1. 雇用契約書、もらえますか?正しい受け取り方と注意点
  2. 雇用契約書はいつ、どうやって受け取るべき?
    1. 雇用契約書と労働条件通知書の違いを理解しよう
    2. 受け取りのベストタイミングと具体的な依頼方法
    3. 電子交付の現状と注意点
  3. 雇用契約書を「もらう」権利と、渡す側の義務
    1. 法的な義務と「もらう」権利
    2. 口頭での合意の限界と書面での重要性
    3. 企業が雇用契約書を交付しないリスク
  4. 雇用契約書、メールで受け取る場合の確認ポイント
    1. 電子交付の法的要件とメリット・デメリット
    2. 電子契約書での本人確認と証拠力
    3. 電子データ保存時の注意点
  5. 雇用契約書をしっかり読むためのチェックリスト
    1. まず確認すべき必須項目
    2. 最新法改正で追加された重要確認事項(2024年4月)
    3. 就業規則や他の規定との整合性
  6. もし雇用契約書がもらえない!そんな時の対処法
    1. まずは会社への確認・依頼から
    2. 労働基準監督署への相談
    3. 専門家への相談と今後の行動
  7. まとめ
  8. よくある質問
    1. Q: 雇用契約書はいつ受け取れますか?
    2. Q: 雇用契約書は必ずもらえるものですか?
    3. Q: 雇用契約書をメールで受け取った場合、どう確認すればいいですか?
    4. Q: 雇用契約書の内容が不明な場合、どうすればいいですか?
    5. Q: 雇用契約書を渡してもらえない場合はどうすればいいですか?

雇用契約書、もらえますか?正しい受け取り方と注意点

新しい会社に入社する際、期待と不安が入り混じるものです。そんな時に必ず確認しておきたいのが「雇用契約書」。

給与、労働時間、休日など、あなたの働き方に関する重要な情報がすべて記載されています。

しかし、「いつ、どうやって受け取ればいいの?」「どんな点に注意すればいい?」と疑問に思う方も少なくないでしょう。

この記事では、雇用契約書を適切に受け取り、その内容を理解するためのポイントを詳しく解説します。

労働者としての権利を守り、安心して働くための知識を身につけましょう。

雇用契約書はいつ、どうやって受け取るべき?

雇用契約書と労働条件通知書の違いを理解しよう

雇用契約書と混同されがちな書類に「労働条件通知書」があります。この二つには、法的な位置付けに大きな違いがあるため、まずはその点を明確に理解しておくことが重要です。

雇用契約書は、労働者と雇用主の間で結ばれる労働契約の内容を、双方の合意に基づいて明らかにするための書類です。給与、労働時間、就業場所、業務内容など、働く上で重要な条件が詳細に記載されます。法律上、雇用契約書の作成・交付義務は直接的にはありませんが、双方の合意を証明し、将来的なトラブルを防ぐ上で非常に重要な役割を果たします。

一方、労働条件通知書は、労働基準法により、雇用主が労働者に対して特定の労働条件を明示するために交付する義務がある書類です。記載すべき項目は法律で具体的に定められており、これは労働者の権利保護を目的としています。労働条件通知書が交付されない場合、労働基準法違反となります。

実務上は、両者の内容を兼ねた「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として作成されることが多く、これにより法的な義務を果たしつつ、合意の証拠も残すことができます。どちらの形式であっても、内容をしっかり確認することがあなたの権利を守る上で不可欠です。

受け取りのベストタイミングと具体的な依頼方法

雇用契約書(または労働条件通知書)を受け取るタイミングは、通常、内定日や入社日までに交付されることが多いです。特に労働条件通知書は、労働契約の締結時(つまり入社時)に交付することが法律で義務付けられています。

入社前に書類を受け取ることは、あなたが新しい職場で働く上での条件を事前に十分に理解し、疑問点を解消するために非常に重要です。例えば、就業時間、休憩時間、休日、そして最も気になる給与や手当など、認識の相違が生じやすい項目については、書面で確認することが何よりも大切です。

もし、入社前にこれらの書類が手元にない場合は、遠慮せずに企業に発行を依頼しましょう。具体的な依頼方法としては、採用担当者や人事担当者にメールで丁寧に問い合わせるのが一般的です。以下のような文面を参考にしてください。

【メール依頼文例】

件名:雇用契約書(労働条件通知書)の送付依頼(氏名)

