1. 雇用契約書の基本!作成から注意点まで徹底解説
    1. 雇用契約書とは?労働条件通知書との違い
    2. なぜ雇用契約書は重要なのか?労務トラブルの防止
    3. 2024年4月施行の改正労働基準法!主な変更点
  2. 雇用契約書の作成方法と誰が作成するのか
    1. 雇用契約書の必須記載事項と推奨事項
    2. 作成者は誰?企業担当者と法務・人事部門の役割
    3. 雇用契約書作成の基本的な流れと手順
  3. 社労士に作成を依頼するメリット・デメリット
    1. 社労士に依頼するメリット:正確性と最新法改正への対応
    2. 社労士に依頼するデメリット:費用とコミュニケーション
    3. 依頼しない場合の注意点と自社作成の落とし穴
  4. 雇用契約書のサンプルとテンプレート活用法
    1. 信頼できるテンプレートの選び方と活用時の注意点
    2. 雇用契約書の電子化:メリットと注意点
    3. サンプルから学ぶ!記載項目の具体的なイメージ
  5. 雇用契約書作成時の注意点とよくある疑問
    1. 2024年4月改正で特に重要な「変更の範囲」明示
    2. 労働条件明示義務違反のリスクと罰則
    3. 口頭での合意は有効?書面(電子データ)での交付の重要性
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 雇用契約書とは具体的にどのようなものですか?
    2. Q: 雇用契約書は誰が作成するのですか?
    3. Q: 雇用契約書の作成を社労士に依頼することはできますか?
    4. Q: 正社員の場合、雇用契約書は必ず必要ですか?
    5. Q: 雇用契約書で「甲」「乙」という表記を見かけますが、これはどういう意味ですか?

雇用契約書の基本!作成から注意点まで徹底解説

雇用契約書は、従業員と企業間の労働条件を明確にし、労務トラブルを未然に防ぐために非常に重要な書類です。
2024年4月には労働条件明示に関するルールが改正され、雇用契約書の作成・運用においても最新の情報を押さえることが不可欠となっています。
本記事では、雇用契約書の基本から、作成時の注意点、最新の法改正情報までを網羅的に解説します。

雇用契約書とは?労働条件通知書との違い

雇用契約書は、企業と従業員の間で合意された労働条件を記載し、労働契約の成立を証明する法的な文書です。
これは、単に企業側が一方的に労働条件を通知する「労働条件通知書」とは異なり、労使双方の合意に基づいて締結される点が大きな特徴です。
署名・捺印を交わすことで、両者がその内容に同意したことを明確にし、法的な拘束力を持ちます。

実務上は、両者の機能を兼ね備えた「雇用契約書兼労働条件通知書」として作成されることが多く、これにより企業は効率的に労働条件の明示義務を果たすことができます。
労働条件通知書は企業が従業員へ通知する義務があるのに対し、雇用契約書は双方の合意を示すものであり、万が一のトラブル発生時には重要な証拠となります。
この違いを理解し、適切に運用することが、健全な労使関係構築の第一歩と言えるでしょう。

労働契約の基本合意書として、労働者にとっても自身の権利と義務を正確に把握するための重要な資料となります。
曖昧な口約束ではなく、書面として明確に残すことで、将来的な誤解や認識の相違を防ぎ、安心して働ける環境を提供することにも繋がります。

なぜ雇用契約書は重要なのか?労務トラブルの防止

雇用契約書の作成は、単なる事務手続きではなく、企業と従業員双方にとって極めて重要な意味を持ちます。
最も大きな目的は、労務トラブルを未然に防ぐことです。
労働時間、賃金、休日、業務内容、退職条件など、あらゆる労働条件が明確に記載されることで、「言った」「言わない」といった口約束による誤解や認識のずれを解消できます。

