概要: 雇用契約書は、入社手続きにおいて非常に重要な書類です。発行タイミング、内容確認、返送方法、そして退職後の保管まで、知っておくべきポイントを網羅的に解説します。不安なく入社・退職を迎えるための知識を身につけましょう。
雇用契約書、入社後いつ?提出・返送・保管まで徹底解説
雇用契約書は、企業と労働者の間で労働条件に関する重要な合意を記す書類です。入社時の手続きの中でも特に重要度が高く、将来的なトラブルを未然に防ぐためにも、その内容や取り扱いについて正しく理解しておく必要があります。
「いつ発行されるの?」「どんな内容を確認すればいい?」「提出や保管はどうすれば?」といった疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。この記事では、雇用契約書の提出・返送・保管に関する最新情報や、知っておくべきポイントを徹底的に解説します。
雇用契約書はいつ発行される?知っておくべきタイミング
内定から入社までの流れ
雇用契約書の発行タイミングは、一般的に内定後から入社日までの間となります。多くの企業では、内定通知とともに、あるいはその直後に労働条件通知書が交付され、続けて雇用契約書への署名・捺印を求められることが多いです。
これは、労働者が入社前に自身の労働条件を十分に理解し、合意した上で入社できるようにするためです。企業側も、労働者からの返送をスムーズにするために、返信用封筒や切手を同封するなど配慮しているのが一般的でしょう。
入社日直前に慌てて確認することがないよう、書類が届き次第、早めに内容を確認する習慣をつけておくことが重要です。不明な点があれば、企業の人事担当者へ質問し、疑問を解消してから署名・捺印するようにしましょう。
法的要件と慣習的なタイミング
法律上、雇用契約書を「いつまでに提出・返送しなければならない」という明確な期限は定められていません。しかし、労働基準法では「労働契約の締結に際し」、企業が労働者に対して労働条件を明示する義務があるとしています。
この「労働契約の締結に際し」とは、原則として入社日より前、つまり会社が採用を決定し、本人が応じた時点を指します。入社前の明示は、後の労働トラブルを回避するために非常に重要なプロセスとなります。
慣習的には、企業は内定を通知し、労働者がそれを承諾した時点で、労働条件通知書や雇用契約書を発行し、入社日までに内容確認と返送を終えるのが最も望ましいとされています。これにより、双方が安心して新しい関係をスタートできるのです。
書面交付と電子化の現状
近年、雇用契約書を含む各種契約書の電子化が進んでいます。従来の紙媒体での書面交付が主流でしたが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進とともに、電子契約システムを導入する企業が増加傾向にあります。
参考情報によると、2019年の調査では、雇用契約を「全て電子化している」企業が20.8%、「一部電子化している」企業が36.8%と、半数以上の企業が何らかの形で電子化を進めていることがわかりました。 さらに、2024年1月時点の調査では、企業全体の56.3%が電子契約システムを導入しており、雇用契約における電子化市場は急速に成長していると見られます。
電子化のメリットは、契約締結の迅速化、保管スペースの削減、管理の効率化などが挙げられます。労働者側から見ても、書類の紛失リスクが減り、いつでも閲覧できる利便性があります。ただし、電子契約の場合でも、内容を十分に確認し、電子署名やデータ保存の方法を理解しておくことが重要です。
入社当日または入社後に確認すべき雇用契約書の内容
基本事項の確認ポイント
雇用契約書を受け取ったら、まず以下の基本的な項目が正確に記載されているかを確認しましょう。
- 雇用期間: 有期雇用か無期雇用か、期間の定めがある場合はその期間。
 - 業務内容: 担当する具体的な業務、職種。
 - 勤務地: 配属される事業所や所在地。
 - 労働時間: 始業・終業時刻、休憩時間、所定労働時間。
 - 休日: 週休日、祝日、年末年始休暇、夏季休暇など。
 - 賃金: 基本給、各種手当、残業代の算出方法、賃金締日・支払日。
 - 退職に関する事項: 退職時の手続き、解雇事由など。
 