〇〇株式会社
人事部 〇〇様

いつもお世話になっております。〇〇(あなたの氏名)です。

この度は、内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございます。

つきましては、入社に向けて、雇用契約書または労働条件通知書の内容を事前に確認させていただきたく、お忙しいところ恐縮ですが、送付をご検討いただけますでしょうか。

何卒よろしくお願い申し上げます。

署名
氏名
連絡先

電話で依頼する場合は、担当者の手を煩わせないよう、手短に要件を伝えましょう。事前の確認は、入社後の不要なトラブルを未然に防ぐための第一歩です。

電子交付の現状と注意点

近年、テクノロジーの進化に伴い、雇用契約書や労働条件通知書の電子交付が普及しつつあります。2019年4月以降、一定の要件を満たせば、労働条件通知書をメールなどの電磁的方法で交付することが可能になりました。

企業側にとって、電子交付は業務効率化やコスト削減(印刷代、郵送費など)に繋がる大きなメリットがあります。また、労働者側にとっても、自宅や外出先など、場所を選ばずにいつでも書類を確認できるという利便性があります。クラウド上に保管すれば紛失のリスクも低減できますし、必要な時にすぐに検索して内容を確認できる点も魅力です。

しかし、電子交付を受ける際には、いくつかの注意点があります。まず、最も重要なのは「本人確認」と「改ざん防止措置」が適切に行われているかという点です。電子署名やタイムスタンプが導入されているかを確認し、書類の真正性が確保されていることを確認しましょう。

次に、電子データの適切な保存方法です。受け取った電子データが容易に閲覧・出力できる形式であるか(PDFなど)、また、バックアップを取るなどして、誤って削除したり紛失したりしないように管理する責任はあなた自身にもあります。企業によっては、専用のポータルサイトや電子契約システムを通じて交付されることもあり、その場合はログイン情報の管理も重要になります。

電子化された契約書であっても、その法的な効力は紙の契約書と同等です。そのため、内容の確認は紙の書類以上に慎重に行い、疑問点があればすぐに企業に問い合わせるようにしましょう。

雇用契約書を「もらう」権利と、渡す側の義務

法的な義務と「もらう」権利

雇用契約書自体に、法律上の作成・交付義務は直接的にはありません。しかし、だからといって「もらえないのが当たり前」というわけではありません。労働者には、自身の労働条件を明確に知る「権利」があり、企業側にはそれを明示する「義務」があります。

この義務を定めているのが、労働基準法第15条です。同法により、雇用主は労働契約の締結に際し、賃金、労働時間その他の労働条件を労働者に対して明示しなければならないとされています。この明示は、原則として書面(または労働者が希望した電磁的方法)で行う必要があります。この書面こそが「労働条件通知書」であり、実質的に労働者が労働条件に関する書類を受け取る権利を保障しているのです。

つまり、たとえ「雇用契約書」という名称の書類が交付されなくても、「労働条件通知書」は必ず受け取らなければなりません。もし企業が労働条件通知書を交付しない場合、それは労働基準法違反となります。

この労働条件の明示義務は、労働者と企業間の情報格差を是正し、双方が対等な立場で労働契約を結ぶための基盤となります。自身がどのような条件で働くのかを事前に把握することは、安心して働く上で最も基本的な権利と言えるでしょう。

口頭での合意の限界と書面での重要性

「口頭での約束」も契約としては有効ですが、労働契約においては、書面での合意が圧倒的に重要です。なぜなら、口頭での合意は「言った・言わない」の争いになりやすく、後になって労働条件に関する認識の相違が生じた際に、明確な証拠がないため解決が非常に困難になるからです。

例えば、「残業代は支払われると聞いていたのに実際は支払われない」「転勤はないと言われていたのに辞令が出た」といったトラブルは、書面による合意がなければ、どちらの主張が正しいのかを証明するのが極めて難しくなります。特に、賃金、労働時間、休日、就業場所、業務内容といった、労働者の生活に直結する重要な労働条件については、書面で明確に合意しておくことが不可欠です。

雇用契約書や労働条件通知書は、そのようなトラブルが発生した際に、当事者間の合意内容を客観的に証明する強力な証拠となります。もし労働基準監督署への相談や、最悪の場合、裁判に発展することになっても、書面があればあなたの主張を裏付けることができます。自分の権利を守るためにも、口頭での約束だけに頼らず、必ず書面での確認を求めるようにしましょう。

企業が雇用契約書を交付しないリスク

企業が雇用契約書や労働条件通知書を交付しないことは、労働者にとって不利益であるだけでなく、企業自身にとっても大きなリスクを伴います。

まず、労働条件通知書を交付しないことは、前述の通り労働基準法第15条の違反にあたり、企業は労働基準監督署からの指導や勧告、さらには罰則の対象となる可能性があります。これは企業の法令遵守の姿勢を問われる問題です。

