日本の雇用形態は多様化の一途を辿っており、非正規雇用労働者の割合は今や全体の約3分の1を超え、過去最高の水準に達しています。これは、私たちの社会や経済、そして個々人の働き方に大きな影響を与えています。

本記事では、この非正規雇用の最新の動向や、年代ごとの具体的な実情、さらに今後の展望について、厚生労働省や総務省統計局などの最新データに基づいて深掘りしていきます。

非正規雇用を巡る様々な側面を理解することで、より豊かなキャリアプランや社会のあり方を考える一助となれば幸いです。

年代別に見る非正規雇用の割合

非正規雇用者全体の動向と背景

2024年平均の非正規雇用労働者数は、2,126万人に上り、前年比で2万人の増加を記録しました。この非正規雇用労働者の数は、2010年以降増加傾向を続けていましたが、2020年と2021年に一時的に減少した後、2022年からは再び増加に転じています。これは、新型コロナウイルス感染症の影響による一時的な経済活動の停滞に伴う雇用調整から、その後の経済回復に伴う雇用の増加を示唆しています。

役員を除く雇用者全体に占める非正規雇用労働者の割合は36.8%で、前年比0.3ポイント低下したものの、依然として高い水準を維持しています。この増加の背景には、高齢者の雇用継続ニーズの高まりや、女性のパートタイム就業の増加が大きく寄与していると分析されています。健康寿命の延伸や少子高齢化、女性の社会進出といった様々な社会構造の変化が、非正規雇用という働き方を多様な形で選択・受容させていることが伺えます。

このような動向は、単に労働市場の変化に留まらず、家族のあり方や消費行動、さらには社会保障制度にまで影響を及ぼしており、今後もその推移から目が離せません。

若年層の非正規雇用とその変化

20代から40代前半にかけての若年層は、将来的に日本の労働力人口の中核を担う世代であり、雇用市場における彼らの動向は特に注目されています。この層では、かつて失業率が高いことに加え、非正規雇用の割合も増加傾向にあり、将来への不安を抱える若者が少なくありませんでした。不安定な雇用は、キャリア形成の機会損失やスキルアップの遅れを招き、長期的な視点でのキャリアプランを立てることを困難にさせていました。

しかし、近年では興味深い変化が見られます。特に25歳から44歳までの子育て世代において、正規雇用を希望しながらも叶わない「不本意非正規」の割合は低下傾向にあると報告されています。これは、経済回復に伴う企業の正規雇用化への取り組み強化や、若年層がより安定した雇用を求める傾向が強まっている可能性を示唆しています。

それでもなお、若年層における非正規雇用の存在は、依然としてキャリア形成や将来設計における課題として残っており、安定した生活基盤の構築への懸念は拭えません。若年層が安心して働き、将来に希望を持てる社会環境の整備が急務と言えるでしょう。

中高年・高齢層の非正規雇用増加要因

非正規雇用労働者の増加には、中高年や高齢者の存在が大きく影響しています。特に65歳以上の高齢者の非正規雇用者数は顕著な増加傾向を示しており、2022年以降の非正規雇用労働者全体の増加に大きく貢献しています。これは、健康寿命の延伸により高齢者自身が働く意欲を持っていること、そして年金だけでは生活が不安だという背景から、高齢になっても働き続けたいというニーズが高まっていることを反映しています。

また、35歳以上の年長フリーターや中年者も、非正規雇用労働者の増加要因の一つとして挙げられます。彼らにとって非正規雇用は、セカンドキャリアを築く場となったり、一時的な生活費を稼ぐ手段となったりする一方で、一度非正規雇用になると正規雇用への転換が難しく、安定的なキャリアパスの構築や、老後の生活設計において課題を抱えるケースも少なくありません。特に40代、50代の中年層は、住宅ローンや子どもの教育費など経済的負担が大きい時期であり、雇用の不安定さが生活全体に及ぼす影響は甚大です。

これらの世代における非正規雇用の増加は、社会全体の高齢化や働き方の多様化と密接に関連しており、多様なニーズに応える雇用制度や支援策が求められています。

非正規雇用者の年代別推移:過去からの変化

コロナ禍前後の推移と影響

日本の非正規雇用労働者数は、2010年以降一貫して増加傾向にありましたが、この流れは新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって一時的な変化を見せました。具体的には、2020年と2021年には非正規雇用者数が減少しましたが、これは経済活動の停滞や消費の落ち込みに伴う飲食店や宿泊業、小売業などのサービス業を中心とした雇用調整が主な原因と考えられます。

