応:
働き方改革関連法や労働施策総合推進法(パワハラ防止法)など、近年、労働関連法令の改正が頻繁に行われています。特に、2024年4月1日施行の労働条件明示ルールの改正は、有期雇用労働者にとって大きな影響を与えるものであり、既存の雇用契約書が最新の法令に対応しているかどうかの確認が急務です。 - 労使トラブルの防止:
労働条件が不明確であったり、法改正に対応していない内容が含まれていたりすると、従業員との間に誤解や不満が生じやすくなります。これが賃金トラブル、退職トラブル、ハラスメント問題といった労使間の紛争に発展するリスクを高めます。適切な雇用契約書は、これらのトラブルを未然に防ぐための「予防線」となります。 - コンプライアンスの遵守:
法令に準拠した雇用契約書は、企業のコンプライアンス(法令遵守)体制の基本です。法令違反は、企業の社会的信用を失墜させるだけでなく、行政指導や罰則の対象となる可能性もあります。 - 多様な働き方への対応:
リモートワーク、副業・兼業、時短勤務など、働き方が多様化している現代において、それぞれの働き方に合わせた雇用条件を明確にする必要があります。既存の契約書が、こうした多様な働き方を適切にカバーしているかどうかの確認も重要です。 
これらの理由から、企業側は定期的に雇用契約書の内容を精査し、必要に応じて変更・更新を行うことが、健全な企業運営と従業員との良好な関係構築のために不可欠であると言えます。
2024年4月1日改正!労働条件明示ルールの詳細
令和6年(2024年)4月1日から施行された労働条件明示ルール改正は、特に有期雇用労働者の保護を強化する内容となっています。この改正により、雇用契約書(労働条件通知書を兼ねる場合)には、以下の事項を明示することが義務付けられました。
- 更新上限に関する事項の明示:
有期労働契約の締結時と契約更新時に、更新の上限の有無と、その内容(例:「契約期間は通算3年を上限とする」「更新回数は2回まで」など)を明示することが義務化されました。これにより、労働者は契約の終わりを明確に予見できるようになります。 - 無期転換申込権に関する事項の明示:
通算契約期間が5年を超える有期労働契約を更新する際に、労働者が無期転換申込権(有期雇用から無期雇用への転換を申し込む権利)を行使できる旨、および無期転換後の労働条件を明示することが義務化されました。これは、無期転換ルールを周知し、労働者の権利行使を促すものです。 - 就業場所・業務の変更の範囲の明示:
すべての労働契約の締結時と更新時に、就業場所や業務の内容について、雇入れ直後だけでなく、「変更の範囲」を明示することが義務化されました。例えば、「就業場所:〇〇事業所(会社の定める事業所に変更する可能性あり)」のように、将来的な配置転換の可能性も含めて具体的に示す必要があります。 
これらの改正は、有期雇用労働者が自身の雇用状況をより正確に把握し、キャリア形成を行う上での重要な情報提供を義務付けるものです。企業側は、これらの新しいルールに沿って、雇用契約書の内容を更新し、適切に運用する必要があります。
見直しで押さえるべきその他のポイント
2024年の法改正への対応に加え、雇用契約書を見直す際には、以下のような点も総合的に検討し、より実態に即した内容にすることが望ましいです。
- 雇用形態ごとの調整:
正社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員など、それぞれの雇用形態に合わせた労働条件を明確に記載しましょう。特に、正社員と非正規雇用労働者では、平均年収に大きな差(2023年データで正社員530万円、正社員以外202万円)があるため、賃金や賞与に関する規定は特に明確にする必要があります。 - 固定残業代の明確化:
固定残業代を導入している場合、それが何時間分の残業に相当し、その時間を超える残業には別途残業代が支払われる旨を、具体的に明記することが重要です。曖昧な記載は、未払い残業代トラブルに直結します。 - 試用期間の明確化:
試用期間の有無、期間、試用期間中の労働条件、そして本採用の条件を具体的に記載しましょう。試用期間満了後の本採用拒否は、客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。 - 転勤・人事異動に関する事項:
就業場所・業務の変更の範囲の明示義務化と合わせて、転勤や人事異動の可能性、その範囲、判断基準などをより詳細に記載することで、従業員の不安を軽減し、トラブルを防ぐことができます。 - 定期的な見直しと専門家への相談:
雇用契約書は一度作成したら終わりではなく、社会情勢や法令、会社の状況に応じて定期的に見直すことが不可欠です。法改正への対応や複雑な規定の見直しは、社会保険労務士や弁護士といった専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることを強くお勧めします。 
雇用契約書は、企業と従業員双方にとって、安心して働くための土台となる重要な書類です。常に最新の状態を保ち、明確で公正な内容にすることが、良好な労使関係を築く上で最も重要な要素と言えるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 雇用契約書は必ずもらう必要がありますか?
A: はい、労働基準法により、事業主は労働契約を締結する際に、労働者に対して労働条件(期間、場所、業務内容、賃金、労働時間、休憩、休日、就業規則、解雇事由など)を明示する義務があります。多くの場合、これが雇用契約書や労働条件通知書として交付されます。
Q: 雇用契約書の内容と実際の労働条件が違っていたらどうすればいいですか?
A: 雇用契約書に記載された内容と実際の労働条件が異なる場合は、労働条件の不利益変更にあたる可能性があります。まずは会社に是正を求め、改善されない場合は、労働基準監督署や弁護士などの専門機関に相談することをおすすめします。
Q: 「雇止め」とは具体的にどのような状況を指しますか?
A: 雇止めとは、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)において、契約期間の満了に伴い、使用者が契約を更新しないことを言います。ただし、更新されることが期待される一定の状況下では、雇止めは解雇とみなされる場合もあります。
Q: 雇用契約書を「忘れていた」場合、後から発行してもらえますか?
A: 原則として、労働契約締結時に交付されるべきものです。もし忘れていた場合でも、会社に依頼すれば発行してもらえる可能性があります。ただし、契約内容の証明が重要となるため、速やかに会社に確認することが大切です。
Q: 雇用契約書について、令和6年4月からの変更点はありますか?
A: 令和6年(2024年)4月からは、パートタイム・有期雇用労働法における「同一労働同一賃金」の適用が、中小企業にも完全義務化されました。これに伴い、有期契約労働者と無期契約労働者との間の不合理な待遇差をなくすための雇用契約書の記載内容も、より厳格に確認される必要があります。
  
  
  
  