次に、書面での労働条件の明示がない場合、労働者との間で労働条件に関する認識の相違が生じやすくなります。これにより、入社後の早期退職、モチベーションの低下、さらには労働紛争へと発展するリスクが高まります。このようなトラブルは、企業にとって時間的・金銭的なコストだけでなく、企業の評判やイメージを著しく損なう結果を招く可能性があります。

また、労働条件が不明確なままだと、例えば「転勤の範囲」「残業の規定」「退職に関する条件」などについて、労働者が不信感を抱きやすくなります。これが優秀な人材の離職につながったり、新たな人材の採用を困難にしたりすることもあります。

企業が雇用契約書や労働条件通知書を適切に交付し、労働条件を明確にすることは、法令遵守はもちろんのこと、従業員との信頼関係を築き、安定した企業経営を行う上で不可欠な要素であることを理解しておくべきです。

雇用契約書、メールで受け取る場合の確認ポイント

電子交付の法的要件とメリット・デメリット

2019年4月1日以降、労働基準法施行規則の改正により、労働条件通知書は労働者が希望した場合に限り、ファクシミリや電子メールなどの電磁的方法による交付が認められるようになりました。これは、企業と労働者双方に様々なメリットをもたらしますが、同時に注意すべき点も存在します。

電子交付のメリットとしては、まず迅速性と利便性が挙げられます。郵送の手間や時間を省けるため、遠隔地からの応募者や急ぎで入社が決まった場合でもスムーズなやり取りが可能です。また、データとして保管できるため、紙の書類のように紛失するリスクが低く、いつでもどこでも閲覧・印刷できる点も大きな利点です。

一方で、デメリットも存在します。最も重要なのは、電子データは紙の書類に比べて改ざんされやすいという懸念です。そのため、電子交付には「労働者がその内容を整然とした形で出力できること」と「改ざんされていないことを確認できる措置が講じられていること」という法的要件が課せられています。また、労働者が電子交付を希望しない場合は、紙媒体での交付が必須となります。

電子交付を受ける際は、PDF形式など改ざんが難しいファイル形式で提供されているか、また、電子署名やタイムスタンプなどの真正性を担保する技術が使用されているかを確認することが重要です。これらの要件が満たされているか、そしてあなたが容易に内容を確認できる環境にあるかを自身で判断する必要があります。

電子契約書での本人確認と証拠力

電子化された雇用契約書や労働条件通知書を受け取る際、その「本人確認」と「証拠力」は非常に重要な確認ポイントです。紙の契約書であれば、署名や押印によって本人の意思確認と証明が行われますが、電子データではその方法が異なります。

電子契約システムを利用する場合、一般的には電子署名やタイムスタンプが用いられます。電子署名は、文書が特定の人物によって作成されたこと、そしてその後に改ざんされていないことを証明する技術です。タイムスタンプは、その電子データが特定の時刻に確かに存在し、それ以降改ざんされていないことを証明するものです。

労働者として電子契約書を受け取る際には、以下の点を確認しましょう。

  • 発行元が信頼できるか:企業が使用している電子契約システムが信頼性の高いものであるか。
  • 電子署名やタイムスタンプが付与されているか:これにより、契約書の真正性と非改ざん性が確保されます。
  • 内容の変更履歴が確認できるか:万が一、内容が変更された場合に、その履歴を追跡できる仕組みがあるか。

これらの措置が適切に講じられていれば、電子契約書も紙の契約書と同等の証拠力を持つとされています。万が一、労働条件に関するトラブルが発生し、労働基準監督署への相談や法的な紛争に発展した場合でも、これらの証拠があればあなたの主張を裏付けることが可能になります。受け取った電子契約書がどのような技術で保護されているのか、事前に企業に確認することも有効な手段です。

電子データ保存時の注意点

電子交付された雇用契約書や労働条件通知書は、手軽に保管できる反面、いくつかの注意点を守らないと、いざという時に困る可能性があります。

まず、最も基本的なこととしてデータのバックアップを必ず取るようにしましょう。パソコンやスマートフォンが故障したり、誤ってファイルを削除してしまったりするリスクは常に存在します。クラウドストレージ(Google Drive, Dropboxなど)や外付けハードディスク、USBメモリなど、複数の場所にデータを保存しておくことで、紛失のリスクを最小限に抑えることができます。

次に、アクセス制限やパスワード保護の活用です。個人情報が記載された重要な書類であるため、不正なアクセスからデータを守る必要があります。パスワードを設定したフォルダに保存する、ファイルを暗号化するなどの対策を講じましょう。また、不特定多数の人がアクセスできる共有フォルダなどに安易に保管しないよう注意してください。