しかし、経済が回復基調に入ると、2022年からは再び増加に転じ、現在もその数は高水準を維持しています。役員を除く雇用者に占める非正規雇用労働者の割合は36.8%であり、コロナ禍という未曽有の危機を経ても、非正規雇用が日本の雇用形態の大きな柱であり続けている現状を示しています。政府による雇用調整助成金などの対策も講じられましたが、経済の構造変化や人手不足の業種では、回復期に再び非正規雇用が増加する結果となりました。

この推移は、外部環境の変化が雇用市場、特に非正規雇用に与える影響の大きさを物語っており、今後の感染症の再燃や経済情勢の変化、国際的な動向にも注意を払う必要があります。

「不本意非正規」の現状と課題

正規雇用を希望しながらも、その機会に恵まれず、やむを得ず非正規雇用として働いている人々は「不本意非正規」と呼ばれ、依然として日本の雇用市場における大きな課題です。特に25歳から44歳の比較的若い世代で、この「不本意非正規」の割合が高い傾向が見られ、その背景には、希望する職種や業界での正規雇用のポストが少ない、あるいは正社員としての採用基準を満たせないといった様々な要因が挙げられます。

この状況は、個々人のキャリア形成に深刻な影響を及ぼし、スキルアップや専門性を高める機会を奪い、長期的な視点でのキャリアプランを立てることを困難にします。さらに、正規雇用者と比較して賃金水準が低いことや、賞与・退職金、福利厚生の面での格差も大きく、経済的な不安定さは生活設計への不安を増大させ、ひいては若者の将来に対する漠然とした不安感を高める要因ともなっています。

「不本意非正規」の解消は、単に個人の問題に留まらず、社会全体の生産性向上や少子化対策、ひいては持続可能な社会の実現に向けた重要な課題であり、企業には正規雇用への転換制度の拡充や能力開発支援が、国には雇用安定化に向けた政策が求められます。

働き方の多様化と自己選択による非正規

一方で、全ての非正規雇用が「不本意」な選択というわけではありません。近年では、自らの意思で非正規雇用を選択する人々も増加しており、これは現代社会における価値観の多様化を明確に示しています。画一的な働き方から解放され、より柔軟な働き方やワークライフバランスを重視する傾向が社会全体に浸透してきたことが背景にあります。

例えば、子育てや介護と仕事との両立を図りたい、自身のスキルや経験を活かして複数の企業やプロジェクトに携わりたい、あるいは趣味や学業、ボランティア活動に時間を割きたいといった理由から、あえて非正規雇用やフリーランスといった働き方を選ぶケースも少なくありません。このような「自己選択型非正規」の人々は、時間や場所にとらわれない働き方を通じて、自身の生活の質を高めたり、新たなスキルを習得したりする機会を創出しています。

今後、社会は雇用形態に関わらず公正な待遇を受けられる環境を整備し、個々の希望に沿った多様な働き方が尊重される社会の実現を目指していく必要があります。そのためには、法整備による待遇改善だけでなく、企業文化の変革や、柔軟な働き方をサポートするインフラ整備も不可欠です。

20代・30代の非正規雇用:若年層の課題

若年層における「不本意非正規」の実情

20代・30代といった若年層における非正規雇用の問題は、個人のキャリアだけでなく、日本の将来を考える上で重要なテーマです。特に、この世代における「不本意非正規」の存在は依然として看過できない課題として認識されています。前述の通り、25歳から44歳の「子育て世代」で不本意非正規の割合は低下傾向にあるとはいえ、正規雇用を強く希望しながらも、なかなかその道が開かれない状況に直面している若者は少なくありません。これは、彼らが自身のキャリアを長期的に見据え、スキルアップや専門性を高める機会を奪いかねません。

安定した雇用形態が得られないことは、経済的な不安定さを招き、結婚や住宅購入、子育てといったライフイベントにも大きな影響を及ぼします。例えば、非正規雇用であるという理由で住宅ローン審査が通りにくい、将来的な収入の見通しが立たず結婚や出産をためらうといったケースも報告されています。このように、個人の生活設計に大きな不安を投げかける要因となっているのです。

若年層の不本意非正規は、単なる雇用形態の問題を超え、個人の幸福度や社会全体の活力を低下させる深刻な社会問題として捉える必要があります。

キャリア形成への影響と対策

若年層の非正規雇用は、長期的なキャリア形成に大きな影を落とします。正規雇用と比較して、非正規雇用では企業内での研修機会が限られたり、OJT(オンザジョブトレーニング)の機会が少なかったり、昇進やキャリアアップの道筋が不明確だったりすることが多いため、個人のスキルアップや市場価値の向上を妨げる可能性があります。結果として、経験やスキルが蓄積されず、正規雇用への転換がさらに困難になるという悪循環に陥ることも少なくありません。