万が一、労働条件を巡る紛争が発生した場合でも、雇用契約書は双方の合意内容を客観的に証明する強力な証拠となります。
これにより、訴訟や労働審判といった事態に発展するリスクを低減し、円滑な解決に導くための基盤を提供します。
また、企業にとっては、労働基準法をはじめとする各種法令を遵守していることを示す重要な書類であり、コンプライアンス体制の強化にも繋がります。

特に、2024年4月からの法改正では、労働条件の明示義務がさらに厳格化されており、適切な雇用契約書の作成は企業の信頼性や安定性を確保する上で不可欠です。
従業員が安心して働くためには、自身の労働条件が明確に示されていることが大前提であり、これにより従業員のモチベーション向上にも寄与するでしょう。

2024年4月施行の改正労働基準法!主な変更点

2024年4月1日から施行された労働基準法の改正により、雇用契約書(労働条件通知書)に明示すべき事項が追加・変更されました。
この改正は、特に有期雇用契約における労働者の保護強化と、労働条件のより詳細な情報開示を目的としています。
企業はこれらの変更点を正確に理解し、既存の雇用契約書やひな形を速やかに見直す必要があります。

主な改正点は以下の通りです。

  • 就業場所・業務の変更の範囲の明示:
    雇い入れ直後の就業場所や業務内容だけでなく、将来的な配置転換などによる変更の範囲についても具体的に明示することが義務付けられました。
    これにより、従業員は入社時点で自身のキャリアパスや異動の可能性をより明確に把握できるようになります。
    例えば、「東京本社営業部門、将来的に全国支社への転勤、または他部署への異動の可能性あり」といった記載が求められます。
  • 更新上限の有無と内容の明示:
    有期雇用契約の場合、契約更新の上限(更新回数や通算期間)がある場合は、その内容を具体的に明示する必要があります。
    これにより、有期契約労働者は自身の契約がいつまで続く可能性があるのかを事前に把握し、雇用の見通しを立てやすくなります。
  • 無期転換申込機会・無期転換後の労働条件の明示:
    有期契約労働者が5年を超えて契約更新した場合に無期労働契約へ転換できる「無期転換申込権」について、その機会の有無や申込方法、転換後の労働条件を明示することが義務付けられました。
    これは、長期にわたり有期雇用で働く労働者の雇用の安定を図るための重要な措置であり、企業は適切な情報提供が求められます。

これらの改正は、労働者の権利保護を強化し、より透明性の高い労働環境を構築するためのものです。
企業は、これらの変更点に沿った雇用契約書の作成・運用を徹底し、法令遵守に努める必要があります。

雇用契約書の作成方法と誰が作成するのか

雇用契約書の必須記載事項と推奨事項

雇用契約書には、労働基準法によって明示が義務付けられている「絶対的明示事項」と、労使間のトラブル防止のために記載が推奨される事項があります。
これらを網羅することで、より包括的で安全な雇用関係を築くことができます。

必須記載事項(労働基準法による義務)

  • 労働契約の期間: 期間の定めがある場合はその開始日・終了日、期間の定めがない(無期契約)場合はその旨を明記します。
  • 就業場所および従事すべき業務の内容: 2024年4月改正により、雇い入れ直後の内容に加え、将来的な「変更の範囲」も明示が必要です。
  • 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇: 具体的な時間や曜日、休暇の種類(年次有給休暇、特別休暇など)を詳細に記載します。
  • 賃金: 決定、計算、支払いの方法、締切日、支払日、昇給に関する事項を明確に記載します。基本給、手当、割増賃金などを含みます。
  • 退職に関する事項: 解雇の事由、定年制、継続雇用制度など、退職に関するルールを具体的に示します。

推奨される記載項目(労使トラブル防止のため)