さらに、長期的な閲覧可能性の確保も考慮すべき点です。電子契約書は特定のファイル形式(PDFなど)で提供されることが多いですが、将来的にそのファイル形式を読み取れるソフトウェアがなくなってしまう可能性もゼロではありません。定期的にファイル形式の確認を行うか、不安な場合は印刷して紙媒体としても保管しておくという選択肢も有効です。紙媒体であれば、電源がなくてもいつでも内容を確認できますし、物理的な証拠としても利用できます。

電子データの利便性を最大限に活用しつつ、これらの注意点を踏まえることで、あなたの雇用契約書を安全かつ確実に管理することができます。

雇用契約書をしっかり読むためのチェックリスト

まず確認すべき必須項目

雇用契約書を受け取ったら、署名・押印をする前に、必ず隅々まで目を通し、内容を理解することが重要です。特に以下の項目は、あなたの働く条件の根幹をなすため、入念に確認しましょう。

  • 契約期間:期間の定めがあるか、ないか。ある場合はその期間と、更新の有無、更新の判断基準。
  • 就業場所:具体的な事業所名と所在地。在宅勤務やリモートワークの規定。
  • 業務内容:担当する職務、部署、具体的な業務範囲。
  • 始業・終業時刻、休憩時間:具体的な時間、休憩時間の長さとタイミング。フレックスタイム制や裁量労働制の場合はその旨とルール。
  • 休日:週休二日制か、年間休日数、具体的な曜日。祝日や年末年始休暇の扱い。
  • 賃金:基本給、各種手当(通勤手当、住宅手当、役職手当など)、残業代の計算方法、支払い方法(振込日、口座など)。昇給や賞与の有無と基準。
  • 退職・解雇に関する規定:自己都合退職時の手続き、解雇事由と手続き。

これらの項目があなたの事前の認識や希望と一致しているかを、一つひとつ丁寧に確認してください。もし不明な点や疑問があれば、署名・押印する前に必ず採用担当者や人事担当者に質問し、明確な回答を得ることが大切です。後になって「思っていたのと違った」という事態にならないように、自分の働き方に直接影響する部分は特に慎重に確認しましょう。

最新法改正で追加された重要確認事項(2024年4月)

2024年4月1日からは、労働条件の明示義務がさらに強化されました。これは、労働者がより安心して働き続けられるようにするための重要な改正です。雇用契約書(労働条件通知書)を受け取る際は、特に以下の点が具体的に明示されているかを確認する必要があります。

  • 就業場所や業務内容の変更の範囲:

    正社員の場合、将来的な転勤や異動の可能性、その範囲(例えば「全国転勤あり」「〇〇支店まで」など)が具体的に記載されているかを確認します。これは、キャリアプランに大きく影響するため非常に重要です。

  • 有期雇用契約の更新上限:

    契約社員やパートタイマーなど、期間の定めのある労働契約の場合、契約更新の有無、更新する場合の基準に加え、通算契約期間または更新回数の上限が明示されているかを確認します。これにより、雇用の安定性を見通しやすくなります。

  • 無期転換申込権に関する事項:

    有期雇用契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者には「無期雇用契約への転換」を申し込む権利(無期転換申込権)が発生します。この権利が発生する機会がある労働者に対し、無期転換申込機会や、無期転換後の労働条件(例えば、定年制の適用など)が明示されているかを確認します。

これらの項目は、特に長期的なキャリア形成や雇用の安定性に直結する重要な情報です。法改正によって、企業はこれまで以上に具体的にこれらの情報を明示する義務を負っていますので、あなたの雇用契約書が最新の法令に則って作成されているかをしっかりチェックしましょう。

就業規則や他の規定との整合性

雇用契約書の内容は、多くの場合、会社の「就業規則」やその他の関連規定(給与規定、育児介護休業規定、旅費規定など)と連携しています。したがって、雇用契約書を読む際には、これらの他の規定との整合性も確認することが重要です。

一般的に、雇用契約書と就業規則の内容が異なる場合、労働者にとって有利な条件が優先されるという原則があります。しかし、これは法的な判断を伴うことが多いため、基本的には両者が矛盾なく、統一された内容であるべきです。例えば、雇用契約書に記載されている休日日数と、就業規則に定められている年間休日数が異なる場合、どちらが正しいのか、あるいはどちらの条件が適用されるのかを明確にする必要があります。