これらの項目は、求人情報や面接時の説明と一致しているかを特に注意深くチェックする必要があります。もし一つでも異なる点があれば、必ず企業に確認し、納得した上で署名・捺印してください。
待遇・勤務条件の注意点
基本事項以外にも、労働者の待遇や働き方に直結する重要な項目が多数あります。これらも細部まで確認を怠らないようにしましょう。
- 残業代: みなし残業制の場合はその時間数と手当額、超過分の清算方法。
 - 試用期間: 期間の有無、その期間中の賃金や労働条件。
 - 福利厚生: 社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険)の加入状況、交通費、住宅手当、その他各種手当。
 - 昇給・賞与・退職金: これらの有無、査定方法や支給基準。
 - 転勤・異動の可能性: 将来的な配置転換や転勤に関する規定。
 
特に、みなし残業や試用期間中の条件は、労働者の働き方に大きく影響します。不明瞭な点や納得できない点があれば、必ず入社前に解消しておくことが、後々のトラブル防止に繋がります。
トラブルを防ぐための確認事項
雇用契約書は、万が一のトラブル発生時に自身の権利を守るための重要な証拠となります。そのため、以下のような項目も入念に確認しておきましょう。
- 副業・兼業: 会社が副業を許可しているか、または制限があるか。
 - 秘密保持義務: 業務上知り得た情報の取り扱いに関する規定。
 - 競業避止義務: 退職後の同業他社への転職制限に関する規定(特に専門職の場合)。
 - 服務規律: 会社における行動規範や遵守事項。
 
これらの項目は、入社後の自身の行動を制約する可能性のある重要な内容です。署名・捺印は、すべての内容を理解し、納得した上で行うべきです。もし不明な点や不安な点があれば、企業の人事担当者に具体的な説明を求めるか、必要に応じて労働基準監督署や弁護士などの専門家に相談することも検討しましょう。
雇用契約書の提出・返送マナーと添え状テンプレート
返送期限と郵送方法
雇用契約書を返送する際には、企業からの指示に沿って、指定された期限を厳守することが最も重要です。もし返送期限が明確にされていない場合でも、書類を受け取ってから1週間以内を目安に返送するのが一般的です。
郵送の際には、同封されている返信用封筒を利用しましょう。切手が貼られていない場合は、自分で切手を貼る必要があります。重要書類のため、可能であれば簡易書留や特定記録郵便など、送付記録が残る方法で郵送することをお勧めします。これにより、万が一の郵便事故にも対応できます。
また、返送前に必ず雇用契約書のコピー(またはスキャンデータ)を取っておきましょう。これは、後日内容を確認する際や、万が一の紛失・トラブル発生時に自身の控えとして役立ちます。クリアファイルに入れるなどして、書類が折れたり汚れたりしないように配慮することも大切です。
添え状の役割と書き方(テンプレート含む)
雇用契約書を郵送する際には、添え状(送付状)を同封するのがビジネスにおける一般的なマナーです。添え状は、送付する書類の内容を明確にし、丁寧な印象を与える役割があります。
以下に、シンプルな添え状のテンプレートをご紹介します。
        [日付]
        株式会社〇〇
        人事部 御担当者様
        〒XXX-XXXX
        東京都〇〇区〇〇1-2-3
        [あなたの氏名]
        拝啓
        時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
        この度はお忙しいところ、内定のご連絡をいただき誠にありがとうございます。
        さて、先日ご送付いただきました雇用契約書に署名・捺印いたしましたので、
        ご査収の程よろしくお願い申し上げます。
        貴社の一員として貢献できますよう、精一杯努めてまいる所存でございます。
        何卒、今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
        敬具
        同封書類:雇用契約書 1部
        
