営業手当の基礎知識:基本給との違いや規定、廃止の可能性まで徹底解説

営業職に従事する方にとって、営業手当は給与明細の中でも特に気になる項目の一つではないでしょうか。

この手当の支給条件や金額は企業によってさまざまであり、その全容を理解している人は意外と少ないかもしれません。

本記事では、営業手当の基本的な知識から、基本給や賞与との違い、就業規則における規定、そして将来的な廃止の可能性までを徹底的に解説します。あなたの疑問を解消し、より安心して業務に取り組めるよう、わかりやすくお伝えしていきます。

営業手当とは?基本給・賞与との違いを理解しよう

営業手当の定義と目的

営業手当とは、その名の通り、営業職に従事する社員に対して支払われる特殊な手当です。

これは、単に業務に対する対価というだけでなく、営業活動に伴う様々なコストや負担を補填する目的で支給されることが多いのが特徴です。

例えば、外回りにおける交通費や通信費、あるいは顧客との会食費用など、経費精算だけではカバーしきれない部分を補う意味合いも持ちます。

また、営業職のモチベーション向上や、成果へのインセンティブとしての側面も持ち合わせており、企業が営業戦略の一環として導入しているケースも少なくありません。

ただし、法律で支給が義務付けられている手当ではないため、支給の有無や内容は企業の裁量に大きく委ねられています。

基本給との決定的な違い

賃金体系において、営業手当と基本給は明確に異なる性質を持っています。

参考情報にもある通り、基本給とは「年齢、学歴、勤続年数、経験、能力、資格、地位、職務、業績など、労働者本人の属性や従事する職務に基づいて算定・支給される賃金の最も根本的な部分」を指します。

つまり、労働者個人の価値や会社への貢献度を評価する、土台となる部分と言えるでしょう。

一方、月給は基本給に通勤手当や住宅手当、家族手当など各種手当を含めた1ヶ月分の賃金全体を意味します。営業手当は、この「各種手当」の一つとして位置づけられます。

営業手当は「営業職という職務そのもの」に対して支払われる職務手当としての側面が強く、基本給が個人の能力や属性に紐づくのに対し、営業手当は特定の職務に従事していることに対して支給される点が大きな違いです。

賞与との違い

営業手当と混同されやすいものに「賞与(ボーナス)」がありますが、両者には明確な違いがあります。

賞与は通常、企業の業績や個人の評価、貢献度などに基づいて支給される、変動性の高い賃金です。</年に1回や2回、夏と冬に支給されるのが一般的でしょう。

これに対し、営業手当は通常、毎月固定で支給される場合が多く、営業職という職務に就いている限り、基本的に継続して支払われます。

賞与が「臨時的な成果配分」や「業績連動」の意味合いが強いのに対し、営業手当は「特定の職務への対価」という性質が強いと言えます。

もちろん、企業によっては営業手当の一部がインセンティブとして業績に連動する形を取ることもありますが、基本的な概念としては上記の通り区別されます。

どちらも賃金の一部ではありますが、その支給目的と頻度が大きく異なる点を理解しておくことが重要です。

営業手当の金額はどう決まる?標準報酬月額との関係

金額決定の主な要素と企業の裁量

営業手当の金額は、法律で定められているわけではないため、企業によってその算定基準や支給額は大きく異なります。

一般的には、以下のような要素を考慮して企業が独自に設定します。

  • 営業職の役割と責任範囲:マネジメント職かプレイヤーか、担当する顧客層や市場の規模など。
  • 業務内容の特殊性:出張が多い、接待が多い、専門知識が必要など。
  • 企業の規模や業績:会社の経営体力や、営業職全体への投資方針。
  • 業界の慣行や市場水準:競合他社の営業手当と比較し、採用競争力を維持するため。

固定額で支給されることもあれば、個人の営業成績や達成目標に応じて変動するインセンティブの一部として組み込まれるケースもあります。企業がどのような営業戦略を持ち、営業職をどのように評価しているかによって、その金額は大きく左右されると言えるでしょう。

営業手当に残業代を含むケース

多くの企業では、営業手当に「みなし残業代」を含めて支給するケースが見られます。

参考情報にもあるように、これは「時間外手当相当額として営業手当を支給する」旨を就業規則や雇用契約書に明記し、それが「何時間分の残業に相当するのか」を具体的に定めることで可能となります。

例えば、「営業手当5万円は、月30時間分の時間外労働に対する手当を含む」といった形で明示されます。

この方式は、特に外勤営業など労働時間の把握が難しい職種において、実労働時間に関わらず一定の残業代を保証する目的で用いられることが多いです。

しかし、注意が必要なのは、実際に労働した時間に基づいて算出される法定残業代が、営業手当に含まれるみなし残業代を上回った場合、企業はその差額を従業員に別途支払う義務があるという点です。