上記の必須事項に加え、以下の項目を記載することで、より円滑な労使関係を維持し、将来的な紛争のリスクを低減できます。

  • 更新上限の有無と内容: 有期契約の場合、2024年4月改正で必須となりました。具体的な更新上限を設定している場合はその旨を明示します。
  • 無期転換申込権に関する事項: 有期契約の場合、2024年4月改正で必須となりました。無期転換の要件、申込み方法、転換後の労働条件を記載します。
  • 試用期間に関する事項: 試用期間の有無、期間、本採用の条件、期間中の待遇などを明記します。
  • 退職手当、賞与その他の賃金に関する事項: 支給条件や算定方法など、詳細を記載します。
  • 労働者に負担させる食費、作業用品等に関する事項: 特定の費用を労働者が負担する場合に明記します。
  • 安全及び衛生に関する事項: 職場の安全衛生に関する基本的なルールや留意事項を記載します。
  • 職業訓練に関する事項: 企業が実施する職業訓練の概要や参加義務などを記載します。
  • 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項: 労災や私傷病時の対応について明記します。
  • 表彰、制裁に関する事項: 企業が定める賞罰規定の概要を記載します。
  • 休職に関する事項: 病気や育児・介護などによる休職制度の有無や条件を記載します。

これらの項目を丁寧に記載することで、従業員は自身の労働条件を包括的に理解し、企業は法令遵守とトラブル回避の体制を確立できます。

作成者は誰?企業担当者と法務・人事部門の役割

雇用契約書の作成は、通常、企業内の人事部門または労務担当者が中心となって行います。
大企業の場合、法務部門と連携し、法的正確性を確認しながら作成を進めるのが一般的です。
特に、法改正への対応や複雑な雇用形態の契約書作成においては、法務部門の専門知識が不可欠となります。

中小企業の場合、人事・労務専任の担当者がいないことも多く、経営者自身や総務部門の担当者が兼務して作成するケースも少なくありません。
しかし、雇用契約書は労働基準法をはじめとする多くの法令に関わる重要な書類であるため、法律や最新の改正情報に関する専門知識が求められます
自社だけで完璧な契約書を作成することが難しい場合は、後述する社会保険労務士(社労士)や弁護士といった外部の専門家に依頼することも賢明な選択肢です。

いずれの場合も、作成者は単にテンプレートに情報を埋めるだけでなく、企業の事業内容、就業規則、賃金規定、そして従業員の具体的な労働条件を正確に理解している必要があります。
従業員一人ひとりの事情を考慮しつつ、法的な要件を満たし、かつ労使双方にとって公平で明確な契約書を作成する責任を負います。
作成プロセスにおいては、関係部署との密な連携と、最終的な内容の十分な確認が不可欠です。

雇用契約書作成の基本的な流れと手順

雇用契約書を作成し、従業員と締結するまでには、いくつかの重要なステップがあります。
適切な手順を踏むことで、法令遵守を確実なものとし、スムーズな雇用関係のスタートを切ることができます。

  1. 労働条件の確定:
    採用が決定した後、まず内定者と企業の間で、具体的な労働条件(給与、勤務時間、業務内容、休日・休暇など)をすり合わせ、確定させます。
    ここで双方の認識を一致させることが、後のトラブル防止に繋がります。
  2. 雇用契約書兼労働条件通知書の草案作成:
    確定した労働条件に基づき、雇用契約書(労働条件通知書を兼ねる場合が多い)の草案を作成します。
    この際、厚生労働省が提供するテンプレートや、信頼できる社労士事務所などが提供する最新のひな形を参考にすると良いでしょう。
    2024年4月改正に対応した内容になっているか、特に注意して確認が必要です。
  3. 内容のリーガルチェック:
    作成した草案が、労働基準法などの関連法令に適合しているか、社内の法務担当者や外部の社会保険労務士、弁護士にリーガルチェックを依頼します。
    特に「就業場所・業務の変更の範囲」の明示など、改正点で複雑な部分については専門家の意見を聞くことが重要です。
  4. 従業員への提示と説明:
    完成した雇用契約書を内定者である従業員に提示し、その内容を丁寧に説明します。
    疑問点があれば解消し、理解と納得を得ることが重要です。
    特に、賃金体系や評価制度、退職に関する事項などは誤解が生じやすいため、時間をかけて説明しましょう。
  5. 署名・捺印および交付:
    双方の内容合意が得られたら、雇用契約書に署名または記名捺印を行い、企業と従業員それぞれが1部ずつ保管します。
    これにより、正式に労働契約が成立します。
    電子契約を利用する場合は、電子署名法に基づいた適切な手続きを行います。