この問題に対処するためには、企業側の積極的な取り組みが不可欠です。具体的には、非正規雇用者に対しても能力開発支援を充実させることや、正規雇用への転換制度を拡充し、明確なキャリアパスを示すことが求められます。例えば、一定の勤続期間や実績を積んだ非正規雇用者を対象とした正社員登用試験の実施などが考えられます。また、国や自治体による教育訓練プログラムやキャリアコンサルティングの提供を強化し、若年層が自信を持ってキャリアを形成できるような支援体制を構築することが重要です。

個人の努力だけでなく、社会全体での多角的なサポートが、彼らの未来を拓く鍵となります。

若年層を取り巻く社会情勢の変化

現代の若年層は、少子高齢化による労働力人口の減少、グローバル経済の変動、デジタル化・AIの進化、そして終身雇用の形骸化など、極めて複雑で変化の激しい社会情勢の中でキャリアを築いています。これらの変化は、雇用市場に新たな機会をもたらす一方で、不安定さも同時に生み出しています。例えば、AIやロボティクスによる自動化が進むことで、一部の定型業務が減少し、新たなスキルや専門性を持つ人材が求められる傾向が強まっています。

若年層の失業率が高いことや、非正規雇用の割合が増加傾向にあった背景には、こうした社会構造の変化が深く関わっています。働き方の多様化が進む中で、正規雇用と非正規雇用の間の賃金格差や社会保障の適用範囲の違いは、若者の将来への不安を一層増幅させる要因となっています。彼らは、親世代が経験したような「安定したキャリア」のモデルが通用しない時代に生きており、自身のキャリアを主体的に設計し、常に学び続けることが求められています。

若者が安心して働き、自己実現できる社会を実現するためには、雇用制度の見直しや社会保障制度の充実、企業文化の変革に加え、教育システムが社会の変化に対応し、若者に求められるスキルを提供していくことが不可欠と言えるでしょう。

40代・50代の非正規雇用:キャリア形成と再就職

中年層における非正規雇用の現状

40代・50代の中年層における非正規雇用は、若年層とは異なる深刻な課題を抱えています。この世代では、35歳以上の「年長フリーター」や、一度正規雇用を離職した後に非正規雇用として働く中年者が増加要因の一つとされています。彼らは、リストラや企業の倒産、あるいは家庭の事情などで職を失った後、年齢やスキルギャップから正規雇用への再就職が難しく、非正規雇用を選択せざるを得ない状況に陥ることが少なくありません。

この年代で非正規雇用であることは、経済的な安定を揺るがすだけでなく、特に家族を持つ人々にとっては生活基盤全体への影響が大きくなります。例えば、子どもの教育費や住宅ローンの返済、親の介護費用など、多額の支出が重なる時期であるため、雇用の不安定さは生活設計に大きな影を落としています。正規雇用者との間には賃金だけでなく、賞与や退職金、福利厚生、社会保険といった待遇面での格差も大きく、生活の質に直接的な影響を与えます。

中年層の非正規雇用者の増加は、個人の困窮だけでなく、社会全体の消費活動の停滞や将来的な社会保障制度の維持にも影響を及ぼしかねない問題として捉える必要があります。

キャリア形成の停滞と再チャレンジの課題

40代・50代における非正規雇用は、それまでのキャリア形成を停滞させ、将来的な展望を閉ざしてしまうリスクがあります。正規雇用に比べてスキルアップや昇進の機会が限定されることが多く、自身の市場価値を高めることが困難になります。長年培ってきた経験や知識が、非正規雇用という形態によって正当に評価されにくいケースも少なくありません。

再就職市場においても、この年代の非正規雇用者は、年齢の壁や、正規雇用者とのスキルギャップに直面することが多く、希望する職種や待遇での再就職が困難になります。特に、特定の専門スキルを持たない場合や、古い業界での経験しかない場合は、新たな職種への転換も容易ではありません。これにより、キャリアパスが中断・停滞し、自身の潜在能力を十分に発揮できないまま時が過ぎてしまうという問題が生じます。

この課題を克服するためには、リスキリング(学び直し)の機会提供や、自身の強みやポータブルスキル(汎用性の高いスキル)を再認識するための専門的なキャリアコンサルティングの充実が不可欠です。企業側も、経験豊富な中年層の知識やスキルを積極的に評価し、採用に繋げる努力や、多様な雇用形態での受け入れを検討する必要があります。