添え状は、ワードなどで作成し、手書きで署名を入れるとより丁寧な印象になります。簡潔ながらも、感謝の気持ちと今後の意欲を伝える良い機会となるでしょう。
電子契約の場合の注意点
電子契約の場合、紙の書類を郵送する手間はありませんが、その分、システム上での手続きを正確に行う必要があります。
- システムの操作: 企業から指示された電子契約システムへのログイン方法や、電子署名の具体的な手順を確認しましょう。
 - 本人確認: 電子署名には、身元確認のための手続き(例:メール認証、SMS認証、ID/パスワード入力など)が伴うことがあります。
 - データ保存: 契約締結後、電子契約書のPDFデータなどをダウンロードし、自身のデバイスに保存しておくことが重要です。バックアップも忘れずに行いましょう。
 
電子契約は、「業務削減を実感している企業は約5割」というデータもあるように、企業側にとって大きなメリットがありますが、労働者側もそのメリットを享受するためには、デジタルリテラシーを持って適切に対応することが求められます。何か不明な点があれば、遠慮なく企業に問い合わせてください。
退職後や紛失時も!雇用契約書の保管期間と保存方法
法定保管期間と注意点
企業にとって、雇用契約書は重要な法定保存文書です。労働基準法では、一部の書類の保管期間が定められており、雇用契約書もその対象です。
2020年4月1日の労働基準法改正により、雇用契約書をはじめとする労働基準法で定められた一部の書類の保管期間が、従来の3年から5年に延長されました。 これは、同年の民法改正で賃金請求権の消滅時効が2年から5年に延長されたことに伴うものです。
ただし、法改正から当面の間は経過措置として3年間の保管でも罰則はありません。しかし、この経過措置がいつまで続くかは未定のため、企業には5年間の保管を前提とした管理体制の見直しが推奨されています。 保管期間の起算日は、原則として従業員が退職した日、または死亡した日となります。
労働者個人にとっても、雇用契約書は自身の労働条件を証明する重要な書類です。退職後も、失業保険の申請や転職活動など、さまざまな場面で必要となる可能性があるため、企業同様、長期的に保管しておくことをお勧めします。
電子化によるメリットと課題
雇用契約書の電子化は、保管方法にも大きな変革をもたらしています。紙媒体での保管では、保管スペースの確保や文書の検索に手間がかかるという課題がありました。
電子化された雇用契約書は、デジタルデータとしてサーバーやクラウド上に保存されるため、物理的な保管スペースが不要になります。また、検索機能を使えば必要な文書を瞬時に見つけることができ、業務効率が大幅に向上します。参考情報でも触れたように、「電子化により、業務効率の向上や保管スペースの削減といったメリットが期待できます。」
一方で、電子化には課題も存在します。データのセキュリティ対策、長期的なデータ保全(将来のファイル形式の変更などへの対応)、システム障害時の対応などが挙げられます。労働者側も、自身の電子契約書データを適切にバックアップし、定期的にアクセス可能か確認することが大切です。
紛失時の対応と再発行
もし労働者自身が雇用契約書を紛失してしまった場合、まずは慌てずに以下の対応を検討しましょう。
- 企業の人事部や労務担当者へ相談: 企業は雇用契約書を法定期間保管する義務があるため、控えの提供や再発行が可能か確認しましょう。
 - 労働条件通知書の確認: 多くの企業では雇用契約書と同時に労働条件通知書も交付されます。労働条件通知書は企業が一方的に発行するものではありますが、主要な労働条件が記載されているため、代替として活用できる場合があります。
 - データでの確認: 電子契約の場合は、再度システムにアクセスしてダウンロードできるか確認しましょう。
 