これらの手順を正確に踏むことで、企業は法令遵守を確実にし、従業員は安心して新たな職務に就くことができます。

社労士に作成を依頼するメリット・デメリット

社労士に依頼するメリット:正確性と最新法改正への対応

雇用契約書の作成を社会保険労務士(社労士)に依頼することには、多くのメリットがあります。
最大の利点は、法的な正確性が保証されることです。
社労士は労働関連法規の専門家であり、労働基準法、労働契約法、その他関連法令に完全に準拠した雇用契約書を作成できます。
これにより、企業が意図せず法令違反を犯すリスクを大幅に低減し、30万円以下の罰金といったリスクを回避できます。

また、最新の法改正への迅速な対応も大きなメリットです。
特に2024年4月のように労働条件明示義務が改正された際など、法改正のたびに企業が自社で情報を収集し、契約書を修正するのは大きな負担です。
社労士は常に最新の法改正情報を把握しており、変更点を踏まえた適切な雇用契約書をタイムリーに提供してくれます。
例えば、「就業場所・業務の変更の範囲」の具体的な記載方法など、複雑な要件も専門的な知見から適切に盛り込むことが可能です。

さらに、社労士に依頼することで、将来的な労務トラブルを未然に防ぐための条項を盛り込むことができます。
企業の業種、規模、雇用形態(正社員、パート、有期雇用など)に合わせたカスタマイズも可能で、画一的なテンプレートでは対応できない個別具体的な状況にも対応してくれます。
これにより、企業は雇用契約書作成にかかる時間や労力を大幅に節約でき、本業に集中できるというメリットも享受できます。

社労士に依頼するデメリット:費用とコミュニケーション

社会保険労務士に雇用契約書の作成を依頼することには多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも考慮する必要があります。

まず、最も分かりやすいデメリットは費用が発生することです。
社労士への依頼費用は、契約書の複雑さや企業の規模、依頼内容によって異なりますが、自社で作成する場合と比較すると追加のコストがかかります。
特に、多数の雇用形態に対応する契約書を依頼する場合や、就業規則の作成・見直しも同時に依頼する場合は、それなりの費用負担となることを覚悟しなければなりません。

次に、適切なコミュニケーションが必要である点もデメリットとなり得ます。
社労士は労働法規の専門家ですが、企業の具体的な事業内容、組織文化、従業員の働き方、独自のルールなどを全て把握しているわけではありません。
そのため、企業側が要望や具体的な労働条件、懸念事項などを明確に伝えなければ、意図と異なる内容の契約書が作成されてしまうリスクがあります。
円滑なコミュニケーションが取れない場合、契約書の完成までに時間がかかったり、何度も修正を依頼する必要が生じたりする可能性もあります。

また、企業が雇用契約書の内容を社労士に「丸投げ」してしまうと、いざ従業員から質問があった際に、企業側が契約内容を十分に理解していないという事態にも陥りかねません。
依頼する側も、単に作成してもらうだけでなく、契約書の内容をしっかり確認し、自社の責任で従業員に説明できる状態にしておく必要があります。
即時性という観点では、緊急で契約書が必要な場合に、社労士のスケジュールによってはすぐに作成してもらえない可能性も考慮しておくべきでしょう。

依頼しない場合の注意点と自社作成の落とし穴

雇用契約書の作成を社労士に依頼せず、自社で行う場合、多くの注意点と落とし穴が存在します。
最も大きなリスクは、法改正の見落としや労働条件明示義務違反を犯す可能性です。
労働基準法は頻繁に改正され、2024年4月の改正のように重要な変更が加えられることも少なくありません。
自社で常に最新情報をキャッチアップし、適切に契約書に反映させるのは専門的な知識と時間が必要です。
明示義務に違反した場合、30万円以下の罰金が科される可能性があり、企業の信頼を大きく損ねることになります。