以下の点に注意して確認を進めましょう。

  • 就業規則の確認:雇用契約書に「その他は就業規則による」といった記載がある場合は、就業規則を必ず確認しましょう。多くの企業では、就業規則は社内ネットワークや人事部で閲覧できます。
  • 給与規定との照合:基本給や各種手当、残業代の計算方法などが、給与規定と一致しているか確認します。特に、固定残業代制度が導入されている場合は、その詳細が明確にされているか注意が必要です。
  • 育児介護休業規定など:将来的に利用する可能性のある育児休業や介護休業に関する規定も、必要に応じて確認しておくと良いでしょう。

すべての書類を読み込み、全体として矛盾がないか、そしてあなたの希望する働き方と合致しているかを総合的に判断することが大切です。これらの規定は、あなたの労働条件の全体像を把握するために不可欠な情報源となります。

もし雇用契約書がもらえない!そんな時の対処法

まずは会社への確認・依頼から

雇用契約書(または労働条件通知書)がもらえない場合、それ自体が直ちに違法となるわけではありませんが、労働条件通知書は法律で交付が義務付けられています。まずは落ち着いて、企業に確認・依頼することから始めましょう。

もしかしたら、企業側の渡し忘れや、作成が遅れているだけの可能性もあります。感情的にならず、丁寧な言葉で書面での交付を依頼することが重要です。前述のメール文例を参考に、再度、採用担当者や人事担当者に連絡を取り、「労働条件通知書」の交付を明確に求めるようにしましょう。

依頼の際には、以下の点を明確に伝えるとスムーズです。

  • あなたがどの書類(雇用契約書、労働条件通知書など)の交付を希望しているのか。
  • いつまでに交付してほしいかの希望期日(例:入社日まで、〇月〇日まで)。
  • どのような方法(郵送、メール添付、電子契約システムなど)での交付を希望するか。

複数回依頼しても対応がない場合や、企業側が「口頭で伝えたから不要」といった対応をする場合は、注意が必要です。労働条件を書面で明示することは企業の義務であり、労働者の権利です。この段階で、会社の法令遵守意識に疑問が生じる可能性も考慮に入れるべきでしょう。

労働基準監督署への相談

会社に何度か依頼しても雇用契約書や労働条件通知書がもらえない場合、または企業が書面での交付を拒否する場合は、労働基準監督署に相談することを検討しましょう。

労働基準監督署は、労働基準法などの関係法令に基づいて、企業が労働者に対して適切な労働条件を提供しているかを監督する国の機関です。労働条件通知書の不交付は労働基準法違反にあたるため、労働基準監督署に相談すれば、指導や是正勧告などの行政指導を企業に対して行ってくれる可能性があります。

相談に行く際には、以下の情報を用意しておくとスムーズです。

  • 会社の情報:会社名、所在地、連絡先。
  • あなたの情報:氏名、連絡先、入社予定日など。
  • これまでの経緯:いつ、誰に、どのように依頼したが、どのような対応だったか。
  • 具体的な労働条件:口頭で説明された内容など、覚えている範囲でメモしておく。

労働基準監督署への相談は、匿名でも可能です。あなたの名前を会社に伏せて、指導を行ってもらうこともできます。相談を通じて、問題解決のための具体的なアドバイスやサポートを受けることができるでしょう。ただし、労働基準監督署は個別の労働紛争の解決を直接行う機関ではないため、あくまで行政指導が主な役割であることを理解しておきましょう。

専門家への相談と今後の行動

労働基準監督署に相談しても状況が改善しない場合や、より深刻な労働トラブルに発展しそうな場合は、弁護士や社会保険労務士といった専門家への相談を検討しましょう。

弁護士は、あなたの代理人として企業と交渉したり、訴訟手続きを行ったりすることができます。労働条件の不明瞭さから生じた損害賠償請求など、法的な解決が必要な場合に強力なサポートとなります。社会保険労務士は、労働基準法などの労働関係法令に関する専門家であり、適切な労働条件の明示を促すためのアドバイスや、就業規則の作成・変更に関する支援を行うことができます。

専門家への相談は費用がかかることがありますが、多くの自治体や弁護士会、社会保険労務士会では無料相談窓口を設けています。まずはこうした窓口を活用し、あなたの状況を説明して、どのような選択肢があるのかアドバイスを求めるのが良いでしょう。

雇用契約書がもらえない状況は、入社前から企業との信頼関係にひびを入れるものです。最悪の場合、その会社での勤務を再考する必要も出てくるかもしれません。自身の権利をしっかりと守り、安心して働ける環境を選ぶためにも、適切な対処法を知り、必要に応じて行動を起こすことが大切です。早めに専門家に相談することで、問題が大きくなる前に解決の糸口を見つけられる可能性が高まります。