この点を誤ると、未払い残業代として法的なトラブルに発展する可能性もあるため、企業は慎重な運用が求められます。

標準報酬月額への影響

営業手当は、社会保険料の算定基準となる「標準報酬月額」にも影響を与えます。

標準報酬月額とは、健康保険料や厚生年金保険料を計算する際に用いられる基準となる報酬月額のことで、基本給だけでなく、営業手当や通勤手当、住宅手当など、毎月固定で支給される各種手当も含まれて算出されます。

したがって、営業手当が高いほど、標準報酬月額も高くなり、それに伴って従業員が支払う社会保険料の自己負担額も増加します。

一見すると手取りが減るように感じられるかもしれませんが、標準報酬月額が高いことは、将来受け取る厚生年金の金額が増える、傷病手当金や出産手当金などの給付額が増えるといったメリットにも繋がります。

営業手当が単なる手当ではなく、長期的な視点で見れば社会保障にも影響を及ぼす重要な要素であることを理解しておきましょう。

営業手当の規定・規程例:就業規則にどう記載すべき?

規定の重要性と記載すべき事項

営業手当を支給する企業にとって、就業規則や賃金規程にその支給条件を明確に定めることは非常に重要です。

あいまいな規定は、従業員との間でトラブルを生じさせる原因となりかねません。

具体的に記載すべき事項としては、以下の点が挙げられます。

  • 支給対象者:どのような職務の社員に支給されるか(例:営業部に所属し、営業活動を主たる業務とする正社員)。
  • 支給条件:特定の成果達成や、一定期間の営業活動への従事など。
  • 支給額または算定方法:定額制か、実績連動か、その計算式など。
  • 支給時期:毎月の給与と同時に支払われるのが一般的。
  • 廃止・変更の条件:職務変更や会社の制度変更時の取り扱い。

これらの項目を明確にすることで、従業員は安心して業務に取り組むことができ、企業側も法的なリスクを低減することができます。透明性の高い規定は、従業員の信頼構築にも繋がります。

残業代との関係を明記する際の注意点

営業手当に残業代相当額を含める場合、就業規則や雇用契約書での明記は、「何時間分の残業に相当するのか」を具体的に定めることが最も重要です。

ただ単に「営業手当に残業代を含む」と記載するだけでは不十分であり、労働基準監督署の指導対象となる可能性もあります。

例えば、「営業手当20,000円は、月20時間分の法定時間外労働に対する賃金として支給する」といった形で、時間数と金額を明確に対応させる必要があります。

また、このみなし残業代の時間が超過した場合に、別途残業代を支払う旨も明記しておかなければなりません。

これらの情報が不明確である場合、営業手当の全額が残業代として認められず、企業が未払い残業代を請求されるリスクがあるため、細心の注意を払って規定を作成することが求められます。

労働基準法との整合性

営業手当に関する規定は、常に労働基準法との整合性が求められます。

特に、営業手当に残業代を含める場合でも、労働基準法で定められた最低限の残業代は、いかなる場合でも保証されなければなりません。

具体的には、法定時間外労働には25%以上、深夜労働(22時~5時)には25%以上、法定休日労働には35%以上の割増賃金率が適用されます。

営業手当に含まれるみなし残業代の計算が、これらの法定割増賃金率を下回らないように注意する必要があります。

また、外勤営業などで労働時間の把握が困難な場合、「事業場外のみなし労働時間制」が適用されることもあります。

この制度を利用する場合も、その適用条件やみなし労働時間の設定について、就業規則に明確に記載し、労働基準法に則った運用を行う必要があります。

労働基準法は従業員の権利を保護するための法律であるため、企業は常にその内容を遵守し、従業員にとって公平で透明性のある賃金制度を構築することが不可欠です。

管理職・役員・異動における営業手当の注意点

管理職の場合の特例

管理職、特に「管理監督者」に該当する社員の場合、営業手当の扱いには特別な注意が必要です。

労働基準法上の管理監督者は、労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外されます。そのため、原則として残業代や休日手当の支給対象とはなりません。