また、記載内容の不備や曖昧さも大きな落とし穴です。
例えば、「会社の指示に従う」といった抽象的な表現だけでは、従業員との間で業務内容や就業場所を巡る認識のずれが生じ、労務トラブルに発展しやすくなります。
特に「変更の範囲」の明示が義務化された現在、この曖昧さは致命的となり得ます。
賃金計算方法や残業代の取扱い、退職理由など、具体的な記載が不足していると、後々紛争に発展し、解決に多大な時間と費用を要する可能性があります。

さらに、記載された労働条件と実際の条件が異なる場合、労働者は契約を解除できる権利を持ちます。
これは企業にとって非常に大きなリスクであり、採用した人材を失うだけでなく、企業イメージの低下にも繋がります。
インターネット上の無料テンプレートを活用する際も注意が必要です。
それらのテンプレートが自社の業種や雇用形態に合致しているか、最新の法改正に対応しているかを慎重に確認しなければなりません。
自己流の解釈や不十分な知識での作成は、かえって大きなリスクを招く可能性があるため、慎重な対応が求められます。

雇用契約書のサンプルとテンプレート活用法

信頼できるテンプレートの選び方と活用時の注意点

雇用契約書を自社で作成する場合、テンプレートを活用することは効率的ですが、その選び方と活用方法には細心の注意が必要です。
まず、信頼できる提供元から入手することが最も重要です。
具体的には、厚生労働省のウェブサイトや各都道府県の労働局、労働基準監督署が公開しているひな形、または信頼できる社会保険労務士事務所が提供しているテンプレートが推奨されます。
これらは法的な正確性が高く、最新の法改正にも対応している可能性が高いからです。

テンプレートを選ぶ際には、必ず最新の法改正、特に2024年4月の変更点に対応しているかを確認しましょう。
古いテンプレートを使用してしまうと、明示義務違反のリスクが生じます。
また、テンプレートはあくまで一般的なひな形であるため、自社の事業内容、業種、企業の規模、そして雇用する従業員の雇用形態(正社員、契約社員、パート・アルバイトなど)に合わせて、必ず内容を修正・カスタマイズする必要があります。

テンプレートをそのまま使うのではなく、例えば就業場所や業務内容の「変更の範囲」、独自の福利厚生制度、秘密保持義務などの社内規定を反映させるための条項を適切に追加・修正します。
不明な点や、自社独自の事情を盛り込む際の表現については、迷わず社会保険労務士や弁護士といった専門家に相談しましょう。
テンプレートはあくまで作成の土台であり、最終的な責任は企業側にあることを常に念頭に置き、慎重に活用することが不可欠です。

雇用契約書の電子化:メリットと注意点

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進により、雇用契約書も電子化する企業が増加しています。
電子契約サービスの活用は、多くのメリットをもたらしますが、同時に注意すべき点も存在します。

電子化のメリット

  • コスト削減:
    印刷代、郵送費、保管スペースにかかる費用、収入印紙代(電子契約では原則不要)などを大幅に削減できます。
  • 業務効率化:
    契約書の作成から送付、締結、保管までの一連のプロセスを迅速化し、担当者の手間を軽減します。
    ペーパーレス化により、書類の検索や管理も容易になります。
  • リモートワーク対応:
    場所や時間にとらわれずに契約締結が可能となり、遠隔地の従業員との契約や、コロナ禍で進んだリモート採用にもスムーズに対応できます。
  • セキュリティ強化:
    電子署名やタイムスタンプにより、契約書の改ざん防止や非改ざん性の証明が可能です。
    アクセス権限の設定により、情報漏洩のリスクも低減できます。
  • 保管・検索性の向上:
    データとして一元管理されるため、必要な契約書を迅速に検索・参照でき、物理的な破損・紛失のリスクもなくなります。