企業側も、労働者からの紛失報告があった際には、保管している控えを提供するなど、適切な対応が求められます。しかし、紛失は自身の不利益となる可能性もあるため、普段から重要な書類は厳重に保管し、簡単に取り出せるように整理しておくことが肝心です。
雇用契約書に関するよくある疑問を解決!
内定取り消しと雇用契約書
内定は、法的には「解約権が留保された労働契約」と解釈されることが一般的です。つまり、内定が出た時点で労働契約は成立しているとみなされるケースが多いのです。
雇用契約書を締結する前の内定取り消しは、原則として企業は自由に行えますが、社会通念上相当と認められる客観的かつ合理的な理由が必要とされます。これに対し、雇用契約書を正式に締結した後の内定取り消しは、解雇に準ずるものとして扱われ、より厳しい要件が求められます。 例えば、経営状況の急激な悪化や、採用時に知り得なかった重大な経歴詐称など、やむを得ない事由がなければ認められにくいでしょう。
もし不当な内定取り消しだと感じた場合は、労働基準監督署や弁護士などの専門機関に相談することを検討してください。
労働条件通知書との違い
雇用契約書とよく混同されがちなのが「労働条件通知書」です。この二つには明確な違いがあります。
- 労働条件通知書: 企業が労働者に対して、労働基準法に基づき労働条件を「明示」する義務を果たすための書類です。企業から労働者へ一方的に交付されるもので、労働者の署名・捺印は必須ではありません(ただし、控えとして署名・捺印を求められることもあります)。
 - 雇用契約書: 企業と労働者が、提示された労働条件に「合意」したことを証明するために、双方が署名・捺印する「契約書」です。これは双方の合意に基づいて成立するものです。
 
多くの企業では、手続きの効率化のため、労働条件通知書と雇用契約書を兼ねた「労働条件通知書兼雇用契約書」として一枚の書類で交付されることが多いです。どちらの形式であっても、記載されている内容は十分に確認し、自身の控えを保管しておくことが重要です。
外国人労働者と雇用契約書
外国人労働者に対しても、日本人労働者と同様に雇用契約書の締結は必須です。これは、労働基準法が日本国内で働くすべての労働者に適用されるためです。
外国人労働者の場合は、さらに以下の点に注意が必要です。
- 言語対応: 日本語が十分に理解できない労働者に対しては、母国語での説明や、翻訳された雇用契約書、あるいは通訳を介して内容を十分に理解させることが重要です。
 - 在留資格: 就労できる在留資格の種類や期間、活動内容と、雇用契約書の内容が一致しているかを確認する必要があります。特定技能などの在留資格では、追加で締結すべき書類がある場合もあります。
 - 不当な条件の排除: 言語や文化の違いにつけ込んだ不当な労働条件が提示されることがないよう、より慎重な確認が求められます。
 
外国人労働者向けの多言語対応の労働相談窓口なども存在しますので、不安な点があれば積極的に活用することをお勧めします。企業側も、外国人労働者に対する適切な労働環境と条件の提供は、社会的な責任として非常に重要です。
まとめ
よくある質問
Q: 雇用契約書はいつ発行されますか?
A: 一般的には、入社当日または入社後速やかに発行されます。企業によって多少前後する場合がありますが、労働条件の明示義務があるため、遅くとも就業開始前には提示されるべきです。
Q: 入社後、雇用契約書の内容で特に確認すべき点は何ですか?
A: 労働時間、休日、休暇、賃金(基本給、手当、割増賃金)、就業場所、業務内容、契約期間、退職に関する事項などをしっかり確認しましょう。不明な点があれば、必ず担当者に質問してください。
Q: 雇用契約書の返送は、添え状なしでも問題ないですか?
A: 添え状を添えるのが丁寧なマナーです。簡単な挨拶と、同封した雇用契約書の返送であることを明記するだけで、相手に好印象を与えられます。
Q: 雇用契約書の本人控えがない場合、どうすれば良いですか?
A: すぐに会社の人事担当者に相談し、本人控えの再発行を依頼しましょう。後々のトラブル防止のためにも、必ずご自身の控えを手元に保管しておくことが重要です。
Q: 退職後、雇用契約書はどのくらいの期間保管する必要がありますか?
A: 法令で定められた保存期間は5年間です。ただし、企業によってはそれ以上の期間保管している場合もあります。退職後も、万が一の備えとしてご自身の控えは大切に保管しておくと安心です。
  
  
  
  