もし営業手当が「みなし残業代」の性質を強く持っている場合、管理監督者には残業代の概念がないため、その支給目的が曖昧になってしまう可能性があります。

管理監督者に営業手当を支給する場合は、純粋な職務手当や役職手当として位置づけるか、あるいは別の形で職務の対価を支払うことを検討すべきでしょう。

労働実態と手当の趣旨を明確にし、名目と実態が乖離しないよう、就業規則や賃金規程を見直すことが重要になります。

役員への支給と留意点

役員は、一般の従業員(労働者)とは異なり、労働基準法の適用を受けません。

そのため、役員に対して営業手当を支給する場合には、その名目や目的をより明確にする必要があります。

役員報酬として営業手当を支給する際は、会社の定款や株主総会の決議、または役員報酬規程に基づいていることが重要です。

もし実態が伴わない形で営業手当を支給すると、税務上問題が生じたり、不適切な経費とみなされたりするリスクがあります。

役員への手当は、その職務内容と責任に見合った報酬として適切に設定し、法的な手続きと整合性を保つことが不可欠です。

職種変更・異動時の手当の扱い

営業職から他の職種へ異動したり、管理職に昇進したりした場合、営業手当の扱いも変更されるのが一般的です。

参考情報にもあるように、「営業職から外れる場合など、手当の趣旨に合わなくなった場合には、原則として手当を廃止しても不利益変更には該当しない」とされています。

なぜなら、営業手当は「営業職」という特定の職務に対する手当であるため、その職務から外れれば支給の根拠がなくなるからです。

しかし、従業員にとっては手当がなくなることで給与が減少する可能性があるため、異動の辞令を出す際には、事前に手当の変更について丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。

特に、営業手当が基本給の大部分を占めていたようなケースでは、従業員の生活に大きな影響を与えることも考えられます。その場合は、調整手当の支給や基本給への組み込みなど、不利益を緩和するための代替措置を検討する柔軟な姿勢が求められます。

営業手当はなくなる?廃止・なしのケースについても解説

営業手当廃止が不利益変更となる可能性

企業の経営状況の変化や賃金制度の見直しに伴い、営業手当の廃止が検討されることもあります。しかし、その廃止が安易に行われると、法的なトラブルに発展する可能性があります。

参考情報にもあるように、「営業手当の廃止は、ケースによっては『不利益変更』とみなされ、法的な問題に発展する可能性があります。」

特に、以下のケースでは注意が必要です。

  • 雇用契約書や就業規則で支給が明確に約束されている場合。
  • 長年の慣行として継続的に支給されており、従業員が当然のものとして認識している場合。
  • 営業手当が基本給と同視できるほど重要な賃金の一部を構成している場合。

不利益変更を行う場合、原則として従業員の同意が必要となります。同意なく一方的に廃止を進めると、従業員から損害賠償請求や未払い賃金請求を受けるリスクがあるため、慎重な対応が求められます。

廃止を検討する際の具体的なステップと留意点

営業手当の廃止を検討する際には、以下のステップと留意点を踏まえることが不可欠です。

  1. 法的性質の確認:

    まず、営業手当が「賃金」としての性質が強いのか、それとも「経費補填」としての性質が強いのかを明確にします。賃金性が高いほど、廃止は不利益変更とみなされやすくなります。

  2. 従業員への説明と協議:

    廃止の理由(経営状況の悪化、賃金制度の抜本的見直しなど)を丁寧に説明し、従業員の理解と同意を得ることが最も重要です。一方的な通告ではなく、時間をかけた協議の場を設けるべきでしょう。

  3. 代替措置の検討:

    廃止による従業員の不利益を緩和するため、基本給への組み込み、調整手当の支給、成果に応じたインセンティブ制度の導入など、代替措置を検討します。

  4. 段階的な実施:

    急な廃止は従業員への影響が大きいため、数ヶ月から1年程度の移行期間を設けるなど、段階的な実施を検討します。

  5. 個別同意の取得:

    可能であれば、書面による個別の同意を得ることが望ましいです。これにより、将来的なトラブルのリスクを低減できます。

これらのプロセスを怠ると、従業員との信頼関係が損なわれるだけでなく、法的な紛争に発展する可能性が高まります。

廃止以外の代替案や最近の動向

営業手当を完全に廃止する以外にも、制度を見直すことで時代に合わせた運用が可能です。

例えば、成果主義への移行を強める企業であれば、営業手当を廃止し、その分を「純粋な成果報酬型インセンティブ」として支給する形に切り替えることができます。

また、コロナ禍を経て働き方が多様化し、リモートワークやオンライン営業が増えた企業では、従来の「外回り」を前提とした営業手当のあり方を見直し、実費精算への切り替えや、職務内容に応じた手当に再編成することも考えられます。

参考情報にもあるように、近年は「働き方の多様化やワークライフバランスの重視から、福利厚生の充実が企業選びの基準として強まっている」傾向にあります。

2025年には「年収の壁に関する支援強化パッケージ」の導入や、「税制改正による社会保険の扶養認定基準の変更」など、労働者を取り巻く環境も変化する可能性があります。

これらの社会情勢や法改正の動向も踏まえ、営業手当が従業員のモチベーション維持や、企業の人材確保にどのように貢献できるかを常に検討し、柔軟に制度を更新していくことが、これからの企業には求められるでしょう。