電子化の注意点

  • 従業員の同意:
    雇用契約書を電子化する際には、労働者の同意が必須です。
    特に労働条件通知書を兼ねる場合は、従業員が書面での交付を希望した場合には、書面で交付する義務があるため、事前に確認し、対応できる体制を整えておく必要があります。
  • 法的要件の遵守:
    電子署名法やe-文書法など、関連法令に準拠した電子契約サービスを選定し、適切なシステムと運用を行う必要があります。
    2024年1月からは電子取引に関する電子データの保存が完全義務化されており、電子帳簿保存法への対応も考慮しなければなりません。
  • セキュリティ対策:
    サイバー攻撃によるデータ改ざん、情報漏洩、システム障害などへの対策が不可欠です。
    信頼できる電子契約サービスを選び、適切なセキュリティ対策を講じましょう。
  • システム導入費用:
    電子契約サービスを導入するには費用が発生します。
    ランニングコストも含め、費用対効果を十分に検討する必要があります。

電子化は多くのメリットをもたらす一方で、法的要件やセキュリティ対策を怠ると重大なリスクに繋がるため、慎重に進めることが求められます。

サンプルから学ぶ!記載項目の具体的なイメージ

ここでは具体的な雇用契約書のサンプルを提示することはできませんが、各記載項目が実際にどのように記述されるべきか、そのイメージを掴んでいただくための具体例をいくつかご紹介します。
抽象的な文言ではなく、できるだけ具体的に、かつ明確に記載することが、トラブル防止の鍵となります。

【就業場所および従事すべき業務の変更の範囲】
2024年4月改正で特に重要となった項目です。以下のように具体的に記載することで、従業員に将来の可能性を明示します。

「雇い入れ直後の就業場所は〇〇事業所(東京都〇〇区〇〇1-1)とし、従事すべき業務は△△部門における営業業務全般とする。ただし、将来的に会社の指定する国内外の拠点への配置転換、または□□業務を含む他の業務への変更を命じることがある。」

【賃金に関する事項】
賃金は従業員の生活に関わる最も重要な条件の一つです。明確な記載が必須です。

「基本給は月額250,000円、役職手当として月額30,000円を支給する。賃金締切日は毎月20日、支払日は当月25日とする。昇給は年1回(原則4月)、会社の業績及び個人の評価に基づき実施する。時間外労働に対する割増賃金は、労働基準法に基づき別途支給する。」

【有期雇用契約における更新の有無と内容(2024年4月改正対応)】
有期契約の場合、更新の可能性について具体的に記載します。

「本契約の更新は『有』とする。更新の判断基準は、以下の要素を総合的に考慮して判断する。

  • 契約期間満了時の業務量および業務の進捗状況
  • 従事している業務に対する勤務成績、能力
  • 会社の経営状況
  • 従事する業務に必要な能力の有無

契約期間が通算5年を超えた場合、労働者の申し出により無期転換申込権が発生する。無期転換後の労働条件については、別途会社の定める無期転換社員就業規則による。」

これらの例のように、単なる項目名だけでなく、具体的な数字、場所、条件、判断基準などを詳細に記述することが、後の誤解やトラブルを防ぐ上で極めて重要です。

雇用契約書作成時の注意点とよくある疑問

2024年4月改正で特に重要な「変更の範囲」明示

2024年4月の労働基準法改正において、企業が雇用契約書を作成する際に特に注意すべき点が、「就業場所および従事すべき業務の変更の範囲」の明示です。
この改正のポイントは、単に雇い入れ直後の就業場所や業務内容を記載するだけでなく、将来的な配置転換や異動、転勤などにより変更され得る範囲を具体的に明示することが義務付けられた点にあります。

なぜこの点が重要かというと、労働者が自身のキャリアプランを立てる上で、将来の働き方を具体的に想像できるようにするためです。
曖昧な記載では、予期せぬ異動命令があった際に労働者との間でトラブルに発展する可能性が高まります。
例えば、「会社の命じる場所」「会社の命じる業務」といった包括的で漠然とした表現だけでは、明示義務を果たしたことにはなりません。