同一労働同一賃金とその影響

働き方の多様化が進む中で、非正規雇用労働者の待遇改善は喫緊の課題であり、「同一労働同一賃金」はその中心的な施策の一つです。この原則は、正規雇用か非正規雇用かに関わらず、同じ仕事内容に対しては同じ賃金や待遇を支払うべきだという考え方に基づいています。2020年4月(中小企業は2021年4月)からは、この原則が法的に義務化され、企業には具体的な対応が求められるようになりました。

40代・50代の非正規雇用者にとって、同一労働同一賃金の実現は、不当な賃金格差の是正だけでなく、モチベーションの向上やキャリアパスの安定化に大きく寄与する可能性があります。これにより、彼らが自身の仕事に対して正当な評価と報酬を受けられるようになり、安心して働き続けられる環境が整備されることで、生活の安定にも繋がることが期待されます。例えば、正規雇用者と同じ業務を行っているにもかかわらず、賞与や各種手当が支給されないといった不合理な待遇差の解消が図られます。

企業には、この原則を遵守し、雇用形態にとらわれない公正な評価制度と待遇体系を構築することが強く求められています。これにより、非正規雇用者も自身の能力を存分に発揮し、企業へのエンゲージメントを高め、長期的なキャリアを築けるようになります。これは、企業にとっても優秀な人材の確保や生産性向上に繋がる重要な取り組みと言えるでしょう。

60歳以上の非正規雇用:セカンドライフと働き方

高齢者の雇用継続と増加傾向

日本の非正規雇用増加の最も顕著な要因の一つが、60歳以上の高齢者の雇用継続です。65歳以上の非正規雇用者数は、近年著しい増加傾向にあり、2022年以降の非正規雇用者全体の増加にも大きく寄与しています。厚生労働省のデータでも、高齢者の就業率は上昇の一途を辿っており、健康寿命の延伸により高齢者自身が働く意欲を持っていること、そして年金制度への不安から経済的な補填が必要であるという事情が背景にあります。

多くの高齢者にとって、非正規雇用は定年後のセカンドキャリアとして、または生活の質を維持するための重要な選択肢となっています。企業の定年延長制度や継続雇用制度の導入も進んでいますが、必ずしも希望する職種や待遇で働けるとは限りません。特に、少子高齢化による労働力不足が深刻化する中で、企業側も人手不足の解消や豊富な経験を持つ人材の活用として、高齢者を非正規雇用で受け入れるケースが増加しています。

高齢者が自身のライフスタイルや体力に合わせて働き続けることは、個人の健康維持や社会とのつながりだけでなく、社会全体の活力を維持する上でも極めて重要な意味を持っています。

柔軟な働き方と社会貢献

高齢者が非正規雇用を選択する大きな理由の一つは、その柔軟性にあります。多くの高齢者は、フルタイムではなく、自身の体力や健康状態に合わせて時間や日数を調整できる働き方を望んでいます。例えば、週2~3日勤務や午前中のみの勤務など、多様な働き方が可能な非正規雇用は、彼らのニーズに合致しています。

また、これまでの職務経験や専門スキルを活かし、社会と関わり続けたいという思いも強いです。非正規雇用は、こうしたニーズに応える形で、社会とのつながりを維持し、自身の知識や経験を次世代に伝えていく場を提供しています。地域社会への貢献を目的として、NPO活動やボランティア、あるいは地域密着型のパートタイマーとして働く高齢者も増えています。これにより、高齢者は自身の役割意識を保ちつつ、ワークライフバランスを重視したセカンドライフを送ることが可能になります。

企業側も、高齢者の豊富な経験や知見を評価し、フレキシブルな雇用形態や多様な職務内容を用意することで、彼らの能力を最大限に引き出すことが期待されます。

高齢非正規雇用の課題と支援

高齢者の非正規雇用が増加する一方で、それに伴う課題も存在します。多くの場合、高齢の非正規雇用者は若年層や中年層に比べて低賃金であったり、福利厚生が不十分であったり、雇用の不安定さに直面することがあります。これは、高齢者が自身の経験やスキルに見合った待遇を得られない、あるいは健康上の理由で突然職を失うリスクを抱えることを意味します。

これらの課題に対応するためには、企業が高齢者の健康面に配慮した労働環境を整備することや、適切なスキルアップの機会を提供することが求められます。例えば、高齢者向けの研修プログラムの提供や、体力的な負担の少ない業務への配置転換などが考えられます。また、年齢によるデジタルデバイドを解消するためのIT研修なども重要です。

さらに、国や自治体による高齢者向けの再訓練プログラムや、安心して長く働けるような雇用形態の設計支援が、今後ますます重要となるでしょう。高齢者が意欲と能力に応じて働き続けられる社会を実現するためには、個人の努力だけでなく、社会全体での包括的なサポート体制の構築が不可欠です。