具体的な明示例としては、「東京本社営業部門、将来的に全国の支社への転勤、または他部門(例:企画部門、広報部門)への異動の可能性あり」といった形です。
これにより、労働者は入社時点である程度の見通しを持つことができ、企業側も将来の組織変更や事業展開に応じた人員配置がスムーズに行えるようになります。
この「変更の範囲」の明示は、労使双方の予見可能性を高め、長期的な信頼関係を築く上で不可欠な要素と言えるでしょう。
不十分な記載は明示義務違反となるだけでなく、労務トラブルの温床となるため、細心の注意を払って記述する必要があります。

労働条件明示義務違反のリスクと罰則

雇用契約書において労働条件を適切に明示することは、労働基準法によって企業に義務付けられています。
この労働条件明示義務に違反した場合、企業は重大なリスクと罰則に直面することになります。

まず、労働基準法第120条に基づき、明示義務違反には30万円以下の罰金が科される可能性があります。
これは企業にとって直接的な金銭的負担となるだけでなく、企業イメージの低下や社会的な信用の失墜といった、より広範な悪影響を及ぼす可能性があります。
特に近年はコンプライアンス意識が高まっているため、労働基準法違反は社会的な批判の対象となりやすいです。

さらに重要なのは、「記載された労働条件と実際の条件が異なる場合、労働者は契約を即座に解除できる権利」を持つという点です(労働基準法第15条)。
例えば、契約書に記載された賃金や業務内容が実際と大きく異なる場合、労働者は期間の定めのない契約であれば即座に、期間の定めのある契約であれば直ちに契約を解除し、帰郷旅費の請求も可能です。
これは企業にとって、採用した人材を予期せず失うだけでなく、採用活動のコストが無駄になるという大きな損失に繋がります。

また、明示が不十分な場合、労働者との間で賃金未払いや不当な配置転換、解雇などを巡る労務トラブルが発生しやすくなります。
これらのトラブルは、労働審判や訴訟に発展する可能性もあり、企業の貴重な時間、費用、労力を消耗させます。
雇用契約書は、これらのリスクを回避し、健全な雇用関係を維持するための「最低限のルールブック」として、その作成と管理には細心の注意を払う必要があります。

口頭での合意は有効?書面(電子データ)での交付の重要性

「口頭での合意でも労働契約は成立するのか?」という疑問を持つ企業担当者の方もいるかもしれません。
確かに、労働契約そのものは口頭の合意でも法律上は成立します。
しかし、労働基準法では、主要な労働条件については「書面での明示」が企業に義務付けられています(労働基準法第15条)。
つまり、口頭のみでの労働条件の通知は、この法律に違反することになり、罰則の対象となる可能性があります。

書面(または同意を得た上での電子データ)で雇用契約書を交付することには、単なる法的義務の履行以上の重要な意味があります。
第一に、口頭での約束は「言った」「言わない」といった水掛け論になりやすく、後々の労務トラブルの最大の原因となり得ます。
書面で明示することで、労使双方の認識を一致させ、誤解や記憶違いによる紛争を未然に防ぐことができます。

第二に、書面は客観的な証拠として機能します。
万が一、労働条件を巡る争いが発生した場合でも、書面化された雇用契約書は双方の合意内容を明確に示し、解決の基盤となります。
電子データでの交付の場合も、従業員の同意が必須であり、従業員が書面での交付を希望した場合には、企業はそれに応じる義務があります。
この点を忘れて電子化を進めると、かえってトラブルを招くことになります。

従業員がいつでも自身の労働条件を確認できる状態にしておくことは、企業への信頼感を高め、安心して業務に専念できる環境を提供する上で非常に重要です。
口頭での安易な約束は避け、必ず法的に有効な書面または電子データで、全ての労働条件を詳細かつ明確に明示することを徹底しましょう。